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「涼宮ハルヒのロックバンド 中編」(2007/01/16 (火) 02:38:36) の最新版変更点
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中庭が見えてくる。おお、居た居た。相変わらずのムカツク程の爽やかな笑みで古泉は俺を待っている。<br>
ただいつもと違うことがあった。<br>
古泉と一緒に、なぜか我が愛しのエンジェル朝比奈さんもセットでついてきている。<br>
昨日俺は朝比奈さんにも涙ながらのご叱責を受けている。しかも平手打ちのオマケつきだ。<br>
正直いってかなり気まずいな・・・更に歩を進めながらそう考えていると<br>
「お待ちしていましたよ。わざわざご足労頂きまして恐縮の極みです」<br>
お前の社交辞令じみた挨拶などどうでもいい。それよりなぜ朝比奈さんもいるんだ?<br>
「それは、私が無理行って古泉くんについてきたからです。<br>
昨日はキョンくんの気持ちも知らずひどいこと言って・・・しかも叩いたりまでして・・・ごめんなさい」<br>
朝比奈さんは申し訳なさそうに小さな身体を折り曲げる。<br>
「いえ、俺の方こそ申し訳ありません」<br>
俺も素直に謝罪の意を示す。<br>
「あと今日こういう場を設けたのは謝るためだけじゃないんです・・・」<br>
朝比奈さんは言葉を続けようとするが・・・。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">「実はですね――」<br>
急に話に割り込んできた古泉がその笑みを途端真剣な表情に変え、語り出す。<br>
「昨夜、閉鎖空間の発生が確認されなかったのです」<br>
そうだった・・・アレだけハルヒを怒らせたんだ。灰色空間の1つや2つ発生してもおかしくない状況だったろう。<br>
そんなことまで失念していたなんて本気で昨日の俺はどうかしてたらしい。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
「まあ、そのこと自体は我々機関にとっては喜ぶべき事実です。<br>
しかし、この事実は違う意味を持ってもいるのですよ」<br>
何だって言うんだ。もったいぶらずさっさと言え。<br>
「涼宮さんはあなたを信頼していた、そしてあなただけは何があってもついてきてくれていると信じていた。<br>
しかし、昨日のあなたはその期待を裏切ってしまった。その時の涼宮さんの怒り、悲しみ、絶望は<br>
いかほどのものだったでしょう?想像も及びません」<br>
俺だって少しは反省している。説教なら聞き飽きたんだがな。<br>
「まあ、聞いてください。<br>
とにかく涼宮さんのあの時の感情の起伏は凄まじいものでした。<br>
正直あの後、僕はすぐにアルバイトに駆けつけなくてはいけないことも覚悟しました。<br>
しかし、閉鎖空間は発生しなかった。このことが何を意味するかお分かりですか?」<br>
全くわからん。<br>
「つまり、涼宮さんは『力』を失ってしまったのかもしれないということです。<br>
普通、あれだけの感情の起伏や不満が観測されれば閉鎖空間どころか世界の崩壊だって<br>
ありえますからね。しかしそのような自体にはならなかった。涼宮さんの『力』が消失したためだ、<br>
と考えるのは当然の帰結というものです。僕にも俄かに信じられませんでしたが・・・。<br>
機関の上層部はこの『何も起こらない』という不気味さに戦々恐々としていますよ」<br>
俺は呆然としていた。ハルヒが『力』を失っただと?<br>
今まで俺達、いや特に俺をアレだけ何度となく騒動に巻き込んでくれたあの『力』を?<br>
そんな話、信じろと言われて「はいそうですか」と信じられるもんか。<br>
しかしあの灰色空間が発生しなかったのは何よりの証明のなんじゃないのか・・・?<br>
いや・・・しかし・・・そんなまさか・・・。<br></div>
<div class="main"><br>
<br></div>
<div class="main">
「と、まあそんな話は嘘なんですけれどもね」<br>
おい、古泉一発殴らせろ。というか黙って殴られろ。直立不動で歯を食いしばれっ!<br>
「ここから先は朝比奈さんに説明していただきましょう」<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
今にも古泉に殴りかからんか、という俺を尻目に朝比奈さんはおずおずと前に出てきて<br>
戸惑った表情を見せつつも、ポツポツと静かに語りだした。<br>
「キョンくんに涼宮さんの本当の気持ちを知ってもらおうと思ったんです・・・。<br>
昨日は私もどうかしちゃってて・・・落ち着いて話せなかったから・・・」<br>
ハルヒの本心ですか・・・。俺も考えてはみたんですがね・・・。<br>
「涼宮さんがまだバンド結成すると言い出す少し前、部室で偶然2人きりだった時、私に話してくれたんです・・・」<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
『涼宮さ~ん・・・今度の撮影でもまたあの衣装を着て外に出なくちゃいけないんですか~?』<br>
『当たり前じゃないのよ、みくるちゃんは2作連続での主演女優よ?光栄に思いなさい!』<br>
『ふえ~ん、恥ずかしいですよ~』<br>
『泣き言言わないの。それに今回の文化祭は映画だけじゃない、取って置きのサプライズプランを考えてあるんだから!』<br>
『・・・さぷらいずぷらん、ですか?』<br>
『今はまだ言えないけど、きっと成功すればあたし達SOS団が文化祭での主役になること間違いなしよ!<br>
皆の驚く顔が目に浮かぶわ、特にバカキョンなんて余りの驚きにアゴが外れるんじゃないかしら?』<br>
『それは、私もやらなきゃいけないことなんですか・・・?』<br>
『勿論よ!今回のプランはあくまでもSOS団団員全員が揃って初めて意味があるんだから!』<br>
『映画の撮影は・・・』<br>
『勿論、同時進行よ。まあちょっと時間的にきついかも知れないけど高校生活のたった3年間、2度と訪れない青春の<br>
1ページなんだからそれくらいの無茶はなんてことないわ!』<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
朝比奈さんの回想をまとめると、大体こんな感じの会話が交わされたそうだ。<br>
「きっとそのサプライズプランがこのバンドのことだったと思うんです。<br>
あの時の涼宮さんは、本当に楽しそうな笑顔でした。この1年半、涼宮さんの色んな表情を見てきましたけど<br>
その中でも1番って言えるくらいでした」<br>
俺は朝比奈さんの話に黙って耳を傾けていた。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">朝比奈さんは更に続ける。<br>
「それに涼宮さんは『SOS団の団員全員でやらないと意味がない』って言っていました。<br>
私達皆でやらないと意味がないって・・・。<br>
私、それでわかりました。涼宮さんはどうしてもSOS団の全員で文化祭のステージに立ちたいんだなって。<br>
そしてそれが実現することを何よりも楽しみにしているんだなって」<br>
朝比奈さんは語りは止まらない。<br>
「確かに昨日の涼宮さんは凄い怒っていたかもしれません。古泉くんの言うように世界が崩壊してしまっても<br>
おかしくないくらいだったかも知れません。それでもそうしなかったのは涼宮さん自身のどんな大きな不満や<br>
怒りなんかよりも全員でステージに立ちたいっていう気持ちの方がずっと強かったからなんじゃないかって思うんです・・・」<br>
朝比奈さんはそこまで語り終えると小さく息をつき、真剣な眼差しで俺を見つめた。<br>
「つまり今の話を要約しますとですね、涼宮さんは閉鎖空間を発生・拡大させ、この世界を崩壊させてしまうことより<br>
SOSバンドとして文化祭に出場するためにこの世界を守ることを選んだ、という訳ですね。<br>
まあ、僕も朝比奈さんからこの話を聞くまでは、正直本気で『力』の消失を疑っていたのですが。<br>
そういう訳ならば僕も納得がいきます。実際その『力』のせいで僕のベースの腕前は未だプロ級を保ったままですしね」<br>
古泉がすかさず解説を入れる。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
朝比奈さんの熱弁を受け、俺はなんとも複雑な気持ちだった。<br>
「俺はどうすればいいんでしょうかね・・・」<br>
「涼宮さんに謝ってあげてください。きっと涼宮さんもキョンくんには悪いと思っているはずで・・・<br>
素直になれないだけなんだと思います。それで『また一緒に練習頑張ろう』って。<br>
そう言ってあげてください」<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
俺は、ハルヒがなぜアレだけバンドにこだわったのか、どうしてあんな短期間の内に3曲も書くほどの熱意を見せたのか、<br>
その理由がわかった気がした。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
「わかりました、俺、ハルヒと話をしてみます」<br>
俺がそう答えると、朝比奈さんの真剣だった表情が天使かと見紛う程の嬉しそうな顔になった。<br>
「本当ですか?」<br>
「ええ、昨日は俺もどうかしてました、何とかハルヒと話をして、謝ってみます」<br>
「よかった~。キョンくんならきっとわかってもらえると思いました」<br>
朝比奈さんは本当に嬉しそうだ。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
そして古泉はやれやれといった表情を浮かべ、<br>
「話もまとまったようですね。いやはや良かったです。<br>
実は僕もですね、演奏しているのが何だか楽しくなってきてしまってですね、<br>
こんなことでバンドが解散、なんてことになるのはいささか悲しかったんですよ」<br>
よく言うぜ、お前はハルヒのご機嫌取りが最優先だろうに。<br>
「そんなことはありません。機関の思惑やその一員としての使命感を抜きにして・・・<br>
いちSOS団の団員として、僕は文化祭でのバンド演奏を成功させたいと思っていますよ<br>
それにベースを弾くのも楽しくなってきましたしね。何と言っても重低音がいいですね。<br>
下半身にこう、グッと響きます。なんとも気持ちのいいものですよ」<br>
古泉のその台詞が何とも変態的に聞こえたのは気のせいだろう。<br>
「私もです。最初はキーボードなんか弾けないって思ったけど、<br>
皆で演奏してたら、何だか楽しくなってきちゃいました。<br>
本番のために、鍵盤に突き刺す用のナイフも買ったんですよ?」<br>
本気にしてたんですか・・・朝比奈さん・・・。<br>
「冗談です♪」<br>
「僕も涼宮さんの言うとおりにステージ用の靴下を新調しましたよ。<br>
ただ困ったのが、なかなかサイズに見合うものがなかったことですね。<br>
こうなったら着けないで出演しようかと考えたくらいですよ」<br>
五月蝿い古泉。お前は黙っていろ。大体何だサイズって。そんなにデカイのかよ。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
とにもかくにも、俺がハルヒに謝るということで話は何とかまとまった。<br>
「そういえば――」<br>
俺には1つ疑問に思っていることがあった。<br>
「長門がこの場に来ていないのはなぜだ?」<br>
そうである。今後の世界の行く末にも関るかも知れないという非常に重要なこの昼休み会合だったはずだが、<br>
なぜかそういった事情に一番精通しているはずの長門の姿が見えない。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
「長門さんは一応お誘いはしたんですがね・・・」<br>
古泉は溜息をつき、答える。<br>
「行く必要はない、と断られてしまいましたよ。理由を聞いたんですがね、<br>
『彼を信じている』と、ただ一言。それだけですよ。<br>
あなたを信頼しているのは涼宮さんだけじゃない、ってことです」<br>
昨日、教室で呆然としている俺に同じ台詞を言った長門の姿が思い出される。<br>
そうか、ありがとな長門よ。お前の信頼にも応えてやらなきゃな。<br>
</div>
<div class="main"><br>
<br></div>
<div class="main">(おまけ 古泉視点です)<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
その後、教室へ戻る道すがら、僕は彼に語りかけました。<br>
「知っていますか?<br>
バンドというと一見花形はボーカルやギターのように思われがちですが、<br>
実はそれ以上にベースやドラムの役割が重要なんですよ」<br>
「それは初耳だな」<br>
「この2つのパートはリズム隊と言ってですね、<br>
バンド全体の演奏のテンポやリズムを司る役割として、非常に重要なんです」<br>
「なるほどな」<br>
「だからですね、ベースとドラムの演奏があっていないと、どんなにボーカリストが上手かろうが<br>
ギタリストの技量が高かろうが、キーボードが火を噴くような壮絶な演奏をしようが、<br>
バンド全体としての音は締りの悪いものになってしまうんですよ」<br>
「それはそれは、責任重大だな」<br>
「つまりですね、バンドにおいてはベーシストとドラマーのコンビネーションが何よりも肝心ということです。<br>
結論として、あなたと僕は一心同体も同然!ということです。<br>
早速今夜から2人きりでの夜の個人練習に励みましょ・・・」<br>
「黙れ、変態が」<br>
彼はそう言うと歩を速め、スタスタと自分のクラスの教室に向け、歩いて行ってしまいました・・・。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">「・・・マッガーレ・・・」<br>
(キョンたんは相変わらずツンデレですね。まあ、そういうところも愛しいんですけどねwww)<br>
</div>
<div class="main"><br>
<br>
<br></div>
<div class="main">教室戻った俺はハルヒを探した。<br>
しかしその姿を見つけることは出来ない。<br>
結局、その日は放課後までハルヒは教室には戻ってこなかった。<br>
もしかして帰ってしまったのか?<br>
タイミングを逃したのかもしれない・・・。<br>
そう考えながら、廊下を歩いていた俺の視界に見覚えのある人影がうつった。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">「長門・・・」<br>
その人影とは誰あろう長門であった。<br>
長門はいつもの液体ヘリウムのような目で俺をみつめ、静かに言葉を吐き出した。<br>
「涼宮ハルヒは軽音楽部の部室にいる」<br>
「ほんとか!?」<br>
どうやら帰ったって訳じゃなかったみたいだ。<br>
「涼宮ハルヒはあなたを必要としている。行ってあげて」<br>
俺はその一言で完全に決心がついた。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">「重ね重ね済まないな。長門よ」<br>
「いい」<br>
ふと気付くと長門は手に筒状の何かを持っている。<br>
「ところでそれは何だ?」<br>
長門は表情1つ変えず答える。<br>
「ダイナマイト。ステージでアンプを爆破するために調達した」<br>
オイオイ・・・。長門もハルヒに言われたことを本気にしていたのか・・・。<br>
それにしても・・・。<br>
「お前も文化祭の本番を楽しみにしているのか?」<br>
俺は何気なくそんなことを聞いてみたい気分になった。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">「それなりに」<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
俺はそんな言葉を呟いた長門の表情の中に少しの期待を見出すことが出来た。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
そして俺は今、軽音楽部の部室兼SOSバンドの練習室の前に立っている。<br>
長門の言うことが正しければ、ハルヒはこの中にいるはずだ。<br>
ふと気付くと、教室の中から何かが聞こえてくる。<br>
それは聞き覚えのあるメロディー、昨日俺が聴いたハルヒのオリジナル曲に相違なかった。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">意を決して中に入る。<br>
するといた。ハルヒである。<br>
ハルヒは背を向け、アンプに腰掛けてギターをつま弾いている。<br>
そのメロディーは、昨夜俺が聴いた3曲の中の1曲、<br>
確か『ハレ晴レユカイ』とかいうタイトルの曲だ。<br>
俺はしばらくハルヒの弾くギターの音色に聴き惚れてその場に立ち竦んでいた。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
しばらくして、演奏がピタッと止んだ。どうやら俺が入ってきたのに気付いたらしい。<br>
ハルヒは首だけ振り返り、俺の姿を認めるとすぐにまた背を向けてしまった。<br>
気まずい沈黙が流れる。俺は再度意を決して言葉を発する。<br>
「今の良かったぞ。何て曲だ?」<br>
知ってるくせにな。我ながら白々しい。<br>
ハルヒは背を向けたままだ。無視されているのかと思いきや、静かに口を開いた。<br>
「何よ、あんた脱退したんじゃなかったっけ?」<br>
何とも厳しいお言葉だ。しかし俺はめげない。<br>
「その筈だったんだがな。どうもこのままだと寝覚めが悪い――」<br>
ハルヒは黙って俺の言葉を聞いている。<br>
「そりゃあ俺は音楽的な才能もないし、いつまで経ってもまともに演奏できてない。<br>
だから、お前の要求はいくらなんでも無理だろうって思う時もある。<br>
でも・・・それでも俺はこのSOSバンドでの文化祭を成功させたいと思ってる。<br>
朝比奈さんや長門や古泉と一緒に・・・、<br>
そしてハルヒ、お前と一緒に・・・文化祭のステージに立ちたいと思ってる。<br>
だから・・・昨日は済まなかった。俺にもう一度ドラムを叩かせてくれ」<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
俺がそこまで言い終えると、相変わらず背を向けたままのハルヒが口を開く。<br>
「何よ、そんなこと言って、あんだけ取り乱したあたしが何だかバカみたいじゃない・・・」<br>
抱えていたギターをアンプに立てかけ、ハルヒはこちらを向く。<br>
「でもまあ、あんたがどうししてもって言うなら・・・許してあげないこともないわ!」<br>
「ほんとか?」<br>
「た・だ・し!団長に逆らった罪は重いわよ!<br>
これからあんたには罰として寝る暇も惜しんでドラムの練習に励んでもらうわ!<br>
勿論映画の撮影に力を抜くことも絶対許さないだからね!」<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
かなり重い罰を課されてしまったようだがそれでも俺は心底安心していた・・・。<br>
その安心感が俺に不用意で思い出すだけでも恥ずかしい一言を言わせてしまった。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
「よかった。これでまたお前の歌が聴けるんだな・・・」<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
言った瞬間顔から火が出そうな恥ずかしさに襲われた。<br>
手元にショットガンがあったなら、すぐにそれを口にくわえて引金を引きたいぐらいだね。<br>
そうして涅槃の境地に到りたいくらいさ。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
「ふ、ふんっ!SOS団団長の神聖なる歌声をタダで聴けるのよ!<br>
少しはありがたく思いなさいよねっ!」<br>
ハルヒも心なしか顔を赤らめているように見えるし・・・。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">俺は気を取り直し、ハルヒに話しかける。<br>
「実はな、さっきお前が弾いてた曲は既に知っていたんだ。<br>
昨日お前が落としてったMDでな」<br>
ハルヒは特に驚いたこともなく答える。<br>
「何よ、無い無いと思ってたらあんたが持ってたってわけ?」<br>
「別に悪気があったわけじゃないんだがな。まあとにかく曲聴いたぞ」<br>
「ふん、せいぜい私の作った曲のクオリティの高さに驚いたでしょうね」<br>
ハルヒは吐き捨てるように言う。<br>
「ああ、凄かったよ。アレならオリコン10位以内だって狙える」<br>
これは俺の本音だ。<br>
しかし、ハルヒは一層顔を赤らめる。茹で上がったエビみたいだ。<br>
「あ、当たり前じゃないっ!今の日本の音楽業界は腐ってるわ!<br>
あんな有象無象のクオリティの低い曲が売れるぐらいならそれくらい当然よ!<br>
むしろ1位を取って然るべきね!」<br>
それは流石に無理だろうが、ハルヒの機嫌も何とか少しは上向きになってくれたようだ。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
「とにかく! あたし達SOSバンドが文化祭のステージをジャックするにはまだまだ練習が足りないわ!<br>
今からすぐに練習よ!キョン!そうとなったら今すぐに他の団員達を招集しなさい!」<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
こうしてSOSバンドの活動再開が高らかに宣言されたというわけだ。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
そこからの数日はこれまで以上の多忙を極めた。<br>
まずは映画の撮影。文化祭本番3日前に何とかクランクアップしたものの、<br>
超監督の理解不能な撮影方針によって取り溜められた映像の殆どが訳のわからないものであり、<br>
ギリギリのウェイトレス衣装で未来人的なナゾのビームを目から発射させられている朝比奈さんや<br>
スターリングインフェルノとかいうショボイ棒切れをくるくる振っている黒ずくめの悪い宇宙人長門、<br>
やっとのことで自分の持つ超能力を自覚したはいいものの、ニヤニヤ笑ってるだけで存在感のない古泉、<br>
その他、再度脇役で登場した鶴屋さんのぶっ飛んだアドリブ、国木田や谷口のビミョーな演技、<br>
今回は人語を話すという暴挙は犯さなかったものの、<br>
それではタダの猫であり劇中に登場する意図が全くわからないシャミセンのあくび、<br>
訳もわからずはしゃぎまわるだけの俺の妹、といったようなものであった。<br>
こんなものを編集させられる俺は一体どうすりゃいいんだ?<br>
本当にこれなら朝比奈さんのプロモーションビデオを作った方がマシってもんだ。<br>
まあ、そのくらいにヒドイ出来だったわけである。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
そんな状況に頭を抱えていた俺ではあったが、ハルヒも何だかんだいっては手伝ってくれた。<br>
しかしそれでも映画としての体裁を整えるにはほど遠い。<br>
これはもう本気で今年こそ朝比奈プロモーションクリップにするしかないと思っていた俺に救いの手が差し伸べられた。<br>
それは誰あろう長門である。何か長門に頼ってばかりだよな・・・俺。<br>
長門は大量のビデオテープを目の前にし、ウンウン唸っている俺を見かねたのか<br>
「貸して」<br>
と言うと全てのテープを家に持って帰ってしまった。<br>
するとびっくり、次の日には長門は全ての映像編集を完成させてしまっていた。<br>
朝比奈さんの目から出るビームのCGや効果音、BGMまでばっちりだ。<br>
「完成した」<br>
そう言ってマスターテープを俺に手渡す長門、これまた去年も同じようなことがあった気がするな・・・。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">そして問題のバンドである。<br>
ハルヒの作ったオリジナルの3曲が既存の2曲と共にセットリストに加わり、<br>
SOSバンドは殆どのメンバーが初心者にも関らず、5曲も演奏しなければならないという重荷を課せられた。<br>
いや、初心者といってもハルヒのトンデモパワーでプロ並みの腕前になってしまった古泉と朝比奈さんはまだいい。<br>
結局初心者のままの俺は、毎日ヘトヘトになるまでドラムを叩き続けていた。<br>
God Knows...とLost My
Musicの2曲に関しては何とか形になってきたものの、更に3曲を覚えるのは相当にキツイ。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
しかしハルヒにアレだけの見得を切ってしまった以上、俺も諦めるわけにはいかない。<br>
とにかく毎日、暇を見つけては軽音部の部室に出向き、寝食を忘れてといっていいほど練習を繰り返した。<br>
そのおかげかこれまでペンダコすら出来たことのない俺の指には立派なマメが出来てしまったりもした。<br>
更に、ドラムのことは同じドラマーに聞けばよいと考えた俺は週末、映画の撮影の後、独りで駅前のライブハウスに足を運んだ。<br>
そう、あのENOZのライブを見に行ったのである。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
率直に言って彼女達の演奏は相変わらず素晴らしかった。<br>
狭いライブハウスではあったがその分観客の熱気も凄まじく、演奏中はあちらこちらでモッシュ&ダイブまで起こっていた。<br>
そしてGod Knows...とLost My
Musicに関しては彼女らが本家であり、岡島さんのドラム演奏は非常に参考になった。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
俺はライブ終了後、挨拶も兼ねて彼女達の楽屋を訪ねた。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
ENOZの面々は初め俺を見たときは誰だかわからなかったようだったが、ハルヒの名前を出すや否や、合点がいったらしい。<br>
俺はSOS団がバンドとして文化祭に出演すること、彼女達が本家である2曲をカバーさせてもらうこと、<br>
ハルヒが作ったオリジナル曲のこと(勿論デモテープも聴いてもらった。すこぶる好評だった)等をつらつらと話した。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">「そうかー、あの涼宮さんがねー」<br>
ドラムの岡島さんが感慨深げに呟く。<br>
「涼宮さんならきっとまたスゴイ演奏をしてくれると思うよ」<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
「私達、ほんと涼宮さんには感謝してるんだ。<br>
あのステージが無かったら私達の曲を皆に知ってもらうこともなかった思うし・・・。<br>
きっと卒業してメンバーも皆バラバラになって、バンドも自然消滅してたかも知れない・・・」<br>
ベースの財前さんは遠い目をして語る。<br>
「今私達が4人で活動を続けられるのもあのステージがあったからだと思う。<br>
本当、涼宮さんには足を向けて寝れないわ。勿論ギターを弾いてくれた長門さんもね」<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
ひとしきりの会話を終え、俺は本題でもあるドラム演奏についてのアドバイスを求めてみた。<br>
するとドラムの岡島さんはひとしきり考えた後・・・<br>
「口で言ってもわからないところがあるし・・・。そうだ!<br>
実際に叩いてみるのが手っ取り早いと思うよ?」<br>
と言うと、客のいなくなったステージに俺を上げてくれ、実演を交えた指導を行ってくれた。<br>
時々、「ここの叩き方はこう!」とか言ってスティックを持つ俺の手を握られたりしてしまうなど、<br>
何とも気恥ずかしいば場面もあったりもしたが、岡島さんは流石本家だけあり、非常に的を得た指導だった。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">「本当にありがとうございました」<br>
俺は懇切丁寧なアドバイスをくれた岡島さんはじめとするENOZの面々に頭を下げた。<br>
「いいのよ、このくらい。私達が涼宮さんに受けた恩に比べればなんてことないわ」<br>
岡島さんが恐縮する。なんて腰の低い良い人達なんだろう。少しはハルヒに見習わせたいね。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
「最後に1つだけアドバイスさせてほしいんだけど・・・」<br>
「何でしょう?」<br>
「バンドっていうのは、メンバーが誰ひとり欠けても成り立たないものだと思うの。<br>
私達も今でもこの4人でやれてることに凄い喜びを感じてるしね。<br>
だから君もバンドのメンバーを・・・SOS団のメンバーを大切にしてあげてね。<br>
そうすれば技術とか関係なく、きっといい演奏が出来ると思うよ」<br>
朝比奈さんや古泉が同じようなことを言っていたのが思い出される。<br>
SOS団のメンバー全員で・・・か。俺にもやっとハルヒの気持ちがわかってきたのかもしれない。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
俺はもう1度彼女達に謝辞を述べ、帰途につこうとした。<br>
すると財前さんがニヤニヤとした表情で近寄ってきて、俺に耳打ちをしてきた。<br>
これまたちょっと恥ずかしいな・・・。<br>
「そういえば・・・その後涼宮さんとはどうなのかな?『オトモダチ』の関係から進展した?」<br>
「はぁ?」<br>
俺は何とも間の抜けた声をあげてしまった。正直彼女の質問の意図するところが掴めない。<br>
そんな俺の間抜けな表情を見て、彼女達は意外そうな表情を浮かべたかと思うと、<br>
一様にやれやれと両手を挙げ首を振るジェスチャーをしている。「だめだこりゃ・・・」なんて言葉も聞こえたりする。<br>
まだ状況を良く掴めないまま呆けてる俺に財前さんは更に言葉を続ける。<br>
「まあ、君のペースでやればいいんじゃないかな?<br>
そんな所も君の味だと思うし・・・。<br>
でも女の子を余り長く待たせるのは感心しないよ~?」<br>
「はあ・・・??」<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
最後まで彼女達の言わんとするところはわからぬまま、その日は終わった。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
そしてとうとう文化祭の当日になるわけだが、実はこの前日ちょっとした問題が発生していた。<br>
というのも文化祭のステージにおいて何らかの出し物をする際は文化祭の実行委員と生徒会の許可を取らなくてはならないのだ。<br>
俺達はバンド練習と映画撮影に夢中でそんな当たり前のことも忘れていた・・・。<br>
出し物の申請期限はどうやら一昨日だったらしい・・・。あの時は映画の編集で忙殺されていたからな・・・。<br>
さて、この事実をハルヒが知ったらそれこそ世界崩壊一直線だ・・・。<br>
しかし、この件に関しては生徒会長と「太いパイプ」とやらを持つ古泉の口利きによって何とかなり、<br>
特別に申請抜きでも文化祭のステージに出演できる運びとなった。<br>
古泉には感謝したいところだが、そもそもそんな基本的なミスをお前が犯すとはな・・・。<br>
俺達がどれだけバンドと映画だけに集中していたかが伺えるというものだ。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">ちなみにあの毒舌生徒会長は、<br>
「フン、またあのおめでたい女のご機嫌取りの為に使われるのはいい気はしないが、<br>
今度はバンドだろ?せいぜいマトモな演奏になるように願うぜ。<br>
まあ、あの女にはマジで音楽の才能はあるみたいだしな――」<br>
と、相変わらずハルヒのご機嫌取りに利用されるのに不満げながらも<br>
「そうそう、古泉。お前ステージで全裸になるんだって?<br>
あの女の歌を聴いているのも癪だし、お前がぶら下げている方の『ベース』でも見に行ってやるよ」<br>
と、煙草をくゆらせながらのたまってくれた。<br>
というか生徒会としては文化祭のステージでストリーキング行為を行うことにはお咎め無しなのか?<br>
古泉も古泉だ。「是非楽しみにしていてください」なんて言ってんじゃねえ。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">さて、本当の問題はこのことではない。<br>
実は、俺の腕が限界に来ているということだ。<br>
端的に言うと、凄く痛い。<br>
この1ヶ月、慣れないドラムという楽器を叩きに叩きまくり、<br>
特にこの数日間は寝食も忘れて練習に没頭していたこともあり、とうとう腕が悲鳴をあげたというわけだ。<br>
「何も前日にこんなことになる必要はないじゃないか・・・」<br>
風呂の中で腕をマッサージしながらひとりごちた。<br>
果たして、明日のステージを無事こなせるだろうか・・・。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
文化祭当日である。結局腕の痛みは取れないままだ。<br>
勿論、このことはハルヒはじめ他の団員には話していない。<br>
後で考えれば、長門あたりに頼めば一瞬で治療してくれたりしたのではないかとも思うが、<br>
残念なことにその日の俺はそこまで頭が回らなかった。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
ステージでの出し物が行われるのは午後からである。<br>
それまで俺は去年と同じように谷口と国木田と共に校内をグルグル回っていた。<br>
視聴覚室では俺達が制作した映画が上映されているはずだが、<br>
あんなわけのわからない映画を、しかも編集段階でイヤというほど見たものを、<br>
改めて見に行くほど俺はヒマではない。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
「まあとりあえずはナンパだろ。今年は結構他校からも女の子が来てるからな」<br>
相変わらず谷口はナンパにしか興味がないらしい。成功率ゼロのくせによく懲りないもんだ。<br>
「それより僕はお腹が空いたな。なんか食べに行こうよ」<br>
とは国木田の弁である。<br>
「そういえばキョン、今年は朝比奈さんのクラスの出し物の割引券とか貰ってないの?」<br>
そうだった。去年と同様、朝比奈さんのクラスは焼きそば喫茶をやるらしく、その割引券をしっかり今年も貰っていたのだ。<br>
ついこの間朝比奈さんが鶴屋さんと共に俺のクラスまでわざわざ足を運んでまでくれたのに失念していた。<br>
「おお!マジか!今年も朝比奈さんのあの衣装が見れるっていうならこりゃナンパどころじゃないな!」<br>
谷口も飢えた魚のような食いつきを見せる。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
うむ。確かに朝比奈さんと鶴屋さんのあの麗しいウェイトレス姿を見れるというのならば行って損はない。<br>
もしかしたら余りの麗しさに俺の腕も癒されたりしてな。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
結論から言うと、今年も朝比奈さんのクラスの焼きそば喫茶は素晴らしかった。<br>
何が素晴らしいって、ウェイトレス姿の朝比奈さんと鶴屋さん以外にない。<br>
基本的に去年の衣装と似たものだったが、それをベースに更なるバージョンアップを施したものらしい。<br>
しかし、本当に朝比奈さんのクラスにはプロ並みのデザイナーか何かがいるに違いない。<br>
これがSSなのが残念だね。是非皆にお見せしたいくらいさ。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
ちなみに、食券のもぎり役である朝比奈さんは少し恥ずかしそうな面持ちであったが、<br>
それとは対照的に今年も廊下にまで出て客引きをしていた鶴屋さんは何とも元気であった。<br>
「お、キョンくんとそのオトモダチ!いらっしゃいっ!」<br>
「今年も盛況ですね」<br>
「去年があんだけ大繁盛だったからねっ!味を占めて今年もまったく同じ出し物にしたのさっ!<br>
いやぁほんとにボロ儲けだよっ!笑いが止まらないねっ!」<br>
「鶴屋さんや朝比奈さんがいますからね」<br>
「ありゃー、キョンくんも上手いこというねっ!おねえさん感激にょろよっ!」<br>
いやいや、本心ですよ。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
「そういえばキョンくん、今年はバンドやるんだってねっ!みくるから聞いたよっ!<br>
めがっさ頑張るにょろよっ!あたしも見に行くよっ!」<br>
「ありがとうございます」<br>
鶴屋さんは台風が過ぎた後の晴れ渡った青空のような笑みでそう言うと、俺の腕をバンバンと叩いた。<br>
正直、痛めていた腕にはかなりの衝撃だったが俺は何とか表情を崩さずにいた。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
その後、ナンパをしに行ってしまった谷口と他のクラスの出し物を見に行ってしまった国木田と別れ、<br>
俺は独りで校内をブラブラとしていた。午後のステージまではまだ時間がある。<br>
ちなみに、朝比奈さん以外の団員達のクラスの出し物についてもここで紹介しておこう。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
長門のクラスは今年も占いの館とやらをやっている。<br>
どうやらこちらも去年好評だったのに味を占めたようだ。<br>
黒ずくめの悪い魔法使いの衣装に身を包んだ長門が相変わらず、一歩間違ったら未来予知とも言えるような<br>
具体的過ぎる占いをして、客を引かせてしまっているのではないかとの心配もしたが、<br>
チラッと覗いてみた感じ、何とかしっかりやっているようだ。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
古泉のクラスは今年は演劇ではないようだ。<br>
「映画にバンドに演劇、いくら僕でもちょっとこれは厳しいですしよかったですよ」<br>
なんて古泉は前に言っていたが、果たしてアイツのクラスでは何をやっているのかというと――<br>
何と、『執事喫茶』であった・・・。これはアレか、所謂メイド喫茶の男版みたいなもんか・・・。<br>
パリッとしたタキシードに身を包んで接客をしている古泉、ムカツクが似合っている。<br>
「お帰りなさい、お嬢様」とか白々しい台詞まで吐いてやがる。<br>
客層も女の子が殆どで、他校からきたと思しき子も見受けられる。<br>
その殆どが古泉のタキシード姿に見とれているようだ。やっぱりムカツクな。<br>
というかよく執事喫茶なんてやろうと思ったな。それだけ古泉のクラスにはイイ男が多いってことか。<br>
古泉は俺の姿を見つけるや否や気味の悪い笑みを浮かべ、こう言った。<br>
「バンドの出番までにはまだ時間がありますからね。<br>
今までそちらの活動で忙しく、クラスの出し物の準備に貢献できなかった分、<br>
こうして午前中だけでもクラスのために奉仕している、というわけです。<br>
せっかく来たんですし、お茶でも飲んでいきませんか?」<br>
断る。野郎に「お帰りなさい、ご主人様」とか言われて喜ぶような特異な性癖は持ちあわせちゃいない。<br>
「それは残念です。<br>
実のところ、今回の出し物は当初は執事喫茶ではなく『自動車修理工喫茶』に僕はしたかったんですけどね。<br>
ウェイトレスの衣装はタキシードでなく全員ツナギでね。勿論ターゲットとする客層は男性です。<br>
でもその意見はクラス会議で却下されてしまったんですよね・・・」<br>
当たり前だ、変態め。大体何だツナギって。そんなもん喫茶店じゃねえ。ハッテン場になっちまう。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
そんな変態古泉を無視し、更に俺は校内をブラブラしていた。<br>
しかし特に目につくような出し物はない。<br>
正直、それでもこうしてブラブラしていないと午後のステージのことが気にかかってしまう。<br>
そして腕の痛み。コイツはとうとう最後までどうにもならなかったみたいだ。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
そして午後、俺はステージに出演する生徒の控え室である舞台裏の楽屋に足を運んだ。<br>
そこには俺以外の面子が既に顔をそろえていた。<br>
「ちょっと遅いわよ!キョン!」<br>
そう言うハルヒは何とバニーガール姿でギターを抱えている。どうやら去年と同じ衣装でステージに上がるらしい。<br>
ちなみに長門は相変わらずあの黒ずくめの魔法使いの衣装。<br>
当初はハルヒとお揃いでバニーガール服のはずだった朝比奈さんは、映画で着ていた戦うウェイトレスの衣装である。<br>
ハルヒいわく映画の宣伝の一環らしい。<br>
そして全裸での出演を宣言していた変態古泉はなぜかさっきの執事の衣装である。<br>
「本当は全裸のはずだったんですが・・・急遽文化祭実行委員の方からクレームが入りましてね。<br>
土壇場での衣装変更ですよ。靴下を着けても駄目だそうです・・・」<br>
残念そうに語る変態。実行委員の皆さん、グッジョブです。<br>
しかし、俺だけ普通に制服か。逆に浮くんじゃないか、コレ?<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
「いよいよ本番ね!あたし達SOSバンドが文化祭を牛耳る日がとうとうやってきたのよ!<br>
みんな、気合入れていくわよ!」<br>
張り切って叫ぶハルヒ。<br>
「練習の成果を見せるときです~!」<br>
意気込む朝比奈さん。<br>
「全裸でないのは物足りないですが、やるだけのことはやりましょう」<br>
ニヒルに微笑む変態古泉。<br>
「・・・」<br>
無言ながらその瞳の奥には燃える意気込みが感じられる、ように思える長門。<br>
「みんな準備はいいわね!さあSOSバンドの華々しいデビューの瞬間よ!」<br>
最後にハルヒが俺達に再度気合を入れる。<br>
準備は整った。こうなったら俺も覚悟を決めるしかない。<br>
腕の痛みを忘れるくらい叩いて、叩いて、叩きまくってやるさ。<br>
俺達、SOS団のためにも。<br>
そして、何よりもこの日を楽しみにしていたハルヒのためにもな。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">舞台の袖、俺達は出番を待っている。<br>
さっきまで興奮気味だったハルヒも黙っているし、朝比奈さんも幾らか緊張したような面持ちだ。<br>
ニヤニヤ笑っていた古泉も真剣な表情になっている。<br>
長門は・・・相変わらずだろう。生憎、トンガリ帽子と舞台袖の暗さによって表情は伺えないが。<br>
舞台では俺達の前の出番である軽音楽部のバンドが演奏している。<br>
メンバー皆がデーモン小暮みたいなケバケバしい衣装を着込んで、グロテスクなフェイスペイントを施し、<br>
騒音とも思えるような大きな音にのせて「SATSUGAIせよ!」とか「下半身さえあればいい!」とか連呼している。<br>
オイオイ、物騒なバンドだな。というか、コイツら去年も出てなかったけ?<br>
サクラと思しき一部の男達は盛り上がっているが、正直それ以外の観客はドン引きだ。<br>
会場の空気も薄ら寒いものになっている。<br>
オイオイ・・・俺達の出番の前になんてことしてくれるんだよ・・・。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">「テンキュウ!」<br>
曲が終わり、ボーカリストが吐き捨てる。<br>
やっと終わってくれたみたいだ・・・。<br>
次が俺達SOSバンドの出番である。緊張が高まる<br>
ステージではいったん幕が閉められ、楽器やアンプ、音響のセッティングが行われているようだ。<br>
朝比奈さんも古泉も長門も誰一人言葉を発しようとしない。<br>
そんな中、ハルヒは緊張した面持ちを更にグッと引き締め、ウサミミのヘアバンドを揺らしながら<br>
じっと舞台の床に視線を向けたり、虚空を見つめたりしている。<br>
こいつがここまで緊張するのははじめて見るんじゃないか?<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">「ハルヒ、緊張しているのか?」<br>
俺は思わず聞いてしまった。ハルヒは俺の方へ振り返ると――<br>
「そんなわけないでしょ、それよりキョン!今日こそはショボイ演奏は許されないんだから、<br>
しっかり叩きなさいよねっ!」<br>
ああ、わかってるさ。その為に一度は脱退したこのバンドに戻ってきたわけだし、今日まで練習してきたんだからな。<br>
今日こそはハルヒ、お前の信頼とやらに応えてやろうじゃないか。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
「続いては、一般参加の『SOSバンド』の演奏です」<br>
放送部の女子部員によるアナウンスが流れる。いよいよ出番だ。<br>
観客は『SOSバンド』という珍妙な名に反応しているようで、少しザワザワしている。<br>
クスクスという失笑もあちらこちらから聞こえたりして・・・まあ予想はついたがな。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
そんな会場の雰囲気もどこ吹く風、ハルヒはギターを抱えて颯爽とステージへと歩いていく。<br>
それに続いて朝比奈さん、同じくギターを抱えた長門、ベースを抱えた古泉、<br>
最後に俺、がステージへと上がっていく。<br>
観客が意外に多い・・・。それにステージってこんなに高かったのか?<br>
俺は今更ながら、多くの観客の前に立ち、演奏をするという行為にどうしようもない緊張を感じていた。<br>
チクショウ、足が微妙に震えてやがる。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
ハルヒや長門、古泉といったギター組はシールドをアンプに接続し、チューニングを行っている。<br>
朝比奈さんはキーボードの前に立ち、念入りに鍵盤の感触を確かめている。<br>
俺は、ドラムセットに座ると、1つ息をつき、前を見た。<br>
観客席となっている体育館のフロアにはいつのまにか大勢の人が集まっている。<br>
この全ての人間の視線が自分に向くんだ。これで緊張しない方が嘘ってもんだぜ。<br>
そしてこの位置だと、俺の真正面にはギター&ボーカルのハルヒが立つことになる。<br>
正直言って、ハルヒはバニーガール服を着込んでいるわけであり、ここからだとお尻のラインや<br>
露出しているキレイな肩などが丸見えであり、目のやり場に困るところである・・・。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">メンバーの配置は観客から見て左から――<br>
キーボードの朝比奈さん、ギターの長門、ギター&ボーカルのハルヒ、ベースの古泉<br>
そしてハルヒの真後ろにドラムの俺、という形である。<br>
と、そんなこんなしている内にギター組のチューニングも完了したようだ。<br>
</div>
<div class="main"><br>
<br></div>
<div class="main">
相変わらず観客はざわついている。そりゃそうだろう。<br>
『SOSバンド』なんて変な名前の集団が出てきたと思ったら、<br>
見た目だけは文句のないバニーガールに妖精のように可憐なウェイトレス、<br>
置物のように静かに佇む黒い魔法使いにタキシードの変態執事がいるんだもんな。<br>
去年の文化祭でハルヒと長門のステージを目撃している人間なら少しは驚きが少ないかもしれないが・・・。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
ふと気付くと、メンバー全員が俺へ視線を向けている。<br>
朝比奈さんは女神のような微笑を浮かべ、長門は相変わらず無表情ながらも真摯な瞳で、<br>
古泉はコレまでにないくらい気持ち悪いニヤケ顔で・・・。<br>
それぞれがこのステージに立てたことに言いようのない満足感を覚えていることがそこから伺えた。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
そして、ハルヒ。客席に背を向け、俺を見つめるその顔は――<br>
おそらく一生忘れることも出来ないだろうというくらいに、優しい、優しい笑顔だった。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
ハルヒが俺に向かって頷く。ウサミミが揺れている。<br>
その仕草をみた朝比奈さん、長門、古泉は途端に真剣な表情になる。<br>
どうやら演奏開始の合図らしい。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
俺はハルヒに向かい、黙ったまま頷き返し、スティックを振り上げた。<br>
</div>
<div class="main"><br>
<br></div>
<div class="main"></div>
<div class="main">
<ul>
<li><font color="#666666">後編へ</font></li>
</ul>
</div>
<!-- ad -->
<div class="main">
中庭が見えてくる。おお、居た居た。相変わらずのムカツク程の爽やかな笑みで古泉は俺を待っている。<br>
ただいつもと違うことがあった。<br>
古泉と一緒に、なぜか我が愛しのエンジェル朝比奈さんもセットでついてきている。<br>
昨日俺は朝比奈さんにも涙ながらのご叱責を受けている。しかも平手打ちのオマケつきだ。<br>
正直いってかなり気まずいな・・・更に歩を進めながらそう考えていると<br>
「お待ちしていましたよ。わざわざご足労頂きまして恐縮の極みです」<br>
お前の社交辞令じみた挨拶などどうでもいい。それよりなぜ朝比奈さんもいるんだ?<br>
「それは、私が無理行って古泉くんについてきたからです。<br>
昨日はキョンくんの気持ちも知らずひどいこと言って・・・しかも叩いたりまでして・・・ごめんなさい」<br>
朝比奈さんは申し訳なさそうに小さな身体を折り曲げる。<br>
「いえ、俺の方こそ申し訳ありません」<br>
俺も素直に謝罪の意を示す。<br>
「あと今日こういう場を設けたのは謝るためだけじゃないんです・・・」<br>
朝比奈さんは言葉を続けようとするが・・・。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">「実はですね――」<br>
急に話に割り込んできた古泉がその笑みを途端真剣な表情に変え、語り出す。<br>
「昨夜、閉鎖空間の発生が確認されなかったのです」<br>
そうだった・・・アレだけハルヒを怒らせたんだ。灰色空間の1つや2つ発生してもおかしくない状況だったろう。<br>
そんなことまで失念していたなんて本気で昨日の俺はどうかしてたらしい。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
「まあ、そのこと自体は我々機関にとっては喜ぶべき事実です。<br>
しかし、この事実は違う意味を持ってもいるのですよ」<br>
何だって言うんだ。もったいぶらずさっさと言え。<br>
「涼宮さんはあなたを信頼していた、そしてあなただけは何があってもついてきてくれていると信じていた。<br>
しかし、昨日のあなたはその期待を裏切ってしまった。その時の涼宮さんの怒り、悲しみ、絶望は<br>
いかほどのものだったでしょう?想像も及びません」<br>
俺だって少しは反省している。説教なら聞き飽きたんだがな。<br>
「まあ、聞いてください。<br>
とにかく涼宮さんのあの時の感情の起伏は凄まじいものでした。<br>
正直あの後、僕はすぐにアルバイトに駆けつけなくてはいけないことも覚悟しました。<br>
しかし、閉鎖空間は発生しなかった。このことが何を意味するかお分かりですか?」<br>
全くわからん。<br>
「つまり、涼宮さんは『力』を失ってしまったのかもしれないということです。<br>
普通、あれだけの感情の起伏や不満が観測されれば閉鎖空間どころか世界の崩壊だって<br>
ありえますからね。しかしそのような自体にはならなかった。涼宮さんの『力』が消失したためだ、<br>
と考えるのは当然の帰結というものです。僕にも俄かに信じられませんでしたが・・・。<br>
機関の上層部はこの『何も起こらない』という不気味さに戦々恐々としていますよ」<br>
俺は呆然としていた。ハルヒが『力』を失っただと?<br>
今まで俺達、いや特に俺をアレだけ何度となく騒動に巻き込んでくれたあの『力』を?<br>
そんな話、信じろと言われて「はいそうですか」と信じられるもんか。<br>
しかしあの灰色空間が発生しなかったのは何よりの証明のなんじゃないのか・・・?<br>
いや・・・しかし・・・そんなまさか・・・。<br></div>
<div class="main"><br>
<br></div>
<div class="main">
「と、まあそんな話は嘘なんですけれどもね」<br>
おい、古泉一発殴らせろ。というか黙って殴られろ。直立不動で歯を食いしばれっ!<br>
「ここから先は朝比奈さんに説明していただきましょう」<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
今にも古泉に殴りかからんか、という俺を尻目に朝比奈さんはおずおずと前に出てきて<br>
戸惑った表情を見せつつも、ポツポツと静かに語りだした。<br>
「キョンくんに涼宮さんの本当の気持ちを知ってもらおうと思ったんです・・・。<br>
昨日は私もどうかしちゃってて・・・落ち着いて話せなかったから・・・」<br>
ハルヒの本心ですか・・・。俺も考えてはみたんですがね・・・。<br>
「涼宮さんがまだバンド結成すると言い出す少し前、部室で偶然2人きりだった時、私に話してくれたんです・・・」<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
『涼宮さ~ん・・・今度の撮影でもまたあの衣装を着て外に出なくちゃいけないんですか~?』<br>
『当たり前じゃないのよ、みくるちゃんは2作連続での主演女優よ?光栄に思いなさい!』<br>
『ふえ~ん、恥ずかしいですよ~』<br>
『泣き言言わないの。それに今回の文化祭は映画だけじゃない、取って置きのサプライズプランを考えてあるんだから!』<br>
『・・・さぷらいずぷらん、ですか?』<br>
『今はまだ言えないけど、きっと成功すればあたし達SOS団が文化祭での主役になること間違いなしよ!<br>
皆の驚く顔が目に浮かぶわ、特にバカキョンなんて余りの驚きにアゴが外れるんじゃないかしら?』<br>
『それは、私もやらなきゃいけないことなんですか・・・?』<br>
『勿論よ!今回のプランはあくまでもSOS団団員全員が揃って初めて意味があるんだから!』<br>
『映画の撮影は・・・』<br>
『勿論、同時進行よ。まあちょっと時間的にきついかも知れないけど高校生活のたった3年間、2度と訪れない青春の<br>
1ページなんだからそれくらいの無茶はなんてことないわ!』<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
朝比奈さんの回想をまとめると、大体こんな感じの会話が交わされたそうだ。<br>
「きっとそのサプライズプランがこのバンドのことだったと思うんです。<br>
あの時の涼宮さんは、本当に楽しそうな笑顔でした。この1年半、涼宮さんの色んな表情を見てきましたけど<br>
その中でも1番って言えるくらいでした」<br>
俺は朝比奈さんの話に黙って耳を傾けていた。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">朝比奈さんは更に続ける。<br>
「それに涼宮さんは『SOS団の団員全員でやらないと意味がない』って言っていました。<br>
私達皆でやらないと意味がないって・・・。<br>
私、それでわかりました。涼宮さんはどうしてもSOS団の全員で文化祭のステージに立ちたいんだなって。<br>
そしてそれが実現することを何よりも楽しみにしているんだなって」<br>
朝比奈さんは語りは止まらない。<br>
「確かに昨日の涼宮さんは凄い怒っていたかもしれません。古泉くんの言うように世界が崩壊してしまっても<br>
おかしくないくらいだったかも知れません。それでもそうしなかったのは涼宮さん自身のどんな大きな不満や<br>
怒りなんかよりも全員でステージに立ちたいっていう気持ちの方がずっと強かったからなんじゃないかって思うんです・・・」<br>
朝比奈さんはそこまで語り終えると小さく息をつき、真剣な眼差しで俺を見つめた。<br>
「つまり今の話を要約しますとですね、涼宮さんは閉鎖空間を発生・拡大させ、この世界を崩壊させてしまうことより<br>
SOSバンドとして文化祭に出場するためにこの世界を守ることを選んだ、という訳ですね。<br>
まあ、僕も朝比奈さんからこの話を聞くまでは、正直本気で『力』の消失を疑っていたのですが。<br>
そういう訳ならば僕も納得がいきます。実際その『力』のせいで僕のベースの腕前は未だプロ級を保ったままですしね」<br>
古泉がすかさず解説を入れる。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
朝比奈さんの熱弁を受け、俺はなんとも複雑な気持ちだった。<br>
「俺はどうすればいいんでしょうかね・・・」<br>
「涼宮さんに謝ってあげてください。きっと涼宮さんもキョンくんには悪いと思っているはずで・・・<br>
素直になれないだけなんだと思います。それで『また一緒に練習頑張ろう』って。<br>
そう言ってあげてください」<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
俺は、ハルヒがなぜアレだけバンドにこだわったのか、どうしてあんな短期間の内に3曲も書くほどの熱意を見せたのか、<br>
その理由がわかった気がした。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
「わかりました、俺、ハルヒと話をしてみます」<br>
俺がそう答えると、朝比奈さんの真剣だった表情が天使かと見紛う程の嬉しそうな顔になった。<br>
「本当ですか?」<br>
「ええ、昨日は俺もどうかしてました、何とかハルヒと話をして、謝ってみます」<br>
「よかった~。キョンくんならきっとわかってもらえると思いました」<br>
朝比奈さんは本当に嬉しそうだ。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
そして古泉はやれやれといった表情を浮かべ、<br>
「話もまとまったようですね。いやはや良かったです。<br>
実は僕もですね、演奏しているのが何だか楽しくなってきてしまってですね、<br>
こんなことでバンドが解散、なんてことになるのはいささか悲しかったんですよ」<br>
よく言うぜ、お前はハルヒのご機嫌取りが最優先だろうに。<br>
「そんなことはありません。機関の思惑やその一員としての使命感を抜きにして・・・<br>
いちSOS団の団員として、僕は文化祭でのバンド演奏を成功させたいと思っていますよ<br>
それにベースを弾くのも楽しくなってきましたしね。何と言っても重低音がいいですね。<br>
下半身にこう、グッと響きます。なんとも気持ちのいいものですよ」<br>
古泉のその台詞が何とも変態的に聞こえたのは気のせいだろう。<br>
「私もです。最初はキーボードなんか弾けないって思ったけど、<br>
皆で演奏してたら、何だか楽しくなってきちゃいました。<br>
本番のために、鍵盤に突き刺す用のナイフも買ったんですよ?」<br>
本気にしてたんですか・・・朝比奈さん・・・。<br>
「冗談です♪」<br>
「僕も涼宮さんの言うとおりにステージ用の靴下を新調しましたよ。<br>
ただ困ったのが、なかなかサイズに見合うものがなかったことですね。<br>
こうなったら着けないで出演しようかと考えたくらいですよ」<br>
五月蝿い古泉。お前は黙っていろ。大体何だサイズって。そんなにデカイのかよ。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
とにもかくにも、俺がハルヒに謝るということで話は何とかまとまった。<br>
「そういえば――」<br>
俺には1つ疑問に思っていることがあった。<br>
「長門がこの場に来ていないのはなぜだ?」<br>
そうである。今後の世界の行く末にも関るかも知れないという非常に重要なこの昼休み会合だったはずだが、<br>
なぜかそういった事情に一番精通しているはずの長門の姿が見えない。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
「長門さんは一応お誘いはしたんですがね・・・」<br>
古泉は溜息をつき、答える。<br>
「行く必要はない、と断られてしまいましたよ。理由を聞いたんですがね、<br>
『彼を信じている』と、ただ一言。それだけですよ。<br>
あなたを信頼しているのは涼宮さんだけじゃない、ってことです」<br>
昨日、教室で呆然としている俺に同じ台詞を言った長門の姿が思い出される。<br>
そうか、ありがとな長門よ。お前の信頼にも応えてやらなきゃな。<br>
</div>
<div class="main"><br>
<br></div>
<div class="main">(おまけ 古泉視点です)<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
その後、教室へ戻る道すがら、僕は彼に語りかけました。<br>
「知っていますか?<br>
バンドというと一見花形はボーカルやギターのように思われがちですが、<br>
実はそれ以上にベースやドラムの役割が重要なんですよ」<br>
「それは初耳だな」<br>
「この2つのパートはリズム隊と言ってですね、<br>
バンド全体の演奏のテンポやリズムを司る役割として、非常に重要なんです」<br>
「なるほどな」<br>
「だからですね、ベースとドラムの演奏があっていないと、どんなにボーカリストが上手かろうが<br>
ギタリストの技量が高かろうが、キーボードが火を噴くような壮絶な演奏をしようが、<br>
バンド全体としての音は締りの悪いものになってしまうんですよ」<br>
「それはそれは、責任重大だな」<br>
「つまりですね、バンドにおいてはベーシストとドラマーのコンビネーションが何よりも肝心ということです。<br>
結論として、あなたと僕は一心同体も同然!ということです。<br>
早速今夜から2人きりでの夜の個人練習に励みましょ・・・」<br>
「黙れ、変態が」<br>
彼はそう言うと歩を速め、スタスタと自分のクラスの教室に向け、歩いて行ってしまいました・・・。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">「・・・マッガーレ・・・」<br>
(キョンたんは相変わらずツンデレですね。まあ、そういうところも愛しいんですけどねwww)<br>
</div>
<div class="main"><br>
<br>
<br></div>
<div class="main">教室戻った俺はハルヒを探した。<br>
しかしその姿を見つけることは出来ない。<br>
結局、その日は放課後までハルヒは教室には戻ってこなかった。<br>
もしかして帰ってしまったのか?<br>
タイミングを逃したのかもしれない・・・。<br>
そう考えながら、廊下を歩いていた俺の視界に見覚えのある人影がうつった。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">「長門・・・」<br>
その人影とは誰あろう長門であった。<br>
長門はいつもの液体ヘリウムのような目で俺をみつめ、静かに言葉を吐き出した。<br>
「涼宮ハルヒは軽音楽部の部室にいる」<br>
「ほんとか!?」<br>
どうやら帰ったって訳じゃなかったみたいだ。<br>
「涼宮ハルヒはあなたを必要としている。行ってあげて」<br>
俺はその一言で完全に決心がついた。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">「重ね重ね済まないな。長門よ」<br>
「いい」<br>
ふと気付くと長門は手に筒状の何かを持っている。<br>
「ところでそれは何だ?」<br>
長門は表情1つ変えず答える。<br>
「ダイナマイト。ステージでアンプを爆破するために調達した」<br>
オイオイ・・・。長門もハルヒに言われたことを本気にしていたのか・・・。<br>
それにしても・・・。<br>
「お前も文化祭の本番を楽しみにしているのか?」<br>
俺は何気なくそんなことを聞いてみたい気分になった。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">「それなりに」<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
俺はそんな言葉を呟いた長門の表情の中に少しの期待を見出すことが出来た。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
そして俺は今、軽音楽部の部室兼SOSバンドの練習室の前に立っている。<br>
長門の言うことが正しければ、ハルヒはこの中にいるはずだ。<br>
ふと気付くと、教室の中から何かが聞こえてくる。<br>
それは聞き覚えのあるメロディー、昨日俺が聴いたハルヒのオリジナル曲に相違なかった。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">意を決して中に入る。<br>
するといた。ハルヒである。<br>
ハルヒは背を向け、アンプに腰掛けてギターをつま弾いている。<br>
そのメロディーは、昨夜俺が聴いた3曲の中の1曲、<br>
確か『ハレ晴レユカイ』とかいうタイトルの曲だ。<br>
俺はしばらくハルヒの弾くギターの音色に聴き惚れてその場に立ち竦んでいた。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
しばらくして、演奏がピタッと止んだ。どうやら俺が入ってきたのに気付いたらしい。<br>
ハルヒは首だけ振り返り、俺の姿を認めるとすぐにまた背を向けてしまった。<br>
気まずい沈黙が流れる。俺は再度意を決して言葉を発する。<br>
「今の良かったぞ。何て曲だ?」<br>
知ってるくせにな。我ながら白々しい。<br>
ハルヒは背を向けたままだ。無視されているのかと思いきや、静かに口を開いた。<br>
「何よ、あんた脱退したんじゃなかったっけ?」<br>
何とも厳しいお言葉だ。しかし俺はめげない。<br>
「その筈だったんだがな。どうもこのままだと寝覚めが悪い――」<br>
ハルヒは黙って俺の言葉を聞いている。<br>
「そりゃあ俺は音楽的な才能もないし、いつまで経ってもまともに演奏できてない。<br>
だから、お前の要求はいくらなんでも無理だろうって思う時もある。<br>
でも・・・それでも俺はこのSOSバンドでの文化祭を成功させたいと思ってる。<br>
朝比奈さんや長門や古泉と一緒に・・・、<br>
そしてハルヒ、お前と一緒に・・・文化祭のステージに立ちたいと思ってる。<br>
だから・・・昨日は済まなかった。俺にもう一度ドラムを叩かせてくれ」<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
俺がそこまで言い終えると、相変わらず背を向けたままのハルヒが口を開く。<br>
「何よ、そんなこと言って、あんだけ取り乱したあたしが何だかバカみたいじゃない・・・」<br>
抱えていたギターをアンプに立てかけ、ハルヒはこちらを向く。<br>
「でもまあ、あんたがどうししてもって言うなら・・・許してあげないこともないわ!」<br>
「ほんとか?」<br>
「た・だ・し!団長に逆らった罪は重いわよ!<br>
これからあんたには罰として寝る暇も惜しんでドラムの練習に励んでもらうわ!<br>
勿論映画の撮影に力を抜くことも絶対許さないだからね!」<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
かなり重い罰を課されてしまったようだがそれでも俺は心底安心していた・・・。<br>
その安心感が俺に不用意で思い出すだけでも恥ずかしい一言を言わせてしまった。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
「よかった。これでまたお前の歌が聴けるんだな・・・」<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
言った瞬間顔から火が出そうな恥ずかしさに襲われた。<br>
手元にショットガンがあったなら、すぐにそれを口にくわえて引金を引きたいぐらいだね。<br>
そうして涅槃の境地に到りたいくらいさ。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
「ふ、ふんっ!SOS団団長の神聖なる歌声をタダで聴けるのよ!<br>
少しはありがたく思いなさいよねっ!」<br>
ハルヒも心なしか顔を赤らめているように見えるし・・・。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">俺は気を取り直し、ハルヒに話しかける。<br>
「実はな、さっきお前が弾いてた曲は既に知っていたんだ。<br>
昨日お前が落としてったMDでな」<br>
ハルヒは特に驚いたこともなく答える。<br>
「何よ、無い無いと思ってたらあんたが持ってたってわけ?」<br>
「別に悪気があったわけじゃないんだがな。まあとにかく曲聴いたぞ」<br>
「ふん、せいぜい私の作った曲のクオリティの高さに驚いたでしょうね」<br>
ハルヒは吐き捨てるように言う。<br>
「ああ、凄かったよ。アレならオリコン10位以内だって狙える」<br>
これは俺の本音だ。<br>
しかし、ハルヒは一層顔を赤らめる。茹で上がったエビみたいだ。<br>
「あ、当たり前じゃないっ!今の日本の音楽業界は腐ってるわ!<br>
あんな有象無象のクオリティの低い曲が売れるぐらいならそれくらい当然よ!<br>
むしろ1位を取って然るべきね!」<br>
それは流石に無理だろうが、ハルヒの機嫌も何とか少しは上向きになってくれたようだ。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
「とにかく! あたし達SOSバンドが文化祭のステージをジャックするにはまだまだ練習が足りないわ!<br>
今からすぐに練習よ!キョン!そうとなったら今すぐに他の団員達を招集しなさい!」<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
こうしてSOSバンドの活動再開が高らかに宣言されたというわけだ。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
そこからの数日はこれまで以上の多忙を極めた。<br>
まずは映画の撮影。文化祭本番3日前に何とかクランクアップしたものの、<br>
超監督の理解不能な撮影方針によって取り溜められた映像の殆どが訳のわからないものであり、<br>
ギリギリのウェイトレス衣装で未来人的なナゾのビームを目から発射させられている朝比奈さんや<br>
スターリングインフェルノとかいうショボイ棒切れをくるくる振っている黒ずくめの悪い宇宙人長門、<br>
やっとのことで自分の持つ超能力を自覚したはいいものの、ニヤニヤ笑ってるだけで存在感のない古泉、<br>
その他、再度脇役で登場した鶴屋さんのぶっ飛んだアドリブ、国木田や谷口のビミョーな演技、<br>
今回は人語を話すという暴挙は犯さなかったものの、<br>
それではタダの猫であり劇中に登場する意図が全くわからないシャミセンのあくび、<br>
訳もわからずはしゃぎまわるだけの俺の妹、といったようなものであった。<br>
こんなものを編集させられる俺は一体どうすりゃいいんだ?<br>
本当にこれなら朝比奈さんのプロモーションビデオを作った方がマシってもんだ。<br>
まあ、そのくらいにヒドイ出来だったわけである。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
そんな状況に頭を抱えていた俺ではあったが、ハルヒも何だかんだいっては手伝ってくれた。<br>
しかしそれでも映画としての体裁を整えるにはほど遠い。<br>
これはもう本気で今年こそ朝比奈プロモーションクリップにするしかないと思っていた俺に救いの手が差し伸べられた。<br>
それは誰あろう長門である。何か長門に頼ってばかりだよな・・・俺。<br>
長門は大量のビデオテープを目の前にし、ウンウン唸っている俺を見かねたのか<br>
「貸して」<br>
と言うと全てのテープを家に持って帰ってしまった。<br>
するとびっくり、次の日には長門は全ての映像編集を完成させてしまっていた。<br>
朝比奈さんの目から出るビームのCGや効果音、BGMまでばっちりだ。<br>
「完成した」<br>
そう言ってマスターテープを俺に手渡す長門、これまた去年も同じようなことがあった気がするな・・・。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">そして問題のバンドである。<br>
ハルヒの作ったオリジナルの3曲が既存の2曲と共にセットリストに加わり、<br>
SOSバンドは殆どのメンバーが初心者にも関らず、5曲も演奏しなければならないという重荷を課せられた。<br>
いや、初心者といってもハルヒのトンデモパワーでプロ並みの腕前になってしまった古泉と朝比奈さんはまだいい。<br>
結局初心者のままの俺は、毎日ヘトヘトになるまでドラムを叩き続けていた。<br>
God Knows...とLost
MyMusicの2曲に関しては何とか形になってきたものの、更に3曲を覚えるのは相当にキツイ。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
しかしハルヒにアレだけの見得を切ってしまった以上、俺も諦めるわけにはいかない。<br>
とにかく毎日、暇を見つけては軽音部の部室に出向き、寝食を忘れてといっていいほど練習を繰り返した。<br>
そのおかげかこれまでペンダコすら出来たことのない俺の指には立派なマメが出来てしまったりもした。<br>
更に、ドラムのことは同じドラマーに聞けばよいと考えた俺は週末、映画の撮影の後、独りで駅前のライブハウスに足を運んだ。<br>
そう、あのENOZのライブを見に行ったのである。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
率直に言って彼女達の演奏は相変わらず素晴らしかった。<br>
狭いライブハウスではあったがその分観客の熱気も凄まじく、演奏中はあちらこちらでモッシュ&ダイブまで起こっていた。<br>
そしてGod Knows...とLost
MyMusicに関しては彼女らが本家であり、岡島さんのドラム演奏は非常に参考になった。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
俺はライブ終了後、挨拶も兼ねて彼女達の楽屋を訪ねた。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
ENOZの面々は初め俺を見たときは誰だかわからなかったようだったが、ハルヒの名前を出すや否や、合点がいったらしい。<br>
俺はSOS団がバンドとして文化祭に出演すること、彼女達が本家である2曲をカバーさせてもらうこと、<br>
ハルヒが作ったオリジナル曲のこと(勿論デモテープも聴いてもらった。すこぶる好評だった)等をつらつらと話した。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">「そうかー、あの涼宮さんがねー」<br>
ドラムの岡島さんが感慨深げに呟く。<br>
「涼宮さんならきっとまたスゴイ演奏をしてくれると思うよ」<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
「私達、ほんと涼宮さんには感謝してるんだ。<br>
あのステージが無かったら私達の曲を皆に知ってもらうこともなかった思うし・・・。<br>
きっと卒業してメンバーも皆バラバラになって、バンドも自然消滅してたかも知れない・・・」<br>
ベースの財前さんは遠い目をして語る。<br>
「今私達が4人で活動を続けられるのもあのステージがあったからだと思う。<br>
本当、涼宮さんには足を向けて寝れないわ。勿論ギターを弾いてくれた長門さんもね」<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
ひとしきりの会話を終え、俺は本題でもあるドラム演奏についてのアドバイスを求めてみた。<br>
するとドラムの岡島さんはひとしきり考えた後・・・<br>
「口で言ってもわからないところがあるし・・・。そうだ!<br>
実際に叩いてみるのが手っ取り早いと思うよ?」<br>
と言うと、客のいなくなったステージに俺を上げてくれ、実演を交えた指導を行ってくれた。<br>
時々、「ここの叩き方はこう!」とか言ってスティックを持つ俺の手を握られたりしてしまうなど、<br>
何とも気恥ずかしいば場面もあったりもしたが、岡島さんは流石本家だけあり、非常に的を得た指導だった。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">「本当にありがとうございました」<br>
俺は懇切丁寧なアドバイスをくれた岡島さんはじめとするENOZの面々に頭を下げた。<br>
「いいのよ、このくらい。私達が涼宮さんに受けた恩に比べればなんてことないわ」<br>
岡島さんが恐縮する。なんて腰の低い良い人達なんだろう。少しはハルヒに見習わせたいね。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
「最後に1つだけアドバイスさせてほしいんだけど・・・」<br>
「何でしょう?」<br>
「バンドっていうのは、メンバーが誰ひとり欠けても成り立たないものだと思うの。<br>
私達も今でもこの4人でやれてることに凄い喜びを感じてるしね。<br>
だから君もバンドのメンバーを・・・SOS団のメンバーを大切にしてあげてね。<br>
そうすれば技術とか関係なく、きっといい演奏が出来ると思うよ」<br>
朝比奈さんや古泉が同じようなことを言っていたのが思い出される。<br>
SOS団のメンバー全員で・・・か。俺にもやっとハルヒの気持ちがわかってきたのかもしれない。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
俺はもう1度彼女達に謝辞を述べ、帰途につこうとした。<br>
すると財前さんがニヤニヤとした表情で近寄ってきて、俺に耳打ちをしてきた。<br>
これまたちょっと恥ずかしいな・・・。<br>
「そういえば・・・その後涼宮さんとはどうなのかな?『オトモダチ』の関係から進展した?」<br>
「はぁ?」<br>
俺は何とも間の抜けた声をあげてしまった。正直彼女の質問の意図するところが掴めない。<br>
そんな俺の間抜けな表情を見て、彼女達は意外そうな表情を浮かべたかと思うと、<br>
一様にやれやれと両手を挙げ首を振るジェスチャーをしている。「だめだこりゃ・・・」なんて言葉も聞こえたりする。<br>
まだ状況を良く掴めないまま呆けてる俺に財前さんは更に言葉を続ける。<br>
「まあ、君のペースでやればいいんじゃないかな?<br>
そんな所も君の味だと思うし・・・。<br>
でも女の子を余り長く待たせるのは感心しないよ~?」<br>
「はあ・・・??」<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
最後まで彼女達の言わんとするところはわからぬまま、その日は終わった。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
そしてとうとう文化祭の当日になるわけだが、実はこの前日ちょっとした問題が発生していた。<br>
というのも文化祭のステージにおいて何らかの出し物をする際は文化祭の実行委員と生徒会の許可を取らなくてはならないのだ。<br>
俺達はバンド練習と映画撮影に夢中でそんな当たり前のことも忘れていた・・・。<br>
出し物の申請期限はどうやら一昨日だったらしい・・・。あの時は映画の編集で忙殺されていたからな・・・。<br>
さて、この事実をハルヒが知ったらそれこそ世界崩壊一直線だ・・・。<br>
しかし、この件に関しては生徒会長と「太いパイプ」とやらを持つ古泉の口利きによって何とかなり、<br>
特別に申請抜きでも文化祭のステージに出演できる運びとなった。<br>
古泉には感謝したいところだが、そもそもそんな基本的なミスをお前が犯すとはな・・・。<br>
俺達がどれだけバンドと映画だけに集中していたかが伺えるというものだ。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">ちなみにあの毒舌生徒会長は、<br>
「フン、またあのおめでたい女のご機嫌取りの為に使われるのはいい気はしないが、<br>
今度はバンドだろ?せいぜいマトモな演奏になるように願うぜ。<br>
まあ、あの女にはマジで音楽の才能はあるみたいだしな――」<br>
と、相変わらずハルヒのご機嫌取りに利用されるのに不満げながらも<br>
「そうそう、古泉。お前ステージで全裸になるんだって?<br>
あの女の歌を聴いているのも癪だし、お前がぶら下げている方の『ベース』でも見に行ってやるよ」<br>
と、煙草をくゆらせながらのたまってくれた。<br>
というか生徒会としては文化祭のステージでストリーキング行為を行うことにはお咎め無しなのか?<br>
古泉も古泉だ。「是非楽しみにしていてください」なんて言ってんじゃねえ。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">さて、本当の問題はこのことではない。<br>
実は、俺の腕が限界に来ているということだ。<br>
端的に言うと、凄く痛い。<br>
この1ヶ月、慣れないドラムという楽器を叩きに叩きまくり、<br>
特にこの数日間は寝食も忘れて練習に没頭していたこともあり、とうとう腕が悲鳴をあげたというわけだ。<br>
「何も前日にこんなことになる必要はないじゃないか・・・」<br>
風呂の中で腕をマッサージしながらひとりごちた。<br>
果たして、明日のステージを無事こなせるだろうか・・・。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
文化祭当日である。結局腕の痛みは取れないままだ。<br>
勿論、このことはハルヒはじめ他の団員には話していない。<br>
後で考えれば、長門あたりに頼めば一瞬で治療してくれたりしたのではないかとも思うが、<br>
残念なことにその日の俺はそこまで頭が回らなかった。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
ステージでの出し物が行われるのは午後からである。<br>
それまで俺は去年と同じように谷口と国木田と共に校内をグルグル回っていた。<br>
視聴覚室では俺達が制作した映画が上映されているはずだが、<br>
あんなわけのわからない映画を、しかも編集段階でイヤというほど見たものを、<br>
改めて見に行くほど俺はヒマではない。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
「まあとりあえずはナンパだろ。今年は結構他校からも女の子が来てるからな」<br>
相変わらず谷口はナンパにしか興味がないらしい。成功率ゼロのくせによく懲りないもんだ。<br>
「それより僕はお腹が空いたな。なんか食べに行こうよ」<br>
とは国木田の弁である。<br>
「そういえばキョン、今年は朝比奈さんのクラスの出し物の割引券とか貰ってないの?」<br>
そうだった。去年と同様、朝比奈さんのクラスは焼きそば喫茶をやるらしく、その割引券をしっかり今年も貰っていたのだ。<br>
ついこの間朝比奈さんが鶴屋さんと共に俺のクラスまでわざわざ足を運んでまでくれたのに失念していた。<br>
「おお!マジか!今年も朝比奈さんのあの衣装が見れるっていうならこりゃナンパどころじゃないな!」<br>
谷口も飢えた魚のような食いつきを見せる。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
うむ。確かに朝比奈さんと鶴屋さんのあの麗しいウェイトレス姿を見れるというのならば行って損はない。<br>
もしかしたら余りの麗しさに俺の腕も癒されたりしてな。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
結論から言うと、今年も朝比奈さんのクラスの焼きそば喫茶は素晴らしかった。<br>
何が素晴らしいって、ウェイトレス姿の朝比奈さんと鶴屋さん以外にない。<br>
基本的に去年の衣装と似たものだったが、それをベースに更なるバージョンアップを施したものらしい。<br>
しかし、本当に朝比奈さんのクラスにはプロ並みのデザイナーか何かがいるに違いない。<br>
これがSSなのが残念だね。是非皆にお見せしたいくらいさ。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
ちなみに、食券のもぎり役である朝比奈さんは少し恥ずかしそうな面持ちであったが、<br>
それとは対照的に今年も廊下にまで出て客引きをしていた鶴屋さんは何とも元気であった。<br>
「お、キョンくんとそのオトモダチ!いらっしゃいっ!」<br>
「今年も盛況ですね」<br>
「去年があんだけ大繁盛だったからねっ!味を占めて今年もまったく同じ出し物にしたのさっ!<br>
いやぁほんとにボロ儲けだよっ!笑いが止まらないねっ!」<br>
「鶴屋さんや朝比奈さんがいますからね」<br>
「ありゃー、キョンくんも上手いこというねっ!おねえさん感激にょろよっ!」<br>
いやいや、本心ですよ。<br></div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
「そういえばキョンくん、今年はバンドやるんだってねっ!みくるから聞いたよっ!<br>
めがっさ頑張るにょろよっ!あたしも見に行くよっ!」<br>
「ありがとうございます」<br>
鶴屋さんは台風が過ぎた後の晴れ渡った青空のような笑みでそう言うと、俺の腕をバンバンと叩いた。<br>
正直、痛めていた腕にはかなりの衝撃だったが俺は何とか表情を崩さずにいた。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
その後、ナンパをしに行ってしまった谷口と他のクラスの出し物を見に行ってしまった国木田と別れ、<br>
俺は独りで校内をブラブラとしていた。午後のステージまではまだ時間がある。<br>
ちなみに、朝比奈さん以外の団員達のクラスの出し物についてもここで紹介しておこう。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
長門のクラスは今年も占いの館とやらをやっている。<br>
どうやらこちらも去年好評だったのに味を占めたようだ。<br>
黒ずくめの悪い魔法使いの衣装に身を包んだ長門が相変わらず、一歩間違ったら未来予知とも言えるような<br>
具体的過ぎる占いをして、客を引かせてしまっているのではないかとの心配もしたが、<br>
チラッと覗いてみた感じ、何とかしっかりやっているようだ。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
古泉のクラスは今年は演劇ではないようだ。<br>
「映画にバンドに演劇、いくら僕でもちょっとこれは厳しいですしよかったですよ」<br>
なんて古泉は前に言っていたが、果たしてアイツのクラスでは何をやっているのかというと――<br>
何と、『執事喫茶』であった・・・。これはアレか、所謂メイド喫茶の男版みたいなもんか・・・。<br>
パリッとしたタキシードに身を包んで接客をしている古泉、ムカツクが似合っている。<br>
「お帰りなさい、お嬢様」とか白々しい台詞まで吐いてやがる。<br>
客層も女の子が殆どで、他校からきたと思しき子も見受けられる。<br>
その殆どが古泉のタキシード姿に見とれているようだ。やっぱりムカツクな。<br>
というかよく執事喫茶なんてやろうと思ったな。それだけ古泉のクラスにはイイ男が多いってことか。<br>
古泉は俺の姿を見つけるや否や気味の悪い笑みを浮かべ、こう言った。<br>
「バンドの出番までにはまだ時間がありますからね。<br>
今までそちらの活動で忙しく、クラスの出し物の準備に貢献できなかった分、<br>
こうして午前中だけでもクラスのために奉仕している、というわけです。<br>
せっかく来たんですし、お茶でも飲んでいきませんか?」<br>
断る。野郎に「お帰りなさい、ご主人様」とか言われて喜ぶような特異な性癖は持ちあわせちゃいない。<br>
「それは残念です。<br>
実のところ、今回の出し物は当初は執事喫茶ではなく『自動車修理工喫茶』に僕はしたかったんですけどね。<br>
ウェイトレスの衣装はタキシードでなく全員ツナギでね。勿論ターゲットとする客層は男性です。<br>
でもその意見はクラス会議で却下されてしまったんですよね・・・」<br>
当たり前だ、変態め。大体何だツナギって。そんなもん喫茶店じゃねえ。ハッテン場になっちまう。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
そんな変態古泉を無視し、更に俺は校内をブラブラしていた。<br>
しかし特に目につくような出し物はない。<br>
正直、それでもこうしてブラブラしていないと午後のステージのことが気にかかってしまう。<br>
そして腕の痛み。コイツはとうとう最後までどうにもならなかったみたいだ。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
そして午後、俺はステージに出演する生徒の控え室である舞台裏の楽屋に足を運んだ。<br>
そこには俺以外の面子が既に顔をそろえていた。<br>
「ちょっと遅いわよ!キョン!」<br>
そう言うハルヒは何とバニーガール姿でギターを抱えている。どうやら去年と同じ衣装でステージに上がるらしい。<br>
ちなみに長門は相変わらずあの黒ずくめの魔法使いの衣装。<br>
当初はハルヒとお揃いでバニーガール服のはずだった朝比奈さんは、映画で着ていた戦うウェイトレスの衣装である。<br>
ハルヒいわく映画の宣伝の一環らしい。<br>
そして全裸での出演を宣言していた変態古泉はなぜかさっきの執事の衣装である。<br>
「本当は全裸のはずだったんですが・・・急遽文化祭実行委員の方からクレームが入りましてね。<br>
土壇場での衣装変更ですよ。靴下を着けても駄目だそうです・・・」<br>
残念そうに語る変態。実行委員の皆さん、グッジョブです。<br>
しかし、俺だけ普通に制服か。逆に浮くんじゃないか、コレ?<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">
「いよいよ本番ね!あたし達SOSバンドが文化祭を牛耳る日がとうとうやってきたのよ!<br>
みんな、気合入れていくわよ!」<br>
張り切って叫ぶハルヒ。<br>
「練習の成果を見せるときです~!」<br>
意気込む朝比奈さん。<br>
「全裸でないのは物足りないですが、やるだけのことはやりましょう」<br>
ニヒルに微笑む変態古泉。<br>
「・・・」<br>
無言ながらその瞳の奥には燃える意気込みが感じられる、ように思える長門。<br>
「みんな準備はいいわね!さあSOSバンドの華々しいデビューの瞬間よ!」<br>
最後にハルヒが俺達に再度気合を入れる。<br>
準備は整った。こうなったら俺も覚悟を決めるしかない。<br>
腕の痛みを忘れるくらい叩いて、叩いて、叩きまくってやるさ。<br>
俺達、SOS団のためにも。<br>
そして、何よりもこの日を楽しみにしていたハルヒのためにもな。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">舞台の袖、俺達は出番を待っている。<br>
さっきまで興奮気味だったハルヒも黙っているし、朝比奈さんも幾らか緊張したような面持ちだ。<br>
ニヤニヤ笑っていた古泉も真剣な表情になっている。<br>
長門は・・・相変わらずだろう。生憎、トンガリ帽子と舞台袖の暗さによって表情は伺えないが。<br>
舞台では俺達の前の出番である軽音楽部のバンドが演奏している。<br>
メンバー皆がデーモン小暮みたいなケバケバしい衣装を着込んで、グロテスクなフェイスペイントを施し、<br>
騒音とも思えるような大きな音にのせて「SATSUGAIせよ!」とか「下半身さえあればいい!」とか連呼している。<br>
オイオイ、物騒なバンドだな。というか、コイツら去年も出てなかったけ?<br>
サクラと思しき一部の男達は盛り上がっているが、正直それ以外の観客はドン引きだ。<br>
会場の空気も薄ら寒いものになっている。<br>
オイオイ・・・俺達の出番の前になんてことしてくれるんだよ・・・。<br>
</div>
<div class="main"><br></div>
<div class="main">「テンキュウ!」<br>
曲が終わり、ボーカリストが吐き捨てる。<br>
やっと終わってくれたみたいだ・・・。<br>
次が俺達SOSバンドの出番である。緊張が高まる<br>
ステージではいったん幕が閉められ、楽器やアンプ、音響のセッティングが行われているようだ。<br>
朝比奈さんも古泉も長門も誰一人言葉を発しようとしない。<br>
そんな中、ハルヒは緊張した面持ちを更にグッと引き締め、ウサミミのヘアバンドを揺らしながら<br>
じっと舞台の床に視線を向けたり、虚空を見つめたりしている。<br>
こいつがここまで緊張するのははじめて見るんじゃないか?<br>
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<div class="main">「ハルヒ、緊張しているのか?」<br>
俺は思わず聞いてしまった。ハルヒは俺の方へ振り返ると――<br>
「そんなわけないでしょ、それよりキョン!今日こそはショボイ演奏は許されないんだから、<br>
しっかり叩きなさいよねっ!」<br>
ああ、わかってるさ。その為に一度は脱退したこのバンドに戻ってきたわけだし、今日まで練習してきたんだからな。<br>
今日こそはハルヒ、お前の信頼とやらに応えてやろうじゃないか。<br>
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「続いては、一般参加の『SOSバンド』の演奏です」<br>
放送部の女子部員によるアナウンスが流れる。いよいよ出番だ。<br>
観客は『SOSバンド』という珍妙な名に反応しているようで、少しザワザワしている。<br>
クスクスという失笑もあちらこちらから聞こえたりして・・・まあ予想はついたがな。<br>
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そんな会場の雰囲気もどこ吹く風、ハルヒはギターを抱えて颯爽とステージへと歩いていく。<br>
それに続いて朝比奈さん、同じくギターを抱えた長門、ベースを抱えた古泉、<br>
最後に俺、がステージへと上がっていく。<br>
観客が意外に多い・・・。それにステージってこんなに高かったのか?<br>
俺は今更ながら、多くの観客の前に立ち、演奏をするという行為にどうしようもない緊張を感じていた。<br>
チクショウ、足が微妙に震えてやがる。<br></div>
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ハルヒや長門、古泉といったギター組はシールドをアンプに接続し、チューニングを行っている。<br>
朝比奈さんはキーボードの前に立ち、念入りに鍵盤の感触を確かめている。<br>
俺は、ドラムセットに座ると、1つ息をつき、前を見た。<br>
観客席となっている体育館のフロアにはいつのまにか大勢の人が集まっている。<br>
この全ての人間の視線が自分に向くんだ。これで緊張しない方が嘘ってもんだぜ。<br>
そしてこの位置だと、俺の真正面にはギター&ボーカルのハルヒが立つことになる。<br>
正直言って、ハルヒはバニーガール服を着込んでいるわけであり、ここからだとお尻のラインや<br>
露出しているキレイな肩などが丸見えであり、目のやり場に困るところである・・・。<br>
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<div class="main">メンバーの配置は観客から見て左から――<br>
キーボードの朝比奈さん、ギターの長門、ギター&ボーカルのハルヒ、ベースの古泉<br>
そしてハルヒの真後ろにドラムの俺、という形である。<br>
と、そんなこんなしている内にギター組のチューニングも完了したようだ。<br>
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相変わらず観客はざわついている。そりゃそうだろう。<br>
『SOSバンド』なんて変な名前の集団が出てきたと思ったら、<br>
見た目だけは文句のないバニーガールに妖精のように可憐なウェイトレス、<br>
置物のように静かに佇む黒い魔法使いにタキシードの変態執事がいるんだもんな。<br>
去年の文化祭でハルヒと長門のステージを目撃している人間なら少しは驚きが少ないかもしれないが・・・。<br>
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ふと気付くと、メンバー全員が俺へ視線を向けている。<br>
朝比奈さんは女神のような微笑を浮かべ、長門は相変わらず無表情ながらも真摯な瞳で、<br>
古泉はコレまでにないくらい気持ち悪いニヤケ顔で・・・。<br>
それぞれがこのステージに立てたことに言いようのない満足感を覚えていることがそこから伺えた。<br>
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そして、ハルヒ。客席に背を向け、俺を見つめるその顔は――<br>
おそらく一生忘れることも出来ないだろうというくらいに、優しい、優しい笑顔だった。<br>
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ハルヒが俺に向かって頷く。ウサミミが揺れている。<br>
その仕草をみた朝比奈さん、長門、古泉は途端に真剣な表情になる。<br>
どうやら演奏開始の合図らしい。<br></div>
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俺はハルヒに向かい、黙ったまま頷き返し、スティックを振り上げた。<br>
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