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情報統合思念体と機関が総力を上げて俺を潰そうとしている件(キョン)」(2020/08/11 (火) 13:44:50) の最新版変更点

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<p>現在は水曜日―――ってことは、ハルヒのイメージじゃあ青の日だな―――の何時頃だったかな?<br /> 外は…あぁ関係ないか。異世界みたいなもんなんだし…あ、朝比奈さん泣きやんだっぽい。<br /> 目腫れてんなー。さっきから延々と泣きっぱなしだったもんな。<br /> つーか古泉はどこ行ってんだよ。長門も――――</p> <p><br /> 部室のドアが勢いよく開くと同時に、長門が倒れこんできた。</p> <p><br /> 「長門!」<br /> 「長門さん…」</p> <p><br /> 傷が酷い…。以前、朝倉とやりあった時のそれとは比べ物にならないほどだ。</p> <p><br /> 「ケガ…大丈夫か?」<br /> 「問題…な…」<br /> 「長門?おいっ」</p> <p><br /> マジかよっ…ええーと取りあえず脈を…脈ってどうやって測んだっけ…。<br /> いやそれよりも人工呼吸の方が先か!?どうするどうする―――つーか人工呼きゅ…いや有りだ!!<br /> 全然有りなんだが…って今はそれどころじゃねぇだろ俺!えーと…待てよ?ここは心臓マッサか!?</p> <p><br /> 長門への処置を決めあぐね、軽いパニック状態に陥っていた俺は、バンッ!という部室のドアが開かれた音に対し、<br /> 「うぉわっ!」などという素っ頓狂な声を上げるという、なんともみっともない反応をしてしまった。<br /> 勢いよく部室に入って来たのは、古泉だった。しかし、これまた長門同様ボロボロな姿をしている。</p> <p><br /> 「場所を変えます!急いで―――」<br /> 「ま、待て!長門が…」</p> <p><br /> 古泉は、手慣れた様子で素早く長門の容態を調べた(ようだった。他に何かしたのかも知れんが)。<br /> そして長門を抱えあげると、顎を朝比奈さんの方へやり、俺にお得意の笑顔を向けた。<br /> …別にお前に言われなくても、喜んで手を貸しますよ。</p> <p><br /> 「さ、朝比奈さん。行きましょう。立って」<br /> 「キョン君…キョン君…」</p> <p><br /> 俺の名前を呼びながら、朝比奈さんがすがりついてくる。あぁ死んでもいい…って<br /> この状況じゃあマジで「死」が実現しかねないんだった…。<br /> あぁ半分なら死んでもいい半分なら死んでもいい―――。<br /> つか半分死ぬってどんなだよカッコワライカッコトジーとか何考えてんだ俺はこの状況で……。</p> <p><br /> 前を行く古泉を無心に追う。あちこちから、雄叫びのようなものや、何かが崩れる音が聞こえてくる。<br /> あぁ地球最後の日ってこんな感じなのかなー、などと<br /> セカイ系なことを考えている内に、前を行く古泉の足が止まった。</p> <p><br /> 「一旦は、ここに身を隠して。恐らく、今現在はここが最も安全な場所です」</p> <p><br /> 古泉は、抱えていた長門を床に降ろすと、ボロボロになった制服の上着を掛けてあげた。</p> <p><br /> 「あ…」<br /> 「彼女なら大丈夫。しばらくしたら、意識が戻るはずです」</p> <p><br /> 俺が聞くより一瞬早く、古泉は俺の質問に答えていた。</p> <p><br /> 「では、僕は仲間の元へ戻ります。そうだ…これを持っていて下さい」</p> <p><br /> 古泉が渡してきたのは、誰の物か分からない腕時計だった。四時十五分を指している。</p> <p><br /> 「一時間後に、また戻ります。気をつけて」</p> <p><br /> そう言うと古泉は、これまで何度か目にしたことのある赤い球状のものに変化して、<br /> 窓からどこかへと飛び立っていった。</p> <p>俺は、古泉の言う「最も安全な」部屋を見回した。―――見慣れた光景だった。</p> <p><br /> 「あの窓際の席にハルヒがいて…その前の席が俺で…」<br /> 「キョン…君?」</p> <p><br /> 急に、これまで抑えられていた不安や恐怖が溢れ出した。<br /> 吐き気、涙。心臓が苦しい…。呼吸しようにも、何かが喉の奥につっかえているようで上手くいかない。</p> <p><br /> 「大丈夫ですか!?苦しいんですか!?」</p> <p><br /> 朝比奈さん…不安そうだけど、八の字眉毛な顔も可愛いっす―――って俺はまた何を…。</p> <p><br /> ―――あぁ…そうか…。</p> <p><br /> これが、俺だったな…。</p> <p><br /> 俺は、徐々に平静を取り戻した。心には、もやもやが相変わらずあるけれど、それは抑え込むことにする。</p> <p><br /> 「大丈夫。なんでもないですよ」</p> <p><br /> きっと無理な笑顔だったのだろうが、朝比奈さんを安心させるには十分な代物だったようだ。<br /> さーてと…古泉はああ言ってたが、長門は本当に大丈夫なのだろうか?<br /> 制服もボロボロになっちゃって…。ちょっと、おへそが見えそうですよっ!長門さん!</p> <p><br /> 「キョン君、何してるの?」<br /> 「やっ、長門大丈夫かなーって思って」<br /> 「…キョン君…」<br /> 「は…はい…?」<br /> 「もう、私たち駄目じゃないかな…」<br /> 「え……駄目…って?」<br /> 「だって、長門さんがあんなにされて、古泉君だってボロボロだったじゃないですか…」<br /> 「そりゃあ…多勢に無勢もいいところですからね…」<br /> 「もしも…もしも古泉君たちが―――」<br /> 「朝比奈さん!」</p> <p><br /> 思わず、声を大きくしてしまった。</p> <p><br /> 「とにかく…あー…俺達はハルヒに会わなきゃいけないわけで…。何としてでも」<br /> 「…ごめんね。いつも…私いつもこんなで―――」<br /> 「…」</p> <p><br /> とりあえず、抱きしめておこう、と思った…ってあれーーー!!?俺、抱きしめちゃってる!?<br /> いつもは頭の中で考えるだけだったのに、なんだなんだ俺!どうしたどうした俺!<br /> パニックと吊橋効果で対女性用リミッターがオーバーヒートしちまったかー!</p> <p><br /> …などという考えで頭の中がいっぱいだった俺は、自分の腕を朝比奈さん<br /> ―――いや、この際女神像Aとする―――から引き剥がすまで、その感触を堪能することを完全に忘れてしまっていた。</p> <p><br /> 「あーっと…その、元気出して…はは」</p> <p><br /> 何無駄に緊張を感じてんだ俺はー!!</p> <p><br /> 「はい…。ありがとう。キョン君」</p> <p><br /> いえいえこちらこそーーー!!</p> <p><br /> その後、悶々とした時間を過ごすこと数十分。古泉が言っていた時間が来た。<br /> …が、一向に古泉が現れる気配がない。</p> <p><br /> 「古泉…。時間だぞ…」</p> <p><br /> 何故か、口から独り言が飛び出していた。そりゃあよく考えたら、この学校に来てから谷口とかと同じぐらいの<br /> 付き合いがある同性の中でも、特にあいつは変り種(ってレベルじゃねーけど)だし…な。<br /> それにこの状況じゃ、否が応でもあいつに頼るしかないわけで……。<br /> 考えたくないが、俺(と朝比奈さん)の命は、今はあいつに懸かっているわけだ。</p> <p><br /> 「時間なんですか?」<br /> 「ええ…」<br /> 「古泉君は―――」</p> <p><br /> 突然、轟音と共に廊下側の壁が粉々になり、廊下の向かい側から外へと吹き飛んで行った。</p> <p>っつーか廊下なくなってんじゃねーか!教室の向こうは断崖絶壁って状態だ!どーする俺!<br /> どーする朝比奈みくる!って気絶してる!そりゃそーだ!!<br /> 長門!―――はまだ充電中か…。</p> <p><br /> 絶壁となっているはずの教室外下方から、ふっ、と北高の制服を着た二人組が現れた。<br /> すげぇクライミングだ!っていうかこいつら、朝倉な雰囲気をガンガン出してんだけど!</p> <p><br /> 「この人間」<br /> 「間違いない」<br /> 「観察対象との関係が、他のどの有機生命体とも異なっている」<br /> 「観察対象に変化を生じさせる為の、最適な手段を施行する」</p> <p><br /> やばい。終わったか、俺。やれんのか!いや、無理無理。<br /> つか…あいつらの片手、なんか物騒な形になってね?かなり切れそうだ…あっちのは相当へこみそうだぞ。<br /> あ、でも意外と目閉じて開けたらいつもの部屋だったりー、なんて…。</p> <p><br /> 二人組が、脚にグッと力を入れるのを感じた。</p> <p><br /> ふぅ…。悪くない悪くない。そうだ、絶対あの世のが―――</p> <p><br /> そして、勢いよく地を蹴る音と、風を切る音が聞こえた。</p> <p><br /> あの世の方が―――</p> <p><br /> 「いい訳ねーだろっっ!!!」</p> <p><br /> 俺は必死に、両腕両足で体を守る構えをした。</p> <p><br /> ―――まぁ、ちょっとは期待してた。あ、すいません。本当は完全に頼ってました。<br /> デジャヴが起こってますように…って。俺は、そんな気持ちで頭がいっぱいだった。<br /> で、今んとこ痛みは感じ無い…ってことは……。ゆっくりと目を開ける。</p> <p><br /> 長門だ。止めてくれている。二人組が、片手からそれぞれ出している何か(とりあえず凶器ではある)を。</p> <p><br /> 「長門!」<br /> 「…大丈夫」</p> <p><br /> それが、俺にかけてくれたものなのか、長門のコンディションを指すものなのかは、<br /> その声に抑揚がない故に計りかねるが…しかしグッジョブ長門!</p> <p><br /> 「なぜ止める?」<br /> 「これまでの間、観察対象に目立った変化はない。新規の情報も少なく、さらに我々にとって有益なものに<br /> 至っては皆無といえる。このまま観察対象の膠着状態が続くのを、我々がただ黙って見ている意義は無い」<br /> 「緩やかではあるが、確実に変化はある。それを見守るのが我々の役目。故意の介入によって起こる―――」</p> <p><br /> 二人組の空いた手から新たに武器が現れ、長門にさらなる攻撃が加えられる。<br /> 何かまずくないか?…いや!絶対まずい…!</p> <p><br /> 「いつまで我々は、涼宮ハルヒという存在を驚異と感じ続けなければいけないのだ」<br /> 「緩やかな変化など、いつ何時起こるかもしれない大規模な―――?」</p> <p><br /> 「あれは…」</p> <p><br /> 二人組の体が、光りの粒と化し、消えていってる…。<br /> 間違いない。朝倉ん時にもやった、なんとかかんとかの解除ってやつだ。<br /> いつから仕掛けてたのやら…。しかし、グッジョ(ry</p> <p><br /> 「…我々を消すのに…それだけ傷を負っていては…後続の者からその人間を守るのは―――」</p> <p><br /> 長門が体勢を崩し、床に跪いた。</p> <p><br /> 「―――不可能」</p> <p><br /> 二人組は、宙へと消え去った。完全に。</p> <p><br /> 「長門!」</p> <p><br /> 傍に駆け寄り、傷の程度を見る。部室に入って来た時のダメージが、完全には無くなってはいないようだ…。</p> <p>そんな状態で、あれだけの攻撃を喰らって―――死ぬ…のか?―――</p> <p>いや、長門が死ぬなんて考えられない。つーかこいつに死とかあんのか?<br /> 体の破損だけなら―――朝倉の時だってあんなに刺されてたのに大丈夫だったじゃないか…!</p> <p><br /> 「逃げて」<br /> 「え?」</p> <p><br /> 長門の脚がしなり、腹部に強烈な衝撃が走る。いっ―――あれ?俺浮いてね?と、次は背面に衝撃を受けた。<br /> 何かに…受け止められた?目を開けると、赤い光が視界を覆っていた。</p> <p> </p> <p>「ゲホッ…こっ…古泉!?」<br /> 「大丈夫ですか?しっかり捕まって」<br /> 「ま、待て!朝比奈さんは!?それに長門が―――!」<br /> 「朝比奈さんはここです」</p> <p>見ると、古泉の右脇に朝比奈さんが抱えられている。…ん?<br /> っていうことは、今こいつは俺を左腕一本で抱えてんのか!?</p> <p><br /> 「行きますよ」<br /> 「待っ、おい長―――」</p> <p><br /> 古泉がぶち抜いたのであろう、窓の枠取りを完全に無視して出来た穴から、俺達は外に飛び出していた。<br /> その時、さっきの二人組が現れたように、教室外の下方から一人、二人、三人…と人影が現れるのを見た。<br /> 体を無理矢理立ち上がらせた長門が、一瞬、こっちを振り向いた気がした。<br /> 教室を飛び出てほんの十数秒後…教室が吹っ飛んだ。そこにだけ、ミサイルが打ち込まれたみたいに。</p> <p><br /> しばらくして、古泉は降下を始めた。そして、校庭の隅の、もの静かな所に着地した。<br /> 朝比奈さんと俺を放した古泉は、またいつもの笑顔を俺に向けて来た。<br /> いつも思うが、別に俺に笑顔を向けたって何も出ないぞ、古泉。</p> <p><br /> 「…すいません」<br /> 「な、何だ?」<br /> 「僕がお手伝いできるのはここまでです」</p> <p><br /> 急に古泉がもたれかかってきた。しかも本気っぽい重さだ!!</p> <p>俺は古泉に押されるように倒れ、尻餅をついてしまった。</p> <p><br /> 「うぉっおいっ!古泉!何すんだ」<br /> 「すいません……」<br /> 「おい…」<br /> 「…」<br /> 「古泉?」</p> <p><br /> マジか。死んでんのか?人って死ぬとどうなるんだ?こんなの、死んでるように見えないぞ。</p> <p><br /> 「古泉!おいっ!さっさと起きろよ!重、重たいんだ…っつーの…」</p> <p><br /> そのまましばらくの間、俺は呆然としていた。朝比奈さんが目を覚ました後、長門のことと<br /> 古泉のことを話した。分かってると思うが、当然、朝比奈さんは泣いた。<br /> ただ今回は、俺も話しながら涙を流してた。</p> <p><br /> 俺は、その後ただ学校を見つめていた。時々、赤い光がぶつかり合っているのが見えた。<br /> ふと、古泉から渡された時計を見ると七時を指していた。<br /> その時、学校の方から何かが向かってくるのが、横目に見えた。</p> <p><br /> 瞬間、強風が吹いた。思わず瞑ってしまった目をゆっくりと開けると、俺と朝比奈さんの周りを<br /> 沢山の人間たちが囲んでいた。いや、この中には誰一人として純粋な人間などいないのだろうが。<br /> <br /> 「彼がそうなんだね」<br /> 「目的の有機生命体であることに間違いない」<br /> 「この人間は…?」<br /> 「関係無い人間だろう。放っておけばいいさ」</p> <p><br /> どうやら、朝比奈さんは助かりそうだな。ま、楽にやってくれるんなら望むところ―――。<br /> 長門、古泉…また別の世界で会えるかもなー。ま、それはハルヒに賭けるとして…。<br /> 俺は―――</p> <p><br /> 「…!」</p> <p><br /> 心の中で、がむしゃらに雄叫びを上げながら、俺は目の前の男に突進して押し倒した。<br /> そして、そのまま無我夢中で拳を叩きつけた。<br /> そうしながらも、俺の目は、その男の傍に立っていた別の男の手が、異様な形に変化していくのを見つめていた。<br /> それが頭に振りかざされるまで、俺は、その手の動きを目で追い続けた。</p> <p><br /> 〆</p>
<p>現在は水曜日―――ってことは、ハルヒのイメージじゃあ青の日だな―――の何時頃だったかな?<br /> 外は…あぁ関係ないか。異世界みたいなもんなんだし…あ、朝比奈さん泣きやんだっぽい。<br /> 目腫れてんなー。さっきから延々と泣きっぱなしだったもんな。<br /> つーか古泉はどこ行ってんだよ。長門も――――</p> <p><br /> 部室のドアが勢いよく開くと同時に、長門が倒れこんできた。</p> <p><br /> 「長門!」<br /> 「長門さん…」</p> <p><br /> 傷が酷い…。以前、朝倉とやりあった時のそれとは比べ物にならないほどだ。</p> <p><br /> 「ケガ…大丈夫か?」<br /> 「問題…な…」<br /> 「長門?おいっ」</p> <p><br /> マジかよっ…ええーと取りあえず脈を…脈ってどうやって測んだっけ…。<br /> いやそれよりも人工呼吸の方が先か!?どうするどうする―――つーか人工呼きゅ…いや有りだ!!<br /> 全然有りなんだが…って今はそれどころじゃねぇだろ俺!えーと…待てよ?ここは心臓マッサか!?</p> <p><br /> 長門への処置を決めあぐね、軽いパニック状態に陥っていた俺は、バンッ!という部室のドアが開かれた音に対し、<br /> 「うぉわっ!」などという素っ頓狂な声を上げるという、なんともみっともない反応をしてしまった。<br /> 勢いよく部室に入って来たのは、古泉だった。しかし、これまた長門同様ボロボロな姿をしている。</p> <p><br /> 「場所を変えます!急いで―――」<br /> 「ま、待て!長門が…」</p> <p><br /> 古泉は、手慣れた様子で素早く長門の容態を調べた(ようだった。他に何かしたのかも知れんが)。<br /> そして長門を抱えあげると、顎を朝比奈さんの方へやり、俺にお得意の笑顔を向けた。<br /> …別にお前に言われなくても、喜んで手を貸しますよ。</p> <p><br /> 「さ、朝比奈さん。行きましょう。立って」<br /> 「キョン君…キョン君…」</p> <p><br /> 俺の名前を呼びながら、朝比奈さんがすがりついてくる。あぁ死んでもいい…って<br /> この状況じゃあマジで「死」が実現しかねないんだった…。<br /> あぁ半分なら死んでもいい半分なら死んでもいい―――。<br /> つか半分死ぬってどんなだよカッコワライカッコトジーとか何考えてんだ俺はこの状況で……。</p> <p><br /> 前を行く古泉を無心に追う。あちこちから、雄叫びのようなものや、何かが崩れる音が聞こえてくる。<br /> あぁ地球最後の日ってこんな感じなのかなー、などと<br /> セカイ系なことを考えている内に、前を行く古泉の足が止まった。</p> <p><br /> 「一旦は、ここに身を隠して。恐らく、今現在はここが最も安全な場所です」</p> <p><br /> 古泉は、抱えていた長門を床に降ろすと、ボロボロになった制服の上着を掛けてあげた。</p> <p><br /> 「あ…」<br /> 「彼女なら大丈夫。しばらくしたら、意識が戻るはずです」</p> <p><br /> 俺が聞くより一瞬早く、古泉は俺の質問に答えていた。</p> <p><br /> 「では、僕は仲間の元へ戻ります。そうだ…これを持っていて下さい」</p> <p><br /> 古泉が渡してきたのは、誰の物か分からない腕時計だった。四時十五分を指している。</p> <p><br /> 「一時間後に、また戻ります。気をつけて」</p> <p><br /> そう言うと古泉は、これまで何度か目にしたことのある赤い球状のものに変化して、<br /> 窓からどこかへと飛び立っていった。</p> <p>俺は、古泉の言う「最も安全な」部屋を見回した。―――見慣れた光景だった。</p> <p><br /> 「あの窓際の席にハルヒがいて…その前の席が俺で…」<br /> 「キョン…君?」</p> <p><br /> 急に、これまで抑えられていた不安や恐怖が溢れ出した。<br /> 吐き気、涙。心臓が苦しい…。呼吸しようにも、何かが喉の奥につっかえているようで上手くいかない。</p> <p><br /> 「大丈夫ですか!?苦しいんですか!?」</p> <p><br /> 朝比奈さん…不安そうだけど、八の字眉毛な顔も可愛いっす―――って俺はまた何を…。</p> <p><br /> ―――あぁ…そうか…。</p> <p><br /> これが、俺だったな…。</p> <p><br /> 俺は、徐々に平静を取り戻した。心には、もやもやが相変わらずあるけれど、それは抑え込むことにする。</p> <p><br /> 「大丈夫。なんでもないですよ」</p> <p><br /> きっと無理な笑顔だったのだろうが、朝比奈さんを安心させるには十分な代物だったようだ。<br /> さーてと…古泉はああ言ってたが、長門は本当に大丈夫なのだろうか?<br /> 制服もボロボロになっちゃって…。ちょっと、おへそが見えそうですよっ!長門さん!</p> <p><br /> 「キョン君、何してるの?」<br /> 「やっ、長門大丈夫かなーって思って」<br /> 「…キョン君…」<br /> 「は…はい…?」<br /> 「もう、私たち駄目じゃないかな…」<br /> 「え……駄目…って?」<br /> 「だって、長門さんがあんなにされて、古泉君だってボロボロだったじゃないですか…」<br /> 「そりゃあ…多勢に無勢もいいところですからね…」<br /> 「もしも…もしも古泉君たちが―――」<br /> 「朝比奈さん!」</p> <p><br /> 思わず、声を大きくしてしまった。</p> <p><br /> 「とにかく…あー…俺達はハルヒに会わなきゃいけないわけで…。何としてでも」<br /> 「…ごめんね。いつも…私いつもこんなで―――」<br /> 「…」</p> <p><br /> とりあえず、抱きしめておこう、と思った…ってあれーーー!!?俺、抱きしめちゃってる!?<br /> いつもは頭の中で考えるだけだったのに、なんだなんだ俺!どうしたどうした俺!<br /> パニックと吊橋効果で対女性用リミッターがオーバーヒートしちまったかー!</p> <p><br /> …などという考えで頭の中がいっぱいだった俺は、自分の腕を朝比奈さん<br /> ―――いや、この際女神像Aとする―――から引き剥がすまで、その感触を堪能することを完全に忘れてしまっていた。</p> <p><br /> 「あーっと…その、元気出して…はは」</p> <p><br /> 何無駄に緊張を感じてんだ俺はー!!</p> <p><br /> 「はい…。ありがとう。キョン君」</p> <p><br /> いえいえこちらこそーーー!!</p> <p><br /> その後、悶々とした時間を過ごすこと数十分。古泉が言っていた時間が来た。<br /> …が、一向に古泉が現れる気配がない。</p> <p><br /> 「古泉…。時間だぞ…」</p> <p><br /> 何故か、口から独り言が飛び出していた。そりゃあよく考えたら、この学校に来てから谷口とかと同じぐらいの<br /> 付き合いがある同性の中でも、特にあいつは変り種(ってレベルじゃねーけど)だし…な。<br /> それにこの状況じゃ、否が応でもあいつに頼るしかないわけで……。<br /> 考えたくないが、俺(と朝比奈さん)の命は、今はあいつに懸かっているわけだ。</p> <p><br /> 「時間なんですか?」<br /> 「ええ…」<br /> 「古泉君は―――」</p> <p><br /> 突然、轟音と共に廊下側の壁が粉々になり、廊下の向かい側から外へと吹き飛んで行った。</p> <p>っつーか廊下なくなってんじゃねーか!教室の向こうは断崖絶壁って状態だ!どーする俺!<br /> どーする朝比奈みくる!って気絶してる!そりゃそーだ!!<br /> 長門!―――はまだ充電中か…。</p> <p><br /> 絶壁となっているはずの教室外下方から、ふっ、と北高の制服を着た二人組が現れた。<br /> すげぇクライミングだ!っていうかこいつら、朝倉な雰囲気をガンガン出してんだけど!</p> <p><br /> 「この人間」<br /> 「間違いない」<br /> 「観察対象との関係が、他のどの有機生命体とも異なっている」<br /> 「観察対象に変化を生じさせる為の、最適な手段を施行する」</p> <p><br /> やばい。終わったか、俺。やれんのか!いや、無理無理。<br /> つか…あいつらの片手、なんか物騒な形になってね?かなり切れそうだ…あっちのは相当へこみそうだぞ。<br /> あ、でも意外と目閉じて開けたらいつもの部屋だったりー、なんて…。</p> <p><br /> 二人組が、脚にグッと力を入れるのを感じた。</p> <p><br /> ふぅ…。悪くない悪くない。そうだ、絶対あの世のが―――</p> <p><br /> そして、勢いよく地を蹴る音と、風を切る音が聞こえた。</p> <p><br /> あの世の方が―――</p> <p><br /> 「いい訳ねーだろっっ!!!」</p> <p><br /> 俺は必死に、両腕両足で体を守る構えをした。</p> <p><br /> ―――まぁ、ちょっとは期待してた。あ、すいません。本当は完全に頼ってました。<br /> デジャヴが起こってますように…って。俺は、そんな気持ちで頭がいっぱいだった。<br /> で、今んとこ痛みは感じ無い…ってことは……。ゆっくりと目を開ける。</p> <p><br /> 長門だ。止めてくれている。二人組が、片手からそれぞれ出している何か(とりあえず凶器ではある)を。</p> <p><br /> 「長門!」<br /> 「…大丈夫」</p> <p><br /> それが、俺にかけてくれたものなのか、長門のコンディションを指すものなのかは、<br /> その声に抑揚がない故に計りかねるが…しかしグッジョブ長門!</p> <p><br /> 「なぜ止める?」<br /> 「これまでの間、観察対象に目立った変化はない。新規の情報も少なく、さらに我々にとって有益なものに<br /> 至っては皆無といえる。このまま観察対象の膠着状態が続くのを、我々がただ黙って見ている意義は無い」<br /> 「緩やかではあるが、確実に変化はある。それを見守るのが我々の役目。故意の介入によって起こる―――」</p> <p><br /> 二人組の空いた手から新たに武器が現れ、長門にさらなる攻撃が加えられる。<br /> 何かまずくないか?…いや!絶対まずい…!</p> <p><br /> 「いつまで我々は、涼宮ハルヒという存在を驚異と感じ続けなければいけないのだ」<br /> 「緩やかな変化など、いつ何時起こるかもしれない大規模な―――?」</p> <p><br /> 「あれは…」</p> <p><br /> 二人組の体が、光りの粒と化し、消えていってる…。<br /> 間違いない。朝倉ん時にもやった、なんとかかんとかの解除ってやつだ。<br /> いつから仕掛けてたのやら…。しかし、グッジョ(ry</p> <p><br /> 「…我々を消すのに…それだけ傷を負っていては…後続の者からその人間を守るのは―――」</p> <p><br /> 長門が体勢を崩し、床に跪いた。</p> <p><br /> 「―――不可能」</p> <p><br /> 二人組は、宙へと消え去った。完全に。</p> <p><br /> 「長門!」</p> <p><br /> 傍に駆け寄り、傷の程度を見る。部室に入って来た時のダメージが、完全には無くなってはいないようだ…。</p> <p>そんな状態で、あれだけの攻撃を喰らって―――死ぬ…のか?―――</p> <p>いや、長門が死ぬなんて考えられない。つーかこいつに死とかあんのか?<br /> 体の破損だけなら―――朝倉の時だってあんなに刺されてたのに大丈夫だったじゃないか…!</p> <p><br /> 「逃げて」<br /> 「え?」</p> <p><br /> 長門の脚がしなり、腹部に強烈な衝撃が走る。いっ―――あれ?俺浮いてね?と、次は背面に衝撃を受けた。<br /> 何かに…受け止められた?目を開けると、赤い光が視界を覆っていた。</p> <p> </p> <p>「ゲホッ…こっ…古泉!?」<br /> 「大丈夫ですか?しっかり捕まって」<br /> 「ま、待て!朝比奈さんは!?それに長門が―――!」<br /> 「朝比奈さんはここです」</p> <p>見ると、古泉の右脇に朝比奈さんが抱えられている。…ん?<br /> っていうことは、今こいつは俺を左腕一本で抱えてんのか!?</p> <p><br /> 「行きますよ」<br /> 「待っ、おい長―――」</p> <p><br /> 古泉がぶち抜いたのであろう、窓の枠取りを完全に無視して出来た穴から、俺達は外に飛び出していた。<br /> その時、さっきの二人組が現れたように、教室外の下方から一人、二人、三人…と人影が現れるのを見た。<br /> 体を無理矢理立ち上がらせた長門が、一瞬、こっちを振り向いた気がした。<br /> 教室を飛び出てほんの十数秒後…教室が吹っ飛んだ。そこにだけ、ミサイルが打ち込まれたみたいに。</p> <p><br /> しばらくして、古泉は降下を始めた。そして、校庭の隅の、もの静かな所に着地した。<br /> 朝比奈さんと俺を放した古泉は、またいつもの笑顔を俺に向けて来た。<br /> いつも思うが、別に俺に笑顔を向けたって何も出ないぞ、古泉。</p> <p><br /> 「…すいません」<br /> 「な、何だ?」<br /> 「僕がお手伝いできるのはここまでです」</p> <p><br /> 急に古泉がもたれかかってきた。しかも本気っぽい重さだ!!</p> <p>俺は古泉に押されるように倒れ、尻餅をついてしまった。</p> <p><br /> 「うぉっおいっ!古泉!何すんだ」<br /> 「すいません……」<br /> 「おい…」<br /> 「…」<br /> 「古泉?」</p> <p><br /> マジか。死んでんのか?人って死ぬとどうなるんだ?こんなの、死んでるように見えないぞ。</p> <p><br /> 「古泉!おいっ!さっさと起きろよ!重、重たいんだ…っつーの…」</p> <p><br /> そのまましばらくの間、俺は呆然としていた。朝比奈さんが目を覚ました後、長門のことと<br /> 古泉のことを話した。分かってると思うが、当然、朝比奈さんは泣いた。<br /> ただ今回は、俺も話しながら涙を流してた。</p> <p><br /> 俺は、その後ただ学校を見つめていた。時々、赤い光がぶつかり合っているのが見えた。<br /> ふと、古泉から渡された時計を見ると七時を指していた。<br /> その時、学校の方から何かが向かってくるのが、横目に見えた。</p> <p><br /> 瞬間、強風が吹いた。思わず瞑ってしまった目をゆっくりと開けると、俺と朝比奈さんの周りを<br /> 沢山の人間たちが囲んでいた。いや、この中には誰一人として純粋な人間などいないのだろうが。<br /> <br /> 「彼がそうなんだね」<br /> 「目的の有機生命体であることに間違いない」<br /> 「この人間は…?」<br /> 「関係無い人間だろう。放っておけばいいさ」</p> <p><br /> どうやら、朝比奈さんは助かりそうだな。ま、楽にやってくれるんなら望むところ―――。<br /> 長門、古泉…また別の世界で会えるかもなー。ま、それはハルヒに賭けるとして…。<br /> 俺は―――</p> <p><br /> 「…!」</p> <p><br /> 心の中で、がむしゃらに雄叫びを上げながら、俺は目の前の男に突進して押し倒した。<br /> そして、そのまま無我夢中で拳を叩きつけた。<br /> そうしながらも、俺の目は、その男の傍に立っていた別の男の手が、異様な形に変化していくのを見つめていた。<br /> それが頭に振りかざされるまで、俺は、その手の動きを目で追い続けた。</p> <p><br /> 〆</p>

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