「メタ・ラブコメディ encore」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

メタ・ラブコメディ encore」(2007/02/15 (木) 23:28:07) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

「さーてっ、それじゃ発表するよっ! 罰ゲーム!」<br>  文芸部部室に響き渡る元気な声。外の快晴と同じく、彼女の笑顔も曇りがない。<br>  部室には七名の人物がいた。俺、ハルヒ、古泉、長門有希、長門由梨、朝比奈さん、鶴屋さん。<br> <br>  そう、今罰ゲームの内容を告げようとしているのはSOS団名誉顧問、鶴屋さんである。<br>  ひさびさにわれらが部室においでなすった快活な先輩は、先のゲームで惜しくも負けてしまった二名に言った。<br> <br> 「古泉くんと有希っこに負けないくらいアツアツになれる相手を、必ず見つけ出すことっ!」<br> <br> 「……えぇっ!?」<br> 「えぇぇぇ~っ」<br>  さて、声だけで誰が負けたか分かってしまったかもしれないが、今回のゲームで負けたのはハルヒと朝比奈さんだった。ハルヒは自ら地雷を踏む役を買って出るという、世にも珍しい自己犠牲的精神を見せての罰ゲーム。そして……<br>  朝比奈さんが負けた、ということは長門由梨が勝った、ということになる。そしてもちろん由梨を選んだのは俺だった。いつもの俺であれば文句無しに朝比奈さんを選ぶところなのだが、さて今回はどうしてだろうか。理由は当の俺にも分からん。ただ、今回の由梨は有希に負けず劣らず、かなり頑張ってた気がしたんだよ。ほんのちょっとルール違反めいたこともしてたけどさ。何より姉をこいつなりに心配してたように思えたのが俺には大きかった。<br>  え? それじゃ恋愛ゲームと無関係だろって? いや、ごもっとも。だけどさ、他の人が仮に俺の立場だったとしても、選んだ選択肢は同じだったと思うぜ。それくらい由梨はよくやってた。個人的にあいつにはMVPを進呈してやりたいくらいさ。 <a name="737"></a> <div class="mes"><br>  と、まぁそういうわけで、たった今鶴屋さんから課せられた罰則を二人は……ってこれ、罰ゲームに入るんですか? 先輩。<br> 「んー? あ、そうそう、別に期限は設けないからさっ、見つかったらあたしに連絡して報告しとく<br> れよっ! みんなの鶴屋さんは何年だって待ったげるからさ!」<br>  季節を忘れてしまいそうなほど陽気な鶴屋さんは、誰よりも楽しそうにして言った。<br>  さて、ハルヒと朝比奈さんはそれぞれ別種の震えかたをしていて、ハルヒはまさかそんな事を言われるとは思わず、かといって鶴屋さんが相手なので不満を誰にぶつけていいか分からないという震え。<br> 朝比奈さんは大抵のことでこのようなリアクションを見せるという、その見本のような震え。要するにいつも通りびっくりしていた。そしてそんな朝比奈さんの姿につい安心してしまった俺。まじすいません。今度何でも奢りますから。<br>  俺はそんなことを思いながら、ウソから出たマコトのようにしてめでたく両想いとなった、できたてホヤホヤの異能者カップルのほうを向いた。……あー。昼間っからべたべたしちゃってこの人たちは。<br>  しかもそれがまたアホみたいに絵になっているのである。適当に写真取ったら校内だけでも買い手に困らないだろうな、これは。今度ハルヒに進言してみようか。<br> <br> 「ば、バツゲームはともかくとして! とりあえず今日は有希と古泉くんの二人を主役に迎えて、盛大にお祝いするわよっ!」<br>  最大ボリュームによるハルヒのアナウンスが室内に反響する。こりゃ、お祭り騒ぎのピークはまだまだ先にあるみたいだな。<br>  俺は部室をもう一度見渡して、安堵とともに笑みを作った。</div> <a name="741"></a> <div class="mes"><br> <br>  かくして、SOS団の恋愛合戦冬の陣は、大団円と共に幕を下ろすのである。<br> <br>  いや、ほんと、今回は俺も見体験ゾーンばかりでいい経験になった。今後の参考にさせてもらうところ大であり、かといってそれをどこで使うのか、何に役立つのかと言われれば、それはそれで答えに窮するくらいには用途不明なのだった。<br> <br> <br>  ……が。<br> <br> <br> 「キョンくん、ちょっといいですか?」<br>  一連のドタバタが去って、しかし燃え上がる有希古泉間の恋愛パワーで部室は寒気と無縁になっていたある日の放課後である。<br>  部室に最初に来た俺は、まだ誰もいないことで冷え切っている室内を暖めるべくストーブのスイッチを入れ、せめて指先の硬直をほぐそうと両手をすり合わせていた。そこにやってきたのが朝比奈さんで、挨拶もそこそこに手招きされて俺は前述のように呼びかけられた。<br> <br>  誰もいなくなってしまう部室にストーブを点けておくのも何なので、一度スイッチを切って、廊下<br> に出る朝比奈さんについて行く。朝比奈さんは迷いない足取りで、しかしどこかためらうような雰囲気をかもし出して階段を上がる。<br>  まもなく突き当たった屋上の手前で、彼女はこちらを向いた。今気付いたのだが、朝比奈さんは紙製の包みらしきものを両手に持っている。</div> <a name="743"></a> <div class="mes"> 「朝比奈さん、どうしたんですか。こんなところに何の用です?」<br>  まさか超ひさしぶりに時間跳躍するのだろうか。<br>  俺は即座に身構えた。そうだ、その可能性ならば彼女が俺をここに呼び出す理由として最も妥当であろう。緊急で過去に向かう用事ができたのかもしれない。まだ未来人野郎の仲間がたくらみを諦めてなかったとか。そんなんが。<br> <br>  朝比奈さんはしばしどこを見るともなくもじもじとしていたが、やがて<br> 「キョンくん……あのこれっ!」<br>  差し出したのは手に持っていた紙袋である。俺は二拍ほど遅れてその包みを受け取った。……何だろう、大きさの割には軽いが。<br> 「あの……開けてみて」<br>  と言われれば従うまでである。何が出てくるんだろう。まさか未来的なバックグラウンドを持つ秘密のアイテムがまたも俺に託されようとしてい――<br> <br>  !!!<br> <br> 「プレゼントです」<br> <br>  マフラーだった。手編みの。<br>  寸分の狂いなく丁寧に編みこまれた毛糸。極彩色にならないよう淡い色を鮮やかに連ね、手の込んだ模様が描かれている。思わず何秒も見とれてしまうくらいに、それは見事な技で作られていた。<br> 「これ……俺に、ですか?」<br> 「はいっ!」<br>  朝比奈さんは弱気になる代わりに精一杯の強気に出てみましたと言う態度で返事をした。それでも俺には可愛らしいいつもの朝比奈さんにしか見えなかったりするんだけども。</div> <a name="744"></a> <div class="mes"> 「冬、もうちょっとしたら終わっちゃうけど……」<br> 「いえいえ! ありがとうございます」<br>  俺は早回しの鹿威しのようにお辞儀と謝辞を繰り返した。あまりに突然だったのでうろたえまくりだったが、朝比奈さんの手編みのマフラーをいただけるとなると末代までわが家の家宝にしたいくらいの価値であり、お礼しか言えない俺は店頭のエンドレスリピートテープもびっくりの単調動作繰り返しっぷりであった。<br> 「いいえっ、あたしなら全然」<br>  朝比奈さんは小首をふるふると横に振った。<br> 「でもあの。これ、どうして?」<br>  そう。なぜ朝比奈さんが突然俺にこんな恐れ多いものを下さるのかが分からない。<br>  すると彼女は口元に細い手を当て、一度迷う仕草をしてからこう言った。<br> 「あの……この前のゲームの時に、涼宮さんが『できるだけ積極的に』って言ってたでしょう?」<br> 「あ、はい」<br>  そうですね。おかげで色んな目にあったりあわなかったりしたわけで。<br> 「その時にキョンくんにプレゼントしようと思って編んでたんですけど、あげるタイミングがなくな<br> っちゃって。でも他に渡す人も思い浮かばないし。……あの、余計でした?」<br>  いえいえいえいえ! そういうことでしたか、ははははは! ならばもう思い残すことはありません。マジで涙出てきました。ハルヒの思いつきにそこまで献身なさるなんて。あぁ、やっぱり朝比奈さんを選ぶべきだった。今から時間遡行して数日前の俺に一発見舞ってやりたい心境です。<br> 「そ、そんな! いいんです。あたしが勝手にやったことなんだし」<br>  朝比奈さんは何も悪いことをしていないのにお辞儀をする。<br> 「ありがとうございます。大事にしますよ」<br>  本心そのものであった。ここ数年でもらったものの中で一番嬉しい。贈りものは気持ち、とはこのことである。もちろんこのマフラーも素晴らしいできばえだけどさ。</div> <a name="746"></a> <div class="mes"><br> 「あの、それと」<br>  朝比奈さんは先ほどより小声になって、さらに言いにくそうになった。な、何すか。まだ何かあるんでしょうか。<br> <br> 「あたし、キョンくんが……」<br> <br>  え。<br> 「ううんっ、やっぱり何でもないです! ごめんなさいっ」<br>  朝比奈さんは両手で顔を覆うと、頭を振ってぱたぱたと階段を駆け下りていった。<br> <br>  な。い、今のは……。いかん。心臓が早鐘を打っている。今ならば年末に一秒で百八つ叩けそうなくらいのスーパーハイテンポだ。<br> <br>  いったい何だ?<br> <br>  俺がそれについて今回の古泉以上に懊悩するのはもう少し後の話である。<br>  朝比奈さんの謎のアクションで頭が一杯になってしまっていた俺は、数日の間マフラーを贈ってもらったことを忘れていて、思い出した日にうっかり着ていってしまい、それを見つけたハルヒが騒ぎ出すことに端を発するのだが……、<br> <br>  それはまた、別の物語である。<br> <br> <br> (おわり)</div>
「さーてっ、それじゃ発表するよっ! 罰ゲーム!」<br>  文芸部部室に響き渡る元気な声。外の快晴と同じく、彼女の笑顔も曇りがない。<br>  部室には七名の人物がいた。俺、ハルヒ、古泉、長門有希、長門由梨、朝比奈さん、鶴屋さん。<br> <br>  そう、今罰ゲームの内容を告げようとしているのはSOS団名誉顧問、鶴屋さんである。<br>  ひさびさにわれらが部室においでなすった快活な先輩は、先のゲームで惜しくも負けてしまった二名に言った。<br> <br> 「古泉くんと有希っこに負けないくらいアツアツになれる相手を、必ず見つけ出すことっ!」<br> <br> 「……えぇっ!?」<br> 「えぇぇぇ~っ」<br>  さて、声だけで誰が負けたか分かってしまったかもしれないが、今回のゲームで負けたのはハルヒと朝比奈さんだった。ハルヒは自ら地雷を踏む役を買って出るという、世にも珍しい自己犠牲的精神を見せての罰ゲーム。そして……<br>  朝比奈さんが負けた、ということは長門由梨が勝った、ということになる。そしてもちろん由梨を選んだのは俺だった。いつもの俺であれば文句無しに朝比奈さんを選ぶところなのだが、さて今回はどうしてだろうか。理由は当の俺にも分からん。ただ、今回の由梨は有希に負けず劣らず、かなり頑張ってた気がしたんだよ。ほんのちょっとルール違反めいたこともしてたけどさ。何より姉をこいつなりに心配してたように思えたのが俺には大きかった。<br>  え? それじゃ恋愛ゲームと無関係だろって? いや、ごもっとも。だけどさ、他の人が仮に俺の立場だったとしても、選んだ選択肢は同じだったと思うぜ。それくらい由梨はよくやってた。個人的にあいつにはMVPを進呈してやりたいくらいさ。<a name="737"></a> <div class="mes"><br>  と、まぁそういうわけで、たった今鶴屋さんから課せられた罰則を二人は……ってこれ、罰ゲームに入るんですか? 先輩。<br> 「んー? あ、そうそう、別に期限は設けないからさっ、見つかったらあたしに連絡して報告しとくれよっ! みんなの鶴屋さんは何年だって待ったげるからさ!」<br>  季節を忘れてしまいそうなほど陽気な鶴屋さんは、誰よりも楽しそうにして言った。<br>  さて、ハルヒと朝比奈さんはそれぞれ別種の震えかたをしていて、ハルヒはまさかそんな事を言われるとは思わず、かといって鶴屋さんが相手なので不満を誰にぶつけていいか分からないという震え。<br> 朝比奈さんは大抵のことでこのようなリアクションを見せるという、その見本のような震え。要するにいつも通りびっくりしていた。そしてそんな朝比奈さんの姿につい安心してしまった俺。まじすいません。今度何でも奢りますから。<br>  俺はそんなことを思いながら、ウソから出たマコトのようにしてめでたく両想いとなった、できたてホヤホヤの異能者カップルのほうを向いた。……あー。昼間っからべたべたしちゃってこの人たちは。<br>  しかもそれがまたアホみたいに絵になっているのである。適当に写真取ったら校内だけでも買い手に困らないだろうな、これは。今度ハルヒに進言してみようか。<br> <br> 「ば、バツゲームはともかくとして! とりあえず今日は有希と古泉くんの二人を主役に迎えて、盛大にお祝いするわよっ!」<br>  最大ボリュームによるハルヒのアナウンスが室内に反響する。こりゃ、お祭り騒ぎのピークはまだまだ先にあるみたいだな。<br>  俺は部室をもう一度見渡して、安堵とともに笑みを作った。</div> <a name="741"></a> <div class="mes"><br> <br>  かくして、SOS団の恋愛合戦冬の陣は、大団円と共に幕を下ろすのである。<br> <br>  いや、ほんと、今回は俺も見体験ゾーンばかりでいい経験になった。今後の参考にさせてもらうところ大であり、かといってそれをどこで使うのか、何に役立つのかと言われれば、それはそれで答えに窮するくらいには用途不明なのだった。<br> <br> <br>  ……が。<br> <br> <br> 「キョンくん、ちょっといいですか?」<br>  一連のドタバタが去って、しかし燃え上がる有希古泉間の恋愛パワーで部室は寒気と無縁になっていたある日の放課後である。<br>  部室に最初に来た俺は、まだ誰もいないことで冷え切っている室内を暖めるべくストーブのスイッチを入れ、せめて指先の硬直をほぐそうと両手をすり合わせていた。そこにやってきたのが朝比奈さんで、挨拶もそこそこに手招きされて俺は前述のように呼びかけられた。<br> <br>  誰もいなくなってしまう部室にストーブを点けておくのも何なので、一度スイッチを切って、廊下に出る朝比奈さんについて行く。朝比奈さんは迷いない足取りで、しかしどこかためらうような雰囲気をかもし出して階段を上がる。<br>  まもなく突き当たった屋上の手前で、彼女はこちらを向いた。今気付いたのだが、朝比奈さんは紙製の包みらしきものを両手に持っている。</div> <a name="743"></a> <div class="mes"> 「朝比奈さん、どうしたんですか。こんなところに何の用です?」<br>  まさか超ひさしぶりに時間跳躍するのだろうか。<br>  俺は即座に身構えた。そうだ、その可能性ならば彼女が俺をここに呼び出す理由として最も妥当であろう。緊急で過去に向かう用事ができたのかもしれない。まだ未来人野郎の仲間がたくらみを諦めてなかったとか。そんなんが。<br> <br>  朝比奈さんはしばしどこを見るともなくもじもじとしていたが、やがて<br> 「キョンくん……あのこれっ!」<br>  差し出したのは手に持っていた紙袋である。俺は二拍ほど遅れてその包みを受け取った。……何だろう、大きさの割には軽いが。<br> 「あの……開けてみて」<br>  と言われれば従うまでである。何が出てくるんだろう。まさか未来的なバックグラウンドを持つ秘密のアイテムがまたも俺に託されようとしてい――<br> <br>  !!!<br> <br> 「プレゼントです」<br> <br>  マフラーだった。手編みの。<br>  寸分の狂いなく丁寧に編みこまれた毛糸。極彩色にならないよう淡い色を鮮やかに連ね、手の込んだ模様が描かれている。思わず何秒も見とれてしまうくらいに、それは見事な技で作られていた。<br> 「これ……俺に、ですか?」<br> 「はいっ!」<br>  朝比奈さんは弱気になる代わりに精一杯の強気に出てみましたと言う態度で返事をした。それでも俺には可愛らしいいつもの朝比奈さんにしか見えなかったりするんだけども。</div> <a name="744"></a> <div class="mes"> 「冬、もうちょっとしたら終わっちゃうけど……」<br> 「いえいえ! ありがとうございます」<br>  俺は早回しの鹿威しのようにお辞儀と謝辞を繰り返した。あまりに突然だったのでうろたえまくりだったが、朝比奈さんの手編みのマフラーをいただけるとなると末代までわが家の家宝にしたいくらいの価値であり、お礼しか言えない俺は店頭のエンドレスリピートテープもびっくりの単調動作繰り返しっぷりであった。<br> 「いいえっ、あたしなら全然」<br>  朝比奈さんは小首をふるふると横に振った。<br> 「でもあの。これ、どうして?」<br>  そう。なぜ朝比奈さんが突然俺にこんな恐れ多いものを下さるのかが分からない。<br>  すると彼女は口元に細い手を当て、一度迷う仕草をしてからこう言った。<br> 「あの……この前のゲームの時に、涼宮さんが『できるだけ積極的に』って言ってたでしょう?」<br> 「あ、はい」<br>  そうですね。おかげで色んな目にあったりあわなかったりしたわけで。<br> 「その時にキョンくんにプレゼントしようと思って編んでたんですけど、あげるタイミングがなくな<br> っちゃって。でも他に渡す人も思い浮かばないし。……あの、余計でした?」<br>  いえいえいえいえ! そういうことでしたか、ははははは! ならばもう思い残すことはありません。マジで涙出てきました。ハルヒの思いつきにそこまで献身なさるなんて。あぁ、やっぱり朝比奈さんを選ぶべきだった。今から時間遡行して数日前の俺に一発見舞ってやりたい心境です。<br> 「そ、そんな! いいんです。あたしが勝手にやったことなんだし」<br>  朝比奈さんは何も悪いことをしていないのにお辞儀をする。<br> 「ありがとうございます。大事にしますよ」<br>  本心そのものであった。ここ数年でもらったものの中で一番嬉しい。贈りものは気持ち、とはこのことである。もちろんこのマフラーも素晴らしいできばえだけどさ。</div> <a name="746"></a> <div class="mes"><br> 「あの、それと」<br>  朝比奈さんは先ほどより小声になって、さらに言いにくそうになった。な、何すか。まだ何かあるんでしょうか。<br> <br> 「あたし、キョンくんが……」<br> <br>  え。<br> 「ううんっ、やっぱり何でもないです! ごめんなさいっ」<br>  朝比奈さんは両手で顔を覆うと、頭を振ってぱたぱたと階段を駆け下りていった。<br> <br>  な。い、今のは……。いかん。心臓が早鐘を打っている。今ならば年末に一秒で百八つ叩けそうなくらいのスーパーハイテンポだ。<br> <br>  いったい何だ?<br> <br>  俺がそれについて今回の古泉以上に懊悩するのはもう少し後の話である。<br>  朝比奈さんの謎のアクションで頭が一杯になってしまっていた俺は、数日の間マフラーを贈ってもらったことを忘れていて、思い出した日にうっかり着ていってしまい、それを見つけたハルヒが騒ぎ出すことに端を発するのだが……、<br> <br>  それはまた、別の物語である。<br> <br> <br> (おわり)</div>

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: