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「『わたしのサンタ達』」(2007/01/22 (月) 01:27:36) の最新版変更点
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わたしのサンタ達<br>
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「それじゃ、明日は休みで明後日がパーティーだから! 楽しみにしとくのよ!」<br>
そう言って涼宮ハルヒと彼は出て行った。<br>
今日は12月23日。部室で飾り付けや準備をした後のことだった。<br>
彼らは付き合っている。だから明日のイヴは二人で出かけるという。<br>
わたしは今日も明日も一人だから関係ない。もしかしたら喜緑江美里がケーキを持って来たりするかもしれないが。<br>
「あうぅ~……涼宮さんが羨ましいよう……」<br>
二人のいなくなった部室で情けない声を出したのは朝比奈みくるだった。<br>
「わたしもキョンくんと付き合いたかったよぅ……。長門さんもそうですよね?」<br>
わたしも、朝比奈みくるや涼宮ハルヒと同じ様に彼に好意を抱いていた。<br>
それが恋愛感情に当たる物かどうかはわからないが、それに近い物だと認識している。<br>
「済んだこと言ってもしょうがない。 彼にとって、わたしとあなたは涼宮ハルヒを超える者ではなかったのだから。……残念だけど」<br>
そう、しょうがない。いくらか残念だという気持ちはあるが、しょうがない……。<br>
「うぅ~……じゃ、じゃあ長門さん! わたしと一緒にイヴを過ごしませんか!? 他にも誰か呼んで……ね?」<br>
最近は朝比奈みくるがよくわたしと行動を共にしようとする。<br>
わたしに対する苦手意識が薄くなったのだろうか?まぁ、わたしもうれしいから構わないけど。<br>
「……いい」<br>
わたしはそれだけ答えると、帰り支度を始めた。<br>
「じゃあ今日買い物に行きましょう!あ、鶴屋さんも呼んで良いですよね?」<br>
「いい」<br>
「うん、じゃあ今から連絡しておきますっ! ……長門さんは誰も呼ばなくていいんですか?」<br>
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わたしはしばらく考えた。わたしにはそんなに親しい友人はいない。ほんとは彼を呼びたいけど叶わない事だからダメ。<br>
じゃあ、他にイヴを一人で過ごしそうな人物は……。<br>
「喜緑江美里を呼ぶ」<br>
わたしの発言に少しだけ朝比奈みくるは驚いていたが、すぐに笑って了承してくれた。<br>
そうして、わたしと朝比奈みくるは部室の鍵を閉めて、鶴屋さんとの待ち合わせ場所へと向かった。<br>
……ちなみに古泉一樹は冬休みの合宿の準備に奔走しているらしい。<br>
「やっほー! みくる、有希っこ、悲しい女達の集まりに呼んでくれてありがとねっ! わははははっ!」<br>
いつものように明るく、元気な鶴屋さんと合流した。<br>
「む~、言わないでくださいよぉ。 鶴屋さんだって悲しい女じゃないですか」<br>
悲しい女の中にわたしも含まれていることが少し悲しい。そういう感情が出来てしまった。<br>
「とりあえずお買物……」<br>
そう呟いて、二人に話を終えるように促した。<br>
「そ、そうでした。ごめんなさい、長門さん……」<br>
「ごめんね、有希っこ! そいじゃ買物に行くっさ!」<br>
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三人で食材や、ケーキの材料などを買い込んで、わたしの家へと向かった。<br>
……いつの間にわたしの家が会場に決まったのだろうか?<br>
オートロックを開け、エレベーターで上へと昇り、ドアに手を掛ける。……鍵が開いてる?<br>
「有希~、上がってるから……あれ? 朝比奈さんと鶴屋さん? どうも、喜緑です」<br>
江美里はペコリとお辞儀をした。それに合わせて朝比奈みくるがペコリと頭を下げ、鶴屋さんは右手を上げて応えていた。<br>
「えっと……喜緑さん、悲しい女達の集まりへようこそ、です……」<br>
朝比奈みくるは少し顔を赤らめて、恥ずかしいパーティーの名前を口に出した。<br>
「《悲しい女達の集まり》ですか。 わたし達にピッタリの名前ですね」<br>
江美里はそれに笑顔で答えた。よく考えると、わたしだけが一学年低い。<br>
彼女らが各々持ち合わせている、年上の雰囲気に少しだけ憧れを抱いてしまう。<br>
「ささっ、他人行儀はここまでさっ! こっからはみんなで仲良く明日の下準備をするにょろよっ!」<br>
鶴屋さんが仕切って、みんなで作業を始めた。<br>
普段は絶対に交わることのないメンバーでの作業は楽しく、わたしの心に《共同作業》というものの楽しさを覚えさせてくれた。<br>
その日のうちに全ての料理とケーキを作り終えた。その作業が終わった頃には、かなり遅い時間になっていた。<br>
「もう遅い時間ですね……そろそろわたし達は帰りますね」<br>
朝比奈みくると鶴屋さんはいそいそと荷物をまとめ始めた。この楽しい時間をわたしはもう少し続けたいと思い始めていた。<br>
じゃあ、どうすればまだ続く?わたしはしばらく考えた結果、この言葉を発した。<br>
「泊まっていく?」<br>
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みんなが目を見開いて驚いている。特に、江美里が驚きが激しいようだ。<br>
しばらくすると、鶴屋さんが口を開いた。<br>
「あたしは明日の為に準備したい物があるからみくると江美里ちゃんだけ泊めてやって欲しいっさ! そいじゃみんな、また明日さっ!」<br>
返事を待たずにドアを開けて帰って行った。 ……そのまま江美里もドアに手をかけていた。<br>
「朝比奈さん、有希をお願いしますね。 明日おみやげを持って来ますから」<br>
そう伝えると、ドアから出て行き、わたしは朝比奈みくると二人きりになった。<br>
「あの……な、長門さん。 お世話になります」<br>
頷いて返事をした。その後、すぐにお風呂を焚いて、布団を敷いた。<br>
「お風呂……沸いた。 どうぞ」<br>
朝比奈みくるに入浴を促し、わたしは読み掛けの小説に手を伸ばした。<br>
時刻は24時を廻り、そろそろ眠気が襲ってくる時間。 でも、まだお風呂に入っていない。 眠い目を擦りつつ、お風呂が開くまでの繋ぎとして、プリンを食べた。<br>
「長門さん、お先しました……って美味しそうですね」<br>
プリンを食べ終えた辺りで朝比奈みくるは浴室から出てきて、そのまま近付いてきた。<br>
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「ほら、ほっぺたにプリンが付いちゃってますよ」<br>
タオルで頬を擦られる。 この動作が気持ち良く、ついつい目を瞑ってしまうと、わたしは朝比奈みくるに身を預けて眠ってしまった……。<br>
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次の日、クリスマスイヴ。 わたしは朝比奈みくると同じ布団で寝ていた。<br>
「あ、おはようございます。 よく寝てましたねぇ」<br>
彼が《天使の様な笑顔》と表現する顔を、朝比奈みくるはわたしに向けてきた。<br>
「長門さん。 今日はクリスマスイヴだから長門さんにプレゼントをあげますっ!」<br>
彼女はそう言うと、背中の方に置いた鞄をゴソゴソと触り、何かを取り出してわたしに手渡した。<br>
包みを開くと、かわいいデザインの写真立てが入っていた。<br>
「わたし達と撮った写真をこれに入れて飾ってください……ね?」<br>
朝比奈みくるがわたしを気にかけてくれることがうれしい。 でも、わたしは何も用意していない、お返しが渡せない。<br>
「わたしは……何も持っていない。 何もあげられない」<br>
ニッコリと微笑んで、朝比奈みくるは口を開いた。<br>
「いいですよ。 お返しをくれようとした気持ちだけで充分です!」<br>
「でも、わたしにとても優しくしてくれているあなたに何かお礼がしたい」<br>
わたしの心からの感情。 それを聞いて彼女はしばらく困った顔をしていたが、しばらくすると思い出したように口を開いた。<br>
「じゃあ、長門さんの笑顔を見せてください! わたしだけに……ね?」<br>
それが望みなら、とわたしは笑顔を作った。<br>
「か、か、かわいいですっ!」<br>
キツく抱き締められて、頭を撫でられた。 ……そのとき、わたしの中にエラーが出て、わたしは彼女にキスをした。<br>
「な、長門さん……?」<br>
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どうしよう、このエラーは予定外。 朝比奈みくるに対する好意は芽生えたが、恋愛感情ではないのに。<br>
「今のはエラー、忘れて」<br>
恥ずかしい。 まさか朝比奈みくるとキスをするなんて思いもしなかった。<br>
「うふふ……長門さんはわたしを好きなんですか?」<br>
朝比奈みくるの悪意のない言葉に顔が赤くなる、《恥ずかしい》という感情。<br>
「そんなことはない、これは忘れて……」<br>
そのとき、わたしの唇に朝比奈みくるの唇が触れた。<br>
「わたしは……好きですよ? 長門さんのこと」<br>
わたしはもう朝比奈みくるの思考がわからない。 同性同士で好きとは何なんだろうか?<br>
しかし、わたしも朝比奈みくるのことを考えると、彼に抱く感情のようなものを感じる。<br>
やはり、これは彼女を好きだということなのだろうか?<br>
「じゃあ、わたしも好き……」<br>
そう答えて、もう一度目を閉じた。 ……これが彼との会話だったらどんなに幸せだろうか。<br>
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「長門さん、朝ですよ! もうみんな来ちゃってますよ!」<br>
朝比奈みくるの呼ぶ声でわたしは目を覚ました。 さっきのは夢だった……?<br>
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目を擦りつつ体を起こすと、枕元に小さな包みが置いてあった。<br>
《メリークリスマスイヴ! 朝比奈みくる》<br>
そこからは、夢で見たのと同じ写真立てが現れた。<br>
人間の不思議な夢がわたしにも現れたのは、わたしも人間に近付いてきているということなのだろうか?<br>
「ややっ! 有希っこにはみくるサンタがやって来たんだねぇ~、よかったさっ!」<br>
「有希、ちゃんとお礼を言ってお返しをあげなさいよ」<br>
鶴屋さんと江美里が後ろから声をかけてきた。<br>
わたしは立ち上がって、キッチンにいる朝比奈みくるの元へ歩いた。<br>
「朝比奈みくる、ありがとう」<br>
やはり返事は夢で見た様な笑顔で返ってきた。<br>
「どういたしまして。 あ、今日ね、わたし長門さんの夢を見ましたよ。 とっても幸せそうに微笑んでました」<br>
もしかしたら同じ夢を見たのかもしれない。 夢というのは本当に不思議だ。<br>
今度、夢についての本を読んでみようと思う。<br>
とりあえず、朝比奈みくるにお礼をしよう。<br>
「朝比奈みくる、こっちに来て」<br>
首を傾げながらも近付いてくる朝比奈みくるに、わたしはキスをした。 夢で見たように、だけど今度はエラーではない。<br>
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「わたしには何もないから、これがお礼。 ……寂しいあなたに祝福を」<br>
わたしはそう言って、微笑んだ。 朝比奈みくるは口をポカンと開けて、驚きを隠せないでいた。<br>
「あ~! 有希っこ! あたしのみくるを取っちゃダメにょろよっ!」<br>
鶴屋さんがわたしに抱き付いて来て、江美里はそれを見て笑っていた。<br>
わたしと朝比奈みくるの一日早いプレゼント交換。 それは楽しい一日の始まりと、わたしと彼女の心を繋ぐ物となった。<br>
「長門さんは、わたしのことを好きなんですか?」<br>
朝比奈みくるはイタズラっぽく笑いながら質問してきた。<br>
今なら、はっきり言える。わたしを縛っていた彼への恋愛感情がなくなったから。<br>
「……わりと、好き」<br>
「そっかぁ……。 じゃあ、両想いですね! わたしも好きですっ!」<br>
朝比奈みくると冗談を言い合える関係も、わたしがもらったプレゼント。<br>
寂しい四人の女のイヴは、わたしにとって幸せなクリスマスイヴになった。<br>
だから、最後にみんなにこう伝えた。<br>
「あなた達は、わたしのサンタクロース。 最高のプレゼントをありがとう」……と。<br>
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おわり<br>
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