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涼宮ハルヒの胸中」(2007/09/08 (土) 01:27:54) の最新版変更点

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<p>『想っている人との距離が縮まりそう―』<br> そんな朝の情報番組の占い結果を気にしつつ、校舎までの坂道を歩く。見慣れた風景だ。教室に入ると俺の後ろの席のハルヒに挨拶をするのがもう習慣になっているのだがどうも様子がおかしい。窓から空を眺めて溜息をついている。<br> 原因は先日行われた学内模試の俺の結果が芳しくなく、放課後の補習に強制参加させられているためSOS団の活動を休んでいるせいか、と自ら解答を導きつつ声をかけた。<br> 「よお、ハルヒ。おはよう。昨日も部室に行けなくてすまん」<br> 「補習受けてるんでしょ。我がSOS団から成績不振者が出るなんて恥ずかしいわ」<br> 「それが今日で終わるんだ。今日からは行けるぜ」<br> 「・・・遅れたら罰金だからね」<br> そう言うとハルヒは再び目を窓の外にやった。いつもは暴走列車以上の活発ぶりをみせるハルヒだ。今日のような落ち着いた日があってもバチは当たるまい。そう思いながら俺は担任が来るのを待った。<br> <br> 連日の補習で頭を使いすぎたか、昼休みに俺は強烈な睡魔に襲われた。それは通常登場予定の空腹感の出番を奪い去る程のものだった。窓から容赦なく照りつける太陽も味方し、俺は深い眠りについた。その頃には朝の占いのことなど全く覚えてなどいなかった。<br> <br> 「ちょっと。もうすぐ授業始まるよ」<br> 俺はその声で目を覚ました。その声は間違いなくハルヒではなかった。声を聞いて感じたのは違和感と恐怖。俺は反射的に机から身体を起こした。<br> 「目は覚めた?次は教室移動だから早くしないと間に合わなくなるわよ」<br> 目の前にいたのは―カナダに引っ越したことになっていて、俺のことを殺意をもって襲ってきた張本人の―朝倉涼子だった。<br> 「ああ、そうだったな。ありがとよ」<br> 朝倉はちょこっと頷いて待っていた数人の女子の輪に入って教室を出て行った。<br> またか。<br> またこんな世界になっちまったのか。長門も朝比奈さんも鶴屋さんも俺のことを知らず、ハルヒと古泉に至っては光陽園学院に通っている世界に。どうせこの教室にはハルヒはいないことになっているんだろう、過去の経験から狂ったように人に聞くのはやめよう、きっと解決策は見つかる。そう楽観視しながら教室を出た。<br> <br> 思っていた通り解決策はすぐに見つかった。放課後部室に行ったときのことだ。<br> 文芸部の長門がいるはずだからノックをすると意外な返事が返ってきた。<br> 「はぁい、どうぞ」<br> 予想していなかった声が返ってきたので急いでドアを開けると、団長を除くSOS団が揃っていた。<br> 「困ったことになりましたね」<br> 状況を把握できないまま部室を見回している俺に最初に話しかけたのは古泉だった。お前は光陽園学院の生徒ではなかったか?<br> 「皆あなたのことを知っていますよ。あの改変世界と今我々がいる改変世界は違います。前者の改変者は過去の長門さんでしたが、今回の改変者は涼宮さんです」<br> やはりな。今度は何故なんだ。<br> 「涼宮さんは本気で世界を変えようとは思っていません。何か抱えている問題があるのでしょう。僕はてっきりあなたが答えを知っているものだと」<br> 知るか。<br> 「最近涼宮さんは部室にきてもパソコンをいじるか、溜息をつくかで今までの元気が無いのは明らかでした。教室では元気だったのですか」<br> 確かに元気は無かった。もしかしたら俺の成績が悪いことが原因か。<br> 「そうならあなたに勉強を教える等世界を改変しなくても解決できるでしょう。補習が終わるのは今日なのであなたがSOS団に参加できなかったことが原因であるのは考えにくい。予想ですが、涼宮さんは自分がいないとあなたはどうなるかを知りたいのだと思いますが・・・。結論を言うと、答えは彼女のみが知っているのですよ」<br> お前にとってはGod knows…か。ハルヒは何処にいるんだ。<br> 「涼宮さんは閉鎖空間を作っています。ただ神人の出現が確認されていないので機関としては動きようがありません」<br> じゃあどうすればいいんだ。<br> 「僕たちが出した結論はこうです。過去に涼宮さんが作り出した閉鎖空間に入ったことのあるあなたが再び閉鎖空間に入る」<br> 俺はあんな所はもう嫌だ、と言いたいところだがそうは行かないみたいだな。でも、どうやって。<br> 「以前あなたと涼宮さんだけの閉鎖空間に入ったときはどうしたのですか。それと同じ方法をとればいいのですよ」<br> 方法も何もただ寝ただけなんだがな。<br> 「では寝ればいいんですよ。涼宮さんは待っていると思われますから、場所はここがいいでしょう」<br> 一つ我儘を言わせてもらえば朝比奈さんの天使の声で子守唄を歌って欲しい。でも今回は皆この部屋から出ていただくとありがたい。<br> 「わかりました。僕たちは出ましょう。すべてはあなたにかかっていることを忘れないで下さいね」<br> 「キョンくん・・・絶対帰ってきてね」<br> 「・・・こっちで待ってる」<br> 古泉はその日初めて見たニヤケ顔で、朝比奈さんは制服姿に天使の声で、長門はいつもの無表情でそう言うと部屋から出て行った。<br> 一体ハルヒが抱えている問題って何だ?世界を変えてまで悩むことなのか。何で俺は気づかなかったんだ。いや、気づいていたが気づいていないフリをしていたのかもしれない。まあいい。閉鎖空間に行ったら思う存分聞いてやろう。多分俺にしか聞けない悩みだから閉鎖空間を作ったんだろう・・・そんなことを考えていたら昼に十分すぎる睡眠をとったはずなのにまた眠りについていた―<br> <br> 背中にコンクリートの硬い感覚を覚える。俺は前と同じ場所に寝ている。<br> 目を開ける。灰色の空。静かすぎて灰色の空に吸い込まれるような感覚になる。<br> 何度来ても嫌だな。この不気味な空間は。<br> 俺は部室へ向かう。危機管理が全くなっていないのかと思うほど昇降口は簡単に開いた。この様子だと部室の鍵も開いている。そこでハルヒは待っている。<br> そんな確信と共に部室への道を駆けていった。<br> <br> 部室は唯一電気が点いており、やはりここかと安心した。<br> よく考えると今日二回目の入室だな。一回も出てないのに。<br> 俺はドアを開けた。部屋の奥には窓から外を眺めているハルヒがいた。<br> 「ちょっと、キョン。何よこれ。どれも暗いじゃない」<br> 「落ち着け。一度来たことがあるように感じないか」<br> 「言われてみればそうかも・・・。ああ思い出した。けど思い出したくない悪夢だったわ」<br> 俺も思い出したくはないが。それより俺が部室に入ってきたことに驚きはないのか。<br> 「別に。来てくれると思っていたしね。何となくだけど」<br> ハルヒの声に元気が無いことに俺は閉鎖空間に来た目的を思い出した。<br> 「なあ、ハルヒ。今朝元気が無かったみたいだったが何かあったのか」<br> 「えっ・・べ、別に無いわよっ。いつもの私だったじゃない」<br> 「俺もSOS団の一員だ。団長に元気があるか無いか位わかる。本当に何も無いのか。よかったら話を聞くぞ」<br> 「・・・・・・・」<br> 流れる沈黙。しまった、俺は地雷を踏んでしまったか。<br> ハルヒが口を開く。<br> 「・・・実はね・・私・・・・」<br> ハルヒは少し涙目になっている。そんなに重い悩みなのか。<br> 「好きな・・・人が・・出来たのよ・・・」<br> 意外な悩みに俺は言葉を失った。<br> 「でもっ・・私全っ然素直になれなくて・・・その人の前だと」<br> ハルヒは泣いている。俺はどう声をかけてよいか迷っていた。<br> 「ハルヒ、前に告白は電話とかじゃなく直接言うべきだって言ってただろ。俺もそう思う。言うのなんて数秒で済むわけだし、思い切ってその人に告白した方がいいんじゃないか。勇気が出ない、素直になれないとかここで悶々としてても想いは伝わらないぞ。行動する前に悩むなんかハルヒらしくないしな」<br> 我ながら恥ずかしいことを長々と言ってしまった。しかしこれが解決策だろう。ハルヒの想いなんぞ、ここで言う限り俺しか知ることは出来ない。俺以外には伝わらない。だから伝えなくてはいけないんだ。<br> 次の瞬間、頭にある言葉が浮かんだ。<br> 『想っている人との距離が縮まりそう―』<br> 朝の占いだ。ま、まさか―<br> 「グスッ・・・そうね。私らしくないわ。スパッと言えばいいのに何悩んでたんだろう。私の好きな人はね、そのっ・・うんと・・・キ、キョン、あんたなの・・・」<br> 告白した瞬間ハルヒは再び泣いた。よほど勇気を振り絞ったのだろう。俺はその勇気に答えようとハルヒを抱きしめた。<br> 「ハルヒ、気づかなくてすまん。ハルヒの想いは受け取ったよ」<br> ハルヒは俺の胸で涙を流しながら言った。<br> 「・・・返事は?」<br> 「あ、ああ。実は俺はハルヒが消えた夢を見たことがある。その夢で俺はハルヒがいないことでパニックになった。そこで俺は気づいた。俺にはハルヒがいないとダメだ。俺にはハルヒが必要だ。ハルヒ、俺もハルヒが好きだ。ずっと一緒にいよう」<br> 二人しかいない部室。ハルヒは涙を拭き、抱きしめてきた。俺も力を入れる。長い時間が流れる。<br> 「なあ、そろそろあっちの世界に帰ろう。皆待ってるぞ」<br> 「そうね・・・。あっ、戻る方法覚えてる?」<br> 「ん・・・ああ、覚えているよ」<br> 俺はハルヒの唇に自分の唇を重ねた。<br> <br> 気づいたら俺は部室の長机に突っ伏して寝ていた。ハルヒはいつもの場所に同じく突っ伏して寝ていた。<br> まもなく6時になる。下校の放送がかかる前に帰ろうとハルヒを起こした。<br> 「おい、ハルヒ。起きろ」<br> 「ん・・・ぅあ。がっ!」<br> ハルヒは驚いたか顔で俺を見るとすぐ目を逸らした。<br> 「恥ずかしい夢を見たんだけど・・・。あれを夢で終わらせたらいけないと思う。ねぇ、キョン。私―」<br> 「ハルヒ、夢の中で俺はOKをした。それでいいじゃないか。俺はハルヒのことが好きだ」<br> 「・・・恥ずかしいこといってバカじゃないの・・///でも、嬉しい。私も好きだよ、キョン」<br> そんなことを話しながら俺たちは帰った。<br> 空で輝く月の下繋いでいたハルヒの手は暖かかった。</p>

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