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涼宮ハルヒの放課」(2007/04/10 (火) 02:43:28) の最新版変更点

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<p> 今日はやたらと、蝉がうるさい。よくわからないけど、俺はそう思っていた。梅雨も終わったばかりだというのに、陽気は既に真夏。帰ってすぐにでも風呂に入りたいくらいだ。<br />  高校生ってのは、思っていたよりも面倒な職業だ。最近になって、俺はそう思うようになってきた。<br />  朝は毎日決まった時間に起きなくちゃならないし、帰りだって早くても三時過ぎだとか、ほとんどリーマンと変わらない生活じゃないか。ついでに言えば、SOS団に加入させられている俺は、日が暮れかかる時間に帰ることになるのは、ザラだ。</p> <p><br /> (酷い生活だ&hellip;&hellip;)</p> <p><br />  朝には停めるところが無い駐輪場だが、この時間になると自転車の数も疎らになる。逆なら遅刻することも無いのに。世界ってのは理不尽に出来ているものだ。<br />  夕闇に霞む街を見上げた。オレンジ色に染まる世界は、まるで違う世界にいるようだった。</p> <p><br /> (いるんだけどな&hellip;&hellip;違う世界を作れる奴がな)</p> <p><br />  これでまた二人だけの世界になってたら笑える。いや、決して笑える状況では無いのだが。<br />  視線を駐輪場の出入口へと戻す。夕日が眩しくて、よく見えない。が、誰かがいるのはわかった。<br />  顔は見えない。服装は制服で、俺が見慣れたものだということがわかる。そして俺は見慣れていた。そのシルエットを。</p> <p><br /> 「&hellip;&hellip;何でいるんだよ」</p> <p><br />  思わず溜息を吐いた。<br />  どうやら相手も俺に気付いたらしく、もたれかかっていたフェンスから背中を離し、叫んだ。</p> <p><br /> 「今日行きたいところがあるのよっ!!」</p> <p><br /> 「だから何だよ&hellip;&hellip;」</p> <p><br />  その言葉が何を意味するのかをわかっていたとしても、俺には訊き返す義務も権利もあると思うんだ。<br />  なぁ、ハルヒよ。</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p><br />  &quot; 涼宮ハルヒの放課 &quot;</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p><br />  蝉よりやかましい奴に出会ってしまった。本気でそう思う。</p> <p><br /> 「昨日夕日が超綺麗なスポットを発見したのっ!!」</p> <p><br /> 「&hellip;&hellip;で?」</p> <p><br /> 「今日も見に行こうと思うのよっ!!」</p> <p><br /> 「&hellip;&hellip;ほう」</p> <p><br /> 「もう沈み始めてるじゃないっ!?」</p> <p><br /> 「&hellip;&hellip;ああ」</p> <p><br /> 「送ってっ!!」</p> <p><br /> 「だが断る」</p> <p><br />  ハルヒの言葉を無視すると、自転車に跨る。そして、ペダルを踏み込む。<br />  </p> <p>「&hellip;&hellip;あん?」</p> <p><br />  動かない。いや、正確には動いてる。けれど、それは重たさと謎の奇音を伴う動きだった。後輪を見てみる。</p> <p><br /> 「乗っけてかないと、後輪に傘を突っ込むわよ&hellip;&hellip;」</p> <p><br /> 「もうやってるじゃないかっ!!」</p> <p><br />  うわ、ビニール傘が見るも無残な姿になってる。というかほとんど真っ二つに近い。しかもビニール部分がチェーン付近まで絡まってやがる。</p> <p><br /> 「お前は何がしたいんだっ!!」</p> <p><br /> 「二本目行っとく?」</p> <p><br /> 「&hellip;&hellip;」</p> <p><br />  これは脅しというヤツでは無いだろうか?<br />  しかしそんなことを言ったら、ハルヒのことだから法律まで改ざんされてしまうかもしれない。<br />  絡まったビニールを引っ張りながら、夕食までに帰れることを祈った。</p> <p>&nbsp;</p> <p>「キョンっ! あの山よっ!!」</p> <p><br /> 「って学校と真反対じゃないかよっ!!」</p> <p><br />  数分後、ハルヒが目指しているという場所が見えてきた。いや、頂は遠い訳なのだが。<br />  この街は若干盆地上になっているので、学校も山の上だが街を突っ切った先も山なのだ。確かにこの山を登った先は学校よりも高いし、夕日もさぞ綺麗に見えることだろう。<br />  しかし、タイムリミットはとても近い。</p> <p><br /> 「畜生っ&hellip;&hellip;しっかり&amp;#25681;まってろっ!!」</p> <p><br /> 「わぷっ&hellip;&hellip;ちょっと! 女の子を乗せてるんだからデリケートに扱いなさいよっ!!」</p> <p><br /> 「無茶っ&hellip;&hellip;ゆーなっ&hellip;&hellip;!!」<br />  口ではそう言うものの、ハルヒはしっかりと俺の腰に手を回してきた。もしや、これって結構レアなシーンじゃないのか?<br />  曲がりながらも、整った顔立ちの少女を後ろに乗せ、街中を自転車で疾走する。<br />  多分全国の中高生からすれば、かなり憧れるシチュエーションでは無いのだろうか?後悔はあるものの、少しばかり優越感もある。悪くない。</p> <p><br /> 「ちょっと! スピード落ちてるわよっ!!」</p> <p><br /> 「はいよっ&hellip;&hellip;!!」</p> <p><br />  これでもうちょい可愛げがあればな、と思うよ。毎日のようにな。<br />  日没まで、良いとこ10分も無いだろう。それを小さい街ながら端から端まで移動するというのは、かなり厳しい注文だと思うぞ。</p> <p><br /> 「さあっ!! あの坂を登ったらもうゴールよっ!!」</p> <p><br /> 「それって最後の難関って言うんじゃないのかっ!?」</p> <p><br />  さらりと悪魔のような発言をする。それが涼宮ハルヒ。</p> <p><br /> 「&hellip;&hellip;」</p> <p><br />  何で理解しちゃってるのであろうか。俺は。</p> <p><br />  さて、着いた。<br />  頂上付近の路肩。木々が生い茂るその先を少し行った場所。<br />  一段低くなっている場所は上からも下からも見えにくく、そして街が一望出来るような場所だった。正直かなり危険な場所だと思うのだが、よっぽどのことが無ければ大丈夫だろう、と思う。<br />  にしても、綺麗な風景だ。吹き抜ける風も、汗ばんだ身体に癒しを与えてくれる。<br />  そして、目の前にいるハルヒはワナワナと震えている。</p> <p><br /> 「どーした&hellip;&hellip;あまりの感動に、言葉も出ないのか?」</p> <p><br /> 「そう見えるなら、アンタの目は節穴でしょーね&hellip;&hellip;」</p> <p><br />  うん、そうだね。だって、今日のお日様は完全に帰っちゃったもんね。<br />  つまり、日没終了。</p> <p><br /> 「どーしてくれんのよっ!?」</p> <p><br /> 「元々間に合いそうに無かったんだから、良いじゃねぇか&hellip;&hellip;」</p> <p><br />  歩けば、間違い無く間に合わなかった。それを考えれば、仕方が無いことだと思う。</p> <p><br /> 「アンタがもー少し気合を見せれば見れたでしょーがっ!!」</p> <p><br /> 「ならもう少し俺を労われっ!!」</p> <p><br />  信じられるか? 俺が必死で坂を漕いでるっていうのに、こいつは降りようともしないんだぜ?<br />  某ジブ●の&quot;●をすませば&quot;だって、某バイオリン職人見習いの少年が「乗せて行きたいんだっ!」って言っても某小説家見習いの少女は「ううんっ! 一緒に行きたいのっ!!」って降りて一緒に自転車を押したんだ。台詞は若干違う気がするけどな。<br />  そんなことより、そのくらいの可愛げがあっても、良いんじゃないかなって思う訳だよ。</p> <p><br /> 「全く&hellip;&hellip;どっかの無能のお陰で、無駄な時間を過ごしたわ」</p> <p><br />  話聞けよ。そして労われよ。</p> <p><br /> 「んなこた知るか&hellip;&hellip;俺は帰るぞ」</p> <p><br />  ハルヒを置いて林を抜け、路肩に停めてあった自転車に跨る。<br />  何が無駄な時間だ。俺の方が無駄な時間を過ごした気分だっての。</p> <p><br /> 「&hellip;&hellip;お前、何やってんだ?」</p> <p><br /> 「二本目」</p> <p><br />  それくらいは見てわかる。</p> <p><br /> 「つーかどっから持ってきたんだ&hellip;&hellip;」</p> <p><br /> 「駐輪場の自転車にいっぱい挿してあったわよ?」</p> <p><br /> 「&hellip;&hellip;」</p> <p><br />  ゴメン。知らなかったんだ。でもわかってくれ。ハルヒの傍若無人の振る舞いをさ。</p> <p><br /> 「&hellip;&hellip;送ってやるから乗れ。そして傘は明日戻しとけ」</p> <p><br /> 「めんどいからここに置いてくわ」</p> <p><br />  誰かこいつを止めろ。</p> <p><br />  行きに苦労した分、帰りは楽なものだった。漕ぐ必要も無く、ただ体重移動だけで下山出来るのだから。</p> <p><br /> 「キョン! もっとスピード出しなさいよっ!!」</p> <p><br /> 「出ねーよ&hellip;&hellip;」</p> <p><br />  つーか危険過ぎる。二人乗りで坂を下るって行為からして。多分、朝比奈さん辺りなら即ゲームオーバーじゃないかと思う。<br />  小学生や中学生には、あまり真似して欲しくない行為だな。</p> <p><br /> 「ねぇ&hellip;&hellip;ちょっと前に、この状況に似た曲って無かった?」</p> <p><br /> 「あー&hellip;&hellip;あったな。そーいや&hellip;&hellip;」</p> <p><br />  何年か前の曲だった気がする。季節も同じで、確かに似たような感じだった。でも、イマイチ覚えてない。そもそろあまり好きな歌手でも無かったし、カラオケで誰かが歌ってるのを聴いたくらいだったような。</p> <p><br /> 「どんな歌詞だったか?」</p> <p><br /> 「えーと&hellip;&hellip;確かねぇ&hellip;&hellip;」</p> <p><br />  ゆっくりと、そして風に流れるようにハルヒは歌い出す。俺の後ろで。俺の耳元で。とても澄んだ声で。ずっとお前がそうだったら良いのにな、と思わせるような綺麗な声で。<br />  俺は身を任せた。風と。季節と。蜩の声と。<br />  そして、ハルヒの声に。</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p><br />    大きな五時半の夕焼け 子供の頃と同じように</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p><br />    海も空も雲も僕等でもさえも 染めていくから</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p><br />    この長い長い下り坂を 君を自転車の後ろに乗せて</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p><br />    ブレーキいっぱい握り締めて ゆっくりゆっくり下ってく</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p><br /> 「&hellip;&hellip;とっくに五時半過ぎてるし、夕焼け終わってるし&hellip;&hellip;スロットルも全開だから全然似てなくねぇか?」</p> <p><br /> 「う、うるさいわね&hellip;&hellip;あたしが似てるってゆーんだから似てるのっ!!」</p> <p><br />  理不尽な奴め。<br />  そうやって笑ってる俺がいて、また笑えてきた。</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p><br /> 「ハルヒ」</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p><br /> 「&hellip;&hellip;何よ?」</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p><br /> 「明日は見に行こうぜ&hellip;&hellip;一緒に」</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p><br /> 「&hellip;&hellip;ばか」</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p><br />  明日こそ、曲の通りになると良い。そう思う。<br />  大変だけどな。</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p><br /> おわり</p>
<p> 今日はやたらと、蝉がうるさい。よくわからないけど、俺はそう思っていた。梅雨も終わったばかりだというのに、陽気は既に真夏。帰ってすぐにでも風呂に入りたいくらいだ。<br />  高校生ってのは、思っていたよりも面倒な職業だ。最近になって、俺はそう思うようになってきた。<br />  朝は毎日決まった時間に起きなくちゃならないし、帰りだって早くても三時過ぎだとか、ほとんどリーマンと変わらない生活じゃないか。ついでに言えば、SOS団に加入させられている俺は、日が暮れかかる時間に帰ることになるのは、ザラだ。</p> <p><br /> (酷い生活だ&hellip;&hellip;)</p> <p><br />  朝には停めるところが無い駐輪場だが、この時間になると自転車の数も疎らになる。逆なら遅刻することも無いのに。世界ってのは理不尽に出来ているものだ。<br />  夕闇に霞む街を見上げた。オレンジ色に染まる世界は、まるで違う世界にいるようだった。</p> <p><br /> (いるんだけどな&hellip;&hellip;違う世界を作れる奴がな)</p> <p><br />  これでまた二人だけの世界になってたら笑える。いや、決して笑える状況では無いのだが。<br />  視線を駐輪場の出入口へと戻す。夕日が眩しくて、よく見えない。が、誰かがいるのはわかった。<br />  顔は見えない。服装は制服で、俺が見慣れたものだということがわかる。そして俺は見慣れていた。そのシルエットを。</p> <p><br /> 「&hellip;&hellip;何でいるんだよ」</p> <p><br />  思わず溜息を吐いた。<br />  どうやら相手も俺に気付いたらしく、もたれかかっていたフェンスから背中を離し、叫んだ。</p> <p><br /> 「今日行きたいところがあるのよっ!!」</p> <p><br /> 「だから何だよ&hellip;&hellip;」</p> <p><br />  その言葉が何を意味するのかをわかっていたとしても、俺には訊き返す義務も権利もあると思うんだ。<br />  なぁ、ハルヒよ。</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p><br />  &quot; 涼宮ハルヒの放課 &quot;</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p><br />  蝉よりやかましい奴に出会ってしまった。本気でそう思う。</p> <p><br /> 「昨日夕日が超綺麗なスポットを発見したのっ!!」</p> <p><br /> 「&hellip;&hellip;で?」</p> <p><br /> 「今日も見に行こうと思うのよっ!!」</p> <p><br /> 「&hellip;&hellip;ほう」</p> <p><br /> 「もう沈み始めてるじゃないっ!?」</p> <p><br /> 「&hellip;&hellip;ああ」</p> <p><br /> 「送ってっ!!」</p> <p><br /> 「だが断る」</p> <p><br />  ハルヒの言葉を無視すると、自転車に跨る。そして、ペダルを踏み込む。<br />  </p> <p>「&hellip;&hellip;あん?」</p> <p><br />  動かない。いや、正確には動いてる。けれど、それは重たさと謎の奇音を伴う動きだった。後輪を見てみる。</p> <p><br /> 「乗っけてかないと、後輪に傘を突っ込むわよ&hellip;&hellip;」</p> <p><br /> 「もうやってるじゃないかっ!!」</p> <p><br />  うわ、ビニール傘が見るも無残な姿になってる。というかほとんど真っ二つに近い。しかもビニール部分がチェーン付近まで絡まってやがる。</p> <p><br /> 「お前は何がしたいんだっ!!」</p> <p><br /> 「二本目行っとく?」</p> <p><br /> 「&hellip;&hellip;」</p> <p><br />  これは脅しというヤツでは無いだろうか?<br />  しかしそんなことを言ったら、ハルヒのことだから法律まで改ざんされてしまうかもしれない。<br />  絡まったビニールを引っ張りながら、夕食までに帰れることを祈った。</p> <p>&nbsp;</p> <p>「キョンっ! あの山よっ!!」</p> <p><br /> 「って学校と真反対じゃないかよっ!!」</p> <p><br />  数分後、ハルヒが目指しているという場所が見えてきた。いや、頂は遠い訳なのだが。<br />  この街は若干盆地上になっているので、学校も山の上だが街を突っ切った先も山なのだ。確かにこの山を登った先は学校よりも高いし、夕日もさぞ綺麗に見えることだろう。<br />  しかし、タイムリミットはとても近い。</p> <p><br /> 「畜生っ&hellip;&hellip;しっかり摑まってろっ!!」</p> <p><br /> 「わぷっ&hellip;&hellip;ちょっと! 女の子を乗せてるんだからデリケートに扱いなさいよっ!!」</p> <p><br /> 「無茶っ&hellip;&hellip;ゆーなっ&hellip;&hellip;!!」<br />  口ではそう言うものの、ハルヒはしっかりと俺の腰に手を回してきた。もしや、これって結構レアなシーンじゃないのか?<br />  曲がりながらも、整った顔立ちの少女を後ろに乗せ、街中を自転車で疾走する。<br />  多分全国の中高生からすれば、かなり憧れるシチュエーションでは無いのだろうか?後悔はあるものの、少しばかり優越感もある。悪くない。</p> <p><br /> 「ちょっと! スピード落ちてるわよっ!!」</p> <p><br /> 「はいよっ&hellip;&hellip;!!」</p> <p><br />  これでもうちょい可愛げがあればな、と思うよ。毎日のようにな。<br />  日没まで、良いとこ10分も無いだろう。それを小さい街ながら端から端まで移動するというのは、かなり厳しい注文だと思うぞ。</p> <p><br /> 「さあっ!! あの坂を登ったらもうゴールよっ!!」</p> <p><br /> 「それって最後の難関って言うんじゃないのかっ!?」</p> <p><br />  さらりと悪魔のような発言をする。それが涼宮ハルヒ。</p> <p><br /> 「&hellip;&hellip;」</p> <p><br />  何で理解しちゃってるのであろうか。俺は。</p> <p><br />  さて、着いた。<br />  頂上付近の路肩。木々が生い茂るその先を少し行った場所。<br />  一段低くなっている場所は上からも下からも見えにくく、そして街が一望出来るような場所だった。正直かなり危険な場所だと思うのだが、よっぽどのことが無ければ大丈夫だろう、と思う。<br />  にしても、綺麗な風景だ。吹き抜ける風も、汗ばんだ身体に癒しを与えてくれる。<br />  そして、目の前にいるハルヒはワナワナと震えている。</p> <p><br /> 「どーした&hellip;&hellip;あまりの感動に、言葉も出ないのか?」</p> <p><br /> 「そう見えるなら、アンタの目は節穴でしょーね&hellip;&hellip;」</p> <p><br />  うん、そうだね。だって、今日のお日様は完全に帰っちゃったもんね。<br />  つまり、日没終了。</p> <p><br /> 「どーしてくれんのよっ!?」</p> <p><br /> 「元々間に合いそうに無かったんだから、良いじゃねぇか&hellip;&hellip;」</p> <p><br />  歩けば、間違い無く間に合わなかった。それを考えれば、仕方が無いことだと思う。</p> <p><br /> 「アンタがもー少し気合を見せれば見れたでしょーがっ!!」</p> <p><br /> 「ならもう少し俺を労われっ!!」</p> <p><br />  信じられるか? 俺が必死で坂を漕いでるっていうのに、こいつは降りようともしないんだぜ?<br />  某ジブ●の&quot;●をすませば&quot;だって、某バイオリン職人見習いの少年が「乗せて行きたいんだっ!」って言っても某小説家見習いの少女は「ううんっ! 一緒に行きたいのっ!!」って降りて一緒に自転車を押したんだ。台詞は若干違う気がするけどな。<br />  そんなことより、そのくらいの可愛げがあっても、良いんじゃないかなって思う訳だよ。</p> <p><br /> 「全く&hellip;&hellip;どっかの無能のお陰で、無駄な時間を過ごしたわ」</p> <p><br />  話聞けよ。そして労われよ。</p> <p><br /> 「んなこた知るか&hellip;&hellip;俺は帰るぞ」</p> <p><br />  ハルヒを置いて林を抜け、路肩に停めてあった自転車に跨る。<br />  何が無駄な時間だ。俺の方が無駄な時間を過ごした気分だっての。</p> <p><br /> 「&hellip;&hellip;お前、何やってんだ?」</p> <p><br /> 「二本目」</p> <p><br />  それくらいは見てわかる。</p> <p><br /> 「つーかどっから持ってきたんだ&hellip;&hellip;」</p> <p><br /> 「駐輪場の自転車にいっぱい挿してあったわよ?」</p> <p><br /> 「&hellip;&hellip;」</p> <p><br />  ゴメン。知らなかったんだ。でもわかってくれ。ハルヒの傍若無人の振る舞いをさ。</p> <p><br /> 「&hellip;&hellip;送ってやるから乗れ。そして傘は明日戻しとけ」</p> <p><br /> 「めんどいからここに置いてくわ」</p> <p><br />  誰かこいつを止めろ。</p> <p><br />  行きに苦労した分、帰りは楽なものだった。漕ぐ必要も無く、ただ体重移動だけで下山出来るのだから。</p> <p><br /> 「キョン! もっとスピード出しなさいよっ!!」</p> <p><br /> 「出ねーよ&hellip;&hellip;」</p> <p><br />  つーか危険過ぎる。二人乗りで坂を下るって行為からして。多分、朝比奈さん辺りなら即ゲームオーバーじゃないかと思う。<br />  小学生や中学生には、あまり真似して欲しくない行為だな。</p> <p><br /> 「ねぇ&hellip;&hellip;ちょっと前に、この状況に似た曲って無かった?」</p> <p><br /> 「あー&hellip;&hellip;あったな。そーいや&hellip;&hellip;」</p> <p><br />  何年か前の曲だった気がする。季節も同じで、確かに似たような感じだった。でも、イマイチ覚えてない。そもそろあまり好きな歌手でも無かったし、カラオケで誰かが歌ってるのを聴いたくらいだったような。</p> <p><br /> 「どんな歌詞だったか?」</p> <p><br /> 「えーと&hellip;&hellip;確かねぇ&hellip;&hellip;」</p> <p><br />  ゆっくりと、そして風に流れるようにハルヒは歌い出す。俺の後ろで。俺の耳元で。とても澄んだ声で。ずっとお前がそうだったら良いのにな、と思わせるような綺麗な声で。<br />  俺は身を任せた。風と。季節と。蜩の声と。<br />  そして、ハルヒの声に。</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p><br />    大きな五時半の夕焼け 子供の頃と同じように</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p><br />    海も空も雲も僕等でもさえも 染めていくから</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p><br />    この長い長い下り坂を 君を自転車の後ろに乗せて</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p><br />    ブレーキいっぱい握り締めて ゆっくりゆっくり下ってく</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p><br /> 「&hellip;&hellip;とっくに五時半過ぎてるし、夕焼け終わってるし&hellip;&hellip;スロットルも全開だから全然似てなくねぇか?」</p> <p><br /> 「う、うるさいわね&hellip;&hellip;あたしが似てるってゆーんだから似てるのっ!!」</p> <p><br />  理不尽な奴め。<br />  そうやって笑ってる俺がいて、また笑えてきた。</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p><br /> 「ハルヒ」</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p><br /> 「&hellip;&hellip;何よ?」</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p><br /> 「明日は見に行こうぜ&hellip;&hellip;一緒に」</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p><br /> 「&hellip;&hellip;ばか」</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p><br />  明日こそ、曲の通りになると良い。そう思う。<br />  大変だけどな。</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p><br /> おわり</p>

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