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「赤服親父捕獲戦線」(2007/01/12 (金) 14:16:13) の最新版変更点
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えー、本日は晴天なり。<br>
去年とは打って変わって暖冬のため、雪も降らなければ電車も止まらない。<br>
よって、道も白くは無いしそりだって走れない。<br>
裏山にいけば未だに時期外れの紅葉も拝めるし、俺んちもまだコタツすら出していない。<br>
いやー・・・、過ごしやすい季節だ。<br>
「何で!?何で降らないの!?」<br>
・・・。<br>
「雪よ!!ゆ・きっ!」<br>
「知るか。お天道様に聞け。」<br>
「あ~っもうこの馬鹿!!雪の無いクリスマスイブなんて、みかんの無い炬燵よりも<br>
性質(たち)が悪いわ!何とかしなさいよっ!」<br>
えー、繰り返す、本日は晴天なり、本日は晴天なり。<br>
降水はおろか、雲すら拝める気配は無い。<br>
半月近い展示に耐えられず、グレーに変色した繊維の塊が道端の刺々しい円錐に纏わり付いている。<br>
そして俺は、冬休みが始まったばかりだと言うのに何故か学校に居る。<br>
しかも部室棟の四階に、スリッパ持参でだ。<br>
「で、あとのメンバーはどうした。約一名はバイト、約一名はコスプレの却下か?」<br>
「・・・・・・・・・。」<br>
・・・恐らく、長門には連絡すら付かなかったと見える。<br>
後は、自分に都合の悪い時は100%バイトが入る自称超能力者に、最近やっとハルヒの扱い方を心得始めて<br>
過激な格好をさせられる事の減った朝比奈さん。<br>
先輩なんだから、こいつに対してはもっと横暴に接してもらっても良い様に思うが・・・。<br>
だがしかし、数少ない俺の部室のオアシスが遠のいて行く・・・。<br>
ああ、ナース服が恋しい木枯らしの校庭・・・。<br>
「まあ、良いわ。どーせあいつらにはたいした期待もして無いし・・・。」<br>
休みの日に朝っぱらから叩き起こしといてなんちゅー言い草だ・・・。<br>
断言しよう、俺がここに居なかったら、間違いなく「あいつら」の中の最上位に俺の顔がある。<br>
<br>
「・・・、じゃあ、一区切り付いたところで、こんな日に俺を叩き起こして、半ば強制的に<br>
心休まる自宅からカオス理論真っ盛りの部室に引っ張ってきた理由は何だ?」<br>
「決まってるでしょ!今日はクリスマスイブよ!」<br>
「・・・だから?」<br>
あああああああああ・・・、もう言わずとも良い良い・・・。<br>
こいつの思考回路の基板のパターンが手に取るように伝わってくる。<br>
大方今日しか仕事をしない、日給=年収の赤服親父、<br>
「サンタクロースをヒッ捕らえるのよ!」<br>
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。<br>
「・・・時に落ち着け。いくらお前でもそれだけは言ってはならぬ、言ってはならぬぞ。<br>
あんな赤服親父、今日中に見つかるわけがn<br>
「サンタクロースは、昔から何故か空飛ぶトナカイに引っ張られたソリに乗ってやってくるって事になってるわね?」<br>
・・・聞いちゃいねえ。<br>
「あれって、何処かおかしいのよ。キョン、分かる?」<br>
「いーや。」<br>
おかしいのはお前の脳みそだ。<br>
「だって、そもそも飛行能力があるのはトナカイだけなのよ?ソリには何の仕掛けも無いの。<br>
ソリに何らかの機構があって、重力に反発する能力があるってんならまだ話は早いわ。<br>
でもそうするとわざわざトナカイに引っ張らせる意味が無い」<br>
<br>
「トナカイの速度が、猛烈に速いんだろ。」<br>
「そうするしかないわ。実際、ソ連軍が秘密裏に撮影した超高性能カメラに写ったサンタと見られる<br>
未確認飛行物体も、音速に匹敵する速度で飛んでいたわ」<br>
・・・・・・そんな無駄なことやってるからソ連は崩壊したに違いない。<br>
「ただ、空気抵抗でソリが浮かび上がるほどの超高速で、恰幅が良くてそれ自身が協力ん抵抗を生むサンタが<br>
正常な状態で移動できるわけが無いの。」<br>
「よーするにお前は、あの赤服親父をUMAに仕立て上げたいわけだな。」<br>
「違うわ。」<br>
一発で跳ね返された。<br>
こいつ、今日は相当来てる。<br>
意味も無いのにPCの椅子から立ち上がり、背筋でS字を描き、手を腰に当てる。<br>
開いた右手で俺を『ビシィッ!』なんて音が聞こえてきそうな勢いで指差すと、勝ち誇ったような声で断言するのだ。<br>
「サンタは十中八九ほぼ間違いなく、・・・・・・極秘に開発された世界偵察用のスパイアンドロイドなのよ!」<br>
<br>
そんなわけで、俺は今このクソ寒い商店街でそろそろ冷めてきたおでんをほおばりながら時間を潰している。<br>
時刻は3時、待ち合わせの時間まで、後1時間もある。<br>
両親には帰りが遅くなる事を見越して「ちょっと、女友達と会う予定がある」なんて匂わせぶりな台詞を<br>
吐いてきたからまず問題ない。<br>
後はもう散々冷え切った心と体とお財布を、何処で守りきるかだ。<br>
頑張れスネーク。<br>
頑張れ俺。<br>
なんて事を考えながら待ち合わせ場所の駅の待合室でぼんやり投げやりに外を眺めていると、<br>
「全く、何なのよあいつらは。」<br>
いかにも不機嫌と言った表情で、見覚えのあるオレンジのリボンのツインテールがどかどか現れる。<br>
時刻は3時半。<br>
待ち合わせ時間までは、後30分。<br>
奴にしては諦めが早い。<br>
<br>
そのまま近くのベンチにどかっと腰を下ろすと、少し内股にした膝の上にある両手を握り締めて・・・。<br>
待て。<br>
仮にも女子高生がである。<br>
夕方の駅前のベンチである。<br>
木枯らしが吹く中である。<br>
俯いて、口をへの字にして。<br>
肩を震わせて。<br>
・・・・・・泣いてる・・・、のか?<br>
サンタが居ないことを悟って駅前の商店街で泣き崩れるハルヒの図。<br>
シュールだ。<br>
いやいやそんな事はどうでも良いのだ。<br>
断じて、俺には何の下心も無ければ、ほんの一瞬でさえハルヒを愛しく思ったりはしない。<br>
断じてしない。<br>
しかしこの状況は・・・うーむ・・・。<br>
<br>
「赤服のターミネーターは見つかったか?」<br>
「・・・・・・・・・。」<br>
「諦めろ。ソ連軍が血眼になって探しても捕まらなかったサンタが、お前ごときに半日で発見されるわけが無い。」<br>
「・・・・・・・・・。」<br>
「邪鬼眼でも無い限り無理だ。」<br>
「・・・・・・・・・。分かってる。」<br>
「・・・は?」<br>
「分かってるのよっ、そんな事!」<br>
こいつが捜索に行ったのは大通り方面、商店街と違ってこの時期ともなればカップルが多数出没する。<br>
そんな中、独りで半ば存在しないことを認めている赤服親父を必死になって探し、<br>
足を棒にしているハルヒの姿が目に浮かぶようだ。<br>
うん、コレはコレで絵になるかもしれない。<br>
「でね・・・、ズッ、私、何で独りでこんな事してるんだろうって・・・、ずっ、サンタなんか居るから、<br>
私がこんな目に逢ってこんな事しなくちゃならないんだって・・・、ずぅ。」<br>
「・・・・・・・・・。」<br>
出たっ、必殺『責任転嫁』っ!<br>
<br>
「そしたら、何かもう全部どうでも良くなっちゃって・・・、ずっ・・・、寒いし・・・、ズッ・・・、もう・・・、<br>
ひっ・・・、イヤになってぇ・・・、ひっ・・・。」<br>
コレは少々まずい兆候かも知れない。<br>
そんなところで泣くな、オトナゲない。<br>
沈下した肩を震わせ、決して目線を上げようとしないハルヒに、俺は多分、こうするしかなかったんだと思う。<br>
俺は、普段なら信じられないことかもしれないが、ビービー泣いてるくっちゃくっちゃの顔を、抱きしめていた。<br>
「仮にも女子高生が、こんなところで泣くな。小ッ恥ずかしい。」<br>
手入れの行き届いた髪の毛は、何かこう、いい匂いだ。<br>
ああ、旗から見たら俺たちもバカップルの仲間入りか・・・。<br>
もうそんな事はどーでもいい。<br>
ああ、どーでもいいとも。<br>
そうだ、何だかんだ言って俺はこいつが嫌いではない。<br>
どちらかと言えばもっとプラスな部類に入る方だと思っている。<br>
ああ、良いじゃないかもう、まどろっこしい!<br>
ああそうだとも、俺は泣きながら駅前に入ってきたこいつに何らかの感情を抱いていたし、震える肩はホントに<br>
ホントに可愛かった。<br>
全く、俺の中のツンが消えていくのがここまではっきり分かるとは。<br>
<br>
あーはいはい、そうだな、俺はもうこいつの手の中に落ちましたとも。<br>
そんな思考が頭の中でループしてるのを体して広くも無い頭の隅に押しやって、俺はハルヒの前にしゃがみこむ。<br>
俯いて、口をへの字に、眉をハの字にして、涙がこぼれないように大きく目を見開いた顔を覗きこんだ。<br>
「おでん、奢るぞ。」<br>
いろんな液体でぐしゃぐしゃの顔が、微かに上下運動したのを俺は見逃さなかった。<br>
<br>
<br>
結局、ハルヒが涙をごまかすように上を向いて大量にかっこんだコンビニのおでんのせいで、<br>
俺のなけなしの所持金は遂に二桁に突入したし、その後待合室であいつが<br>
「泣いてる女を独りにしないでよ・・・。」<br>
なんて言い出すもんだから俺達は、ハルヒの肩に手を置いてあいつが満足するまで二人して通行人を眺める事になった。<br>
全く、俺の休みを返せ、と。<br>
しかし翌日の今日、俺は朝から駅前に居る。<br>
今朝のハルヒからの呼び出しは<br>
「来なかったら今度奢りなさいよ。」<br>
という今までのなんちゃって死刑判決よりは可愛らしい物だったし、最初に今日の予定を聞くという、<br>
素晴らしくあいつらしからぬワンクッションをおいていたにもかかわらず、だ。<br>
俺はここでケータイ片手に涼宮ハルヒを待っている。<br>
昨日の事は、実は俺としても何を考えていたのか良く分からない。<br>
あいつが道行くカップルに「うわーあいつら何だよ羨まちー。」なんて事を考えたせいか、<br>
はたまた俺の本心か。<br>
<br>
んま、今日こうして居られるって事はあいつが俺の事を殺そうとしているか若しくは「のわっ!?」<br>
「キョーン!」<br>
見ると、ハルヒが俺の肩にしがみ付く様な格好で纏わり付いている。<br>
どうやら、昨日の毒気は抜けたようだ。<br>
鼻歌なんか歌っちまいやがって。<br>
まあ、俺としても今日はまだ悪い気はしない。<br>
強いて言うなら、俺の左腕に絡み付いた割りかし細めの腕の付属品のせいで、やや歩きにくいが・・・。<br>
コレで、とりあえず世界は安泰、なのか?<br>
今日のハルヒの顔には憂鬱の百の字も見当たらない。<br>
・・・別にどうでも良いか・・・。<br>
流石に、いっぱしの高校生の初デートでの振舞いに、世界の命運がかかっているとも思えない。<br>
いや、ホントはそうなのかもしれないけど。<br>
しかしながら、俺の手首ではなくしっかりと手を繋いでいる今のうちは恐らく問題無いのだろう。<br>
「で、ハルヒ、何処行くんだ?」<br>
「決まってるでしょ!?商店街の福引で、特賞の旅行券当てて、サンタの寝込みを襲いに行くのよ!」<br>
「・・・。」<br>
「それと、あいつに昨日のお礼もしたいしね。」<br>
・・・・・・あぁ、間違ってもペアなんて当ててくれませんように。<br>