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「涼宮ハルヒの糖影 結」(2007/07/12 (木) 23:48:33) の最新版変更点
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<p>・・・10日目だな。<br>
・・・<br>
・・・・・・!?<br>
<br>
俺は飛び起きた。<br>
叫びたくなったが自重しておこう。ハルヒに気づかれたらたまったもんじゃない。<br>
時計を見る。まだちょっと早い。もう少し寝ようか、いやだめだ。寝れんだろう。<br>
別に大したことじゃない筈なのに何でこんなに動揺してるんだろうか。<br>
俺は今日夢を見ていない。<br>
<br>
そうだ。昨日見た夢がもう2年以内の最近のことだったから見せるに値する夢が無かったのかもしれない。<br>
とにかく何か知らんがもう夢を見ることは無いのかもしれない。<br>
でもいくら俺が開き直ったとはいえ、いきなり俺だけに奇妙な現象が起きていきなり終わってしまうとなると、理由がどうしても知りたくなる。推理小説において犯人の動機を知りたくなるのと一緒でな。<br>
といっても考えてもどうしようもないのはわかっているので俺はいつも通りの行動に徹することにした。<br>
ハルヒと共に朝食を食べて仕事に出る。夢を見ていない他に何一つ違和感は無かった。<br>
<br>
「ただいま」<br>
俺は雑念疑念がどうしても尽きないまま帰宅する時間を迎えた。<br>
晩飯が用意してあった。まだ温かい。作りたてだろう。<br>
ハルヒはまた居間で寝ていた様子だか、俺の声を聞いて起きたようだ。<br>
「キョン?おかえり・・」<br>
「ったく居間で寝るなって言っただろ。」<br>
「5分ぐらいしか寝てないわよ。ほらさっさと食べるわよ。」<br>
「お前の分が無いんだが。」<br>
「だからダイエットって言ったでしょ。」<br>
「おい、いくらダイエットとはいえ食事抜きは健康に悪い。やめとけよ。」<br>
「デザートは食べるからいいの」<br>
やれやれなんと理不尽な言い訳だ。なんだかハルヒの様子を見るとやせるというよりやつれてしまうのではないかと心配だ。<br>
ハルヒは太っている事を気にしている様子なぞ見たことが無いし、それ以前に太ってなどいない。完璧なプロポーションを保っているというのにそれを崩すのは誠にもったいない。明日にでもやめさせてやる
。<br>
ひょっとしてこれも夢に関係が・・・いやまさかだな。もう夢は終わったんだ。今更考える必要は無いだろうと自分に何度も言い聞かせただろうが。<br>
<br>
<br>
食事を終えるとハルヒがデザートを持ってきてくれた。<br>
デザートは久しぶりなので心が躍る。それもハルヒの手作りときたもんだ。<br>
「ありがたーく頂くことね。あんたの好きなプリンだから。」<br>
いや、プリンが好きなのはお前だろうに。まぁ俺もだがな。<br>
こうしてハルヒと横に並んで座りながらデザートを頂いた。<br>
相変わらずなんて美味いんだ。俺は夢中で食べてしまった。<br>
ハルヒはそんな俺をちょっと呆れた視線で眺めていた。もっと味わって食べろってことか。<br>
ハルヒより先に食べ終わった俺は適当に感想を言ってみる。<br>
「ほんとにお前の作るもんはどうしてこんなに美味いんだよ。」<br>
「もう、だったらもっと舐めるように味わって食べてよね。」<br>
「すまんな。」<br>
ここで俺はふっと頭に蘇ってきたあの日を思い出した。<br>
最初に見たあの夢。俺とハルヒがまだ意地を張り合っていたあの日だ。<br>
あの時もハルヒは俺にプリンを作って様子見してたんだっけ。<br>
俺がプリンを好きだと言ったから。ハルヒの作ったプリンを食べたいと言ったから。<br>
そしてそれは今現在にも繋がっている。<br>
急に衝動がこみ上げてきた。急に言葉を伝えたくなった。いつも思っていることだ。俺もハルヒも解りきっていることだ。それでも・・・<br>
ハルヒは俺が黙り込んだのを見て変な視線を向けてくる。<br>
俺はいつも心の中で呟いている事をそのままハルヒに向かって言った。<br>
<br>
「いつもありがとう。愛してるよ、ハルヒ」<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
突然の俺の言葉にハルヒは呆然としてしまった。<br>
考えてみると空気もへったくれもないこの場でいきなり言うのはNGだったか。<br>
もういいか。ハルヒも解りきってることだしこんなタイミングで言うのは可笑しいよな。<br>
はぁ?いきなり何言ってんの とかいう声が今にも聞こえてきそうだ。<br>
俺がごちゃごちゃ考えて顔やら頭やらから煙が出そうだとかもうわけわかんなくなっている間も、ハルヒはずっと黙り込んでいた。止まってるのか?再生ボタンはどこだい?さっきもう・・って本当に落ち着け俺。<br>
ハルヒは依然として黙り込んでいた。<br>
「ハルヒ? おいハルヒ・・?」<br>
「・・・」<br>
表情を読もうとする俺を阻むようにハルヒは俯いた。<br>
まさかと思う間も無くハルヒは手で顔を覆って肩を振るわせ始める。<br>
「ハルヒお前、泣いてるのか!?」<br>
「・・・泣いてないわよおおー!!!」<br>
そう言っているハルヒはどう見ても泣いているようにしか見えなかった。<br>
<br>
俺は動揺した。俺はハルヒを泣かせるつもりで言ったんじゃないし、第一ハルヒが俺の前でこんなになるまで泣きじゃくったのだって記憶には無い。疑問が次から次へと湧いてくる。もうお手上げだ。<br>
なので泣き止むまで待つなどどいう紳士的行動よりも疑問を口にしてしまった。<br>
「俺のせい・・なのか。」<br>
ハルヒは顔を覆って肩を震わせたままだ。いかん。鼻をすする音が大きくなってきた。<br>
「だから言ったんだ。何でもいいから何かあったら言ってくれと・・」<br>
「そうよあんたのせいよ!何でいきなりあんなこと言うのよ!!」<br>
「何で・・て別に大したことじゃない。いつも思っていたことだ。だから・・」<br>
「別に泣きたくて・・ッ・・泣いてるわけじゃないのよ!!勝手に・・涙が・・っ!!」<br>
こんな時まで素直になれないところが逆に愛しいのはもうハルヒ病の証拠かね。<br>
俺の前で感情を素直に吐露していくハルヒを俺は思わず抱き寄せた。そうせずにいられるかよ。<br>
「泣いてくれよ。」<br>
「・・へっ・・・」<br>
「お前が何考えてるのか俺には全部は理解できないけどさ。泣きたくなったら怒ったり遠まわしにしたり怖がったりないで俺の前で泣いてくれよ。そういう時の素直なハルヒはすごく・・・なんというか綺麗で美しい・・からさ。」<br>
「へんなこと言わないでよ・・余計に涙がああ・・」<br>
「嬉しいときは嬉しいって言うんだ。特にこういう時はな。」<br>
「バカ・・バカキョン・・嬉しいわよぉ・・!」<br>
ハルヒはそう言って俺の腕の中で泣き続けた。俺はひたすらハルヒが落ち着くまで背中を撫でてやる。<br>
<br>
いつも好きだと思っていても、相手がそれをわかっていても、言葉として言わないと伝わらないことがある。<br>
愛しているなんてまさにそうだ。俺自身だってこんな恥ずかしいセリフ言うのに多少の勇気がいる。性格が性格だし、相手はハルヒだ。<br>
でも言わなきゃだめなんだ。もしかしたらハルヒは俺が仕事で忙しいから、特に今は試験なるものもすぐそこだからな、自分と関わると俺に迷惑がかかるんじゃないかと思ってたのではないか。<br>
俺と共に過ごす時間が俺にとって不都合なんじゃないかって。そうやって必死に我慢して、どこかループな毎日を送って、絆が薄れていく
のが怖かったのではないか。<br>
たとえ毎日でも愛の言葉が欲しかったんじゃないだろうか。そしてそれを言えるわけが無い自分の性格と葛藤し続けてきたんだ。<br>
何でもっと早く気づかなかったんだ・・・!<br>
<br>
<br>
「何よ。キョンの心臓・・バクバクじゃない。」<br>
少し落ち着いたハルヒが呟いた。<br>
「ああ、すごく動揺した。ハルヒが俺の前で初めてこんなに泣いてくれたんだからな。」<br>
「・・・何言ってんのよ。あたしがあんたのせいでどれだけ泣かされたかわかってるの?」<br>
「そんなに罪な男か、俺は。」<br>
「なんなら列挙してあげるわよ。最初に覚えてるのはずっと前にあんたが今日みたいにあたしのプリンを勝手に食べてそれを誉めてくれた日。なんで涙が出るのかわからなかったけどね!」<br>
もうこの時点で俺は気がついた。<br>
「次はあんたがSOS団を楽しいとさりげなく言った日。なんで気持ちに気づかないんだろうって思ってたから!」<br>
ハルヒは顔を上げて叫ぶように言い挙げていった。<br>
「それとあんたに告白された日!あんたと付き合ってから初めて喧嘩した日!初めてあんたに抱かれた日!あんたがその日のうちに必死に仲直りしようと深夜にあたしの部屋に押しかけた日!あんたがあたしに料理を作った日!」<br>
ハルヒの腕に力が入った。<br>
「あんたにプロポーズされた日!あんたが夜遅くに出張から戻ってきた日!理由は全部違うけど全部あんたに泣かされたわよ!!」<br>
<br>
<br>
ハルヒは思いつく限り全てを列挙したのだろう。<br>
もう見事とでも言うべきか知らんが、全てに俺は心当たりがあった。<br>
なるほどね。喧嘩話が多いのはそういうことだったのか。<br>
夢に結婚式関連が来なかったのはハルヒが泣いていなかったから。<br>
やっと繋がった。そうだったのか。<br>
ここ数日俺を悩ませていたハルヒとの思い出が夢として再現される現象。<br>
つまりハルヒは今でも俺に好きだと言われたかったんだ。<br>
たまには俺に甘えたかったんだ。<br>
俺の前で素直に泣きたかったんだ。<br>
<br>
どこまで遠回りすれば気がすむんだよ。<br>
得意の無意識下が能力を発動してしまうまでに自分を追い詰めるなよ。<br>
俺に心配をかけさせたくないと思うなんてお前らしくないんだよ・・・。<br>
<br>
「キョン?あんたもひょっとして泣いてるの?男のくせに。」<br>
「知ら・・ねえよ・・っ・・」<br>
<br>
そうして俺たちはお互いの顔を見て笑いあった。<br>
久しぶりに交わした長くて甘いキスはかすかにプリンの味がした。<br>
それはどこかとても懐かしい味だった気がする。<br>
<br>
<br>
<br>
加えて、ここからは就寝時の話になる。<br>
<br>
「ハルヒ、明日は久しぶりにデート探索するぞ。」<br>
「えっ・・でも・・」<br>
「有給取ったから。」<br>
「ちょっと・・何考えてんのよ。」<br>
「俺が、お前と過ごしたいんだ」<br>
「・・仕方ないわね。丁度行ってみたかった所があるのよ。」<br>
「やっぱりな。」<br>
「明日はこのあたしに任せなさい!」<br>
俺からの誘いなのにハルヒはリードする気のようだ。<br>
やっぱハルヒはハルヒだな。<br>
<br>
俺はこの日本当に久しぶりに気持ちよく眠りについた。<br>
ハルヒも、これでもかってほど幸せそうな顔をして眠っている。<br>
全て終わったんだ。<br>
<br>
<br>
そう、すべて終わった。俺はそう思っていたんだ。<br>
だってそうだろ?ハルヒが不安定になるのは今に始まったことじゃない。<br>
だから俺はそもそも何でハルヒが能力を使ってしまうほど不安定になったのか・・・<br>
その理由を追究しなかったんだ。すまんがこればっかりは仕方ないと言わせてもらおう。<br>
俺は安心しきって寝ている。<br>
これはこのとき別の言い方をすれば、油断しきっていたのだった。<br>
<br>
<br>
<br>
</p>
<hr>
<br>
<br>
<br>
<br>
・・・11日目だな。<br>
もう数える必要が無いのに習慣とは恐ろしい・・<br>
<br>
と言ってる場合ではない。<br>
俺は飛び起きた。<br>
<br>
心臓がまたバクバクいってやがる。なんてこった・・。<br>
「キョン?あんた今起きたの?」<br>
「ハルヒも今起きたのか。」<br>
隣で寝ていたハルヒも起こしてしまったようだ。<br>
いかん。落ち着け俺。<br>
<br>
夢を見てしまった。<br>
<br>
それも普通の夢じゃない。あの独自の臨場感は間違いなくハルヒが見せるものだった。<br>
1週間以上も同じ感覚を味わったから分かる。問題はそこじゃない。<br>
<br>
<br>
今見た夢の内容は、俺とハルヒの思い出ではない。<br>
でも確かに内容は俺とハルヒが共に過ごした日だったのだ。<br>
<br>
いや、あれはもう間違いなく過去というより・・・<br>
<br>
「キョン、あたし用事を思い出したわ。ちょっと出かけてくる。」<br>
「えっ・・!?」<br>
「すぐ戻るから!!」<br>
<br>
そう言うなりハルヒはすばやく着替えて車を飛ばしてどこかに行ってしまった。<br>
こんな朝早いとコンビニぐらいしかやってないぞと言おうと思ったが、時間を見れば昼前だった。<br>
そういや有給取ってゆっくり寝てたんだったな。<br>
<br>
とりあえず俺は着替えたり新聞を読んだり、ついでに朝飯を用意する。<br>
久しぶりのゆっくりとした朝だったからな。<br>
だけど俺は落ち着かない気分になった。理由は考えない方がいい気がする。<br>
どうも手がパソコンに向かいたいようで、仕方が無いので俺は電源だけ入れた。<br>
自分に対してわかっていないフリをしている気分だが、そうなのかね。
<p>そろそろハルヒが出て行って結構経ったなと思ったところで、玄関の扉が破壊される勢いで開かれた。<br>
俺が驚いて玄関に行くとハルヒは息を切らしながら大声で叫んだ。<br>
<br>
<br>
<br>
「キョン!!信じられない!!子供が出来たわ!!あたし達の子供よーーっ!!!」<br>
<br>
<br>
・・・つまり、こういうことだ。<br>
ハルヒが気分を悪くしていたのは吐き気だった。<br>
これは世間一般におめでたい病気といわれる『つわり』の一番わかりやすい症状だ。<br>
俺が仕事に出ている間にもハルヒはこれで悩んでいた時があったという。<br>
妊娠初期に訪れるつわりの複雑な症状は他にもいろいろあるわけで・・・<br>
ハルヒがダイエット!と言ってたのはやっぱり食欲不振で(正確には好き嫌いの変化)<br>
寝坊したのも単純に眠気に襲われるという症状だった。<br>
そして心理不安定。これが今回の夢騒動の引き金となってしまったわけだ。<br>
<br>
しかもハルヒはこれらの症状を本当に風邪の一種だと思い込み、全部俺に隠そうとしたという。<br>
もう何でそこまでして俺を庇おうとするのか理解しかねる。ほんとに何で・・・<br>
何かを叫びたくなったが、言葉が脱力してしまう。やれやれとは言わないがな。<br>
<br>
ということは何だ。もしかしたら長門はわかっていたのか。ひょっとしたら古泉も。<br>
朝比奈さんもわかっているだろう。わかってて皆揃って俺が気づくのを待ってたのか。畜生め。<br>
<br>
まぁしかしこれでようやく全てが解決したわけだ。<br>
大変なのはこれからだけどな。<br>
<br>
「ほら!!あんたも喜びなさいよこの偉大な発見を!!」<br>
「発見じゃねーだろ!!それと暴れるな!体を大事にしてくれ!俺は喜んでるから!!あと病院行くなら俺も一緒に・・」<br>
「今日はSOS団でパーティよ!!キョン!!ほらちゃっちゃと準備するわよ!!!」<br>
<br>
やっぱり聞いてない。でも俺は凄く懐かしい感じの会話をしている気分になった。<br>
俺の手を取って喜び回るハルヒを見ているとそんなことすらどうでもよくなっちまうんだがな。<br>
<br>
その夜、まるでわかっていたかのように迅速に集合したSOS団と後々加わった準団員でハルヒの懐妊パーティが開かれた。<br>
今からこんな調子で大丈夫なのかね。<br>
まぁ俺自身が、何よりハルヒが楽しそうな様子を見ていると俺は安堵してしまうわけだ。<br>
近い未来の出来事を色々想像しながら、俺は一人格好つけて誓ってみた。<br>
二度とハルヒに不安を抱かせるものか、とね。<br>
<br>
「キョン!何そこでボーっとしてんのよ!!早くこっち来なさい!!」<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
</p>
<hr>
<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
・・・さて。<br>
<br>
気分も季節もとてもあたたかい。<br>
そんな休日に俺達は花見を兼ねて少し広い公園に来ている。<br>
<br>
あまりにも気分が良かったので昼飯を食べた後、そのまま軽く眠ってしまったようだ。<br>
子供のはしゃぐ声でぼんやりと目が覚めた俺は思わず心の中で呟いた。<br>
<br>
なるほど。今日はX日目か。<br>
<br>
<br>
<br>
Xデーという呼び名もあるみたいだが俺の法則に従えばそうなのだろう。数年前の法則だがな。<br>
<br>
それにしてもなんと元気なことよ。元気すぎて今にも転んでしまうのではないかとちょっとハラハラする。<br>
子供が2人、一人はどうも俺に似ているような気がして、もう一人はどうもハルヒに似ている。<br>
まぁ俺の当たらない勘でしかないんだけどな。<br>
<br>
「起きたの?キョン」<br>
隣でのんびりしていたハルヒが語りかけてきた。<br>
「すまん、ついウトウトしちまった」<br>
「別にいいわよ。いつものことでしょ」<br>
そう言って前を向く。そんなハルヒに俺は語りかけてみた。<br>
「なぁハルヒ」<br>
「何?」<br>
「信じられるか。実は俺、この光景を夢で見たことがあるんだぜ。」<br>
「ふぅーん。」<br>
「もうずっと前の話だけどな」<br>
「・・・残念でした!」<br>
「ん?」<br>
「実はあたしも見たことがあるのよ。でもいつだったかは秘密!」<br>
<br>
そうかい、と返事を返し俺も前を見る。<br>
一緒の日だったらいいかもな。<br>
<br>
<br>
---THE END---<br>
<br>
<p>・・・10日目だな。<br>
・・・<br>
・・・・・・!?<br>
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俺は飛び起きた。<br>
叫びたくなったが自重しておこう。ハルヒに気づかれたらたまったもんじゃない。<br>
時計を見る。まだちょっと早い。もう少し寝ようか、いやだめだ。寝れんだろう。<br>
別に大したことじゃない筈なのに何でこんなに動揺してるんだろうか。<br>
俺は今日夢を見ていない。<br>
<br>
そうだ。昨日見た夢がもう2年以内の最近のことだったから見せるに値する夢が無かったのかもしれない。<br>
とにかく何か知らんがもう夢を見ることは無いのかもしれない。<br>
でもいくら俺が開き直ったとはいえ、いきなり俺だけに奇妙な現象が起きていきなり終わってしまうとなると、理由がどうしても知りたくなる。推理小説において犯人の動機を知りたくなるのと一緒でな。<br>
といっても考えてもどうしようもないのはわかっているので俺はいつも通りの行動に徹することにした。<br>
ハルヒと共に朝食を食べて仕事に出る。夢を見ていない他に何一つ違和感は無かった。<br>
<br>
「ただいま」<br>
俺は雑念疑念がどうしても尽きないまま帰宅する時間を迎えた。<br>
晩飯が用意してあった。まだ温かい。作りたてだろう。<br>
ハルヒはまた居間で寝ていた様子だか、俺の声を聞いて起きたようだ。<br>
「キョン?おかえり・・」<br>
「ったく居間で寝るなって言っただろ。」<br>
「5分ぐらいしか寝てないわよ。ほらさっさと食べるわよ。」<br>
「お前の分が無いんだが。」<br>
「だからダイエットって言ったでしょ。」<br>
「おい、いくらダイエットとはいえ食事抜きは健康に悪い。やめとけよ。」<br>
「デザートは食べるからいいの」<br>
やれやれなんと理不尽な言い訳だ。なんだかハルヒの様子を見るとやせるというよりやつれてしまうのではないかと心配だ。<br>
ハルヒは太っている事を気にしている様子なぞ見たことが無いし、それ以前に太ってなどいない。完璧なプロポーションを保っているというのにそれを崩すのは誠にもったいない。明日にでもやめさせてやる
。<br>
ひょっとしてこれも夢に関係が・・・いやまさかだな。もう夢は終わったんだ。今更考える必要は無いだろうと自分に何度も言い聞かせただろうが。<br>
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<br>
食事を終えるとハルヒがデザートを持ってきてくれた。<br>
デザートは久しぶりなので心が躍る。それもハルヒの手作りときたもんだ。<br>
「ありがたーく頂くことね。あんたの好きなプリンだから。」<br>
いや、プリンが好きなのはお前だろうに。まぁ俺もだがな。<br>
こうしてハルヒと横に並んで座りながらデザートを頂いた。<br>
相変わらずなんて美味いんだ。俺は夢中で食べてしまった。<br>
ハルヒはそんな俺をちょっと呆れた視線で眺めていた。もっと味わって食べろってことか。<br>
ハルヒより先に食べ終わった俺は適当に感想を言ってみる。<br>
「ほんとにお前の作るもんはどうしてこんなに美味いんだよ。」<br>
「もう、だったらもっと舐めるように味わって食べてよね。」<br>
「すまんな。」<br>
ここで俺はふっと頭に蘇ってきたあの日を思い出した。<br>
最初に見たあの夢。俺とハルヒがまだ意地を張り合っていたあの日だ。<br>
あの時もハルヒは俺にプリンを作って様子見してたんだっけ。<br>
俺がプリンを好きだと言ったから。ハルヒの作ったプリンを食べたいと言ったから。<br>
そしてそれは今現在にも繋がっている。<br>
急に衝動がこみ上げてきた。急に言葉を伝えたくなった。いつも思っていることだ。俺もハルヒも解りきっていることだ。それでも・・・<br>
ハルヒは俺が黙り込んだのを見て変な視線を向けてくる。<br>
俺はいつも心の中で呟いている事をそのままハルヒに向かって言った。<br>
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「いつもありがとう。愛してるよ、ハルヒ」<br>
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突然の俺の言葉にハルヒは呆然としてしまった。<br>
考えてみると空気もへったくれもないこの場でいきなり言うのはNGだったか。<br>
もういいか。ハルヒも解りきってることだしこんなタイミングで言うのは可笑しいよな。<br>
はぁ?いきなり何言ってんの とかいう声が今にも聞こえてきそうだ。<br>
俺がごちゃごちゃ考えて顔やら頭やらから煙が出そうだとかもうわけわかんなくなっている間も、ハルヒはずっと黙り込んでいた。止まってるのか?再生ボタンはどこだい?さっきもう・・って本当に落ち着け俺。<br>
ハルヒは依然として黙り込んでいた。<br>
「ハルヒ? おいハルヒ・・?」<br>
「・・・」<br>
表情を読もうとする俺を阻むようにハルヒは俯いた。<br>
まさかと思う間も無くハルヒは手で顔を覆って肩を振るわせ始める。<br>
「ハルヒお前、泣いてるのか!?」<br>
「・・・泣いてないわよおおー!!!」<br>
そう言っているハルヒはどう見ても泣いているようにしか見えなかった。<br>
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俺は動揺した。俺はハルヒを泣かせるつもりで言ったんじゃないし、第一ハルヒが俺の前でこんなになるまで泣きじゃくったのだって記憶には無い。疑問が次から次へと湧いてくる。もうお手上げだ。<br>
なので泣き止むまで待つなどどいう紳士的行動よりも疑問を口にしてしまった。<br>
「俺のせい・・なのか。」<br>
ハルヒは顔を覆って肩を震わせたままだ。いかん。鼻をすする音が大きくなってきた。<br>
「だから言ったんだ。何でもいいから何かあったら言ってくれと・・」<br>
「そうよあんたのせいよ!何でいきなりあんなこと言うのよ!!」<br>
「何で・・て別に大したことじゃない。いつも思っていたことだ。だから・・」<br>
「別に泣きたくて・・ッ・・泣いてるわけじゃないのよ!!勝手に・・涙が・・っ!!」<br>
こんな時まで素直になれないところが逆に愛しいのはもうハルヒ病の証拠かね。<br>
俺の前で感情を素直に吐露していくハルヒを俺は思わず抱き寄せた。そうせずにいられるかよ。<br>
「泣いてくれよ。」<br>
「・・へっ・・・」<br>
「お前が何考えてるのか俺には全部は理解できないけどさ。泣きたくなったら怒ったり遠まわしにしたり怖がったりないで俺の前で泣いてくれよ。そういう時の素直なハルヒはすごく・・・なんというか綺麗で美しい・・からさ。」<br>
「へんなこと言わないでよ・・余計に涙がああ・・」<br>
「嬉しいときは嬉しいって言うんだ。特にこういう時はな。」<br>
「バカ・・バカキョン・・嬉しいわよぉ・・!」<br>
ハルヒはそう言って俺の腕の中で泣き続けた。俺はひたすらハルヒが落ち着くまで背中を撫でてやる。<br>
<br>
いつも好きだと思っていても、相手がそれをわかっていても、言葉として言わないと伝わらないことがある。<br>
愛しているなんてまさにそうだ。俺自身だってこんな恥ずかしいセリフ言うのに多少の勇気がいる。性格が性格だし、相手はハルヒだ。<br>
でも言わなきゃだめなんだ。もしかしたらハルヒは俺が仕事で忙しいから、特に今は試験なるものもすぐそこだからな、自分と関わると俺に迷惑がかかるんじゃないかと思ってたのではないか。<br>
俺と共に過ごす時間が俺にとって不都合なんじゃないかって。そうやって必死に我慢して、どこかループな毎日を送って、絆が薄れていく
のが怖かったのではないか。<br>
たとえ毎日でも愛の言葉が欲しかったんじゃないだろうか。そしてそれを言えるわけが無い自分の性格と葛藤し続けてきたんだ。<br>
何でもっと早く気づかなかったんだ・・・!<br>
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「何よ。キョンの心臓・・バクバクじゃない。」<br>
少し落ち着いたハルヒが呟いた。<br>
「ああ、すごく動揺した。ハルヒが俺の前で初めてこんなに泣いてくれたんだからな。」<br>
「・・・何言ってんのよ。あたしがあんたのせいでどれだけ泣かされたかわかってるの?」<br>
「そんなに罪な男か、俺は。」<br>
「なんなら列挙してあげるわよ。最初に覚えてるのはずっと前にあんたが今日みたいにあたしのプリンを勝手に食べてそれを誉めてくれた日。なんで涙が出るのかわからなかったけどね!」<br>
もうこの時点で俺は気がついた。<br>
「次はあんたがSOS団を楽しいとさりげなく言った日。なんで気持ちに気づかないんだろうって思ってたから!」<br>
ハルヒは顔を上げて叫ぶように言い挙げていった。<br>
「それとあんたに告白された日!あんたと付き合ってから初めて喧嘩した日!初めてあんたに抱かれた日!あんたがその日のうちに必死に仲直りしようと深夜にあたしの部屋に押しかけた日!あんたがあたしに料理を作った日!」<br>
ハルヒの腕に力が入った。<br>
「あんたにプロポーズされた日!あんたが夜遅くに出張から戻ってきた日!理由は全部違うけど全部あんたに泣かされたわよ!!」<br>
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ハルヒは思いつく限り全てを列挙したのだろう。<br>
もう見事とでも言うべきか知らんが、全てに俺は心当たりがあった。<br>
なるほどね。喧嘩話が多いのはそういうことだったのか。<br>
夢に結婚式関連が来なかったのはハルヒが泣いていなかったから。<br>
やっと繋がった。そうだったのか。<br>
ここ数日俺を悩ませていたハルヒとの思い出が夢として再現される現象。<br>
つまりハルヒは今でも俺に好きだと言われたかったんだ。<br>
たまには俺に甘えたかったんだ。<br>
俺の前で素直に泣きたかったんだ。<br>
<br>
どこまで遠回りすれば気がすむんだよ。<br>
得意の無意識下が能力を発動してしまうまでに自分を追い詰めるなよ。<br>
俺に心配をかけさせたくないと思うなんてお前らしくないんだよ・・・。<br>
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「キョン?あんたもひょっとして泣いてるの?男のくせに。」<br>
「知ら・・ねえよ・・っ・・」<br>
<br>
そうして俺たちはお互いの顔を見て笑いあった。<br>
久しぶりに交わした長くて甘いキスはかすかにプリンの味がした。<br>
それはどこかとても懐かしい味だった気がする。<br>
<br>
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加えて、ここからは就寝時の話になる。<br>
<br>
「ハルヒ、明日は久しぶりにデート探索するぞ。」<br>
「えっ・・でも・・」<br>
「有給取ったから。」<br>
「ちょっと・・何考えてんのよ。」<br>
「俺が、お前と過ごしたいんだ」<br>
「・・仕方ないわね。丁度行ってみたかった所があるのよ。」<br>
「やっぱりな。」<br>
「明日はこのあたしに任せなさい!」<br>
俺からの誘いなのにハルヒはリードする気のようだ。<br>
やっぱハルヒはハルヒだな。<br>
<br>
俺はこの日本当に久しぶりに気持ちよく眠りについた。<br>
ハルヒも、これでもかってほど幸せそうな顔をして眠っている。<br>
全て終わったんだ。<br>
<br>
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そう、すべて終わった。俺はそう思っていたんだ。<br>
だってそうだろ?ハルヒが不安定になるのは今に始まったことじゃない。<br>
だから俺はそもそも何でハルヒが能力を使ってしまうほど不安定になったのか・・・<br>
その理由を追究しなかったんだ。すまんがこればっかりは仕方ないと言わせてもらおう。<br>
俺は安心しきって寝ている。<br>
これはこのとき別の言い方をすれば、油断しきっていたのだった。<br>
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・・・11日目だな。<br>
もう数える必要が無いのに習慣とは恐ろしい・・<br>
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と言ってる場合ではない。<br>
俺は飛び起きた。<br>
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心臓がまたバクバクいってやがる。なんてこった・・。<br>
「キョン?あんた今起きたの?」<br>
「ハルヒも今起きたのか。」<br>
隣で寝ていたハルヒも起こしてしまったようだ。<br>
いかん。落ち着け俺。<br>
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夢を見てしまった。<br>
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それも普通の夢じゃない。あの独自の臨場感は間違いなくハルヒが見せるものだった。<br>
1週間以上も同じ感覚を味わったから分かる。問題はそこじゃない。<br>
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今見た夢の内容は、俺とハルヒの思い出ではない。<br>
でも確かに内容は俺とハルヒが共に過ごした日だったのだ。<br>
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いや、あれはもう間違いなく過去というより・・・<br>
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「キョン、あたし用事を思い出したわ。ちょっと出かけてくる。」<br>
「えっ・・!?」<br>
「すぐ戻るから!!」<br>
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そう言うなりハルヒはすばやく着替えて車を飛ばしてどこかに行ってしまった。<br>
こんな朝早いとコンビニぐらいしかやってないぞと言おうと思ったが、時間を見れば昼前だった。<br>
そういや有給取ってゆっくり寝てたんだったな。<br>
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とりあえず俺は着替えたり新聞を読んだり、ついでに朝飯を用意する。<br>
久しぶりのゆっくりとした朝だったからな。<br>
だけど俺は落ち着かない気分になった。理由は考えない方がいい気がする。<br>
どうも手がパソコンに向かいたいようで、仕方が無いので俺は電源だけ入れた。<br>
自分に対してわかっていないフリをしている気分だが、そうなのかね。</p>
<p>そろそろハルヒが出て行って結構経ったなと思ったところで、玄関の扉が破壊される勢いで開かれた。<br>
俺が驚いて玄関に行くとハルヒは息を切らしながら大声で叫んだ。<br>
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「キョン!!信じられない!!子供が出来たわ!!あたし達の子供よーーっ!!!」<br>
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・・・つまり、こういうことだ。<br>
ハルヒが気分を悪くしていたのは吐き気だった。<br>
これは世間一般におめでたい病気といわれる『つわり』の一番わかりやすい症状だ。<br>
俺が仕事に出ている間にもハルヒはこれで悩んでいた時があったという。<br>
妊娠初期に訪れるつわりの複雑な症状は他にもいろいろあるわけで・・・<br>
ハルヒがダイエット!と言ってたのはやっぱり食欲不振で(正確には好き嫌いの変化)<br>
寝坊したのも単純に眠気に襲われるという症状だった。<br>
そして心理不安定。これが今回の夢騒動の引き金となってしまったわけだ。<br>
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しかもハルヒはこれらの症状を本当に風邪の一種だと思い込み、全部俺に隠そうとしたという。<br>
もう何でそこまでして俺を庇おうとするのか理解しかねる。ほんとに何で・・・<br>
何かを叫びたくなったが、言葉が脱力してしまう。やれやれとは言わないがな。<br>
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ということは何だ。もしかしたら長門はわかっていたのか。ひょっとしたら古泉も。<br>
朝比奈さんもわかっているだろう。わかってて皆揃って俺が気づくのを待ってたのか。畜生め。<br>
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まぁしかしこれでようやく全てが解決したわけだ。<br>
大変なのはこれからだけどな。<br>
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「ほら!!あんたも喜びなさいよこの偉大な発見を!!」<br>
「発見じゃねーだろ!!それと暴れるな!体を大事にしてくれ!俺は喜んでるから!!あと病院行くなら俺も一緒に・・」<br>
「今日はSOS団でパーティよ!!キョン!!ほらちゃっちゃと準備するわよ!!!」<br>
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やっぱり聞いてない。でも俺は凄く懐かしい感じの会話をしている気分になった。<br>
俺の手を取って喜び回るハルヒを見ているとそんなことすらどうでもよくなっちまうんだがな。<br>
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その夜、まるでわかっていたかのように迅速に集合したSOS団と後々加わった準団員でハルヒの懐妊パーティが開かれた。<br>
今からこんな調子で大丈夫なのかね。<br>
まぁ俺自身が、何よりハルヒが楽しそうな様子を見ていると俺は安堵してしまうわけだ。<br>
近い未来の出来事を色々想像しながら、俺は一人格好つけて誓ってみた。<br>
二度とハルヒに不安を抱かせるものか、とね。<br>
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「キョン!何そこでボーっとしてんのよ!!早くこっち来なさい!!」<br>
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・・・さて。<br>
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気分も季節もとてもあたたかい。<br>
そんな休日に俺達は花見を兼ねて少し広い公園に来ている。<br>
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あまりにも気分が良かったので昼飯を食べた後、そのまま軽く眠ってしまったようだ。<br>
子供のはしゃぐ声でぼんやりと目が覚めた俺は思わず心の中で呟いた。<br>
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なるほど。今日はX日目か。<br>
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Xデーという呼び名もあるみたいだが俺の法則に従えばそうなのだろう。数年前の法則だがな。<br>
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それにしてもなんと元気なことよ。元気すぎて今にも転んでしまうのではないかとちょっとハラハラする。<br>
子供が2人、一人はどうも俺に似ているような気がして、もう一人はどうもハルヒに似ている。<br>
まぁ俺の当たらない勘でしかないんだけどな。<br>
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「起きたの?キョン」<br>
隣でのんびりしていたハルヒが語りかけてきた。<br>
「すまん、ついウトウトしちまった」<br>
「別にいいわよ。いつものことでしょ」<br>
そう言って前を向く。そんなハルヒに俺は語りかけてみた。<br>
「なぁハルヒ」<br>
「何?」<br>
「信じられるか。実は俺、この光景を夢で見たことがあるんだぜ。」<br>
「ふぅーん。」<br>
「もうずっと前の話だけどな」<br>
「・・・残念でした!」<br>
「ん?」<br>
「実はあたしも見たことがあるのよ。でもいつだったかは秘密!」<br>
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そうかい、と返事を返し俺も前を見る。<br>
一緒の日だったらいいかもな。<br>
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---THE END---<br>
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