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「長門有希の反抗期」(2020/06/03 (水) 09:26:44) の最新版変更点
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<p>月曜日<br>
<br>
この高校に入って2回目の夏休みも、去年同様ハルヒに振り回されて終わった。<br>
まあ流石に去年みたいに延々とループさせられる、っつーことは無かったがな。<br>
この夏休みを語る上で1番話さなくてはいけないこと、それは俺とハルヒが付き合いだしたってことだ。<br>
告白したのは俺。まあなんというか、いい加減はっきりさせないといかんと思ったわけだ。<br>
SOS団のメンバーの反応は、長門はいつものようにノーリアクション、朝比奈さんは笑顔で祝福、<br>
んで古泉は「おやおや、ようやくですか」とか言って例のニヤケ顔さ。<br>
まあ結局のところ俺がハルヒに振りまわされるっつースタンスは不動のもののようで、<br>
デートと言っても不思議探索の延長みたいな雰囲気、まあ俺もそういうもんかなと思いつつ、<br>
もうちょっと恋人らしく甘々な言動があってもいいんじゃないかという希望もあるわけだ。<br>
<br>
さて、回想はこれぐらいにしようか。現在に戻ろう。<br>
夏休みは終わり、今日からまた学校が始まる。この忌々しいハイキングコースとも感動の再会だ。<br>
おー1ヶ月俺が登らなくて寂しかったかー。俺は全然寂しくなかったぞー。<br>
暦の上では秋なんだからもっと涼しくていいだろうに、8月とまったく変わらぬ日差しで俺の体力を奪う.<br>
もう学校につくころには俺のHPは半分になっていたさ。<br>
<br>
「ようハルヒ。普通ならここで久しぶりだとか言うんだろうが、まったく久しくないな。」<br>
「まったくね。まあでも部室に行くのは久々だから、それは楽しみね!」<br>
<br>
どうやらコイツの頭の中ではこれからやる始業式やHRなどは省略されてるらしい。もっとも俺もだが。<br>
よって校長先生のありがたーい話や岡部の熱血HRなどは省略させていただく。<br>
<br>
そして、放課後がやってきたわけだが、部室に行こうとする俺をハルヒが呼びとめた。<br>
<br>
「ん?どうした?ハルヒ。」<br>
「悪いけど今日、部室には行けないわ。」<br>
「珍しいな、なんでだ?」<br>
「母さんが熱中症でダウンしちゃったみたいなのよ。さっきメールが来てね。<br>
ほっとくわけにもいかないから先に帰らせてもらうわ。」<br>
「そういうことなら早く行ってやれ。みんなには俺から伝えとくさ。」<br>
「わたしがいないからってみくるちゃんや有希にちょっかい出すんじゃないわよ!」<br>
「出すか!」<br>
<br>
そしてハルヒは笑いながら走り去ってしまった。やれやれ……<br>
さてと、じゃあ部室に行くとしますかねえ。<br>
<br>
例によって朝比奈さん着替え対策としてのノックをしつつ、<br>
返事が無いので多分長門だけだろうとドアを開けたら、案の定長門だけだった。<br>
<br>
「よう、長門だけか。」<br>
<br>
と俺はあいさつをする。<br>
この場合、無反応が20%、こっち見て頷くのが40%、「そう」と短い返事をするのが40%。<br>
これは今までの長門の反応を統計的に分析しただいたいの確率だ。<br>
さーて、今日はどのパターンかな。<br>
<br>
「……うるさい。」<br>
<br>
おお、今日は短い返事のパターンか。……ってあれ?なんか今変なことを言われたような……<br>
<br>
「あの~長門さん?今なんと……?」<br>
「うるさいと言っている。本に集中できない。黙って。」<br>
<br>
この時ようやく俺は、今の異常な状態に気付いたのだ。<br>
<br>
「おい!一体どうしたんだ?……長門!」<br>
<br>
俺が長門の肩をつかむと、長門はそれを冷たく振り払った。<br>
そして本を閉じて<br>
<br>
「……帰る。」<br>
<br>
荷物をまとめて席を立ってしまった。<br>
<br>
ガチャリ<br>
<br>
丁度その時、ドアが開いて、古泉と朝比奈さんが入ってきた。出ようとした長門と丁度向かい合わせになる。<br>
<br>
「あ、長門さん、こんにちはぁ~。」<br>
「おや?帰られるのですか?」<br>
「……どいて。」<br>
「え?」<br>
<br>
長門はそのまま外に出ていってしまった。<br>
<br>
「あ、あの~今のは一体……?」<br>
「部室で何かあったんですか?」<br>
<br>
わからん。俺が部室に来た時からあんな感じだった。俺にもさっぱりだ。<br>
あんな不機嫌そうな長門は見たこと無い。<br>
<br>
コンコン<br>
<br>
と、その時だった。部室のドアがノックされたのだ。<br>
ハルヒは休みだし、長門は今さっき出ていったばかりだ。<br>
となると……<br>
<br>
「ど、どうぞ~!」<br>
<br>
朝比奈さんの声でドアが開き入ってきたのは、意外な人物だった。<br>
<br>
「喜緑さん!」<br>
「お久しぶりです。」<br>
<br>
喜緑江美里さん。俺より一個上の先輩で生徒会の書記であり、<br>
長門と同じインターフェイスだったりする宇宙人なのだ。<br>
<br>
「一体、なんのご用で?今は生徒会が関係する企画をする予定はありませんが……」<br>
「いえ、今日来たのは長門さんのことについてです。」<br>
「長門さんのこと、ですかぁ?」<br>
「ええ。今日の長門さん、少しおかしくありませんでしたか?」<br>
<br>
少しどころじゃありませんよ。あんな敵意ムキだしな長門、始めてです。<br>
<br>
「やはりそうですか……」<br>
「今長門さんに何が起こっているのですか?」<br>
「単刀直入に申し上げます。長門さんは今、『反抗期』なのです。」<br>
「「「反抗期!?」」」<br>
<br>
俺と朝比奈さんと古泉の声が見事にハモった。<br>
長門が……反抗期?<br>
<br>
「はい。多くのインターフェイスは1回はこれを経験します。原因は自我の発達。<br>
おそらく長門さんはこの夏様々な経験をして、自我が大きく成長したのでしょう。」<br>
「その反抗期というのは我々人間と同じように、時と共に直るものなのでしょうか?」<br>
「ええ、その点については問題ありません。個人差はありますが、5日程度で通常に戻るでしょう。」<br>
<br>
5日か……うん、それぐらいなら対したこと無いな。<br>
<br>
「ただし、我々インターフェイスの反抗期は、人間のそれよりも危険度が高いです。」<br>
「と言うと?」<br>
「過去、朝倉涼子が暴走しましたね?実はあの時も、彼女は反抗期だったのです。」<br>
「マジですか!」<br>
「ですから、そういう暴走を引き起こす可能性もあるかもしれないわけです。」<br>
「いや、長門に限ってそんな……」<br>
「今までの彼女とは別人のようになってしまう、それがインターフェイスの「反抗期」です。<br>
もし長門さんが限度を超える暴走をした場合、私の手で彼女の情報連結を解除しなければなりません。」<br>
「そんな……」<br>
「私としてもこれは避けたいと思っています。<br>
ですから皆さんには、長門さんが暴走しないように刺激しないで見守っていてほしいのです。<br>
これからの5日間、不快にさせてしまうこともあるかと思われます。<br>
でもこれも長門さんの成長なのです。どうか、見守ってあげてください。お願いします。」<br>
<br>
そう言うと喜緑さんは頭を下げた。<br>
……分かりましたよ喜緑さん。これがあいつの成長のためなら、俺達はそれに付き合いますよ。<br>
なあみんな?<br>
<br>
「ええ。長門さんはSOS団の大事な仲間ですから。」<br>
「ぼ、暴走なんて、させません!」<br>
「……ありがとうございます。長門さんを、よろしくお願いしますね。」<br>
<br>
喜緑さんはもう1度頭を下げた。<br>
こうして、長門反抗期ウィークが始まったわけだ。いろいろ不安だが、乗り切るしかないよな……<br>
<br>
火曜日<br>
<br>
朝、むしむしする熱さの中を坂を登って登校するあたし。<br>
流石のあたしでも、これは結構体力を削られる。<br>
やっぱり部室にもクーラーが必要よね。また電気屋さんに頼みこもうかしら。<br>
荷物運びやセッティングは全部キョンに任せちゃいましょ。<br>
<br>
校門にさしかかった時、見慣れた顔と鉢合わせになった。<br>
<br>
「有希じゃない、おはよう。」<br>
<br>
あたしはいつものようにあいさつをする。<br>
いつもの有希なら小さな声で「……おはよう。」と返してくれる。<br>
だからあたしもそういう返答を期待してたんだけど、返ってきた言葉は予想外のものだったわ。<br>
<br>
「……話しかけないで。」<br>
<br>
え?<br>
今、なんて?<br>
<br>
「ちょ……有希!」<br>
<br>
私の声にも応じず、そのまま歩き去ってしまった。一体……なんなの?<br>
もしこれがキョンとかだったらそのままケリとか食らわすとこなんだけど、<br>
相手が有希じゃそういうワケにもいかないし、する気も起きない。<br>
怒りよりむしろ混乱の方が大きかった。あの有希があんなこと言うなんて……どういうこと?<br>
<br>
パニック状態のまま、あたしは教室に着いた。<br>
既にキョンはあたしの席の前に座ってた。<br>
<br>
「ようハルヒ。今日は遅いな。」<br>
「ちょっと聞いて!さっき下駄箱で有希と会ってね……」<br>
<br>
あたしはさっき起こった出来事をキョンに説明した。<br>
でもキョンは驚く様子は無い。「やっぱりか……」みたいな表情をしてる。<br>
<br>
「驚かないわね。なんか知ってるの?」<br>
「ああ。ハルヒにも話しておこうと思ってたんだけどな、<br>
今の長門はなんていうか、ちょっとナーバスなんだ。一般的に言う『反抗期』ってヤツらしい。」<br>
「反抗期?」<br>
<br>
あの有希が反抗期……?想像もつかないわ。<br>
でもさっきの態度も反抗期だってなら説明できる。<br>
<br>
「そういうことだ。時と共に直るはずだから、俺達に出来るのは見守ってやることだけさ。」<br>
「……そうよね。それしかないわよね。無理に叱り付けても逆効果っぽいし。<br>
それにしてもあの有希が反抗期だなんて……」<br>
「確かに意外だが、俺はいいことだと思ってる。あいつは自分を出すヤツじゃなかったからな。<br>
どんな形であれ、自分を出そうとしてるのは良い傾向だ。<br>
長門なりに変わろうとしてるんだよ、きっと。」<br>
<br>
キョンの言う通りね。こいつ、あたしよりも団員のことを分かってるかも……<br>
……いいえ!そんなことないわ!団員のことを1番分かってるのは団長であるあたしなんだから!!<br>
<br>
授業を終えて、待ちに待った放課後。<br>
あたしは掃除当番だから、キョンを先に行かせる。<br>
昨日休んだから久しぶりの部室!<br>
ワクワクしながらあたしはドアを開けた。<br>
<br>
「遅れてごっめーん!……あら?有希は?」<br>
「帰っちまったよ。昨日と同じようにな。」<br>
<br>
結局、有希は帰ってしまったらしい。<br>
<br>
「まったく、しょうがないわねあの娘は。」<br>
「すいません涼宮さん、彼女の無礼、僕が代わりに……」<br>
「古泉くんが謝る必要は無いわよ!それにあたしは怒ってないわ!」<br>
<br>
あの娘が変わろうとしてるんなら、あたしもそれを応援するつもりよ<br>
だって有希も大事なSOS団の団員なんだから!<br>
<br>
「みんな!団長命令よ!有希のことを優しく見守ってあげること!!」<br>
<br>
水曜日<br>
<br>
今日は水曜日。長門さんが反抗期に突入してから今日で3日目です。<br>
幸い、言動にトゲがあるものの、これと言った事件は無くここまで来ています。<br>
このまま何事も無く反抗期が過ぎ去ってくれれば良いのですが……<br>
そう願いつつ、いつものように部室のドアを開けます。<br>
<br>
「こんにちは。おや、今日はお二人がいませんね?」<br>
<br>
部室にいるのは長門さんと朝比奈さんのお二人だけでした。<br>
元々少し長門さんが苦手なところがあった朝比奈さんです。<br>
現在の反抗期中の長門さんとの二人きりな状況、たいへん苦痛であったと思われます。<br>
現に僕がドアを開けた瞬間、彼女の顔からは安堵の色が伺えました。<br>
朝比奈さん、お疲れ様です。<br>
<br>
「こんにちは古泉くん。あの、涼宮さんとキョン君は、今日は行くところがあるからと連絡が……」<br>
「なるほど。所謂デートということでしょうか。<br>
それは非常に望ましいことですね。是非彼は彼女と仲良くなって頂きたく……」<br>
<br>
ガタァン!!!<br>
<br>
「ひぃ!?」<br>
<br>
彼と涼宮さんがいないので比較的静かな部室に突然響いた音。<br>
何事かと音のした方向を見ると、なんと長門さんが本棚を蹴っていました。<br>
……正直、かなり怖いです。<br>
長門さんを無視して朝比奈さんと会話をしたのがマズかったのでしょうか……<br>
<br>
「こ、こんにちは長門さん。今日もいい天気ですね。」<br>
「……そう。」<br>
<br>
これは朝比奈さんで無くとも精神的にキツいですね。<br>
今までのパターンから考えて、そろそろ「……帰る。」と言う頃でしょうか?<br>
<br>
「……古泉一樹。」<br>
<br>
名前を呼ばれました、さて、「……帰る。」ですかね?<br>
しかし次の一言はまったくの予想外で、僕を多いに驚かせました。<br>
<br>
「……オセロでの対戦を希望する。」<br>
<br>
……マジで、言っているのですか?<br>
<br>
<br>
そういうわけで、何故か長門さんとオセロで対決することになりました。<br>
結果……8割以上が長門さんの白で埋め尽くされるという結果に。惨敗、というヤツですね。<br>
<br>
「………」<br>
<br>
僕は彼ほど長門さんの表情を読むのが上手くはありませんが、何やら今の長門さん、不満そうに見えます。<br>
はて……何がマズかったのでしょうか。<br>
<br>
「あなたは私をバカにしている。」<br>
<br>
はい!?<br>
いえ、まったくそんなつもりは無いのですが……<br>
<br>
「あなたの知能レベルとこのゲームの熟練度を考えれば、まだこのゲームに慣れていない私に勝つのは容易。<br>
でもあなたはこれだけ負けている。つまりあなたは私に対して手加減をした可能性が高い。<br>
私が今情緒不安定な状態になっているのは自覚している。その私を気遣ったということ?<br>
バカにしないで。こんな勝ち負けで私の感情は爆発しない。あなたのやっていることは侮辱。」<br>
<br>
久々に聞きましたね、長門さんのマシンガントーク。<br>
しかし彼女の意見はかなり的外れです。僕は手加減なんてしていないし、ガチでこの弱さなのです。<br>
自分で言っていて悲しいですが、僕はこの手のゲームに弱いと自信を持って言えます。<br>
普段の彼とのゲームの様子を見ればわかるはずですが……<br>
やはり彼女は今冷静な判断力を欠いているようです。<br>
<br>
「お言葉ですが、僕は手加減したつもりはまったくありませんよ。僕は普段から……おっと失礼。」<br>
<br>
携帯電話が鳴りました。閉鎖空間のようです。<br>
やれやれ、どうやら今デート中の彼が何かやらかしたそうです。<br>
<br>
「すいません長門さん。閉鎖空間が出たようですので、僕はこれで……」<br>
「ダメ。あなたは私と次のゲームをするべき。」<br>
「いやしかし、閉鎖空間が……」<br>
「あなたがこの部屋を出ることは許さない。私とゲームをするべき。」<br>
「な、長門さぁ~ん、ゲームなら私がお付合いしますからぁ~!」<br>
「あなたではダメ。私は古泉一樹との勝負を所望している。盤は準備した。さあ……」<br>
「いい加減にしてください!」<br>
<br>
言った後、しまったと思いました。僕ともあろう者が怒鳴ってしまうとは……<br>
すぐに謝ろうと口を開きかけたところで、長門さんの様子がおかしいことに気付きました。<br>
<br>
「うっ……うっ……」<br>
<br>
なんと、あの長門さんがうずくまって泣いているのです。普段の彼女ならこんなことはありえない。<br>
しかし僕はようやく理解しました。彼女は今、感情のコントロールが出来ない状態にある。<br>
それは反発の感情だけではなく、喜びや悲しみなどの感情においても同じ。そして今は、悲しんでいる。<br>
<br>
「長門さん……」<br>
<br>
朝比奈さんも不安そうに長門さんを見ている。<br>
……仕方ありません。機関には後で罰を受けるとしますか。<br>
今の状態の彼女を放っておけるほど、僕は冷徹になれそうにはありません。<br>
<br>
「申し訳ありません長門さん。もう一勝負、お付合いしますよ。」<br>
<br>
結局、僕が勝てて解放されたのは下校時刻ギリギリでした。<br>
しかし、何故彼女はこんな状態になってしまったのでしょうか。<br>
「自我の目覚め」と喜緑さんは言っていました。ではそのトリガーとなった出来事とは……一体?<br>
<br>
<br>
<br>
木曜日<br>
<br>
今日で長門さんが反抗期に入って4日目。<br>
私は昨日と同じように長門さんと二人きりで部室に居ます。<br>
私なりに、今までの出来事を整理してみたんです。そして気付いたことがあります。<br>
<br>
「はい、長門さん、お茶です。」<br>
「……。」<br>
<br>
長門さんは特に何も言いませんでしたが、ちゃんとお茶を貰ってくれました。<br>
私は勇気を出して、長門さんに尋ねてみます。<br>
<br>
「ど、どうですか?おいしいですか?」<br>
<br>
これは私が考えていることを確かめる意味でもあるんです。<br>
すると長門さんは、口を開きました。<br>
<br>
「……割と。」<br>
<br>
やっぱり……<br>
今の返答で確信を持ちました。長門さんは、私や古泉くんに対してはあまり反発しません。<br>
昨日の出来事も、敵意を持ってやったことじゃないと思います。<br>
そして何より、昨日は帰らずに最後まで居たこと。それは、彼と涼宮さんがいなかったから……<br>
<br>
ガチャ<br>
<br>
「だから昨日は悪かったよ。」<br>
「もう怒ってないわよ。でもまた変なことしたら死刑だからね!」<br>
「へいへい。」<br>
<br>
ドアが開いて、涼宮さんとキョン君が入ってきたみたいです。<br>
会話からして、昨日閉鎖空間を発生させたいざこざは解決したみたい。良かったぁ。<br>
<br>
「……帰る。」<br>
<br>
そして長門さんは、部室を出ていってしまいました。<br>
<br>
「お、おい長門……」<br>
「有希……」<br>
<br>
そう、長門さんは明らかにこの二人を避けているんです。それも、敵意を持って。<br>
昨日長門さんが本棚を蹴った時のこと。<br>
アレは古泉くんが長門さんを無視して話をしてたから怒ったんじゃありません。<br>
話の内容に怒っていたんです。丁度あの時、二人のことを話してましたから……<br>
<br>
帰り道、長門さんを除いた4人で歩いています。<br>
今日は珍しく、涼宮さんが古泉くんと話しています。<br>
だから私は、キョンくんに話しかけることができるのです。<br>
<br>
「あの~、キョン君、お話があります。」<br>
「なんでしょう、朝比奈さんの話ならなんでも聞きますよ。」<br>
「長門さんのことなんです。」<br>
<br>
キョンくんの顔が真剣になりました。<br>
私は続けます。<br>
<br>
「昨日キョンくんと涼宮さんがいなかった日は、長門さん最後まで居たんです。<br>
ちょっとしたいざこざはあったけど、無視したりはしませんでした。<br>
でもキョンくんと涼宮さんの話を出した時だけ怒って……」<br>
「そうだったんですか……」<br>
「だから私思うんです。言いにくいけど……長門さんはキョン君と涼宮さんに敵意を持ってて、避けてます。」<br>
「俺とハルヒ限定ですか?なんでまた……」<br>
「それはきっと……」<br>
「ちょっとキョン!どこ行くつもりなのよ!」<br>
「え?」<br>
<br>
キョン君は涼宮さんに呼びとめられました。<br>
キョン君と私の帰り道は途中で別の道に分かれます。<br>
その分かれ道のとこまで来て、そのまま私の方向へ行こうとしちゃったんですね。<br>
<br>
「まったく!道忘れるぐらいみくるちゃんとの話に夢中になってたなんて!嫌らしい!」<br>
「嫌らしいってなんだお前は!お前だって古泉と……」<br>
「はいはい言い訳はこの後聞くわよ。じゃあねーみくるちゃん!古泉くん!」<br>
<br>
こうして私と古泉くん、キョンくんと涼宮さんというように別の道に別れました。<br>
<br>
「先程話していた内容、失礼ながら僕も聞き耳をたてさせて頂きました。<br>
確かに、長門さんは彼と涼宮さんを特に避けていますね。よくお気づきになりました。」<br>
「はい。でも肝心なことを言えませんでした。彼女が二人を避けて反発してる理由……」<br>
「僕には安易に想像できますが、果たして彼が気付けるかどうか……<br>
なんにせよ喜緑さんの言うことが本当ならば明日で終わりです。<br>
何事も無く終わることを祈りましょう。」<br>
「そうですね……」<br>
<br>
でも、その願いが叶うことはありませんでした。<br>
明日、長門さんはついに暴走をしてしまうのです……<br>
<br>
<br>
金曜日<br>
<br>
今日で長門が反抗期になってから5日目。喜緑さんの言うことが本当ならば、今日で最後になるはずだ。<br>
明日の不思議探索では普通に戻ってほしいと願いつつ、<br>
俺はいつものように部室へと向かう。今日はハルヒと一緒だ。<br>
<br>
「ねえ、キョン。有希のことなんだけど……」<br>
「長門がどうかしたか?」<br>
「私思うのよね。有希に避けられてるんじゃないかって……<br>
さっきも会ったんだけど、私の顔を見るなりくるりと方向変えて逃げちゃったのよ。」<br>
「この前も言ったろ。アイツは今ナーバスな状態なんだ。仕方ないさ。」<br>
「でも……」<br>
<br>
ハルヒは何か言いたげだ。<br>
まあ確かにハルヒは長門が宇宙人ってことも知らないし、短期間で直るってのも知らない。<br>
ずっとこのままこの態度だったらどうしようかと不安になるもの無理は無いだろう。<br>
かと言って俺が「明日には直るさ。」と断言するわけにもいかない。<br>
明日まで我慢してくれな、ハルヒ。<br>
<br>
ガチャ<br>
<br>
部室のドアを開けると、例のごとく小柄な宇宙人が一人で本を読んでいた。<br>
だが、俺達の顔を見ると、露骨に帰る準備を始める。<br>
<br>
「……帰る。」<br>
<br>
……まあ今日までだからな。このままごたごたも無く過ぎ去ってくれればそれでいい。<br>
長門が俺達の脇をすり抜けて部室から出ようとする。だが……<br>
<br>
「ちょっと、待ちなさい!」<br>
<br>
ハルヒが長門の肩をつかむ。お、おいハルヒ……長門は今ナーバスな状態で……<br>
<br>
「知ってるわよそんなこと!でもこのままでいいわけないでしょ!<br>
ねえ有希、なんでアンタ私達を避けてるの?言いたいことがあるなら言った方がすっきりするわよ?」<br>
<br>
まあハルヒらしいっちゃハルヒらしい言い分だ。<br>
同じ反抗期なら面と向かって反抗しろということらしい。<br>
<br>
「あ……が……くい……」<br>
<br>
長門がぼそぼそと口を開いた。え?なんだって?<br>
<br>
「有希?」<br>
「あなたが……憎い。」<br>
<br>
な、長門!?<br>
<br>
「きゃっ!!」<br>
「ハルヒ!!」<br>
<br>
ハルヒが長門に突き飛ばされた!そのまま団長机に激突してしまう。<br>
<br>
「おいハルヒ!!大丈夫か!?」<br>
<br>
……意識が無い!頭を打って気を失ってる!早く病院に……<br>
<br>
「無駄。この空間を私の情報制御空間とした。この部屋からは出られない、私が許可しない限り。」<br>
「だったらその空間を解除してくれ!このままじゃハルヒが……」<br>
「問題無い。」<br>
「問題無いわけねぇだろう!」<br>
「涼宮ハルヒは、私がここで殺すから。」<br>
「な……がと?」<br>
<br>
そう言ってナイフを取り出す長門。<br>
おい……冗談だろ?ナイフってお前……どこの朝倉だよ。<br>
<br>
「なんでハルヒを殺すんだ!SOS団の仲間じゃなかったのか!?」<br>
「涼宮ハルヒがいる限り、私とあなたが結ばれることは無い。」<br>
「長門、お前……」<br>
「私があなたを考えない日は無かった。<br>
だけどあなたは私を見てはくれない。涼宮ハルヒのせい。<br>
彼女の存在は私にとって邪魔。だから殺す、それだけ。」<br>
<br>
そうか、長門は俺のことを……<br>
なるほど、これが長門が反抗期になった原因か。ハルヒと付き合い始めたことが……<br>
俺はまったく気付いちゃいなかった。……あんだけ助けてもらっておいて。<br>
そりゃ長門だって反抗したくもなるさ。全部俺の責任だ。<br>
<br>
「長門、すまない。俺がお前の気持ちに気付いてやれなかったせいだな。」<br>
「分かってくれた?じゃあ、私と一緒に……」<br>
<br>
若干、長門の顔が輝いた……ように見えた。<br>
でも、俺はそれに答えるわけにはいかない。<br>
<br>
「それは、無理だ。」<br>
「どうして。何故私の気持ちに答えてくれない。<br>
あなたと私には信頼関係というものがあるはず。何の障害も無い。理解不能。」<br>
「こんな脅迫のような形で、俺は自分の気持ちを変えたくはない。<br>
俺はハルヒが好きだ。あいつもそれに答えてくれた。だから……」<br>
<br>
俺は長門の肩に手をおいて、言わなくてはならぬことを言った。<br>
<br>
「お前の気持ちに、答えることは出来ない。」<br>
<br>
すまない、長門。<br>
<br>
「……そう。」<br>
<br>
長門はナイフを下ろした。分かってくれたか?<br>
なにやらボソボソと呟いている。<br>
<br>
「……@@@@@@」<br>
<br>
これは……例の高速呪文!?<br>
すると、長門の手に持っていたナイフが変化していって……これは……刀か?<br>
<br>
「うおっ!」<br>
<br>
長門は俺に向かってその刀を振り上げてきた。<br>
まだ……やる気なのか?<br>
<br>
「だったら、あなたも涼宮ハルヒも殺す。」<br>
「長門!分かってくれ!お願いだ。」<br>
「うるさい。もういらない。あなたも、SOS団も……」<br>
<br>
長門が刀を振り上げる。だが、死ぬわけにはいかない!<br>
<br>
俺は振り下ろされる長門の刀を避けて、ハルヒの前に立った。<br>
<br>
「……なんのつもり?」<br>
「俺はハルヒを守らなくちゃいけない。俺だけならともかく、こいつを死なせるワケにはいかない!」<br>
「無駄なこと。この場所で二人とも死ぬ。……@@@@@」<br>
<br>
長門がまた高速呪文を唱えた。<br>
……!?足が動かない!!<br>
<br>
長門が刀を持って向かってくる。俺はハルヒを庇うように前に立った。せめてこいつだけでも……!!<br>
<br>
「……!!」<br>
<br>
思わず目をつぶってしまう。斬られるか……!<br>
<br>
でだが……痛みは来なかった。そっと目を開けると、そこには……<br>
<br>
「喜緑さん!」<br>
「すいません、遅くなりました。長門さんの情報閉鎖が強力でして……<br>
もう安心していいですよ。」<br>
<br>
微笑む喜緑さん。<br>
ひとまずは助かった。しかしここで俺は、月曜日に喜緑さんが言っていたことを思い出した<br>
<br>
<br>
『もし長門さんが限度を超える暴走をした場合、私の手で彼女の情報連結を解除しなければなりません』<br>
<br>
まさか……!<br>
喜緑さんは長門の元へと歩み寄る。<br>
<br>
「江美里……なんのつもり?」<br>
<br>
長門が刀を持ったまま尋ねる。<br>
逃げろ長門!喜緑さんはお前の情報連結を解除しようとしてるんだ!<br>
<br>
「やめてくれ!喜緑さん!!」<br>
<br>
<br>
パチン!<br>
<br>
<br>
……え?<br>
<br>
予想外の出来事に、俺は自分の目を疑った。<br>
今……なにがあった?<br>
<br>
喜緑さんが長門に……平手打ちをした?<br>
<br>
「いい加減にしなさい、長門さん。」<br>
「どいて。私は彼と涼宮ハルヒを……」<br>
「殺してどうなるんですか。あなたはそれで満足なんですか?<br>
あなたのやっていることは、オモチャが手に入らなくて泣いているダダッ子と同じです。」<br>
「……違う!」<br>
「いつまで甘ったれているのですか!彼は優しいから、今まであなたの望むようにしてくれたでしょう。<br>
でも、それに甘えてばかりじゃいけません。彼には彼の気持ちがあるんです。」<br>
「違う、違う、違う……」<br>
<br>
うわ言のように繰り返す長門。だが喜緑さんの説得は続く。<br>
<br>
「あなたは失恋したんです。今あなたに必要なのはそれを認めて、諦めることですよ。<br>
辛いですけど、これを乗り越えることで強くなれるんです。<br>
それは人でも、インターフェイスでも変わらないことですから。」<br>
「……うっ……うっ……」<br>
<br>
喜緑さんの胸に顔をうずめて泣きはじめる長門。<br>
長門の作った空間も崩壊を始めて、元通りの部室に戻った。<br>
<br>
そうだ、ハルヒは!?<br>
<br>
「すぅ……すぅ……」<br>
<br>
……寝てる。はぁ、のんきなヤツだよ。でも……良かった。<br>
<br>
「……はぁ~……」<br>
<br>
安心した俺は、そのまま床に座りこんでしまった。<br>
<br>
「ありがとうございました、喜緑さん。」<br>
「いえ、到着が遅れて申し訳ありませんでした。」<br>
「でも正直、あなたが現れてびっくりしました。長門の情報連結を解除するつもりなのかって。」<br>
「私がどの派閥に属しているかご存知ですか?」<br>
「派閥?いえ……わかりません。」<br>
「穏健派です。その名の通り、穏便に事をすますに越したことは無いのですよ。<br>
それに前にも言った通り、私個人としても長門さんを消したくはありませんでしたから。<br>
……ふふ、泣き疲れて寝てしまってますね。」<br>
<br>
長門は喜緑さんの胸の中で寝息を立てている。穏やかな顔だ。<br>
今気がかりなことを喜緑さんに尋ねてみた。<br>
<br>
「俺は……これでよかったんでしょうか?」<br>
<br>
結果的に長門をフッたことになる。<br>
でも喜緑さんは、微笑んで言った。<br>
<br>
「それは、あなた自身が1番よくわかっているはずですよ。」<br>
<br>
……そうだな。<br>
俺はハルヒを守ると決めた。そのことに後悔は無い。<br>
長門、すまないな……でもこれが俺の答えなんだ。<br>
<br>
<br>
土曜日<br>
<br>
さて今日は不思議探索の日。<br>
俺はみんなに昨日のことを話すため、集合時間より1時間早く来てくれるように頼んだ。……長門以外のな。<br>
俺が集合場所に着いた時には古泉と朝比奈さんが居たから、昨日の出来事を覚えている限り正確に伝えた。<br>
予想外な出来事で驚くかと思っていたが、<br>
どうやら二人は長門の気持ちを既に察していたらしい。<br>
ハルヒには既に昨日の帰り道で伝えてある。<br>
と言っても当然妙な空間の話とかはするわけにはいかない。<br>
だから俺がとっさに作った話では、<br>
<br>
『長門は俺に好意を抱いていて、俺とハルヒが付き合いだしたことで情緒不安定になっていた。<br>
お前に呼びとめられたことでカッとなって突き飛ばしてしまった。<br>
あの後本人もパニックになってしまったので先生に家まで送ってもらった。』<br>
<br>
というものだ。<br>
我ながらなかなかの作り話だ。実際に家まで送ったのは先生じゃなくて喜緑さんだがな。<br>
ハルヒはそれに納得すると同時に、長門に対して申し訳無い気持ちになったようだ。<br>
珍しく「私悪いことしちゃったかな……」と気落ちしていたので、こう言ってやった。<br>
<br>
「悪いと思わなくていい。俺はお前と付き合ったことに後悔してないからな。<br>
ただ、長門を責めないでやってほしい。」<br>
<br>
するとハルヒは100万ワットの笑顔を取り戻して「当然じゃないの!」と言った。<br>
ようやくいつものハルヒに戻ってくれて、俺は一安心だったってわけさ。<br>
<br>
<br>
<br>
さてそんなこんなでみんなが集まって30分ほどたった時、長門がやってきた。<br>
おや……いつもと違うところが一個ある。<br>
<br>
俺達と顔を合わせて早々、長門は頭を下げた<br>
<br>
「ごめんなさい……迷惑をかけた。」<br>
<br>
当然、ここで追い討ちかけて責めるヤツなんて、SOS団にはいないさ。<br>
長門はその後、一人一人に謝罪の言葉を述べていく。<br>
<br>
「朝比奈みくる、ごめんなさい。あなたを余計怖がらせるような真似をしてしまった。」<br>
「いいんですよぉ、気にしないでください。<br>
それに、私にも気持ち分かりますから。」<br>
「……?どういうこと?」<br>
「ふふ、禁則事項です♪」<br>
<br>
首をかしげる長門。俺もよくわからない。どういうことだろうか。<br>
<br>
「古泉一樹。ごめんなさい。あなたの任務を邪魔するようなことをしてしまった。」<br>
「構いませんよ。僕の中での優先順位は、機関よりもSOS団となっていますから。<br>
これからも遠慮せず、何でもお申しつけてくださって結構ですよ。<br>
今度は将棋で勝負などはいかがでしょうか?」<br>
「……感謝する。」<br>
<br>
いつもと同じニヤケ面で対応する古泉。まあこの方が、長門も救われるだろうさ。<br>
<br>
「涼宮ハルヒ。……ごめんなさい。私は、あなたを……」<br>
「謝るのはあたしの方よ。ごめんね有希。あなたの気持ちに気付けなくて……無神経だったわ。」<br>
「じゃあ約束してほしい。彼と一緒に幸せになって。これが今の私の望み。」<br>
「……ありがとう。分かったわ!不幸になんてさせないんだから!」<br>
<br>
二人の間にもわだかまりが出来なくてなによりだ。<br>
そして長門は……俺の前に立った。<br>
<br>
「あなたに1番迷惑をかけた……ごめんなさい。」<br>
「構わないさ。それより長門……メガネ、つけたんだな。」<br>
「そう。」<br>
<br>
いつもと違う1箇所。それは、長門がメガネをかけていたことだった。<br>
<br>
「俺は、メガネが無い方がかわいいと思うぞ?」<br>
「いい。これは……けじめ。」<br>
「そうかい。」<br>
<br>
これがきっと、こいつなりのけじめなんだろうな。俺への気持ちを忘れるための、な。<br>
<br>
「私はあなたのことを諦めた。でも、これからもSOS団の仲間として親しくしてほしい。……いい?」<br>
<br>
愚問だな。そんなの決まってるじゃないか。<br>
だから俺は笑って、こう答えてやるのさ。<br>
<br>
「当たり前だろ。こちらからもお願いするよ。これからもよろしくな、長門。」<br>
<br>
それを聞いて長門が微笑んだ……ように見えた。<br>
きっとみんなの目にも、そう写ってるはずだぜ。<br>
<br>
「……ありがとう。」<br>
<br>
<br>
……fin</p>
<p>月曜日<br />
<br />
この高校に入って2回目の夏休みも、去年同様ハルヒに振り回されて終わった。<br />
まあ流石に去年みたいに延々とループさせられる、っつーことは無かったがな。<br />
この夏休みを語る上で1番話さなくてはいけないこと、それは俺とハルヒが付き合いだしたってことだ。<br />
告白したのは俺。まあなんというか、いい加減はっきりさせないといかんと思ったわけだ。<br />
SOS団のメンバーの反応は、長門はいつものようにノーリアクション、朝比奈さんは笑顔で祝福、<br />
んで古泉は「おやおや、ようやくですか」とか言って例のニヤケ顔さ。<br />
まあ結局のところ俺がハルヒに振りまわされるっつースタンスは不動のもののようで、<br />
デートと言っても不思議探索の延長みたいな雰囲気、まあ俺もそういうもんかなと思いつつ、<br />
もうちょっと恋人らしく甘々な言動があってもいいんじゃないかという希望もあるわけだ。<br />
<br />
さて、回想はこれぐらいにしようか。現在に戻ろう。<br />
夏休みは終わり、今日からまた学校が始まる。この忌々しいハイキングコースとも感動の再会だ。<br />
おー1ヶ月俺が登らなくて寂しかったかー。俺は全然寂しくなかったぞー。<br />
暦の上では秋なんだからもっと涼しくていいだろうに、8月とまったく変わらぬ日差しで俺の体力を奪う.<br />
もう学校につくころには俺のHPは半分になっていたさ。<br />
<br />
「ようハルヒ。普通ならここで久しぶりだとか言うんだろうが、まったく久しくないな。」<br />
「まったくね。まあでも部室に行くのは久々だから、それは楽しみね!」<br />
<br />
どうやらコイツの頭の中ではこれからやる始業式やHRなどは省略されてるらしい。もっとも俺もだが。<br />
よって校長先生のありがたーい話や岡部の熱血HRなどは省略させていただく。<br />
<br />
そして、放課後がやってきたわけだが、部室に行こうとする俺をハルヒが呼びとめた。<br />
<br />
「ん?どうした?ハルヒ。」<br />
「悪いけど今日、部室には行けないわ。」<br />
「珍しいな、なんでだ?」<br />
「母さんが熱中症でダウンしちゃったみたいなのよ。さっきメールが来てね。<br />
ほっとくわけにもいかないから先に帰らせてもらうわ。」<br />
「そういうことなら早く行ってやれ。みんなには俺から伝えとくさ。」<br />
「わたしがいないからってみくるちゃんや有希にちょっかい出すんじゃないわよ!」<br />
「出すか!」<br />
<br />
そしてハルヒは笑いながら走り去ってしまった。やれやれ……<br />
さてと、じゃあ部室に行くとしますかねえ。<br />
<br />
例によって朝比奈さん着替え対策としてのノックをしつつ、<br />
返事が無いので多分長門だけだろうとドアを開けたら、案の定長門だけだった。<br />
<br />
「よう、長門だけか。」<br />
<br />
と俺はあいさつをする。<br />
この場合、無反応が20%、こっち見て頷くのが40%、「そう」と短い返事をするのが40%。<br />
これは今までの長門の反応を統計的に分析しただいたいの確率だ。<br />
さーて、今日はどのパターンかな。<br />
<br />
「……うるさい。」<br />
<br />
おお、今日は短い返事のパターンか。……ってあれ?なんか今変なことを言われたような……<br />
<br />
「あの~長門さん?今なんと……?」<br />
「うるさいと言っている。本に集中できない。黙って。」<br />
<br />
この時ようやく俺は、今の異常な状態に気付いたのだ。<br />
<br />
「おい!一体どうしたんだ?……長門!」<br />
<br />
俺が長門の肩をつかむと、長門はそれを冷たく振り払った。<br />
そして本を閉じて<br />
<br />
「……帰る。」<br />
<br />
荷物をまとめて席を立ってしまった。<br />
<br />
ガチャリ<br />
<br />
丁度その時、ドアが開いて、古泉と朝比奈さんが入ってきた。出ようとした長門と丁度向かい合わせになる。<br />
<br />
「あ、長門さん、こんにちはぁ~。」<br />
「おや?帰られるのですか?」<br />
「……どいて。」<br />
「え?」<br />
<br />
長門はそのまま外に出ていってしまった。<br />
<br />
「あ、あの~今のは一体……?」<br />
「部室で何かあったんですか?」<br />
<br />
わからん。俺が部室に来た時からあんな感じだった。俺にもさっぱりだ。<br />
あんな不機嫌そうな長門は見たこと無い。<br />
<br />
コンコン<br />
<br />
と、その時だった。部室のドアがノックされたのだ。<br />
ハルヒは休みだし、長門は今さっき出ていったばかりだ。<br />
となると……<br />
<br />
「ど、どうぞ~!」<br />
<br />
朝比奈さんの声でドアが開き入ってきたのは、意外な人物だった。<br />
<br />
「喜緑さん!」<br />
「お久しぶりです。」<br />
<br />
喜緑江美里さん。俺より一個上の先輩で生徒会の書記であり、<br />
長門と同じインターフェイスだったりする宇宙人なのだ。<br />
<br />
「一体、なんのご用で?今は生徒会が関係する企画をする予定はありませんが……」<br />
「いえ、今日来たのは長門さんのことについてです。」<br />
「長門さんのこと、ですかぁ?」<br />
「ええ。今日の長門さん、少しおかしくありませんでしたか?」<br />
<br />
少しどころじゃありませんよ。あんな敵意ムキだしな長門、始めてです。<br />
<br />
「やはりそうですか……」<br />
「今長門さんに何が起こっているのですか?」<br />
「単刀直入に申し上げます。長門さんは今、『反抗期』なのです。」<br />
「「「反抗期!?」」」<br />
<br />
俺と朝比奈さんと古泉の声が見事にハモった。<br />
長門が……反抗期?<br />
<br />
「はい。多くのインターフェイスは1回はこれを経験します。原因は自我の発達。<br />
おそらく長門さんはこの夏様々な経験をして、自我が大きく成長したのでしょう。」<br />
「その反抗期というのは我々人間と同じように、時と共に直るものなのでしょうか?」<br />
「ええ、その点については問題ありません。個人差はありますが、5日程度で通常に戻るでしょう。」<br />
<br />
5日か……うん、それぐらいなら対したこと無いな。<br />
<br />
「ただし、我々インターフェイスの反抗期は、人間のそれよりも危険度が高いです。」<br />
「と言うと?」<br />
「過去、朝倉涼子が暴走しましたね?実はあの時も、彼女は反抗期だったのです。」<br />
「マジですか!」<br />
「ですから、そういう暴走を引き起こす可能性もあるかもしれないわけです。」<br />
「いや、長門に限ってそんな……」<br />
「今までの彼女とは別人のようになってしまう、それがインターフェイスの「反抗期」です。<br />
もし長門さんが限度を超える暴走をした場合、私の手で彼女の情報連結を解除しなければなりません。」<br />
「そんな……」<br />
「私としてもこれは避けたいと思っています。<br />
ですから皆さんには、長門さんが暴走しないように刺激しないで見守っていてほしいのです。<br />
これからの5日間、不快にさせてしまうこともあるかと思われます。<br />
でもこれも長門さんの成長なのです。どうか、見守ってあげてください。お願いします。」<br />
<br />
そう言うと喜緑さんは頭を下げた。<br />
……分かりましたよ喜緑さん。これがあいつの成長のためなら、俺達はそれに付き合いますよ。<br />
なあみんな?<br />
<br />
「ええ。長門さんはSOS団の大事な仲間ですから。」<br />
「ぼ、暴走なんて、させません!」<br />
「……ありがとうございます。長門さんを、よろしくお願いしますね。」<br />
<br />
喜緑さんはもう1度頭を下げた。<br />
こうして、長門反抗期ウィークが始まったわけだ。いろいろ不安だが、乗り切るしかないよな……<br />
<br />
火曜日<br />
<br />
朝、むしむしする熱さの中を坂を登って登校するあたし。<br />
流石のあたしでも、これは結構体力を削られる。<br />
やっぱり部室にもクーラーが必要よね。また電気屋さんに頼みこもうかしら。<br />
荷物運びやセッティングは全部キョンに任せちゃいましょ。<br />
<br />
校門にさしかかった時、見慣れた顔と鉢合わせになった。<br />
<br />
「有希じゃない、おはよう。」<br />
<br />
あたしはいつものようにあいさつをする。<br />
いつもの有希なら小さな声で「……おはよう。」と返してくれる。<br />
だからあたしもそういう返答を期待してたんだけど、返ってきた言葉は予想外のものだったわ。<br />
<br />
「……話しかけないで。」<br />
<br />
え?<br />
今、なんて?<br />
<br />
「ちょ……有希!」<br />
<br />
私の声にも応じず、そのまま歩き去ってしまった。一体……なんなの?<br />
もしこれがキョンとかだったらそのままケリとか食らわすとこなんだけど、<br />
相手が有希じゃそういうワケにもいかないし、する気も起きない。<br />
怒りよりむしろ混乱の方が大きかった。あの有希があんなこと言うなんて……どういうこと?<br />
<br />
パニック状態のまま、あたしは教室に着いた。<br />
既にキョンはあたしの席の前に座ってた。<br />
<br />
「ようハルヒ。今日は遅いな。」<br />
「ちょっと聞いて!さっき下駄箱で有希と会ってね……」<br />
<br />
あたしはさっき起こった出来事をキョンに説明した。<br />
でもキョンは驚く様子は無い。「やっぱりか……」みたいな表情をしてる。<br />
<br />
「驚かないわね。なんか知ってるの?」<br />
「ああ。ハルヒにも話しておこうと思ってたんだけどな、<br />
今の長門はなんていうか、ちょっとナーバスなんだ。一般的に言う『反抗期』ってヤツらしい。」<br />
「反抗期?」<br />
<br />
あの有希が反抗期……?想像もつかないわ。<br />
でもさっきの態度も反抗期だってなら説明できる。<br />
<br />
「そういうことだ。時と共に直るはずだから、俺達に出来るのは見守ってやることだけさ。」<br />
「……そうよね。それしかないわよね。無理に叱り付けても逆効果っぽいし。<br />
それにしてもあの有希が反抗期だなんて……」<br />
「確かに意外だが、俺はいいことだと思ってる。あいつは自分を出すヤツじゃなかったからな。<br />
どんな形であれ、自分を出そうとしてるのは良い傾向だ。<br />
長門なりに変わろうとしてるんだよ、きっと。」<br />
<br />
キョンの言う通りね。こいつ、あたしよりも団員のことを分かってるかも……<br />
……いいえ!そんなことないわ!団員のことを1番分かってるのは団長であるあたしなんだから!!<br />
<br />
授業を終えて、待ちに待った放課後。<br />
あたしは掃除当番だから、キョンを先に行かせる。<br />
昨日休んだから久しぶりの部室!<br />
ワクワクしながらあたしはドアを開けた。<br />
<br />
「遅れてごっめーん!……あら?有希は?」<br />
「帰っちまったよ。昨日と同じようにな。」<br />
<br />
結局、有希は帰ってしまったらしい。<br />
<br />
「まったく、しょうがないわねあの娘は。」<br />
「すいません涼宮さん、彼女の無礼、僕が代わりに……」<br />
「古泉くんが謝る必要は無いわよ!それにあたしは怒ってないわ!」<br />
<br />
あの娘が変わろうとしてるんなら、あたしもそれを応援するつもりよ<br />
だって有希も大事なSOS団の団員なんだから!<br />
<br />
「みんな!団長命令よ!有希のことを優しく見守ってあげること!!」<br />
<br />
水曜日<br />
<br />
今日は水曜日。長門さんが反抗期に突入してから今日で3日目です。<br />
幸い、言動にトゲがあるものの、これと言った事件は無くここまで来ています。<br />
このまま何事も無く反抗期が過ぎ去ってくれれば良いのですが……<br />
そう願いつつ、いつものように部室のドアを開けます。<br />
<br />
「こんにちは。おや、今日はお二人がいませんね?」<br />
<br />
部室にいるのは長門さんと朝比奈さんのお二人だけでした。<br />
元々少し長門さんが苦手なところがあった朝比奈さんです。<br />
現在の反抗期中の長門さんとの二人きりな状況、たいへん苦痛であったと思われます。<br />
現に僕がドアを開けた瞬間、彼女の顔からは安堵の色が伺えました。<br />
朝比奈さん、お疲れ様です。<br />
<br />
「こんにちは古泉くん。あの、涼宮さんとキョン君は、今日は行くところがあるからと連絡が……」<br />
「なるほど。所謂デートということでしょうか。<br />
それは非常に望ましいことですね。是非彼は彼女と仲良くなって頂きたく……」<br />
<br />
ガタァン!!!<br />
<br />
「ひぃ!?」<br />
<br />
彼と涼宮さんがいないので比較的静かな部室に突然響いた音。<br />
何事かと音のした方向を見ると、なんと長門さんが本棚を蹴っていました。<br />
……正直、かなり怖いです。<br />
長門さんを無視して朝比奈さんと会話をしたのがマズかったのでしょうか……<br />
<br />
「こ、こんにちは長門さん。今日もいい天気ですね。」<br />
「……そう。」<br />
<br />
これは朝比奈さんで無くとも精神的にキツいですね。<br />
今までのパターンから考えて、そろそろ「……帰る。」と言う頃でしょうか?<br />
<br />
「……古泉一樹。」<br />
<br />
名前を呼ばれました、さて、「……帰る。」ですかね?<br />
しかし次の一言はまったくの予想外で、僕を多いに驚かせました。<br />
<br />
「……オセロでの対戦を希望する。」<br />
<br />
……マジで、言っているのですか?<br />
<br />
<br />
そういうわけで、何故か長門さんとオセロで対決することになりました。<br />
結果……8割以上が長門さんの白で埋め尽くされるという結果に。惨敗、というヤツですね。<br />
<br />
「………」<br />
<br />
僕は彼ほど長門さんの表情を読むのが上手くはありませんが、何やら今の長門さん、不満そうに見えます。<br />
はて……何がマズかったのでしょうか。<br />
<br />
「あなたは私をバカにしている。」<br />
<br />
はい!?<br />
いえ、まったくそんなつもりは無いのですが……<br />
<br />
「あなたの知能レベルとこのゲームの熟練度を考えれば、まだこのゲームに慣れていない私に勝つのは容易。<br />
でもあなたはこれだけ負けている。つまりあなたは私に対して手加減をした可能性が高い。<br />
私が今情緒不安定な状態になっているのは自覚している。その私を気遣ったということ?<br />
バカにしないで。こんな勝ち負けで私の感情は爆発しない。あなたのやっていることは侮辱。」<br />
<br />
久々に聞きましたね、長門さんのマシンガントーク。<br />
しかし彼女の意見はかなり的外れです。僕は手加減なんてしていないし、ガチでこの弱さなのです。<br />
自分で言っていて悲しいですが、僕はこの手のゲームに弱いと自信を持って言えます。<br />
普段の彼とのゲームの様子を見ればわかるはずですが……<br />
やはり彼女は今冷静な判断力を欠いているようです。<br />
<br />
「お言葉ですが、僕は手加減したつもりはまったくありませんよ。僕は普段から……おっと失礼。」<br />
<br />
携帯電話が鳴りました。閉鎖空間のようです。<br />
やれやれ、どうやら今デート中の彼が何かやらかしたそうです。<br />
<br />
「すいません長門さん。閉鎖空間が出たようですので、僕はこれで……」<br />
「ダメ。あなたは私と次のゲームをするべき。」<br />
「いやしかし、閉鎖空間が……」<br />
「あなたがこの部屋を出ることは許さない。私とゲームをするべき。」<br />
「な、長門さぁ~ん、ゲームなら私がお付合いしますからぁ~!」<br />
「あなたではダメ。私は古泉一樹との勝負を所望している。盤は準備した。さあ……」<br />
「いい加減にしてください!」<br />
<br />
言った後、しまったと思いました。僕ともあろう者が怒鳴ってしまうとは……<br />
すぐに謝ろうと口を開きかけたところで、長門さんの様子がおかしいことに気付きました。<br />
<br />
「うっ……うっ……」<br />
<br />
なんと、あの長門さんがうずくまって泣いているのです。普段の彼女ならこんなことはありえない。<br />
しかし僕はようやく理解しました。彼女は今、感情のコントロールが出来ない状態にある。<br />
それは反発の感情だけではなく、喜びや悲しみなどの感情においても同じ。そして今は、悲しんでいる。<br />
<br />
「長門さん……」<br />
<br />
朝比奈さんも不安そうに長門さんを見ている。<br />
……仕方ありません。機関には後で罰を受けるとしますか。<br />
今の状態の彼女を放っておけるほど、僕は冷徹になれそうにはありません。<br />
<br />
「申し訳ありません長門さん。もう一勝負、お付合いしますよ。」<br />
<br />
結局、僕が勝てて解放されたのは下校時刻ギリギリでした。<br />
しかし、何故彼女はこんな状態になってしまったのでしょうか。<br />
「自我の目覚め」と喜緑さんは言っていました。ではそのトリガーとなった出来事とは……一体?<br />
<br />
<br />
<br />
木曜日<br />
<br />
今日で長門さんが反抗期に入って4日目。<br />
私は昨日と同じように長門さんと二人きりで部室に居ます。<br />
私なりに、今までの出来事を整理してみたんです。そして気付いたことがあります。<br />
<br />
「はい、長門さん、お茶です。」<br />
「……。」<br />
<br />
長門さんは特に何も言いませんでしたが、ちゃんとお茶を貰ってくれました。<br />
私は勇気を出して、長門さんに尋ねてみます。<br />
<br />
「ど、どうですか?おいしいですか?」<br />
<br />
これは私が考えていることを確かめる意味でもあるんです。<br />
すると長門さんは、口を開きました。<br />
<br />
「……割と。」<br />
<br />
やっぱり……<br />
今の返答で確信を持ちました。長門さんは、私や古泉くんに対してはあまり反発しません。<br />
昨日の出来事も、敵意を持ってやったことじゃないと思います。<br />
そして何より、昨日は帰らずに最後まで居たこと。それは、彼と涼宮さんがいなかったから……<br />
<br />
ガチャ<br />
<br />
「だから昨日は悪かったよ。」<br />
「もう怒ってないわよ。でもまた変なことしたら死刑だからね!」<br />
「へいへい。」<br />
<br />
ドアが開いて、涼宮さんとキョン君が入ってきたみたいです。<br />
会話からして、昨日閉鎖空間を発生させたいざこざは解決したみたい。良かったぁ。<br />
<br />
「……帰る。」<br />
<br />
そして長門さんは、部室を出ていってしまいました。<br />
<br />
「お、おい長門……」<br />
「有希……」<br />
<br />
そう、長門さんは明らかにこの二人を避けているんです。それも、敵意を持って。<br />
昨日長門さんが本棚を蹴った時のこと。<br />
アレは古泉くんが長門さんを無視して話をしてたから怒ったんじゃありません。<br />
話の内容に怒っていたんです。丁度あの時、二人のことを話してましたから……<br />
<br />
帰り道、長門さんを除いた4人で歩いています。<br />
今日は珍しく、涼宮さんが古泉くんと話しています。<br />
だから私は、キョンくんに話しかけることができるのです。<br />
<br />
「あの~、キョン君、お話があります。」<br />
「なんでしょう、朝比奈さんの話ならなんでも聞きますよ。」<br />
「長門さんのことなんです。」<br />
<br />
キョンくんの顔が真剣になりました。<br />
私は続けます。<br />
<br />
「昨日キョンくんと涼宮さんがいなかった日は、長門さん最後まで居たんです。<br />
ちょっとしたいざこざはあったけど、無視したりはしませんでした。<br />
でもキョンくんと涼宮さんの話を出した時だけ怒って……」<br />
「そうだったんですか……」<br />
「だから私思うんです。言いにくいけど……長門さんはキョン君と涼宮さんに敵意を持ってて、避けてます。」<br />
「俺とハルヒ限定ですか?なんでまた……」<br />
「それはきっと……」<br />
「ちょっとキョン!どこ行くつもりなのよ!」<br />
「え?」<br />
<br />
キョン君は涼宮さんに呼びとめられました。<br />
キョン君と私の帰り道は途中で別の道に分かれます。<br />
その分かれ道のとこまで来て、そのまま私の方向へ行こうとしちゃったんですね。<br />
<br />
「まったく!道忘れるぐらいみくるちゃんとの話に夢中になってたなんて!嫌らしい!」<br />
「嫌らしいってなんだお前は!お前だって古泉と……」<br />
「はいはい言い訳はこの後聞くわよ。じゃあねーみくるちゃん!古泉くん!」<br />
<br />
こうして私と古泉くん、キョンくんと涼宮さんというように別の道に別れました。<br />
<br />
「先程話していた内容、失礼ながら僕も聞き耳をたてさせて頂きました。<br />
確かに、長門さんは彼と涼宮さんを特に避けていますね。よくお気づきになりました。」<br />
「はい。でも肝心なことを言えませんでした。彼女が二人を避けて反発してる理由……」<br />
「僕には安易に想像できますが、果たして彼が気付けるかどうか……<br />
なんにせよ喜緑さんの言うことが本当ならば明日で終わりです。<br />
何事も無く終わることを祈りましょう。」<br />
「そうですね……」<br />
<br />
でも、その願いが叶うことはありませんでした。<br />
明日、長門さんはついに暴走をしてしまうのです……<br />
<br />
<br />
金曜日<br />
<br />
今日で長門が反抗期になってから5日目。喜緑さんの言うことが本当ならば、今日で最後になるはずだ。<br />
明日の不思議探索では普通に戻ってほしいと願いつつ、<br />
俺はいつものように部室へと向かう。今日はハルヒと一緒だ。<br />
<br />
「ねえ、キョン。有希のことなんだけど……」<br />
「長門がどうかしたか?」<br />
「私思うのよね。有希に避けられてるんじゃないかって……<br />
さっきも会ったんだけど、私の顔を見るなりくるりと方向変えて逃げちゃったのよ。」<br />
「この前も言ったろ。アイツは今ナーバスな状態なんだ。仕方ないさ。」<br />
「でも……」<br />
<br />
ハルヒは何か言いたげだ。<br />
まあ確かにハルヒは長門が宇宙人ってことも知らないし、短期間で直るってのも知らない。<br />
ずっとこのままこの態度だったらどうしようかと不安になるもの無理は無いだろう。<br />
かと言って俺が「明日には直るさ。」と断言するわけにもいかない。<br />
明日まで我慢してくれな、ハルヒ。<br />
<br />
ガチャ<br />
<br />
部室のドアを開けると、例のごとく小柄な宇宙人が一人で本を読んでいた。<br />
だが、俺達の顔を見ると、露骨に帰る準備を始める。<br />
<br />
「……帰る。」<br />
<br />
……まあ今日までだからな。このままごたごたも無く過ぎ去ってくれればそれでいい。<br />
長門が俺達の脇をすり抜けて部室から出ようとする。だが……<br />
<br />
「ちょっと、待ちなさい!」<br />
<br />
ハルヒが長門の肩をつかむ。お、おいハルヒ……長門は今ナーバスな状態で……<br />
<br />
「知ってるわよそんなこと!でもこのままでいいわけないでしょ!<br />
ねえ有希、なんでアンタ私達を避けてるの?言いたいことがあるなら言った方がすっきりするわよ?」<br />
<br />
まあハルヒらしいっちゃハルヒらしい言い分だ。<br />
同じ反抗期なら面と向かって反抗しろということらしい。<br />
<br />
「あ……が……くい……」<br />
<br />
長門がぼそぼそと口を開いた。え?なんだって?<br />
<br />
「有希?」<br />
「あなたが……憎い。」<br />
<br />
な、長門!?<br />
<br />
「きゃっ!!」<br />
「ハルヒ!!」<br />
<br />
ハルヒが長門に突き飛ばされた!そのまま団長机に激突してしまう。<br />
<br />
「おいハルヒ!!大丈夫か!?」<br />
<br />
……意識が無い!頭を打って気を失ってる!早く病院に……<br />
<br />
「無駄。この空間を私の情報制御空間とした。この部屋からは出られない、私が許可しない限り。」<br />
「だったらその空間を解除してくれ!このままじゃハルヒが……」<br />
「問題無い。」<br />
「問題無いわけねぇだろう!」<br />
「涼宮ハルヒは、私がここで殺すから。」<br />
「な……がと?」<br />
<br />
そう言ってナイフを取り出す長門。<br />
おい……冗談だろ?ナイフってお前……どこの朝倉だよ。<br />
<br />
「なんでハルヒを殺すんだ!SOS団の仲間じゃなかったのか!?」<br />
「涼宮ハルヒがいる限り、私とあなたが結ばれることは無い。」<br />
「長門、お前……」<br />
「私があなたを考えない日は無かった。<br />
だけどあなたは私を見てはくれない。涼宮ハルヒのせい。<br />
彼女の存在は私にとって邪魔。だから殺す、それだけ。」<br />
<br />
そうか、長門は俺のことを……<br />
なるほど、これが長門が反抗期になった原因か。ハルヒと付き合い始めたことが……<br />
俺はまったく気付いちゃいなかった。……あんだけ助けてもらっておいて。<br />
そりゃ長門だって反抗したくもなるさ。全部俺の責任だ。<br />
<br />
「長門、すまない。俺がお前の気持ちに気付いてやれなかったせいだな。」<br />
「分かってくれた?じゃあ、私と一緒に……」<br />
<br />
若干、長門の顔が輝いた……ように見えた。<br />
でも、俺はそれに答えるわけにはいかない。<br />
<br />
「それは、無理だ。」<br />
「どうして。何故私の気持ちに答えてくれない。<br />
あなたと私には信頼関係というものがあるはず。何の障害も無い。理解不能。」<br />
「こんな脅迫のような形で、俺は自分の気持ちを変えたくはない。<br />
俺はハルヒが好きだ。あいつもそれに答えてくれた。だから……」<br />
<br />
俺は長門の肩に手をおいて、言わなくてはならぬことを言った。<br />
<br />
「お前の気持ちに、答えることは出来ない。」<br />
<br />
すまない、長門。<br />
<br />
「……そう。」<br />
<br />
長門はナイフを下ろした。分かってくれたか?<br />
なにやらボソボソと呟いている。<br />
<br />
「……@@@@@@」<br />
<br />
これは……例の高速呪文!?<br />
すると、長門の手に持っていたナイフが変化していって……これは……刀か?<br />
<br />
「うおっ!」<br />
<br />
長門は俺に向かってその刀を振り上げてきた。<br />
まだ……やる気なのか?<br />
<br />
「だったら、あなたも涼宮ハルヒも殺す。」<br />
「長門!分かってくれ!お願いだ。」<br />
「うるさい。もういらない。あなたも、SOS団も……」<br />
<br />
長門が刀を振り上げる。だが、死ぬわけにはいかない!<br />
<br />
俺は振り下ろされる長門の刀を避けて、ハルヒの前に立った。<br />
<br />
「……なんのつもり?」<br />
「俺はハルヒを守らなくちゃいけない。俺だけならともかく、こいつを死なせるワケにはいかない!」<br />
「無駄なこと。この場所で二人とも死ぬ。……@@@@@」<br />
<br />
長門がまた高速呪文を唱えた。<br />
……!?足が動かない!!<br />
<br />
長門が刀を持って向かってくる。俺はハルヒを庇うように前に立った。せめてこいつだけでも……!!<br />
<br />
「……!!」<br />
<br />
思わず目をつぶってしまう。斬られるか……!<br />
<br />
でだが……痛みは来なかった。そっと目を開けると、そこには……<br />
<br />
「喜緑さん!」<br />
「すいません、遅くなりました。長門さんの情報閉鎖が強力でして……<br />
もう安心していいですよ。」<br />
<br />
微笑む喜緑さん。<br />
ひとまずは助かった。しかしここで俺は、月曜日に喜緑さんが言っていたことを思い出した<br />
<br />
<br />
『もし長門さんが限度を超える暴走をした場合、私の手で彼女の情報連結を解除しなければなりません』<br />
<br />
まさか……!<br />
喜緑さんは長門の元へと歩み寄る。<br />
<br />
「江美里……なんのつもり?」<br />
<br />
長門が刀を持ったまま尋ねる。<br />
逃げろ長門!喜緑さんはお前の情報連結を解除しようとしてるんだ!<br />
<br />
「やめてくれ!喜緑さん!!」<br />
<br />
<br />
パチン!<br />
<br />
<br />
……え?<br />
<br />
予想外の出来事に、俺は自分の目を疑った。<br />
今……なにがあった?<br />
<br />
喜緑さんが長門に……平手打ちをした?<br />
<br />
「いい加減にしなさい、長門さん。」<br />
「どいて。私は彼と涼宮ハルヒを……」<br />
「殺してどうなるんですか。あなたはそれで満足なんですか?<br />
あなたのやっていることは、オモチャが手に入らなくて泣いているダダッ子と同じです。」<br />
「……違う!」<br />
「いつまで甘ったれているのですか!彼は優しいから、今まであなたの望むようにしてくれたでしょう。<br />
でも、それに甘えてばかりじゃいけません。彼には彼の気持ちがあるんです。」<br />
「違う、違う、違う……」<br />
<br />
うわ言のように繰り返す長門。だが喜緑さんの説得は続く。<br />
<br />
「あなたは失恋したんです。今あなたに必要なのはそれを認めて、諦めることですよ。<br />
辛いですけど、これを乗り越えることで強くなれるんです。<br />
それは人でも、インターフェイスでも変わらないことですから。」<br />
「……うっ……うっ……」<br />
<br />
喜緑さんの胸に顔をうずめて泣きはじめる長門。<br />
長門の作った空間も崩壊を始めて、元通りの部室に戻った。<br />
<br />
そうだ、ハルヒは!?<br />
<br />
「すぅ……すぅ……」<br />
<br />
……寝てる。はぁ、のんきなヤツだよ。でも……良かった。<br />
<br />
「……はぁ~……」<br />
<br />
安心した俺は、そのまま床に座りこんでしまった。<br />
<br />
「ありがとうございました、喜緑さん。」<br />
「いえ、到着が遅れて申し訳ありませんでした。」<br />
「でも正直、あなたが現れてびっくりしました。長門の情報連結を解除するつもりなのかって。」<br />
「私がどの派閥に属しているかご存知ですか?」<br />
「派閥?いえ……わかりません。」<br />
「穏健派です。その名の通り、穏便に事をすますに越したことは無いのですよ。<br />
それに前にも言った通り、私個人としても長門さんを消したくはありませんでしたから。<br />
……ふふ、泣き疲れて寝てしまってますね。」<br />
<br />
長門は喜緑さんの胸の中で寝息を立てている。穏やかな顔だ。<br />
今気がかりなことを喜緑さんに尋ねてみた。<br />
<br />
「俺は……これでよかったんでしょうか?」<br />
<br />
結果的に長門をフッたことになる。<br />
でも喜緑さんは、微笑んで言った。<br />
<br />
「それは、あなた自身が1番よくわかっているはずですよ。」<br />
<br />
……そうだな。<br />
俺はハルヒを守ると決めた。そのことに後悔は無い。<br />
長門、すまないな……でもこれが俺の答えなんだ。<br />
<br />
<br />
土曜日<br />
<br />
さて今日は不思議探索の日。<br />
俺はみんなに昨日のことを話すため、集合時間より1時間早く来てくれるように頼んだ。……長門以外のな。<br />
俺が集合場所に着いた時には古泉と朝比奈さんが居たから、昨日の出来事を覚えている限り正確に伝えた。<br />
予想外な出来事で驚くかと思っていたが、<br />
どうやら二人は長門の気持ちを既に察していたらしい。<br />
ハルヒには既に昨日の帰り道で伝えてある。<br />
と言っても当然妙な空間の話とかはするわけにはいかない。<br />
だから俺がとっさに作った話では、<br />
<br />
『長門は俺に好意を抱いていて、俺とハルヒが付き合いだしたことで情緒不安定になっていた。<br />
お前に呼びとめられたことでカッとなって突き飛ばしてしまった。<br />
あの後本人もパニックになってしまったので先生に家まで送ってもらった。』<br />
<br />
というものだ。<br />
我ながらなかなかの作り話だ。実際に家まで送ったのは先生じゃなくて喜緑さんだがな。<br />
ハルヒはそれに納得すると同時に、長門に対して申し訳無い気持ちになったようだ。<br />
珍しく「私悪いことしちゃったかな……」と気落ちしていたので、こう言ってやった。<br />
<br />
「悪いと思わなくていい。俺はお前と付き合ったことに後悔してないからな。<br />
ただ、長門を責めないでやってほしい。」<br />
<br />
するとハルヒは100万ワットの笑顔を取り戻して「当然じゃないの!」と言った。<br />
ようやくいつものハルヒに戻ってくれて、俺は一安心だったってわけさ。<br />
<br />
<br />
<br />
さてそんなこんなでみんなが集まって30分ほどたった時、長門がやってきた。<br />
おや……いつもと違うところが一個ある。<br />
<br />
俺達と顔を合わせて早々、長門は頭を下げた<br />
<br />
「ごめんなさい……迷惑をかけた。」<br />
<br />
当然、ここで追い討ちかけて責めるヤツなんて、SOS団にはいないさ。<br />
長門はその後、一人一人に謝罪の言葉を述べていく。<br />
<br />
「朝比奈みくる、ごめんなさい。あなたを余計怖がらせるような真似をしてしまった。」<br />
「いいんですよぉ、気にしないでください。<br />
それに、私にも気持ち分かりますから。」<br />
「……?どういうこと?」<br />
「ふふ、禁則事項です♪」<br />
<br />
首をかしげる長門。俺もよくわからない。どういうことだろうか。<br />
<br />
「古泉一樹。ごめんなさい。あなたの任務を邪魔するようなことをしてしまった。」<br />
「構いませんよ。僕の中での優先順位は、機関よりもSOS団となっていますから。<br />
これからも遠慮せず、何でもお申しつけてくださって結構ですよ。<br />
今度は将棋で勝負などはいかがでしょうか?」<br />
「……感謝する。」<br />
<br />
いつもと同じニヤケ面で対応する古泉。まあこの方が、長門も救われるだろうさ。<br />
<br />
「涼宮ハルヒ。……ごめんなさい。私は、あなたを……」<br />
「謝るのはあたしの方よ。ごめんね有希。あなたの気持ちに気付けなくて……無神経だったわ。」<br />
「じゃあ約束してほしい。彼と一緒に幸せになって。これが今の私の望み。」<br />
「……ありがとう。分かったわ!不幸になんてさせないんだから!」<br />
<br />
二人の間にもわだかまりが出来なくてなによりだ。<br />
そして長門は……俺の前に立った。<br />
<br />
「あなたに1番迷惑をかけた……ごめんなさい。」<br />
「構わないさ。それより長門……メガネ、つけたんだな。」<br />
「そう。」<br />
<br />
いつもと違う1箇所。それは、長門がメガネをかけていたことだった。<br />
<br />
「俺は、メガネが無い方がかわいいと思うぞ?」<br />
「いい。これは……けじめ。」<br />
「そうかい。」<br />
<br />
これがきっと、こいつなりのけじめなんだろうな。俺への気持ちを忘れるための、な。<br />
<br />
「私はあなたのことを諦めた。でも、これからもSOS団の仲間として親しくしてほしい。……いい?」<br />
<br />
愚問だな。そんなの決まってるじゃないか。<br />
だから俺は笑って、こう答えてやるのさ。<br />
<br />
「当たり前だろ。こちらからもお願いするよ。これからもよろしくな、長門。」<br />
<br />
それを聞いて長門が微笑んだ……ように見えた。<br />
きっとみんなの目にも、そう写ってるはずだぜ。<br />
<br />
「……ありがとう。」<br />
<br />
<br />
……fin</p>