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憂鬱な殺人 プロローグ」(2007/11/18 (日) 07:36:43) の最新版変更点

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<p>プロローグ</p> <p> </p> <p> ある家のリビング──普通の家の、よくあるリビングだ。<br> 電気はついていないので薄暗いが、階段から明りが漏れ、わずかに中の様子が見え<br> る。ソファとテーブルがあり、ソファと向かい合うようにテレビが置いてある。そのリビ<br> ングに、何の前触れもなく、忽然と女が現れた。どこからか入って来たのでも、物陰か<br> ら現れたのでもない。ただ、ある時間から突然そこに存在したのだ。</p> <p> </p> <p> 彼女は辺りを見回すと、ソファのサイドテーブルにおいてあるリモコンを手に取った。<br> それでテレビをつける。チャンネルを回し、あるテレビ局で固定すると、直ぐにテレビ<br> を消した。少し、耳を澄ますようにそのままじっと佇む。</p> <p> </p> <p> やがて、満足そうに微笑むと、女はリモコンを元に戻した。</p> <p> </p> <p><br>  そして────</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p>****</p> <p> </p> <p> 夜中にあたしは目が覚めた。時計を見る──夜中の0時半を少し過ぎたところだっ<br> た。いつも就寝は夜11時くらい。思ったより時間が経っていないんだな、とぼんやりす<br> る頭で考えてみる。<br>  別に胸騒ぎがするとか、そう言う気分だった訳じゃないわ。ただ、やけに蒸し暑くて、<br> 喉が渇いただけ。気怠い気持ちでベッドから起き、階下へ飲み物を取りに行った。<br>  今夜は両親がいない。父は出張、母は親戚の家に用事があると言っていた。1人で<br> 家にいることは、あたしにとって珍しいことではない。</p> <p> </p> <p> 今日もいつも通りの1人の夜を明かすだけだと思っていた。</p> <p> </p> <p> 階下に降りて冷蔵庫を開ける。冷蔵庫の中を見てちょっとの間考えた。<br> 「何がいいかしらね。ジュース……より、喉が渇いているから麦茶かな」<br> ジュースは却下して、コップに麦茶を入れて一気に飲み干す。渇いていた喉が潤い、<br> あたしは少しホッとした気分になる。<br> 「なんか、目が覚めたわね……」</p> <p> </p> <p> 一瞬、キョンに電話かけようかと思ったけれどやめておこう。さすがにこの時間じゃ、<br> いくらキョンでも怒るわね。こういうとき、考えが自然とアイツのことになるのは、もう仕<br> 方がないのかもしれない。最初はあたしも何でアイツのことなんか……って考えたけ<br> ど、もう開き直ったわ。一応付き合ってることになってるはずなのよね。少なくともあた<br> しはキョンが好きだ。これは、もう誤魔化しようがない。キョンもたぶん、あたしが好き<br> で付き合ってるんだろうけど、最近の態度を見てるとどうかしら、と思うわ。いや、態<br> 度は前からよね。最初から、キョンは全然変わっていない。変わったのはあたし?</p> <p> </p> <p> 今日両親がいないの、なんて言ったらキョンはどうするかしら? いや、やっぱりあた<br> しもそんな勇気はないわね。</p> <p> </p> <p> もう一度寝直そうとも思ったけど、ベッドに戻っても眠れない気がして、リビングでテ<br> レビでも見ることにした。明日は土曜日。不思議探索はあるけど、学校はないわ。少<br> しくらい夜更かししたって構わない。</p> <p> </p> <p> あたしは飲み物が欲しかったから、階下に降りるとまっすぐに冷蔵庫に行った。冷<br> 蔵庫からリビングは、あまり見えない位置関係になっていて、あたしはテレビをつけに<br> 居間に行くまで“それ”に気がつかなかった。テレビをつけようとリモコンを手に取り、<br> ソファに腰掛けようとしたとき、“それ”が目に入った。</p> <p> </p> <p> リビングの窓際、ソファを回らないと、テーブルの影になって見えない場所。そこに<br> あるべきでないものが横たわっていた。</p> <p> </p> <p><br> 「!!!!」</p> <p> </p> <p><br>  とっさに声が出なかった。</p> <p> </p> <p>「……っ……ひっ……あっ……」<br>  叫び声をあげたかったのかもしれない。自分でもどうしたいのかは解らない。ただ喘<br> ぐだけで、声が喉にひっかかって上手く出ない。身体がガタガタ震えている。</p> <p> </p> <p><br>  不自然な形に下り曲がった身体。<br>  見開いた目は、既に何も映すことはできないのが、一目で解った。<br>  青白い、血の気の失せた顔に浮かんでいる表情は恐怖か驚愕か──。</p> <p> </p> <p><br>  孤島の合宿で見た偽物なんかとは違う、本物が持つ禍々しい雰囲気。</p> <p> </p> <p><br>  そこにあったのは、知らない女の人の紛れもない“死体”だった──。</p> <p> </p> <p><br> 「いやあああああああああ!!!!」</p> <p> </p> <p> 始めてまともに出た声は、悲鳴となって家中に響いた。だが、家には誰もいない。助<br> けてくれる人は誰もいない。あたしは恐怖と混乱で取り乱して、部屋に駆け戻った。</p> <p> </p> <p> 本来なら直ぐに警察に連絡するべきだったのだろう。だけど、あたしは怖かった。<br> 誰に助けて欲しかった。</p> <p> </p> <p> 気がつくと、携帯を手に取り、一番かけ慣れた番号を呼び出していた。</p> <p> </p> <p><br> 『なんだ、こんな時間に』<br>  しばらく呼び出した後、少し不機嫌そうな声が聞こえてきた。あたしは聞き慣れたそ<br> の声にすがりついた。<br> 「キョン……キョン、助けて……!」<br> 『どうした!? 何があった!?』<br>  あたしの様子がおかしいと直ぐに感じてくれたのでしょうね。声から不機嫌さが消え<br> て代わりに真剣味が加わった。<br> 「あ、あたしの家で……」<br>  上手く言葉が継げないあたしは、唾を飲み込んでから続けた。<br> 「誰かが死んでる! 知らない人が死んでる!!!」<br> 『何だって!?』<br> 「家には誰もいないの! お願い、家に来て!!」<br>  1人でいるのが怖かった。誰かに──キョンに、そばに居て欲しかった。<br> 『わかった。直ぐ行くから待ってろ』<br>  キョンはそう言って電話を切った。</p> <p> </p> <p> キョンが来てくれると思うと少し落ち着いた。“あれ”について、少し考える余裕ができ<br> た。見たのはわずかな時間だったけど、目に焼き付いている。顔は青ざめていたし、<br> 表情も普通じゃなかったけど──知らない人だわ。あたしには見覚えがない。誰かに<br> 似ている気もする──誰?</p> <p> </p> <p> 夜、寝る前には確かにそんな物はなかった。あたしは寝る前までテレビを見ていた<br> んだもの。あんな物があったら気がつかないわけがない。だったら、あれはあたしが<br> 寝た11時から起きた0時半までに、あそこに来たことになる。</p> <p> </p> <p> 誰かがこの家にあの女の人を連れてきて──<br>  そこまで考えてあたしは身震いした。誰かがあたしの家で人を殺したってこと!?</p> <p> </p> <p> あたしは家にいるのが怖くなって外に出た。祈りにも似た気持ちで、門の前でキョン<br> を待つ。</p> <p> </p> <p><br>  キョン、早く来て!</p> <p> </p> <p> </p> <p>  <a href="http://www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3807.html">1章へ</a></p>
<p>プロローグ</p> <p> </p> <p> ある家のリビング──普通の家の、よくあるリビングだ。<br> 電気はついていないので薄暗いが、階段から明りが漏れ、わずかに中の様子が見え<br> る。ソファとテーブルがあり、ソファと向かい合うようにテレビが置いてある。そのリビ<br> ングに、何の前触れもなく、忽然と女が現れた。どこからか入って来たのでも、物陰か<br> ら現れたのでもない。ただ、ある時間から突然そこに存在したのだ。</p> <p> </p> <p> 彼女は辺りを見回すと、ソファのサイドテーブルにおいてあるリモコンを手に取った。<br> それでテレビをつける。チャンネルを回し、あるテレビ局で固定すると、直ぐにテレビ<br> を消した。少し、耳を澄ますようにそのままじっと佇む。</p> <p> </p> <p> やがて、満足そうに微笑むと、女はリモコンを元に戻した。</p> <p> </p> <p><br>  そして────</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p>****</p> <p> </p> <p> 夜中にあたしは目が覚めた。時計を見る──夜中の0時半を少し過ぎたところだっ<br> た。いつも就寝は夜11時くらい。思ったより時間が経っていないんだな、とぼんやりす<br> る頭で考えてみる。<br>  別に胸騒ぎがするとか、そう言う気分だった訳じゃないわ。ただ、やけに蒸し暑くて、<br> 喉が渇いただけ。気怠い気持ちでベッドから起き、階下へ飲み物を取りに行った。<br>  今夜は両親がいない。父は出張、母は親戚の家に用事があると言っていた。1人で<br> 家にいることは、あたしにとって珍しいことではない。</p> <p> </p> <p> 今日もいつも通りの1人の夜を明かすだけだと思っていた。</p> <p> </p> <p> 階下に降りて冷蔵庫を開ける。冷蔵庫の中を見てちょっとの間考えた。<br> 「何がいいかしらね。ジュース……より、喉が渇いているから麦茶かな」<br> ジュースは却下して、コップに麦茶を入れて一気に飲み干す。渇いていた喉が潤い、<br> あたしは少しホッとした気分になる。<br> 「なんか、目が覚めたわね……」</p> <p> </p> <p> 一瞬、キョンに電話かけようかと思ったけれどやめておこう。さすがにこの時間じゃ、<br> いくらキョンでも怒るわね。こういうとき、考えが自然とアイツのことになるのは、もう仕<br> 方がないのかもしれない。最初はあたしも何でアイツのことなんか……って考えたけ<br> ど、もう開き直ったわ。一応付き合ってることになってるはずなのよね。少なくともあた<br> しはキョンが好きだ。これは、もう誤魔化しようがない。キョンもたぶん、あたしが好き<br> で付き合ってるんだろうけど、最近の態度を見てるとどうかしら、と思うわ。いや、態<br> 度は前からよね。最初から、キョンは全然変わっていない。変わったのはあたし?</p> <p> </p> <p> 今日両親がいないの、なんて言ったらキョンはどうするかしら? いや、やっぱりあた<br> しもそんな勇気はないわね。</p> <p> </p> <p> もう一度寝直そうとも思ったけど、ベッドに戻っても眠れない気がして、リビングでテ<br> レビでも見ることにした。どうせ眠れないなら同じよね。少しくらい夜更かししたって構</p> <p>わない。</p> <p> </p> <p> あたしは飲み物が欲しかったから、階下に降りるとまっすぐに冷蔵庫に行った。冷<br> 蔵庫からリビングは、あまり見えない位置関係になっていて、あたしはテレビをつけに<br> 居間に行くまで“それ”に気がつかなかった。テレビをつけようとリモコンを手に取り、<br> ソファに腰掛けようとしたとき、“それ”が目に入った。</p> <p> </p> <p> リビングの窓際、ソファを回らないと、テーブルの影になって見えない場所。そこに<br> あるべきでないものが横たわっていた。</p> <p> </p> <p><br> 「!!!!」</p> <p> </p> <p><br>  とっさに声が出なかった。</p> <p> </p> <p>「……っ……ひっ……あっ……」<br>  叫び声をあげたかったのかもしれない。自分でもどうしたいのかは解らない。ただ喘<br> ぐだけで、声が喉にひっかかって上手く出ない。身体がガタガタ震えている。</p> <p> </p> <p><br>  不自然な形に下り曲がった身体。<br>  見開いた目は、既に何も映すことはできないのが、一目で解った。<br>  青白い、血の気の失せた顔に浮かんでいる表情は恐怖か驚愕か──。</p> <p> </p> <p><br>  孤島の合宿で見た偽物なんかとは違う、本物が持つ禍々しい雰囲気。</p> <p> </p> <p><br>  そこにあったのは、知らない女の人の紛れもない“死体”だった──。</p> <p> </p> <p><br> 「いやあああああああああ!!!!」</p> <p> </p> <p> 始めてまともに出た声は、悲鳴となって家中に響いた。だが、家には誰もいない。助<br> けてくれる人は誰もいない。あたしは恐怖と混乱で取り乱して、部屋に駆け戻った。</p> <p> </p> <p> 本来なら直ぐに警察に連絡するべきだったのだろう。だけど、あたしは怖かった。<br> 誰に助けて欲しかった。</p> <p> </p> <p> 気がつくと、携帯を手に取り、一番かけ慣れた番号を呼び出していた。</p> <p> </p> <p><br> 『なんだ、こんな時間に』<br>  しばらく呼び出した後、少し不機嫌そうな声が聞こえてきた。あたしは聞き慣れたそ<br> の声にすがりついた。<br> 「キョン……キョン、助けて……!」<br> 『どうした!? 何があった!?』<br>  あたしの様子がおかしいと直ぐに感じてくれたのでしょうね。声から不機嫌さが消え<br> て代わりに真剣味が加わった。<br> 「あ、あたしの家で……」<br>  上手く言葉が継げないあたしは、唾を飲み込んでから続けた。<br> 「誰かが死んでる! 知らない人が死んでる!!!」<br> 『何だって!?』<br> 「家には誰もいないの! お願い、家に来て!!」<br>  1人でいるのが怖かった。誰かに──キョンに、そばに居て欲しかった。<br> 『わかった。直ぐ行くから待ってろ』<br>  キョンはそう言って電話を切った。</p> <p> </p> <p> キョンが来てくれると思うと少し落ち着いた。“あれ”について、少し考える余裕ができ<br> た。見たのはわずかな時間だったけど、目に焼き付いている。顔は青ざめていたし、<br> 表情も普通じゃなかったけど──知らない人だわ。あたしには見覚えがない。誰かに<br> 似ている気もする──誰?</p> <p> </p> <p> 夜、寝る前には確かにそんな物はなかった。あたしは寝る前までテレビを見ていた<br> んだもの。あんな物があったら気がつかないわけがない。だったら、あれはあたしが<br> 寝た11時から起きた0時半までに、あそこに来たことになる。</p> <p> </p> <p> 誰かがこの家にあの女の人を連れてきて──<br>  そこまで考えてあたしは身震いした。誰かがあたしの家で人を殺したってこと!?</p> <p> </p> <p> あたしは家にいるのが怖くなって外に出た。祈りにも似た気持ちで、門の前でキョン<br> を待つ。</p> <p> </p> <p><br>  キョン、早く来て!</p> <p> </p> <p> </p> <p>  <a href="http://www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3807.html">1章へ</a></p>

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