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「光、残響、聖夜にて。」(2020/03/11 (水) 23:03:10) の最新版変更点
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<dd id="res0_73body"><br />
暖冬らしく、耳朶を掠める風も穏やかなものに感じられました。勿論僕の心象を加味しての感想であることは、否定しません。過ごす時の流れが夢のように優しくて、心が洗われるような理想的な聖夜でした。イルミネーションに彩られた夜景の美しさは、この時節ならではと言えるでしょう。<br />
輝く星にあかるい空を、掴めるのではないかと思うくらい近くに触れたのは、何時の日だったろうかと。感傷に浸る僕に、彼女は沈黙したまま付き添ってくれていました。<br />
<br />
「……あなたに、この光景を見せたいと、ずっと思っていたんです」<br />
<br />
やや街の中心地からは外れ、山沿いの勾配を登った先に、まだ開発中の繁華街を望むことの出来るビルの屋上。<br />
遠望が利く此処は、まだ数年幼いころの、僕のお気に入りの基地のようなものでした。<br />
<br />
「神人退治に駆り出されるようになってから、見つけた場所です。閉鎖空間が罅割れ元の色彩を取り戻すその瞬間に、朝焼けの光と共に世界が塗り替えられる、その姿を網膜に焼き付けることが、僕の数少ない楽しみになっていたんですよ。<br />
――四年前のクリスマス、三年前のクリスマス、二年前のクリスマス……僕は、一人で此処に居ました。一人で、世界が壊れ、また生まれる瞬間を見ていた。明滅する光の洪水が織り成す、アトラクションのような町並みを、唯一のサンタから贈られる宝物のように抱きしめたつもりになっていました」<br />
<br />
<br />
――光を、闇を、初めに願ったのはだれ。<br />
はじめに言があった。言は神と共にあった。言は神であった。<br />
この言は初めに神と共にあった。<br />
すべてのものは、これによってできた。できたもののうち、一つとしてこれによらないものはなかった。<br />
この言に命があった。そしてこの命は人の光であった。 <br />
<br />
<br />
眼を灼くほどの光の渦を、この惑星に齎し、また同じだけの闇を湛えて世界は何度でも色を塗り替える。<br />
神様かもしれない少女が願ったから授かった僕の力、僕が手にした力を、その彼らの命の光の糧になるために、幾度でも僕は振るうでしょう。彼女が世界を愛してくれていることを、今の僕は知っているのですから。<br />
宣誓は常に、この総てを見渡せる天上に近しい地にて、一人。人々が至福に微笑みを交わすクリスマスの夜に。<br />
……ロマンチシズムに傾倒するのも大概にしろと、「彼」には呆れられるかもしれませんがね。<br />
そう彼女に告げると、彼女は首を小さく横に振りました。<br />
<br />
「去年は、違う。……今年も。あなたは、一人ではない」<br />
<br />
腕を摘んだ彼女の静かな眼差しが、僕に僕の在り処を教えてくれるようで、ええ、と僕は笑いました。去年は、今までには考えられないくらい賑やかに、SOS団の皆でクリスマスにパーティーをしました。かけがえのない日常を、平凡に眠る全うな幸福を、今の僕は惜しみなく与えられている。<br />
そして今年は気を利かせてくれた涼宮さんの計らいで団活動は休業。デートしませんかという誘いに頷いてくれた、他の誰でもない彼女が、隣に居るのです。<br />
これほど幸せなことがあるでしょうか。<br />
これほど、……愛しいことが、あるでしょうか。<br />
<br />
<br />
「――あなたの、見ていた景色」<br />
「はい」<br />
「知ることが出来て良かった」<br />
「……はい」<br />
<br />
<br />
隣に居てくれてありがとう。僕も、あなたの見てきた景色を知りたいと願います。<br />
赦してくれますか、長門さん。あなたの声をあなたの隣で、聞いていてもいいですか。<br />
口にするには女々しい台詞ですから、流石に直接告げるのは思い留まりました。けれど、彼女は秘め事を打ち明けるように、首を斜めに傾げて僕に囁くのです。<br />
<br />
「来年のクリスマスも、再来年のクリスマスも、あなたはきっと、一人ではない」<br />
予期しない言葉に声を喪う僕に、長門さんは微かに、ほんの微かに笑ったように瞳を瞬かせました。<br />
そっと触れた指先から彼女の呟きが、繋がるような気が、しました。<br />
<br />
「メリークリスマス」<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
(指折り数えて、次のクリスマスをまた、楽しみにする日を待ちましょう？)<br />
(あなたに、彼らに、優しい夜になりますように)<br />
<br />
――――――Merry Christmas.<br />
<br />
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<dd id="res0_73body"><br />
暖冬らしく、耳朶を掠める風も穏やかなものに感じられました。勿論僕の心象を加味しての感想であることは、否定しません。過ごす時の流れが夢のように優しくて、心が洗われるような理想的な聖夜でした。イルミネーションに彩られた夜景の美しさは、この時節ならではと言えるでしょう。<br />
輝く星にあかるい空を、掴めるのではないかと思うくらい近くに触れたのは、何時の日だったろうかと。感傷に浸る僕に、彼女は沈黙したまま付き添ってくれていました。<br />
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「……あなたに、この光景を見せたいと、ずっと思っていたんです」<br />
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やや街の中心地からは外れ、山沿いの勾配を登った先に、まだ開発中の繁華街を望むことの出来るビルの屋上。<br />
遠望が利く此処は、まだ数年幼いころの、僕のお気に入りの基地のようなものでした。<br />
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「神人退治に駆り出されるようになってから、見つけた場所です。閉鎖空間が罅割れ元の色彩を取り戻すその瞬間に、朝焼けの光と共に世界が塗り替えられる、その姿を網膜に焼き付けることが、僕の数少ない楽しみになっていたんですよ。<br />
――四年前のクリスマス、三年前のクリスマス、二年前のクリスマス……僕は、一人で此処に居ました。一人で、世界が壊れ、また生まれる瞬間を見ていた。明滅する光の洪水が織り成す、アトラクションのような町並みを、唯一のサンタから贈られる宝物のように抱きしめたつもりになっていました」<br />
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――光を、闇を、初めに願ったのはだれ。<br />
はじめに言があった。言は神と共にあった。言は神であった。<br />
この言は初めに神と共にあった。<br />
すべてのものは、これによってできた。できたもののうち、一つとしてこれによらないものはなかった。<br />
この言に命があった。そしてこの命は人の光であった。 <br />
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眼を灼くほどの光の渦を、この惑星に齎し、また同じだけの闇を湛えて世界は何度でも色を塗り替える。<br />
神様かもしれない少女が願ったから授かった僕の力、僕が手にした力を、その彼らの命の光の糧になるために、幾度でも僕は振るうでしょう。彼女が世界を愛してくれていることを、今の僕は知っているのですから。<br />
宣誓は常に、この総てを見渡せる天上に近しい地にて、一人。人々が至福に微笑みを交わすクリスマスの夜に。<br />
……ロマンチシズムに傾倒するのも大概にしろと、「彼」には呆れられるかもしれませんがね。<br />
そう彼女に告げると、彼女は首を小さく横に振りました。<br />
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「去年は、違う。……今年も。あなたは、一人ではない」<br />
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腕を摘んだ彼女の静かな眼差しが、僕に僕の在り処を教えてくれるようで、ええ、と僕は笑いました。去年は、今までには考えられないくらい賑やかに、SOS団の皆でクリスマスにパーティーをしました。かけがえのない日常を、平凡に眠る全うな幸福を、今の僕は惜しみなく与えられている。<br />
そして今年は気を利かせてくれた涼宮さんの計らいで団活動は休業。デートしませんかという誘いに頷いてくれた、他の誰でもない彼女が、隣に居るのです。<br />
これほど幸せなことがあるでしょうか。<br />
これほど、……愛しいことが、あるでしょうか。<br />
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「――あなたの、見ていた景色」<br />
「はい」<br />
「知ることが出来て良かった」<br />
「……はい」<br />
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隣に居てくれてありがとう。僕も、あなたの見てきた景色を知りたいと願います。<br />
赦してくれますか、長門さん。あなたの声をあなたの隣で、聞いていてもいいですか。<br />
口にするには女々しい台詞ですから、流石に直接告げるのは思い留まりました。けれど、彼女は秘め事を打ち明けるように、首を斜めに傾げて僕に囁くのです。<br />
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「来年のクリスマスも、再来年のクリスマスも、あなたはきっと、一人ではない」<br />
予期しない言葉に声を喪う僕に、長門さんは微かに、ほんの微かに笑ったように瞳を瞬かせました。<br />
そっと触れた指先から彼女の呟きが、繋がるような気が、しました。<br />
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「メリークリスマス」<br />
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(指折り数えて、次のクリスマスをまた、楽しみにする日を待ちましょう？)<br />
(あなたに、彼らに、優しい夜になりますように)<br />
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――――――Merry Christmas.<br />
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