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「『エアコン』」(2007/01/15 (月) 03:56:04) の最新版変更点
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<p>
高校2年の始めから、ハルヒが俺の成績を許さずスパルタ家庭教師のおかげで廊下の掲示に<br>
名前が載るほど秀才になっちまった俺は無事ハルヒと同じ地方都市の府立大学へ進学し<br>
今もハルヒと行動を共にしている。あぁ、もちろん他の団員も一緒だぞ。<br>
<br>
朝比奈さんも同じ大学1回生だ。昨年大学受験に失敗し、膝から崩れ落ちた朝比奈さんを<br>
慰めるのは、そりゃぁ大変だったが……まぁそんな話は、またの機会に<br>
今回は大学生の頃、夏のある日のお話。<br>
<br>
<br>
<br>
<熱帯夜>という言葉をご存知だろうか?気象庁の公式用語で、夜間の最低気温が25度以上の時に<br>
用いる言葉である。<br>
また、公式には認められていないがNEWS等の報道では夜間最低気温が30度を下回らない夜を<br>
<超熱帯夜>と言っているらしい。<br>
そんな事はどうでもいい。ついでにネーミングセンスも、ど~でもいい。<br>
<br>
<br>
<br>
「暑い!」<br>
あまりの暑さに一瞬にして目が覚める。懐かしい昔の夢を見ていた気もするが、とにかく暑い、体も熱い。<br>
寝巻き代わりのTシャツの襟まわりを確認しても、寝汗でしっとりと濡れている。<br>
<br>
暑さと寝起きのぼーっとした頭で時計を確認……午前5時頃、窓の外を見れば<br>
空が白んで夜が明けようとしていた。<br>
太陽も毎日ご苦労なこった、などと毒づきながらエアコンを起動させるためリモコンを探す。<br>
<br>
我が家では、睡眠中ずっとエアコンを作動させるのは健康に悪いという方針のため就寝前に<br>
3時間程度のタイマーをかけて寝るようにしているのだが、暑さのせいで睡眠妨害される方が健康に<br>
悪い気がするのは気のせいだろうか? <br>
<br>
ベッド横に置いてある小さなテーブルの上にリモコンを発見し、手を伸ばして取ろうとするが<br>
寝起きのためなのか、体がうまく動かない。<br>
リモコンに手が届きそうで届かない、しばらくジタバタ頑張ってみたが徒労に終わった。<br>
<br>
さて、どうすればリモコンを手に入れる事ができるのか悩んでいると<br>
首筋に、何者かの荒い息づかいを感じた。<br>
「汗臭いの~、キョンクサイのぅ~」<br>
なんか呟いてる!なんかブツブツ囁いてる!鼻息荒いよ!<br>
あぁ、夏だもんな、幽霊や妖怪の類が出る季節だし仕方ないよなぁと1人で納得し<br>
枕元の上の方に置いてある円筒状の容器を手探りで探す。タブレット(粒状)のガムが入ってるやつだ。<br>
<br>
お清めの塩でも入っていればベストだったんだが、残念ながらガムしか無いので<br>
仕方なしに、首筋に居座る妖怪に、ガムを2粒献上する。渡す時に指をねっとりと舐め回された気がするが<br>
気にせず自分もガムを取り出し口に放り込んだ。<br>
<br>
無言で背後の妖怪と一緒にガムを噛み続けるのもシュールなので……ちょっと小話を<br>
<br>
唾液とは、非常にありがたい物である。いや、性的な意味じゃなくて。<br>
唾液に含まれる物質<リゾチーム><ラクトフェリン>などの酵素により、殺菌・抗菌作用があり<br>
口腔内の細菌・雑菌の繁殖を抑えてくれている。<br>
しかし、人間は睡眠中に唾液の分泌が覚醒時に比べ極端に少なくなり、<br>
細菌等の増殖により、寝起き時の口臭はどんな人間でも破壊的に臭いのである。<br>
<br>
起床時の大量に増殖した細菌を、そのまま水を飲む等の行為により、体内に吸収した場合<br>
腹痛や下痢の原因の1つとなるので、就寝前、起床後の歯磨きを俺は勧める。<br>
<br>
<br>
<br>
歯磨きを勧めながら、俺は何故ガムを噛んでいるかと言うと<br>
高校1年の入学式からずっと背後にとりついている世界一可愛い妖怪に話しかけるためだ。<br>
親しき仲にも礼儀あり、口臭キツイ状態で甘い言葉を囁いても意味ないだろ?<br>
<br>
「起きていたのか? 寝汗クンクン妖怪ハルヒ」<br>
我がネーミングセンスも、<超熱帯夜>と同じぐらいど~でもいい。<br>
<br>
ハルヒが先に起きていたのも解っていた、エアコンのリモコンを取れないように<br>
俺の首にハルヒが両手を、両足は俺の片足にガッチリと絡めて動けないようにしていたからだ。<br>
片方の腕に柔らかい圧力を感じながら、このまま二度寝するのも良いかなぁと思ったが<br>
「おまえも暑いだろ?エアコン点けたいから拘束を弛めてくれ」<br>
<br>
いつもなら返事があるのだが、あまりのネーミングセンスの悪さに憤慨したのか<br>
答える気配もなく首筋に顔を埋めクンクンと鼻を鳴らし続けている。<br>
ん~、どうしたもんかね……とにかく暑い上に体が密着して熱いんだが……<br>
<br>
ふと首に絡まった腕の力が弱まり、同時に俺の体に自分の体で覆うようによじ登って<br>
馬乗りの状態になり、強引に唇を奪われた。意味がわからん!<br>
ちょっとした抵抗として歯を閉じて唇の進入を防ぐ傍ら、俺はTシャツを着ているが<br>
下は履いていたかな?ハルヒは先の拘束時の感触から全裸っぽい……などと悩む<br>
このままでは体の一部がエロい…いや、えらい事になる<br>
まぁ、朝だし既にえらい事になっているんだが、気分の問題だ<br>
<br>
そんな事を考えつつ、欲望と葛藤をくりひろげている間もハルヒは舌を侵入させようと<br>
唇で俺の唇を軽く挟んでみたり、舌で俺の唇を舐め上げたり、<br>
時々閉じた歯が開いていないか確認しに歯をなぞりに来たりと、努力していた<br>
ミントガムの香りが鼻腔をくすぐる……可愛いな<br>
<br>
一瞬、気を許した隙にハルヒの舌が侵入してきて俺の口腔内を蹂躙する。<br>
ガムの存在に気付いたハルヒは、形の良い綺麗な眉を歪めたが器用に俺の中からガムを奪うと<br>
唇を離した、よっぽど俺の顔が残念そうにしていたのか、ハルヒは妖艶な笑みを作り<br>
得意気にフフン♪と鼻を鳴らしながら、手近に置いてあるティッシュを取り<br>
2人分のガムをティッシュに包んでポイッと床へ放り投げた。<br>
こらっ、ちゃんとゴミ箱に捨てなさいっ。<br>
<br>
ハルヒは俺の目を覗き込むように顔を近づけてキスの続きをするのかと思いきや、寸前で止めて<br>
俺の唇に吐息を吹きかけたり、舌をペロッとだして唇を舐めてきたり<br>
どうやら誘っているようだ、先ほど歯を閉じて妨害した事に対しての報復らしい、<br>
続きがしたければこっちからって事か……我慢できるわけ無いだろ<br>
<br>
キスの続きをしたい衝動を抑え切れる自信は無いが、<br>
ハルヒとずっと体が密着しているためか、異常に暑い、まずはエアコンだ<br>
テーブルの方へ手を伸ばすが、やはりわずかに届かない……<br>
<br>
仕方ないので、空いた方の手をハルヒの頭へ回し抱き寄せて首筋にキスをする<br>
濃く甘いハルヒの匂いに包まれながら首筋に舌を這わせる。<br>
甘い香りに反して汗のしょっぱい味がした、そりゃぁお互い熱いからな<br>
<br>
口だと動きづらいので首筋のキスで誤魔化しつつ<br>
モゾモゾと動き、リモコンの方へ体を移動させ……指先が触れた。<br>
後は手繰り寄せてスイッチを押せばOKだ<br>
<br>
不意にハルヒが両手で挟んで俺の頭を固定し唇を奪い、乱暴に舌を捩じ込ませる<br>
迂闊、リモコンに気を取られ対処する間も無かった。<br>
<br>
でも、暑いんだ!ここで諦める訳にはいかん、俺はジタバタもがきつつ<br>
顔を左右に傾けてみるが、ハルヒは追いかけるように動き、唇を離そうとしない、<br>
逃げ切れない!なんだか、犯されている気分だ……ギュッとシーツを握っちゃうぞコラっ!<br>
<br>
乱暴に口を犯されながらも、指先にかかるリモコンを必死に手繰り寄せようと力を込めた時<br>
それは俺の指先から離れ机の上から滑り落ち、固い音と共に床へ落ちた。<br>
終わった……我が深謀が潰えた……ちょっとだけ涙いた……<br>
<br>
目的を失いグッタリとした俺の口を犯すハルヒ<br>
放心し抵抗しなくなった俺に舌を動かしながら満足気にニヤリとするハルヒ<br>
『あたしの勝ちね』と顔に書いてあるような微笑を見ながら負けを認めた。<br>
もういいさ、暑いけどエアコンの事は忘れて楽しめば良いんだろチキショー<br>
<br>
……頬にかかるハルヒの鼻息がくすぐったくも気持ち良い<br>
ハルヒの舌はダンスのお誘いのように俺の舌を刺激し、無意識の内に俺は誘いを受け<br>
自然と舌を絡ませ合い、舌を軽く吸ってみたり、優しく噛んでみたり<br>
あぁ、頭がバカになっていく……<br>
体の力が全部抜けて首から上だけしか感覚が無いような、幸せが全身に広がっていくような<br>
<br>
たっぷり10数分の長く永い、熱く、そして暑いキスを堪能したハルヒは<br>
唇を離しフゥ~っと熱い吐息をはきながら満足そうに小悪魔的微笑を浮かべた。<br>
良かったなハルヒ、こっちは終始犯され気分で処女のように泣いちゃいそうなんだぞ<br>
<br>
「あたしの事、好きよね?」<br>
突然ガシッと俺の両肩を掴んで質問するハルヒ<br>
「なにをいまさ―――」<br>
「い~から答えなさい」<br>
やっとまともに会話したかと思ったら、普通はキスの前に甘い言葉を交わすんじゃないか?<br>
まぁ、ハルヒは普通じゃないから可愛いんだが<br>
「大好きだぞ、ハルヒ」<br>
そう聞くと、目を瞑り納得するようにウンウンと2度ほど頷くハルヒ<br>
肩を掴んだ手に力が入り、爪が刺さり少し痛みを覚えた。<br>
「ま、有希や、みくるちゃん名前がでなかっただけ、まだマシだったけどね」<br>
「なにがだ?」<br>
と、俺の質問を無視しキョロキョロと何かを探すハルヒ<br>
相変わらず訳の解らん会話をするヤツだな<br>
<br>
それにしても、長門と朝比奈さんの名前がなんだって?全く意味が解らん<br>
<br>
頭を悩ませる俺をよそに、何か探していたハルヒは目的の物を見つけたようで<br>
馬乗りのまま腰を捻り、ベッドから身を乗りだし<br>
「あっついわね~」<br>
と言いつつ机の下に落ちたリモコンを事も無げに拾い<br>
無造作にスイッチを押す。無機質な電子音が部屋に響き、エアコンの低い作動音が聞こえた。<br>
<br>
ちょ、お、おまえ……人の苦労も知らずに……<br>
こちらを見てニヤッと笑った……確信犯か!<br>
お互い汗だくなのに勝ち誇られても全然悔しくないがな<br>
<br>
手を伸ばし机の上にリモコンを置いたハルヒは未だにマウントポジションを維持したまま<br>
左手を腰に当て、右手をまっすぐ伸ばして俺の胸に手を当てる。<br>
淡い陽光の中、下から見上げた汗に輝くハルヒは幻想的な一枚の絵画のように美しいな<br>
まぁかなり機嫌が悪い時の笑顔を作りながら目が怒っている表情じゃなければ<br>
素直に綺麗だと感想が言えたんだが、何を怒ってんだ?<br>
<br>
「で? 言い訳は聞いてあげなくもないわよ?」<br>
「なんの事だよ?」<br>
いやいや、そんな『なんで解んないの?このバカ』みたいな顔されても<br>
さっきの会話からは何も解らないし、何怒っているのかも解らん<br>
<br>
ハァ~~~っと心底、呆れたように長い溜息を吐いてから<br>
「さっき見てた夢を話しなさい、覚えてんでしょ?」<br>
<br>
……なるほど、良く解った。怒りの原因がな<br>
確かに懐かしい夢を見ていたさ、ハルヒと出会う前の中学の頃の夢を。<br>
国木田曰く『変な女』の夢だ。<br>
<br>
外見はハルヒに劣るが不思議な力を抜きにすれば、ハルヒに似ていたな。<br>
黒髪のショートカットでメガネっ娘、整った顔立ちで性格が男勝り、<br>
小学校からの付き合いで友達のように話していた女の子で<br>
学校一の秀才、スポーツ万能、楽器もギター、ピアノ、ドラムと何でもできて<br>
自慢できる親友だった。<br>
<br>
中学に上がってからは、クラスが分かれたが、お互い妙に達観した賢しい性格だったため<br>
クラスに馴染めず、俺はその女のクラスに毎休み時間ごと入り浸って話をしていた。<br>
話す話題に困る事は無かった。お互い皮肉を言ってニヤリと笑い合ったり<br>
哲学的な引用の後にボケかましたり、最近読んだ小説の批評など<br>
およそ中学生とは思えない色気の全く無い会話だったが<br>
当然1ヶ月も経たない内に学年中で噂になった。<br>
<br>
今までずっと友人として見ていたのに噂のせいで異性を感じさせられた俺は<br>
急に照れてしまい、休み時間になっても女のクラスに行かず机に突っ伏して<br>
悩むようになった……5分だけな。<br>
顔を伏せていた俺は誰かに脇腹をつっつかれ『うひゃぁ』と情けない声をあげた<br>
その女が俺のクラスに呶鳴り込んで来たわけだ。<br>
『おはよう、なんで来ないの?』『あぁ、すまんな』の会話だけで<br>
周りの女子から黄色い声があがり俺達は学校公認カップルにされてしまった。<br>
まぁ、その女は気にしてないみたいだったが……<br>
<br>
その後も俺達は普通に友人として付き合っていたが、中学2年になってもクラスは違うし<br>
秀才女と凡人男という差も変わらなかった。<br>
自分の中で区切り線を引いていたのかも知れない、あいつに相応しい男じゃないと。<br>
だからずっと友人のままで居たかった。<br>
<br>
一緒に学校から帰ったりもしていた。彼女は書道部だったが部員1人でコンクールの時だけ<br>
作品だして入賞するという神技っぷりで、普段の部活は学習塾があるため活動せず帰宅。<br>
俺は帰宅部という事で、帰り道の短いデートを楽しんでいた。<br>
といっても、いつも通りの会話で、あの先生の授業は教え方が悪いだとか<br>
体育の先生の目がエロくて困るとか、その目が俺にそっくりだと言って笑ったり<br>
楽しい時間だったわけだが。<br>
<br>
体育の教師を廊下で呼び止めて、<br>
大声で「先生の目が大変エロいと多くの女子から苦情が出てますよ」と忠告し<br>
狼狽した教師が震える声で強がり言って去っていき。<br>
陰で見ていた彼女とハイタッチを交わした後、ニヤリと笑い合い<br>
周りの女子からも歓声を浴びるという事件もあったな。<br>
俺の内申点は下がる一方だったが、楽しかったからまぁ良い思い出だ<br>
<br>
そんな日々が、ずっと続けば良いと思っていたが<br>
彼女は学校創立以来、初めての女性生徒会長になった。<br>
友人として誇らしい気持ちで嬉しくもあったが、自分の中の区切り線が決定的になった<br>
瞬間でもあった。<br>
生徒会のせいでお互い帰る時間も違ってしまい。疎遠になっていった。<br>
<br>
そのまま彼女は高校受験のため、学業に専念し、3年の頃には廊下で立ち話程度。<br>
彼女は県外の私立の名門進学校へ無事合格し、俺は平凡な北校へ進学となった。<br>
中学の卒業式でも、ちょっとした『がんばれよ』『うん、またね』程度の会話と<br>
ちょっとした出来事で、あっさりしたもんだった。<br>
<br>
以上、今朝見た夢の国木田曰く『変な女』もとい『変な関係の女』の回想終了。<br>
国木田から見たら、高校の時のハルヒとの関係も似たように見えたのかもな。<br>
</p>
<p><br>
さて、全裸のハルヒにマウントポジションで詰問されていた訳だが<br>
回想していた俺が、なかなか答えないので眉をピクピクさせながら<br>
「知らない女の名前、寝言で言ってたんだけど?」<br>
ハッキリとイライラしながら解りやすく質問してくれた。<br>
<br>
そう怒る程の事でも無いさ、昔の淡い恋心にすらならなかった古い話だ。<br>
正直に言えば、おまえも納得してくれるに違いない。<br>
<br>
「さぁな、寝起きから刺激的すぎて、どんな夢だったか忘れちまったよ」<br>
あっれぇ~?震える声で何言ってんだろぅねぇ~、俺……<br>
100%嘘ってバレたな、正直に話そうと思ってたんだが、なんで口が勝手に……<br>
<br>
いや、別にやましい事はないぞ、<br>
手はつないだりしたが、キスは……したなぁ、<br>
でもディープキスは……やったなぁ、あいつの家の少女漫画の影響のイキオイで……<br>
乳も揉んだ……ブラの上からじゃ、なんか痛いって事でナマ乳を……<br>
えっちはしてないぞ、中学生だったし。危ない雰囲気だったけどな<br>
うむ、やましい事は何も無い!って事もないのは解らんでもない気がしなくもない。<br>
<br>
あぁ、ハルヒ、睨みながら涙目になるな、浮気なんかする訳無いだろ。<br>
古泉の機関が用意したっぽい格安の高級賃貸マンションで同棲しながら府立大学行っているのに、<br>
バイト先も一緒だし、浮気する暇があるわけない。<br>
正直に話すぞ、古い昔の話だって事をな、悲しませてゴメンな、ハルヒ<br>
</p>
<p><br>
「……すまん」<br>
パァン!ひどく乾いた音が響いた…ナイスビンタだハルヒ、そして死んじまえ俺!<br>
浮気を認めたと勘違いされても仕方ない返答してんじゃねぇよ!<br>
「ハルヒ、おちつ――」<br>
パァン!<br>
「ちがっ、ま、まてって」<br>
パァン!<br>
「現在進行形で浮気できる訳ないだろ」<br>
パァン!<br>
だんだん頬の感覚が無くなってきたが、まだ勘違いされそうな言い方してる俺って……<br>
「聞いてくれ、古い昔の思い出だ」<br>
ゴンッ!……グーか!?ハルヒ、グーできたよな…大学行ける顔かなぁ、いや生きて部屋から出れるのか?<br>
古泉は早朝から神人とスパーリングかもな、すまん。<br>
<br>
「ハルヒと出会う前の中学時代の淡く幼稚な片想いの話だ」<br>
ハルヒからはビンタもパンチの襲撃もこなかった。助かった……<br>
未だに冷たい目で続きを話すように促されているが……<br>
<br>
「落ち着いたか? 本当に浮気なんてしてないぞ、<br>
中学時代の相手とも、キスすらした事も無い、ただの片想いだ」<br>
よしっ、冷静に言えた。嘘言っちゃったけどな、がんばれ俺!<br>
<br>
「ほんとに?」<br>
「ほんとだ」<br>
もう一押し、ファイトだ、応援してるぞ、俺!<br>
「第一、最初にハルヒの事が大好きだって言ったろ、あの言葉に偽りは無い」<br>
<br>
「……バカ……罰ゲームね」<br>
微笑を浮かべながら、やさしく宣告する。<br>
内心、俺は小躍りして喜んでいた、誤魔化せた…いやハルヒの機嫌が直ったからだ<br>
頑張った俺おめでとうっ!<br>
<br>
サッと俺の上から退いて机の上のルーズリーフとペンを取り俺の横に寝なおすハルヒ<br>
「まずは、掃除1ヶ月っと」<br>
我が罰を告げながらサラサラッとペンを走らす。<br>
「炊事は、あんたヘタだけど我慢して食べたげるわ、それと洗濯ね」<br>
などと嬉しそうに次々と判決文を作成していった。<br>
<br>
「えっちは、3…ん~2週間禁止、キスは2日禁止ってとこね」<br>
「そいつぁ、厳しいな」<br>
俺の反論を無視してメモるな、えっちはまぁ雰囲気とか流れで、減刑か恩赦を受けるって事で<br>
なんとかなりそうだが、キスの方はキッチリ守りそうで怖いな。2日分ゴム代節約って事か……<br>
<br>
判決の途中だし、まだ刑の執行はされてないから、今襲っちゃうか?などと思案していると<br>
「後で、昔の女とどこまでヤってたか、ちゃんと話しなさいよ」<br>
と、さも今思い出したかのごとく普通のトーンで言い放った。<br>
<br>
「キョンて高校の時、お互い素直になった後も、団の方を優先したいから<br>
高校卒業まで待ってくれって真剣に説得してきたくせにさ、2人きりになると良いタイミングで<br>
大人のキスしたり、ブラ外して直接ムネ触ったり、ずいぶん慣れてたわよね?<br>
どんだけエロいねん!って手の甲でツッコミかけたもんよ」<br>
ケラケラと笑いながらツッコミの動作をするハルヒ、目が据わっていて怖いぞ…<br>
<br>
俺は、そんなハルヒの横顔を見ながら、何も言えず、ただただ顔を引き攣らせていた。<br>
「その女と、中学の卒業式の後、校門の前で抱き合いながら、なが~いキスしてたんだってね?<br>
この情報、国木田だっけ?あの子から裏とってあるわ、簡単に吐いてくれたけどね。<br>
ずいぶん壮大な片想いだったみたいねぇ、お互い片想いとか?笑っちゃうわ」<br>
<br>
<br>
ハルヒは人差し指をピンと立て、俺を指差し、ニヤニヤと笑いながら死刑宣告を告げた。<br>
</p>
<p><br>
ζ エピローグ ζ<br>
<br>
死刑宣告を告げたハルヒは、その後も罰ゲームの判決文を作成し続けていた。<br>
俺の方はというと、朝日が眩しいのに目を見開き、瞳孔も開いていた、と思う……<br>
ハルヒの不思議パワーでマジで死んだわけじゃないけどな。<br>
指一本動かす気力も無かったんだ。<br>
<br>
完成した判決文を嬉しそうにハルヒが読み上げる声も、ほとんど聞こえなかった。<br>
恐ろしい数の雑用と、事細かな指示の合間に<br>
『またペアブレスレット買え』とか『皮製の首輪の着用(生涯)』や『子供の世話を積極的に』<br>
『十年以内に犬を洗えそうな庭付き一戸建て』などと<br>
金銭的、隷属的、未来的、笹の葉ラプソディ的な罰が混じってた気がする……<br>
言った後に文書から目だけ覗かせチラッと俺の反応を確認してるし、<br>
さり気無く判決文に混ぜた意味が無くなるだろ?<br>
<br>
<br>
殴られた両頬がヒリヒリと熱いし、国木田は簡単に喋るし<br>
ハルヒも、知らない女の名前とか言ってたくせに、情報つかんで知っていたし……<br>
殴られ損じゃないか?まぁ、ハルヒの気晴らしにはなっただろうが。<br>
<br>
それに今日は大学に行けそうもないな、たぶん買い物だろう、ブレスレットか……<br>
その前に判決文の読み上げが終われば、正直に過去を話さなくちゃいけないんだろうな<br>
許してくれるだろうか?外出できるほど、顔の原形が残るだろうか?<br>
<br>
などと不毛な事を思いながら、背筋を走る悪寒と、全身を襲う寒気を感じ<br>
エアコンの冷房設定温度を地球環境と俺のために2℃上げるべきだ、と思っていた。<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
あとがき。</p>
</div>
<!-- ad -->
<div class="main">
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高校2年の始めから、ハルヒが俺の成績を許さずスパルタ家庭教師のおかげで廊下の掲示に<br>
名前が載るほど秀才になっちまった俺は無事ハルヒと同じ地方都市の府立大学へ進学し<br>
今もハルヒと行動を共にしている。あぁ、もちろん他の団員も一緒だぞ。<br>
<br>
朝比奈さんも同じ大学1回生だ。昨年大学受験に失敗し、膝から崩れ落ちた朝比奈さんを<br>
慰めるのは、そりゃぁ大変だったが……まぁそんな話は、またの機会に<br>
今回は大学生の頃、夏のある日のお話。<br>
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<熱帯夜>という言葉をご存知だろうか?気象庁の公式用語で、夜間の最低気温が25度以上の時に<br>
用いる言葉である。<br>
また、公式には認められていないがNEWS等の報道では夜間最低気温が30度を下回らない夜を<br>
<超熱帯夜>と言っているらしい。<br>
そんな事はどうでもいい。ついでにネーミングセンスも、ど~でもいい。<br>
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「暑い!」<br>
あまりの暑さに一瞬にして目が覚める。懐かしい昔の夢を見ていた気もするが、とにかく暑い、体も熱い。<br>
寝巻き代わりのTシャツの襟まわりを確認しても、寝汗でしっとりと濡れている。<br>
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暑さと寝起きのぼーっとした頭で時計を確認……午前5時頃、窓の外を見れば<br>
空が白んで夜が明けようとしていた。<br>
太陽も毎日ご苦労なこった、などと毒づきながらエアコンを起動させるためリモコンを探す。<br>
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我が家では、睡眠中ずっとエアコンを作動させるのは健康に悪いという方針のため就寝前に<br>
3時間程度のタイマーをかけて寝るようにしているのだが、暑さのせいで睡眠妨害される方が健康に<br>
悪い気がするのは気のせいだろうか? <br>
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ベッド横に置いてある小さなテーブルの上にリモコンを発見し、手を伸ばして取ろうとするが<br>
寝起きのためなのか、体がうまく動かない。<br>
リモコンに手が届きそうで届かない、しばらくジタバタ頑張ってみたが徒労に終わった。<br>
<br>
さて、どうすればリモコンを手に入れる事ができるのか悩んでいると<br>
首筋に、何者かの荒い息づかいを感じた。<br>
「汗臭いの~、キョンクサイのぅ~」<br>
なんか呟いてる!なんかブツブツ囁いてる!鼻息荒いよ!<br>
あぁ、夏だもんな、幽霊や妖怪の類が出る季節だし仕方ないよなぁと1人で納得し<br>
枕元の上の方に置いてある円筒状の容器を手探りで探す。タブレット(粒状)のガムが入ってるやつだ。<br>
<br>
お清めの塩でも入っていればベストだったんだが、残念ながらガムしか無いので<br>
仕方なしに、首筋に居座る妖怪に、ガムを2粒献上する。渡す時に指をねっとりと舐め回された気がするが<br>
気にせず自分もガムを取り出し口に放り込んだ。<br>
<br>
無言で背後の妖怪と一緒にガムを噛み続けるのもシュールなので……ちょっと小話を<br>
<br>
唾液とは、非常にありがたい物である。いや、性的な意味じゃなくて。<br>
唾液に含まれる物質<リゾチーム><ラクトフェリン>などの酵素により、殺菌・抗菌作用があり<br>
口腔内の細菌・雑菌の繁殖を抑えてくれている。<br>
しかし、人間は睡眠中に唾液の分泌が覚醒時に比べ極端に少なくなり、<br>
細菌等の増殖により、寝起き時の口臭はどんな人間でも破壊的に臭いのである。<br>
<br>
起床時の大量に増殖した細菌を、そのまま水を飲む等の行為により、体内に吸収した場合<br>
腹痛や下痢の原因の1つとなるので、就寝前、起床後の歯磨きを俺は勧める。<br>
<br>
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歯磨きを勧めながら、俺は何故ガムを噛んでいるかと言うと<br>
高校1年の入学式からずっと背後にとりついている世界一可愛い妖怪に話しかけるためだ。<br>
親しき仲にも礼儀あり、口臭キツイ状態で甘い言葉を囁いても意味ないだろ?<br>
<br>
「起きていたのか? 寝汗クンクン妖怪ハルヒ」<br>
我がネーミングセンスも、<超熱帯夜>と同じぐらいど~でもいい。<br>
<br>
ハルヒが先に起きていたのも解っていた、エアコンのリモコンを取れないように<br>
俺の首にハルヒが両手を、両足は俺の片足にガッチリと絡めて動けないようにしていたからだ。<br>
片方の腕に柔らかい圧力を感じながら、このまま二度寝するのも良いかなぁと思ったが<br>
「おまえも暑いだろ?エアコン点けたいから拘束を弛めてくれ」<br>
<br>
いつもなら返事があるのだが、あまりのネーミングセンスの悪さに憤慨したのか<br>
答える気配もなく首筋に顔を埋めクンクンと鼻を鳴らし続けている。<br>
ん~、どうしたもんかね……とにかく暑い上に体が密着して熱いんだが……<br>
<br>
ふと首に絡まった腕の力が弱まり、同時に俺の体に自分の体で覆うようによじ登って<br>
馬乗りの状態になり、強引に唇を奪われた。意味がわからん!<br>
ちょっとした抵抗として歯を閉じて唇の進入を防ぐ傍ら、俺はTシャツを着ているが<br>
下は履いていたかな?ハルヒは先の拘束時の感触から全裸っぽい……などと悩む<br>
このままでは体の一部がエロい…いや、えらい事になる<br>
まぁ、朝だし既にえらい事になっているんだが、気分の問題だ<br>
<br>
そんな事を考えつつ、欲望と葛藤をくりひろげている間もハルヒは舌を侵入させようと<br>
唇で俺の唇を軽く挟んでみたり、舌で俺の唇を舐め上げたり、<br>
時々閉じた歯が開いていないか確認しに歯をなぞりに来たりと、努力していた<br>
ミントガムの香りが鼻腔をくすぐる……可愛いな<br>
<br>
一瞬、気を許した隙にハルヒの舌が侵入してきて俺の口腔内を蹂躙する。<br>
ガムの存在に気付いたハルヒは、形の良い綺麗な眉を歪めたが器用に俺の中からガムを奪うと<br>
唇を離した、よっぽど俺の顔が残念そうにしていたのか、ハルヒは妖艶な笑みを作り<br>
得意気にフフン♪と鼻を鳴らしながら、手近に置いてあるティッシュを取り<br>
2人分のガムをティッシュに包んでポイッと床へ放り投げた。<br>
こらっ、ちゃんとゴミ箱に捨てなさいっ。<br>
<br>
ハルヒは俺の目を覗き込むように顔を近づけてキスの続きをするのかと思いきや、寸前で止めて<br>
俺の唇に吐息を吹きかけたり、舌をペロッとだして唇を舐めてきたり<br>
どうやら誘っているようだ、先ほど歯を閉じて妨害した事に対しての報復らしい、<br>
続きがしたければこっちからって事か……我慢できるわけ無いだろ<br>
<br>
キスの続きをしたい衝動を抑え切れる自信は無いが、<br>
ハルヒとずっと体が密着しているためか、異常に暑い、まずはエアコンだ<br>
テーブルの方へ手を伸ばすが、やはりわずかに届かない……<br>
<br>
仕方ないので、空いた方の手をハルヒの頭へ回し抱き寄せて首筋にキスをする<br>
濃く甘いハルヒの匂いに包まれながら首筋に舌を這わせる。<br>
甘い香りに反して汗のしょっぱい味がした、そりゃぁお互い熱いからな<br>
<br>
口だと動きづらいので首筋のキスで誤魔化しつつ<br>
モゾモゾと動き、リモコンの方へ体を移動させ……指先が触れた。<br>
後は手繰り寄せてスイッチを押せばOKだ<br>
<br>
不意にハルヒが両手で挟んで俺の頭を固定し唇を奪い、乱暴に舌を捩じ込ませる<br>
迂闊、リモコンに気を取られ対処する間も無かった。<br>
<br>
でも、暑いんだ!ここで諦める訳にはいかん、俺はジタバタもがきつつ<br>
顔を左右に傾けてみるが、ハルヒは追いかけるように動き、唇を離そうとしない、<br>
逃げ切れない!なんだか、犯されている気分だ……ギュッとシーツを握っちゃうぞコラっ!<br>
<br>
乱暴に口を犯されながらも、指先にかかるリモコンを必死に手繰り寄せようと力を込めた時<br>
それは俺の指先から離れ机の上から滑り落ち、固い音と共に床へ落ちた。<br>
終わった……我が深謀が潰えた……ちょっとだけ涙いた……<br>
<br>
目的を失いグッタリとした俺の口を犯すハルヒ<br>
放心し抵抗しなくなった俺に舌を動かしながら満足気にニヤリとするハルヒ<br>
『あたしの勝ちね』と顔に書いてあるような微笑を見ながら負けを認めた。<br>
もういいさ、暑いけどエアコンの事は忘れて楽しめば良いんだろチキショー<br>
<br>
……頬にかかるハルヒの鼻息がくすぐったくも気持ち良い<br>
ハルヒの舌はダンスのお誘いのように俺の舌を刺激し、無意識の内に俺は誘いを受け<br>
自然と舌を絡ませ合い、舌を軽く吸ってみたり、優しく噛んでみたり<br>
あぁ、頭がバカになっていく……<br>
体の力が全部抜けて首から上だけしか感覚が無いような、幸せが全身に広がっていくような<br>
<br>
たっぷり10数分の長く永い、熱く、そして暑いキスを堪能したハルヒは<br>
唇を離しフゥ~っと熱い吐息をはきながら満足そうに小悪魔的微笑を浮かべた。<br>
良かったなハルヒ、こっちは終始犯され気分で処女のように泣いちゃいそうなんだぞ<br>
<br>
「あたしの事、好きよね?」<br>
突然ガシッと俺の両肩を掴んで質問するハルヒ<br>
「なにをいまさ―――」<br>
「い~から答えなさい」<br>
やっとまともに会話したかと思ったら、普通はキスの前に甘い言葉を交わすんじゃないか?<br>
まぁ、ハルヒは普通じゃないから可愛いんだが<br>
「大好きだぞ、ハルヒ」<br>
そう聞くと、目を瞑り納得するようにウンウンと2度ほど頷くハルヒ<br>
肩を掴んだ手に力が入り、爪が刺さり少し痛みを覚えた。<br>
「ま、有希や、みくるちゃん名前がでなかっただけ、まだマシだったけどね」<br>
「なにがだ?」<br>
と、俺の質問を無視しキョロキョロと何かを探すハルヒ<br>
相変わらず訳の解らん会話をするヤツだな<br>
<br>
それにしても、長門と朝比奈さんの名前がなんだって?全く意味が解らん<br>
<br>
頭を悩ませる俺をよそに、何か探していたハルヒは目的の物を見つけたようで<br>
馬乗りのまま腰を捻り、ベッドから身を乗りだし<br>
「あっついわね~」<br>
と言いつつ机の下に落ちたリモコンを事も無げに拾い<br>
無造作にスイッチを押す。無機質な電子音が部屋に響き、エアコンの低い作動音が聞こえた。<br>
<br>
ちょ、お、おまえ……人の苦労も知らずに……<br>
こちらを見てニヤッと笑った……確信犯か!<br>
お互い汗だくなのに勝ち誇られても全然悔しくないがな<br>
<br>
手を伸ばし机の上にリモコンを置いたハルヒは未だにマウントポジションを維持したまま<br>
左手を腰に当て、右手をまっすぐ伸ばして俺の胸に手を当てる。<br>
淡い陽光の中、下から見上げた汗に輝くハルヒは幻想的な一枚の絵画のように美しいな<br>
まぁかなり機嫌が悪い時の笑顔を作りながら目が怒っている表情じゃなければ<br>
素直に綺麗だと感想が言えたんだが、何を怒ってんだ?<br>
<br>
「で? 言い訳は聞いてあげなくもないわよ?」<br>
「なんの事だよ?」<br>
いやいや、そんな『なんで解んないの?このバカ』みたいな顔されても<br>
さっきの会話からは何も解らないし、何怒っているのかも解らん<br>
<br>
ハァ~~~っと心底、呆れたように長い溜息を吐いてから<br>
「さっき見てた夢を話しなさい、覚えてんでしょ?」<br>
<br>
……なるほど、良く解った。怒りの原因がな<br>
確かに懐かしい夢を見ていたさ、ハルヒと出会う前の中学の頃の夢を。<br>
国木田曰く『変な女』の夢だ。<br>
<br>
外見はハルヒに劣るが不思議な力を抜きにすれば、ハルヒに似ていたな。<br>
黒髪のショートカットでメガネっ娘、整った顔立ちで性格が男勝り、<br>
小学校からの付き合いで友達のように話していた女の子で<br>
学校一の秀才、スポーツ万能、楽器もギター、ピアノ、ドラムと何でもできて<br>
自慢できる親友だった。<br>
<br>
中学に上がってからは、クラスが分かれたが、お互い妙に達観した賢しい性格だったため<br>
クラスに馴染めず、俺はその女のクラスに毎休み時間ごと入り浸って話をしていた。<br>
話す話題に困る事は無かった。お互い皮肉を言ってニヤリと笑い合ったり<br>
哲学的な引用の後にボケかましたり、最近読んだ小説の批評など<br>
およそ中学生とは思えない色気の全く無い会話だったが<br>
当然1ヶ月も経たない内に学年中で噂になった。<br>
<br>
今までずっと友人として見ていたのに噂のせいで異性を感じさせられた俺は<br>
急に照れてしまい、休み時間になっても女のクラスに行かず机に突っ伏して<br>
悩むようになった……5分だけな。<br>
顔を伏せていた俺は誰かに脇腹をつっつかれ『うひゃぁ』と情けない声をあげた<br>
その女が俺のクラスに呶鳴り込んで来たわけだ。<br>
『おはよう、なんで来ないの?』『あぁ、すまんな』の会話だけで<br>
周りの女子から黄色い声があがり俺達は学校公認カップルにされてしまった。<br>
まぁ、その女は気にしてないみたいだったが……<br>
<br>
その後も俺達は普通に友人として付き合っていたが、中学2年になってもクラスは違うし<br>
秀才女と凡人男という差も変わらなかった。<br>
自分の中で区切り線を引いていたのかも知れない、あいつに相応しい男じゃないと。<br>
だからずっと友人のままで居たかった。<br>
<br>
一緒に学校から帰ったりもしていた。彼女は書道部だったが部員1人でコンクールの時だけ<br>
作品だして入賞するという神技っぷりで、普段の部活は学習塾があるため活動せず帰宅。<br>
俺は帰宅部という事で、帰り道の短いデートを楽しんでいた。<br>
といっても、いつも通りの会話で、あの先生の授業は教え方が悪いだとか<br>
体育の先生の目がエロくて困るとか、その目が俺にそっくりだと言って笑ったり<br>
楽しい時間だったわけだが。<br>
<br>
体育の教師を廊下で呼び止めて、<br>
大声で「先生の目が大変エロいと多くの女子から苦情が出てますよ」と忠告し<br>
狼狽した教師が震える声で強がり言って去っていき。<br>
陰で見ていた彼女とハイタッチを交わした後、ニヤリと笑い合い<br>
周りの女子からも歓声を浴びるという事件もあったな。<br>
俺の内申点は下がる一方だったが、楽しかったからまぁ良い思い出だ<br>
<br>
そんな日々が、ずっと続けば良いと思っていたが<br>
彼女は学校創立以来、初めての女性生徒会長になった。<br>
友人として誇らしい気持ちで嬉しくもあったが、自分の中の区切り線が決定的になった<br>
瞬間でもあった。<br>
生徒会のせいでお互い帰る時間も違ってしまい。疎遠になっていった。<br>
<br>
そのまま彼女は高校受験のため、学業に専念し、3年の頃には廊下で立ち話程度。<br>
彼女は県外の私立の名門進学校へ無事合格し、俺は平凡な北校へ進学となった。<br>
中学の卒業式でも、ちょっとした『がんばれよ』『うん、またね』程度の会話と<br>
ちょっとした出来事で、あっさりしたもんだった。<br>
<br>
以上、今朝見た夢の国木田曰く『変な女』もとい『変な関係の女』の回想終了。<br>
国木田から見たら、高校の時のハルヒとの関係も似たように見えたのかもな。<br>
</p>
<p><br>
さて、全裸のハルヒにマウントポジションで詰問されていた訳だが<br>
回想していた俺が、なかなか答えないので眉をピクピクさせながら<br>
「知らない女の名前、寝言で言ってたんだけど?」<br>
ハッキリとイライラしながら解りやすく質問してくれた。<br>
<br>
そう怒る程の事でも無いさ、昔の淡い恋心にすらならなかった古い話だ。<br>
正直に言えば、おまえも納得してくれるに違いない。<br>
<br>
「さぁな、寝起きから刺激的すぎて、どんな夢だったか忘れちまったよ」<br>
あっれぇ~?震える声で何言ってんだろぅねぇ~、俺……<br>
100%嘘ってバレたな、正直に話そうと思ってたんだが、なんで口が勝手に……<br>
<br>
いや、別にやましい事はないぞ、<br>
手はつないだりしたが、キスは……したなぁ、<br>
でもディープキスは……やったなぁ、あいつの家の少女漫画の影響のイキオイで……<br>
乳も揉んだ……ブラの上からじゃ、なんか痛いって事でナマ乳を……<br>
えっちはしてないぞ、中学生だったし。危ない雰囲気だったけどな<br>
うむ、やましい事は何も無い!って事もないのは解らんでもない気がしなくもない。<br>
<br>
あぁ、ハルヒ、睨みながら涙目になるな、浮気なんかする訳無いだろ。<br>
古泉の機関が用意したっぽい格安の高級賃貸マンションで同棲しながら府立大学行っているのに、<br>
バイト先も一緒だし、浮気する暇があるわけない。<br>
正直に話すぞ、古い昔の話だって事をな、悲しませてゴメンな、ハルヒ<br>
</p>
<p><br>
「……すまん」<br>
パァン!ひどく乾いた音が響いた…ナイスビンタだハルヒ、そして死んじまえ俺!<br>
浮気を認めたと勘違いされても仕方ない返答してんじゃねぇよ!<br>
「ハルヒ、おちつ――」<br>
パァン!<br>
「ちがっ、ま、まてって」<br>
パァン!<br>
「現在進行形で浮気できる訳ないだろ」<br>
パァン!<br>
だんだん頬の感覚が無くなってきたが、まだ勘違いされそうな言い方してる俺って……<br>
「聞いてくれ、古い昔の思い出だ」<br>
ゴンッ!……グーか!?ハルヒ、グーできたよな…大学行ける顔かなぁ、いや生きて部屋から出れるのか?<br>
古泉は早朝から神人とスパーリングかもな、すまん。<br>
<br>
「ハルヒと出会う前の中学時代の淡く幼稚な片想いの話だ」<br>
ハルヒからはビンタもパンチの襲撃もこなかった。助かった……<br>
未だに冷たい目で続きを話すように促されているが……<br>
<br>
「落ち着いたか? 本当に浮気なんてしてないぞ、<br>
中学時代の相手とも、キスすらした事も無い、ただの片想いだ」<br>
よしっ、冷静に言えた。嘘言っちゃったけどな、がんばれ俺!<br>
<br>
「ほんとに?」<br>
「ほんとだ」<br>
もう一押し、ファイトだ、応援してるぞ、俺!<br>
「第一、最初にハルヒの事が大好きだって言ったろ、あの言葉に偽りは無い」<br>
<br>
「……バカ……罰ゲームね」<br>
微笑を浮かべながら、やさしく宣告する。<br>
内心、俺は小躍りして喜んでいた、誤魔化せた…いやハルヒの機嫌が直ったからだ<br>
頑張った俺おめでとうっ!<br>
<br>
サッと俺の上から退いて机の上のルーズリーフとペンを取り俺の横に寝なおすハルヒ<br>
「まずは、掃除1ヶ月っと」<br>
我が罰を告げながらサラサラッとペンを走らす。<br>
「炊事は、あんたヘタだけど我慢して食べたげるわ、それと洗濯ね」<br>
などと嬉しそうに次々と判決文を作成していった。<br>
<br>
「えっちは、3…ん~2週間禁止、キスは2日禁止ってとこね」<br>
「そいつぁ、厳しいな」<br>
俺の反論を無視してメモるな、えっちはまぁ雰囲気とか流れで、減刑か恩赦を受けるって事で<br>
なんとかなりそうだが、キスの方はキッチリ守りそうで怖いな。2日分ゴム代節約って事か……<br>
<br>
判決の途中だし、まだ刑の執行はされてないから、今襲っちゃうか?などと思案していると<br>
「後で、昔の女とどこまでヤってたか、ちゃんと話しなさいよ」<br>
と、さも今思い出したかのごとく普通のトーンで言い放った。<br>
<br>
「キョンて高校の時、お互い素直になった後も、団の方を優先したいから<br>
高校卒業まで待ってくれって真剣に説得してきたくせにさ、2人きりになると良いタイミングで<br>
大人のキスしたり、ブラ外して直接ムネ触ったり、ずいぶん慣れてたわよね?<br>
どんだけエロいねん!って手の甲でツッコミかけたもんよ」<br>
ケラケラと笑いながらツッコミの動作をするハルヒ、目が据わっていて怖いぞ…<br>
<br>
俺は、そんなハルヒの横顔を見ながら、何も言えず、ただただ顔を引き攣らせていた。<br>
「その女と、中学の卒業式の後、校門の前で抱き合いながら、なが~いキスしてたんだってね?<br>
この情報、国木田だっけ?あの子から裏とってあるわ、簡単に吐いてくれたけどね。<br>
ずいぶん壮大な片想いだったみたいねぇ、お互い片想いとか?笑っちゃうわ」<br>
<br>
<br>
ハルヒは人差し指をピンと立て、俺を指差し、ニヤニヤと笑いながら死刑宣告を告げた。<br>
</p>
<p><br>
ζ エピローグ ζ<br>
<br>
死刑宣告を告げたハルヒは、その後も罰ゲームの判決文を作成し続けていた。<br>
俺の方はというと、朝日が眩しいのに目を見開き、瞳孔も開いていた、と思う……<br>
ハルヒの不思議パワーでマジで死んだわけじゃないけどな。<br>
指一本動かす気力も無かったんだ。<br>
<br>
完成した判決文を嬉しそうにハルヒが読み上げる声も、ほとんど聞こえなかった。<br>
恐ろしい数の雑用と、事細かな指示の合間に<br>
『またペアブレスレット買え』とか『皮製の首輪の着用(生涯)』や『子供の世話を積極的に』<br>
『十年以内に犬を洗えそうな庭付き一戸建て』などと<br>
金銭的、隷属的、未来的、笹の葉ラプソディ的な罰が混じってた気がする……<br>
言った後に文書から目だけ覗かせチラッと俺の反応を確認してるし、<br>
さり気無く判決文に混ぜた意味が無くなるだろ?<br>
<br>
<br>
殴られた両頬がヒリヒリと熱いし、国木田は簡単に喋るし<br>
ハルヒも、知らない女の名前とか言ってたくせに、情報つかんで知っていたし……<br>
殴られ損じゃないか?まぁ、ハルヒの気晴らしにはなっただろうが。<br>
<br>
それに今日は大学に行けそうもないな、たぶん買い物だろう、ブレスレットか……<br>
その前に判決文の読み上げが終われば、正直に過去を話さなくちゃいけないんだろうな<br>
許してくれるだろうか?外出できるほど、顔の原形が残るだろうか?<br>
<br>
などと不毛な事を思いながら、背筋を走る悪寒と、全身を襲う寒気を感じ<br>
エアコンの冷房設定温度を地球環境と俺のために2℃上げるべきだ、と思っていた。<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
<a href=
"http://www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1577.html">あとがき。</a></p>
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