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今日は2007年4月14日。どうして俺が年月日をこんなにも詳しく指定するのかと言うとだな・・・まぁ今は話せないが 出来れば覚えておいて欲しい。長い、長い一日だったということは行っておく。 俺は二年に無事進級し、またハルヒと同じクラスである。ハルヒだけではない、長門と古泉も同じクラスだ。 古泉は理数系のクラスにいなかったか?なんてのはハルヒにとってはどうでも良く、俺たちはまた一年こいつに振り回される運命である。 ちなみに朝比奈さんは今年から受験生だ。未来人にとって受験勉強は必要なのかと思うがな。 幸か不幸か、SOS団に入ろうなどという変人は現れず、ようやく普段の学校生活に戻ろうとしていた頃である。 もっとも、ハルヒがいる限り俺に普通、とか普段、とかいうセリフは吐けないな、とかを考えている毎日である。 今回は、こんな春の陽気を一瞬にして吹き飛ばしてしまった話である。 毎度毎度、不思議探索と称した時間潰しに何の意味があるのかと考えつつ、俺は半歩前を何の迷いも無さそうな笑顔で進む破天荒な特殊能力を  備えた奴を見ながら溜息を付いた。 「おい、そんなに急いで何処へ行くんだ?」 まずこんな町の一角にオーパーツやら、ロズウェル事件で米軍が回収した未確認飛行物体の破片やらが落ちているはずは無く・・・ いや、こいつが望めばそれも可能なんだな。一体誰だ?こいつにこんな能力を与えた奴は。 「何ブツブツ言ってんのよ!キョン?あんた最近独り言多いわよ!」 独り言も自然と出る。お前の知らない所で俺は同じ奴に二度も刺されたんだぞ?もうあの経験は二度としたくないね。 「で、今日は何処に行くんだ?」 「図書館よ!」 ハルヒが図書館に行くなんて言い出すとは珍しいな。この前来たのは長門とだったから、もう季節は一回りするのか。しかし、 長門となら分かるがまさかこいつと来るとは。ハルヒと歩き回るのは疲れる。よって拒否する理由は無く、大人しくついて行く。 この時は、あんな事に巻き込まれるとは考えてもいなかった 「着いた!ねぇキョン?ここなら不思議な本の一つや二つは有りそうよね!?」 一般常識では、こんな市立図書館にハルヒが興味を持ちそうな本は無いだろう。しかし、相手がハルヒとなると こんな何処にでもある図書館は瞬時にして不思議な魅力満載の館に変貌を遂げる。 「こんな所に有るわけないだろう。」 こうは言ってみたものの、内心ではヒヤヒヤしていた。ハルヒのことだ、UFOやらUMAに関する文献に飽き足らず、 読むと祟られる本とか、神社のお札で封印してある古書とかを引っ張りだしてきそうだからな。  やはり、オカルト関係の雑誌を引っ張り出してきてはハルヒは読み漁っていたが、俺はと言えば本に集中することは無かった。 気付いたときには寝ていたらしく、ハルヒに叩き起こされていた。 「何寝てんのよ!もう図書館閉まっちゃうじゃない!」 もうこんな時間か・・・ 「他の三人は?」 「もう帰ってもらったわよ。あんた全然起きないんだから」 「俺らもそろそろ帰るか?」 「そうね。もう帰りましょ!」 俺はハルヒのオカルト雑誌を所定の位置に戻しにいくが、ここである一冊の本に目が留まった。 洋書コーナーの二段目左隅に埃を被って鎮座していたその本には、何故だか妙に魅かれた。 他の書籍と比べてもあまりにみすぼらしく、タイトルも一部しか読み取ることが出来なかったが。 T A IC なんだこれは?どう見てもこうしか読めない。このまま本棚に戻せば良かったのかもしれないが、俺の頭に直接、 「ペ ー ジ を 開 い て 」 ハルヒか?いや、ハルヒなら「さっさとページを開きなさい!」だろう。じゃあ一体誰の声だ?開けたらかなりやばい代物だと 分かってはいるものの、体の自由が利かなくなり、ゆっくりとページに手をかける。 やめろ、俺。開けるな、俺。 「ぐあっ!?」 後頭部を鈍器で殴られたような衝撃を感じると、俺の意識はそこで途切れた。 「どうなさいました?頭を打ったようですが。」 俺の耳に聞こえてきた言葉は、日本語ではなく英語だった。しかし、英語の成績が芳しくない俺でも何故か理解することが出来た。 頭を打ったせいで英語を理解できるようになったのか?おそらく親切な外人の図書館利用者が倒れてる俺を見つけて起こして くれたのだろう。何でハルヒは起こしにこないんだ?別に起こして欲しかった訳じゃないぞ。 俺はその外人に向け、日本語で 「ああ、大丈夫だ」 と返した、はずだった。しかし、こちらも俺の口から出てきた言葉は英語に変換されていた。 おかしい。英語を理解するだけでなく、話せるようになるとは。しかもまだ痛みの残る頭を掻きながら目を開くと、驚愕の光景 が広がっていた。外人だとばかり思っていた声の主は、 他ならぬ超能力少年古泉一樹その人だったのである。しかも、高級そうなホテルのボーイ姿で。 「どうしてお前が此処にいる?」 普通、こんな市立図書館にホテルのボーイはいない。いるはずがない。しかも、中身は古泉ときた。 「どうして私が此処にいるか、ですか?初勤務早々そんな事を聞かれるとは。」 いいから早く、お前がどうしてこの図書館で、しかもボーイ姿で働いているのか教えてくれ。お前らの機関は資金繰りが困難 にでもなったのか?日本語から英語になってもお前の回りくどい説明口調は変わらないんだな。 「少々あなたは頭を打って混乱しているようですね。私は古泉一樹なる人物とは異なりますし、此処は図書館ではありません。私が このような姿をしていますのは、私が此処で働いていますから。」 どう見てもお前は古泉だろう。そのニヤケ顔がすべてを物語っている。しかし、此処は図書館ではないと言うのは信じられるよう だな。辺りを見渡すと、所狭しと書籍が並べられていた図書館ではなく学校の保健室のような印象のある部屋だった。 俺はそこのベッドに横になっているらしい。では、どうして此処で働いているんだ? 「私はこの船の乗組員です。あなたが倒れていたので、急病人を収容する部屋にあなたを運んできたのです。では、私は勤務 に戻りますので。後はよろしくお願いします。」 古泉はそういうと、扉を開けて外に出て行った。おそらくこの部屋には医師や看護師がいるのだろう。しかし、船だと?そういえば 時折聞こえるボ―ッという音は汽笛だったのか。と、いうことは俺は三度あのトンデモ世界にやって来ちまったのか。今度な何だ? ハルヒがまた癇癪を起こしたのか?朝倉がまた俺を殺そうというのか?おそらく、トリガーとなったのはあの本だ。しかし、 どうしてあんな回りくどいことをするんだ?とにかく早く戻らなければならないな。古泉は記憶が異なっているから頼れない。 長門や朝比奈さんを探さなければならないな。けれども、その手間は省け絶望が俺を襲うことになる。 「ほいっさ!ちょいと待っとくれっ!」 「私が先に体温を測っておきますね。」 出てきたのはSOS団のスウィートエンジェルと名誉顧問である。鶴屋さんと朝比奈さんは純白の白衣に身を包み、心配そうに 顔を除きこんでくる。 「朝比奈さんに鶴屋さん!これは一体どうなってるんです!?」 「ふええっ!?そんな事を急に言われても・・・私はあなたに初めてお会いしまして、えと・・・第一私は朝比奈でも、鶴屋 という名前でもなく、私はこの船の看護婦として働いていまして・・・」 とすると、俺は鶴屋さんにも訊いてはみるものの、 「鶴屋?私の名前がかいっ?私の名前はそんな名前じゃないよっ!」 古泉、朝比奈さんは頼れないとなると、長門に頼るしかあるまい。まずはこの二人に時間と場所を訊かなければ。 「頭を打ったせいで今自分が何時、何処にいるのかが分からないんです。教えてもらえますか?」 そういえば古泉は船の乗組員だと言ってたな。だとするとここは海の上だ。 「こんな豪華な船に乗って記憶障害だなんて、ついてないねぇ!今日は1912年の4月14日午前11時30分をちょいと 過ぎた頃だねっ!」 そう言うと、異世界版鶴屋さんはいつもの調子で笑い始めた。1912年か、俺は100年近くの今日にタイムスリップしたわけか・・・ 1912年4月14日、なんか頭に引っ掛かる。なにかが起きた日である。その何かが出てこない。くそう、自分の不勉強をここでも 悔やむとは。鶴屋さんは笑い上戸と化して会話できる状態ではなさそうなので、今度は異世界版朝比奈さんに話を振った。 「自分が船に乗っていることは分かりました。では此処の大体の場所は分かりますか?」 「ええと、10日にサウサンプトンの港を出港しまして、シュルブール、クイーンズタウンに寄航し、現在は最終目的地である ニューヨークへ向けて航海を続けていると思われます。」 英語を話している環境下に置かれているのだから、外国を旅しているのだと思っていたが、 サウサンプトン発ニューヨーク行き。か・・・ まさか。 俺は小学生の時に見た。やたら長い映画を思い出していた。確かテレビでは二日続けて放送されていた記憶があり、印象に 残っている。そのタイトルには「不沈船」と評され、処女航海で氷山に激突し沈没した当時世界最大の豪華客船の名前がつけられていた。 「もしかして、俺の乗っている船って・・・」 次の異世界版鶴屋さんの言葉を聞いたとき、俺の頭の突っかかりは取れることになった。最悪の答えと共に。 「どうやってこの船のチケットを手に入れたんだいっ?君みたいな若いお客さんが乗ってるとは思わなかったさ!この四日間 、運ばれてる来る人たちは私より相当年上ばかりで退屈してたところっさ!」 「この船の名前かい?相当重傷なようだね!」 「タイタニック号の名前を忘れるなんてっ!」 そういうことか・・・ここが異世界だとしても、タイタニック号が沈没する事実があるとしたのなら一刻も早くこの世界から 脱出しなければならない。 「今思い出しました。俺はサウサンプトンから乗船したんですよ。チケットは友人に貰いました。もう頭の痛みも消えたので、 そろそろ自分の部屋に戻ります。」 「そうですかぁ?具合が悪くなった時の為にお薬出しておきますねぇ」 記憶障害の患者に何の薬が効くんだ?とも思ったが、俺は素直に貰っておくことにした。何かの役に立つかもしれないからな。 「夕食後、必ず飲んで下さいよ、必ずですからね・・・」 俺は二人に礼を言うと、その部屋を後にした。 まずはこの船を沈没させないようにしなければ。この世界が作られたのならタイタニック号は無事ニューヨークへ着く、という 歴史に改変することが可能なはずだ。まずは船長室へ行って、忠告しなければならない。無駄だとか、徒労に終わるなんて 考えていたら時間が過ぎるだけだ。頭に思い付いたこと、自分に出来ることを一つずつでもこなさなければ。 俺は船長室へ向かう途中、どうして俺一人を始末する為にこんな回りくどい行動を取る必要があるのか考えていた。去年のように、教室に でも呼んで人知れず消せばいい。そうしなかったという理由は、おそらく唯一つ・・・長門有希の存在だ。 朝比奈さんの言葉を借用すると、あの時間平面上では俺に手出しが出来無いようになっていたのではないか。 もし朝倉の連中が俺を狙っていると仮定するなら、こう考えられる。 早く手を打たないとハルヒの能力が消え、統合思念体の進化の可能性が失われる事を恐れた急進派は、架空の世界を作る方法を知り、 しかも過去の事象と結びつけることで、自然に俺を消すということを考えたんだろう。おそらく、俺を殺してから元の世界に戻し、 俺の死体をハルヒの目の前にでも晒すつもりか。くそう・・・確か朝比奈さんはハルヒのが起こした時空震とやらの影響で 四年前より過去には遡れない。長門と朝比奈さんがこの世界へ侵入することが出来ても、朝比奈さんはこの世界の1921年には遡る事が 不可能であり、長門はこの世界に記憶を同期することが出来る別の長門が存在しなければならないが、長門は100年も前に存在しては いなかったので長門も打つ手無し。か・・・ 気が付くと俺は甲板に出ていた。確か今の時間はお昼頃だろう。外は快晴。暖かい陽光がタイタニック号に降り注いでいた。 映画で見たことのある四連の巨大な煙突がタイタニック号の大きさを際立たせていた。どこまでも続く青い海の向こうに待っているのは、 天国か地獄か・・・ 異世界版鶴屋さんの言う通り、甲板に出ていた人たちは皆一様に人生の酸いも甘いも経験してきたような表情を顔に浮かべていた。 俺はなんだか此処には居場所が無い様な気がして、船の案内版を頼りに船長室へと向かった。途中、 「FUFUFU船掃除~」 なんて歌ってる奴を見かけたが、面倒なのでスルーする。異世界でもお前はアホなんだな・・・ 俺は船長室へ行ったが、やはり一般の乗客は船長に会わせてもらえなかった。その代わりに、俺は船長室の前に立っていた異世界版 古泉にこう忠告しておいた。 「船長に伝えておいてくれ、氷山には気を付けろ。他の船舶からの無線電波で警告が来るので注意しろ」と。 「分かりました。船長には伝えておきます。しかしお客様、この船は氷山ぐらいでは沈んだりしません。その理由は、 船体は16の区画に分けられているため、そのうちの2つの区画に浸水しても沈没しない構造になっているのですよ。また・・」 「分かった、もういい。」 この世界でもこいつの能書きには付き合う羽目になるとは。俺は船長室を後にすると、何故か俺のポケットに入っていた船のチケット に明記してあった部屋へ行くことにした。 「ここ、か。」 映画のイメージとは大分掛け離れた、狭く、薄暗い部屋が俺に与えられた部屋だった。三等客室とチケットには書いてあるので、 おそらく最低ランクの部屋である。中身はベッド一つが置いてあるだけで、もちろんテレビやラジオ等は無かった。 俺はベッドに横になると、不意に図書館での痛みが蘇ってきた。くそう・・・今度は俺を何処に連れて行こうと言うんだ・・・・ そこで、俺の意識は再び途切れた・・・・・ ~現代~ 「キョン・・・・どうしてこんな事になっちゃったのよ・・・」 事の発端は今日の午後四時半頃である。三十分程前に涼宮さんからの解散を告げる電話を受け取り、僕、朝比奈さん、長門さんの 三人は帰途に着いていた。そして、唐突に涼宮さんからの電話が鳴り・・・ 「キ、キョンがあたしの前で・・倒れた・・・」 その瞬間、閉鎖空間が僕の経験したことの無い猛烈な勢いで拡大していくのを感じた。 「涼宮さん、彼が倒れた時の状況を詳しく教えて貰えませんか?」 「キョンが本を返しに行って、全然戻ってこないから呼びに行ったのよ・・・そしたらキョンが本を見てて・・・怒ろうとしたら 急に糸が切れた操り人形のようにくたーっと倒れたの・・・それからはうんともすんとも・・・」 涼宮さんは、そう言いながら病室のテーブルに置いてある本を指差した。現在は閉鎖空間の拡大は止まっているものの、未だ一触即発 の状況は変わってはいない。僕に出動命令が下らなかったのは、おそらく涼宮さんには僕がいなくなる事でさらに負荷がかかると 判断したのだろうと思います。涼宮さんにとって僕はそんなにも影響力があるのでしょうか、思えばこの一年は僕の人生の中で 一番楽しかったかもしれません。でも、もっと、僕はこの生活を楽しみたいのですよ。その為には、今は機関、未来、 統合思念体の損得勘定無しに協力して彼を助け出さなければ。 「長門さん、少々お時間を。」 僕は長門さんと共に病室を後にした。涼宮さんに聞かれてはまずいですからね。 「長門さん、今回は一体誰の仕業なのでしょうか?」 「・・・」 彼女はしばらく無言でしたが、ゆっくりとこちらを向くと、言葉を選ぶように話し始めた。 「彼がこの世界から消失したのが16時38分24秒12。連れ去ったのは、急進派。急進派は別の世界を一時的に創造することに 成功し、彼を幽閉している。彼がこの時間平面上から意識が消失したのが16時38分23秒19。以来、様々な手段で急進派が 創造した世界への進入を試みているが、強力な防御シールドが張り巡らされており非常に困難な状況。しかも、彼はその世界には 存在していない。」 「それは、つまり彼はその世界の過去に存在していたことになり、朝比奈さんや長門さんが遡る事が出来ないほどの大昔に 閉じ込められている、と。長門さんは、彼が今何処の時代に閉じ込められているのか見当は付いているのですか?」 「1929年4月14日。彼は今、その時間平面上に存在している。」 「どのようにして彼の居場所を突き止めたのですか?」 「涼宮ハルヒが持っていた本の記憶情報をダウンロードした。その本には彼の氏名が刻まれていた。」 「それは、どういう意味なのですかね・・・すいません、聞いてばかりで。」 「あの本は現在は無害。でも彼が消滅した時、彼のいる世界とこちらの世界とを繋ぐ鍵であったことは確か。」    「つまり、あの本を開いた瞬間、彼は別の世界へ強制的に移動してしまった、と言う訳ですね?」 「・・・」 僕としては同意して欲しかったのですが・・・ 僕と長門さんは涼宮さん、朝比奈さん、そして彼の抜け殻のいる病室へと戻った。面会時間終了までの間、僕は機関と連絡を取った。 閉鎖空間の拡大は抑えている状態との連絡を受けましたが、僕も早く向かわなければ。朝比奈さんは、未来との連絡を取っていた様子で、 長門さんは彼の閉じ込められている世界への侵入を試みているようです。面会時間が終わると、涼宮さんを彼女の自宅まで送り届け、 僕は閉鎖空間へと向かいました。朝比奈さんと長門さんは、彼を閉じ込める鍵となった本を調べる為長門さんの自宅へと向かいました。 「あの・・・古泉くんも閉鎖空間を消したら早く来て下さいぃ・・・」 「そんなに長門さんと二人っきりになるのが嫌ですか?おそらく彼が戻ってこない限り閉鎖空間の消滅は望めないでしょうから、 二人で頑張ってください。お願いします。」 そういうと、一瞬今にも泣き出しそうな表情を作るが、 「はい・・・頑張ります・・・」 未来の朝比奈さんにも一度会ってみたいものです。一体どんな性格になっているのか・・・ そんな事を、新川さんの運転する車の中で考えていた。 ~長門有希の自宅にて~ 「あのぉ・・・長門さん・・・キッチンを少し借りても・・・お茶を淹れるので」 「・・・」 やっぱりこの部屋に二人っきりっていうのは、少し辛いですね・・・他の三人とは大体向こうから話を振ってくれるので、 口下手な私にとっては楽なんですが・・・お互い話さないので必然的にわたしと長門さんの間では沈黙が流れます。 「あの・・・お茶どうぞ・・」 「ありがとう」 「ほえっ!?・・あ、ど、どういたしまして・・」 長門さんに礼をされるなんて一度もなかったので、私は素っ頓狂な声を上げてしまいました。 「これを見て」 そう言われて、長門さんが差し出したのは、涼宮さんが持っていた本でした。 「この本って・・・キョンくんを連れ去った本ですよ、ね?わたしが見ても・・・その、大丈夫なんですか?」 「問題は無い。この本に含有されていた有害情報は全て削除した。」 そう言うと、長門さんはいかにも古そうな洋書のページを開きました。一体いつの時代に書かれた本なのか、そもそも本の タイトルさえ埃や煤で汚れてしまっていては想像も付きません。一枚目のページには、とても大きな船が描かれていました。 去年の夏休みに皆と合宿に行った時の船の何倍も大きく、豪華に見えました。こんなに大きな船が大昔にあったなんて・・・ わたし達のいる時代では【禁則事項】の力を利用した【禁則事項】が交通の主流になっているので・・・【禁則事項】さん・・・ (思っていることも禁則事項ってでるんですか?うう・・ひどいですぅ・・・) 「えと・・・長門さん・・・この船はいつの時代の、なんと言う名前なんですかぁ?」 「1912年、名称はタイタニック。処女航海で氷山に激突、沈没した。」 「最初の航海で沈没しちゃうなんて・・・で、でも・・なんでその船とキョンくんが関係してるんですか?もしかして・・・」 「・・・・嘘・・・」 声を上げたのはわたしではありません。長門さんです。皆といるときには決して見たことの無い、不安と驚きの入り混じった 表情。見せてもらうと、その本に書かれている事にわたしも驚きました。 「ど、どうして・・・キョン君の名前がか、書いてあるんですかぁ!?」 タイタニック号犠牲者名簿というページには、しっかりと、【禁則事項】と、名前が書いてあったのです・・・ 「彼を連れ去った急進派にとって予想外の事態だと予測。このままでは、現実に彼がタイタニックに乗船し、犠牲者に なった。と歴史が改変される恐れがある。」 「で、でもキョンくんが閉じ込められている世界と、わたし達のいる世界とは違うので・・・そのぉ、ありえない、はず なんですけど・・・」 「原因不明。でも、現実に起こった事象に彼の名が明記してあるという事実から推測すると、彼のいる世界とこちらの世界が リンクし始めている。このままでは、彼が消滅するのも・・・・時間の問題・・・」 そんなことが・・・ キョンくんを助けたい・・・・力になりたい・・・・・ でも、時空震の影響で、4年より前には遡れない。古泉くんも、長門さんも、キョンくんも、この一年間精一杯この世界を 守ろうと頑張っていた・・・・でも、自分はどうか・・・・いつも足を引っ張ってばかり・・・コンピュータ研の部長さんが カマドウマにされた時も・・・・キョンくんが朝倉さんに刺されたときも・・・・いきなりキョンくんに掃除用具箱にいれられた 時も・・・・私は、他の三人の後ろに付いていくだけ・・・・何も出来ない、ただの役立たず・・・ 自然とわたしは、また泣いていた。止めどなく、わたしの意志とは関係なく流れ出る涙、涙。 そんなわたしの心が読めるかのように、長門さんはやさしく 「泣かないで・・・・あなたはSOS団にとって、必要不可欠。涼宮ハルヒから必要とされている事は、あなたは分かるはず。 ・・・・決して、決して自分だけを責めないで。」 「ぐずっ・・・あ゛、ありがど・・・ううっ、ひぐっ・・・ございま゛すぅ・・・」 そのとき、勢い良くドアが開いた。振り返ると、長門さんも予想していなかったであろう人物が、そこに立っていた。 「力になってあげてもいいけど。」 キョンくんを二度も殺そうとした。わたしはそのときのあなたの顔は忘れることが出来ない。 朝倉涼子が、立っていた。 「最初に言っておくと、今回この計画を実行したのは、私。」 「どうして、どうしてそう何度も何度もキョンくんを狙うんですかぁっ!?」 「未来人、私たち、超能力者、そのどれにも当てはまらない彼を失ったときの彼女の情報爆発量は、他の三人の比じゃないの。 だから、私は彼を狙っていた。今回は長門さんにも気付かれないようにうまくやっていたと思ったんだけど、邪魔が入ったわ。 相手は分からない。私は油断した隙を突かれて破壊されてしまったの。ここは一つ、手を組まない?長門さん?」 「・・・・・」 長門さんは、なにか考えている様子でしたが、やがて小さく頷きました。 「さぁ、朝比奈さん?時間遡上はあなたの得意分野でしょう?」 「で、でも・・・時空震の影響が・・・えっ!?」 わたしは驚いた。申請もしていないのに来ていた。いきなりキョンくんに掃除用具入れに押し込まれたときと同じ、 最優先強制コード・・・・ 「長門さん、朝倉さん、目をつぶってください。時空間座標・・・・1912年4月14日、午後11時40分。 場所は、にゅ、ニューファンドランド沖を航行しているタイタニック号っ!」 ~タイタニック号船内~ 「のわっ!?」 響き渡る轟音に、俺の目は覚めた。何かに当たったらしい・・・・当たった? まさか・・・・その瞬間、船体が大きく前のめりになる。 俺は急いで外に出ようとするが、扉が開かない。 「くそっ!こうなったら・・・」 俺はポケットから、朝比奈さんに貰ったカプセルを取り出した。きっと、これが元の世界に戻る鍵・・・・しかし、飲もうとした 瞬間、またもや大きな衝撃が襲い、カプセルは壁と床との間に入り込んでしまった。万事休す・・・か・・・・俺はタイタニック と共に沈むのか・・・・・ 突然、あんなに力を入れても開かなかったドアがゆっくりと開き、 「あれ~?薬飲んでくれなかったんですかぁ?」 異世界版朝比奈さんが立っていた。それだけではない、鶴屋さんと古泉も一緒である。 「朝比奈さん・・・助けに来てくれたんですか?ありがと――――」 俺の中に、雪山で感じたあの違和感が襲ってきた。ナース姿から一瞬、胸元が見えたのだが、そこには、あるはずのものが 無かった。☆形のほくろが、無かった。 「お前たちは一体、誰だ?」 「何言ってるんだいっ!キョンくんっ!それはちょいと酷すぎるっさ!」 鶴屋さん・・・目が笑ってません・・・怖すぎます・・・・ 「まぁ、バレてしまったのなら仕様がありませんね。あの薬もバレてました?痛みもなく、一瞬にして昇天できる優れものでしたのに。 僕たちは、あなたの良く知っている朝比奈、鶴屋、古泉などという名前ではありません。 なぜなら、僕たちは使い捨て。あなたを殺し、涼宮ハルヒの眼前に死体を晒す。というミッションが終わり次第、 処分される使い捨てのインターフェースなのですから、長門有希や朝倉涼子などという、名前という 概念は初めからありませんからね。」 古泉、お前もか・・・・ 「お前らは朝倉涼子の仲間か?」 「その通りですよ。ただ、朝倉涼子も元々このミッションに参加していましたが、今は何処にいるのかはわかりません。 どうやらこの次元には存在せず、あなたの元の世界にいます。そのお陰で、邪魔な未来人に此処の場所を特定される恐れが ありますが、おそらく朝倉さんは、その未来人も始末するでしょう。」 「どういう意味だ?」 「あなたの精神はこの世界に来ていますが、肉体は元の世界に残されたままです。つまり、もし万が一あなたが此処から脱出 したとしても、元の世界にいるのはナイフを持った朝倉涼子でしょうね。」 「では、ここで死んでくださぁい」 異世界版朝比奈さんの右手が槍に変化し、俺に向かってくる。人間てのは、本当に死を覚悟した時スローモーションに見えるなんて 聞いたが、あれは全くのデタラメだ。あの朝比奈さんの動きが素早すぎる。逃げようとするものの、俺は直ぐに壁際に追い込まれた。 「これも僕たちの為なんです。大人しく、死んでください。」 古泉に殺されるのだけは、絶対に嫌だ。 頭上に振り下ろされる槍。俺も終わりか・・・・・ ガシャッと何かにぶつかった音。自分の頭には、槍は当たってはいない。 「・・・・?」 ゆっくりと目を開くと、誰かが左手でその槍を受け止めているらしかった。目が開ききったとき、その目に飛び込んできたのは、 「どうして、お前が・・・」 朝倉涼子だった。 「どうして邪魔するんです?あなたはてっきり元の世界で待ち伏せをしているものと」 槍を受け止められた古泉は、顔こそイヤミな微笑を崩さずにいいたが、明らかに動揺していた。 朝倉は素早く右手を光の刃に変化させると、宇宙人古泉の腹に風穴を開けた。 「この代償は・・高くつきますy」 哀れ古泉は光の粒子のように霧散してしまった。 「危ない!朝倉!」 ニセ鶴屋さんが、朝倉の後頭部目掛けて槍を振り下ろ・・・・・しかし、これも横から飛んできた光の槍によって宇宙人鶴屋さんは 消滅してしまった。その光の槍を投げたのは・・・・・・一人しかいないな。無口な宇宙人端末、お前を見るとホッとするよ・・・ 長門有希がそこにはいた。 「朝倉涼子と、古泉一樹と、朝比奈みくるのお陰。私は何もしていない」 分かってる。そんなこと言うな。お前がどんだけ頑張ったかなんて容易に想像が付くさ。 宇宙人版朝比奈さんも、長門と朝倉さんによって破壊された。 「朝倉、どうして今回は俺を助けたんだ?」 「え!?朝倉さんの敵じゃあ無かったんですかぁ?」 朝比奈さん・・・・ちゃんと☆形のほくろがあるだけで、こんなにも心が安らぐのは何故だろう。 「キョンくん・・・今回は役に立てた、かな?・・・・」 心の癒し以外にも、あなたはSOS団にとってなくてはならない存在です。 そういえば、朝倉はどうして俺を助けに来たんだ? 「もしかして、お前は操り主に逆らったのか?」 「・・・・・私は、人間になりたかったの。好きなときに好きなことが出来て、たっくさん楽しいことも出来て、 自分の思ったことが言える。そんな人間になりたいって。あなた達との生活を通して、考えていたわ。」 「でも、な・・・」 「分かってる。そんな望みが叶うはずがないってことくらい。でもね、逆らってみたかったの。今までは親の言いなり。だから、 自分が正しいと思った事をやりたかったの。長門さんにあんな顔をさせた私の操り主が許せなかったの。」 「・・・・・・」 じっと朝倉の顔を見つめる長門。この二人は、感情を持っている。先程俺を殺そうとしたインターフェースとは違い、 確かな感情を持っている。 「そろそろ時間切れのようね。これからも、長門さんと仲良くして、ね。」 ああ、分かってる。お前が人間になりたい、か・・・まぁ試してみる価値はあるな。 「皆さん、は、早くしないとこの船が沈没してしまいますぅ。」 そして、俺は元の世界へと戻ってこれた。本当に、長い、長い一日だった。 俺が目を覚ました時のハルヒの顔ったらないね。1000000Wの笑顔で俺を迎えてくれた。 「まぁ、あんたが死ぬなんてこれっぽちも思ってなかったけど!」 「そうかい。まぁ、あまり覚えてないんだがな。」 ハルヒは安心したのか、二言、三言会話をすると、俺の横で寝息を立て始めた。こいつは、相当心配していたに違いない。 そして病室のドアを開け、超能力者、宇宙人、未来人の三人が入ってきた。 「気分はどうです?」 「・・・・・・・・」 「キョンくん・・・ほ、本当無事で、良かったですようぅ」 今更誰が何を言ったかなんて分かるよな。本当、戻ってきたんだな。古泉、お前とはまだ話をしてなかったな。閉鎖空間、出たんだろ? 「ええ、今回は少しばかり骨が折れましたがね。このとおり、元気ですよ。」 お前が元気だとか言うと、少し寒気を感じるのはなぜだろうか。 まぁいいか、またハルヒやSOS団との生活が始まるんだからな。 俺は二日ほど入院し、学校へ行くことになった。いつにもなくこの坂道は俺にはきつかったが、なんとかHRが間に合う時間に 着くと、ハルヒの前の椅子に腰掛けた。 「キョン!、朝倉ってどうしたのかしら?また戻ってきちゃいました、なんて言いながら帰ってこないかしらね!」 「そうだな・・・でも、あいつは普通の人間だからな。滅多なことがない限り戻ってこないんじゃないか?」 「確かに、朝倉は宇宙人でも、未来人でも、超能力者でも、異世界人でもない普通の人間よ!でも、そろそろまた 同じ高校に戻ってきたらそれはそれで謎よ!」 そんなこんなで新しい担任が教室に入ってきた。名前は・・・・なんだっけ?まぁいいか。 「えー今日は転入生がいる。去年まで一緒だった奴もこのクラスにいると思うがな。では、知らない奴のために、 自己紹介を頼むぞ。」 俺の高校生活はさらに楽しくなっていきそうな予感がするのだから・・・な fin

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