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<p><br /><strong>一</strong><br /> 俺がそれについて認識する以前より、実際の所は俺以外の人間はみなそうだと認識していたようだ。<br /> 俺はその事について確たる証拠は持っていなかった。自信だけが先走って、思い込みに走っていただけにすぎないのだ。<br /> 若さゆえの過ちではすまさない。罪である。罰を伴う罪である。<br /> その事を説明するにあたって、遠回りな言い回しや、小難しい形容詞などは必要無いはずだ。<br /> 無いのは自信だけだ。<br /> 今の透き通った視界なら、見えないものはない。盲目だったのだ。<br /> 砕かれた自信が再び治る事は無い。安易な過信が自信を崩し、崩れた自信が俺を崩した。<br /> 盲目の人間が突っ走り、自ら硬い壁に突き当たり怪我をしたというだけだ。<br /> ああ、馬鹿ものさ。涙も涸れるほどの、馬鹿ものさ。<br /> 「もう、だめだな」<br /> こうしている間にも時は流れ続け、傷口は開いてゆく。時も見放した癒えぬ傷だ。<br /> 自己憐憫に陥った事による自己嫌悪さえもわかない。末期だ。<br /> するりと回された腕は暖かかった。<br /><br /><br /><strong>1</strong><br /> その事を今、分析する事はいくらでも出来るだろう。<br /> それは自分の事なのだから、容易に決まっている。<br /> 動機にしても、その時の思考も、全て思い出し分析する事は容易なんだよ。<br /> 繰り返すようだけど、自分の事を自分以上に知ってる人間はいないからね。<br /> だからこそ、自分を縛り付ける人間は自分以外の誰にもいないんだ。<br /> 厄介な機能だと思うが、僕は人間の持っている機能で一番慎ましいものだと思っててね、嫌いにはなれない。<br /> だから僕は君の事を嫌いにはならないよ。哀れにも思わない。<br /> 君も言っている通り、なんら難しいことは必要ない。<br /> 「残念だったな」<br /> それだけさ。<br /> 本来ならそれだけで済む事なんだ。君が悔やんだってしょうがないし、何より意味がない。<br /> きりがないんだよ。<br /> だから、誤魔化してしまえばいいんだ。<br /><br /><strong>二</strong><br /> 妄想がこびりついた体じゃあ誤魔化すこともままならないさ。<br /><br /><strong>2</strong><br /> 妄想?<br /> 妄執だね。過去への妄執なんてものほど非生産的なものはない。<br /> 自己満足を得られたとしても、時間が経ちすぎたろう。もう、目を背けてしまえばいいんだよ。<br /> 君にとって、それが価値ある事だとしよう。<br /> しかし、現実問題それはもう目を背ける事しか出来ないんだよ。<br /> 君が経てきた数多くの出来事のように、一つの過去としておけばいいんだ。<br /> そんな簡単な事さえも許さないのは君のなんなんだ?<br /> 罪悪感なんて高潔なものじゃないよ。<br /> プライドさ。<br /> それさえ、という安っぽいプライドが君を邪魔して、貶めているんだ。<br /> 「無意味だよ」<br /><br /><strong>三</strong><br /> 「そうかもしれないな」<br /><br /><strong>3</strong><br /> 簡単に認めるのもプライドを守るための手段でしかない。君は何も納得しようとしていないよ。<br /> 綺麗な思いを守るためだけに自分を汚している。状況は悪化する一方なんだよ。<br /> 虚構だったと思えばいいんだ。<br /> 虚構の中で生きる人間にどれだけの価値と意味がある?<br /> 何も無いんだよ。消えてしまうものは数あれど、生まれる物は何一つ無い。<br /> 君は記憶を手で掴むことが出来ない。抱くことも出来ない。<br /> 記憶という虚構は綺麗なだけで奥行きも温もりもないんだ。<br /> 自分の作り出した空想の一部になるだけなんだ。<br /> わかるかい。今君は空想の中で生きているんだ。<br /> もう、十分生きたろう。<br /> そろそろ、死ねよ。<br /><br /><strong>四</strong><br /> 死にたくない。<br /><br /><strong>4</strong><br /> なあに、僕も死のうと思っていたところだ。一人よりかは心細くは無いはずだ。<br /> 死に時を計らうのは死に場所を探すよりも大変だ。だが、僕は今が無難だと考えるよ。<br /> ベストな時期なんて、無いからね。思い立ったときがどんなに最悪の状況だったとしても、最悪な時期はないんだ。<br /> 最初から自信のある人間なんていないさ。崩れても積みなおせば良い。時間はそのためにある。<br /> でもこのままじゃ時間はなくなる一方だ。<br /> さぁ、早く死のう。死んだら楽になれるんだ。<br /> いや、むしろ頼むんだ。<br /> 君が死んでくれれば、その虚構に生きてた僕も死ぬんだ。<br /> 一歩踏み出した先が崖であっても、どんなに傷ついても、最後には地面が受け止めてくれるから落ち続ける事なんてない。<br /> 二人なら、庇いあう事だって出来る。<br /> キョン。君と死ねるなら僕は本望さ。<br /><br /><strong>決</strong></p>
<p><br /> <strong>一</strong><br /> 俺がそれについて認識する以前より、実際の所は俺以外の人間はみなそうだと認識していたようだ。<br /> 俺はその事について確たる証拠は持っていなかった。自信だけが先走って、思い込みに走っていただけにすぎないのだ。<br /> 若さゆえの過ちではすまさない。罪である。罰を伴う罪である。<br /> その事を説明するにあたって、遠回りな言い回しや、小難しい形容詞などは必要無いはずだ。<br /> 無いのは自信だけだ。<br /> 今の透き通った視界なら、見えないものはない。盲目だったのだ。<br /> 砕かれた自信が再び治る事は無い。安易な過信が自信を崩し、崩れた自信が俺を崩した。<br /> 盲目の人間が突っ走り、自ら硬い壁に突き当たり怪我をしたというだけだ。<br /> ああ、馬鹿ものさ。涙も涸れるほどの、馬鹿ものさ。<br /> 「もう、だめだな」<br /> こうしている間にも時は流れ続け、傷口は開いてゆく。時も見放した癒えぬ傷だ。<br /> 自己憐憫に陥った事による自己嫌悪さえもわかない。末期だ。<br /> するりと回された腕は暖かかった。<br /> <br /> <br /> <strong>1</strong><br /> その事を今、分析する事はいくらでも出来るだろう。<br /> それは自分の事なのだから、容易に決まっている。<br /> 動機にしても、その時の思考も、全て思い出し分析する事は容易なんだよ。<br /> 繰り返すようだけど、自分の事を自分以上に知ってる人間はいないからね。<br /> だからこそ、自分を縛り付ける人間は自分以外の誰にもいないんだ。<br /> 厄介な機能だと思うが、僕は人間の持っている機能で一番慎ましいものだと思っててね、嫌いにはなれない。<br /> だから僕は君の事を嫌いにはならないよ。哀れにも思わない。<br /> 君も言っている通り、なんら難しいことは必要ない。<br /> 「残念だったな」<br /> それだけさ。<br /> 本来ならそれだけで済む事なんだ。君が悔やんだってしょうがないし、何より意味がない。<br /> きりがないんだよ。<br /> だから、誤魔化してしまえばいいんだ。<br /> <br /> <strong>二</strong><br /> 妄想がこびりついた体じゃあ誤魔化すこともままならないさ。<br /> <br /> <strong>2</strong><br /> 妄想?<br /> 妄執だね。過去への妄執なんてものほど非生産的なものはない。<br /> 自己満足を得られたとしても、時間が経ちすぎたろう。もう、目を背けてしまえばいいんだよ。<br /> 君にとって、それが価値ある事だとしよう。<br /> しかし、現実問題それはもう目を背ける事しか出来ないんだよ。<br /> 君が経てきた数多くの出来事のように、一つの過去としておけばいいんだ。<br /> そんな簡単な事さえも許さないのは君のなんなんだ?<br /> 罪悪感なんて高潔なものじゃないよ。<br /> プライドさ。<br /> それさえ、という安っぽいプライドが君を邪魔して、貶めているんだ。<br /> 「無意味だよ」<br /> <br /> <strong>三</strong><br /> 「そうかもしれないな」<br /> <br /> <strong>3</strong><br /> 簡単に認めるのもプライドを守るための手段でしかない。君は何も納得しようとしていないよ。<br /> 綺麗な思いを守るためだけに自分を汚している。状況は悪化する一方なんだよ。<br /> 虚構だったと思えばいいんだ。<br /> 虚構の中で生きる人間にどれだけの価値と意味がある?<br /> 何も無いんだよ。消えてしまうものは数あれど、生まれる物は何一つ無い。<br /> 君は記憶を手で掴むことが出来ない。抱くことも出来ない。<br /> 記憶という虚構は綺麗なだけで奥行きも温もりもないんだ。<br /> 自分の作り出した空想の一部になるだけなんだ。<br /> わかるかい。今君は空想の中で生きているんだ。<br /> もう、十分生きたろう。<br /> そろそろ、死ねよ。<br /> <br /> <strong>四</strong><br /> 死にたくない。<br /> <br /> <strong>4</strong><br /> なあに、僕も死のうと思っていたところだ。一人よりかは心細くは無いはずだ。<br /> 死に時を計らうのは死に場所を探すよりも大変だ。だが、僕は今が無難だと考えるよ。<br /> ベストな時期なんて、無いからね。思い立ったときがどんなに最悪の状況だったとしても、最悪な時期はないんだ。<br /> 最初から自信のある人間なんていないさ。崩れても積みなおせば良い。時間はそのためにある。<br /> でもこのままじゃ時間はなくなる一方だ。<br /> さぁ、早く死のう。死んだら楽になれるんだ。<br /> いや、むしろ頼むんだ。<br /> 君が死んでくれれば、その虚構に生きてた僕も死ぬんだ。<br /> 一歩踏み出した先が崖であっても、どんなに傷ついても、最後には地面が受け止めてくれるから落ち続ける事なんてない。<br /> 二人なら、庇いあう事だって出来る。<br /> キョン。君と死ねるなら僕は本望さ。<br /> <br /> <strong>決</strong></p>

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