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「長門有希の報告Report.23」(2020/03/15 (日) 18:54:32) の最新版変更点
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<h4>Report.23 長門有希の憂鬱 その12 ~涼宮ハルヒの手記(後編)~</h4>
<p><br>
前回に引き続き、観測対象が綴った文書から報告する。</p>
<hr>
<h5><br>
(朝倉涼子の幻影I)</h5>
<p><br>
最近、朝倉が出てくる夢を見る。<br>
最初は変な空間だった。<br>
「ようこそ、涼宮さん。ここはわたしの情報制御下にある。」<br>
朝倉は、意味不明なことを宣言した。と思ったら、おもむろにごっつい軍用ナイフを取り出した。そして、あたしに向けてナイフを構えた。<br>
「ちょ、ちょっと! 何の冗談よ、それ!? 面白くないし笑えないって!」<br>
朝倉はあたしの呼び掛けを完全に無視すると、一直線にあたしを刺してきた。<br>
「……っ!」<br>
あたしは紙一重で、朝倉の攻撃をかわした。<br>
「性質の悪い冗談はやめて! 玩具でも危ないって!」<br>
あたしは叫びながら、あたしを掠めていった朝倉に向き直った。<br>
……ナニ、コレ。<br>
朝倉のナイフが、何もない空間に突き刺さっているように見えた。<br>
かと思ったら、朝倉のナイフが突き刺さってる辺りを中心に、黒い人型の靄のようなものが現れた。朝倉は、ナイフをその黒い人型の靄に突き刺したまま、靄を払うように振り抜いた。<br>
一刀両断された靄が空気に溶けていった。<br>
………<br>
……<br>
…</p>
<p><br>
なんじゃこりゃ――――!!</p>
<p><br>
ってところで目が覚めた。<br>
マジで、何じゃこりゃ?</p>
<hr>
<h5><br>
(朝倉涼子の幻影II)</h5>
<p><br>
最近、朝倉が出てくる夢を見るっていうことは前に書いたけど、この話には続きがあったのだ。いや、本当に続きなのかどうかは分かんないけど。<br>
内容としては、実は前に書いたことがあった。ここから前のどっかのページに書いてある。その内容は、まあ、その……あたしが朝倉の『ぱんつ』見て喜んでるやつよ。</p>
<p><br>
そこ! HENTAIとか言わない! あたしだって自覚してるんだから!</p>
<p><br>
冗談はさておいて。<br>
前にも書いた内容ではあるんだけど、『ぱんつ』だけなのもアレなので、もうちょっと詳しく書いとこう。<br>
状況としては、こう。<br>
あたしは通学路の途中、あの北高前の長い坂を下り、線路沿いにしばらく行った住宅街にいた。街並みは、あたしが知ってる、見慣れた風景。でも、二つ違う点があった。<br>
一つ。空の色がヘン。一言で言うと、色がない。<br>
二つ。物音がしない。本当に、一切、音がしない。完全な無音。<br>
目の前には、人影が二つ。<br>
人影その1。私服姿の朝倉涼子。両手にはなぜか鉄筋を持っている。<br>
人影その2。覆面姿の超能力者。覆面にはなぜかストッキングを使っている。<br>
そんな二人が、あたしの目の前で戦っている。超能力者が空中に鉄筋を発生させて、朝倉に向けて撃つ。朝倉は、両手の鉄筋で、飛んできた鉄筋を残らず叩き落とすと、そのまま間合いを詰めて超能力者に殴りかかる。超能力者はすぐに自分の手の中に鉄筋を出現させ、対抗する。一進一退の攻防。<br>
ああ、なんて現実離れした夢だろうか、とあたしは目の保養に勤しんでたってわけ。夢の中なのに、妙にリアルだったわね、朝倉のスカートの中身(ちなみに『縞パン』よ)。<br>
しばらく攻撃の応酬が繰り広げられた後、両者は間合いを取って睨み合い。<br>
って書くと、互角のように見えるけど、実は超能力者の方は飛び道具持ってんのよね。撃ち出される鉄筋を叩き落としてる朝倉だけど、だんだん押されていく。そして、調子に乗った超能力者は、大量の鉄筋の雨を朝倉に降らせた。<br>
夢の中なのに、思わず叫んじゃったわ。まあ、朝倉は無事だったけど。さすが夢。<br>
その後もすごかった。<br>
地面に磔にされた朝倉の言葉に、あたしは有希の姿を思い浮かべた。</p>
<p><br>
何ということでしょう。<br>
再び降る鉄筋の雨を爆散させて、長門有希が颯爽と現れたのです。</p>
<p><br>
……いや、劇的にビフォーアフターしてる場合じゃないって。自分で自分にツッコミを入れてる間に、有希はヌンチャクで超能力者をしばき始めた。……いつも通りの無表情で。</p>
<p><br>
有希……相当怖いって、それ。</p>
<p><br>
だって、考えてみてよ? ぱっと見は可憐で儚げな美少女が、ストッキングで覆面した変態を、無言で無表情のまま、淡々とヌンチャクでどつき回してるのよ!<br>
こんなシュールな画には、なかなか遭遇できないわね。<br>
それから朝倉は、これまたイメージぴったりな薙刀を装備。あたしの護衛として大立ち回りを披露してくれた。<br>
はっきり言うわ。</p>
<p><br>
激萌え!!</p>
<p><br>
夢の中の二人は、なぜか息もぴったりで、まるで長年付き合った相棒みたいだと思った。</p>
<p><br>
まるで……姉妹みたいに。</p>
<hr>
<h5><br>
(朝倉涼子の幻影IV)</h5>
<p><br>
夢とは、まこと奇怪なものであることよ。<br>
……古文の直訳風に書き出してみたけど、他意はない。<br>
最近、朝倉が出てくる夢を見るけど、今日のは今までで一番恥ずかしい夢だった。<br>
これを書いてるのは午前五時。あまりの恥ずかしさに目が覚めて、しかもそのまま眠れなくなったってわけ(目が覚めたのは四時頃だったような……うわ、一時間も悶々としてたのか! 重症だ……orz)。<br>
どうにも寝付けないし、悶々として身悶えして仕方がないので、文章を書いて気持ちを落ち着けようと試みるテスト。<br>
ああ、やっぱり動揺してるな。日本語おかしい。「試みる」と「テスト」って、意味一緒やん!<br>
……よし。大分落ち着いてきた。落ち着いてこー!<br>
ああもう。いい加減話を進めよう。書き出してしまわないともう、おかしくなりそうだし。<br>
まず場面を説明するわ。<br>
この夢は、この間見た夢と繋がっているのかいないのか、よく分からない状況。ただ、なんかやたら長い、どこかで見たような包みが壁に立て掛けてあったから、多分続きものじゃないかと睨んでる。<br>
壁、ってことでも分かるように、場所は室内。て言うか部室。<br>
登場人物は、朝倉、有希、みくるちゃん、古泉くん、キョン、それから……喜緑さん? 生徒会役員の。あのクソ生徒会長と一緒に現れた人。SOS団に恋人の捜索依頼をしてきたこともあったわね。<br>
状況は、部室で、あたしと有希が話してて、というか、あたしが有希に語りかけてて、それを登場人物全員に見られてるところ。<br>
こんな大勢の人間に見られながら、あたしは……うわー、やっぱり恥ずかしい!<br>
自分でも分かるくらい、顔が熱い。多分、真っ赤になってるんだろうなあ。でも、これを書かなきゃ、多分ずっとこの顔と身体の熱さは治まらないわ。<br>
こんな衆人環視の状況で、あたしは、有希に、激しく、</p>
<p><br>
告 白 し た<br>
キ ス し た</p>
<p><br>
………<br>
……<br>
…<br>
ぎゃぽ――――!! 死ぬほど恥ずかしい!!</p>
<p><br>
――30分経過。ようやく落ち着いてきたので再開。<br>
あれから30分、あたしは布団でずっとごろごろ転がってた。ていうか、身悶えてた。あひー、とか奇声を発しながら。……こんな姿、人には絶対見せられないな。<br>
夢の話の続きは……</p>
<p><br>
あ゛――――! ダメ! 無理! もうこれ以上詳しく書けない! 書いたら死んじゃう! でも書かないとやっぱり恥ずかしくて死んじゃう!</p>
<p><br>
ギリギリ書ける範囲で書いてみることを試みると、次のようになる。<br>
あたしは有希を正面から見据えた。そして、有希に出会った日からの、あたしと有希の思い出を語った。<br>
最初はやけに無口で変わった娘だと思っていたこと。それがだんだん、どうすれば仲良くなれるかというものに変わっていったこと。文化祭の思い出。体育祭の思い出。雪山の冬合宿。バレンタインデー攻略計画。<br>
要は、あたしの「愛の告白」が延々と続いてたってわけ。<br>
おお、これだけ端折って書くと、書けるもんね。<br>
しかし、ありえない。夢だから、で説明は付くけど。<br>
それにしても、おかしすぎる。違和感ありまくり。どこに違和感を覚えるかって、そら、女が女に告白してる時点でツッコミ入れるやろ! ってなもんだけど、そこだけじゃない。何というか、夢にしては、そしてありえない情景にしては、妙に現実感があることか。<br>
今でも、こう、抱き締めた時の有希の感触とか……うわー! 不用意に書いたら、感触が蘇ってきた――――!<br>
落ち着け落ち着け……こんせんとれーしょん……って、それは「集中」!<br>
アホなこと書いてないで、先に進めよう。<br>
さて。このやたらと恥ずかしい夢は、困った事に、非常に現実感があるのだ。なぜなら、夢の中で有希に熱く語った、あたしと有希の思い出が、どれも実話だからだ。<br>
思い出だけじゃない。あたしの、有希に対する「想い」もまた、現実にあたしが有希に感じてる想いをいろいろと加工したら、わりと無理なく得られるくらいに「それっぽい」のだ。</p>
<p><br>
つまり。</p>
<p><br>
あたしは、有希のことが好き?</p>
<p><br>
……ということは、これはあたしの願望っていうこと?<br>
いつか、有希に告白したい。そしてOKを貰いたいっていう、信じられないような願望だと? ありえなーい。<br>
はあ。明日からどんな顔して有希に接したら良いんだろ? まともに顔見られないかも。<br>
そうだ。試しに有希に抱きついてみて、感触を確かめてみようか。それで「現実は違う」って納得しよう。<br>
……なんてね。アホか、あたしは。</p>
<p><br>
翌日。……結局実行してしまった。アホや、あたしorz</p>
<p><br>
えー、抱き締めた有希の感触は、小さくて、柔らかくて、正直たまりませんでした……</p>
<p><br>
って、違う、そうじゃなくて。<br>
驚いたことに、夢の中と同じ感触だった。<br>
すぐに抱き比べ(!)てみたけど、やっぱりみくるちゃんとは違う感触。主に胸とか。<br>
いやー、有希ってば、やっぱりちっちゃくて可愛いなぁ~!<br>
でも身長は、実はみくるちゃんの方が若干低いのよね。あの巨乳で分かりにくいけど、みくるちゃんの方が、本当は小柄なのよね。抱き締めても、全然そうとは思えないけど。<br>
有希の方が、胸とか小振りで、なんていうかイメージぴったり? って感じ。<br>
みくるちゃんのは「手から溢れ出す」って感じだけど、有希のは「手に収まる」って感じかな。小柄な身体と小振りな胸を、あたしの身体と掌でしっかり掴めるというか。<br>
……とにかく、みくるちゃんの感触を夢で再生してたわけじゃなかった。<br>
何であたしは、有希の抱き心地を知ってたんだろう。まだ抱いたことなかったはずなのに。まさか予知夢?<br>
って、「抱いたことない」って、なんか変な意味にも取れるわね……</p>
<p><br>
うーん……<br>
考えれば考えるほど、分からないや。</p>
<hr>
<p><em>【ここから先は、涼宮ハルヒがすべてを思い出した後の話。】</em></p>
<hr>
<h5><br>
(涼宮ハルヒの混乱)</h5>
<p><br>
あたしは今、猛烈に困惑している。</p>
<p><br>
何コレ。</p>
<p><br>
「コレ」とは、今この文章を書いている、この日記帳、『涼宮ハルヒの手記』のことよ。<br>
もう一度問う。何コレ。</p>
<p><br>
この手記に書いてある文字は、確かに、あたしの字だ。でも、あたしはこんな手記の存在を知らない。でも、何となく書いた覚えがある。<br>
そしてその内容が、ますますあたしを困惑させる。とても信じられない内容だわ。ぶっちゃけ、ありえない。</p>
<p><br>
だって、だってよ。<br>
あたしが、有希のこと、その……「好き」だなんて。しかも、有希と、その……「一線越えちゃってる」なんて。<br>
あー、やばいやばい。書いてて顔が熱い。いや、全身か。<br>
落ち着いて考えてみなさいよ?<br>
あたしと有希は、女の子同士。<br>
そりゃ、あたしだって、有希と仲良くしたいとは、思うわよ?<br>
あの娘、いつも無口で無表情で、ちょっと変わってるところはあるけど、ああ見えてうちのSOS団随一の万能選手なんだから。団長たるあたしも鼻が高いってもんだわ。それに、確かに有希は、よく見るととても整った顔立ちで、色白で……儚げな中にも、可憐さと凛々しさが同居してる、そんな不思議な魅力があることは認めるわ。<br>
でも、だからって、有希と……「肉体的に」まで仲良くなりたいとは、さすがに思わないわ。</p>
<p><br>
だから、ありえない。それこそ、精神病の一種だわ。<br>
落ち着け、あたし。こんなときは素数を数えるのよ。<br>
1,2,3……しまった、1は素数じゃないわ。</p>
<hr>
<h5><br>
(涼宮ハルヒの決心)</h5>
<p><br>
さてと。前のページでは、あのように書いたけど。前言を撤回するわ。<br>
この手記を見付け、読み終わって、前のページを書いてからしばらくの間。<br>
あたしは、心を落ち着けるために、しばらくぼーっとしてた。<br>
物事を考察するに当たっては、先入観や固定観念は最大の障害となる。だから、心を空っぽにするために、ひたすらぼーっとしてた。ある意味放心状態よね。そうやってしばらく放心して、明鏡止水のような心境になって、あたしは再び考え出した。<br>
そうしたら、思い出した。<br>
間違いない。この手記は、あたしが書いたものだわ。朧ながらも、あたしがこれを書いていた頃のことが思い出されてきた。<br>
それと共に、ある「想い」も、思い出した。</p>
<p><br>
あたしは、有希が好き。</p>
<p><br>
まさか自分がこんなことを思ってたなんて、信じたくない、認めたくないけど、もう言い逃れはやめることにするわ。だって、自分の心にはいつまでも嘘をつき続けられないんだもの。<br>
自分の心に嘘をつくのをやめた途端、色々なことが一気に思い出された。<br>
何てことかしら。<br>
あたしは、こんなにも、有希のことが好きだったなんて。<br>
それに……有希と、その……ヤっちゃったのも本当のことだ。<br>
うわ、恥ずかしい! 有希ったら、あんなことやこんなことを……<br>
いや、そもそも、先に手を出したのはあたしなんだけどさ。<br>
てことは、自業自得か、あたし?</p>
<p><br>
あたしは、決めた。もう迷わない。もう忘れない。<br>
あたしは、有希のことが好き。<br>
この気持ちは、まだ明確に伝えてないかもしれない。あの告白が夢だったとしたら。夢じゃないかもしれないけど、それならそれでもう一度、想いを伝えたって良いはずだわ。<br>
だからあたしは、有希に手紙を書くことにした。この際だから、この手記ごと見せるわ。<br>
有希、読んでね。あたしのこれまでの、そしてこれからの気持ちをさ。</p>
<hr>
<h5><br>
(涼宮ハルヒの手紙)</h5>
<p><br>
有希に読んでほしいこと。<br>
ここまで読んで、あたしはどんなことを思っていたのか思い出した。<br>
不思議なことに、今まで何となく感じていた、心の一部が抜け落ちたような感覚が治まった。まるでパズルのピースがはまるように、抜け落ちていた部分がぴったり埋まったような気がする。<br>
この「手記」を読むに、あたしは色々と大事なことを忘れていたらしい。<br>
あたしの身に何かが起こったのだろうか? その辺りは今でもまだ思い出せない。でも、ある日を境に、心から何かが抜け落ちたような気がしていた。<br>
今なら分かる。その時「何か」があって、あたしはある大切な想いを忘れてしまった。<br>
自分で忘れていたのなら、自分の不甲斐なさを恥じるしかない。でも、なぜかそうじゃない気がする。あたしは、何者かにその想いを忘れさせられたのだと感じている。これは何かの陰謀かもしれない。<br>
とにかく、今はそのことはいい。思い出せた事実の方がずっと大切だから。<br>
思い出した想いを、改めてここに記す。もしもまた、忘れたり忘れさせられたりするようなことがあっても、すぐに思い出すことができるように。</p>
<p><br>
有希へ。</p>
<p><br>
あたしはあんたを愛してる。<br>
あたしもあんたも女の子だけど、そんなことは関係ない。<br>
いろんな意味で、あんたが好き。大好き。<br>
だからあたしは、あんたがいなくなった時、とても寂しかった。苦しかった。<br>
そして、もう二度とあんたを失いたくないって思った。<br>
それなのに、この気持ちを忘れていたなんて、どうかしてる。本当にごめん。<br>
この気持ちを忘れないように、想いを文字にしてここに記す。</p>
<p><br>
願わくば、もう二度とこの気持ちを忘れることがないように。<br>
願わくば、もう二度とあんたを失うことがないように。</p>
<p><br>
そして――願わくば、あんたとずっと一緒にいられますように。</p>
<p align="right"><br>
涼宮 ハルヒ</p>
<hr>
<p><em>【ここまでが、その時にわたしが見た手記の内容。その後、次の部分が涼宮ハルヒ自身の手によって新たに書き加えられた。】</em></p>
<hr>
<p><br>
追伸</p>
<p><br>
有希はあたしの嫁。</p>
<p><br>
「嫁」と書いて「ともだち」と読む。</p>
<p> </p>
<hr>
<p align="center"><br>
<strong><a href=
"http://www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2760.html">←Report.22</a>|<a href=
"http://www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1230.html">目次</a>|<a href=
"http://www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2818.html">Report.24→</a></strong></p>
</div>
<div style="line-height:1.8em;font-family:monospace;">
<h4>Report.23 長門有希の憂鬱 その12 ~涼宮ハルヒの手記(後編)~</h4>
<p><br />
前回に引き続き、観測対象が綴った文書から報告する。</p>
<hr />
<h5><br />
(朝倉涼子の幻影I)</h5>
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最近、朝倉が出てくる夢を見る。<br />
最初は変な空間だった。<br />
「ようこそ、涼宮さん。ここはわたしの情報制御下にある。」<br />
朝倉は、意味不明なことを宣言した。と思ったら、おもむろにごっつい軍用ナイフを取り出した。そして、あたしに向けてナイフを構えた。<br />
「ちょ、ちょっと! 何の冗談よ、それ!? 面白くないし笑えないって!」<br />
朝倉はあたしの呼び掛けを完全に無視すると、一直線にあたしを刺してきた。<br />
「……っ!」<br />
あたしは紙一重で、朝倉の攻撃をかわした。<br />
「性質の悪い冗談はやめて! 玩具でも危ないって!」<br />
あたしは叫びながら、あたしを掠めていった朝倉に向き直った。<br />
……ナニ、コレ。<br />
朝倉のナイフが、何もない空間に突き刺さっているように見えた。<br />
かと思ったら、朝倉のナイフが突き刺さってる辺りを中心に、黒い人型の靄のようなものが現れた。朝倉は、ナイフをその黒い人型の靄に突き刺したまま、靄を払うように振り抜いた。<br />
一刀両断された靄が空気に溶けていった。<br />
………<br />
……<br />
…</p>
<p><br />
なんじゃこりゃ――――!!</p>
<p><br />
ってところで目が覚めた。<br />
マジで、何じゃこりゃ?</p>
<hr />
<h5><br />
(朝倉涼子の幻影II)</h5>
<p><br />
最近、朝倉が出てくる夢を見るっていうことは前に書いたけど、この話には続きがあったのだ。いや、本当に続きなのかどうかは分かんないけど。<br />
内容としては、実は前に書いたことがあった。ここから前のどっかのページに書いてある。その内容は、まあ、その……あたしが朝倉の『ぱんつ』見て喜んでるやつよ。</p>
<p><br />
そこ! HENTAIとか言わない! あたしだって自覚してるんだから!</p>
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冗談はさておいて。<br />
前にも書いた内容ではあるんだけど、『ぱんつ』だけなのもアレなので、もうちょっと詳しく書いとこう。<br />
状況としては、こう。<br />
あたしは通学路の途中、あの北高前の長い坂を下り、線路沿いにしばらく行った住宅街にいた。街並みは、あたしが知ってる、見慣れた風景。でも、二つ違う点があった。<br />
一つ。空の色がヘン。一言で言うと、色がない。<br />
二つ。物音がしない。本当に、一切、音がしない。完全な無音。<br />
目の前には、人影が二つ。<br />
人影その1。私服姿の朝倉涼子。両手にはなぜか鉄筋を持っている。<br />
人影その2。覆面姿の超能力者。覆面にはなぜかストッキングを使っている。<br />
そんな二人が、あたしの目の前で戦っている。超能力者が空中に鉄筋を発生させて、朝倉に向けて撃つ。朝倉は、両手の鉄筋で、飛んできた鉄筋を残らず叩き落とすと、そのまま間合いを詰めて超能力者に殴りかかる。超能力者はすぐに自分の手の中に鉄筋を出現させ、対抗する。一進一退の攻防。<br />
ああ、なんて現実離れした夢だろうか、とあたしは目の保養に勤しんでたってわけ。夢の中なのに、妙にリアルだったわね、朝倉のスカートの中身(ちなみに『縞パン』よ)。<br />
しばらく攻撃の応酬が繰り広げられた後、両者は間合いを取って睨み合い。<br />
って書くと、互角のように見えるけど、実は超能力者の方は飛び道具持ってんのよね。撃ち出される鉄筋を叩き落としてる朝倉だけど、だんだん押されていく。そして、調子に乗った超能力者は、大量の鉄筋の雨を朝倉に降らせた。<br />
夢の中なのに、思わず叫んじゃったわ。まあ、朝倉は無事だったけど。さすが夢。<br />
その後もすごかった。<br />
地面に磔にされた朝倉の言葉に、あたしは有希の姿を思い浮かべた。</p>
<p><br />
何ということでしょう。<br />
再び降る鉄筋の雨を爆散させて、長門有希が颯爽と現れたのです。</p>
<p><br />
……いや、劇的にビフォーアフターしてる場合じゃないって。自分で自分にツッコミを入れてる間に、有希はヌンチャクで超能力者をしばき始めた。……いつも通りの無表情で。</p>
<p><br />
有希……相当怖いって、それ。</p>
<p><br />
だって、考えてみてよ? ぱっと見は可憐で儚げな美少女が、ストッキングで覆面した変態を、無言で無表情のまま、淡々とヌンチャクでどつき回してるのよ!<br />
こんなシュールな画には、なかなか遭遇できないわね。<br />
それから朝倉は、これまたイメージぴったりな薙刀を装備。あたしの護衛として大立ち回りを披露してくれた。<br />
はっきり言うわ。</p>
<p><br />
激萌え!!</p>
<p><br />
夢の中の二人は、なぜか息もぴったりで、まるで長年付き合った相棒みたいだと思った。</p>
<p><br />
まるで……姉妹みたいに。</p>
<hr />
<h5><br />
(朝倉涼子の幻影IV)</h5>
<p><br />
夢とは、まこと奇怪なものであることよ。<br />
……古文の直訳風に書き出してみたけど、他意はない。<br />
最近、朝倉が出てくる夢を見るけど、今日のは今までで一番恥ずかしい夢だった。<br />
これを書いてるのは午前五時。あまりの恥ずかしさに目が覚めて、しかもそのまま眠れなくなったってわけ(目が覚めたのは四時頃だったような……うわ、一時間も悶々としてたのか! 重症だ……orz)。<br />
どうにも寝付けないし、悶々として身悶えして仕方がないので、文章を書いて気持ちを落ち着けようと試みるテスト。<br />
ああ、やっぱり動揺してるな。日本語おかしい。「試みる」と「テスト」って、意味一緒やん!<br />
……よし。大分落ち着いてきた。落ち着いてこー!<br />
ああもう。いい加減話を進めよう。書き出してしまわないともう、おかしくなりそうだし。<br />
まず場面を説明するわ。<br />
この夢は、この間見た夢と繋がっているのかいないのか、よく分からない状況。ただ、なんかやたら長い、どこかで見たような包みが壁に立て掛けてあったから、多分続きものじゃないかと睨んでる。<br />
壁、ってことでも分かるように、場所は室内。て言うか部室。<br />
登場人物は、朝倉、有希、みくるちゃん、古泉くん、キョン、それから……喜緑さん? 生徒会役員の。あのクソ生徒会長と一緒に現れた人。SOS団に恋人の捜索依頼をしてきたこともあったわね。<br />
状況は、部室で、あたしと有希が話してて、というか、あたしが有希に語りかけてて、それを登場人物全員に見られてるところ。<br />
こんな大勢の人間に見られながら、あたしは……うわー、やっぱり恥ずかしい!<br />
自分でも分かるくらい、顔が熱い。多分、真っ赤になってるんだろうなあ。でも、これを書かなきゃ、多分ずっとこの顔と身体の熱さは治まらないわ。<br />
こんな衆人環視の状況で、あたしは、有希に、激しく、</p>
<p><br />
告 白 し た<br />
キ ス し た</p>
<p><br />
………<br />
……<br />
…<br />
ぎゃぽ――――!! 死ぬほど恥ずかしい!!</p>
<p><br />
――30分経過。ようやく落ち着いてきたので再開。<br />
あれから30分、あたしは布団でずっとごろごろ転がってた。ていうか、身悶えてた。あひー、とか奇声を発しながら。……こんな姿、人には絶対見せられないな。<br />
夢の話の続きは……</p>
<p><br />
あ゛――――! ダメ! 無理! もうこれ以上詳しく書けない! 書いたら死んじゃう! でも書かないとやっぱり恥ずかしくて死んじゃう!</p>
<p><br />
ギリギリ書ける範囲で書いてみることを試みると、次のようになる。<br />
あたしは有希を正面から見据えた。そして、有希に出会った日からの、あたしと有希の思い出を語った。<br />
最初はやけに無口で変わった娘だと思っていたこと。それがだんだん、どうすれば仲良くなれるかというものに変わっていったこと。文化祭の思い出。体育祭の思い出。雪山の冬合宿。バレンタインデー攻略計画。<br />
要は、あたしの「愛の告白」が延々と続いてたってわけ。<br />
おお、これだけ端折って書くと、書けるもんね。<br />
しかし、ありえない。夢だから、で説明は付くけど。<br />
それにしても、おかしすぎる。違和感ありまくり。どこに違和感を覚えるかって、そら、女が女に告白してる時点でツッコミ入れるやろ! ってなもんだけど、そこだけじゃない。何というか、夢にしては、そしてありえない情景にしては、妙に現実感があることか。<br />
今でも、こう、抱き締めた時の有希の感触とか……うわー! 不用意に書いたら、感触が蘇ってきた――――!<br />
落ち着け落ち着け……こんせんとれーしょん……って、それは「集中」!<br />
アホなこと書いてないで、先に進めよう。<br />
さて。このやたらと恥ずかしい夢は、困った事に、非常に現実感があるのだ。なぜなら、夢の中で有希に熱く語った、あたしと有希の思い出が、どれも実話だからだ。<br />
思い出だけじゃない。あたしの、有希に対する「想い」もまた、現実にあたしが有希に感じてる想いをいろいろと加工したら、わりと無理なく得られるくらいに「それっぽい」のだ。</p>
<p><br />
つまり。</p>
<p><br />
あたしは、有希のことが好き?</p>
<p><br />
……ということは、これはあたしの願望っていうこと?<br />
いつか、有希に告白したい。そしてOKを貰いたいっていう、信じられないような願望だと? ありえなーい。<br />
はあ。明日からどんな顔して有希に接したら良いんだろ? まともに顔見られないかも。<br />
そうだ。試しに有希に抱きついてみて、感触を確かめてみようか。それで「現実は違う」って納得しよう。<br />
……なんてね。アホか、あたしは。</p>
<p><br />
翌日。……結局実行してしまった。アホや、あたしorz</p>
<p><br />
えー、抱き締めた有希の感触は、小さくて、柔らかくて、正直たまりませんでした……</p>
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って、違う、そうじゃなくて。<br />
驚いたことに、夢の中と同じ感触だった。<br />
すぐに抱き比べ(!)てみたけど、やっぱりみくるちゃんとは違う感触。主に胸とか。<br />
いやー、有希ってば、やっぱりちっちゃくて可愛いなぁ~!<br />
でも身長は、実はみくるちゃんの方が若干低いのよね。あの巨乳で分かりにくいけど、みくるちゃんの方が、本当は小柄なのよね。抱き締めても、全然そうとは思えないけど。<br />
有希の方が、胸とか小振りで、なんていうかイメージぴったり? って感じ。<br />
みくるちゃんのは「手から溢れ出す」って感じだけど、有希のは「手に収まる」って感じかな。小柄な身体と小振りな胸を、あたしの身体と掌でしっかり掴めるというか。<br />
……とにかく、みくるちゃんの感触を夢で再生してたわけじゃなかった。<br />
何であたしは、有希の抱き心地を知ってたんだろう。まだ抱いたことなかったはずなのに。まさか予知夢?<br />
って、「抱いたことない」って、なんか変な意味にも取れるわね……</p>
<p><br />
うーん……<br />
考えれば考えるほど、分からないや。</p>
<hr />
<p><em>【ここから先は、涼宮ハルヒがすべてを思い出した後の話。】</em></p>
<hr />
<h5><br />
(涼宮ハルヒの混乱)</h5>
<p><br />
あたしは今、猛烈に困惑している。</p>
<p><br />
何コレ。</p>
<p><br />
「コレ」とは、今この文章を書いている、この日記帳、『涼宮ハルヒの手記』のことよ。<br />
もう一度問う。何コレ。</p>
<p><br />
この手記に書いてある文字は、確かに、あたしの字だ。でも、あたしはこんな手記の存在を知らない。でも、何となく書いた覚えがある。<br />
そしてその内容が、ますますあたしを困惑させる。とても信じられない内容だわ。ぶっちゃけ、ありえない。</p>
<p><br />
だって、だってよ。<br />
あたしが、有希のこと、その……「好き」だなんて。しかも、有希と、その……「一線越えちゃってる」なんて。<br />
あー、やばいやばい。書いてて顔が熱い。いや、全身か。<br />
落ち着いて考えてみなさいよ?<br />
あたしと有希は、女の子同士。<br />
そりゃ、あたしだって、有希と仲良くしたいとは、思うわよ?<br />
あの娘、いつも無口で無表情で、ちょっと変わってるところはあるけど、ああ見えてうちのSOS団随一の万能選手なんだから。団長たるあたしも鼻が高いってもんだわ。それに、確かに有希は、よく見るととても整った顔立ちで、色白で……儚げな中にも、可憐さと凛々しさが同居してる、そんな不思議な魅力があることは認めるわ。<br />
でも、だからって、有希と……「肉体的に」まで仲良くなりたいとは、さすがに思わないわ。</p>
<p><br />
だから、ありえない。それこそ、精神病の一種だわ。<br />
落ち着け、あたし。こんなときは素数を数えるのよ。<br />
1,2,3……しまった、1は素数じゃないわ。</p>
<hr />
<h5><br />
(涼宮ハルヒの決心)</h5>
<p><br />
さてと。前のページでは、あのように書いたけど。前言を撤回するわ。<br />
この手記を見付け、読み終わって、前のページを書いてからしばらくの間。<br />
あたしは、心を落ち着けるために、しばらくぼーっとしてた。<br />
物事を考察するに当たっては、先入観や固定観念は最大の障害となる。だから、心を空っぽにするために、ひたすらぼーっとしてた。ある意味放心状態よね。そうやってしばらく放心して、明鏡止水のような心境になって、あたしは再び考え出した。<br />
そうしたら、思い出した。<br />
間違いない。この手記は、あたしが書いたものだわ。朧ながらも、あたしがこれを書いていた頃のことが思い出されてきた。<br />
それと共に、ある「想い」も、思い出した。</p>
<p><br />
あたしは、有希が好き。</p>
<p><br />
まさか自分がこんなことを思ってたなんて、信じたくない、認めたくないけど、もう言い逃れはやめることにするわ。だって、自分の心にはいつまでも嘘をつき続けられないんだもの。<br />
自分の心に嘘をつくのをやめた途端、色々なことが一気に思い出された。<br />
何てことかしら。<br />
あたしは、こんなにも、有希のことが好きだったなんて。<br />
それに……有希と、その……ヤっちゃったのも本当のことだ。<br />
うわ、恥ずかしい! 有希ったら、あんなことやこんなことを……<br />
いや、そもそも、先に手を出したのはあたしなんだけどさ。<br />
てことは、自業自得か、あたし?</p>
<p><br />
あたしは、決めた。もう迷わない。もう忘れない。<br />
あたしは、有希のことが好き。<br />
この気持ちは、まだ明確に伝えてないかもしれない。あの告白が夢だったとしたら。夢じゃないかもしれないけど、それならそれでもう一度、想いを伝えたって良いはずだわ。<br />
だからあたしは、有希に手紙を書くことにした。この際だから、この手記ごと見せるわ。<br />
有希、読んでね。あたしのこれまでの、そしてこれからの気持ちをさ。</p>
<hr />
<h5><br />
(涼宮ハルヒの手紙)</h5>
<p><br />
有希に読んでほしいこと。<br />
ここまで読んで、あたしはどんなことを思っていたのか思い出した。<br />
不思議なことに、今まで何となく感じていた、心の一部が抜け落ちたような感覚が治まった。まるでパズルのピースがはまるように、抜け落ちていた部分がぴったり埋まったような気がする。<br />
この「手記」を読むに、あたしは色々と大事なことを忘れていたらしい。<br />
あたしの身に何かが起こったのだろうか? その辺りは今でもまだ思い出せない。でも、ある日を境に、心から何かが抜け落ちたような気がしていた。<br />
今なら分かる。その時「何か」があって、あたしはある大切な想いを忘れてしまった。<br />
自分で忘れていたのなら、自分の不甲斐なさを恥じるしかない。でも、なぜかそうじゃない気がする。あたしは、何者かにその想いを忘れさせられたのだと感じている。これは何かの陰謀かもしれない。<br />
とにかく、今はそのことはいい。思い出せた事実の方がずっと大切だから。<br />
思い出した想いを、改めてここに記す。もしもまた、忘れたり忘れさせられたりするようなことがあっても、すぐに思い出すことができるように。</p>
<p><br />
有希へ。</p>
<p><br />
あたしはあんたを愛してる。<br />
あたしもあんたも女の子だけど、そんなことは関係ない。<br />
いろんな意味で、あんたが好き。大好き。<br />
だからあたしは、あんたがいなくなった時、とても寂しかった。苦しかった。<br />
そして、もう二度とあんたを失いたくないって思った。<br />
それなのに、この気持ちを忘れていたなんて、どうかしてる。本当にごめん。<br />
この気持ちを忘れないように、想いを文字にしてここに記す。</p>
<p><br />
願わくば、もう二度とこの気持ちを忘れることがないように。<br />
願わくば、もう二度とあんたを失うことがないように。</p>
<p><br />
そして――願わくば、あんたとずっと一緒にいられますように。</p>
<p align="right"><br />
涼宮 ハルヒ</p>
<hr />
<p><em>【ここまでが、その時にわたしが見た手記の内容。その後、次の部分が涼宮ハルヒ自身の手によって新たに書き加えられた。】</em></p>
<hr />
<p><br />
追伸</p>
<p><br />
有希はあたしの嫁。</p>
<p><br />
「嫁」と書いて「ともだち」と読む。</p>
<p> </p>
<hr />
<p align="center"><br />
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