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未来恋物語~一時の温もり~」(2020/08/23 (日) 10:37:16) の最新版変更点

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<br>  久しぶりに探索が無い週末。わたしは休暇を取って、未来に帰ることにしました。<br>  本当に久しぶりなんです。だから、お父さんやお母さん、友達に会うのが楽しみ。<br>  でも、一人だけ会いたくない人がいるの。嫌いなのかって?<br>  ううん、嫌いじゃないんです。大好きなの。大好きだから……会いたくない……。<br> <br> <br>  わたしが帰る時、いつも自宅から離れた所に座標指定するんです。<br>  そうすると、歩いて帰っている時に知り合いに会えるの。……ほら、いました。<br> 「……あれ? みくる!? 久しぶりじゃないの……いつ帰って来たの?」<br>  わたしの学校のお友達です。いつも元気で、わたしを励ましてくれるの。<br>  だから、未来からの指令がくる時にお互いに手紙を渡して、間接的文通をしてるんです。<br> 「えへへ……たった今だよ。一番最初に会えてうれしいです」<br> 「あたしもうれしいよ! あ、でも……時間ないんだ。仕事だから……ごめん……」<br>  そっかぁ……だから走ってたのかな? うん、しょうがないです。<br> 「今度、長い休みが取れたらお泊まりしましょうね? 手紙はいつでも待ってますから!」<br>  あれ、泣いちゃダメですよ。わたしだって寂しいんだよ? 我慢してるのに……。<br> 「ひっく……みくる、ごめんね? 本当にごめん。落ち着いたらすぐに手紙送るから!」<br>  そう言って、走りだして行きました。わたしはまた一人です。<br>  ……でも、会えてよかった。別れが悲しいけど、顔を見れたのがうれしかったの。<br>  わたしもまたあっちに行ったら手紙をすぐに書こう。<br>  再びわたしは歩き始めました。いつも暮らしている時間平面の世界とは違う風景。<br> <br>  向こうも好きだけど、やっぱりわたしはこっちが一番です。だって、生まれたのがここですしね。<br>  だんだんと家に近くなって、もう誰とも会わないだろうなぁって思った時、後ろから声をかけられました。<br> 「みくる!」<br>  この声……やだ、振り向きたくないです……。<br>  聞こえないふりをして歩いていると、今度は肩を掴まれながら声をかけられました。……捕まっちゃった。<br> 「無視すんなよな、みくる。久しぶりだなぁ……会えてうれしいぞ」<br>  わたしも会えてうれしいけど……出来れば会いたくなかった。<br> 「お兄ちゃん……」<br> 「ははは、相変わらずその呼び方だな。みんな『キョン』って呼んでるんだからみくるもそう呼べよ」<br>  あの人と声も似てる。顔も似てる。あだ名も一緒。性格は表面は全然違うけど、根が優しい所は一緒。<br>  わたしの幼馴染みの一つ年上の『お兄ちゃん』。<br> 「うん、ごめんね? ……お兄ちゃん」<br> 「くくくっ、本当に変わらないな、みくるは。まぁ、それがいい所か」<br>  だから会いたくなかったのに。好きだから。大好きだから。<br>  絶対に届かない恋なのに、好きになっちゃったから。<br>  わたしが過去に行くからとかそんな理由じゃないの。ただ……。<br> 「キョン、早く」<br>  この人とお兄ちゃんが付き合ってるから。<br> 「あ、悪いな。有希。昔っからみくるとは仲良かったから、久しぶりに会えて話してたんだ」<br>  長門有希さん。お兄ちゃんの彼女なんです。たぶん『長門さん』とは同期してないと思うんですけど……。<br> 「……夕ご飯の時間まで話しといていい。わたしは家で本を読んでおくから」<br>  『有希ちゃん』はそう言うと早足で去って行きました。一応、気を遣ってくれたのかな?<br> <br> 「あちゃ……怒らせちまったかな? まぁ、後で謝ればいいか、とりあえずみくるの家に行こうぜ」<br>  あれで怒ってるってわかるのはお兄ちゃんだけ。『長門さん』の気持ちをわかるのがキョンくんだけのように。<br>  お兄ちゃんと並んで歩く。すぐそこが家なのに遠く感じちゃう。ドキドキする……ダメなのに。<br>  わたしは有希ちゃんも好きだから、悲しませたくないんです。だからお兄ちゃんと会いたくなかった。<br>  わたしがお兄ちゃんと会うと有希ちゃんは悲しそうな目をするから。<br> 「みくる、先に入ってくれよ。お前の家なんだし」<br>  あれ? もう着いちゃった。そんなに長く考えごとをしてたかな?<br>  家に入り、お父さんとお母さんと抱き合って挨拶を交わすと、お兄ちゃんと一緒にわたしの部屋に行きました。<br>  お母さんがほこりをはたいているのかな? 帰ってきた時はいつも部屋がきれいなんです。<br>  絶対に家具は動かないし、散らかることもないわたしの部屋。<br> 「へへへ、みくるの部屋も久しぶりだな。……そうだ、いろんな話を聞かせてくれよ。俺も話すからさ」<br>  こっちなら禁則事項なんて関係なく話せる。いろんなことを話そう。<br>  古泉くんのこと、涼宮さんのこと、親友の鶴屋さんのこと……。<br>  でも、長門さんとキョンくんのことは伏せておきます。理由は……いろいろです。<br>  強いて言うなら、みんなが幸せでいられるように、かなぁ。<br> <br> <br>  大好きな人といろんなお話しをするのはとってもうれしいことですね。<br>  時間を忘れてお話ししちゃった。まだまだ話したいことはあったんだけど、お兄ちゃんが時計を気にするのに気付いちゃった。<br> 「そろそろ時間……ですか?」<br> 「あぁ、悪い。有希をあんまり怒らせたくないからさ」<br> <br>  申し訳なさそうな顔でお兄ちゃんはわたしにウインクした。彼の一挙手一投足が懐かしくて、愛しい。<br>  立ち上がって部屋を出ようとしてる、わたしも見送りに行かなくちゃ。<br>  ……また、会えなくなる。会いたくなくて、でも会っちゃって、楽しくて……。<br>  せっかく楽しかったのに、もう終わり。好きだってことも忘れてたのに思いださせただけなんて……ひどいよ。<br>  だけどダメ。有希ちゃんを悲しませたくないし、引き止める権利もない。<br>  だから見送らなくちゃいけないのに……。<br> 「おいおい、見送りくらいしてくれよな」<br>  体が動かないなんて。まだ未練があるの? わたし、ダメだなぁ。いつまで経っても大人になれない。<br>  大人だったら、割り切って見送りだって簡単に行けるのにな。<br> 「……みくる、泣くな」<br>  泣いてなんてないよぅ。だって偉くなって、禁則事項も減らして、キョンくんにいろいろ教えてあげないと。<br>  そのためには大人にならなくちゃ。だから、泣いてちゃダメなんです。<br> 「俺だって寂しいんだ。久しぶりに会ったお前ともっと話もしたい」<br>  ……わかってます。だから「うん」って頷いてるんですよ。何度も、何度も。<br>  だって感情って勝手に溢れてくるんだもん。頷くしかできないんです。<br> 「……やっぱり見送りはいいよ、ありがとう。じゃあな、みくる」<br>  嫌だ。見送りに行くから待ってください。すぐに立ち上がって「大丈夫だから」って言いますから。<br> 「今日だけ……まだ居て……ください……」<br>  あれ? 違うよ。言うことを間違えちゃった。今のはわたしの心に秘めとく方の言葉だったのに。<br> 「……それならそうってはっきり言っとけよ。また、有希を怒らせるじゃねーか」<br>  お兄ちゃんは電話を取り出して、有希ちゃんに電話をかけました……。<br> <br> 「……違うって、俺が好きなのは有希だけだ。だから今日だけ……な?」<br>  また、少しだけ涙が溢れちゃった。諦めてるつもりでも、ちょっと期待してたのかもしれない。<br>  当たり前だよね。有希ちゃんはわたしなんかより全然いい人だもん。<br> 「本当にごめんな。みくるも俺の……大切な人だからさ。今日だけはついててやりたいんだ」<br>  その言葉を面と向かって言われたかったなぁ……。ごめんね、有希ちゃん。本当に謝っても謝りきれないくらいごめんなさい。<br> 「……うん、ごめん。じゃあ、また明日」<br>  電話を切ると、お兄ちゃんはわたしに近付いてきて……泣いてるわたしの頭をそっと抱いてくれた。<br> 「……バカ」<br> 「うん」<br>  わたしはバカです。最低な女です。何にもできない、ダメな人間です。<br> 「……泣き虫、わがまま、寂しがり」<br> 「うん、うん、うん……ごめんね。ごめんなさい……」<br>  『ありがとう』が出てこないよ。謝ってばっかりで気の利いたことも言えない。<br>  頭を抱かれたそのままで、しばらくわたしは涙を流しました。<br>  ごめんね、有希ちゃん。でも、すぐにわたしはあっちに戻りますから。<br>  だから今日だけ……もっと一緒に居させてください。<br>  もう少しだけ一緒にいたら……あっちに戻ろう。せっかくの休暇だけど。<br>  お父さんやお母さんには悪いけど、お兄ちゃんを帰らせたら少し話して戻ります。<br>  じゃないと、二度と向こうに行きたくなくなっちゃうから。<br> 「落ち着いたか?」<br>  お兄ちゃんはわたしの顔を覗きこんで言いました。最後だから、ちょっとだけ甘えてもいいよね?<br> 「落ち着いたけど……もう少し……」<br>  少しだけ体を寄せると、笑われちゃった。<br> 「ははは、やっぱりわがままだな」<br> 「うふふ、ごめんなさい」<br> <br>  あと……一時間、一緒にいたら戻ります。だから、それまでは温もりを感じさせてくださいね。<br>  わたしは一時の幸せに身を委ねながら、残りの時間を過ごして、遂にその時間が訪れた。<br> <br> <br> 「本当にもう大丈夫か? 心配だな……」<br> 「大丈夫。平気です。わたしも泣いてばかりいられないもん」<br>  家の外の夜空の下、わたしは大好きな人を見送るためにそこまで来ました。<br> 「そうだな……うん。頑張れよ、また帰ってきたら連絡しろよな」<br>  わたしは決めたんです。もう、お兄ちゃんとはしばらく会わない。<br>  帰ってきても顔は会わせません。じゃないと、わたしの全部が揺らいじゃうから。<br> 「ごめんね。お兄ちゃん……好きです」<br>  やっぱりお兄ちゃんはひどく驚いたみたい。こういう所もキョンくんと似てる。<br>  とっても静かな時間が流れて、その後、お兄ちゃんはゆっくりと口を開きました。<br> 「お、俺も……ん?」<br>  だけど、わたしはその口を指で塞いじゃいました。返事を聞いたら誰かが不幸になっちゃうから。<br>  そんなのわたしは望まないです。みんな幸せが一番理想的。だから、わたしはこう言うんです。<br> 「わたしに彼氏が出来るまでは連絡しませんから。……彼氏が出来たら、またたくさんお話ししましょうね」<br>  精一杯の笑顔を作って、手を振ったわたしの気持ちを彼は察してくれたみたい。<br> 「……あぁ。俺みたいにいい男を捕まえろよ、じゃあな」<br>  うふふ……やっぱり変わってないなぁ。話せてうれしかったです……ありがとう。<br>  それからわたしはお父さんとお母さんに「また、すぐに帰るから」って、別れを告げてあの時間へと帰ることにしました。<br>  わたしの家に座標指定をして、帰ったらお昼になるように時間指定をしました。<br> <br>  お昼にする理由ですか? 謝らなくちゃいけないですから……。<br> <br> <br>  ん……、帰ってきちゃったんだなぁ……。<br>  夜だった景色が、光で満ち溢れる昼になって、わたしは目を細めました。<br>  眠気は全然ないみたい。当たり前かなぁ……だって、何よりもしたいことがあるから。<br>  わたしはこの時間平面で使う携帯電話を取り出して、あの人に電話をかけました。<br>  1コール……2コール……ピッ。<br> 『朝比奈さん? 珍しいですね……どうしたんですか』<br>  キョンくんはすぐに電話に出てくれました。……ちょっと眠そうな声、かな?<br> 「ごめんなさい、起こしちゃいました?」<br> 『とんでもないですよ。朝比奈さんからの電話なら、たとえ脳死状態でも起き上がります』<br>  たまにだけど、キョンくんって、とっても大袈裟なことを言うんですよね。<br>  ちょっとした褒め言葉みたいでうれしいですけど。<br> 「うふふ、ありがとう。あの……今からお昼を一緒に食べませんか? お話しもしたいですし……」<br>  あ、ちょっとドキドキする。なんだか、告白するときみたいです。<br>  これって一応デートのお誘いになっちゃうのかな?<br>  わたしがそんな考えをしてるとすぐにキョンくんの返事が聞こえてきました。<br> 『もちろんいいですよ! じゃあ……30分後にいつもの喫茶店で!』<br>  ……あれ? 切れちゃった。でも時間も場所も決めたから大丈夫ですよね?<br>  キョンくんのあの元気は張り切ってるからかな? 少し元気をわけられた気がします。<br>  うーん……少しだけ、おめかししちゃおっかな?<br>  一番のお気に入りの洋服を着て、薄くお化粧をして家を出ました。<br>  風と日光のバランスが気持ちいい天気だなぁ……。<br>  あれ? 今のは少し言葉がおかしかったかなぁ?<br>  う~ん……いいですよね。だってこんなに気持ちいい天気なんだもん。<br>  急いでキョンくんとの待ち合わせ場所に行かなくっちゃ!<br>  わたしは元気よく家を出て歩きだしました。ちょっと間に合いそうにないけど、できるだけ急ぎましょう。<br>  今は早くキョンくんに会って言葉を伝えたい。「ごめんなさい」って。<br> <br>  たぶん、わたしはキョンくんの姿を『あの人』に重ねて好きになっちゃってたんです。<br>  未来で届くはずのない思いをこっちで少しでも届かせたかったんだと思います。<br>  だから謝りたいの。失礼な気持ちで好きになっちゃってごめんなさい、って。<br>  でも、好きだって気持ちは本気ですよ?<br>  わたしの組織の人とか古泉くんの機関には都合が悪いかもしれないけど……好きになる気持ちはどうにもなりません。<br>  『あの人』への気持ちはもうちゃんと押さえました。<br>  だからしっかりと謝って、それからちゃんと好きって伝えたいんです。<br> 「朝比奈さん!」<br>  いつもの喫茶店の前に、ほぼ時間通りにキョンくんはきました。<br>  謝っても、何も聞かないでくれるかな? 大丈夫だよね……優しいキョンくんだもん。<br> 「キョンくん……ごめんなさい」<br> 「い、いきなり何で……? いや、とりあえず中に行きましょう」<br>  キョンくん、ありがとう。やっぱり優しいなぁ。何も聞かないでくれた。<br>  わたしが泣いてるからとかじゃないですよ? キョンくんは本当に優しいんです。<br>  泣いてるまま店の中に入るのは恥ずかしいからキョンくんの背中を借りちゃおう。<br>  見ようによってはこっちの方が恥ずかしいかもしれないけど……わたしはこっちの方がいいな。<br>  キョンくんの背中におでこを乗せて店の中について入りました。<br>  暖かくて落ち着くお父さんの背中みたい。すぐに涙は止まっちゃいました。<br> 「今日はお詫びとして奢っちゃいます! 何でも頼んでいいですよ」<br>  わたしの顔をじっと見つめるキョンくん。この人は他人の気持ちを掴むのが上手いんです。<br>  だから、涼宮さんを押さえることができるし、長門さんの表情も読める。<br>  ということは、わたしの今の心の中も筒抜けだと思うんです。<br> <br>  でもキョンくんは何も言わないで微笑んでくれる。それがキョンくんだから。<br> 「……そうですか、それならご馳走になります。でも、朝も昼も食べてないからメチャクチャ食いますよ?」<br>  ほらね。そんな優しいこの人が大好きなんです。今はキョンくんだけが、わたしの好きだって言える人。<br> 「はい! たくさん食べちゃってください!」<br>  うふふ、いつものお礼も含んでるつもりだから、たくさん食べてくれるとうれしいなぁ。<br> <br> <br> 「じゃあ、今日はご馳走様でした。また部室で」<br>  キョンくんとの食事を終えて、少しだけ話した後、お互いに帰ることにしました。<br>  今日はこれでお別れです。でもね、わたしは言っておきたいことがあるんです。<br> 「キョンくん、待ってください」<br> 「はい?」<br>  よーし、言います。<br> 「わたしはあなたを大好きですから!」<br>  言っちゃいました。もしかしたら一生会えなくなる人かもしれません。だけど、ちゃんと気持ちを伝えときたかったんです。<br> 「……へ?」<br>  ありゃ……なんだか、何が起こったかわからないような顔してます。『信じられない』って言ってるみたい。<br> <br>  でもね、わたしは返事はまだいいです。だって一日に二人にフラれちゃったりしたら立ち直れないもん。<br> 「返事はゆっくりと考えてくださいね? ありがとう……さようなら」<br>  わたしはそう言って自分の家へと帰りだしました。<br>  ……一人になると、またいろいろな気持ちが込み上げて来ちゃうなぁ。<br>  今から鶴屋さんに慰めてもらいに行こうかな? うん、そうします。<br>  そうと決まれば涙が出ちゃう前に行こうっと。<br>  方向を鶴屋さんの家へと変えて歩き、わたしは一人、心の中で思いました。<br>  勝手なことをしちゃったなぁ……って。上の人からはキョンくんと仲良くするなって言われてるんです。<br>  出会った時からそれをずっと心に決めて過ごしてきたんです。<br>  だけど……人の心って他人がどうこう出来ませんよね。我慢できなくなっちゃいました。<br>  これでもし未来が変わっちゃったら……ごめんなさい。それしか言えません。<br>  わたしは悪い人です。わざわざ危険かもしれないことをしちゃってるから。<br>  でもね、恋愛小説で読んだんです。『愛を手にいれるなら悪い人になることも必要だ』って。<br>  だからわたしは悪い人になります。<br>  今日、『あの人』がくれた温もりは一生忘れないまま、新しい温もりを探します。<br>  ありがとう……お兄ちゃん。<br> <br> <br> おわり<br> <br>
<p><br />  久しぶりに探索が無い週末。わたしは休暇を取って、未来に帰ることにしました。<br />  本当に久しぶりなんです。だから、お父さんやお母さん、友達に会うのが楽しみ。<br />  でも、一人だけ会いたくない人がいるの。嫌いなのかって?<br />  ううん、嫌いじゃないんです。大好きなの。大好きだから……会いたくない……。<br /> <br /> <br />  わたしが帰る時、いつも自宅から離れた所に座標指定するんです。<br />  そうすると、歩いて帰っている時に知り合いに会えるの。……ほら、いました。<br /> 「……あれ? みくる!? 久しぶりじゃないの……いつ帰って来たの?」<br />  わたしの学校のお友達です。いつも元気で、わたしを励ましてくれるの。<br />  だから、未来からの指令がくる時にお互いに手紙を渡して、間接的文通をしてるんです。<br /> 「えへへ……たった今だよ。一番最初に会えてうれしいです」<br /> 「あたしもうれしいよ! あ、でも……時間ないんだ。仕事だから……ごめん……」<br />  そっかぁ……だから走ってたのかな? うん、しょうがないです。<br /> 「今度、長い休みが取れたらお泊まりしましょうね? 手紙はいつでも待ってますから!」<br />  あれ、泣いちゃダメですよ。わたしだって寂しいんだよ? 我慢してるのに……。<br /> 「ひっく……みくる、ごめんね? 本当にごめん。落ち着いたらすぐに手紙送るから!」<br />  そう言って、走りだして行きました。わたしはまた一人です。<br />  ……でも、会えてよかった。別れが悲しいけど、顔を見れたのがうれしかったの。<br />  わたしもまたあっちに行ったら手紙をすぐに書こう。<br />  再びわたしは歩き始めました。いつも暮らしている時間平面の世界とは違う風景。<br /> <br />  向こうも好きだけど、やっぱりわたしはこっちが一番です。だって、生まれたのがここですしね。<br />  だんだんと家に近くなって、もう誰とも会わないだろうなぁって思った時、後ろから声をかけられました。<br /> 「みくる!」<br />  この声……やだ、振り向きたくないです……。<br />  聞こえないふりをして歩いていると、今度は肩を掴まれながら声をかけられました。……捕まっちゃった。<br /> 「無視すんなよな、みくる。久しぶりだなぁ……会えてうれしいぞ」<br />  わたしも会えてうれしいけど……出来れば会いたくなかった。<br /> 「お兄ちゃん……」<br /> 「ははは、相変わらずその呼び方だな。みんな『キョン』って呼んでるんだからみくるもそう呼べよ」<br />  あの人と声も似てる。顔も似てる。あだ名も一緒。性格は表面は全然違うけど、根が優しい所は一緒。<br />  わたしの幼馴染みの一つ年上の『お兄ちゃん』。<br /> 「うん、ごめんね? ……お兄ちゃん」<br /> 「くくくっ、本当に変わらないな、みくるは。まぁ、それがいい所か」<br />  だから会いたくなかったのに。好きだから。大好きだから。<br />  絶対に届かない恋なのに、好きになっちゃったから。<br />  わたしが過去に行くからとかそんな理由じゃないの。ただ……。<br /> 「キョン、早く」<br />  この人とお兄ちゃんが付き合ってるから。<br /> 「あ、悪いな。有希。昔っからみくるとは仲良かったから、久しぶりに会えて話してたんだ」<br />  長門有希さん。お兄ちゃんの彼女なんです。たぶん『長門さん』とは同期してないと思うんですけど……。<br /> 「……夕ご飯の時間まで話しといていい。わたしは家で本を読んでおくから」<br />  『有希ちゃん』はそう言うと早足で去って行きました。一応、気を遣ってくれたのかな?<br /> <br /> 「あちゃ……怒らせちまったかな? まぁ、後で謝ればいいか、とりあえずみくるの家に行こうぜ」<br />  あれで怒ってるってわかるのはお兄ちゃんだけ。『長門さん』の気持ちをわかるのがキョンくんだけのように。<br />  お兄ちゃんと並んで歩く。すぐそこが家なのに遠く感じちゃう。ドキドキする……ダメなのに。<br />  わたしは有希ちゃんも好きだから、悲しませたくないんです。だからお兄ちゃんと会いたくなかった。<br />  わたしがお兄ちゃんと会うと有希ちゃんは悲しそうな目をするから。<br /> 「みくる、先に入ってくれよ。お前の家なんだし」<br />  あれ? もう着いちゃった。そんなに長く考えごとをしてたかな?<br />  家に入り、お父さんとお母さんと抱き合って挨拶を交わすと、お兄ちゃんと一緒にわたしの部屋に行きました。<br />  お母さんがほこりをはたいているのかな? 帰ってきた時はいつも部屋がきれいなんです。<br />  絶対に家具は動かないし、散らかることもないわたしの部屋。<br /> 「へへへ、みくるの部屋も久しぶりだな。……そうだ、いろんな話を聞かせてくれよ。俺も話すからさ」<br />  こっちなら禁則事項なんて関係なく話せる。いろんなことを話そう。<br />  古泉くんのこと、涼宮さんのこと、親友の鶴屋さんのこと……。<br />  でも、長門さんとキョンくんのことは伏せておきます。理由は……いろいろです。<br />  強いて言うなら、みんなが幸せでいられるように、かなぁ。<br /> <br /> <br />  大好きな人といろんなお話しをするのはとってもうれしいことですね。<br />  時間を忘れてお話ししちゃった。まだまだ話したいことはあったんだけど、お兄ちゃんが時計を気にするのに気付いちゃった。<br /> 「そろそろ時間……ですか?」<br /> 「あぁ、悪い。有希をあんまり怒らせたくないからさ」<br /> <br />  申し訳なさそうな顔でお兄ちゃんはわたしにウインクした。彼の一挙手一投足が懐かしくて、愛しい。<br />  立ち上がって部屋を出ようとしてる、わたしも見送りに行かなくちゃ。<br />  ……また、会えなくなる。会いたくなくて、でも会っちゃって、楽しくて……。<br />  せっかく楽しかったのに、もう終わり。好きだってことも忘れてたのに思いださせただけなんて……ひどいよ。<br />  だけどダメ。有希ちゃんを悲しませたくないし、引き止める権利もない。<br />  だから見送らなくちゃいけないのに……。<br /> 「おいおい、見送りくらいしてくれよな」<br />  体が動かないなんて。まだ未練があるの? わたし、ダメだなぁ。いつまで経っても大人になれない。<br />  大人だったら、割り切って見送りだって簡単に行けるのにな。<br /> 「……みくる、泣くな」<br />  泣いてなんてないよぅ。だって偉くなって、禁則事項も減らして、キョンくんにいろいろ教えてあげないと。<br />  そのためには大人にならなくちゃ。だから、泣いてちゃダメなんです。<br /> 「俺だって寂しいんだ。久しぶりに会ったお前ともっと話もしたい」<br />  ……わかってます。だから「うん」って頷いてるんですよ。何度も、何度も。<br />  だって感情って勝手に溢れてくるんだもん。頷くしかできないんです。<br /> 「……やっぱり見送りはいいよ、ありがとう。じゃあな、みくる」<br />  嫌だ。見送りに行くから待ってください。すぐに立ち上がって「大丈夫だから」って言いますから。<br /> 「今日だけ……まだ居て……ください……」<br />  あれ? 違うよ。言うことを間違えちゃった。今のはわたしの心に秘めとく方の言葉だったのに。<br /> 「……それならそうってはっきり言っとけよ。また、有希を怒らせるじゃねーか」<br />  お兄ちゃんは電話を取り出して、有希ちゃんに電話をかけました……。<br /> <br /> 「……違うって、俺が好きなのは有希だけだ。だから今日だけ……な?」<br />  また、少しだけ涙が溢れちゃった。諦めてるつもりでも、ちょっと期待してたのかもしれない。<br />  当たり前だよね。有希ちゃんはわたしなんかより全然いい人だもん。<br /> 「本当にごめんな。みくるも俺の……大切な人だからさ。今日だけはついててやりたいんだ」<br />  その言葉を面と向かって言われたかったなぁ……。ごめんね、有希ちゃん。本当に謝っても謝りきれないくらいごめんなさい。<br /> 「……うん、ごめん。じゃあ、また明日」<br />  電話を切ると、お兄ちゃんはわたしに近付いてきて……泣いてるわたしの頭をそっと抱いてくれた。<br /> 「……バカ」<br /> 「うん」<br />  わたしはバカです。最低な女です。何にもできない、ダメな人間です。<br /> 「……泣き虫、わがまま、寂しがり」<br /> 「うん、うん、うん……ごめんね。ごめんなさい……」<br />  『ありがとう』が出てこないよ。謝ってばっかりで気の利いたことも言えない。<br />  頭を抱かれたそのままで、しばらくわたしは涙を流しました。<br />  ごめんね、有希ちゃん。でも、すぐにわたしはあっちに戻りますから。<br />  だから今日だけ……もっと一緒に居させてください。<br />  もう少しだけ一緒にいたら……あっちに戻ろう。せっかくの休暇だけど。<br />  お父さんやお母さんには悪いけど、お兄ちゃんを帰らせたら少し話して戻ります。<br />  じゃないと、二度と向こうに行きたくなくなっちゃうから。<br /> 「落ち着いたか?」<br />  お兄ちゃんはわたしの顔を覗きこんで言いました。最後だから、ちょっとだけ甘えてもいいよね?<br /> 「落ち着いたけど……もう少し……」<br />  少しだけ体を寄せると、笑われちゃった。<br /> 「ははは、やっぱりわがままだな」<br /> 「うふふ、ごめんなさい」<br /> <br />  あと……一時間、一緒にいたら戻ります。だから、それまでは温もりを感じさせてくださいね。<br />  わたしは一時の幸せに身を委ねながら、残りの時間を過ごして、遂にその時間が訪れた。<br /> <br /> <br /> 「本当にもう大丈夫か? 心配だな……」<br /> 「大丈夫。平気です。わたしも泣いてばかりいられないもん」<br />  家の外の夜空の下、わたしは大好きな人を見送るためにそこまで来ました。<br /> 「そうだな……うん。頑張れよ、また帰ってきたら連絡しろよな」<br />  わたしは決めたんです。もう、お兄ちゃんとはしばらく会わない。<br />  帰ってきても顔は会わせません。じゃないと、わたしの全部が揺らいじゃうから。<br /> 「ごめんね。お兄ちゃん……好きです」<br />  やっぱりお兄ちゃんはひどく驚いたみたい。こういう所もキョンくんと似てる。<br />  とっても静かな時間が流れて、その後、お兄ちゃんはゆっくりと口を開きました。<br /> 「お、俺も……ん?」<br />  だけど、わたしはその口を指で塞いじゃいました。返事を聞いたら誰かが不幸になっちゃうから。<br />  そんなのわたしは望まないです。みんな幸せが一番理想的。だから、わたしはこう言うんです。<br /> 「わたしに彼氏が出来るまでは連絡しませんから。……彼氏が出来たら、またたくさんお話ししましょうね」<br />  精一杯の笑顔を作って、手を振ったわたしの気持ちを彼は察してくれたみたい。<br /> 「……あぁ。俺みたいにいい男を捕まえろよ、じゃあな」<br />  うふふ……やっぱり変わってないなぁ。話せてうれしかったです……ありがとう。<br />  それからわたしはお父さんとお母さんに「また、すぐに帰るから」って、別れを告げてあの時間へと帰ることにしました。<br />  わたしの家に座標指定をして、帰ったらお昼になるように時間指定をしました。<br /> <br />  お昼にする理由ですか? 謝らなくちゃいけないですから……。<br /> <br /> <br />  ん……、帰ってきちゃったんだなぁ……。<br />  夜だった景色が、光で満ち溢れる昼になって、わたしは目を細めました。<br />  眠気は全然ないみたい。当たり前かなぁ……だって、何よりもしたいことがあるから。<br />  わたしはこの時間平面で使う携帯電話を取り出して、あの人に電話をかけました。<br />  1コール……2コール……ピッ。<br /> 『朝比奈さん? 珍しいですね……どうしたんですか』<br />  キョンくんはすぐに電話に出てくれました。……ちょっと眠そうな声、かな?<br /> 「ごめんなさい、起こしちゃいました?」<br /> 『とんでもないですよ。朝比奈さんからの電話なら、たとえ脳死状態でも起き上がります』<br />  たまにだけど、キョンくんって、とっても大袈裟なことを言うんですよね。<br />  ちょっとした褒め言葉みたいでうれしいですけど。<br /> 「うふふ、ありがとう。あの……今からお昼を一緒に食べませんか? お話しもしたいですし……」<br />  あ、ちょっとドキドキする。なんだか、告白するときみたいです。<br />  これって一応デートのお誘いになっちゃうのかな?<br />  わたしがそんな考えをしてるとすぐにキョンくんの返事が聞こえてきました。<br /> 『もちろんいいですよ! じゃあ……30分後にいつもの喫茶店で!』<br />  ……あれ? 切れちゃった。でも時間も場所も決めたから大丈夫ですよね?<br />  キョンくんのあの元気は張り切ってるからかな? 少し元気をわけられた気がします。<br />  うーん……少しだけ、おめかししちゃおっかな?<br />  一番のお気に入りの洋服を着て、薄くお化粧をして家を出ました。<br />  風と日光のバランスが気持ちいい天気だなぁ……。<br />  あれ? 今のは少し言葉がおかしかったかなぁ?<br />  う~ん……いいですよね。だってこんなに気持ちいい天気なんだもん。<br />  急いでキョンくんとの待ち合わせ場所に行かなくっちゃ!<br />  わたしは元気よく家を出て歩きだしました。ちょっと間に合いそうにないけど、できるだけ急ぎましょう。<br />  今は早くキョンくんに会って言葉を伝えたい。「ごめんなさい」って。<br /> <br />  たぶん、わたしはキョンくんの姿を『あの人』に重ねて好きになっちゃってたんです。<br />  未来で届くはずのない思いをこっちで少しでも届かせたかったんだと思います。<br />  だから謝りたいの。失礼な気持ちで好きになっちゃってごめんなさい、って。<br />  でも、好きだって気持ちは本気ですよ?<br />  わたしの組織の人とか古泉くんの機関には都合が悪いかもしれないけど……好きになる気持ちはどうにもなりません。<br />  『あの人』への気持ちはもうちゃんと押さえました。<br />  だからしっかりと謝って、それからちゃんと好きって伝えたいんです。<br /> 「朝比奈さん!」<br />  いつもの喫茶店の前に、ほぼ時間通りにキョンくんはきました。<br />  謝っても、何も聞かないでくれるかな? 大丈夫だよね……優しいキョンくんだもん。<br /> 「キョンくん……ごめんなさい」<br /> 「い、いきなり何で……? いや、とりあえず中に行きましょう」<br />  キョンくん、ありがとう。やっぱり優しいなぁ。何も聞かないでくれた。<br />  わたしが泣いてるからとかじゃないですよ? キョンくんは本当に優しいんです。<br />  泣いてるまま店の中に入るのは恥ずかしいからキョンくんの背中を借りちゃおう。<br />  見ようによってはこっちの方が恥ずかしいかもしれないけど……わたしはこっちの方がいいな。<br />  キョンくんの背中におでこを乗せて店の中について入りました。<br />  暖かくて落ち着くお父さんの背中みたい。すぐに涙は止まっちゃいました。<br /> 「今日はお詫びとして奢っちゃいます! 何でも頼んでいいですよ」<br />  わたしの顔をじっと見つめるキョンくん。この人は他人の気持ちを掴むのが上手いんです。<br />  だから、涼宮さんを押さえることができるし、長門さんの表情も読める。<br />  ということは、わたしの今の心の中も筒抜けだと思うんです。<br /> <br />  でもキョンくんは何も言わないで微笑んでくれる。それがキョンくんだから。<br /> 「……そうですか、それならご馳走になります。でも、朝も昼も食べてないからメチャクチャ食いますよ?」<br />  ほらね。そんな優しいこの人が大好きなんです。今はキョンくんだけが、わたしの好きだって言える人。<br /> 「はい! たくさん食べちゃってください!」<br />  うふふ、いつものお礼も含んでるつもりだから、たくさん食べてくれるとうれしいなぁ。<br /> <br /> <br /> 「じゃあ、今日はご馳走様でした。また部室で」<br />  キョンくんとの食事を終えて、少しだけ話した後、お互いに帰ることにしました。<br />  今日はこれでお別れです。でもね、わたしは言っておきたいことがあるんです。<br /> 「キョンくん、待ってください」<br /> 「はい?」<br />  よーし、言います。<br /> 「わたしはあなたを大好きですから!」<br />  言っちゃいました。もしかしたら一生会えなくなる人かもしれません。だけど、ちゃんと気持ちを伝えときたかったんです。<br /> 「……へ?」<br />  ありゃ……なんだか、何が起こったかわからないような顔してます。『信じられない』って言ってるみたい。<br /> <br />  でもね、わたしは返事はまだいいです。だって一日に二人にフラれちゃったりしたら立ち直れないもん。<br /> 「返事はゆっくりと考えてくださいね? ありがとう……さようなら」<br />  わたしはそう言って自分の家へと帰りだしました。<br />  ……一人になると、またいろいろな気持ちが込み上げて来ちゃうなぁ。<br />  今から鶴屋さんに慰めてもらいに行こうかな? うん、そうします。<br />  そうと決まれば涙が出ちゃう前に行こうっと。<br />  方向を鶴屋さんの家へと変えて歩き、わたしは一人、心の中で思いました。<br />  勝手なことをしちゃったなぁ……って。上の人からはキョンくんと仲良くするなって言われてるんです。<br />  出会った時からそれをずっと心に決めて過ごしてきたんです。<br />  だけど……人の心って他人がどうこう出来ませんよね。我慢できなくなっちゃいました。<br />  これでもし未来が変わっちゃったら……ごめんなさい。それしか言えません。<br />  わたしは悪い人です。わざわざ危険かもしれないことをしちゃってるから。<br />  でもね、恋愛小説で読んだんです。『愛を手にいれるなら悪い人になることも必要だ』って。<br />  だからわたしは悪い人になります。<br />  今日、『あの人』がくれた温もりは一生忘れないまま、新しい温もりを探します。<br />  ありがとう……お兄ちゃん。<br /> <br /> <br /> おわり<br />  </p>

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