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どこまでも届け」(2007/07/16 (月) 17:09:00) の最新版変更点

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 東西南北今昔、何時の何処であろうと涼宮ハルヒに類似する人間はいないと俺は自信を持って断言出来るが、<br>  中学時代のハルヒが遂行した奇行の一つに校庭落書き事件と言うものがある。<br>  学校に忍び込み校庭に本人以外理解不能な幾何学模様を残すなんざ、並の神経じゃ出来るわけがないから、<br>  出来ちまうってことは、神経の図太さの証明に他ならないわけだが――、<br> 「身から出た錆びよ! ほら、ちゃっちゃっとやっちゃいなさいっ!」<br>  涼宮ハルヒと関わると自然に神経が図太くなるらしい。俺は今まさに馬鹿みたいな模様を校庭に描いている最中だ。<br>  宮仕えも楽じゃない。いやまあ、会社じゃないが、トップの突飛な命令に逆らえない点じゃ似たようなもんだろ。<br>  ハルヒ自身は腕組んでふんぞり反ってるだけだしな。ああ、忌々しい。少しは手伝えと、呟くと、<br> 「ルールを忘れたとは言わせないわ」と、ニヤニヤ笑いながら言う。<br>  ヒトの苦労も知らんで……。と言うかだな、確かに暇だからと今日の放課後にオセロの勝負を挑んだのは俺だし、<br> 「ただの勝負じゃつまらないわ」とか言い出したハルヒに、敗者は勝者の言うことを聞くって条件を出したのも俺だ。<br>  だけど最初に盤面一色に染めて勝ったのは俺だぞ? 何が「団長拒否権」だ。安保理もびっくりだ。<br> 「のんびりやって誰か来たらどうすんの? ほら早く!」<br>  人使い荒過ぎなのは中学から変わってないな。少しくらい手伝えよ。<br> <br> <br>  間断なく流れるハルヒの指示に従い、ようやく完成した絵柄はあの時とはまた別の種類だった。<br>  にしても、こいつはこんな模様に本当に意味があると思っているのだろうか。<br> 「は? 何言ってんのよ、あるに決まってるじゃない。このあたしが考えたのよ」<br>  興奮したように唾を飛ばしながら、腕を振り回して力説するハルヒ。<br>  味付けに文句をつけられたシェフのように怒り心頭でさらに続ける。<br> 「あたしは常にマジよマジ。辞書でマジって引いたら用例にあたしが出てくるわ。世界の常識よ!」<br>  りんごみたいに赤い表紙のあの辞書でさえそんな使い方は載ってねえよ。<br>  まともな思考回路した人間はハルヒで「マジ」を連想するより先に「変人」を連想するさ。<br> 「せっかくあたしの偉業の手伝いをさせてやってるのに。これだからキョンは……」<br> 「んなこと言われても困る。というか、何だ偉業って」と尋ねると、<br> 「これよ!」<br>  のばされた指が図形のちょうど真ん中辺りを指し示す。……分かっちゃいたけどな。<br> 「中学の時もやったんだけど、まるで成果がなかったのよね。これはその反省を活かした新しいメッセージよ!」<br>  にこやかに、そして堂々と言い切りやがった。<br> 「宇宙はおろか、未来や異世界まで届いてるはずだわ!」<br>  宙に舞い上がったハイテンションであーだ、こーだとハルヒ理論を力説しているが、<br>  人に聞かせるには忍びない妄想話でしかない。……もっともこいつの場合は妄想で終わらないのが難点だが、とりあえず割愛しよう。<br> <br> <br> 「未来人にあったらまず何をする?」と仕上げをしてるハルヒに問われたので、<br> 「来た年代を尋ねて地球の無事を確認する」と答えたら、<br> 「人並に夢を持ちなさいよ、つまんない奴ね」と返された。<br>  異議あり。人並みな夢くらい持ってるさ、俗物な夢とも言うけどな。<br> 「世知辛い世の中ね。高校生が子供心を忘れるなんて……」<br>  界隈では、子供心を持ってはしゃぎ過ぎてる奴らを中二病と言うらしい、気を付けろよ。<br> 「人に意見する時は的確にしなさい。あたしはまともよ」と、心外そうに言う。<br>  超常現象の中心にいてまともも何も無いと思うんだがな。性格もぶっ飛んでる上にひねくれてるし。<br>  能弁ぶちまけてた古泉によればハルヒの思考回路は一般人レベルらしいが、俺の知りうる範囲じゃぶっ飛んでる姿しか見てないぜ。<br>  力だとか何だとか抜きにしても、行動は常軌を逸してる。……ああ、でも近頃はましになってるか。<br>  者が者だから、そこんとこ忘れがちだよ。<br> 「がんばりの成果でも確認に行きましょ」とハルヒが俺の腕を取る。<br>  いいとも、悪いとも俺が言わない内にハルヒは歩き出した。そっと見付からないように校舎内に侵入し、<br>  たんたんと軽やかに階段をかけ上がり、屋上に到着した。<br>  らんらんと目を輝かせて手摺まで走って行く。<br> 「あー、やっぱり夜の学校って良いわよね。独特の雰囲気が!」<br> 「たのしそうだが、これで捕まったら大目玉だ」と、俺が言えば、<br>  しれっと、ハルヒは言った。「あたしは成績面でカバーできるしね」と。<br> 「のっぴきならない状況に陥ったら責任取れよ……」<br>  と、俺が言うと、そうねとか何とか呟きながらハルヒは腕を組んで何事かを考え始め、<br> 「このメッセージを書くのを手伝った功績で、特別家庭教師一ヶ月分ね」と、言う。<br>  ろくな事にならなさそうだな、ハルヒが家に入り浸りだったら――。<br>  にぎやかだか、うるさいんだが判別が付きそうにない。<br> 「来年は受験生なんだから、ちゃんと意識しなきゃ駄目よ。三流私立大何て行ったらぶっとばすわよ」<br> 「なによりも励みになりそうなお言葉ですね」と、皮肉っぽく言ってみたのだが、<br>  さもありなんと頷くハルヒ。やれやれと内心で嘆息してから、ふと校庭を見た。<br>  いつだかに見たハルヒの地上絵より遥かに身近なマークがそこにはあった。<br>  以心伝心かどうだか、ハルヒも校庭を覗き込んで満足そうに頷いている。<br>  上から見た校庭にはデカデカとSOS団のシンボルマークが描かれていた。<br> Fin.<br> <br> <br> <br> <br> <br> つ縦読み

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