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「忘れな草」(2007/01/12 (金) 13:59:57) の最新版変更点
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<div>わたしの憂鬱。<br>
三年生の三学期、卒業と共に訪れる大事な人との別れ。<br>
ほんとは帰りたくなんてないの……でも、これは最優先の強制コードだから仕方ない。<br>
もう、決心もついた。<br>
だけど、最後に一つだけの心残り。<br>
キョンくん……。<br></div>
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<div>
わたしは想いを口に出来ない。だって未来が変わっちゃうから。<br>
でも、口に出さなきゃいいって屁理屈を思いついちゃった。もう、今日で最後だからこれくらいいいよね?<br>
わたしはあらかじめ用意していた《それ》と写真を彼の机に置いて、部室を出た。<br>
さようなら、わたしのSOS団。さようなら、わたしの仲間達。<br>
さようなら、わたしの思い出。さようなら、わたしの初恋……。<br>
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<div>「あれ?朝比奈さん、いないのか?」<br>
俺は古泉と部室に来た。ハルヒと長門は鶴屋さんに祝いを言いに行っている。<br>
誰もいない部室を見回すと、ちょっとした変化に気付いた。<br>
俺の机の上、紙と布で造られた造花と、その見本であろう写真が乗っていた。<br>
朝比奈さんだろうか?俺は手に取り、古泉に尋ねた。<br>
「これとこれ。何て花かわかるか?」<br>
それを見た古泉は、少し悲しそうな顔をした。<br></div>
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<div>
「そう……でしたか。あなたの右手にある花、それはコスモスですよ。花言葉は、乙女の純情……」<br>
丁寧に花言葉まで解説するのか、ありがたい事だ。<br>
「そして左手にある花、それは……忘れな草です。英訳の《forget-me-not》の表すように、花言葉は……」<br>
嫌な予感がした。<br></div>
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<div>「わたしを忘れないで」<br></div>
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<div>
俺は走りだした。朝比奈さんは何処にいる?もし、未来に帰るとするなら、あの公園が一番怪しい。<br>
鞄も、写真も、造花も全て部室に置いたまま、俺は一目散に向かった。<br>
公園のベンチに腰掛けた、愛らしい顔に悲しみを浮かべる朝比奈さんがそこにいた。<br>
</div>
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<div>「キョン……くん?」<br>
「朝比奈さん!何で……何で勝手に未来に帰ろうとしたんです!?まだ、お別れ会だって終わってないじゃないですか……」<br>
朝比奈さんは俯いた。わかってる、未来からの強制コードとやらが来たのだろう。<br>
それでも、俺はそう言うしか出来なかった。<br>
俺は朝比奈さんの手を引き、立ち上がらせて抱き締めた。<br>
「えっ?……キョン、くん?」<br>
「勝手に帰らせたりなんかしませんよ。俺はこうやってずっと、掴まえてますから」<br>
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<div>思わず、抱き締める腕に力が入った。<br>
「んっ……痛い、ですよぉ……」<br>
「あ、ごめんなさい。つい……」<br>
俺が少し抱き締める力を弱めた瞬間、唇を奪われた。<br>
そのまま、数秒間口付けを躱した後、朝比奈さんは耳元で呟いた。<br>
「……ごめんなさい、キョンくん」<br>
俺は油断していた、不意をつかれたキスにやられた。<br>
あの衝撃と共に意識が薄れていく。<br>
そうだ…これがあったか……。<br>
俺は、なんて無力なんだ……<br></div>
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<div>気がつくと、俺はベンチに一人寝転がっていた。<br>
辺りを見回す。人の影一つない。<br>
そうか、俺は止められなかったのか……。<br>
みんなの所に帰ろう。そして、急な引越しになったとハルヒに伝えよう……。<br>
俺は学校へと、部室へとゆっくり歩き出した。<br></div>
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<div>
部室の前、鶴屋さんの声が聞こえてくる。ハルヒがお別れ会に誘ったのだろう。<br>
俺は開けるのをためらったが、深呼吸をしてドアを開けた。<br>
「遅いわよ!キョン!みくるちゃんは?……ってあれ?あんたそのポケットはなによ、新しい流行?」<br>
ポケット?<br>
俺が自分のブレザーの胸ポケットを見ると、元気のよい、鮮やかな色をした忘れな草が刺さっていた。<br>
</div>
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<div>涙が、溢れた。<br>
部室で騒いでいた連中の目など気にする間もなく、俺は泣いた。泣き続けた。<br>
みんなが呆気に取られる中、泣き続ける俺を、古泉が抱えて連れ出してくれた。<br>
「どうぞ、続きをなさっててください」<br>
そんな声にもツッコミが出来ないくらい、俺は泣き続けた。<br>
</div>
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<div>気がつくと、そこは屋上だった。<br>
「止められなかったん……ですね?」<br>
「あぁ……」<br>
そう言うと、古泉も少し涙を流し始めた。<br>
「もう少しだけでも、一緒に居たかったですね」<br>
「……そうだな」<br>
俺は胸の忘れな草を手に取り、星空に翳した。<br>
「僕達だけでも、しっかりと覚えておきましょう。朝比奈さんのことを……」<br>
古泉の言葉が暗闇に吸い込まれて行く。星明かりと、月明かりだけの屋上。<br>
空を見上げると、朝比奈さんの声が聞こえたような気がした。……いや、聞こえた。<br>
俺が聞いた最後の声。一生耳に残り、頭から離れることはないだろう。<br>
</div>
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<div>「わたしを、忘れないでくださいね?」<br></div>
<br>
終わり