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「朝比奈みくるの妊娠」(2007/01/16 (火) 00:45:24) の最新版変更点
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<div class="main">
<div>今日、わたしはキョン君に犯されました。<br>
それは突然のことでした。わたしが部室でいつものメイド服に着替えている時のことです。<br>
キョン君は不注意からなのか、ノックもなしに部室に入ってきました。<br>
私は丁度その時上を脱いでいて、上はブラジャーだけの恥ずかしい姿でした。<br>
「あ、キョン君。わたしまだ着替えて……」<br>
わたしは声をあげようとしましたが、キョン君のいつもとは違う顔つきに怯んでしまいました。<br>
ごめんなさい、その言葉をわたしは期待していましたが、叶うことはありませんでした。<br>
キョン君は無言でわたしに近づくと、わたしが持っていた服でなんとか隠していた胸をとても強く掴みました。<br>
「痛っ!」<br>
あまりの痛みに声をあげてしまいました。でも、それだけしかあげることはできませんでした。<br>
キョン君のあまりの形相にわたしは完全に腰砕け状態だったのです。<br>
それに、わたしはキョン君に淡い恋心を抱いていましたから、キョン君がわたしを求めてくれるのは少し嬉しくもありました。<br>
しかし、それは幻想に過ぎなかったとすぐに思い知らされました。<br>
キョン君はいつもの紳士的なキョン君ではなく、目の前でわたしを壊そうとする一人の男だったからです。<br>
キョン君は私が持っていた服を強引に奪い取り、そのままの勢いでブラジャーも引きちぎりました。<br>
それ以降にされた陵辱を詳しく語ることはできません。<br>
わたしはキョン君の侵入を許しました。それだけを述べて終わりにしたいと思います。<br>
</div>
<br>
<div>わたしはその事実を認めるのに数日を要しました。<br>
あの出来事は無かったと思われるぐらいキョン君はいつも通りの笑顔で、わたしを見てくれていたからです。<br>
そして、わたしもあの事は無かったことにしようと思っていた頃。<br>
それは、唐突に突きつけられました。<br></div>
<br>
<div>わたしは妊娠していたのです。<br>
もちろん、相手はキョン君以外にいません。<br>
でも、わたしには相談できる相手がいませんでした。<br>
鶴屋さんはお父さんの長期海外出張についていくと理由で学校にいませんでしたし、<br>
涼宮さんに相談するわけにはいきません。<br>
最も怖かったのは、未来への通信ができなくなっていたことでした。<br>
意を決して、キョン君に妊娠の事実を伝えることにしました。<br>
なぜなら、わたしは今でも彼が好きだったからです。<br></div>
<br>
<div>チャンスはすぐに訪れました。<br>
市内探索でキョン君と一緒になったからです。<br>
わたしはとても緊張していました。キョン君だって高校生です。<br>
妊娠なんて言ったら、おろしてくれって言われることは覚悟していました。<br>
「あの、キョン君」<br>
「なんですか、朝比奈さん?」<br>
「………わたし、妊娠しちゃったの」<br>
「彼氏いたんですか?」<br>
「いいえ」<br>
「じゃあ、誰も子供なんです?」<br>
「………キョン君の子供です」<br>
キョン君はわたしの襟首を掴み、わたしを強く引き付けると<br>
「嘘だよな?」<br>
キョン君の顔には狂気や悲哀や驚嘆などいろんな感情が渦巻いていました。<br>
「………いいえ、キョン君の子です」<br>
私がそこまで言うと、わたしは顔にひどい衝撃を受け、そのまま地面に倒れ込みました。キョン君がわたしを殴ったのです。<br>
「……俺は認めないからな」<br>
「それじゃあ、おろします」<br>
わたしは痛む顔を押さえながらキョン君をキッと睨むと、そう告げました。しかし、<br>
「俺は金を払わねーぞ! おろすなら勝手におろせ!」<br></div>
<br>
<div>こう言われるのは覚悟していました。<br>
でも、わたしはなぜか心に大きな空白を感じていました。<br>
そのかわり、わたしはお腹には確かな充実感がありました。<br>
「ハルヒには絶対に言うなよ! 言ったらこんなもんじゃ済まねえぞ!」<br>
「……はい、解りました」<br>
わたしは不承不承ながらも承諾しました。でも、言ったらどうなるのでしょう?<br>
キョン君がわたしのものになるのでしょうか?<br>
「そうだな。ちょっと来い!」<br>
突然キョン君はわたしの手を引っ張り、近くの公衆トイレへと連れて行きました。<br>
休日なのに人はまばらで、トイレには誰もいないようです。<br>
「お前、妊娠してるんだよな?」<br>
「………はい」<br>
「なら丁度良いや」<br>
キョン君はわたしを男子トイレの個室に入れ、自らも入り、鍵を閉めました。<br>
わたしは直感でこのあと何をされるかが解りました。<br>
「これ以上妊娠はできないもんな」<br>
そういうと笑顔でキョン君はわたしをいじり始めました。<br>
</div>
<br>
<div>それでも、わたしはキョン君が好きでした。<br></div>
<br>
<div>
その後、わたしは毎日のようにキョン君に蹂躙される日々を送りました。<br>
わたしは少しずつ壊れていきました。<br>
痛みだけの意味のないセックス。それを繰り返し、わたしはわたしでなくなっていきました。<br>
キョン君と交わるたび、わたしは泣きました。<br>
どうすることもできず、ただ泣き続けました。<br></div>
<br>
<div>それでも、わたしはキョン君が好きでした。<br></div>
<br>
<div>そんな日々を送っていたからでしょうか、<br>
「みくるちゃん、顔がやつれてるわよ。大丈夫? 疲れてるんじゃないの?」<br>
涼宮さんがわたしに気遣ってくれました。みんなが集まる部室でのことです。<br>
「ホントだ。朝比奈さん大丈夫ですか?」<br>
キョン君もわたしを気遣うフリをします。<br>
わたしはその場で泣き出してしまいました。長机に顔を埋め、ひどく声を出して泣きました。<br>
「ど、どうしたのみくるちゃん?」<br>
声が詰まって答えることができませんでした。涼宮さんの優しい声に何か許された気がしました。<br>
「ちょっと、キョン! あんたなんかやったでしょ!」<br>
「なんもしてねーよ。どういう推測だ」<br>
「みくるちゃん。大丈夫よ。そんなに子供みたいに泣かないの」<br>
涼宮さんがわたしの髪を優しく撫でてくれます。その暖かい手にわたしは甘えてしまいそうでした。<br>
「まあ、いい。帰るぞ、ハルヒ」<br>
「あ、待ちなさいよ! みくるちゃんはどうするのよ!」<br>
「こういう時は一人にしてやるのがいいだろ?」<br>
「それもそうね。それじゃあ、帰るわねみくるちゃん。ゆっくり落ち着いたら帰りなさいよ」<br>
キョン君と涼宮さんは付き合っているのです。<br>
わたしはくしゃくしゃになった顔を上げると、目の前には涼宮さんの笑顔がありました。<br>
わたしは途方も無い殺意を感じました。そして、圧倒的な暴力の瀬戸際に立たされていました。<br>
「キョン! 待ちなさいよ!」<br>
そうして、涼宮さんはキョン君と一緒に仲良く帰って行きました。<br>
</div>
<br>
<div>それでも、わたしはキョン君が好きでした。<br></div>
<br>
<div>
部室に残されたわたしに声をかけてくる人がいました。<br>
「………大丈夫?」<br>
長門さんです。彼女がわたしを気遣ってくれるとは思いもよりませんでした。<br>
「だい、……じょぶです」<br>
わたしは涙声で途切れ途切れ言いました。<br>
「あなたは今日わたしの家に来るべき」<br>
「どうして?」<br>
「あなたを慰めてあげたいから」<br>
長門さんの口からそんな言葉が出るとは予想外でした。<br>
わたしはその言葉の通り、長門さんの家に向かいました。<br>
</div>
<br>
<div>「そこに座って」<br>
長門さんはこたつの脇を指差しました。<br>
指示通りに座ると、長門さんはお茶を持ってきてくれました。<br>
わたしは差し出されたお茶を一気に飲んでしまいました。<br>
柔らかな味のお茶は、空腹な胃の中で広がり溶けていきました。<br>
「わたしはあなたを慰めてあげたい」<br>
「あ、ありがとうございます」<br>
「でも」<br>
「でも?」<br>
「言っておかなければならないことがある」<br>
「なんですか?」<br>
「あなたはそのお腹の子を産む事はできない」<br>
「どうしてですか?」<br>
「未来が変わってしまうから」<br>
長門さんの言う事は正しいんです。過去の人との間に子供が生まれたら。<br>
それは時間を改変してしまうような大事件です。<br>
わたしは子供を授かった時、まずそれを考えました。<br>
その次に中絶について考えました。わたしは診察をしてもらおうと産婦人科を回りました。<br>
しかし、どこにいっても診察を断られました。なぜだかは理由は解りません。<br>
</div>
<br>
<div>
「長門さん。わたしのお腹の中の子供を消してくれませんか?」<br>
次に考えたのはこのことでした。長門さんの力なら何とかなるのではないかと考えたのです。<br>
「それはできない」<br>
「なぜ?」<br>
「禁則事項」<br>
「そうですか」<br>
これでわたしは中絶するすべを失いました。どうすれば、中絶できるのでしょうか?<br>
「わたしはあなたをかわいそうに思う」<br>
「哀れみはいりません」<br>
長門さんはわたしに近づくと、そっと抱きしめてくれました。<br>
「わたしはあなたが好きだから」<br>
長門さんはわたしにゆっくりとキスをしました。女の人の優しい唇です。<br>
「なんで、キスするんですか?」<br>
「わたしはあなたに憧れている」<br>
そういうと、長門さんはわたしの胸を揉み始めました。キョン君とは違い、緩やかな指使いです。<br>
わたしは、人肌を求めていました。キョン君に抱かれ続ける空虚な日々がわたしを蝕ばんでいたからです。<br>
「わたし、でも、もう、使い古された女になっちゃったの」<br>
「いいえ。あなたはとても綺麗」<br>
長門さんはまたわたしに口付けると、舌を入れてきました。<br>
わたしは無意識にそれに応じていました。長門さんの体温がわたしを癒していきました。<br>
女性の柔らかさと優しさが胸の辺りで混ざり合い、ゆったりとわたしのなかに染み渡っていきました。<br>
</div>
<br>
<div>
わたしはその後、時間の許す限り長門さんと二人で慰めあいました。<br>
わたしとは違い、綺麗な身体でした。白とピンクだけで構成された身体に、わたしは嫉妬を覚えました。<br>
</div>
<br>
<div>家に帰ると、キョン君が待っていました。<br>
おせーんだよ、その一言のあと、わたしは激しい暴力を振るわれました。<br>
顔面を殴りつけ、腹をけり、大事なところをいたぶりました。<br>
わたしが泣き喚くのにさらに腹を立てたのか、暴力はひどさを増すばかりでした。<br>
</div>
<br>
<div>
「また、みくるちゃんこけたの? ドジッ子も板についてきたわね」<br>
「そうみたいだな」<br></div>
<br>
<div>それでも、わたしはキョン君が好きでした。<br></div>
<br>
<div>今、わたしは学校の屋上にいます。<br>
未来を変えないためにわたしが思いついたのはこれだけでした。<br>
ママ、産んでくれてありがとう。パパ、何もできなくてごめんなさい。<br>
わたしは産む事はできないけど、今ならママの気持ちがわかります。<br>
</div>
<br>
<div>でも。<br></div>
<br>
<div>わたしのお腹の子は望まれたものではない。<br></div>
<br>
<div>いらない子だ。<br></div>
<br>
<div>わたしと同じ。<br></div>
<br>
<div>いらない子。<br></div>
<br>
<div>屋上はとても風が気持ちいいです。<br></div>
<br>
<div>
でも、とても心が満たされないのはなんでなの?<br></div>
<br>
<div>
未来までは見えないけど、遠くまで見渡せるわたしのお気に入りの場所。<br>
</div>
<br>
<div>
わたしはわたしについて述べるのをこれで終えようと思います。<br>
</div>
<br>
<div>ごめんなさい。<br></div>
<br>
<div>ごめんなさい。<br></div>
<br>
<div>ごめんなさい。<br></div>
<br>
<div>ママに。<br></div>
<br>
<div>パパに。<br></div>
<br>
<div>長門さんに。<br></div>
<br>
<div>涼宮さんに。<br></div>
<br>
<div>わたしに。<br></div>
<br>
<div>そして、キョン君に。<br></div>
<br>
<div>最後まで未来との通信は途絶えたままでした。<br></div>
<br>
<div>
そして、わたしはわたしとの通信が途絶えました。<br></div>
<br>
<br>
<div>
――翌日、何事も無かったかのように朝比奈みくるは登校してきた。その腹には子供はいなかったという。<br>
</div>
<br>
<div>
「朝比奈みくるの同時間同位体。つまり、コピー。これが、禁則事項」<br>
</div>
<br>
<div>ドスッ。<br></div>
<br>
<div>
――肉片となったその塊の中心で、小さな命が輝いていた。<br>
</div>
<br>
<br>
<br>
<br>
<div>それでも、キョン君が好きでした。<br></div>
<br>
<br>
<div>おしまい。<br></div>
</div>
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<div class="main">
<div>今日、わたしはキョン君に犯されました。<br />
それは突然のことでした。わたしが部室でいつものメイド服に着替えている時のことです。<br />
キョン君は不注意からなのか、ノックもなしに部室に入ってきました。<br />
私は丁度その時上を脱いでいて、上はブラジャーだけの恥ずかしい姿でした。<br />
「あ、キョン君。わたしまだ着替えて……」<br />
わたしは声をあげようとしましたが、キョン君のいつもとは違う顔つきに怯んでしまいました。<br />
ごめんなさい、その言葉をわたしは期待していましたが、叶うことはありませんでした。<br />
キョン君は無言でわたしに近づくと、わたしが持っていた服でなんとか隠していた胸をとても強く掴みました。<br />
「痛っ!」<br />
あまりの痛みに声をあげてしまいました。でも、それだけしかあげることはできませんでした。<br />
キョン君のあまりの形相にわたしは完全に腰砕け状態だったのです。<br />
それに、わたしはキョン君に淡い恋心を抱いていましたから、キョン君がわたしを求めてくれるのは少し嬉しくもありました。<br />
しかし、それは幻想に過ぎなかったとすぐに思い知らされました。<br />
キョン君はいつもの紳士的なキョン君ではなく、目の前でわたしを壊そうとする一人の男だったからです。<br />
キョン君は私が持っていた服を強引に奪い取り、そのままの勢いでブラジャーも引きちぎりました。<br />
それ以降にされた陵辱を詳しく語ることはできません。<br />
わたしはキョン君の侵入を許しました。それだけを述べて終わりにしたいと思います。</div>
<div>わたしはその事実を認めるのに数日を要しました。<br />
あの出来事は無かったと思われるぐらいキョン君はいつも通りの笑顔で、わたしを見てくれていたからです。<br />
そして、わたしもあの事は無かったことにしようと思っていた頃。<br />
それは、唐突に突きつけられました。</div>
<div>わたしは妊娠していたのです。<br />
もちろん、相手はキョン君以外にいません。<br />
でも、わたしには相談できる相手がいませんでした。<br />
鶴屋さんはお父さんの長期海外出張についていくと理由で学校にいませんでしたし、<br />
涼宮さんに相談するわけにはいきません。<br />
最も怖かったのは、未来への通信ができなくなっていたことでした。<br />
意を決して、キョン君に妊娠の事実を伝えることにしました。<br />
なぜなら、わたしは今でも彼が好きだったからです。</div>
<div>チャンスはすぐに訪れました。<br />
市内探索でキョン君と一緒になったからです。<br />
わたしはとても緊張していました。キョン君だって高校生です。<br />
妊娠なんて言ったら、おろしてくれって言われることは覚悟していました。<br />
「あの、キョン君」<br />
「なんですか、朝比奈さん?」<br />
「………わたし、妊娠しちゃったの」<br />
「彼氏いたんですか?」<br />
「いいえ」<br />
「じゃあ、誰も子供なんです?」<br />
「………キョン君の子供です」<br />
キョン君はわたしの襟首を掴み、わたしを強く引き付けると<br />
「嘘だよな?」<br />
キョン君の顔には狂気や悲哀や驚嘆などいろんな感情が渦巻いていました。<br />
「………いいえ、キョン君の子です」<br />
私がそこまで言うと、わたしは顔にひどい衝撃を受け、そのまま地面に倒れ込みました。キョン君がわたしを殴ったのです。<br />
「……俺は認めないからな」<br />
「それじゃあ、おろします」<br />
わたしは痛む顔を押さえながらキョン君をキッと睨むと、そう告げました。しかし、<br />
「俺は金を払わねーぞ! おろすなら勝手におろせ!」</div>
<div>こう言われるのは覚悟していました。<br />
でも、わたしはなぜか心に大きな空白を感じていました。<br />
そのかわり、わたしはお腹には確かな充実感がありました。<br />
「ハルヒには絶対に言うなよ! 言ったらこんなもんじゃ済まねえぞ!」<br />
「……はい、解りました」<br />
わたしは不承不承ながらも承諾しました。でも、言ったらどうなるのでしょう?<br />
キョン君がわたしのものになるのでしょうか?<br />
「そうだな。ちょっと来い!」<br />
突然キョン君はわたしの手を引っ張り、近くの公衆トイレへと連れて行きました。<br />
休日なのに人はまばらで、トイレには誰もいないようです。<br />
「お前、妊娠してるんだよな?」<br />
「………はい」<br />
「なら丁度良いや」<br />
キョン君はわたしを男子トイレの個室に入れ、自らも入り、鍵を閉めました。<br />
わたしは直感でこのあと何をされるかが解りました。<br />
「これ以上妊娠はできないもんな」<br />
そういうと笑顔でキョン君はわたしをいじり始めました。</div>
<div>それでも、わたしはキョン君が好きでした。</div>
<div>その後、わたしは毎日のようにキョン君に蹂躙される日々を送りました。<br />
わたしは少しずつ壊れていきました。<br />
痛みだけの意味のないセックス。それを繰り返し、わたしはわたしでなくなっていきました。<br />
キョン君と交わるたび、わたしは泣きました。<br />
どうすることもできず、ただ泣き続けました。</div>
<div>それでも、わたしはキョン君が好きでした。</div>
<div>そんな日々を送っていたからでしょうか、<br />
「みくるちゃん、顔がやつれてるわよ。大丈夫? 疲れてるんじゃないの?」<br />
涼宮さんがわたしに気遣ってくれました。みんなが集まる部室でのことです。<br />
「ホントだ。朝比奈さん大丈夫ですか?」<br />
キョン君もわたしを気遣うフリをします。<br />
わたしはその場で泣き出してしまいました。長机に顔を埋め、ひどく声を出して泣きました。<br />
「ど、どうしたのみくるちゃん?」<br />
声が詰まって答えることができませんでした。涼宮さんの優しい声に何か許された気がしました。<br />
「ちょっと、キョン! あんたなんかやったでしょ!」<br />
「なんもしてねーよ。どういう推測だ」<br />
「みくるちゃん。大丈夫よ。そんなに子供みたいに泣かないの」<br />
涼宮さんがわたしの髪を優しく撫でてくれます。その暖かい手にわたしは甘えてしまいそうでした。<br />
「まあ、いい。帰るぞ、ハルヒ」<br />
「あ、待ちなさいよ! みくるちゃんはどうするのよ!」<br />
「こういう時は一人にしてやるのがいいだろ?」<br />
「それもそうね。それじゃあ、帰るわねみくるちゃん。ゆっくり落ち着いたら帰りなさいよ」<br />
キョン君と涼宮さんは付き合っているのです。<br />
わたしはくしゃくしゃになった顔を上げると、目の前には涼宮さんの笑顔がありました。<br />
わたしは途方も無い殺意を感じました。そして、圧倒的な暴力の瀬戸際に立たされていました。<br />
「キョン! 待ちなさいよ!」<br />
そうして、涼宮さんはキョン君と一緒に仲良く帰って行きました。</div>
<div>それでも、わたしはキョン君が好きでした。</div>
<div>部室に残されたわたしに声をかけてくる人がいました。<br />
「………大丈夫?」<br />
長門さんです。彼女がわたしを気遣ってくれるとは思いもよりませんでした。<br />
「だい、……じょぶです」<br />
わたしは涙声で途切れ途切れ言いました。<br />
「あなたは今日わたしの家に来るべき」<br />
「どうして?」<br />
「あなたを慰めてあげたいから」<br />
長門さんの口からそんな言葉が出るとは予想外でした。<br />
わたしはその言葉の通り、長門さんの家に向かいました。</div>
<div>「そこに座って」<br />
長門さんはこたつの脇を指差しました。<br />
指示通りに座ると、長門さんはお茶を持ってきてくれました。<br />
わたしは差し出されたお茶を一気に飲んでしまいました。<br />
柔らかな味のお茶は、空腹な胃の中で広がり溶けていきました。<br />
「わたしはあなたを慰めてあげたい」<br />
「あ、ありがとうございます」<br />
「でも」<br />
「でも?」<br />
「言っておかなければならないことがある」<br />
「なんですか?」<br />
「あなたはそのお腹の子を産む事はできない」<br />
「どうしてですか?」<br />
「未来が変わってしまうから」<br />
長門さんの言う事は正しいんです。過去の人との間に子供が生まれたら。<br />
それは時間を改変してしまうような大事件です。<br />
わたしは子供を授かった時、まずそれを考えました。<br />
その次に中絶について考えました。わたしは診察をしてもらおうと産婦人科を回りました。<br />
しかし、どこにいっても診察を断られました。なぜだかは理由は解りません。</div>
<div>「長門さん。わたしのお腹の中の子供を消してくれませんか?」<br />
次に考えたのはこのことでした。長門さんの力なら何とかなるのではないかと考えたのです。<br />
「それはできない」<br />
「なぜ?」<br />
「禁則事項」<br />
「そうですか」<br />
これでわたしは中絶するすべを失いました。どうすれば、中絶できるのでしょうか?<br />
「わたしはあなたをかわいそうに思う」<br />
「哀れみはいりません」<br />
長門さんはわたしに近づくと、そっと抱きしめてくれました。<br />
「わたしはあなたが好きだから」<br />
長門さんはわたしにゆっくりとキスをしました。女の人の優しい唇です。<br />
「なんで、キスするんですか?」<br />
「わたしはあなたに憧れている」<br />
そういうと、長門さんはわたしの胸を揉み始めました。キョン君とは違い、緩やかな指使いです。<br />
わたしは、人肌を求めていました。キョン君に抱かれ続ける空虚な日々がわたしを蝕ばんでいたからです。<br />
「わたし、でも、もう、使い古された女になっちゃったの」<br />
「いいえ。あなたはとても綺麗」<br />
長門さんはまたわたしに口付けると、舌を入れてきました。<br />
わたしは無意識にそれに応じていました。長門さんの体温がわたしを癒していきました。<br />
女性の柔らかさと優しさが胸の辺りで混ざり合い、ゆったりとわたしのなかに染み渡っていきました。</div>
<div>わたしはその後、時間の許す限り長門さんと二人で慰めあいました。<br />
わたしとは違い、綺麗な身体でした。白とピンクだけで構成された身体に、わたしは嫉妬を覚えました。</div>
<div>家に帰ると、キョン君が待っていました。<br />
おせーんだよ、その一言のあと、わたしは激しい暴力を振るわれました。<br />
顔面を殴りつけ、腹をけり、大事なところをいたぶりました。<br />
わたしが泣き喚くのにさらに腹を立てたのか、暴力はひどさを増すばかりでした。</div>
<div>「また、みくるちゃんこけたの? ドジッ子も板についてきたわね」<br />
「そうみたいだな」</div>
<div>それでも、わたしはキョン君が好きでした。</div>
<div>今、わたしは学校の屋上にいます。<br />
未来を変えないためにわたしが思いついたのはこれだけでした。<br />
ママ、産んでくれてありがとう。パパ、何もできなくてごめんなさい。<br />
わたしは産む事はできないけど、今ならママの気持ちがわかります。</div>
<div>でも。</div>
<div>わたしのお腹の子は望まれたものではない。</div>
<div>いらない子だ。</div>
<div>わたしと同じ。</div>
<div>いらない子。</div>
<div>屋上はとても風が気持ちいいです。</div>
<div>でも、とても心が満たされないのはなんでなの?</div>
<div>未来までは見えないけど、遠くまで見渡せるわたしのお気に入りの場所。</div>
<div>わたしはわたしについて述べるのをこれで終えようと思います。</div>
<div>ごめんなさい。</div>
<div>ごめんなさい。</div>
<div>ごめんなさい。</div>
<div>ママに。</div>
<div>パパに。</div>
<div>長門さんに。</div>
<div>涼宮さんに。</div>
<div>わたしに。</div>
<div>そして、キョン君に。</div>
<div>最後まで未来との通信は途絶えたままでした。</div>
<div>そして、わたしはわたしとの通信が途絶えました。</div>
<div>――翌日、何事も無かったかのように朝比奈みくるは登校してきた。その腹には子供はいなかったという。</div>
<div>「朝比奈みくるの同時間同位体。つまり、コピー。これが、禁則事項」</div>
<div>ドスッ。</div>
<div>――肉片となったその塊の中心で、小さな命が輝いていた。</div>
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<div>それでも、キョン君が好きでした。</div>
<div>おしまい。</div>
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