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「退屈には願いを込めて」(2007/09/08 (土) 17:24:05) の最新版変更点
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<p>==1日目==<br>
<br>
時計って眺めててもなかなか時間が進まないのね。<br>
今日、1日かけて知ったことはそれくらいだった。<br>
<br>
暇を持て余す、なんてもんじゃないわ。そんな回りくどい言い方しなくてもわかるわよ。<br>
は~ 退屈。 この二文字に尽きる。<br>
<br>
ちらっとスケジュール帳を見てみる。<br>
合宿、プール、花火、お祭り……ズラーっと並ぶ活動記録。<br>
夏休みなんてイベントしかないようなもんだから、まさかこんな日がくるなんて思ってなかったわよ。<br>
<br>
7つの空白がその後にぽっかり開いている。<br>
キョンが1週間、みくるちゃんが4日間帰省するらしいから、しばらくSOS団は活動休止。<br>
全く キョンの奴、雑用係のくせに1週間もいないだなんて由々しき問題だわっ。<br>
あ みくるちゃんはいいのよ。普段の団への貢献具合からいっても妥当な日数だと言えるわ。<br>
<br>
そうよ、こんなに退屈なのもキョンのせいだわ!これじゃ、探索にも行けないじゃない!!<br>
本来ならばSOS団は常に不思議を探しまくってなきゃいけないのよ。<br>
だいたいキョンはいつもいつも不真面目なのよ。もっと団員であることを自覚して…<br>
<br>
<br>
でも、よく考えれば キョンなんかいなくても探索はできるわよね?なんでもっと早くそれに気づかなかったのかしら!<br>
そうね 明日は不思議探索しましょっ うん 決定!<br>
ケータイ ケータイ…あった。 ん~ と コ コ…古 …… パタン<br>
やめた。だっていきなり明日集合じゃ不躾だもんね。もう 予定も入っちゃってるかもしれないし。<br>
<br>
うん 明日は1人で行こう。<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
==2日目==<br>
<br>
「ありがとうございましたー。」<br>
涼宮さんに頼まれた合宿の写真の現像を終えた僕は、久しぶりの休暇に安堵感を覚えていた。<br>
夏休みに入ってからのイベント続きには正直少し疲れましたが、涼宮さんの精神もおかげ様で良好です。<br>
閉鎖空間が発生しないことこそが、僕に取っての一番の休息になるのですから。<br>
さぁ 今日は家でゆっくり休みましょうかね…っと うわぁっ!!<br>
どうやら前方不注意だったようです。女性を転けさせてしまった。<br>
……ぃたた あ! 大丈夫ですか!?どこかお怪我は…<br>
<br>
「涼宮さんじゃないですか。」<br>
「! 古泉君?奇遇ね!!何してるの?」<br>
「僕は、先日の合宿の写真を受け取りに来たんです。涼宮さんはお一人でどうされたんですか?」<br>
「あたしは不思議探索中よ。ごめんねー 声かけようとしたんだけど、思いついたのが昨日の晩だったし、いきなりじゃ悪いかなって。」<br>
「そうでしたか。いえ お気になさらずに。」<br>
「でも 退屈じゃない?遊びまくってこそ夏休みなのに!それというのもキョンがいけないのよ!!みくるちゃんはいいんだけど…」<br>
<br>
ふふっ 他人のスケジュールを気にするなんて涼宮さんらしくない。<br>
きっと彼ならそんなこともなく呼び出されるんでしょうけどね。羨ましい限りです。<br>
休止期間の退屈さを彼に転嫁しながら、涼宮さんは息を巻いて語りだした。<br>
その時点で、僕はあることに気づいてはいたんですけどね。<br>
発言は控えさせていただきましょう。みすみす自らアルバイトに行く理由を作らなくてもよいでしょう…?<br>
その代わりに…<br>
<br>
「涼宮さん 今日はこの後のご予定は?」<br>
「んー 結構見て回ったんだけど、何も見つからないし、つまらないのよねー。そろそろ帰ろうかな。」<br>
「よろしければ少し僕につきあってくださいませんか?」<br>
「え?」<br>
「夏ももう終わりかけなのですが、まだまだ暑いですからね。新しい服を買いにいこうと思ってたんです。<br>
すみませんが涼宮さん、見繕っていただけませんか。」<br>
「え…あたしでいいの?」<br>
「よろしくお願いします。SOS団の副団長という肩書きを持つ以上、女性陣の華々しさをくすませてはいけませんから。<br>
僕が選ぶよりも、涼宮さんに見てもらえるとありがたいんです。」<br>
「そういうことなら オッケーよ!ってか 大船に乗っちゃって!まっかせなさい!!」<br>
「ありがとうございます。じゃぁ 行きましょうか。最近出来たショッピングモールがあるんですよ。」<br>
ちょっと涼宮さんをお借りしますよ?<br>
僕は家路につこうとしていた足を、街の方へと向けていった。<br>
<br>
<br>
「こんなのはどうかしら?んー でもちょっと色が変かも… あっちのほうがいいのかな…。」<br>
どんな時にも真剣な彼女は、たっぷり時間をかけて服を選んでいる。<br>
普段の朝比奈さんのコスプレ衣装なんかもこうやって誠心誠意込めて熟慮されたものなんでしょうね きっと。<br>
僕の懐具合を気にしてか、手当たり次第とってくるわけではなくて、良い物だけを選ぼうとしてくれているのには少し驚きましたが。<br>
「メンズなんて普段あんまりキチンとみてないから自信無いなー。キョンはいつもどんなの着てたかしら?なんか地味すぎて覚えてないわね……今度 キョンのも見てあげなくちゃ!<br>
あ 古泉君はあいつより背が高いからサイズはこれくらいね。それに古泉君のほうが華があるし…。古泉くーん コレとコレ着てみてくれない?」<br>
はい わかりました。<br>
僕が着替えている間もあれやこれやと悩みながら選び続けてくれいているようです。<br>
もともと、おせっかい焼き…失礼しました 面倒見の良い方だとは思っていましたがこれほどまでと思いませんでしたね。<br>
「どうでしょう?」<br>
淡い色合いで細かい柄の入ったシャツを羽織り、インナーには僕のあまり持っていないタイプの、コントラストの効いたモチーフが使われているTシャツ…<br>
全体的にくどくなく、それでいて地味になりすぎないデザインでまとめられている。<br>
「うん! 上出来よ!さすがは古泉君ねっ。何着ても映えるわー。ってこれじゃあたしのお役御免かもしれないけど。」<br>
「滅相もない。ありがとうございます。それでは 会計をすませてきます。」<br>
僕が手にした服を整えながら満足げににっこり笑う彼女を見て安心した。<br>
その後、レジの方へ遠のいていく僕には聞こえてないと思っていたんでしょうか。<br>
「次はちょっと研究してこなきゃ……ブツブツ」<br>
<br>
<br>
<br>
「そーそー ここでキョンが足滑らせちゃって大変だったのよねー!!でもすぐに有希が助けに行って。」<br>
僕たちはあの後、この喫茶店に入りさっき受け取った写真の鑑賞会をしている。<br>
2泊3日でフィルムを5本使い切りましたから、どう仕分けしようか困っていたんですが、2人で作業すると早いものです。<br>
まぁ 合間に思い出話をしだすと切りがないんですけどね。<br>
まるで1ヶ月以上合宿していたかのような…まさに思い出がいっぱいってやつです。<br>
それにしても、こんなにも嬉々として話されるとこちらまで嬉しくなってきますね。<br>
<br>
「結局、不思議なことは起こらなかったけど あぁ 古泉君の仕掛けは今回もばっちりだったわ!まさかあそこでオセロが出てくるなんて…<br>
とにかく、楽しかった!!今年一番のイベントよ。」<br>
「ええ。今度は冬、夏は来年も皆さんでご一緒に出来たらいいですね。」<br>
「もちろんよ!あー 3年間なんてあっという間ね……卒業なんてしないで、ずっとSOS団でいれればいいのに。」<br>
「そうですね。でも、卒業してからもSOS団は続けられますよ。僕も後何回分の仕掛けを考えなければいけないか、今から思案しておきますよ。」<br>
「…そうよね うん! ずっと続けてればいいんだもんね!!みんな一緒なら問題無し!」<br>
あぶないあぶない。今度は高校生活をループさせられるかと思いましたよ。<br>
SOS団はずっと続く…これがどういった未来をもたらすかわからない以上、安全は保証できないが今はコレが最善だと考えた。<br>
<br>
それにあなたがずっと一緒にいたいのは……なんていらぬ推測かもしれませんがね。<br>
"みんな" というのは、特定の誰かのことじゃないんですか?<br>
…そんなことを軽々しく聞いたりしたら自分の首を絞めることりなりそうですね。<br>
<br>
<br>
<br>
「今日は本当にありがとうございました。」<br>
「いいっていいって! あたしもなんか楽しかったし。」<br>
涼宮さんを家まで送って、簡単な挨拶をすませようとした時、ふっと憂いを帯びた表情が見えた。<br>
「どうかされましたか?」<br>
「? 何?あたしどっかおかしかった?」<br>
「いいえ、あ さっき渡し忘れてましたね。はい これが涼宮さんの分です。」<br>
さっきひとりひとりに仕分けした写真を手渡した。<br>
「ありがと。じゃぁ またね!」<br>
「はい。 次は みんな で逢いましょうね。」<br>
そう言って今度こそ家路についた。<br>
あぁ 先に謝っておきましょう。涼宮さん、 ごめんなさい。<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
ただいまぁー ふぅー。<br>
いい気分転換になった。ってこれじゃあたしもぜんぜん団活動したことになってないわね。<br>
というか……あれじゃ普通のデ…デー<br>
そ そんなことないわよね!お手伝いっ 人助け!!救済活動よ!!!<br>
……何に言い訳してんだろう。<br>
それにしても、さすがに古泉君はそつが無いていうか、女の子慣れしてたわ。<br>
普通に楽しかったもん。<br>
<br>
でも……ん 何か…… ちょっと寂しい気がする かな?<br>
<br>
<br>
やっぱりみんなで集まらないとダメね。5人揃ってこそSOS団なんだから!!<br>
うん! 次はみんなで みんなで遊びにいこう!!<br>
ったく 早く帰って来なさいよね キョンのヤツ。<br>
<br>
あ さっきもらった写真、アルバム整理しとこう。つくづくマメよねー ちゃんと自分が写ってるのわけてくれてる。<br>
……みくるちゃんが撮ったの ほとんど指入ってるわね。<br>
合宿も、もっぺん行きたいくらいだわ。<br>
今思うと、どれがおもしろかったーなんて思い出せないくらい、ずっと ハイテンションだった気がする。<br>
うん 写真もよく撮れてるわ。 ほら あたしってばこんなに笑ってる………って<br>
<br>
<br>
<br>
ん<br>
<br>
ん ん…? あ あれ? <br>
え コレって………<br>
<br>
<br>
さっきから、キョンが映ってるのばっかりあるんですけど。<br>
もちろん、あたしと一緒に撮った分はわかるんだけどね。<br>
<br>
なんか キョン1人のヤツばっかり………。<br>
<br>
これ キョンの分だった……わけないわよね。あたしの写真もいっぱいあるし。<br>
こ 古泉君?間違えただけよ ね。<br>
<br>
<br>
<br>
アルバム……どう 整理すればいいのよ。<br>
<br>
その晩、あたしは同じ写真をずっと眺めていたのでなかなか寝付けなかった。<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
==3日目==<br>
<br>
午後1時15分。涼宮ハルヒから電話がかかってきた。<br>
昨夜は寝苦しく睡眠時間が著しく不足していたため、午前中は眠ることにすべてを捧げ、午後は私との会話を求めているということらしい。<br>
内容は、この活動休止期間をひどく退屈に感じると訴えるものだった。<br>
<br>
しかし、こういう場合の相手として私が指名されたケースは今までなく……そう こんなとき涼宮ハルヒはいつも彼に連絡していたはず。<br>
この数日間、そのような行動をとった形跡は見当たらない。<br>
先ほどからの会話を統括すると、活動休止及び涼宮ハルヒ自身が感じる退屈はすべて彼に原因があるということになる。<br>
それならばなおさら涼宮ハルヒは彼に電話をかけるべき。<br>
なぜ 行動に移さないのだろう?<br>
<br>
<br>
疑問は解決出来ないまま、かれこれ1時間会話を続けている。<br>
私は聞き役に徹した。それが彼女が望む役割。私はデータ収集を続ける。<br>
<br>
彼の名前がでたのは○○回。<br>
そのうち●回が彼への文句、苦情のたぐい。あとは微量の賛美。<br>
<br>
この星の尺度で換算した解析結果では、涼宮ハルヒの彼に対する感情は、そう好意的でない物ととらえられる。<br>
しかし、ここからは私という固有単体が彼女達と直に接することで得たデータ。<br>
<br>
涼宮ハルヒは彼にただの団員に注ぐには有り余るほどの愛情を持っている。<br>
<br>
電話越しに伝わる 熱気、心拍数、感情の高ぶり、どれをとっても彼以外のことを話す時より上昇している。<br>
そのことについての彼女自身の認識力は13%程だと思われる。よって、我々の興味関心をひくような情報爆発は起こりえない。<br>
古泉一樹や朝比奈ミクルならこの状態を"平和"と呼ぶかもしれない。<br>
<br>
朝倉涼子は、 違った。<br>
これを"膠着状態"とみなし、自立行動をとった。<br>
私は………<br>
<br>
「早く帰って来て。 と、彼に伝えて。」<br>
<br>
その言葉におそらく疑問符を頭に浮かべているであろう涼宮ハルヒに別れを告げ、電話を切った。<br>
<br>
<br>
私のとった行動はエラー及び削除対象に該当するのかどうか、後で情報統合思念体に問いかけておこう。<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
え どういう意味……ツーツーツー あ あれ? 切れてる。ま いっか、ケッコー長話しちゃったし。<br>
<br>
それにしても有希ってば、キョンに何か用でもあるのかしら。あの子も退屈してるのかな?<br>
でも、それなら何であたしに言うのよ。自分でメールでもなんでもすればいいじゃない。<br>
<br>
キョンを待つ有希の姿が、一瞬思 脳裏を横切った。<br>
ちょっと……ほんの少しだけ 何でだろう……頭がイラッとする。<br>
<br>
<br>
そういえば、なぜ今まで気づかなかったのか。ケータイ。<br>
そうよ 『早く帰って来なさい!』って一言いうだけならいつだってできたはずよ。<br>
キョンならきっと帰って来てくれ……<br>
<br>
<br>
……そんなのダメ。<br>
だって、それじゃ あたしがキョンに 早く逢いたいみたい。<br>
<br>
あたしじゃないわよ。ゆ 有希がそういうんだから、しょうがないじゃない!<br>
キョンなんかいなくても、あたしはゼンゼン大丈夫だし いつも通りよ。<br>
違う?<br>
<br>
<br>
もし、有希が『帰って来て』って言えば、すぐ 帰ってくるのかな?<br>
<br>
…………。<br>
<br>
<br>
あー!!!もう わけわかんない。<br>
なんで キョンのことでこんなに悩まなくちゃいけないのよ。<br>
<br>
<br>
それもこれも みんなキョンが悪いんだから……。<br>
<br>
<br>
<br>
頭の中がいっぱいになっちゃって、 涙が出そうで また 眠れなくなった。<br>
<br>
こんなの あたしじゃない。<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
==4日目==<br>
<br>
ピンポーン。<br>
<br>
かわいいチャイムのあと、涼宮さんは間髪入れず出迎えてくれました。<br>
「いらっしゃいみくるちゃん!帰って来てたのね。」<br>
「はい 今日はおみやげを配ってるんです。ちょっと申請を間違えて賞味期限ギリギリに帰って来ちゃひゃっ な なんでもありません!」<br>
「? 立ち話もなんだしあがってあがって!」<br>
「はい、 おじゃましまぁす。」<br>
その時、私は彼女の微妙な変化にまだ気づいていなかったのです。<br>
<br>
「お茶でいい?ってもテキトーに入れたパック麦茶だけどね。」<br>
「いえいえ ありがとうございますっ。 つめた~い。」<br>
「帰省はどうだった?なんかおもしろいもんでもあった?」<br>
「そうですねぇ 久しぶりに帰ったのでいろいろこの時代とは変わってて……て あはは 何もありませんでしたよっ。」<br>
あぶない あぶない今日はキョン君がいないんだからしっかりしなきゃ!う~ ボロでそうだなぁ……。<br>
<br>
「そういえば キョン君はまだ帰省中なんですよね!いまごろ妹ちゃんたちといっぱい遊んで…涼宮さん?」<br>
カチっとまるで時を止めたかのように、一瞬 涼宮さんの動きが止まりました。表情も固くなって……<br>
「キョ キョンなんかいなくてもゼンゼン大丈夫よ!そうよ!みくるちゃんが帰って来たんだから明日にでも活動再開しましょう!」<br>
な なに慌ててるんですか!? え 話が見えません!! とにかく落ち着いて座ってください!!<br>
「え~ でもキョン君いないうちにみんなでお出かけとかしちゃうのは なんか悪い気がしますぅ。」<br>
それに涼宮さんだってそんなのつまらないでしょう?とかは逆鱗に触れちゃいそうなので黙っておきます。<br>
「なに言ってるのよ!勝手にいないキョンが悪いのよ!! キョンのせいでこんなに退屈なん だ か ……なぁ~に ニヤニヤしてるのぉ みくるちゃ~ん?」<br>
んふふふ~ だって涼宮さんったら~ それってそれって 退屈なんじゃなくてぇ うふふって<br>
あ いひゃい!いひゃっ やめふぇくだふぁいー ほ ほっぺらはなしてぇ~~!!!<br>
「そんなわけないじゃない!!な 何言ってるのよ!! あたしじゃないわよ!有希が!!」<br>
「なひゃとしゃん?……長門さん? 長門さんがどうかしたんですか。」<br>
「……有希がね。あたしに『キョンに早く帰ってこい』って伝えておけっていうのよ。自分でいいなさいよね!まったく……。」<br>
<br>
長門さんがそんなこと……?う~ん あれ?<br>
「それ…… 『涼宮さんが』ってことじゃないんですか?」<br>
再び静止する世界。このまま改変……なんてことにはならないですよね? うわ…どうしよう 古泉君ごめんなさい。<br>
<br>
「意味 わかんない。そんなの あたしがキョンに逢いたいみたいじゃない!!おかしいわよ。」<br>
「? そうですか? だって涼宮さん なんだかずっと……辛そうですよ?」<br>
<br>
「え……?」<br>
<br>
時空の歪み、自立進化の可能性、神様……それはあくまでも私たちにとっての"涼宮ハルヒ"でしかありません。<br>
でも、そんなのは彼女の持つチカラがそう呼ばせるだけであって、本当の涼宮ハルヒではないんです。<br>
ただの女の子。<br>
だからこそ、涼宮さん。あなた気づかなければいけないことがあるんです。<br>
<br>
「涼宮さん、辛いときや悲しい時はどうすればいいか知っていますか?」<br>
「そんなの 知らない。っていうか あたしは別に…!」<br>
じゃぁ なんで、泣きそうなの?<br>
「 "辛い時には大切な物のことを思い出すと気持ちが楽になる"ってある人が言っていたんです。<br>
他の物で埋めることは出来なくても涼宮さん中にある大切な物がきっと、気持ちを和らげてくれますよ。」<br>
「?大切って…… わかんない!なんなのよ もう!!」<br>
<br>
<br>
涼宮さんがわからないこと。それは、古泉君も長門さんも、もちろん私も、もうわかってるんです。<br>
そして、その解決方法も。<br>
でもみんなそれぞれ役割があるから、できることとできないことがあります。<br>
私に出来ることは、<br>
<br>
<br>
「ピノキオって知ってますか?」<br>
<br>
<br>
「……え 何? みたことあるけどそれがどうし」<br>
「もしも また寂しくなったら 思い出してください。」<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
ふぅ、ちょっとお姉さんらしいことができたかな?あとは 時におまかせします。<br>
涼宮さん、がんばって。<br>
<br>
さってと 鶴屋さんのお家におみやげもっていかなくちゃ♪<br>
ふっと空を見上げて、足取りも軽く鶴屋邸に向かって行った。<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
……なんなのよ。みくるちゃんまで、わけわかんないこといって。<br>
だいたい誰が寂しがってるって?辛くなんか無いわよ!!ただ、 ちょっと退屈なだけよ……<br>
ピノキオ……鼻がのびるのよね?<br>
なんだろう…… <br>
<br>
<br>
ん メール?<br>
サブ画面を見て顔が強ばった、気がした。有希からだ。<br>
<br>
「ウソツキ When You Wish upon a Star 」<br>
<br>
な なによこれ!? なんであたしがいきなりウソツキ呼ばわりされなきゃいけないの!!?<br>
喧嘩売ってるんじゃないでしょうね!!?<br>
だいたい有希がキョンにメッセージなんて残そうとするからいけないんじゃない!!<br>
そんなこと有希に言われ無くったって あたしが……あたしのほうが!!!<br>
<br>
<br>
<br>
あたしのほうが…… 何?<br>
<br>
<br>
「キョンに早く帰って来てほしい、って思ってるのに。」<br>
<br>
<br>
<br>
恐る恐る口に出すと、目の前がクリアになっていく感覚がした。<br>
<br>
<br>
<br>
ウソをついていた。<br>
キョンなんていなくても大丈夫<br>
<br>
気づきたくなかった。<br>
キョンに逢えなくて、寂しく感じる自分に。<br>
<br>
矛盾していた。<br>
退屈なのはキョンのせい。 自分でずっと言ってたのにね。<br>
<br>
<br>
そう、キョンのせいなんだから。<br>
……本当は、キョンがいないとつまらないって思っちゃう自分のせい。<br>
<br>
有希に嫉妬していたんだと思う。<br>
あたしが言いたくても言えなかったことをカンタンに口にすることができる。<br>
あれは、有希の言葉なんかじゃない。あたしの中にあった、言葉。<br>
<br>
でも、それを認めちゃうと……あたしが、あたしじゃないみたいでイヤだった……のかもしれない。<br>
ウソツキ、ほんと そうよね。自分のプライドのために、虚勢張っちゃって……バカみたい。<br>
<br>
<br>
メールの文字をもう一度読んでみると、有希とみくるちゃんのそれぞれの言葉の意味がわかった。<br>
あたしがどうすればいいのかも。<br>
<br>
窓を開けた、星がたくさんでていた。まるで…3年前のあの日のように。<br>
手を組み合わせて、そっと眼を閉じてて……願いを込める。<br>
<br>
昨日まで感じていたもやもやが、すーって溶けていく。<br>
<br>
<br>
<br>
目を開けると、そこには何もなかった。<br>
まっしろで、ただただ広い、空間。そして、ぽつんとたたずむあたし。<br>
「どこ……ここ?」<br>
<br>
走った。この世界に端っこなんてないって、それはなんとなくわかっていたけれど、とにかく走った。<br>
思った通り、どこにも行き着かず、疲れるだけだったけれど。<br>
そういえば前も、ゼンゼン知らない世界に行く夢をみたのよね。<br>
<br>
なぜだか、今みたいに不安になんてならなかった。<br>
その時はキョンが一緒だったから。<br>
なんだ。自分でもちゃんとわかってるじゃない。<br>
<br>
「キョンに、逢いたいなぁ……。」<br>
<br>
誰もいないんだけどね。やっぱり恥ずかしいわ、こそっとしか言えない。<br>
「え? なんだって?。」<br>
聞こえるはずの無かった声は、届いてしまった。<br>
目の前に、キョンがいた。<br>
<br>
頭の中でいっぱいになっていた姿が、かたちとなって現れている。<br>
涙まで出そうな自分が、本当にイヤになる。<br>
「ハルヒ なんでこんなところにいるんだ?どこだ ここ。」<br>
キョンの声がする。目の前にいる。腕をのばせば触れられる位置に、存在している。<br>
そんな簡単なことで泣きそうになるなんて…………。<br>
少しうつむき加減のあたしの顔を覗き込もうとする、キョンのほほに手を当て、<br>
<br>
そっと口づけた。<br>
<br>
確か、前もキョンと……そして…… うん あたしが逢いたいのは夢の中でじゃないもんね。<br>
だから、このキョンとはお別れしなくちゃ……。<br>
<br>
<br>
まっしろな世界は、キラキラ色を変えながら吸い込まれて行く。<br>
<br>
<br>
<br>
==5日目==<br>
<br>
<br>
ベッドから落ちていた。……フロイト先生も爆笑?<br>
<br>
夢ってもっとぼや~ってしてるもんじゃないの?いつもより鮮明に覚えてるわよ!う…… なんか……じんわり恥ずかしくなって来た……。<br>
夢の中とはいえあんな恥ずかしいことしちゃうなんて……。<br>
ま 前はキョンが勝手にしたのよ!あたしじゃないもん!!まぁ……やってることは一緒なんだけどね。<br>
<br>
それにしても星もケチ臭いわよね!夢って何よ。せっかくお願いしたのに、意味ないじゃない!!<br>
そりゃぁ 星は遠いってことくらい知ってるけどさー。<br>
あれじゃぁ なんか微妙な夢オチっぽくて……ヤダなぁ……。<br>
<br>
妙にぼんやりした頭を起こしながら、そんなことを考えるあたしは、やっぱり昨日までとは違っていた。<br>
ゆっくりと手をのばして取ったケータイ電話。指が自然とはじくのはアドレス帳の画面。<br>
『早く、帰って来て。』<br>
あとは、あとは送信ボタンを押すだけ……深呼吸 ふーっ<br>
なんでこんなに緊張しちゃうんだろう?いつもみたいにカンタンになんでもないように!できない?<br>
できない!ゆ……ゆびが動かない。あ あれ?え なんで……??<br>
<br>
悩むこと小1時間。考え事をしながらご飯を食べ、どこか上の空マイナス5点。<br>
部屋に帰って来ていっそのことケータイの電源を切ってみる。何も解決していないことに数分で気づく。<br>
<br>
はぁ~……思えば 今までこんなことで悩んだこと無かったのよね。<br>
ほら 気の迷いーとか病なんて言っちゃって、それなんの予防線?って自分にツッコミ入れたい気分だわ。ホント。<br>
<br>
いっそのこと電話?…………。<br>
ダメダメダメ!!!そんなの余計ムリよ!!<br>
さっきから、ケータイのボタン1個も押せてないのに、電話なんかしていきなりキョンが出て来たら!<br>
……たぶん 突然切っちゃうわね。<br>
いくらなんでもそれはちょっとダメすぎるわ……。<br>
<br>
<br>
ぐにゃぐにゃ考え込んでいたら、1日はあっという間に過ぎていった。退屈になんてなる暇がないくらいね。<br>
<br>
あーーーーーー!!!! もう イライラする!!なんでこんな こんな!!!<br>
自分にイライラするなんて初めて。いつも悪いのは周りだって思ってたから……。<br>
それなのにキョン、ううん キョンだけじゃないわ。みくるちゃんも、有希も古泉君も、あたしと一緒にいてくれたのよね。<br>
1人で何でも出来てるつもりだったけど、ゼンゼンだったんだなぁ……。<br>
<br>
……でも これは自分で考えなきゃいけないことなのよ。<br>
それに、優しくしてくれたみくるちゃん、有希もたぶんこんなあたしにヒントをくれたのよね?2人の言葉、無駄にしたくないもん。<br>
ぐだぐだ悩んだってしょうがない!……よね?涼宮ハルヒレディー GOーーーー!!!!!<br>
送信!!ポチッっとな!<br>
キョン……早く 帰って来てね……?<br>
<br>
日付が変わるギリギリまで悩んで送ったそのメールには、返事が返ってこなかった。<br>
いつもなら、ずっと待ってるんだろうけど今日はさすがに頭がオーバーヒートしちゃったみたい。<br>
おかげ様で夢も見ないくらい、ぐっすり眠れた。<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
==6日目==<br>
<br>
目が覚めるより早く手に取ったケータイの画面には、昨日と変わらず新着メールの文字は浮かんでいなかった。<br>
まぁ 昨日は遅かったしね。うん 朝起きるでしょ、んでケータイ見るでしょ、で!『ハルヒからメールが来てる どれどれ?』とか言ってみだすのよ!<br>
とかキョンの朝のお目覚めを勝手に脳内再生しながら、部屋の中で一番電波の入る窓際に移動した。<br>
<br>
…………来ないわね。<br>
どんどん膨らむ不安感…… どうしよう?やっぱりうざかったかなぁ……?<br>
だいたい家族行事なんだし、遠いとこ行ってるんだもんね。無茶なこと言っちゃった…… ちょっと後悔。<br>
だーーーーもう!!暗い!! 送っちゃったもんはしょうがないじゃない!!やってしまったことを悔やむよりこれからの行動に期待せよ!だわ!<br>
……なにやってんだろ でもこうでもしないと悪い方にばっかり考えちゃうのよね……ははっ。<br>
だいたいメールくらいすぐ返信しなさいよね!ったく乙女心がわかんないんだから!!……うぅ 怒ってるのかな?無視されてるのかな……。<br>
<br>
沈んだり、怒ったり、ちょっとドキドキしたり……1人でそんなことを繰り返しながら、そうね 今日もキョンでいっぱいになりそうだ。<br>
でも、このもやもやもゼンゼンイヤな感じがしないの。なんか、にやけてきちゃうのよ さっきから。変かな?<br>
嬉しさが込み上げてくるカンジ。何も状況は変わってないのにね。でも、ヤなことばっか考えるよりはいいと思う。<br>
それでも、何もしないで部屋ん中こもって、ただただケータイ見つめてるってのもなんか不健康よね……<br>
いつまでも返信の無いコレを労ってあげられるような広い心は持ち合わせてないしね。<br>
ちょっと 外に出て気分転換でもしてみようかな。思えばこの4日間ずっと部屋にこもりっきりだった。普段のあたしだったら考えられなかったわ こんなこと。<br>
<br>
カバンを持って靴を履いて、ドアを開けたら そこにキョンがいる。<br>
なんて安っぽい少女漫画みたいな展開とか思い浮かべちゃうくらい。かなり脳みそが浸食されていた。<br>
<br>
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「って なんでこんなとこにいるのよーーーーーー!!?」<br>
心の声じゃない。実際に叫んでいた。<br>
といっても、おとといのような真っ白な世界じゃない。ちゃんと現実世界だ。<br>
閑静な住宅街。こんな普通の表現しか出来ないくらいほんっとうに大した特徴もない、1軒家が立ち並ぶ通りだ。<br>
でも、ここはあたしにとっては普通でもなんでもない場所、別に不思議なもんが落ちてるとこでもないけどね。<br>
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そう、 ここは ……キ キョン の家の前……なのよ。<br>
!!最初から狙って来てたわけじゃないのよ!? ほんとに、ちょっと新鮮な空気が吸いたくて軽い散歩のつもりで歩いてたの!<br>
……気がついたら 切符買って電車に乗ってこんなとこまで? ふっ 語るに落ちたわね、あたしも。<br>
もしかしたらって。ほんの少しだけ期待してたんだ。キョンが帰って来てるんじゃないかなぁって。<br>
ありえないことだってわかってるんだけど、頭で考えてても収まりがつかなかった。<br>
目で見た物しか信じられない!なんてこんなことで思っちゃうのは本当にバカみたいだって自分でも呆れちゃうけど、それくらい、どうしようもないくらいあたしは……。<br>
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ふぅ 相変わらず着信は無し。で、当然キョンはここにいない。ここ何日か、無駄な時間ばっか使ってるような気がするなぁ……。<br>
まぁ ふさぎ込んでるよりはマシだったかもね。こういう時、自分の行動力に感謝したくなるわ。<br>
はぁ…… 帰ろう。 これ以上いても虚しくなるだけだし……。<br>
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「ごめんなさいね? せっかく来てもらったのに、あの子ったらどこいったのかしら?」<br>
「いいんです。突然お邪魔してすみませんでした。これ つまらないものですが……」<br>
「あら ありがとう。帰省?……あ~ だから最近あの子……。ふふっ それは本人に直接手渡せた方がいいのよね?<br>
もうすぐしたら帰ってくると思うから、あがって待ってる?」<br>
「いえ 出直してきます。それじゃ。」<br>
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初対面なのに全然そんな気がしねぇな……ってかあいつは母親似だな 確実に。<br>
特にあのいいネタ見つけたーみたいなにやっとした笑顔、そっくりだったな ヤバいヤバい。<br>
あのまま上がり込んでたら、なんでもぽんぽんしゃべっちまいそうなパワーが……あぁ 親譲り、確定だ。<br>
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カンタンにまとめた、って言っても数日分の着替えその他がはいったバッグはやっぱ重いな、をいったん家においてこよう。<br>
それで、できれば今度はあいつが1人の時に来たい。あの母親には適わない、そんな予感がするからな。<br>
げっ 電車賃ギリギリだな、しかたない一駅分くらい歩いていくか……疲れてるんだけどな。<br>
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くるっと振り返ると、そこに見慣れた顔があった。いや、正確に言えば顔はもう見過ぎってくらい見た造形なのだが、こんな表情は見たことは無かった。<br>
そいつは、数秒間の停止の後、やっと一言俺の名前を呼んだ。<br>
「キョン……? なんで こんなところにいるの?」<br>
いや なんでってお前、「なんで!?どうして!?明日帰ってくるんじゃなかったの!!?メールくらい返しなさいよバカ!!!」<br>
矢継ぎ早に繰り出される質問に、もうどうしたもんやらな。なにから答えたらいいかわからんからちょっと整理させてくれ、頼む。<br>
?メール…… なんのこと……や 睨むな ぅあ!! しまった!!!<br>
「あー すまん!実は昨日親父と喧嘩しちまってな。そのあとふて寝……寝ながら朝イチで帰ってくることしか考えてなくてな。<br>
ケータイももっては出て来たけど飛行機でオフってそのままだったんだ。忘れてた。」<br>
「そ そんなことで……心配して損したって……お父さんと喧嘩したの!?なんでよ!!」<br>
やべっ 余計なことまで言ってしまったか。<br>
「いやぁ、俺がいきなりこっちに帰るとかいいだしたからな、妹やイトコ達は機嫌悪くなるし、親父達は交通費はどうするんだとかまっとうな理由を言えとか言ってきやがって……<br>
交通費は俺の財布から出すってことで無理矢理帰って来たんだよ。」<br>
「ばっかじゃないの?お金はともかく、理由も言わないで旅行から抜けようとしたら誰だって不思議がるでしょ!?心配だってかけるし! なんでちゃんと説明しなかったのよ。」<br>
「言える訳ねぇだろ? 恥ずかしくて。」<br>
そう言ってさっきからちょっとずつ、感じ取れないくらいのスピードで距離を縮めているハルヒの肩に手を添えた。<br>
「お前に逢いにいくだなんて。」<br>
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本日2度目。驚き顔の涼宮ハルヒ。そして予想外の反応に少し面食らう俺。<br>
「な え? ど えぇ!?」<br>
言葉になってないぞ。もっと『何言ってんのよ!脳味噌わいてんじゃない?』とかきっつい状況を想定してたんだがな。<br>
どうせならもう少し落ち着いてくれ。息 吸って 吐いて、はいどうぞ!<br>
「なんで!? メール見てないっていってたじゃない!!どうして帰ってくるのよ!!」<br>
……?あぁ 確かにメールは見てない。見てないけどな、それより これ今更だけど見といたほうがいいのか?<br>
いったいなにが書かれてるのか気になってケータイをバッグから取り出そうとすると、その手を強引に掴まれ、突き戻された。<br>
「見ないで!見たら死刑なんだから!!」<br>
なら送ってくるなよ。やれやれ、閉鎖空間でのお前は幾分か素直だったぞ?<br>
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俺はあの日の夜、閉鎖空間にいた。古泉に確認したのだから間違いは無い。<br>
しかし、そこにはいるはずの神人や、構築されるべき世界はみあたらず、ただ白い空間が広がるばかりだった。<br>
古泉に言わせると、それは改変の予兆とは種類の違ったもので、どちらかというと"夢"に近い現象だったらしい。<br>
そこに俺はいた。ハルヒもいた。<br>
しかし、そのハルヒはとてもハルヒとは思えない言葉を発していた。<br>
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「キョンに、逢いたいなぁ……。」<br>
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耳を疑った。<br>
普段のハルヒなら決してそんなことは言わないだろう。だいたいその台詞にどれだけの意味が込められているんだ?<br>
もしかすると……<br>
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「え? なんだって?」<br>
そう言いながら近づいてみる。紛れも無く涼宮ハルヒ本人だった。<br>
しかし、返答はない。お前は長門か。それか幻影か?<br>
いつもと違うハルヒの態度に違和感を覚えながらも会話を続けようとしたが、いっこうに黙ったままだ。<br>
それどころか……泣きそうになっている?あのハルヒが?まさか。<br>
どうせならその顔をひとつ拝んでやるかな。うつむいたハルヒの顔を覗き込むと<br>
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ほほに、そっと手が触れた。<br>
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唇に、唇が触れた。<br>
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瞬間、真白な世界は光とともに色を変えながら吸い込まれて行った。<br>
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あれが閉鎖空間だったなんて思いたくなかった。それよりもハルヒの想いや、願望がつまっていた気がするからだ。<br>
柄にも無いがな、ロマンチックだとか思っちまったんだよ。<br>
ハルヒが俺に逢いたがっている、俺もハルヒの顔が見たい。その事実だけで十分だったんだ。<br>
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「夢でハルヒを見た、そしたら逢いたくなったんだ。それじゃ、ダメか?」<br>
掴まれた手を握り返して、ハルヒを抱き寄せた。<br>
たった5日間顔を見なかっただけで、俺がこんなにも淋しく思ってたなんて気づいてはいないだろう?<br>
楽しすぎたんだよな。毎日SOS団と一緒にいることが。 お前の隣にいることが。<br>
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「キョン 退屈だった。ずっと……キョンがいなくて。」<br>
聞き違いじゃないなら喜ばしいことだな。<br>
「寂しかった…… 悔しい。」<br>
そうだな 俺もだよ。<br>
涙を浮かべそうになるハルヒのほほに手をあげ、ポケットの中に入っていた物をハルヒの手に握らせた。<br>
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「な……に?」<br>
それは小瓶だった。中には白い砂が入っていて、振るとシャラシャラ音をならした。<br>
「星の砂。知らないか?それに願い事をすると、叶うんだってよ。妹がうれしそうに集めてて、くっだらねえなぁとか思ってたんだけどな、まぁ なんだ 恥ずかしいんだけど<br>
その……一回 願い事したんだよ。そしたら……叶ったから……だから もらってくれないか?ハルヒ。」<br>
ま お前には必要ないかもしれんがな。なんてったって自分で願いを叶えるチカラを持ってるんだから。<br>
でも、それにお前が気づかないうちは、その 星砂に願い出もかけててくれ。<br>
……さっぶいな でも 俺だってこんなんに浸りたくなるくらい寂しかったんだぞ?<br>
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「星に願いを……か。」<br>
何か言ったか?<br>
小さな声でつぶやきながら、瓶を大事そうに受け取る姿はこれ以上ないくらい可愛かった。<br>
「ね キョン!明日はどこに行く? まだまだ夏休みは残ってるわ!!今日までの分取り返すわよ!!!」<br>
おい、いきなり元気になってないか?手を離せ!どこに連れて行こうとしてんだ!!ひっぱるな!!!<br>
「まっかせといて キョン!!このあたしが!涼宮ハルヒの名にかけて 退屈になんかさせないんだから!!」<br>
夕日に向かって叫ぶな近所迷惑だ!……やれやれ。<br>
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「だから、ずっと一緒にいてね。」<br>
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=数日後=<br>
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古泉から分厚い封筒が差し出された。なんだ?金か?それ以外のもんはうけとらないぞ お前からは。<br>
「やだなぁ。 写真ですよ合宿のときの。みなさんには先にお渡ししたんですけど、あなたはいらっしゃらないと聞いていたので。<br>
それにしても、僕が聞いていたよりは早くお帰りになっていたようですけど?」<br>
言いたいことはわかるがニヤニヤするな、暑苦しい。<br>
「それじゃ、僕はこれから用事がありますのでこれで失礼します。といっても閉鎖空間ではないですけどね?<br>
いやぁ 最近はめっきりアルバイトが減ってしまって嘆かわしいことです。」<br>
嘘をつくな。そして やっぱり俺のおごりか。<br>
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封筒の中身は、嘘偽り無く写真だった。……にしては 枚数が多いな。<br>
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あぁ そうかい。<br>
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大事にいただいておくよ。<br>
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俺は、中から一枚 ハルヒのとびっきり笑顔の写真を抜き取ってアルバムに加えた。<br>
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end</p>