「切ない同窓会」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「切ない同窓会」(2020/06/18 (木) 11:44:18) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
<p> 北高第○期生同窓会は、全クラスを集めて盛大に執り行われていた。<br>
会場は、北高に近いホテルの宴会会場だった。<br>
実態としては、大人になった当時の生徒たちが飲んで食べて騒いでいるだけだ。こういう行事は堅苦しくやるものではない。<br>
<br>
「キョン。さっさと注ぎなさい」<br>
「へいへい、団長様」<br>
涼宮ハルヒのコップに、キョンが日本酒を注ぐ。<br>
そんな様子に、谷口がちゃちゃを入れてきた。<br>
「おお、キョン。相変わらず尻に敷かれてるな。ところで、おまえらどこまで行ったんだ?」<br>
「ハルヒとはそんな関係じゃねぇよ。何度言ったら分かるんだ」<br>
「おいおい。いっつもつるんでて、それはないだろ。本当のこと言えよ」<br>
「あのなぁ……」<br>
キョンがさらに言い募ろうとしたときに、涼宮ハルヒが大声で割って入った。</p>
<p> </p>
<p>「フラれたわ!」<br>
<br>
盛り上がっていた会場が一気に静寂に包まれた。<br>
その場のほぼ全員の視線が二人に集中した。<br>
例外は、食と酒を黙々と体内に取り込んでいる長門有希と、小さな溜息をついた古泉一樹だけだった。<br>
<br>
「お、おい……フラれたってどういうことだ……?」<br>
谷口が呆然とした表情でそう尋ねる。<br>
「そのまんまの意味よ!」<br>
「おい、ハルヒ。そんなことはこんなところでいうことじゃないだろ」<br>
「あんたは誤解されるのが嫌なんでしょ!? 誤解を解いてあげた私に感謝しなさい!」<br>
<br>
涼宮ハルヒは、コップの酒を一気に飲み干し、酒瓶を手にとって自ら酒をコップに注いで、また飲み干す。<br>
<br>
「ハルヒ。おまえ、酒弱いんだから、そんな飲み方するな」<br>
「飲まなきゃやってらんないわよ!」<br>
涼宮ハルヒは、キョンの忠告を聞き入れることなく、ガブガブと酒を飲み続けた。<br>
<br>
場は一気にしらけてしまった。<br>
誰も二人に話しかけることができない。<br>
<br>
<br>
<br>
三十分後。<br>
涼宮ハルヒは完全な泥酔状態にあった。<br>
「まったく、しょうがない団長様だ」<br>
キョンは、涼宮ハルヒの腕を肩にかける形で持ち上げた。<br>
「俺は、こいつを実家に送ってくるから、先にあがらせてもらうぞ。楽しいはずの同窓会をしらけさせて悪かったな」<br>
<br>
二人が去っていったあと、男女数人が古泉一樹のもとに集まった。<br>
代表して谷口が問い詰める。<br>
「おい。これはいったいどういうことなんだ?」<br>
「どういうこともなにも、涼宮さんがおっしゃられたとおりですよ」<br>
古泉一樹は、無表情を維持していた。こういうときにどんな表情をしていいものか、彼にも分からなかったのだ。<br>
「なんでだよ? あんなに仲がよかったのに」<br>
「今でも、その仲は変わりませんよ」<br>
「なら、なんでだよ?」<br>
「彼に言わせば、SOS団の仲間はみんなかけがえのない親友だということです。だから、恋愛感情の対象とはなりえなかった。涼宮さんは友人関係を超えるものを望んだけれども、彼にとっては彼女との関係は友人以外のものではありえなかった」<br>
「キョンらしいといえば、キョンらしいね。中学時代の佐々木さんともそうだったし。キョンにとっては、女性との間の友情も極々自然なことなんだろうね」<br>
国木田が、そう感想を述べた。<br>
谷口は、長門有希の方をちらっと見たあと、古泉一樹に問い詰めた。<br>
「おまえら、涼宮がフラれるのを黙ってみてたのかよ!?」<br>
「僕だって、彼に理由を問いましたよ。そうしたら、さっきのような答えが返ってきました。僕はさらに問い詰めましたが、彼にこう言われてしまいました。<br>
『なら、おまえは、好きでもない相手に対して好きなフリをすれとでもいうのか? それはハルヒの真剣な気持ちを侮辱するも同然だ!』とね。僕は、反論することができませんでした」<br>
<br>
沈黙が場を支配する。<br>
<br>
「涼宮さんは、今でもキョンくんのことが好きなのね」<br>
阪中がぽつりとそうつぷやいた。<br>
「そうでしょうね。だから、それ以上前進することができないと分かっていても、彼の一番の親友という今の位置から後退することもできない。それゆえに、二人の関係は、高校時代と変わらずですよ」<br>
<br>
<br>
<br>
キョンは、涼宮ハルヒを実家に送り届けていた。<br>
彼女の母が出迎えた。<br>
「ごめんなさいね。ハルヒがご迷惑をかけてしまって」<br>
「これぐらいは迷惑のうちには入りませんよ。ハルヒは大事な友人ですからね。これぐらいは当然です」<br>
「友人ね……あなたとハルヒが、それ以上の関係だったら……いや、これはいまさらいっても仕方のないことね。ごめんなさい」<br>
「すみません……」<br>
キョンは、そういうと、その場から立ち去った。<br>
<br>
<br>
<br>
一次会が終わり、古泉一樹と長門有希は連れ立って歩いていた。<br>
「これからどっかの居酒屋で二次会でもどうですか?」<br>
「あなたの配偶者に連絡をとらなくてもよいのか?」<br>
「森さんには、遅くなると予め言ってあります。涼宮さんのことですから、SOS団の四人で二次会になると予想していたものでね。その予想は外れてしまいましたが」<br>
「四人ならばともかく、あなたと私の二人だけでは、あなたの配偶者に誤解を与える可能性がある」<br>
「SOS団の仲間はみな友人です。森さんだって、それぐらいは理解してますよ」<br>
「現在発生している閉鎖空間に対応しなくてもよいのか?」<br>
「現在頻発しているのは、小規模なもので短時間で消えるタイプです。僕が出るまでもありません。涼宮さんの精神もすっかり安定してきたということですね。<br>
それはひとえに彼のおかげですよ。ですから、その結末がこんなことになってしまって、僕はやるせない思いでいっぱいです」<br>
「…………」<br>
「こんな愚痴をいえる相手は、長門さんぐらいしかいないのでね。付き合っていただけますか?」<br>
「了解した」<br>
「ありがとうございます」<br>
<br>
ここで、間をおいてから、古泉一樹はこう切り出した。<br>
<br>
「しかし、長門さんはいつも淡々としてますね。あのときもそうだった。まあ、長門さんの感情の変化を読み取れるのは、彼ぐらいですけど」<br>
「私の任務は観測だから」<br>
「こういっては何ですけど、長門さんは彼に恋愛感情を抱いたことはないのですか?」<br>
「ない」<br>
それははっきりとした断定だった。<br>
「私は生殖機能を持たない。よって、生殖本能を根源とする恋愛感情なるものを持つこともありえない」<br>
「なるほど」<br>
「私は、彼を含めてSOS団の仲間は大切な親友だと思っている。彼も私のことをそう思ってくれている。私にとってはそれで充分」<br>
<br>
<br>
<br>
涼宮ハルヒは、ベッドにつっぷしていた。<br>
実家までキョンに送られてきたことは認識していた。<br>
彼は優しい。でも、それは、友人だからであって、好きだからではない。<br>
それぐらいは、理解している。<br>
<br>
涙が出そうになるのをぐっとこらえる。<br>
<br>
フラれたときに一晩中泣きはらしたあと、もう泣かないと決意した。<br>
だから、彼女は、シーツを握り締めたまま、ただただこらえ続けていた。<br>
<br>
<br>
<br>
キョンは、自分の実家へと向かっていた。<br>
<br>
あんな姿の涼宮ハルヒを見るのは、正直いってつらい。<br>
それが自分のせいだとなれば、なおさらだった。<br>
しかし、自分にはどうすることもできない。<br>
<br>
彼女に告白されたときの自分の行動が間違っていたとは思わない。<br>
いや、それは間違っているとか正しいとかいう問題ではない。<br>
自分は、彼女のことを一番の親友だと思っていて、かつ、彼女に対して恋愛感情を全く抱いていなかった。それは厳然たる事実であって、それ以外ではありえなかった。<br>
<br>
だから、彼は、一番の親友である彼女のために祈らずにはいられなかった。<br>
<br>
彼女を幸せにしてくれる奴がいつか現れるように、と……。</p>
<p> 北高第○期生同窓会は、全クラスを集めて盛大に執り行われていた。<br />
会場は、北高に近いホテルの宴会会場だった。<br />
実態としては、大人になった当時の生徒たちが飲んで食べて騒いでいるだけだ。こういう行事は堅苦しくやるものではない。<br />
<br />
「キョン。さっさと注ぎなさい」<br />
「へいへい、団長様」<br />
涼宮ハルヒのコップに、キョンが日本酒を注ぐ。<br />
そんな様子に、谷口がちゃちゃを入れてきた。<br />
「おお、キョン。相変わらず尻に敷かれてるな。ところで、おまえらどこまで行ったんだ?」<br />
「ハルヒとはそんな関係じゃねぇよ。何度言ったら分かるんだ」<br />
「おいおい。いっつもつるんでて、それはないだろ。本当のこと言えよ」<br />
「あのなぁ……」<br />
キョンがさらに言い募ろうとしたときに、涼宮ハルヒが大声で割って入った。</p>
<p> </p>
<p>「フラれたわ!」<br />
<br />
盛り上がっていた会場が一気に静寂に包まれた。<br />
その場のほぼ全員の視線が二人に集中した。<br />
例外は、食と酒を黙々と体内に取り込んでいる長門有希と、小さな溜息をついた古泉一樹だけだった。<br />
<br />
「お、おい……フラれたってどういうことだ……?」<br />
谷口が呆然とした表情でそう尋ねる。<br />
「そのまんまの意味よ!」<br />
「おい、ハルヒ。そんなことはこんなところでいうことじゃないだろ」<br />
「あんたは誤解されるのが嫌なんでしょ!? 誤解を解いてあげた私に感謝しなさい!」<br />
<br />
涼宮ハルヒは、コップの酒を一気に飲み干し、酒瓶を手にとって自ら酒をコップに注いで、また飲み干す。<br />
<br />
「ハルヒ。おまえ、酒弱いんだから、そんな飲み方するな」<br />
「飲まなきゃやってらんないわよ!」<br />
涼宮ハルヒは、キョンの忠告を聞き入れることなく、ガブガブと酒を飲み続けた。<br />
<br />
場は一気にしらけてしまった。<br />
誰も二人に話しかけることができない。<br />
<br />
<br />
<br />
三十分後。<br />
涼宮ハルヒは完全な泥酔状態にあった。<br />
「まったく、しょうがない団長様だ」<br />
キョンは、涼宮ハルヒの腕を肩にかける形で持ち上げた。<br />
「俺は、こいつを実家に送ってくるから、先にあがらせてもらうぞ。楽しいはずの同窓会をしらけさせて悪かったな」<br />
<br />
二人が去っていったあと、男女数人が古泉一樹のもとに集まった。<br />
代表して谷口が問い詰める。<br />
「おい。これはいったいどういうことなんだ?」<br />
「どういうこともなにも、涼宮さんがおっしゃられたとおりですよ」<br />
古泉一樹は、無表情を維持していた。こういうときにどんな表情をしていいものか、彼にも分からなかったのだ。<br />
「なんでだよ? あんなに仲がよかったのに」<br />
「今でも、その仲は変わりませんよ」<br />
「なら、なんでだよ?」<br />
「彼に言わせば、SOS団の仲間はみんなかけがえのない親友だということです。だから、恋愛感情の対象とはなりえなかった。涼宮さんは友人関係を超えるものを望んだけれども、彼にとっては彼女との関係は友人以外のものではありえなかった」<br />
「キョンらしいといえば、キョンらしいね。中学時代の佐々木さんともそうだったし。キョンにとっては、女性との間の友情も極々自然なことなんだろうね」<br />
国木田が、そう感想を述べた。<br />
谷口は、長門有希の方をちらっと見たあと、古泉一樹に問い詰めた。<br />
「おまえら、涼宮がフラれるのを黙ってみてたのかよ!?」<br />
「僕だって、彼に理由を問いましたよ。そうしたら、さっきのような答えが返ってきました。僕はさらに問い詰めましたが、彼にこう言われてしまいました。<br />
『なら、おまえは、好きでもない相手に対して好きなフリをすれとでもいうのか? それはハルヒの真剣な気持ちを侮辱するも同然だ!』とね。僕は、反論することができませんでした」<br />
<br />
沈黙が場を支配する。<br />
<br />
「涼宮さんは、今でもキョンくんのことが好きなのね」<br />
阪中がぽつりとそうつぷやいた。<br />
「そうでしょうね。だから、それ以上前進することができないと分かっていても、彼の一番の親友という今の位置から後退することもできない。それゆえに、二人の関係は、高校時代と変わらずですよ」<br />
<br />
<br />
<br />
キョンは、涼宮ハルヒを実家に送り届けていた。<br />
彼女の母が出迎えた。<br />
「ごめんなさいね。ハルヒがご迷惑をかけてしまって」<br />
「これぐらいは迷惑のうちには入りませんよ。ハルヒは大事な友人ですからね。これぐらいは当然です」<br />
「友人ね……あなたとハルヒが、それ以上の関係だったら……いや、これはいまさらいっても仕方のないことね。ごめんなさい」<br />
「すみません……」<br />
キョンは、そういうと、その場から立ち去った。<br />
<br />
<br />
<br />
一次会が終わり、古泉一樹と長門有希は連れ立って歩いていた。<br />
「これからどっかの居酒屋で二次会でもどうですか?」<br />
「あなたの配偶者に連絡をとらなくてもよいのか?」<br />
「森さんには、遅くなると予め言ってあります。涼宮さんのことですから、SOS団の四人で二次会になると予想していたものでね。その予想は外れてしまいましたが」<br />
「四人ならばともかく、あなたと私の二人だけでは、あなたの配偶者に誤解を与える可能性がある」<br />
「SOS団の仲間はみな友人です。森さんだって、それぐらいは理解してますよ」<br />
「現在発生している閉鎖空間に対応しなくてもよいのか?」<br />
「現在頻発しているのは、小規模なもので短時間で消えるタイプです。僕が出るまでもありません。涼宮さんの精神もすっかり安定してきたということですね。<br />
それはひとえに彼のおかげですよ。ですから、その結末がこんなことになってしまって、僕はやるせない思いでいっぱいです」<br />
「…………」<br />
「こんな愚痴をいえる相手は、長門さんぐらいしかいないのでね。付き合っていただけますか?」<br />
「了解した」<br />
「ありがとうございます」<br />
<br />
ここで、間をおいてから、古泉一樹はこう切り出した。<br />
<br />
「しかし、長門さんはいつも淡々としてますね。あのときもそうだった。まあ、長門さんの感情の変化を読み取れるのは、彼ぐらいですけど」<br />
「私の任務は観測だから」<br />
「こういっては何ですけど、長門さんは彼に恋愛感情を抱いたことはないのですか?」<br />
「ない」<br />
それははっきりとした断定だった。<br />
「私は生殖機能を持たない。よって、生殖本能を根源とする恋愛感情なるものを持つこともありえない」<br />
「なるほど」<br />
「私は、彼を含めてSOS団の仲間は大切な親友だと思っている。彼も私のことをそう思ってくれている。私にとってはそれで充分」<br />
<br />
<br />
<br />
涼宮ハルヒは、ベッドにつっぷしていた。<br />
実家までキョンに送られてきたことは認識していた。<br />
彼は優しい。でも、それは、友人だからであって、好きだからではない。<br />
それぐらいは、理解している。<br />
<br />
涙が出そうになるのをぐっとこらえる。<br />
<br />
フラれたときに一晩中泣きはらしたあと、もう泣かないと決意した。<br />
だから、彼女は、シーツを握り締めたまま、ただただこらえ続けていた。<br />
<br />
<br />
<br />
キョンは、自分の実家へと向かっていた。<br />
<br />
あんな姿の涼宮ハルヒを見るのは、正直いってつらい。<br />
それが自分のせいだとなれば、なおさらだった。<br />
しかし、自分にはどうすることもできない。<br />
<br />
彼女に告白されたときの自分の行動が間違っていたとは思わない。<br />
いや、それは間違っているとか正しいとかいう問題ではない。<br />
自分は、彼女のことを一番の親友だと思っていて、かつ、彼女に対して恋愛感情を全く抱いていなかった。それは厳然たる事実であって、それ以外ではありえなかった。<br />
<br />
だから、彼は、一番の親友である彼女のために祈らずにはいられなかった。<br />
<br />
彼女を幸せにしてくれる奴がいつか現れるように、と……。</p>