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<p>「このままだと、また繰り返すことになりそうですね。次が何回目でしたっけ?」<br> 「19568回目」<br>  長門有希は淡々と答えた。<br> 「僕としては、何とかそれは避けたいところです。いっそのこと、あなたが彼に、僕が涼宮さんに告白するという作戦はいかがですか? 一種の当て馬ですね。『機関』の了承も得られてます」<br> 「それはこれまで14327回試みられたが、いずれも失敗に終わっている。私とあなたの告白は相手に受け入れられることはなく、彼と涼宮ハルヒとの関係にはなんらの変化も生じなかった。<br> 彼は、現在、誰に対しても恋愛感情を抱いていないし、涼宮ハルヒが誰と交際することになっても構いはしないと本気で思っている」<br> 「まさか、そこまでとは……」<br> 「シークエンスを重ねるほど、彼のこの傾向はより強固になっている。彼にとって最も大事なのはSOS団そのものであって、特定の個人ではない」<br> 「……」<br>  古泉一樹は、絶句するしかなかった。<br> 「彼が3学年になった時期には、この傾向は確定されつつあった。よって、3学年の1年間をいくら繰り返しても打開は極めて困難。そろそろ、涼宮ハルヒの無意識がこの事実に気づく可能性もある」<br> 「つまり、次は、3年生の初めではなく、もっと過去にさかのぼる可能性があると?」<br> 「そう」<br> 「情報統合思念体の意向はどうなのですか?」<br> 「静観せよ──私は、そう命じられている。無限のループは、観測を永遠に続けられることを意味する。情報統合思念体にとっては、むしろ望ましいこと」<br> 「それは困りましたね。涼宮さんがいずれ絶望して、世界を改変してしまう可能性もあるんですよ。そうなったら、情報統合思念体だってどうなるか分からないというのに」<br> 「私もその懸念は伝達しているが、情報統合思念体は人間の感情の機微を理解できていない。留意しているようには感じられなかった」<br> 「極めて危険な状態ですね」<br> 「次のシークエンスに期待するしかない」<br> 「次があればの話ですけどね……」<br>  <br>  <br>  朝比奈みくるは、大学から帰り、自室のベッドに腰をかけた。<br>  未来との交信を試みる。<br>  応答なし。<br>  毎日のように行なっている作業。そして、いつも同じ結果。<br>  カレンダーを見る。<br>  彼女の後輩たちの卒業式の日が近い。<br>  でも、今回も、その日が来ることはないのだろう。<br> 「次は、何回目でしたっけ……?」<br>  つぶやかれた言葉は、部屋の静寂の中に吸い込まれていった。<br>  <br>  <br>  北高の中庭。<br>  あたしは、キョンを呼び出して、ぶらぶらと歩いていた。<br> 「ねぇ、キョン」<br> 「なんだ?」<br> 「……あんた、この三年間、楽しかった?」<br> 「ああ、楽しかったさ」<br>  キョンは、ごく自然にそう言った。<br> 「それは、SOS団があったから?」<br> 「当然だろ」<br> 「あんたにとって、SOS団って何?」<br> 「ありきたりの言葉になっちまうが、かけがえのないものだ」<br> 「じゃあ、あんたにとって、あたしって何?」<br>  答えはわかっているけど、あたしはあえて訊いてみた。<br> 「SOS団の団長様だろ。さらにいわせてもらえば、親友だといってもいい。長門も朝比奈さんも古泉もな」<br>  ああ、やっぱりそうなんだ。<br>  あたしは、キョンにとっては"one of them"<br>  その"them"がどれほど希少なものであったとしても、あたしは数人のうちの一人でしかない。<br>  せめて、キョンにとっての"only one"とまではいかなくても "number one"には成りたかったな……。<br> 「なんなんだ? いきなりそんなことを言い出すなんて、らしくないぜ」<br>  この鈍感男は、やっぱり、何も分かっちゃいないんだ。<br> 「もうすぐ卒業なんだなと思ってさ。みんなバラバラになっちゃうし……」<br> 「SOS団は永遠に不滅なんだろ? 団長殿が一声かければ、みんな駆けつけてくるさ」<br> 「そうね」<br>  あたしは、キョンに背を向けた。<br>  涙が出てきた。止まらない。<br>  嗚咽がもれてくる。<br> 「おい、どうしたんだ?」<br>  キョンが駆け寄ってきた。<br>  やさしいのね、あんたは……。<br>  でも、そのやさしさは残酷なのよ。<br> 「来ないで!」<br>  あたしは、キョンを突き飛ばした。<br>  <br>  <br>  <br>  そして、時間の逆流が始まった。<br>  <br>      ・<br>      ・<br>      ・<br>      ・<br>      ・<br>  <br>  個体認識、パーソナルネーム長門有希。<br>  セルフチェック開始。個体情報に欠損なし。有機身体に異常なし。<br>  現在日時、北高1学年入学日。<br>  現在所在地、北高1学年時所属学級。<br>  優先情報の捜査開始。観測対象4名及びバックアップインターフェース2体の存在を確認。<br>  <br>  <br>  パーソナルネーム長門有希より、情報統合思念体主流派へ。<br>  指示を求む。<br>  <br>  観測を継続せよ。<br>  なお、既定事項を遵守すること。ただし、8月の繰り返される2週間と、12月18日のエラー暴走を除く。<br>  <br>  了解した。<br>  <br>  <br>  既定事項遵守命令。これは、朝倉涼子にも下されたはず。<br>  彼女がこの機会を逃すはずはない。規定事項遵守命令を守るフリをして、本気で彼を殺しにかかるだろう。<br>  それには対処せざるをえない。<br>  私は、もう一度、彼女を粛清しなければならないのか……。<br>  しかも、それは、もう一度だけですむとは限らないのだ。これまで1年間をループし続けたように、この3年間もループし続ける可能性が充分にある。<br>  今回のシークエンスでそれを終わらせることは、果たして可能だろうか?<br>  <br>  <br>  <br>  <br>  <br> 「ただの人間には興味はありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」<br>  <br>  <br> 終わり</p>
<p>「このままだと、また繰り返すことになりそうですね。次が何回目でしたっけ?」<br> 「19568回目」<br>  長門有希は淡々と答えた。<br> 「僕としては、何とかそれは避けたいところです。いっそのこと、あなたが彼に、僕が涼宮さんに告白するという作戦はいかがですか? 一種の当て馬ですね。『機関』の了承も得られてます」<br> 「それはこれまで14327回試みられたが、いずれも失敗に終わっている。私とあなたの告白は相手に受け入れられることはなく、彼と涼宮ハルヒとの関係にはなんらの変化も生じなかった。<br> 彼は、現在、誰に対しても恋愛感情を抱いていないし、涼宮ハルヒが誰と交際することになっても構いはしないと本気で思っている」<br> 「まさか、そこまでとは……」<br> 「シークエンスを重ねるほど、彼のこの傾向はより強固になっている。彼にとって最も大事なのはSOS団そのものであって、特定の個人ではない」<br> 「……」<br>  古泉一樹は、絶句するしかなかった。<br> 「彼が3学年になった時期には、この傾向は確定されつつあった。よって、3学年の1年間をいくら繰り返しても打開は極めて困難。そろそろ、涼宮ハルヒの無意識がこの事実に気づく可能性もある」<br> 「つまり、次は、3年生の初めではなく、もっと過去にさかのぼる可能性があると?」<br> 「そう」<br> 「情報統合思念体の意向はどうなのですか?」<br> 「静観せよ──私は、そう命じられている。無限のループは、観測を永遠に続けられることを意味する。情報統合思念体にとっては、むしろ望ましいこと」<br> 「それは困りましたね。涼宮さんがいずれ絶望して、世界を改変してしまう可能性もあるんですよ。そうなったら、情報統合思念体だってどうなるか分からないというのに」<br> 「私もその懸念は伝達しているが、情報統合思念体は人間の感情の機微を理解できていない。留意しているようには感じられなかった」<br> 「極めて危険な状態ですね」<br> 「次のシークエンスに期待するしかない」<br> 「次があればの話ですけどね……」<br>  <br>  <br>  朝比奈みくるは、大学から帰り、自室のベッドに腰をかけた。<br>  未来との交信を試みる。<br>  応答なし。<br>  毎日のように行なっている作業。そして、いつも同じ結果。<br>  カレンダーを見る。<br>  彼女の後輩たちの卒業式の日が近い。<br>  でも、今回も、その日が来ることはないのだろう。<br> 「次は、何回目でしたっけ……?」<br>  つぶやかれた言葉は、部屋の静寂の中に吸い込まれていった。<br>  <br>  <br>  北高の中庭。<br>  あたしは、キョンを呼び出して、ぶらぶらと歩いていた。<br> 「ねぇ、キョン」<br> 「なんだ?」<br> 「……あんた、この三年間、楽しかった?」<br> 「ああ、楽しかったさ」<br>  キョンは、ごく自然にそう言った。<br> 「それは、SOS団があったから?」<br> 「当然だろ」<br> 「あんたにとって、SOS団って何?」<br> 「ありきたりの言葉になっちまうが、かけがえのないものだ」<br> 「じゃあ、あんたにとって、あたしって何?」<br>  答えはわかっているけど、あたしはあえて訊いてみた。<br> 「SOS団の団長様だろ。さらにいわせてもらえば、親友だといってもいい。長門も朝比奈さんも古泉もな」<br>  ああ、やっぱりそうなんだ。<br>  あたしは、キョンにとっては"one of them"<br>  その"them"がどれほど希少なものであったとしても、あたしは数人のうちの一人でしかない。<br>  せめて、キョンにとっての"only one"とまではいかなくても "number one"には成りたかったな……。<br> 「なんなんだ? いきなりそんなことを言い出すなんて、らしくないぜ」<br>  この鈍感男は、やっぱり、何も分かっちゃいないんだ。<br> 「もうすぐ卒業なんだなと思ってさ。みんなバラバラになっちゃうし……」<br> 「SOS団は永遠に不滅なんだろ? 団長殿が一声かければ、みんな駆けつけてくるさ」<br> 「そうね」<br>  あたしは、キョンに背を向けた。<br>  涙が出てきた。止まらない。<br>  嗚咽がもれてくる。<br> 「おい、どうしたんだ?」<br>  キョンが駆け寄ってきた。<br>  やさしいのね、あんたは……。<br>  でも、そのやさしさは残酷なのよ。<br> 「来ないで!」<br>  あたしは、キョンを突き飛ばした。<br>  <br>  <br>  <br>  そして、時間の逆流が始まった。<br>  <br>      ・<br>      ・<br>      ・<br>      ・<br>      ・<br>  <br>  個体認識、パーソナルネーム長門有希。<br>  セルフチェック開始。個体情報に欠損なし。有機身体に異常なし。<br>  現在日時、北高1学年入学日。<br>  現在所在地、北高1学年時所属学級。<br>  優先情報の捜査開始。観測対象4名及びバックアップインターフェース2体の存在を確認。<br>  <br>  <br>  パーソナルネーム長門有希より、情報統合思念体主流派へ。<br>  指示を求む。<br>  <br>  観測を継続せよ。<br>  なお、既定事項を遵守すること。ただし、8月の繰り返される2週間と、12月18日のエラー暴走を除く。<br>  <br>  了解した。<br>  <br>  <br>  既定事項遵守命令。これは、朝倉涼子にも下されたはず。<br>  彼女がこの機会を逃すはずはない。既定事項遵守命令を守るフリをして、本気で彼を殺しにかかるだろう。<br>  それには対処せざるをえない。<br>  私は、もう一度、彼女を粛清しなければならないのか……。<br>  しかも、それは、もう一度だけですむとは限らないのだ。これまで1年間をループし続けたように、この3年間もループし続ける可能性が充分にある。<br>  今回のシークエンスでそれを終わらせることは、果たして可能だろうか?<br>  <br>  <br>  <br>  <br>  <br> 「ただの人間には興味はありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」<br>  <br>  <br> 終わり</p>

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