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Love Memory 後編」(2020/03/14 (土) 00:18:38) の最新版変更点

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<p> <br> ▼▼▼▼▼<br>  <br> 涼宮にキレられ、蹴っ飛ばされて文芸部室から放り出された俺は、行く所もなく、家に帰ることにした。<br> 突如、肩に何か軽いものが当たった感触を感じ取る。<br>  <br> 「…待って。」<br>  <br> えーと…なんてったっけ。あのSOS団の内の一人の美少女が俺の肩を掴んでいた。<br>  <br> 「長門さん…か?」<br> 「有希でもいい。」<br> 「有希?なんか馴れ馴れしくないか?」<br> 「…あなたの好きに呼んで。」<br> 「…じゃあ有希だな。それで、俺に何か用か?」<br> 「さっきの涼宮ハルヒの言動、あれは彼女が本心でやったわけではない。」<br> 「…涼宮のことか。それ、本当なのかよ。」<br> 「彼女の心は正常ではなかった。気を悪くしないで。」<br> 「有希、なんでお前そんなことが分かるんだ?」<br> 「…今は信じて。」<br>  <br> 根拠もなく信じてと言われてもなぁ…<br>  <br> 「わたしが伝えに来たのはこれだけ。」<br> 「ま、待てよ有希!」<br> 「…何?」<br> 「あれだ、朝とかさ、たまに…話に行ってもいいか?」<br> 「いい」<br> 「そうか、それじゃあな。」<br>  <br> どうして俺がこんなことを言ったのかは自分でも分からなかった。だが、俺の家へと帰る足取りは、どこか軽かった。<br>  <br>  <br> 次の日のホームルーム前、俺は早速六組に居る有希の下へと向かった。<br>  <br> 「よっ、有希。」<br> 「おはよう。」<br>  <br> 読書をしていた有希は僅かに微笑んだ。<br>  <br> 「昨日から本読んでるよな?楽しいか?」<br> 「…わりと。」<br> 「どんなところが?」<br> 「…全部。」<br> 「今度、なんか本貸してくれよ。いいだろ?」<br> 「いい」<br> 「そっか、サンキュ。…ところで、SOS団とやらに入ってるんだよな?」<br> 「そう」<br> 「今までにどんなことしてきたんだ?」<br> 「…上手く説明できない。でも、あなたは今までの活動を楽しんでいた。涼宮ハルヒ、そしてわたしたちと一緒に。」<br> 「涼宮もか…」<br> 「彼女を嫌ってはいけない。嫌わないで。」<br> 「な、なんで有希がそんなこと言うんだ?」<br> 「…分からない。でも、あなたには幸せでいてほしい。」<br>  <br> な、なんだこれは。新手の愛情表現か何かなのか…?<br>  <br> 「おっと、そろそろ時間だ。俺戻るわ。」<br> 「また、放課後に。」<br>  <br> 俺は教室へと戻った。<br> 『また、放課後に』…か。<br>  <br>  <br> 放課後、俺は足が動くままに文芸部室へ向かった。<br> ドアの前に立つと、手も自然に動いた。違和感なく、ドアをノックする。<br>  <br> 「どうぞー」<br>  <br> 朝比奈さんの声がする。ドアを開けて確認する。涼宮が居るか居ないか、ということを。<br> …ん?俺は涼宮を軽蔑してるのか?でも無理ないよな。あんな蹴りをくらわされちゃあ…でも有希が言ってたことは…<br>  <br> 「また来てくれたんですね。あの…昨日の涼宮さんの蹴りは…気にしないであげてください。」<br>  <br> あなたもその話ですか。<br>  <br> 「きっとね、本心からじゃないの。いや、絶対そうよ?」<br> 「有希も同じことを言っていましたよ。今は居ないようですが、涼宮はそんなに大切な存在なんですか?」<br> 「有希…?ああ、長門さんですね。涼宮さんは…そう、とっても大切なの。」<br> 「もしかして朝比奈さん…そっちの趣味で?」<br> 「いいえ、ち、違います!その…そういう意味じゃなくて…涼宮さんは…その…」<br> 「朝比奈さん、その話は僕から彼に話しましょう。」<br>  <br> 話に割って入ってきたのは古泉だ。ん、なんかこいつのニヤケ顔ムカつくな…<br>  <br> 「では、椅子にでも掛けて下さい。」<br> 「あ、ああ…。」<br> 「ええとですね。どこから話していいのか…、とりあえず率直に言いましょう。」<br> 「なんだ?」<br> 「長門さん、朝比奈さん、僕はそれぞれ、簡単に言うと宇宙人、未来人、超能力者なんですよ。」<br>  <br> 古泉一樹。こいつの名前を俺の辞書でひくと説明文は『ただのアホ』と表示されるだろう。<br> んなもん、信じられるか。<br>  <br>  <br> 俺は座ってて尻が痛くなるほど長々と古泉の話を聞いてやった。<br> 時間の歪みだか進化の可能性だか神だとか、もう滅茶苦茶な話をな。<br>  <br> 「最後にひとつ。この話は、絶対に涼宮さんには内緒にしておいてください。」<br> 「…ああ、分かったよ。」<br>  <br> まさに半信半疑。いや、半分とも信用してなかったわけだが、涼宮には内緒にしておこう。<br> そして奴が入ってきた。<br>  <br> 「…キョン…!」<br> 「涼宮…。」<br>  <br> …分かった。俺は明らかに涼宮を軽蔑視している。涼宮は悲しそうな顔をして奥の席に腰掛けた。<br> それから五分ほどだろうか。沈黙の時が流れた。<br>  <br> 「…キョン?ちょっと…ついてきて。」<br> 「……ああ。」<br>  <br> 俺は涼宮に連れられて学校の屋上へと向かった。何が始まるんだ?俺は殴られるのか?蹴り殺されるのか?<br>  <br> 「ええっと、昨日は…ごめんなさい。」<br>  <br> 涼宮はペコリと頭を下げた。これは予測射程距離内を大きく外れる攻撃だ。<br>  <br> 「いや、別に…俺も怒ってないからよ、いいって。」<br>  <br> 軽く返答したつもりだったんだが、涼宮は今にも泣きそうな顔を上げ、俺を見つめた。<br>  <br> 「ごめんなさい…あたしのせいで…ごめんなさいっ…」<br>  <br> あたしのせい?一体…何のことなんだ?<br>  <br> 「キョンは…崖から落ちそうになったあたしをかばってくれたの。」<br> 「…俺が?」<br>  <br> 俺がそんな勇気のいることをしたのか?…涼宮に?<br>  <br> 「だからキョンは記憶喪失になっちゃって…それで…それで…」<br>  <br> 涼宮は必死に言葉を搾り出すように話した。<br>  <br> 「崖から落ちる前にね…?あたしとキョンは、二人っきりで…蛍を見たの。」<br> 「蛍…?」<br>  <br> どんなシチュエーションなんだ?全く見当がつかない。<br>  <br> 「とてもきれいだった…そのあと、あたしとキョンは…うっ…うぅっ…」<br>  <br> 遂に涼宮は涙を垂らし始めた。な、なんなんだよ…<br>  <br> 「やっぱり…嫌だよぉっ…キョン、思い出してよ…」<br> 「思い出してって言われてもな…」<br> 「そうじゃないとあたし…もう、耐えられない…」<br> 「…涼宮…。」<br> 「…ごめんなさい。あたし、すごい我侭なこと言ってたね。じゃあ…戻ろう。」<br> 「いつも我侭なこと言ってこそお前だろ。こんな態度、似合わねぇぞ。」<br> 「…え?」<br>  <br> ん、なんだ、今の言葉は。俺が言った…んだよな?何故こんなことを…?<br>  <br> 「…そ、そうね!あたしったら何しみったれたこと言ってたのかしら!」<br>  <br> 声の音量が倍ほどになった。うむ、確かに涼宮は元気な姿の方が似合ってる。<br>  <br> 「戻りましょ!ほら、早く!」<br>  <br> 俺は涼宮に手首を掴まれ、部室の方へと引っ張られる。<br>  <br> 「いだだ!手首を掴むなって!」<br> 「それくらい、我慢してよ!」<br>  <br> それは、俺にとって初めてな経験のはずだった…でも、どこか懐かしい感じがした。<br>  <br>  <br> そして今日のSOS団の活動が終了した。みんなが帰っていく中、俺は有希を呼び止めた。<br>  <br> 「あのさ、涼宮のことで色々と聞きたいことがあるんだけど…」<br> 「くる?」<br> 「何処に?」<br> 「わたしの家。」<br>  <br> 有希から初めて誘われた。い、いやいや、俺はそんな気は…<br>  <br> 「以前のあなたは前にも何度か来たことがある。特別気にすることはない。」<br> 「そ、そうか。」<br>  <br> 俺は有希の家へと向かった。いやあ、驚いたね。こんな高級マンションに一人暮らしとは。<br> 俺は殺風景なリビングに案内され、床に腰を下ろす。<br>  <br> 「話って?」<br> 「ああ、記憶がなくなる前の俺と涼宮との関係って…何だったんだ?」<br> 「………」<br>  <br> 有希は少し困ったように考え込んでしまったようだ。そんなに難しい質問だったか?<br>  <br> 「…仲はとても良かったように見えた。それ以上でも、それ以下でも…なかっ…た。」<br>  <br> 言葉が詰まるように有希はそう言った。<br>  <br> 「…そうなのか。いやな、涼宮が今日、記憶がなくなる前に一緒に蛍を見たって…」<br> 「あなたの記憶がなくなる8分28秒前、涼宮ハルヒとあなたの心に大きな変化が観測された。」<br>  <br> 大きな変化を…観測だって?<br>  <br> 「そう。わたしの中でエラーと称される何かが、その時に起きた。」<br> 「な、何なのか分からないのか?」<br> 「…分かっているのかもしれない。でも、あくまで可能性の話。」<br> 「可能性の話だってなんだっていい。…教えてくれ。」<br> 「…あなたと涼宮ハルヒは、互いに…」<br>  <br> 互いに…?<br>  <br> 「………互いの好的感情を教えあった。」<br> 「なっ…それって、告白…ってことか?」<br> 「…可能性の話。」<br>  <br> 涼宮と俺は両思いだったってことか?…確かにそれならつじつまが…<br>  <br> 「わたしは…伝えたくなかった。」<br> 「ん?」<br> 「わたしはこのことを…あなたには伝えたくなかった。」<br> 「ど、どうしてだ?」<br> 「…分からない。エラーが発生しているせい。」<br>  <br> 有希は悲しそうな顔でうつむいた。そんな顔するなよ、有希。<br>  <br> 「で、でも…今の俺の気持ちは…有希のこと…んぐっ!?」<br>  <br> いきなり有希に口を塞がれた。<br>  <br> 「それ以上はいけない。絶対、言ってはだめ。」<br> 「ん、ん~、ん~!」<br>  <br> 俺は有希の手をよける。<br>  <br> 「なんで…どうしてだよ。」<br> 「あなたには幸せになってほしい。ただ、それだけ。」<br> 「だから俺はっ…有希、お前と!」<br> 「…もう、帰って。」<br> 「有希…!」<br> 「…っ…帰って…」<br>  <br> 有希の言葉は重く俺の胸に突き刺さった。どうしてだよ、有希!<br> その後、俺は有希にお茶を出されて一杯だけ飲んだ後、マンションを後にした。<br>  <br> 「また、明日。」<br> 「…おう。」<br>  <br> 帰り際に有希が流していた涙。透き通った、とてもきれいな色をしていた。…ちなみに明日は土曜だぜ、有希。<br>  <br>  <br>  <br> ▽▽▽▽▽<br>  <br> あたしは決意した。あの時は元気に振舞っていたけれど、やっぱり…あの日のことを思うと涙が出てくる。<br> キョンの記憶を取り戻さなきゃ。そうでないと、あたしは一生後悔する。そう悟った。<br>  <br> 土曜日。朝早く、あたしはキョンを携帯で誘った。<br>  <br> 『駅前に一時集合ねっ!いい?』<br>  <br> 頑張って誘って良かった。キョンは今日一日、付き合ってくれると言ってくれた。<br> 午後一時。あたしが着いて一分くらいしたあと、キョンが来た。<br>  <br> 「よう、涼宮。」<br> 「う、うん。じゃ行きましょ。」<br>  <br> キョンはやっぱり、名前で呼んでくれない。<br>  <br>  <br> 列車に揺られて時は午後五時。あたしたちが向かったのは、あの場所だった。<br>  <br> 「こんな田舎に、どうしたんだ?」<br> 「ちょっと、ついてきて!」<br>  <br> あたしはキョンの手首を握って向かう。あの場所に。あの…湖に。<br>  <br>  <br> 「もう…どうしてないの…!?」<br>  <br> あたしは泣きそうになっていた。だめ、泣いちゃったらキョンに格好が付かないじゃない。<br> でも、蛍が居た湖は何処へ探しても見つからなかった。<br>  <br> 「涼宮、大丈夫か?」<br> 「…っご、ごめんなさい…あたし…」<br> 「謝るなって。」<br>  <br> キョンに申し訳ない…せっかくこんな所まで連れてきたのに…どうして…<br>  <br> 「…蛍の湖か?」<br> 「えっ…?」<br> 「…探し出すぞ。絶対な。」<br> 「キョン、覚えてるの?」<br> 「さあな、そんなことは分からない。でも…お前が探してるんだろ?そこ。」<br> 「う、うん…」<br> 「じゃ、もっと探すぞ!」<br>  <br> キョンの優しさは変わらなかった。この優しさ…いつものキョンだ。<br>  <br>  <br> 夕焼けだった空もすっかり夜になっちゃって、時刻は8時を越えていた。<br>  <br> 「キョン…もう、いいよ…」<br> 「涼宮…?」<br> 「ありがとう、でも…これ以上キョンに迷惑かけられない。」<br> 「お、おい…」<br> 「本当にごめんなさい…じゃあ元来た道に…」<br>  <br> あたしが帰り道への一歩を踏み出そうとした時。<br>  <br> ――それは、繰り返された。<br>  <br> 一度、前に味わった変な実感。…あたし、また崖から落ちてるの?<br> キョンとの距離がどんどん離れていく。落ちていくあたしにキョンが手を差し伸べてくれたけど、あたしは…掴めなかった。<br>  <br> 「…ハルヒ!!」<br> 「…キョン!?」<br>  <br> キョンは崖から飛び降りて、あたしを抱きしめてくれた。だめだよ、また記憶なんか欠けちゃったら…<br> ザボォーン!!という、土の地面ではなく水面へ落ちた音。大きな水しぶきをあげて、あたしたちは水中に落ちて、助かった。<br>  <br> 「キョン…さっき、あたしのこと…」<br> 「…ハルヒ、見てみろ!」<br>  <br> あたしたちの周り一帯に、無数の蛍が自らの光を発して漂っていた。<br>  <br> 「これって…」<br> 「少し上に上っちまってたみたいだな…だけど良かった。お前の記憶が消えちまったらどうなることかと思ったよ。」<br> 「ありがとう…キョン…それで、さっきあたしのこと何て…」<br> 「前からずっとそう呼んでただろ?ハルヒ。」<br> 「キョンっ…!!!」<br>  <br> あたしは思い切りキョンに抱きついた。<br> キョンは優しくあたしを抱きしめてくれた。…そして、唇を重ねあった。何度も、何度でも。<br> それからずっとずっと…あたしとキョンは、蛍の光の中で愛の言葉を言い合った。<br>  <br> ――大好きよ、キョン。<br> ――大好きだ、ハルヒ。<br>  <br> ~Fin<br>  </p> <p><a title="Love Memory エピローグ (31m)" href= "http://www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3394.html"><font color="#333333">Love Memory エピローグ</font></a><u><font color="#666666">へ</font></u></p> <p> </p>
<p> <br /> ▼▼▼▼▼<br />  <br /> 涼宮にキレられ、蹴っ飛ばされて文芸部室から放り出された俺は、行く所もなく、家に帰ることにした。<br /> 突如、肩に何か軽いものが当たった感触を感じ取る。<br />  <br /> 「…待って。」<br />  <br /> えーと…なんてったっけ。あのSOS団の内の一人の美少女が俺の肩を掴んでいた。<br />  <br /> 「長門さん…か?」<br /> 「有希でもいい。」<br /> 「有希?なんか馴れ馴れしくないか?」<br /> 「…あなたの好きに呼んで。」<br /> 「…じゃあ有希だな。それで、俺に何か用か?」<br /> 「さっきの涼宮ハルヒの言動、あれは彼女が本心でやったわけではない。」<br /> 「…涼宮のことか。それ、本当なのかよ。」<br /> 「彼女の心は正常ではなかった。気を悪くしないで。」<br /> 「有希、なんでお前そんなことが分かるんだ?」<br /> 「…今は信じて。」<br />  <br /> 根拠もなく信じてと言われてもなぁ…<br />  <br /> 「わたしが伝えに来たのはこれだけ。」<br /> 「ま、待てよ有希!」<br /> 「…何?」<br /> 「あれだ、朝とかさ、たまに…話に行ってもいいか?」<br /> 「いい」<br /> 「そうか、それじゃあな。」<br />  <br /> どうして俺がこんなことを言ったのかは自分でも分からなかった。だが、俺の家へと帰る足取りは、どこか軽かった。<br />  <br />  <br /> 次の日のホームルーム前、俺は早速六組に居る有希の下へと向かった。<br />  <br /> 「よっ、有希。」<br /> 「おはよう。」<br />  <br /> 読書をしていた有希は僅かに微笑んだ。<br />  <br /> 「昨日から本読んでるよな?楽しいか?」<br /> 「…わりと。」<br /> 「どんなところが?」<br /> 「…全部。」<br /> 「今度、なんか本貸してくれよ。いいだろ?」<br /> 「いい」<br /> 「そっか、サンキュ。…ところで、SOS団とやらに入ってるんだよな?」<br /> 「そう」<br /> 「今までにどんなことしてきたんだ?」<br /> 「…上手く説明できない。でも、あなたは今までの活動を楽しんでいた。涼宮ハルヒ、そしてわたしたちと一緒に。」<br /> 「涼宮もか…」<br /> 「彼女を嫌ってはいけない。嫌わないで。」<br /> 「な、なんで有希がそんなこと言うんだ?」<br /> 「…分からない。でも、あなたには幸せでいてほしい。」<br />  <br /> な、なんだこれは。新手の愛情表現か何かなのか…?<br />  <br /> 「おっと、そろそろ時間だ。俺戻るわ。」<br /> 「また、放課後に。」<br />  <br /> 俺は教室へと戻った。<br /> 『また、放課後に』…か。<br />  <br />  <br /> 放課後、俺は足が動くままに文芸部室へ向かった。<br /> ドアの前に立つと、手も自然に動いた。違和感なく、ドアをノックする。<br />  <br /> 「どうぞー」<br />  <br /> 朝比奈さんの声がする。ドアを開けて確認する。涼宮が居るか居ないか、ということを。<br /> …ん?俺は涼宮を軽蔑してるのか?でも無理ないよな。あんな蹴りをくらわされちゃあ…でも有希が言ってたことは…<br />  <br /> 「また来てくれたんですね。あの…昨日の涼宮さんの蹴りは…気にしないであげてください。」<br />  <br /> あなたもその話ですか。<br />  <br /> 「きっとね、本心からじゃないの。いや、絶対そうよ?」<br /> 「有希も同じことを言っていましたよ。今は居ないようですが、涼宮はそんなに大切な存在なんですか?」<br /> 「有希…?ああ、長門さんですね。涼宮さんは…そう、とっても大切なの。」<br /> 「もしかして朝比奈さん…そっちの趣味で?」<br /> 「いいえ、ち、違います!その…そういう意味じゃなくて…涼宮さんは…その…」<br /> 「朝比奈さん、その話は僕から彼に話しましょう。」<br />  <br /> 話に割って入ってきたのは古泉だ。ん、なんかこいつのニヤケ顔ムカつくな…<br />  <br /> 「では、椅子にでも掛けて下さい。」<br /> 「あ、ああ…。」<br /> 「ええとですね。どこから話していいのか…、とりあえず率直に言いましょう。」<br /> 「なんだ?」<br /> 「長門さん、朝比奈さん、僕はそれぞれ、簡単に言うと宇宙人、未来人、超能力者なんですよ。」<br />  <br /> 古泉一樹。こいつの名前を俺の辞書でひくと説明文は『ただのアホ』と表示されるだろう。<br /> んなもん、信じられるか。<br />  <br />  <br /> 俺は座ってて尻が痛くなるほど長々と古泉の話を聞いてやった。<br /> 時間の歪みだか進化の可能性だか神だとか、もう滅茶苦茶な話をな。<br />  <br /> 「最後にひとつ。この話は、絶対に涼宮さんには内緒にしておいてください。」<br /> 「…ああ、分かったよ。」<br />  <br /> まさに半信半疑。いや、半分とも信用してなかったわけだが、涼宮には内緒にしておこう。<br /> そして奴が入ってきた。<br />  <br /> 「…キョン…!」<br /> 「涼宮…。」<br />  <br /> …分かった。俺は明らかに涼宮を軽蔑視している。涼宮は悲しそうな顔をして奥の席に腰掛けた。<br /> それから五分ほどだろうか。沈黙の時が流れた。<br />  <br /> 「…キョン?ちょっと…ついてきて。」<br /> 「……ああ。」<br />  <br /> 俺は涼宮に連れられて学校の屋上へと向かった。何が始まるんだ?俺は殴られるのか?蹴り殺されるのか?<br />  <br /> 「ええっと、昨日は…ごめんなさい。」<br />  <br /> 涼宮はペコリと頭を下げた。これは予測射程距離内を大きく外れる攻撃だ。<br />  <br /> 「いや、別に…俺も怒ってないからよ、いいって。」<br />  <br /> 軽く返答したつもりだったんだが、涼宮は今にも泣きそうな顔を上げ、俺を見つめた。<br />  <br /> 「ごめんなさい…あたしのせいで…ごめんなさいっ…」<br />  <br /> あたしのせい?一体…何のことなんだ?<br />  <br /> 「キョンは…崖から落ちそうになったあたしをかばってくれたの。」<br /> 「…俺が?」<br />  <br /> 俺がそんな勇気のいることをしたのか?…涼宮に?<br />  <br /> 「だからキョンは記憶喪失になっちゃって…それで…それで…」<br />  <br /> 涼宮は必死に言葉を搾り出すように話した。<br />  <br /> 「崖から落ちる前にね…?あたしとキョンは、二人っきりで…蛍を見たの。」<br /> 「蛍…?」<br />  <br /> どんなシチュエーションなんだ?全く見当がつかない。<br />  <br /> 「とてもきれいだった…そのあと、あたしとキョンは…うっ…うぅっ…」<br />  <br /> 遂に涼宮は涙を垂らし始めた。な、なんなんだよ…<br />  <br /> 「やっぱり…嫌だよぉっ…キョン、思い出してよ…」<br /> 「思い出してって言われてもな…」<br /> 「そうじゃないとあたし…もう、耐えられない…」<br /> 「…涼宮…。」<br /> 「…ごめんなさい。あたし、すごい我侭なこと言ってたね。じゃあ…戻ろう。」<br /> 「いつも我侭なこと言ってこそお前だろ。こんな態度、似合わねぇぞ。」<br /> 「…え?」<br />  <br /> ん、なんだ、今の言葉は。俺が言った…んだよな?何故こんなことを…?<br />  <br /> 「…そ、そうね!あたしったら何しみったれたこと言ってたのかしら!」<br />  <br /> 声の音量が倍ほどになった。うむ、確かに涼宮は元気な姿の方が似合ってる。<br />  <br /> 「戻りましょ!ほら、早く!」<br />  <br /> 俺は涼宮に手首を掴まれ、部室の方へと引っ張られる。<br />  <br /> 「いだだ!手首を掴むなって!」<br /> 「それくらい、我慢してよ!」<br />  <br /> それは、俺にとって初めてな経験のはずだった…でも、どこか懐かしい感じがした。<br />  <br />  <br /> そして今日のSOS団の活動が終了した。みんなが帰っていく中、俺は有希を呼び止めた。<br />  <br /> 「あのさ、涼宮のことで色々と聞きたいことがあるんだけど…」<br /> 「くる?」<br /> 「何処に?」<br /> 「わたしの家。」<br />  <br /> 有希から初めて誘われた。い、いやいや、俺はそんな気は…<br />  <br /> 「以前のあなたは前にも何度か来たことがある。特別気にすることはない。」<br /> 「そ、そうか。」<br />  <br /> 俺は有希の家へと向かった。いやあ、驚いたね。こんな高級マンションに一人暮らしとは。<br /> 俺は殺風景なリビングに案内され、床に腰を下ろす。<br />  <br /> 「話って?」<br /> 「ああ、記憶がなくなる前の俺と涼宮との関係って…何だったんだ?」<br /> 「………」<br />  <br /> 有希は少し困ったように考え込んでしまったようだ。そんなに難しい質問だったか?<br />  <br /> 「…仲はとても良かったように見えた。それ以上でも、それ以下でも…なかっ…た。」<br />  <br /> 言葉が詰まるように有希はそう言った。<br />  <br /> 「…そうなのか。いやな、涼宮が今日、記憶がなくなる前に一緒に蛍を見たって…」<br /> 「あなたの記憶がなくなる8分28秒前、涼宮ハルヒとあなたの心に大きな変化が観測された。」<br />  <br /> 大きな変化を…観測だって?<br />  <br /> 「そう。わたしの中でエラーと称される何かが、その時に起きた。」<br /> 「な、何なのか分からないのか?」<br /> 「…分かっているのかもしれない。でも、あくまで可能性の話。」<br /> 「可能性の話だってなんだっていい。…教えてくれ。」<br /> 「…あなたと涼宮ハルヒは、互いに…」<br />  <br /> 互いに…?<br />  <br /> 「………互いの好的感情を教えあった。」<br /> 「なっ…それって、告白…ってことか?」<br /> 「…可能性の話。」<br />  <br /> 涼宮と俺は両思いだったってことか?…確かにそれならつじつまが…<br />  <br /> 「わたしは…伝えたくなかった。」<br /> 「ん?」<br /> 「わたしはこのことを…あなたには伝えたくなかった。」<br /> 「ど、どうしてだ?」<br /> 「…分からない。エラーが発生しているせい。」<br />  <br /> 有希は悲しそうな顔でうつむいた。そんな顔するなよ、有希。<br />  <br /> 「で、でも…今の俺の気持ちは…有希のこと…んぐっ!?」<br />  <br /> いきなり有希に口を塞がれた。<br />  <br /> 「それ以上はいけない。絶対、言ってはだめ。」<br /> 「ん、ん~、ん~!」<br />  <br /> 俺は有希の手をよける。<br />  <br /> 「なんで…どうしてだよ。」<br /> 「あなたには幸せになってほしい。ただ、それだけ。」<br /> 「だから俺はっ…有希、お前と!」<br /> 「…もう、帰って。」<br /> 「有希…!」<br /> 「…っ…帰って…」<br />  <br /> 有希の言葉は重く俺の胸に突き刺さった。どうしてだよ、有希!<br /> その後、俺は有希にお茶を出されて一杯だけ飲んだ後、マンションを後にした。<br />  <br /> 「また、明日。」<br /> 「…おう。」<br />  <br /> 帰り際に有希が流していた涙。透き通った、とてもきれいな色をしていた。…ちなみに明日は土曜だぜ、有希。<br />  <br />  <br />  <br /> ▽▽▽▽▽<br />  <br /> あたしは決意した。あの時は元気に振舞っていたけれど、やっぱり…あの日のことを思うと涙が出てくる。<br /> キョンの記憶を取り戻さなきゃ。そうでないと、あたしは一生後悔する。そう悟った。<br />  <br /> 土曜日。朝早く、あたしはキョンを携帯で誘った。<br />  <br /> 『駅前に一時集合ねっ!いい?』<br />  <br /> 頑張って誘って良かった。キョンは今日一日、付き合ってくれると言ってくれた。<br /> 午後一時。あたしが着いて一分くらいしたあと、キョンが来た。<br />  <br /> 「よう、涼宮。」<br /> 「う、うん。じゃ行きましょ。」<br />  <br /> キョンはやっぱり、名前で呼んでくれない。<br />  <br />  <br /> 列車に揺られて時は午後五時。あたしたちが向かったのは、あの場所だった。<br />  <br /> 「こんな田舎に、どうしたんだ?」<br /> 「ちょっと、ついてきて!」<br />  <br /> あたしはキョンの手首を握って向かう。あの場所に。あの…湖に。<br />  <br />  <br /> 「もう…どうしてないの…!?」<br />  <br /> あたしは泣きそうになっていた。だめ、泣いちゃったらキョンに格好が付かないじゃない。<br /> でも、蛍が居た湖は何処へ探しても見つからなかった。<br />  <br /> 「涼宮、大丈夫か?」<br /> 「…っご、ごめんなさい…あたし…」<br /> 「謝るなって。」<br />  <br /> キョンに申し訳ない…せっかくこんな所まで連れてきたのに…どうして…<br />  <br /> 「…蛍の湖か?」<br /> 「えっ…?」<br /> 「…探し出すぞ。絶対な。」<br /> 「キョン、覚えてるの?」<br /> 「さあな、そんなことは分からない。でも…お前が探してるんだろ?そこ。」<br /> 「う、うん…」<br /> 「じゃ、もっと探すぞ!」<br />  <br /> キョンの優しさは変わらなかった。この優しさ…いつものキョンだ。<br />  <br />  <br /> 夕焼けだった空もすっかり夜になっちゃって、時刻は8時を越えていた。<br />  <br /> 「キョン…もう、いいよ…」<br /> 「涼宮…?」<br /> 「ありがとう、でも…これ以上キョンに迷惑かけられない。」<br /> 「お、おい…」<br /> 「本当にごめんなさい…じゃあ元来た道に…」<br />  <br /> あたしが帰り道への一歩を踏み出そうとした時。<br />  <br /> ――それは、繰り返された。<br />  <br /> 一度、前に味わった変な実感。…あたし、また崖から落ちてるの?<br /> キョンとの距離がどんどん離れていく。落ちていくあたしにキョンが手を差し伸べてくれたけど、あたしは…掴めなかった。<br />  <br /> 「…ハルヒ!!」<br /> 「…キョン!?」<br />  <br /> キョンは崖から飛び降りて、あたしを抱きしめてくれた。だめだよ、また記憶なんか欠けちゃったら…<br /> ザボォーン!!という、土の地面ではなく水面へ落ちた音。大きな水しぶきをあげて、あたしたちは水中に落ちて、助かった。<br />  <br /> 「キョン…さっき、あたしのこと…」<br /> 「…ハルヒ、見てみろ!」<br />  <br /> あたしたちの周り一帯に、無数の蛍が自らの光を発して漂っていた。<br />  <br /> 「これって…」<br /> 「少し上に上っちまってたみたいだな…だけど良かった。お前の記憶が消えちまったらどうなることかと思ったよ。」<br /> 「ありがとう…キョン…それで、さっきあたしのこと何て…」<br /> 「前からずっとそう呼んでただろ?ハルヒ。」<br /> 「キョンっ…!!!」<br />  <br /> あたしは思い切りキョンに抱きついた。<br /> キョンは優しくあたしを抱きしめてくれた。…そして、唇を重ねあった。何度も、何度でも。<br /> それからずっとずっと…あたしとキョンは、蛍の光の中で愛の言葉を言い合った。<br />  <br /> ――大好きよ、キョン。<br /> ――大好きだ、ハルヒ。<br />  <br /> ~Fin<br />  </p> <p><a href="//www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3394.html" title="Love Memory エピローグ (31m)"><font color="#333333">Love Memory エピローグ</font></a><u><font color="#666666">へ</font></u></p> <p> </p>

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