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「鶴の舞 第七幕」(2007/03/05 (月) 00:36:17) の最新版変更点
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<p>OK、自分が今何を考えているのかは自覚している。<br>
『鶴屋さんの思い』という意味を。<br>
考えてみれば簡単だったさ。鶴屋さんへの感情がどこに向かっているのかは。<br>
ぶっちゃけた話、俺はそういう『こいばな』みたいなのは好きじゃなかったし、<br>
何より関わりが無かったからな。無縁で思考能力が低下していたことにその原因がある。<br>
<br>
『涼宮さんのこと、好きなんでしょ』<br>
なぜかその言葉を思い出す。<br>
・・・なんで俺がハルヒを好きになるんだ。<br>
たしかに信頼以上のこともあるが、それはまた別の話だ。<br>
「どうしたんだいっ、キョン君っ」<br>
そんなことはどうでもいい。今はこの人と一緒にいる時間を大切にしろよ俺。<br>
「鶴屋さん」<br>
「なんだいっ?」<br>
ああっ、笑顔がまぶしい、まぶしすぎるよ鶴屋さん。<br>
いかん、直視できん。言いたいことすらいえない。ウイルスよ、去れ!<br>
「あららぁ、どうしたんだいっ、そんな赤い顔してぇっ!」<br>
目を明後日の方向に向ける。うむ、北極星は健在だ。<br>
<br>
「もう少しだけ」<br>
鶴屋さんが優しく声をかけ、俺の顔の頬を両手で包み込むように挟む。<br>
そしてむりやり真正面を向かわされた。<br>
ちょっと医者を呼んできてくれ。こいつは重病だ。頭が働かん。<br>
「・・・わたしの話を聞いて」<br>
是か非を答えさせる余裕すらありません。もちろん是ですけれど。<br>
なんとか俺の頭が再起動した。今の感情は・・・。<br>
『もっと・・・知りたい。鶴屋さんのことを』<br>
よし、いたって正常。有無は言わせん。<br>
<br>
「私は強くなるために、通っていた私立の小学校で好きな人を探した。<br>
その人を見つけて、私が守る。そうすれば私はお母さんのような人になれる。<br>
そう考えた。でも、<br>
『男どもとはあまり仲良くするな』という家の言いつけを守らなくちゃいけないから、<br>
ターゲットは女の子にした。そうして私は何人かの親しい女友達は作った。<br>
でも、なにか問題を抱えているような子はいなかった。<br>
親の教養が行き届いているし、家庭内事情なんてある子はいなかったの」<br>
守りたい人が見つからない。幼いころからそんなことを考えていたとは。<br>
ロマンティックの嵐だぜ。<br>
「私立の中学校に進学しても、守りたい人はいなかった。<br>
そのころから私は、許婚を決めなければならなかった。<br>
その時は興味がある男なんていなかったわ。<br>
どうせ一人でも生きられるでしょ。そんな風に考えていたの。<br>
だから適当な男を呼んで家に誘って、さっさと帰ってもらったの。」<br>
意外とその時の鶴屋さん、黒かったんですね。<br>
「結局、九年間を棒にふってしまった私はある決断をした。<br>
公立学校にいって、守る人を見つける。ずいぶんと親に怒られた。<br>
『公立に行く必要はない』って。<br>
それでも行きたい私は、私の幼いころに決意したことを話した。<br>
その時に見た親の顔は今でも覚えている」<br>
確かに鶴屋さんのような人が、なぜこの公立学校に入学したのかは疑問に思っていた。 <br>
「そしてようやく承諾された。だけど条件があった。<br>
[下校時間になったら速やかに塾に行くこと]、[極力外へ遊ばない]。<br>
この二つ。でも私は苦じゃなかった。『これで守りたい人が見つかる』。<br>
その希望だけが見えていたからねっ」<br>
現代の女子高生が聞いたら卒倒してしまうだろう。現に、俺もしそうだ。<br>
・・・そこまで探したかったのか。その、守るべき人。<br>
<br>
「でも高一の時にもいなかった。ここは全国でも稀有な学校だった。<br>
いじめなんて無かったもの」 <br>
まあ、確かにこの学校でそんな光景を目にした覚えは無い。<br>
「がっかりしてしる自分が恨めしい。また無駄な一年が過ぎてしまった。<br>
でも、高二になって・・・ようやく見つけられた。・・・守るべき人が」<br>
鶴屋さんの目線は俺。・・・ここで俺にあるひらめきが発生した。<br>
「まさか・・・その守るべき人って・・・まさか・・・」<br>
俺!?<br>
<br>
「さすがはSOS団だねぃ!勘が鋭いっ。実はあのみくるさっ!」<br>
<br>
よし、今すぐ誰か俺をグレートキャニオンに落としやがれ。<br>
十万円から手をうとうじゃないか。<br>
カメラを用意しな。見事なバンジージャンプを見せてやるぜ。<br>
<br>
相変わらずな笑顔で鶴屋さんは話す。<br>
「最初みくるを見たときはねぇー、反射的に『守りたいっ!』<br>
って気持ちが噴出したにょろね~。だってあの娘、ちゃんと見ておかないと<br>
知らない男に連れて行かれそうになるからね~」<br>
朝比奈さんの話題になると急にテンションが上がるな。身振り手ぶりが激しい。<br>
確かにあの方は、まるでシンデレラような麗しさを持っている。<br>
母性本能をくすぐられるのも仕方が無い。<br>
『知らない男に連れて行かれそう』とか言っていますけど、ぶっちゃけ、<br>
未遂が起きたんだぜ?<br>
「だから私は、みくるを絶対に守るって決めたんだ」<br>
<br>
なぜか最後の方では、心なしか声が小さくなった気がする。<br>
<br>
「でも、」<br>
いつのまにか、鶴屋さんの目が暗くなっていた。<br>
「みくるは、ハルにゃんに獲られちゃった」<br>
<br>
SOS団。その単語が俺の頭を駆け巡る。いろいろとおかしい目的を持ったサークルに加えて、<br>
宇宙人、未来人、超能力者の存在、そして、世界の神が君臨する部。<br>
鶴屋さんの顔に、憂いが漂っていた。<br>
守りたい人を奪われた、勇気ある女性の哀れみ。<br>
「私が目を離した隙に、いつのまにか書道部からハルにゃんの物になっていた」<br>
口調がやけに厳しい。もしや、の言葉が浮かぶたびに、俺の頭をリセットする。<br>
だが、発生は止まらない。<br>
「みくるは、私にいつもSOS団の話をしてくる。<br>
それが苦労話なら、私はみくるを助けられる、守れる。<br>
だけどみくるは、いつも楽しい出来事しか話さない。」<br>
一体何を考えているのですか、鶴屋さん。<br>
「私は絶望した。『守りたい人が、離れていく』。<br>
その失望感が、頭の中で繁殖した」<br>
すべては、SOS団のせい。<br>
<br>
そう、聞こえるようなニュアンス。希望を奪ったハルヒを、<br>
鶴屋さんはどう思っているのか?<br>
<br>
まさか、鶴屋さんはハルヒのことを、と言う前に鶴屋さんの話によって遮られた。<br>
「野球大会も本当は行きたくなかった。みくるの涙目でその時は了解したけれど、<br>
別荘なんてとてもとても。だから拒否した。ハルにゃんの顔を見ると、<br>
自分が何をするか分からなかったから」<br>
「・・・」<br>
「映画撮影の時も、私はみくるに、<br>
『止めてもいいよ。私がびしって言うから』と言った。<br>
だけどみくるは、『お仕事ですから』って笑っていた。<br>
本当はどう思っているのか、その心境をみくるは打ち明けてくれないと思った。<br>
だから、私はみくるにお酒を飲ませた。<br>
酔っているうちに、きっと本音を言うはず。それでみくるは助かる、って」<br>
まさか鶴屋さんが、そんな気持ちでやっていたなんて。<br>
たしかに、朝比奈さんがもし『SOS団が嫌だったら』という仮定の上であれば<br>
有効な手段かもしれない。だけど・・・<br>
「みくるは酔っている時でも、SOS団、<br>
もとい、ハルにゃんのことを考えていた。」<br>
『喧嘩は止めてください』。そんなにはっきりした口調ではなかったけど、<br>
確かにハルヒの事を大切に思う気持ちは伝わっていた。<br>
鶴屋さんの憂いが増す。<br>
「それが裏目に出て、もう完全にハルにゃんに獲られた。<br>
そう決定してしまった」<br>
<br>
風が急に強くなった。今日の天気は晴れのはずだ。<br>
<br>
「みくるは、私よりも、ハルにゃんの事が大切なんだ。<br>
つまり、私はどうでもいい友達。<br>
SOS団にいるときの方が明るい気がした。もう、みくるは、<br>
私のことを何にも思っていない。そんな気がした」<br>
<br>
映画撮影でのハルヒと鶴屋さんの笑い声が、俺をあざ笑うかのように思い出された。<br>
<br>
「もしかして」<br>
突如言ってしまった声。意識する前に出してしまった。<br>
迂闊だった。あまりにもショックがでかすぎたからだ。<br>
<br>
<br>
この疑問は、はたして言ってよいものなのか。<br>
言うべきか、言わざるべきか。俺の頭が煮えたぎる。<br>
だが、俺の口は止まらない。<br>
「ハルヒを」<br>
言うな言うな言うな言うな言うな<br>
<br>
「・・・恨んでいます?」<br>
<br>
空気が・・・一瞬にして激変した。<br>
重すぎる風圧。耳障りな葉の音。<br>
すべてが俺を拒否している。<br>
<br>
鶴屋さんは空を見上げながら言った。<br>
「最初は」<br>
(言わないで言わないで言わないで言わないで)<br>
そう想っていても、俺は口に出して言えなかった。<br>
<br>
鶴屋さんはゆっくりと、時間をかけて話し始めた。<br>
ハルヒへの思い、そして、SOS団のことを。</p>
<p><br>
<br>
「私、ハルにゃんのことを恨んでいた。<br>
・・・そんな悲しい顔しないで」<br>
「悲しい顔なんて・・・していません」<br>
<br>
今日の嘘はやけに下手くそだ。<br>
「だから、SOS団なんて無くなればいい。<br>
そう思っていた。ごめんなさい」<br>
女性に頭を下げられて何とも思わない奴、お前は男じゃない。<br>
<br>
ついでに言うと、俺も失格だ。鶴屋さんに頭を下げられるなど、<br>
何をしているんだ俺は。<br>
俺は鶴屋さんに頭を上げてくださいと六回繰り返して言ったが、<br>
顔には目に涙が溜まっていた。人生最大のミスを一夜にして二回も犯すとは。<br>
「ごめんね・・・」<br>
だからそんな目で俺を見ないで下さい。胸が苦しくなる。早く開放されたい。<br>
「それで私は、みんなが下校して誰もいない部室に忍び込んだの。<br>
塾をほったらかして親に怒られてもいい覚悟だった。<br>
大切な人を奪われるよりかはいいだろうと思って」<br>
そんな犯罪まがいなことをするなんて。<br>
「部屋に入った私に最初に飛び込んできたのは、メイド、看護婦などのコスプレ衣装。<br>
私の知らないみくるがここにいる。そう思うだけで暴れそうだった。」<br>
<br>
聞いていて、つらい。鶴屋さんの笑顔が見たい。<br>
あなたの顔は、笑顔が一番と言いたい。<br>
「その衝動を抑えた私の目に、机にある本が映った。その本の表紙には、<br>
『我らSOS団の軌跡』というタイトルが手書きで書かれていた。どうやらアルバムらしい。<br>
まずはそのアルバムの中に入ってあるものから消そうと思った」<br>
<br>
確かにアルバムはあったが、俺が見ようとするとハルヒが<br>
阿修羅鬼も真っ青な顔でにらんできたので見られなかった。<br>
今でも、そのアルバムはあるのか?というより写真は今もちゃんと残っているのか?<br>
<br>
寒気がした。<br>
春は遅い。<br>
<br>
「でも、それは出来なかった。最初のページを開いた時に、ある写真があったから」<br>
ある写真?鶴屋さんの怒りを抑えることができた時点で相当なものであろう。<br>
<br>
「その写真は、私とハルにゃんのツーショットだった」<br>
ツーショット?いつの間に撮ったんだ?<br>
「風景から見て、おそらくあの映画撮影の時だと分かった」<br>
ハルヒは、自分と仲良く話す鶴屋さんをどう思ったのだろうか。<br>
他人の本心を聞きたがる奴は恐ろしい。<br>
もしハルヒが、「なんで鶴屋さんは私とこんなにも仲がいいんだろう?」<br>
と鶴屋さんに聞いたら、今頃どうなっていたのだろうか。<br>
<br>
考えるな。<br>
<br>
「その写真には何か文字が書いてあった。」<br>
そういって鶴屋さんは、一枚の写真、いや、紙を取り出した。<br>
ずっと持っていたのだろうか、紙がやけにくたびれている。<br>
「さすがに現物を盗るにはいかないからコピーしたにょろっ」<br>
<br>
語尾で安堵した言葉ってそうそうないだろうな。<br>
その紙には、鶴屋さんとハルヒがおそらく<br>
映画について話しているのだろう、笑みがこぼれていた。<br>
鶴屋さんには二つの文章が書かれていた。<br>
<br>
『我らの名誉顧問!』<br>
<br>
もうこの頃から決めていたのか。<br>
字を見る限りハルヒによって書かれたのであろう。<br>
そしてもう一文<br>
まことに可愛らしいフォントで書かれていたのは、<br>
<br>
『私の一番の親友』<br>
<br>
<br>
周りには大量のハートマークが描かれていた。考えるまでもない。これは、<br>
「みくるがそんな風に思ってくれているなんて、思いもしなかった」<br>
ふと鶴屋さんの顔を見ると、みくるビームを超える衝撃がそこにあった。<br>
あの微笑が戻っていた。やばい、最強。まさかあれを超えるものがこの世界中にあったとは。<br>
生涯忘れることの出来ない感動を覚えたね。<br>
そして、この写真も。<br>
<br>
「私この写真をみて、一人でわんわん泣いた。そして気付いたの。<br>
『守りたい人がどんなに素っ気無くても、思いを伝え続けることが大事なんだ』って。<br>
私恥ずかしかった。<br>
『みくるの反応を私に向けてほしいというわがままで、<br>
どうしてこんな行動をしてしまったのだろう。自分を愛してもらえないという理由で、<br>
どうしてみくるの大切な存在を消そうと思ってしまうのか』って」<br>
もう心配事は蚊帳の外だった。杞憂にもほどがあったな。けれど安心してしまうのは、<br>
決して俺が臆病であったからではないはず。<br>
「私はSOS団のことを好きになった。<br>
こんなにもみくるが楽しそうな日々を送っているのを見て、<br>
『もっと関わりたい』、そう感じた」<br>
<br>
そして鶴屋さんは話し続けた。<br>
鶴屋さんが親に別荘を借りるとき、涙が出るほど説得したこと。<br>
ハルヒから『名誉顧問』の腕章をもらったとき、<br>
飛び跳ねたい衝動に駆られたということ。<br>
そして、<br>
「ハルにゃんは、私の心に生涯残る最高の友達にょろっ!」<br>
この言葉が一番嬉しかった。<br>
<br></p>