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「アル雨ノ日ノコト」(2020/03/13 (金) 01:22:52) の最新版変更点
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<p>「いつまで続くんだよ…」<br>
俺はいつもの部室で、ぼんやりと空を眺めていた。<br>
ありふれた風景のはずなのに、ありふれた日常は消えていた。<br>
ほかのSOS団員は何をしているんだ?<br>
窓の外はバシャバシャと音を立てて、雲の涙のように液体が降り注いでいる。<br>
あいつらは、この雨にまぎれて…地面に落ちて…蒸発してしまったのだろうか?<br>
長門、朝比奈さん、古泉、それに…ハルヒ。<br>
<br>
――――誰も、やってこない。<br>
<br>
放課後の楽しみ、そんなものが、ここには詰まっていたのに。<br>
先週の水曜日から、揃って学校に来ない4人。ちょうど一週間が経つ。<br>
なぜ?なぜだ?このまま退学して、自宅警備員として生きるつもりか?<br>
<br>
俺は、今日の部活動が終わったら何をしようか、と考えていた。<br>
だけど、思いつかないものは思いつかない。<br>
今日はまだ水曜だ。土曜になっても誰も来なかったら、<br>
長門の家にでも行こう。あいつなら、何か知っているはずだ。<br>
そして、淡い高揚を抑えるためにも。</p>
<p>
席を立ち、いくらか歩き、ドアノブに手をかけ、力を込め、手前に引く。<br>
カチャッというこの音を、俺は今まで何回聞いただろうか?<br>
廊下を淡々と歩く。下駄箱まで止まらずに。俺の想いも、止まらぬように。<br>
<br>
下駄箱に着き、靴をしまう際に、紙切れに気づいた。<br>
<br>
"午後七時 光陽園駅前公園にて待つ 長門"<br>
<br>
いつか見たような文面だった。<br>
そうだ、あの時は、借りた本に――<br>
<br>
「よりによって、雨のこの日か…?長門」</p>
<br>
<p>この公園に来ることは、ほとんどない。<br>
それでも、前に来たときより陰湿な…それでいて異様な雰囲気を感じた。<br>
雨のせいだろうか?…だよな。そうとしか考えられない。<br>
俺は傘をさしながら、ぼんやりと立ち尽くしていた。<br>
時計は持っていない。だが家を出たのが六時半だ、そろそろ約束の時間だな。<br>
…<br>
……<br>
………<br>
「長門っ!!!」<br>
無意識のうちに叫んでしまっていた。<br>
長門は学校の制服姿で、水色の傘を差しながら、言った。<br>
「家に来て。これ以上濡れると風邪をひく恐れがある」</p>
<p>
だったら最初から家に呼べよ!というつっこみは、やめておこう。<br>
「長門、おまえ今までどこにいたんだ?それに皆は?」<br>
心配だ。<br>
「皆なんで学校に来ないんだ?!」<br>
不安だ。<br>
「今すぐ答えてくれ。朝比奈さんは?古泉は?ハルヒは!?どこだ!」<br>
「今は答えられない」<br>
<br>
暗闇が心を支配している。<br>
長門と一緒に歩き、マンションの一室に到着するまで、<br>
これ以上の会話は一切無かった。なんなんだ、これは。</p>
<br>
<p>長門の部屋も相変わらずだ。<br>
靴を脱ぎ、電気をつけ、あの時と同じテーブルに座る。<br>
出されたお茶は残さず飲む。おいしい!そこまではいつものことだ。<br>
<br>
「それで、長門。そろそろ…教えてくれないか?」<br>
「涼宮ハルヒ、朝比奈みくる、古泉一樹。彼女らの存在は抹消された」<br>
えっ…?待て待て待て待て…よ……?まっ…しょう…?<br>
抹消ってなんだ?ハルヒってなん…だ?なんだよ…なんだよ?<br>
<br>
「そ、それは…どういうことなんだ!」<br>
「彼女らはまったく別の世界に存在している。簡潔に述べるとパラレルワールド。<br>
この世界には戻ってくることは絶対にない。何故なら―――」<br>
<br>
そこまでは覚えている。<br>
なぜ別の世界に行っただとか、もう戻ってくることは無いだとかの<br>
理由を細かく話してくれていたようだが、そんなことはもう、どうでもよかった。</p>
<p>
「わかった…それで、なんでおまえだけがこっちの世界に残ってるんだ?<br>
SOS団の三人は消えたのに…なんで、おまえだけ?」<br>
「希望したものだけが行くことが出来る、と説明した」<br>
なにっ…!?希望だと?希望して…希望して行ってしまったのか!?<br>
ハルヒたちは…望んで…行った…畜生、俺には絶望しか残らないじゃないか!!<br>
<br>
…そうだ!俺は、苦肉の策ながら、希望の道があることに気づいた。<br>
「じゃ、じゃあ!俺たちも、そのパラレルワールドってやつに行くことは出来るのか?!」<br>
<br>
「一度別の世界へ移動すると、元の世界へは戻れない。<br>
精神的・肉体的にほぼ変化は無いが、<br>
この世界での人との関わりはすべて無かったことになる。<br>
移動する人物の年齢などを考慮し、あまり不自然ではない状況へと移動させる」</p>
<p>
「そういうことか…。記憶はなくなる、と言ったよな。<br>
俺たちが、また、SOS団全員が会える確率はどれぐらいあるんだ?」<br>
「…わたしの計算によると、0,002%の確率で、涼宮ハルヒ、朝比奈みくる、<br>
古泉一樹、あなた、私が会うことになる」<br>
<br>
なんだその低確率は!?こんなふざけた団体に協力してやったのに、<br>
あっちの世界じゃ、集まるだけでそんな難しいのか?!ひでぇもんだな…<br>
<br>
「それでも、俺たちがまた、あいつらに会える可能性は…あるんだよな?」<br>
<br>
「ある」</p>
<p>「今すぐ、パラレルワールドへ移動できるか?」<br>
「出来る」<br>
なんという…。こんな時、俺はどうすればいい、長門?<br>
可能性を求めて一緒にあっちの世界に移動するか…?<br>
長門と二人だけで、SOS団として活動するか…?<br>
そういえば、ひとつ疑問があるな。<br>
<br>
「長門、なぜおまえは移動しなかったんだ?」<br>
「私がいなければ、あなたはあちらへ移動出来ない。<br>
それに、私はあなたを必要としている。<br>
それは一種の恋愛感情」<br>
「えっ…?」<br>
<br>
俺はこの時を、待ち侘びていたのかも知れない。</p>
<br>
<p>外は未だに、雨が降り続けている。容赦の無い涙。<br>
その涙は、俺に返答をせがんでいるようだ。<br>
<br>
「長門、もう一度言ってくれ。よくわからない」<br>
「私はあなたを必要としている。それは一種の恋愛感情」<br>
「長門…本当か…?」<br>
「本当。嘘は言わない」<br>
「長門…実は、俺も…なんだ」<br>
「俺も、って何?」<br>
「俺も、長門のことが…好きなんだ。恋だ。<br>
ただの人間が、宇宙人に惚れたなんてお笑いかもしれない。<br>
けど、俺は、長門のことが大好きだ。だから」<br>
<br>
ぎこちない動作だったとは思う。<br>
俺たちはいつのまにか立ち上がっていて、<br>
長門と、最初で最後であろう口づけを、した。</p>
<br>
<p>「長門…好きだ」<br>
「わたしも」<br>
<br>
―――抱きしめる。長門のすべてを。あっちでも、忘れぬように。<br>
<br>
「…よし、もう悔いはない。可能性が少しでもあるなら、俺は移動したい」<br>
「わかった。すぐに行う」<br>
「えっ?今すg…」<br>
<br>
目の前の長門が白い光に包まれたと思った瞬間、<br>
俺の視界は遮断された。<br>
<br>
<br></p>
<p>…って<br>
…ててて…いてーっ…<br>
なんだ…痛いな…?</p>
<p>ったく…もうやってられないな…<br>
<br>
俺は埼玉県の県立高校に通う、ごく普通の男子高校生だ。<br>
こんな歳になってベッドから落ちるなんてお笑いだな、まったく。<br>
今日も勉学に勤しむため、俺はさっさと制服に着替えて<br>
メシを食って、出発することにした。<br>
<br>
自作のたまごゴハンを頬張りながら、時計を見る。<br>
もう午前七時か!早いな…昨日は午後七時すぎに寝たはずなんだけどな。<br>
しかも今日は久しぶりに朝から雨だ。ちくしょう、憂鬱にさせてくれるぜ。<br>
<br>
<br>
イヤな気分で教室に着くと、先生が見知らぬ生徒を連れてきていた。<br>
なんだよあいつは?転校生か?また生徒が増えるのか?<br>
こんなマンモス校に来るなんて気が狂ってる。<br>
<br>
「皆静かに!今日からうちの学校で学ぶことになった転校生だ。<br>
皆、仲良くやってくれ。自己紹介をよろしく頼む」<br>
<br>
<br>
「長門有希です。前の学校では文芸部に所属してました!これからよろしく!」<br>
</p>
<p>「いつまで続くんだよ…」<br />
俺はいつもの部室で、ぼんやりと空を眺めていた。<br />
ありふれた風景のはずなのに、ありふれた日常は消えていた。<br />
ほかのSOS団員は何をしているんだ?<br />
窓の外はバシャバシャと音を立てて、雲の涙のように液体が降り注いでいる。<br />
あいつらは、この雨にまぎれて…地面に落ちて…蒸発してしまったのだろうか?<br />
長門、朝比奈さん、古泉、それに…ハルヒ。<br />
<br />
――――誰も、やってこない。<br />
<br />
放課後の楽しみ、そんなものが、ここには詰まっていたのに。<br />
先週の水曜日から、揃って学校に来ない4人。ちょうど一週間が経つ。<br />
なぜ?なぜだ?このまま退学して、自宅警備員として生きるつもりか?<br />
<br />
俺は、今日の部活動が終わったら何をしようか、と考えていた。<br />
だけど、思いつかないものは思いつかない。<br />
今日はまだ水曜だ。土曜になっても誰も来なかったら、<br />
長門の家にでも行こう。あいつなら、何か知っているはずだ。<br />
そして、淡い高揚を抑えるためにも。</p>
<p>席を立ち、いくらか歩き、ドアノブに手をかけ、力を込め、手前に引く。<br />
カチャッというこの音を、俺は今まで何回聞いただろうか?<br />
廊下を淡々と歩く。下駄箱まで止まらずに。俺の想いも、止まらぬように。<br />
<br />
下駄箱に着き、靴をしまう際に、紙切れに気づいた。<br />
<br />
"午後七時 光陽園駅前公園にて待つ 長門"<br />
<br />
いつか見たような文面だった。<br />
そうだ、あの時は、借りた本に――<br />
<br />
「よりによって、雨のこの日か…?長門」</p>
<p> </p>
<p>この公園に来ることは、ほとんどない。<br />
それでも、前に来たときより陰湿な…それでいて異様な雰囲気を感じた。<br />
雨のせいだろうか?…だよな。そうとしか考えられない。<br />
俺は傘をさしながら、ぼんやりと立ち尽くしていた。<br />
時計は持っていない。だが家を出たのが六時半だ、そろそろ約束の時間だな。<br />
…<br />
……<br />
………<br />
「長門っ!!!」<br />
無意識のうちに叫んでしまっていた。<br />
長門は学校の制服姿で、水色の傘を差しながら、言った。<br />
「家に来て。これ以上濡れると風邪をひく恐れがある」</p>
<p> </p>
<p>だったら最初から家に呼べよ!というつっこみは、やめておこう。<br />
「長門、おまえ今までどこにいたんだ?それに皆は?」<br />
心配だ。<br />
「皆なんで学校に来ないんだ?!」<br />
不安だ。<br />
「今すぐ答えてくれ。朝比奈さんは?古泉は?ハルヒは!?どこだ!」<br />
「今は答えられない」<br />
<br />
暗闇が心を支配している。<br />
長門と一緒に歩き、マンションの一室に到着するまで、<br />
これ以上の会話は一切無かった。なんなんだ、これは。</p>
<p> </p>
<p>長門の部屋も相変わらずだ。<br />
靴を脱ぎ、電気をつけ、あの時と同じテーブルに座る。<br />
出されたお茶は残さず飲む。おいしい!そこまではいつものことだ。<br />
<br />
「それで、長門。そろそろ…教えてくれないか?」<br />
「涼宮ハルヒ、朝比奈みくる、古泉一樹。彼女らの存在は抹消された」<br />
えっ…?待て待て待て待て…よ……?まっ…しょう…?<br />
抹消ってなんだ?ハルヒってなん…だ?なんだよ…なんだよ?<br />
<br />
「そ、それは…どういうことなんだ!」<br />
「彼女らはまったく別の世界に存在している。簡潔に述べるとパラレルワールド。<br />
この世界には戻ってくることは絶対にない。何故なら―――」<br />
<br />
そこまでは覚えている。<br />
なぜ別の世界に行っただとか、もう戻ってくることは無いだとかの<br />
理由を細かく話してくれていたようだが、そんなことはもう、どうでもよかった。</p>
<p> </p>
<p>「わかった…それで、なんでおまえだけがこっちの世界に残ってるんだ?<br />
SOS団の三人は消えたのに…なんで、おまえだけ?」<br />
「希望したものだけが行くことが出来る、と説明した」<br />
なにっ…!?希望だと?希望して…希望して行ってしまったのか!?<br />
ハルヒたちは…望んで…行った…畜生、俺には絶望しか残らないじゃないか!!<br />
<br />
…そうだ!俺は、苦肉の策ながら、希望の道があることに気づいた。<br />
「じゃ、じゃあ!俺たちも、そのパラレルワールドってやつに行くことは出来るのか?!」<br />
<br />
「一度別の世界へ移動すると、元の世界へは戻れない。<br />
精神的・肉体的にほぼ変化は無いが、<br />
この世界での人との関わりはすべて無かったことになる。<br />
移動する人物の年齢などを考慮し、あまり不自然ではない状況へと移動させる」</p>
<p>「そういうことか…。記憶はなくなる、と言ったよな。<br />
俺たちが、また、SOS団全員が会える確率はどれぐらいあるんだ?」<br />
「…わたしの計算によると、0,002%の確率で、涼宮ハルヒ、朝比奈みくる、<br />
古泉一樹、あなた、私が会うことになる」<br />
<br />
なんだその低確率は!?こんなふざけた団体に協力してやったのに、<br />
あっちの世界じゃ、集まるだけでそんな難しいのか?!ひでぇもんだな…<br />
<br />
「それでも、俺たちがまた、あいつらに会える可能性は…あるんだよな?」<br />
<br />
「ある」</p>
<p>「今すぐ、パラレルワールドへ移動できるか?」<br />
「出来る」<br />
なんという…。こんな時、俺はどうすればいい、長門?<br />
可能性を求めて一緒にあっちの世界に移動するか…?<br />
長門と二人だけで、SOS団として活動するか…?<br />
そういえば、ひとつ疑問があるな。<br />
<br />
「長門、なぜおまえは移動しなかったんだ?」<br />
「私がいなければ、あなたはあちらへ移動出来ない。<br />
それに、私はあなたを必要としている。<br />
それは一種の恋愛感情」<br />
「えっ…?」<br />
<br />
俺はこの時を、待ち侘びていたのかも知れない。</p>
<p> </p>
<p>外は未だに、雨が降り続けている。容赦の無い涙。<br />
その涙は、俺に返答をせがんでいるようだ。<br />
<br />
「長門、もう一度言ってくれ。よくわからない」<br />
「私はあなたを必要としている。それは一種の恋愛感情」<br />
「長門…本当か…?」<br />
「本当。嘘は言わない」<br />
「長門…実は、俺も…なんだ」<br />
「俺も、って何?」<br />
「俺も、長門のことが…好きなんだ。恋だ。<br />
ただの人間が、宇宙人に惚れたなんてお笑いかもしれない。<br />
けど、俺は、長門のことが大好きだ。だから」<br />
<br />
ぎこちない動作だったとは思う。<br />
俺たちはいつのまにか立ち上がっていて、<br />
長門と、最初で最後であろう口づけを、した。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>「長門…好きだ」<br />
「わたしも」<br />
<br />
―――抱きしめる。長門のすべてを。あっちでも、忘れぬように。<br />
<br />
「…よし、もう悔いはない。可能性が少しでもあるなら、俺は移動したい」<br />
「わかった。すぐに行う」<br />
「えっ?今すg…」<br />
<br />
目の前の長門が白い光に包まれたと思った瞬間、<br />
俺の視界は遮断された。<br />
<br />
</p>
<p> </p>
<p>…って<br />
…ててて…いてーっ…<br />
なんだ…痛いな…?</p>
<p>ったく…もうやってられないな…<br />
<br />
俺は埼玉県の県立高校に通う、ごく普通の男子高校生だ。<br />
こんな歳になってベッドから落ちるなんてお笑いだな、まったく。<br />
今日も勉学に勤しむため、俺はさっさと制服に着替えて<br />
メシを食って、出発することにした。<br />
<br />
自作のたまごゴハンを頬張りながら、時計を見る。<br />
もう午前七時か!早いな…昨日は午後七時すぎに寝たはずなんだけどな。<br />
しかも今日は久しぶりに朝から雨だ。ちくしょう、憂鬱にさせてくれるぜ。<br />
<br />
<br />
イヤな気分で教室に着くと、先生が見知らぬ生徒を連れてきていた。<br />
なんだよあいつは?転校生か?また生徒が増えるのか?<br />
こんなマンモス校に来るなんて気が狂ってる。<br />
<br />
「皆静かに!今日からうちの学校で学ぶことになった転校生だ。<br />
皆、仲良くやってくれ。自己紹介をよろしく頼む」<br />
<br />
<br />
「長門有希です。前の学校では文芸部に所属してました!これからよろしく!」</p>