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「教科書文通5」(2020/03/08 (日) 17:31:10) の最新版変更点
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<p>「なぁ、古泉? お前、まさかとは思うけど、恋をしたことがないなんていわないよな?」<br>
<br>
5時間目の科学の時間、僕は今度は先ほどの山田くんの台詞を反芻していた。<br>
最近まともに授業受けてないんじゃないか? と、少し不安になったりもするが、 まぁ、教科書と参考書を交互ににらめっこすればどうにかなるだろう。
今までだって、神人退治をしながらこのクラスで何とかやっていけたんだ。 涼宮さんの精神がある程度安定している今なら多少の無理もきくだろう。
そんなときに限って、〝彼〟が墓穴を掘るんだとか、そんなことは敢えて考えないでおこう。<br>
<br>
恋……か。<br>
そういや、まったくと言っていいほど経験のない分野だ。
そりゃ、僕だって幼少時代や小学生時代に誰それちゃんのことが好き! とかいう麻疹みたいな物は経験したことがあるが、あくまでそれは、likeの延長線だろう。
loveに直結する、愛してる、恋してるの段階での『好き』 と言う感情は、今の今まで実感した記憶がない。 <br>
<br>
そういうのをしておくべきであった中学時代は、それこそ能力が目覚めたばかりでそれどころではなかったし、今は今で、任務が任務だ。 ありえない。<br>
<br>
別に、それが悲しいことだとは、今現在は思わない。 しかし、それが10年先、20年先と考えたらどうだろう。
周りの友人や知り合いがどんどん人生のパートナーを見つける中、自分は一人で、一体、何をしているのだろう。 <br>
<br>
まさか、死ぬまで『機関』の構成員として戦うだけの人生を送るわけではあるまい。<br>
いや、今のままだとそういう可能性も無くは無い。 〝彼〟と涼宮さんには一刻も早く互いに対して素直になて貰いたいものである。
もちろん、あの2人が結ばれたからと言って、閉鎖空間の発生がなくなるとは言い切れないが、発生数が激減することは確実である。 <br>
<br>
ああ、幸せな悩みが増えて僕らの仕事が増えると言うことも考えられなくは無いですね。 困ったものです。 <br>
<br>
いや、しかし、僕この先どうなるんでしょう。 やはりずっと一人ぼっちなのでしょうか。<br>
いや、友人と呼べる人は、こんな身の上であるにも拘らず2本の手じゃ数え切れぬほどいるのだけれど、
彼等にしても、いつまでも僕と一緒にいてくれるとは限らない。<br>
いずれ、パートナーを見つけ、僕の過ごした後はその人の元へ帰っていくのだろう。 では、僕は、誰の元に帰れば?<br>
<br>
いや、それよりも。<br>
<br>
恋愛なんてものが、世界を創っている、人生そのもの、などと少女漫画のようなことはおもわないが、何をどうあがいていい訳を重ねても、僕の中にある、
誰か自分に特別な人に恋をして、好きな女性と男女としてのお付き合いをすると言うせん無い憧れを否定することは出来ない。<br>
<br>
所詮僕だって男だ。 本能に抗えぬ劣情もあるし、それを抑えるための、なんていうかまぁ、そういうこともしなくはない。
そのことに相手を求めることは……今のところ無いけれども、それでもどうせなら、好いた相手と、と思うのが人間である。<br>
<br>
しかし、なぜだろう、ここ最近、そういうことを考えると必ず、長門さんの軽蔑したような摂氏-273.15の視線を垣間見てしまうのだ。
それは、もちろん本物の長門さんではなく、僕の想像の産物であることは言うまでもないのだが、それでも心に来るものがある。
まるで、氷の剣で心臓を一寸の狂いも無く突き刺されたみたいな感触だ。<br>
いや、実体験したことはないので、それぐらいの衝撃と言うことだけれど。 <br>
<br>
僕は、長門さんのことが好きなのだろうか。<br>
<br>
正直それは、僕にも分からない。 likeかdislikeか、と訊かれたら即likeだと答えるが、loveか、と訊かれると困る。
正直に言えば、いまだ僕にはloveは理解できていないのだ。<br>
<br>
〝彼〟に対して、鈍いだの何だの抜かしながら、その点にいたっては僕はどうしようもないほど子供なのである。
弱みを見せないために知ったかぶりしているに過ぎない。<br>
事実、僕が〝彼〟にしたアドヴァイスなど、殆ど妄想的なものか、森さんの入れ知恵だ。 感謝してます、森さん。<br>
<br>
そして、さて、自分のこと、となると何もかもがさっぱりなのだ。 はたして、僕は長門さんが、好きなのか。<br>
<br>
長門さんは、綺麗な方だ。 美しいとも言える。 髪一本、つま先まで、何一つ無駄がない。
頭脳明晰、運動神経抜群、知識量もすさまじく、思慮も深い。 それは、山田君に話したとおり。<br>
<br>
でも、実は極稀にご本人曰く『うかつ。』なことをしでかし、その大半が僕を苦笑いさせてくれるものなのだが、
その苦笑いには、あまり無理を感じない。 表情は苦笑いでも、何かしら温かいものを感じるのだ。<br>
<br>
そう、強いていうなら、可愛い、と感じているのだろう。 <br>
<br>
それが恋愛感情に直結するかと聞かれえれば、判らない。<br>
<br>
可愛い、と言う漢字は、「愛する」ことが「可能」と書く。 だから、人は自分の子供を可愛いと思うし、自分より年下の兄弟を可愛く思う。
恋人に対してだって、友人に対してだって「愛」すことが「可」能だから、可愛いと感じるのだ。<br>
<br>
僕が長門さんに抱いている「可愛い」は、一体、どの「可愛い」なのだろう。<br>
<br>
……考えるのはよそう。 せん無いことだ。<br>
<br>
大体、いくら僕が長門さんを可愛いと思ったところで、長門さんは僕のことを友人の一人くらいにしか思っていないだろう。 そうに違いない。<br>
<br>
「良好な関係」の友人。<br>
<br>
そのポジションに、長門さんから指名されたのは、今のところ僕一人だけだろう。 〝彼〟でも、涼宮さんでも、朝比奈さんでもなく、僕が選ばれた。
なら、僕は、長門さんを「良好な関係」の友人として愛するべきなのだ。 これまでと一緒。 <br>
<br>
僕にとってSOS団は、単なる観察対象ではなく、大切な友人。 長門さんも、その一人。<br>
<br>
そう考えると、僕の悩みは割とあっさり、しかし、何かの糸くずのようなものを残して消えていった。
怖くて仕方なかったお化け屋敷に抜け道を見つけたような感じだ。<br>
<br>
これでいいのだ。 バカボンじゃない。<br>
<br>
僕は、科学の演習問題を解くフリをしながら、机の中に入れっぱなしになっていた件の日本史の教科書の159ページの端の、長門さんからのメッセージの下に<br>
<br>
「僕も、そう望んでいます。」<br>
<br>
と、いつもより、ほんの少し丁寧な字で書いてみた。 元素記号など、どうでもいい。<br>
そして、僕はほんの少し、勘違いを期待していた。 <br>
<br>
その教科書を、次の日、次の時間に日本史の授業を控えた長門さんに渡し、僕は一人、心臓を高鳴らせていた。 二時間目と三時間目の間の休み時間である。<br>
<br>
教科書を受け取った長門さんが、あの涼しげな眼でじっと僕を見上げた時、逃げ出したくなったのは秘密だ。
思わず、何故か長門さんの唇を凝視してしまったのは、口が裂けても言えるわけが無い。 桃色だった。<br>
<br>
あれは、友情としての、「良好な関係」。 友人としての「良好な関係」。<br>
言い聞かせても、言い聞かせても心臓は破れそうだった。 普段の僕のキャラからは考えられない。
なにが、いったい、どうなっているのか。 頭がスパークしそうだった。 それを山田くんを初めとしたクラスの面々に見られ、余計に恥しくなる。<br>
<br>
「羨ましいなぁ。」 とか 「青春だなぁ、古泉。」 と、にたにたと声をかけられ、<br>
思わず、「違います! そんなのじゃありません!」と、情けないことに声を荒げてしまったり、と、
それはまさしく中学時代、クラス中に好きな女の子がばれておもちゃにされていた同級生の行動と全く同じであり、
高校生にもなって僕は何をやっているんだ、っていうか、こんな行動は逆に誤解を招くだろう、第一、僕のイメージとずいぶん違うじゃないか。
と分かっていても体が熱を持って言うことを訊かず、誤解ばかりが広がっていく。<br>
<br>
本当にその光景は、僕が中学時代、冷めた目で、しかし、どこか憧れを抱いて見ていたクラス内の騒ぎにそっくりで、もう何がなんだか分からなくなってしまった。 <br>
<br>
「長門から返事が来るのは、あさってか。 長いな、古泉?」<br>
<br>
「いい加減にしてください。 僕をからかって楽しいですか?」<br>
<br>
「ああ、たのしい。」<br>
<br>
わざわざ僕の前の席の椅子に背もたれをまたがって座って即答した丸坊主の野球部員をいつもの僕では考えられないような顔で見ていると、目の前の山田くんは、声を上げてケタケタと笑い始めた。<br>
<br>
「そう! その顔! お前さ、確かに顔は男の俺から見ても相当イケてると思うけどさ、なんていうの?
いっつも笑ってるからさ、人間味薄いんだよな。 でも、お前、長門が絡むととたんに照れたり、ムキになったり、ころころ表情が変わってるんだ。 気が付いてたか?
みんな、嬉しいんだよ。 変な時期に転校してきてさ、いきなり変な団体に加入して、なんか笑顔で壁作ってるっぽいお前が、
こうやって、照れたり、ムキになったり、赤くなったり、百面相してさ。 なにより、どこか楽しそうなの見て、皆嬉しいんだよ。 俺たち、同じクラスの仲間だろ。
たしかにさ、SOS団だっけ? あーゆーのも楽しいかも知んないし、あれも一つの仲間の集まりかも知んないけどさ、9組(俺たち)だって仲間だろ? 違うか?」<br>
<br>
そう言って、ニカッと笑う山田くんを見て、僕は少し、いや、かなり驚いた。<br>
転校生である僕は、基本的にあまりクラスの中で中心になることも無く、極稀に意見を聞かれれば可もなく不可もない流れるような意見を言うだけの存在で、
尚且つ、涼宮さんが設立した(彼らからすれば)怪しげな団体のメンバーとして少し距離を置かれているように思っていたから、
正直に言えば、クラスの面々が自分をこうも心配してくれているとは思っていなかったのである。<br>
<br>
「でも、あの長門が薄ーくとはいえお前の教科書にメッセージを書いてきて、
それにお前が書き足して返事をしてって……これから、そういうのか続いたら、文通みたいだな。 教科書文通。
いいな、なんか交換日記みたいで。 生真面目なお前ぽい。 長門もなんか時代錯誤っていうか、箱入りっぽいしさ。 奥手っぽいお前らにはちょうどいいじゃね?」<br>
<br>
「だから違うって言ってるでしょう!?」 <br>
<br>
<続く></p>
<p>「なぁ、古泉? お前、まさかとは思うけど、恋をしたことがないなんていわないよな?」<br />
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5時間目の科学の時間、僕は今度は先ほどの山田くんの台詞を反芻していた。<br />
最近まともに授業受けてないんじゃないか? と、少し不安になったりもするが、 まぁ、教科書と参考書を交互ににらめっこすればどうにかなるだろう。
今までだって、神人退治をしながらこのクラスで何とかやっていけたんだ。 涼宮さんの精神がある程度安定している今なら多少の無理もきくだろう。
そんなときに限って、〝彼〟が墓穴を掘るんだとか、そんなことは敢えて考えないでおこう。<br />
<br />
恋……か。<br />
そういや、まったくと言っていいほど経験のない分野だ。
そりゃ、僕だって幼少時代や小学生時代に誰それちゃんのことが好き! とかいう麻疹みたいな物は経験したことがあるが、あくまでそれは、likeの延長線だろう。
loveに直結する、愛してる、恋してるの段階での『好き』 と言う感情は、今の今まで実感した記憶がない。 <br />
<br />
そういうのをしておくべきであった中学時代は、それこそ能力が目覚めたばかりでそれどころではなかったし、今は今で、任務が任務だ。 ありえない。<br />
<br />
別に、それが悲しいことだとは、今現在は思わない。 しかし、それが10年先、20年先と考えたらどうだろう。
周りの友人や知り合いがどんどん人生のパートナーを見つける中、自分は一人で、一体、何をしているのだろう。 <br />
<br />
まさか、死ぬまで『機関』の構成員として戦うだけの人生を送るわけではあるまい。<br />
いや、今のままだとそういう可能性も無くは無い。 〝彼〟と涼宮さんには一刻も早く互いに対して素直になて貰いたいものである。
もちろん、あの2人が結ばれたからと言って、閉鎖空間の発生がなくなるとは言い切れないが、発生数が激減することは確実である。 <br />
<br />
ああ、幸せな悩みが増えて僕らの仕事が増えると言うことも考えられなくは無いですね。 困ったものです。 <br />
<br />
いや、しかし、僕この先どうなるんでしょう。 やはりずっと一人ぼっちなのでしょうか。<br />
いや、友人と呼べる人は、こんな身の上であるにも拘らず2本の手じゃ数え切れぬほどいるのだけれど、
彼等にしても、いつまでも僕と一緒にいてくれるとは限らない。<br />
いずれ、パートナーを見つけ、僕の過ごした後はその人の元へ帰っていくのだろう。 では、僕は、誰の元に帰れば?<br />
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いや、それよりも。<br />
<br />
恋愛なんてものが、世界を創っている、人生そのもの、などと少女漫画のようなことはおもわないが、何をどうあがいていい訳を重ねても、僕の中にある、
誰か自分に特別な人に恋をして、好きな女性と男女としてのお付き合いをすると言うせん無い憧れを否定することは出来ない。<br />
<br />
所詮僕だって男だ。 本能に抗えぬ劣情もあるし、それを抑えるための、なんていうかまぁ、そういうこともしなくはない。
そのことに相手を求めることは……今のところ無いけれども、それでもどうせなら、好いた相手と、と思うのが人間である。<br />
<br />
しかし、なぜだろう、ここ最近、そういうことを考えると必ず、長門さんの軽蔑したような摂氏-273.15の視線を垣間見てしまうのだ。
それは、もちろん本物の長門さんではなく、僕の想像の産物であることは言うまでもないのだが、それでも心に来るものがある。
まるで、氷の剣で心臓を一寸の狂いも無く突き刺されたみたいな感触だ。<br />
いや、実体験したことはないので、それぐらいの衝撃と言うことだけれど。 <br />
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僕は、長門さんのことが好きなのだろうか。<br />
<br />
正直それは、僕にも分からない。 likeかdislikeか、と訊かれたら即likeだと答えるが、loveか、と訊かれると困る。
正直に言えば、いまだ僕にはloveは理解できていないのだ。<br />
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〝彼〟に対して、鈍いだの何だの抜かしながら、その点にいたっては僕はどうしようもないほど子供なのである。
弱みを見せないために知ったかぶりしているに過ぎない。<br />
事実、僕が〝彼〟にしたアドヴァイスなど、殆ど妄想的なものか、森さんの入れ知恵だ。 感謝してます、森さん。<br />
<br />
そして、さて、自分のこと、となると何もかもがさっぱりなのだ。 はたして、僕は長門さんが、好きなのか。<br />
<br />
長門さんは、綺麗な方だ。 美しいとも言える。 髪一本、つま先まで、何一つ無駄がない。
頭脳明晰、運動神経抜群、知識量もすさまじく、思慮も深い。 それは、山田君に話したとおり。<br />
<br />
でも、実は極稀にご本人曰く『うかつ。』なことをしでかし、その大半が僕を苦笑いさせてくれるものなのだが、
その苦笑いには、あまり無理を感じない。 表情は苦笑いでも、何かしら温かいものを感じるのだ。<br />
<br />
そう、強いていうなら、可愛い、と感じているのだろう。 <br />
<br />
それが恋愛感情に直結するかと聞かれえれば、判らない。<br />
<br />
可愛い、と言う漢字は、「愛する」ことが「可能」と書く。 だから、人は自分の子供を可愛いと思うし、自分より年下の兄弟を可愛く思う。
恋人に対してだって、友人に対してだって「愛」すことが「可」能だから、可愛いと感じるのだ。<br />
<br />
僕が長門さんに抱いている「可愛い」は、一体、どの「可愛い」なのだろう。<br />
<br />
……考えるのはよそう。 せん無いことだ。<br />
<br />
大体、いくら僕が長門さんを可愛いと思ったところで、長門さんは僕のことを友人の一人くらいにしか思っていないだろう。 そうに違いない。<br />
<br />
「良好な関係」の友人。<br />
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そのポジションに、長門さんから指名されたのは、今のところ僕一人だけだろう。 〝彼〟でも、涼宮さんでも、朝比奈さんでもなく、僕が選ばれた。
なら、僕は、長門さんを「良好な関係」の友人として愛するべきなのだ。 これまでと一緒。 <br />
<br />
僕にとってSOS団は、単なる観察対象ではなく、大切な友人。 長門さんも、その一人。<br />
<br />
そう考えると、僕の悩みは割とあっさり、しかし、何かの糸くずのようなものを残して消えていった。
怖くて仕方なかったお化け屋敷に抜け道を見つけたような感じだ。<br />
<br />
これでいいのだ。 バカボンじゃない。<br />
<br />
僕は、科学の演習問題を解くフリをしながら、机の中に入れっぱなしになっていた件の日本史の教科書の159ページの端の、長門さんからのメッセージの下に<br />
<br />
「僕も、そう望んでいます。」<br />
<br />
と、いつもより、ほんの少し丁寧な字で書いてみた。 元素記号など、どうでもいい。<br />
そして、僕はほんの少し、勘違いを期待していた。 <br />
<br />
その教科書を、次の日、次の時間に日本史の授業を控えた長門さんに渡し、僕は一人、心臓を高鳴らせていた。 二時間目と三時間目の間の休み時間である。<br />
<br />
教科書を受け取った長門さんが、あの涼しげな眼でじっと僕を見上げた時、逃げ出したくなったのは秘密だ。
思わず、何故か長門さんの唇を凝視してしまったのは、口が裂けても言えるわけが無い。 桃色だった。<br />
<br />
あれは、友情としての、「良好な関係」。 友人としての「良好な関係」。<br />
言い聞かせても、言い聞かせても心臓は破れそうだった。 普段の僕のキャラからは考えられない。
なにが、いったい、どうなっているのか。 頭がスパークしそうだった。 それを山田くんを初めとしたクラスの面々に見られ、余計に恥しくなる。<br />
<br />
「羨ましいなぁ。」 とか 「青春だなぁ、古泉。」 と、にたにたと声をかけられ、<br />
思わず、「違います! そんなのじゃありません!」と、情けないことに声を荒げてしまったり、と、
それはまさしく中学時代、クラス中に好きな女の子がばれておもちゃにされていた同級生の行動と全く同じであり、
高校生にもなって僕は何をやっているんだ、っていうか、こんな行動は逆に誤解を招くだろう、第一、僕のイメージとずいぶん違うじゃないか。
と分かっていても体が熱を持って言うことを訊かず、誤解ばかりが広がっていく。<br />
<br />
本当にその光景は、僕が中学時代、冷めた目で、しかし、どこか憧れを抱いて見ていたクラス内の騒ぎにそっくりで、もう何がなんだか分からなくなってしまった。 <br />
<br />
「長門から返事が来るのは、あさってか。 長いな、古泉?」<br />
<br />
「いい加減にしてください。 僕をからかって楽しいですか?」<br />
<br />
「ああ、たのしい。」<br />
<br />
わざわざ僕の前の席の椅子に背もたれをまたがって座って即答した丸坊主の野球部員をいつもの僕では考えられないような顔で見ていると、目の前の山田くんは、声を上げてケタケタと笑い始めた。<br />
<br />
「そう! その顔! お前さ、確かに顔は男の俺から見ても相当イケてると思うけどさ、なんていうの?
いっつも笑ってるからさ、人間味薄いんだよな。 でも、お前、長門が絡むととたんに照れたり、ムキになったり、ころころ表情が変わってるんだ。 気が付いてたか?
みんな、嬉しいんだよ。 変な時期に転校してきてさ、いきなり変な団体に加入して、なんか笑顔で壁作ってるっぽいお前が、
こうやって、照れたり、ムキになったり、赤くなったり、百面相してさ。 なにより、どこか楽しそうなの見て、皆嬉しいんだよ。 俺たち、同じクラスの仲間だろ。
たしかにさ、SOS団だっけ? あーゆーのも楽しいかも知んないし、あれも一つの仲間の集まりかも知んないけどさ、9組(俺たち)だって仲間だろ? 違うか?」<br />
<br />
そう言って、ニカッと笑う山田くんを見て、僕は少し、いや、かなり驚いた。<br />
転校生である僕は、基本的にあまりクラスの中で中心になることも無く、極稀に意見を聞かれれば可もなく不可もない流れるような意見を言うだけの存在で、
尚且つ、涼宮さんが設立した(彼らからすれば)怪しげな団体のメンバーとして少し距離を置かれているように思っていたから、
正直に言えば、クラスの面々が自分をこうも心配してくれているとは思っていなかったのである。<br />
<br />
「でも、あの長門が薄ーくとはいえお前の教科書にメッセージを書いてきて、
それにお前が書き足して返事をしてって……これから、そういうのか続いたら、文通みたいだな。 教科書文通。
いいな、なんか交換日記みたいで。 生真面目なお前ぽい。 長門もなんか時代錯誤っていうか、箱入りっぽいしさ。 奥手っぽいお前らにはちょうどいいじゃね?」<br />
<br />
「だから違うって言ってるでしょう!?」 <br />
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<続く></p>