「鶴の舞 第九幕」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「鶴の舞 第九幕」(2007/03/06 (火) 21:25:24) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
<p>「ちょっとまって有希んこ!」<br>
まだ倒れないでぇ・・・私は・・・キョン君にっ・・・言いたいことが・・・<br>
「はあ・・・はあ・・・キョン君・・・キョン君はぁっ・・・」<br>
有希ちゃんの指の示すところにキョン君はいた。けれど・・・<br>
「もう・・・手遅れ・・・?」<br>
そんな・・・。<br>
キョン君は、苦しそうな顔をしたまま、床に倒れていた。<br>
だから早く二人の所に行って、言えばよかったのにぃ・・・。<br>
私の馬鹿ぁ・・・。もっと早くみつけて・・・キョン君を<br>
もう一度、思いっきり、抱きしめて言えばよかったのにぃ・・・。<br>
「キョン君・・・大好き・・・って・・・!」<br>
<br>
ハルにゃんと他の三人の正体については、薄々気がついていた。<br>
きっと、古泉君は超能力者で、みくるは未来人、有希ちゃんは宇宙人で・・・<br>
ハルにゃんは・・・<br>
「神様・・・なんだよね?」<br>
有希ちゃんは首をゆっくり縦に動かし、肯定した。<br>
「うすうすは気づいていたの・・・。だけど、言うのがとても怖かったから・・・」<br>
私は、誰に謝ろうとしているのだろうか。<br>
<br>
キョン君を探しているときに、有希ちゃんとキョン君が話しているのを見かけた。<br>
本当はもっと早く二人のところに行けばよかった。<br>
けど、足が動かなかった。<br>
ハルにゃんの正体を、この耳で聞いてしまったからだ。<br>
恐怖で、前に進もうとも動けない。<br>
私の予想が的中してしまった。みくる、古泉君、有希ちゃんとハルにゃんの正体を。<br>
<br>
おそらく、キョン君の記憶を消した理由は・・・<br>
「将来・・・結婚するんでしょ・・・?キョン君と・・・ハルにゃんがぁ・・・」<br>
完全に涙声になってる。けど、もうどうでもいい。<br>
有希ちゃんが、私の言葉に<br>
「そう」<br>
と返事をしたからだ。<br>
<br>
「未来の・・・決まりごとなんだよねっ・・・」<br>
有希ちゃんが頷く。<br>
「やっぱり・・・そうだよぉ・・・。無理だったんだ、最初からぁ・・・」<br>
<br>
「キョン君とぉ、お付き合いしようなんてぇ・・・!」<br>
有希ちゃんは、ずっと私を見ている。<br>
「許婚とか嘘をついてまで家に連れて行って・・・<br>
私のことを・・・好きになってくれるって・・・そう思っていたけど・・・」<br>
やっぱり、無理だった。<br>
みんなは、キョン君をだます作戦に参加してくれた・・・。だけど・・・<br>
「勝てないよぉ・・・ハルにゃん・・・」<br>
<br>
私は、自分のことをあんなに全部言うつもりは無かった。<br>
だけど、キョン君を見ていると、私のいろいろな事を知ってほしいって・・・ずっとそう思っていて・・・<br>
「あ~あ、私たちの劇はこれで終演にょろね・・・」<br>
誰に言うわけでもなく、私はつぶやいた。<br>
私まるで、舞子さんのようだったなあ。踊っているときは、<br>
別世界にいるかのような感覚になるのに、演舞が終わると、<br>
現実の世界に叩きだされる。<br>
<br>
ずっと、永遠に舞っていたかった。<br>
だけど、いずれ疲れ果ててその夢も終わってしまう。<br>
限界が、恨めしい。<br>
「どうせ私の記憶も消すんだろっ?」<br>
「そう、あなたと彼との特別な<br>
「恋愛感情にょろっ!」<br>
(・・・あ・・・言ってしまった・・・)<br>
急に顔が熱くなる。<br>
(ここ・・・こんなに恥ずかしいなんて・・・)<br>
ああ、有希ちゃんがずっとこっちを見ている。<br>
だけど、恥ずかしがってばかりじゃいけない。<br>
「有希ちゃん!」<br>
「なに」<br>
「二十秒・・・いや、十秒だけ、キョン君の目を覚まさせて!<br>
その時の記憶も消していいから!」<br>
<br>
むちゃな質問とは分かっている。<br>
だけど・・・<br>
「なにをするの?」<br>
ずっと心に決めていたことを言う。<br>
大丈夫、きっとキョン君も、それを望んでいるはず。<br>
<br>
私が今からする内容を有希ちゃんに言うと、<br>
「問題は無い。ただ、怪我だけは注意して」<br>
・・・怪我するかなぁ。ひょっとしてそんなものだったりして。<br>
・・・なんせ初めてだもん。<br>
自然と心臓の高鳴りが速まる・・・。<br>
(だめ・・・もうこれ以上我慢できない・・・)<br>
「有希ちゃん!お願い!」<br>
「了解した」<br>
キョン君の体が、ぴくりと動いた。久しぶりに感じる、彼の匂い。<br>
ゆっくりと、キョン君の目が開いた。<br>
<br></p>
<br>
<p>あれ・・・なんだ・・・目が覚めたぞおい・・・。<br>
鶴屋さんと別れる覚悟がついたのに・・・<br>
とりあえず目を開けてみようか・・・。<br>
<br>
何も変わらない気もするが。<br>
「あれ・・・ってあ」<br>
むぐうっ!!??<br>
急に口が塞がれた。<br>
・・・これは夢だ、夢に違いない。<br>
俺のあまりの情熱が作り出しだ、幻影だ!<br>
・・・しかし、やけに現実身があるな・・・<br>
暖かかった鶴屋さんの唇の温度が、今ちょうど俺の唇に・・・。<br>
<br>
ふと目を正面に向けると、鶴屋さんの顔がそこにいた。<br>
ああ・・・これは幸せな夢なんだ。<br>
こんなにいい夢が見られるなんて・・・。<br>
夢、そうですよね、鶴屋さん。<br>
<br>
・・・だから、夢の中で泣かないで下さい・・・。<br>
涙が俺の唇を伝う。笑ってください。お願いだから・・・笑って・・・。<br>
笑って、別れましょう。<br>
<br>
あなたに・・・泣き顔は似合わないからっ・・・!<br>
(大好きです、鶴屋さん・・・)<br>
俺は、夢の最後まで鶴屋さんの笑顔を願った。<br>
<br></p>
<br>
<p>
急に力が弱くなったと思ったら、キョン君は体をだらりとさせて、<br>
ゆっくりと床に倒れた。<br>
十秒が一時間のように思えた。<br>
キョン君の顔を見て、私は安心した。<br>
キョン君が、もうあの苦しい顔をせずに、優しい顔で眠っていたから。<br>
<br>
もう、これで決心をつけた。心残りは無い。<br>
「有希。さあ、私の記憶を消して」<br>
「・・・本当にもういいの?」<br>
初めて見せた有希ちゃんの優しさに戸惑う。けれど、<br>
「わがまま言っちゃいけないよ。これ以上すると、キョン君の記憶を守ろうとして、<br>
大事なSOS団の部員、有希ちゃんを殴ってしまうかもしれないから」<br>
たとえ、私の大切な記憶が消えようとも、大切なSOS団に傷をつけたくない。<br>
それが、私の決心したことなのだから。<br>
<br>
すっと、有希ちゃんの手が私の方に向けられる。<br>
後悔は、もう無い。<br>
<br>
―キョン君・・・私・・・たくさんの秘密をばらしたから、キョン君の秘密も、貰っちゃうね。<br>
<br>
あなたが・・・私のファーストキスの相手だということを―<br>
<br>
ゆっくりと、意識が途絶えるのを感じた。<br>
<br>
<br></p>
<br>
<br>
<br>
<br>
<p>彼女の意識の凍結を確認。<br>
直ちに情報操作を行う。<br>
<br>
・・・?うまくいかない。<br>
原因は、おそらく私。<br>
私の何かが拒んでいる。<br>
何故拒む?<br>
解答は、得られない。<br>
だが、実行に移さなければ、彼らの意識は途絶えたまま。<br>
<br>
強制ファイルを起動。<br>
<br>
情報操作は実行され、・・・無事終了。<br>
<br>
あとで古泉一樹の機関の手により、彼を家に戻させる。<br>
彼とその家族の記憶も修正した。<br>
この屋敷にいる全員の記憶も書き換える。<br>
<br>
これで、すべては規定事項に従った。<br>
<br>
だが・・・<br>
彼の言葉とその顔が、無意識に蘇る。<br>
<br>
『その何パーセントに賭けてみようとか思わないのか!?』<br>
悲痛なその顔。<br>
どうして私は思い出す?<br>
私にとっては不要な情報のはず<br>
<br>
いや、違う。<br>
彼のその顔が、私の神経に大きな衝撃を与えたから。<br>
<br>
『私ハソノ賭ケニ挑ムノカ?』<br>
自分に聞く。答えは、確立論がそれを制する。<br>
『無謀ダ』<br>
そのはず。ではなぜ、彼の顔がいつまでも頭に残っている?<br>
そっと、私の本当の答えが浮かんできた。<br>
<br>
「彼と彼女の感情を失いたくない」<br>
無意識に声が出てしまう。<br>
<br>
つまり、私はごく僅かな可能性に賭けるのか?<br>
<br>
『無謀』という言葉を消し去る。<br>
私は今後、「規定事項に反する行動」を行うだろう。<br>
たとえ規定事項を犯しても、未来に大きな変化が起きなければそれでいいはず。<br>
むしろ、<br>
「私が今の規定事項に反することをするのが、本当の規定事項?」<br>
正しいかどうかは分からない。<br>
だけど、<br>
「可能性があるなら、私はその可能性に賭ける」<br>
彼がこの思いを失ったまま未来を迎えるよりかは、<br>
<br>
この可能性を信じていくほうがいい。<br>
<br>
「必ず、あなたたちを幸せにする」<br>
そう、決心した。<br>
彼女と、同じように。<br>
<br>
<br></p>