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「森園生の涙」(2007/09/08 (土) 02:06:19) の最新版変更点
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<p>森園生の涙<br>
<br>
命令を受領して、私は、部屋を出た。<br>
ゆっくりと歩きながら思い浮かべるのは、過去の出来事。<br>
<br>
<br>
最初に彼に会ったときは、彼はひ弱な中学生にすぎなかった。<br>
突然身に付いた能力とその使命に、彼は狂いそうになっていた。<br>
あやすように落ち着かせ、使命の重要性について何とか納得させたのは私。<br>
それから、地獄のような特訓を課した。彼の使命を充分に果たさせるには、それが必要だったから。<br>
泣きわめく彼に対して容赦なく試練を課すのは、心が痛んだ。<br>
その結果、彼は閉鎖空間での任務をこなせるようになる。<br>
しかし、常に体力と精神力を極限にまで削られる毎日。彼から疲労の色が消えることはなかった。<br>
やがて、彼が高校生となってしばらくしたときに、転機が訪れた。<br>
北高への転校。SOS団への加入。<br>
それが、彼を見違えるほど変化させた。<br>
彼の楽しそうな様子など、それまで一度も見たことがなかったのに。<br>
孤島の別荘、雪山の山荘。彼、そして、SOS団とともにすごしたその日々は、私にとっても楽しいものだった。<br>
<br>
すべてがよい方向に向かっているように思えたのに……。<br>
<br>
<br>
感傷にひたっているうちに、私は目的地に到達していた。<br>
部屋の扉を開けると、信頼できる部下たち、新川、多丸兄弟がそろっていた。<br>
今回の任務は、少数精鋭で臨む。投入人数を増やしても、無駄な犠牲を増やすだけだから。<br>
<br>
彼らが、いっせいに私を見る。<br>
<br>
「今回の任務は、困難なものとなるでしょう。相手は、今までで最も手ごわい存在です」<br>
<br>
なぜなら、こちらの手のうちを知り尽くしているのだから。<br>
<br>
「また、未来人勢力や宇宙勢力がどう出てくるかも分かりません」<br>
<br>
未来人勢力にとって、これは規定事項だろうか、それともそれを逸脱する事態だろうか。どちらにして、干渉してくる可能性はある。<br>
宇宙勢力は、静観するか介入してくるか。<br>
不確定要素が多すぎた。<br>
<br>
「さらに、涼宮ハルヒに気づかれてはならないという絶対条件があります」<br>
<br>
このリスクを考慮すれば、現状の問題を放置するという選択肢もありえた。<br>
しかし、組織は、現状を放置する方が世界の安定にとってよりリスキーであるとの結論を出していた。<br>
私個人としても、その判断が間違っているとは思わない。<br>
<br>
「ですから、完璧な奇襲によって確実に目標をしとめなければなりません」<br>
<br>
私は、ここでいったん言葉を切った。<br>
使命を果たすために私情を排してきた私でも、ためらいはあった。<br>
しかし、私はすべてを「機関」にささげた身。すべては、この世界の安定のために。<br>
<br>
「任務内容を伝達します」<br>
<br>
次の言葉を言ってしまったら、もう後には戻れない。<br>
いつの間にか、涙が頬を伝っていた。<br>
<br>
「反逆者、古泉一樹を抹殺せよ」<br>
<br>
涙がひとしずく、床に、落ちた……。</p>
<p>森園生の涙<br>
<br>
命令を受領して、私は、部屋を出た。<br>
ゆっくりと歩きながら思い浮かべるのは、過去の出来事。<br>
<br>
<br>
最初に彼に会ったときは、彼はひ弱な中学生にすぎなかった。<br>
突然身に付いた能力とその使命に、彼は狂いそうになっていた。<br>
あやすように落ち着かせ、使命の重要性について何とか納得させたのは私。<br>
それから、地獄のような特訓を課した。彼の使命を充分に果たさせるには、それが必要だったから。<br>
泣きわめく彼に対して容赦なく試練を課すのは、心が痛んだ。<br>
その結果、彼は閉鎖空間での任務をこなせるようになる。<br>
しかし、常に体力と精神力を極限にまで削られる毎日。彼から疲労の色が消えることはなかった。<br>
やがて、彼が高校生となってしばらくしたときに、転機が訪れた。<br>
北高への転校。SOS団への加入。<br>
それが、彼を見違えるほど変化させた。<br>
彼の楽しそうな様子など、それまで一度も見たことがなかったのに。<br>
孤島の別荘、雪山の山荘。彼、そして、SOS団とともにすごしたその日々は、私にとっても楽しいものだった。<br>
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すべてがよい方向に向かっているように思えたのに……。<br>
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感傷にひたっているうちに、私は目的地に到達していた。<br>
部屋の扉を開けると、信頼できる部下たち、新川、多丸兄弟がそろっていた。<br>
今回の任務は、少数精鋭で臨む。投入人数を増やしても、無駄な犠牲を増やすだけだから。<br>
<br>
彼らが、いっせいに私を見る。<br>
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「今回の任務は、困難なものとなるでしょう。相手は、今までで最も手ごわい存在です」<br>
<br>
なぜなら、こちらの手のうちを知り尽くしているのだから。<br>
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「また、未来人勢力や宇宙勢力がどう出てくるかも分かりません」<br>
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未来人勢力にとって、これは規定事項だろうか、それともそれを逸脱する事態だろうか。どちらにして、干渉してくる可能性はある。<br>
宇宙勢力は、静観するか介入してくるか。<br>
不確定要素が多すぎた。<br>
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「さらに、涼宮ハルヒに気づかれてはならないという絶対条件があります」<br>
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このリスクを考慮すれば、現状の問題を放置するという選択肢もありえた。<br>
しかし、組織は、現状を放置する方が世界の安定にとってよりリスキーであるとの結論を出していた。<br>
私個人としても、その判断が間違っているとは思わない。<br>
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「ですから、完璧な奇襲によって確実に目標をしとめなければなりません」<br>
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私は、ここでいったん言葉を切った。<br>
使命を果たすために私情を排してきた私でも、ためらいはあった。<br>
しかし、私はすべてを「機関」にささげた身。すべては、この世界の安定のために。<br>
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「任務内容を伝達します」<br>
<br>
次の言葉を言ってしまったら、もう後には戻れない。<br>
いつの間にか、涙が頬を伝っていた。<br>
<br>
「反逆者、古泉一樹を抹殺せよ」<br>
<br>
涙がひとしずく、床に、落ちた……。</p>