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バカップル日記―いじわるキョン×みくる―」(2020/05/30 (土) 22:02:49) の最新版変更点

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<br>  非常に幸せな時間とは、このような時間のことを指すのだろう。<br>  もうね、たまりません。財布の中身が減っても、この笑顔が見れるならゼロにしたって構わないね。<br> 「何を笑ってるんですかぁ? あー、またいやらしいこと考えてたんでしょ? ダメだよぅ、今日はお買物だけです!」<br>  そんな、ほっぺたにクリームを付けた状態で怒られてもな。<br>  今日は、朝比奈さんとのデートだ。任務や探索で二人きりとかじゃないぞ。<br>  正真正銘、付き合ってる二人のデートだ。どうだ、羨ましいだろう。<br>  そして、俺は待ち合わせに遅れてパフェを奢ることになったのさ。……もちろん確信犯だ。<br>  なんたって、パフェの一つでこの幸せそうな笑顔が見れるんだぞ? 安いもんじゃないか。<br> 「ん~、やっぱりおいしいです! そ、そんなに見てもあげないですよ、遅れてきたキョンくんが悪いんですから!」<br>  最近は少し打ち解けてきたけど、やはり俺はこの丁寧語をどうにかしたい。<br>  俺は年下だから丁寧語でもいいじゃないか。だけど朝比奈さんのは他人行儀の丁寧語に聞こえてしまう。<br>  だからいつまでたってもこのままってのが嫌なんだ。手も繋いだし、キスもした。<br>  手を回して抱きついたりもしたが……丁寧語だけは直らないんだ、これが。<br>  そして俺は決めた。今日のデート、多少悪ふざけをしてでも丁寧語をやめさせると!<br>  相手は超がつくほど礼儀正しい、難攻不落の朝比奈さんだが俺はやり遂げてみせるぜ!<br> 「もう……ちょっとだけですよ? はい、あーん……」<br>  目の前に差し出されたスプーン。俺はそんなに物欲しそうな表情をしていたように見えたのか?<br> <br>  しかし、ここでいらないと言っては朝比奈さんは悲しむだろう。<br>  ならば行くしかない。はむっ……と。<br> 「うふふ、間接キスですね。おいしい?」<br> 「もちろんおいしいですとも! 朝比奈さんがくれた物なら、たとえ泥団子でも完食しますよ!」<br> 「ありがとう、キョンくん。でもね、わたしは泥団子なんて食べさせません! だって……ほら、大事な彼氏だし……ね?」<br>  あー! かわいい、かわいい! この場で抱き締めたいくらいだ!<br>  しかし我慢だ。こんな所で抱き締めたら確実に変態として見られる。<br>  俺が必死で理性を保とうとしていると、朝比奈さんは口を開いた。<br> 「それで……どこに行きましょうか? お茶はこないだ買っちゃったし……」<br>  確かに行き先は決まってない。俺としては丁寧語さえどうにかなれば、別にどこにも行かなくても構わないけどな。<br> 「うーん、とりあえず街を歩きましょう。疲れたら休めばいいですし」<br>  そんな無難な答えしか出ないな。<br> 「そうですね。それじゃあ、行きましょう」<br>  二人で席を立ち、俺は会計を済ませて店の外へ。朝比奈さんと再び合流すると歩き始めた。<br>  さぁ、作戦開始だ。<br> <br> <br>  5分ほどフラフラしていたが、普通の会話だけだ。つまらん。……少し動いてみるか。<br> 「ふえっ? キョンくん……どうしたの?」<br>  とりあえず手を繋いだのはいいが、「どうしたの?」は無いんじゃないか?<br>  一応カップルなわけだしな。<br> 「手、繋ぎたかったから……。迷惑ですか?」<br>  こう尋ねるとな、朝比奈さんは顔を赤くするんだよ。そして少し喜ぶんだ。<br>  これはすでにパターン化しているのさ。<br> 「あ、いえ……。あったかくてうれしい、です」<br>  そしてその顔を見て俺は思うのさ。やっぱりかわいい、と。<br> <br>  しかし、今日は見とれるだけじゃ終わらん。追い討ちをかけてやる。<br> 「朝比奈さん。もっとカップルらしく、丁寧語じゃなくてタメ口で話してくれませんか?」<br> 「え、えぇ? でも……だって……そのぅ……」<br>  やっぱり恥ずかしがるし、ためらうよな。まぁいきなりは無理か。<br> 「じゃ、じゃあキョンくんもタメ口でお願いします! そ、そそそしたら、わたしもそうしますから!」<br>  なるほど、そうきたか。……しょうがない、もっと仲良くなるためだ。<br> 「わかりました、……コホン。あ~、みくるちゃん。公園に行き……こうぜ」<br>  よくやった。よくやったぞ、俺。これなら目の前で困ってる朝比奈さんもタメ口を使わなければならない。<br>  ちなみにアレだ、『みくるちゃん』と呼んだのは初めての自己紹介を思いだしたからだ。<br>  ハルヒに感化されたとかそんな物じゃないからな!<br> 「わ、わかりました……じゃなかった。えっと……うん。行こう、キョンくん!」<br>  こうして、ぎこちないタメ口デートは始まったのさ。……俺もやりにくいな。作戦ミスったか。<br>  とりあえず公園に行こうと言ったはいいが、やることが無いからベンチに座った。<br>  いつもの俺達からすると、目に見えて会話が少ない。これはマズい。どうにかしなくちゃならんな。<br> 「え~、みくるちゃん。どっか行きたい所は無いか?」<br> 「あっ……ううん、無いよ。キョンくんが行きたい所に行こう?」<br>  実にぎこちない会話だ。これじゃいかん。ここは二人の距離が近くなるような場所に移動するべきだ。<br>  やはり……家の中、か。ちょっと風が肌寒いしちょうどいいかもな。<br> 「じゃあ、家に行こうか。少し風が冷たいし」<br> 「あ、はい。……じゃなかった、間違えちゃった。えへへ……」<br> <br>  自分の頭をコツンと叩き、舌をチョコンと出す仕草。このわざとらしさがまたかわいいぜ。<br>  そして、再び二人で手を繋ぎながら家へと向かう途中、俺はふと疑問を感じた。<br>  俺は、こんな会話をしてて満足なのか? 確かにタメ口で喋りたいとは思った。<br>  しかしだ、これじゃ感情のこもってない人形劇じゃねーか。違うだろ?<br>  必要なのは、どんな喋り方でもいいから心を通わせることだ。やれやれ……やっぱり俺はバカだな。<br>  そんな思考をしてるうちに、いつの間にか家についていた。<br>  部屋に入ったら、まずは謝るか。もちろん、喋り方を戻して……な。<br> <br> <br> 「本当にごめんなさい、朝比奈さん!」<br>  部屋に入り、ベッドに腰をかけての第一声だ。俺の。<br> 「ううん、いいの。わたしもキョンくんの気持ちはわかります。でもね、丁寧な言葉になっちゃうのは癖なんです、ごめんなさい」<br>  どうやら、何を謝っているかはわかってくれていたようだ。だからって謝られたら困る。<br>  悪いことをしたのは俺であって、朝比奈さんは被害者だからな。<br> 「謝らないでください。本当に俺が悪かったんです」<br> 「……キョンくん」<br>  頭を下げる俺の頬が、柔らかく暖かい掌に覆われた。<br> 「わたしね、うれしかったんですよ? SOS団の中でいつもわたしにだけ『さん』をつけるじゃないですか。<br>  それを今日は『みくるちゃん』って呼んでくれたのが、とってもうれしかったんです」<br>  顔を上げ、朝比奈さんを見るとトマトもびっくりなくらい真っ赤な顔だ。<br>  こういう顔を見ると、イタズラ好きの血が騒いでしまうな。謝るだけなんてのは俺のキャラじゃない。<br> 「……みくるちゃん」<br> 「ふえっ!?」<br> <br>  さらに恥ずかしそうに俯く朝比奈さん。そんな顔をされるとさらにいじめたくなるな。ハルヒの気持ちがよく分かるぜ。<br> 「もっと……名前で呼んでください」<br>  俯いた顔で呟いた朝比奈さんは、これまたかわいかった。今すぐにでも抱き締めてキスしたい。<br>  だけどな、まずはイタズラが先なのさ。<br> 「わかりました、朝比奈さん」<br>  名前で呼べと言われたら名字で呼ぶ。どんな反応が見られるか?<br> 「キョンくんはいじわるです。……わたし、いじけちゃいますから」<br>  ……しまった。今日は怒るタイミングが早いな。ここは一つ機嫌を直してもらうとするか。<br> 「冗談ですよ、みくる……さん」<br>  呼び捨てにしようと思ったが……うん、それ無理。やはり名前で呼んだとしても『さん』付けが限界だ。<br>  機嫌を戻したのか、こっちを向いて少しだけすり寄ってきた。<br> 「今の呼び方がいいです。今度からはそう呼んでください!」<br> 「みくる……さん?」<br> 「はいっ!」<br>  まぁこれなら確かに俺もあまり抵抗なく呼べるよな。しかし、子どもみたいな人だよな。<br>  機嫌がコロコロ変わる所とか、この無邪気な笑顔とかな。そんな所に惹かれたわけだが。<br>  いつの間にか俺の腕に抱きついている朝比奈さんの顔を少し上げて、唇を重ねてみる。<br>  今日の俺は調子が今一つのようだから、この不意打ちが精一杯のいじわるだ。<br> 「ふわぁ……。キョンくん……」<br>  うむ、これも失敗か。いじわると言うのは、相手が驚かないと達成感がない。<br>  こんなにうれしそうに満足した表情じゃダメなんだ。……個人的にはこれで成功かもしれんが。<br> 「うふふふ、大好きですぅ……、キョンくん……」<br> <br> <dl> <dd>  あ、こりゃいかん。もう我慢できん。朝比奈さんには悪いが押し倒させてもらう。<br> 「ふえぇっ!? ダメ、ダメですよ!? まだわたし達には早いですっ!」<br>  驚く朝比奈さんに顔を近付けて……。<br> 「何を勘違いしてるんですか? しばらく一緒に寝ましょうよ」<br>  と言ってやった。さすがに無理矢理やるような勇気は俺にはないさ。<br>  朝比奈さんは目を丸くしてキョトンとしている。どうやら、最後のいじわるだけは成功したようだな。<br>  驚いた表情の朝比奈さんに俺は軽くキスをして、仰向けに寝転んだ。<br>  これで気持ちよく睡眠が取れそうだ。<br> 「えうぅ……キョンくん、ひどいです……」<br>  朝比奈さんの驚いた顔や慌てた顔もかわいかったですよ。なんてことは言わない。<br>  これ以上のイタズラは涙を流させてしまうかもしれんからな。この人は涙腺が弱いみたいだし。<br>  あくまでも寝たフリを通すことに決定だ。<br> 「……? キョンくん、寝ちゃったんですか?」<br>  寝たフリ寝たフリ。<br> 「キョンくん、かわいいなぁ……。うふふ……おやすみなさい。大好きですよー」<br>  その言葉が聞こえて、さっきぶりの唇の感触がやってきた。やれやれ、朝比奈さんもイタズラ好きか。<br>  俺の横に人が寝転がる衝撃が来たが……目は開けないどこう。<br> 「くぅ……すぅ……」<br>  どっかの漫画のキャラ並みの寝付きの早さだが、かわいい寝息で寝てるんだ。<br>  起こしてやると可哀想だろう?<br>  だからな、起こさないように優しくキスしてやるのさ。一言加えてな。<br> 「俺も大好きです。おやすみ……」<br> <br> <br> おわり<br> <br></dd> </dl>
<br />  非常に幸せな時間とは、このような時間のことを指すのだろう。<br />  もうね、たまりません。財布の中身が減っても、この笑顔が見れるならゼロにしたって構わないね。<br /> 「何を笑ってるんですかぁ? あー、またいやらしいこと考えてたんでしょ? ダメだよぅ、今日はお買物だけです!」<br />  そんな、ほっぺたにクリームを付けた状態で怒られてもな。<br />  今日は、朝比奈さんとのデートだ。任務や探索で二人きりとかじゃないぞ。<br />  正真正銘、付き合ってる二人のデートだ。どうだ、羨ましいだろう。<br />  そして、俺は待ち合わせに遅れてパフェを奢ることになったのさ。……もちろん確信犯だ。<br />  なんたって、パフェの一つでこの幸せそうな笑顔が見れるんだぞ? 安いもんじゃないか。<br /> 「ん~、やっぱりおいしいです! そ、そんなに見てもあげないですよ、遅れてきたキョンくんが悪いんですから!」<br />  最近は少し打ち解けてきたけど、やはり俺はこの丁寧語をどうにかしたい。<br />  俺は年下だから丁寧語でもいいじゃないか。だけど朝比奈さんのは他人行儀の丁寧語に聞こえてしまう。<br />  だからいつまでたってもこのままってのが嫌なんだ。手も繋いだし、キスもした。<br />  手を回して抱きついたりもしたが……丁寧語だけは直らないんだ、これが。<br />  そして俺は決めた。今日のデート、多少悪ふざけをしてでも丁寧語をやめさせると!<br />  相手は超がつくほど礼儀正しい、難攻不落の朝比奈さんだが俺はやり遂げてみせるぜ!<br /> 「もう……ちょっとだけですよ? はい、あーん……」<br />  目の前に差し出されたスプーン。俺はそんなに物欲しそうな表情をしていたように見えたのか?<br /> <br />  しかし、ここでいらないと言っては朝比奈さんは悲しむだろう。<br />  ならば行くしかない。はむっ……と。<br /> 「うふふ、間接キスですね。おいしい?」<br /> 「もちろんおいしいですとも! 朝比奈さんがくれた物なら、たとえ泥団子でも完食しますよ!」<br /> 「ありがとう、キョンくん。でもね、わたしは泥団子なんて食べさせません! だって……ほら、大事な彼氏だし……ね?」<br />  あー! かわいい、かわいい! この場で抱き締めたいくらいだ!<br />  しかし我慢だ。こんな所で抱き締めたら確実に変態として見られる。<br />  俺が必死で理性を保とうとしていると、朝比奈さんは口を開いた。<br /> 「それで……どこに行きましょうか? お茶はこないだ買っちゃったし……」<br />  確かに行き先は決まってない。俺としては丁寧語さえどうにかなれば、別にどこにも行かなくても構わないけどな。<br /> 「うーん、とりあえず街を歩きましょう。疲れたら休めばいいですし」<br />  そんな無難な答えしか出ないな。<br /> 「そうですね。それじゃあ、行きましょう」<br />  二人で席を立ち、俺は会計を済ませて店の外へ。朝比奈さんと再び合流すると歩き始めた。<br />  さぁ、作戦開始だ。<br /> <br /> <br />  5分ほどフラフラしていたが、普通の会話だけだ。つまらん。……少し動いてみるか。<br /> 「ふえっ? キョンくん……どうしたの?」<br />  とりあえず手を繋いだのはいいが、「どうしたの?」は無いんじゃないか?<br />  一応カップルなわけだしな。<br /> 「手、繋ぎたかったから……。迷惑ですか?」<br />  こう尋ねるとな、朝比奈さんは顔を赤くするんだよ。そして少し喜ぶんだ。<br />  これはすでにパターン化しているのさ。<br /> 「あ、いえ……。あったかくてうれしい、です」<br />  そしてその顔を見て俺は思うのさ。やっぱりかわいい、と。<br /> <br />  しかし、今日は見とれるだけじゃ終わらん。追い討ちをかけてやる。<br /> 「朝比奈さん。もっとカップルらしく、丁寧語じゃなくてタメ口で話してくれませんか?」<br /> 「え、えぇ? でも……だって……そのぅ……」<br />  やっぱり恥ずかしがるし、ためらうよな。まぁいきなりは無理か。<br /> 「じゃ、じゃあキョンくんもタメ口でお願いします! そ、そそそしたら、わたしもそうしますから!」<br />  なるほど、そうきたか。……しょうがない、もっと仲良くなるためだ。<br /> 「わかりました、……コホン。あ~、みくるちゃん。公園に行き……こうぜ」<br />  よくやった。よくやったぞ、俺。これなら目の前で困ってる朝比奈さんもタメ口を使わなければならない。<br />  ちなみにアレだ、『みくるちゃん』と呼んだのは初めての自己紹介を思いだしたからだ。<br />  ハルヒに感化されたとかそんな物じゃないからな!<br /> 「わ、わかりました……じゃなかった。えっと……うん。行こう、キョンくん!」<br />  こうして、ぎこちないタメ口デートは始まったのさ。……俺もやりにくいな。作戦ミスったか。<br />  とりあえず公園に行こうと言ったはいいが、やることが無いからベンチに座った。<br />  いつもの俺達からすると、目に見えて会話が少ない。これはマズい。どうにかしなくちゃならんな。<br /> 「え~、みくるちゃん。どっか行きたい所は無いか?」<br /> 「あっ……ううん、無いよ。キョンくんが行きたい所に行こう?」<br />  実にぎこちない会話だ。これじゃいかん。ここは二人の距離が近くなるような場所に移動するべきだ。<br />  やはり……家の中、か。ちょっと風が肌寒いしちょうどいいかもな。<br /> 「じゃあ、家に行こうか。少し風が冷たいし」<br /> 「あ、はい。……じゃなかった、間違えちゃった。えへへ……」<br /> <br />  自分の頭をコツンと叩き、舌をチョコンと出す仕草。このわざとらしさがまたかわいいぜ。<br />  そして、再び二人で手を繋ぎながら家へと向かう途中、俺はふと疑問を感じた。<br />  俺は、こんな会話をしてて満足なのか? 確かにタメ口で喋りたいとは思った。<br />  しかしだ、これじゃ感情のこもってない人形劇じゃねーか。違うだろ?<br />  必要なのは、どんな喋り方でもいいから心を通わせることだ。やれやれ……やっぱり俺はバカだな。<br />  そんな思考をしてるうちに、いつの間にか家についていた。<br />  部屋に入ったら、まずは謝るか。もちろん、喋り方を戻して……な。<br /> <br /> <br /> 「本当にごめんなさい、朝比奈さん!」<br />  部屋に入り、ベッドに腰をかけての第一声だ。俺の。<br /> 「ううん、いいの。わたしもキョンくんの気持ちはわかります。でもね、丁寧な言葉になっちゃうのは癖なんです、ごめんなさい」<br />  どうやら、何を謝っているかはわかってくれていたようだ。だからって謝られたら困る。<br />  悪いことをしたのは俺であって、朝比奈さんは被害者だからな。<br /> 「謝らないでください。本当に俺が悪かったんです」<br /> 「……キョンくん」<br />  頭を下げる俺の頬が、柔らかく暖かい掌に覆われた。<br /> 「わたしね、うれしかったんですよ? SOS団の中でいつもわたしにだけ『さん』をつけるじゃないですか。<br />  それを今日は『みくるちゃん』って呼んでくれたのが、とってもうれしかったんです」<br />  顔を上げ、朝比奈さんを見るとトマトもびっくりなくらい真っ赤な顔だ。<br />  こういう顔を見ると、イタズラ好きの血が騒いでしまうな。謝るだけなんてのは俺のキャラじゃない。<br /> 「……みくるちゃん」<br /> 「ふえっ!?」<br /> <br />  さらに恥ずかしそうに俯く朝比奈さん。そんな顔をされるとさらにいじめたくなるな。ハルヒの気持ちがよく分かるぜ。<br /> 「もっと……名前で呼んでください」<br />  俯いた顔で呟いた朝比奈さんは、これまたかわいかった。今すぐにでも抱き締めてキスしたい。<br />  だけどな、まずはイタズラが先なのさ。<br /> 「わかりました、朝比奈さん」<br />  名前で呼べと言われたら名字で呼ぶ。どんな反応が見られるか?<br /> 「キョンくんはいじわるです。……わたし、いじけちゃいますから」<br />  ……しまった。今日は怒るタイミングが早いな。ここは一つ機嫌を直してもらうとするか。<br /> 「冗談ですよ、みくる……さん」<br />  呼び捨てにしようと思ったが……うん、それ無理。やはり名前で呼んだとしても『さん』付けが限界だ。<br />  機嫌を戻したのか、こっちを向いて少しだけすり寄ってきた。<br /> 「今の呼び方がいいです。今度からはそう呼んでください!」<br /> 「みくる……さん?」<br /> 「はいっ!」<br />  まぁこれなら確かに俺もあまり抵抗なく呼べるよな。しかし、子どもみたいな人だよな。<br />  機嫌がコロコロ変わる所とか、この無邪気な笑顔とかな。そんな所に惹かれたわけだが。<br />  いつの間にか俺の腕に抱きついている朝比奈さんの顔を少し上げて、唇を重ねてみる。<br />  今日の俺は調子が今一つのようだから、この不意打ちが精一杯のいじわるだ。<br /> 「ふわぁ……。キョンくん……」<br />  うむ、これも失敗か。いじわると言うのは、相手が驚かないと達成感がない。<br />  こんなにうれしそうに満足した表情じゃダメなんだ。……個人的にはこれで成功かもしれんが。<br /> 「うふふふ、大好きですぅ……、キョンくん……」<br /> <br /> <dl> <dd> あ、こりゃいかん。もう我慢できん。朝比奈さんには悪いが押し倒させてもらう。<br /> 「ふえぇっ!? ダメ、ダメですよ!? まだわたし達には早いですっ!」<br />  驚く朝比奈さんに顔を近付けて……。<br /> 「何を勘違いしてるんですか? しばらく一緒に寝ましょうよ」<br />  と言ってやった。さすがに無理矢理やるような勇気は俺にはないさ。<br />  朝比奈さんは目を丸くしてキョトンとしている。どうやら、最後のいじわるだけは成功したようだな。<br />  驚いた表情の朝比奈さんに俺は軽くキスをして、仰向けに寝転んだ。<br />  これで気持ちよく睡眠が取れそうだ。<br /> 「えうぅ……キョンくん、ひどいです……」<br />  朝比奈さんの驚いた顔や慌てた顔もかわいかったですよ。なんてことは言わない。<br />  これ以上のイタズラは涙を流させてしまうかもしれんからな。この人は涙腺が弱いみたいだし。<br />  あくまでも寝たフリを通すことに決定だ。<br /> 「……? キョンくん、寝ちゃったんですか?」<br />  寝たフリ寝たフリ。<br /> 「キョンくん、かわいいなぁ……。うふふ……おやすみなさい。大好きですよー」<br />  その言葉が聞こえて、さっきぶりの唇の感触がやってきた。やれやれ、朝比奈さんもイタズラ好きか。<br />  俺の横に人が寝転がる衝撃が来たが……目は開けないどこう。<br /> 「くぅ……すぅ……」<br />  どっかの漫画のキャラ並みの寝付きの早さだが、かわいい寝息で寝てるんだ。<br />  起こしてやると可哀想だろう?<br />  だからな、起こさないように優しくキスしてやるのさ。一言加えてな。<br /> 「俺も大好きです。おやすみ……」<br /> <br /> <br /> おわり<br /> <br /></dd> </dl>

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