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『Short Summer Vacation』・エピローグ」(2020/03/07 (土) 01:49:53) の最新版変更点

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<div class="main"> <div>――短い夏が終わり、そして――<br></div> <br> <br> <div>Short Summer Vacation~涼宮ハルヒのエピローグ~<br></div> <br> <div>キョンへ<br></div> <br> <div> あたしの旦那であるあなたが死んでから、もう5年が過ぎたわ。どう?少しは退屈しているかしら?<br> あたしは今22歳。あれからのことを、少しだけ報告しておきたいと思うの。この手紙を天国のあなたへどうやって届ければいいのか、それは分からないけれど、それは後で考えることにするわ。もうすぐお盆だし、最悪、そのときにでも帰ってきて勝手に読んでちょうだい。<br> </div> <br> <div> まずあたしは今、一人ではないわ。でも、未婚よ。分かる?この意味。<br> そう、キョンと過ごしたあの2週間のうちに、あたしはあなたとの子供を授かったの。実はね、キョンと初めてひとつになった日、あの日、本当は危険日だったのよ。まあそうでなくてもキョンと同棲中はほとんど避妊しないでいたから、たとえあの日が安全日だったとしてもたぶん妊娠していたんじゃないかしら。それにしてもあんた、もしあたしにその気がなかったらどうするつもりだったの!?まったく・・・。<br> 自ら望んだ妊娠だもの、当然あたしは産む気だったわ。親は猛反対して、あの手この手であたしに中絶させようとしたけれど、あたしは絶対に産むって決めていたからそんな修羅場もまったく苦しくなかった。キョンのご両親にも迷惑かけちゃったのは辛かったけれど、耐えたわ。キョン、あなたがあたしを支えたのよ。<br> 子供を産むっていうことにしぶしぶ親が同意したら、あたしはすぐに高校を中退したわ。出来るだけベストな状態で出産して、何よりキョンとの子供を自分の手で育てたかったからね。その間はさすがに親の世話になったわ。仕方ないとはいえ、心残りな点ね。その分の埋め合わせは、必ずするつもり。<br> 今は古泉君の紹介してくれた会社で働いているわ。彼の紹介してくれた会社ってものすごく待遇がいいのよ、高校中退だっていうのに大卒並みの扱いだし、給料だってその辺のサラリーマンより稼いでるんじゃないかっていうくらい。シングルマザーで子供一人を養っていくには十分すぎるわね。ついでにあなたも養えるくらいだわ。<br> そうそう、あたしはあれ以来ほかの男とは誰とも付き合ってないわ。そりゃあ言い寄ってくる男は星の数ほどいたわ、でもね、あなたとの約束もあったし(あ、これはあたしが無理やり言わせたんだっけ?)、そもそもキョン以上の男なんて見つかるわけないじゃない。たぶん、いえ絶対、これからもそんな男が出てくることは無いわね。あたしが生涯で体を許したのは後にも先にもキョン一人だけで、あたしはこのことを密かに誇りに思っている。自慢していいわよ、キョン!<br> そういえば、あなたにどうしても聞いておきたいことがあったんだわ。その、七夕の・・・ううん、なんでもない、次に会えたとき、面と向かって聞くことにするわ。それまでに、せいぜい面白い回答を用意しておくことね!!<br> </div> <br> <br> <div> ここまで書いて、あたしは彼のくれた最期のプレゼントの指輪に微笑みかけた。あ、ごめんなさいキョン、この指輪、やっぱり大きかったからサイズ直しちゃったわ。勝手にごめんね、でも、なくしちゃうよりはいいわよね。大体、ろくにサイズも調べないで買っちゃうあんたが悪いのよ!文句なんていわせないわ!!よし、これも手紙に書いておこう。<br> </div> <br> <br> <div> あら、もうこんな時間ね、子供を保育園に送って行かなくちゃ。<br> あたしは手紙を引き出しにしまうと、まだ着替えもままならない様子の子供の方へ向かっていった。<br> </div> <br> <br> <div>Short Summer Vacation~古泉一樹のエピローグ~<br></div> <br> <div> あなたは良くやりました。世界を守ったんですよ、僕が銅像でも作って差し上げたいくらいです。いずれ僕が機関のトップに立ったら、きっと実現させて見せますからね。そしてそのレプリカを僕の自宅に飾って・・・フフフ、夢が広がります。<br> 機関はまだ続いています。あなたの死によって涼宮さんの能力は失われてしまうのではないか、もしくは暴発するのではないかという意見もありましたが、結果として彼女の能力は消えることも暴発することもありませんでした。それにしても、あなたの死と連動してかなりの閉鎖空間の発生が予想されていたんですが、ひとつも出現しなかったのには驚きました。どうやらあなたは、われわれが思っていた以上に上手くやってくれたようですね。いや失礼、これは、あなたが思うように幸せに過ごしてその結果生じた副次的な幸運だと解釈するべきでしょう。でないと、あなたはこういうでしょうからね。『お前たちのためにやったことじゃない』なんて。<br> あれ以来涼宮さんはずっと大人になったようで、閉鎖空間の出現もほんの数回に収まっています。ちなみに、その発生時期は、すべてあなたと何かしらの思い出があった日ですよ、まったくうらやましいですね。僕は少し恨めしいですが。<br> そうそう、涼宮さんのことは心配しないでください。いえ、決して変な意味ではありません。そもそも彼女はあなた以外の異性には興味が無いようですし、僕も異性には・・・おっと、口が滑るところでした。僕は彼女がつつがなく暮らせるよう陰ながらサポートさせてもらっています。それが、あなたとの約束でしたからね。<br> あの日、あなたが提示した要求は二つ。<br></div> <br> <ul> <li>2週間二人で暮らせる部屋を用意して欲しい。</li> <li>俺が死んだ後、ハルヒを頼む。</li> </ul> <br> <div> 約束どおり、僕は今でも涼宮さんの手助けをさせてもらっています。金銭面は心配しないでください。彼女の監視を続ける機関からは、彼女が一生つつがなく暮らせるだけの予算が下りています。今はそれを毎月、給与という形で彼女に気づかれないよう渡しています。いささか多いんですがね、実際彼女はかなり有能なのでそれほど不自然には思わないでしょう。そして私生活ですが・・・これも心配ないと断言できます。家族2人で、楽しく暮らしていると聞いています。時々あなたの家にも遊びに行っているようですよ?戸籍上は他人でも、義父・義母・義妹ですからね。孫は目に入れても痛くないと言いますし。<br> </div> <br> <div>おやめずらしい、閉鎖空間が発生したようです。<br> 今日は・・・7月7日ですか。<br></div> <br> <br> <div>Short Summer Vacation~朝比奈みくるのエピローグ~<br></div> <br> <div> あれから結構な時間がたちました。えーっと、わたし個人の感覚では数年なんだけれど、わたし、今は元の時間(キョン君たちから見ると未来ってことね)にいるので、キョン君がいなくなってからはかなり時間がたっていることになるわね。<br> わたし、あれからいろいろ頑張ったのよ、って、知ってるわよね、もう何回か会ってるもんね。かなり出世して、禁則事項も減りました。どう?ふふふ、すごいでしょ。<br> 今からあなたに会いに行きます。そう、あの時間のあなたにです。残酷だとは思うけれど、わたしはあなたに死を告げに行かなくてはなりません、それが必然で、規定事項。<br> それにしても、キョン君の寿命を知らせたのがわたし自身だったなんて驚き。てっきり当時は長門さんがキョン君に教えたものだとばかり思っていたわ。本当のことを教えてくれても良かったのに。<br> 未来のわたしがキョン君に知らせた寿命をキョン君の口から聞いて大泣きした過去のわたし、なんだか考えるとおかしいわね。<br> ああ、またキョン君に会えるのね。楽しみだけれど、でも、次に会うのが最後なんて、やっぱり哀しい。どうやって説明しようかしら?わたし、泣き出しちゃったらどうしよう?第一、素直に信じてくれるかしら?一応キョン君の未来渡航の許可申請しておいたほうがいいわね。そういえば、あの時長門さんが知っていたってことは、きっとついてくるのよね、じゃあ長門さんの許可申請も、と・・・わたし、長門さん苦手なんだけどなぁ。<br> </div> <br> <div> それじゃあ、キョン君、今から行きます。ごめんなさい。でも、あなたはちゃんとやってくれるから大丈夫。だって、今ここに世界、あるもん。ありがとう、キョン君。<br> </div> <br> <div> あなたのおかげで、今日も世界は続いています。<br></div> <br> <br> <div>Short Summer Vacation~長門有希のエピローグ~<br></div> <br> <div>あなたは死んだ。<br> あなたは規定どおり、8月8日午後7時24分19秒に涼宮ハルヒの目の前で息を引き取った。<br> わたしは泣いた。死というものがこれほどまでに苦痛なものだとは思わなかった。わたしは泣いた。自分のうちにこれほどの感情があったのかと驚くほどに、声を上げて泣いた。そのときのわたしは完全に動転していて、ある大切なことを失念していた。<br> 次の日に、あなたの“お”通夜があった。そこでもわたしはまだ気づいていなかった。<br> そして、もうすぐ式が始まろうかというころ、わたしはやっと思い出した。<br> </div> <br> <div>もうすぐあなたが現れる。<br></div> <br> <div> なぜこんな大事なことを忘れていたのだろうか。もうすぐ、朝比奈みくるとわたしと一緒に、あなたが、1ヶ月前のあなたが自分の葬儀を確認しに現れる。過去のわたしが形成しているスクリーンを、わたしは透過して見ることが出来る。わたしはあなたにもう一度会える。この点だけは、涼宮ハルヒにはまねできない、わたしの勝ち。わたしにだけ見える、あなたの姿。ささやかな、独占。<br> わたしはもう一度あなたに会えるのだと思うと、嬉しくて嬉しくて、でも、切なくて、そんなまやかしにすがる自分が情けなくて、涙が出た。<br> あなたがわたしと手をつないで入ってきた。どうしようもなく鼓動が早まる。そして、あなたはこちらを見た。いけない、わたしはあなたに気づいていないということになっている。あなたと目をあわすわけにはいかない。<br> わたしは視野にあなたの姿が入るぎりぎりまで視線をそむけた。そして、視野の端に移るあなたを、永久に記憶にとどめておこうと、必死でその姿をわたしの記憶媒体に刻み込んだ。この場にいる誰もがいずれ死に、あなたに関するものが風化し、この世界から消え去り、あなたという存在そのものがあったのかどうか、それすら危うくなってしまったとしても、わたしだけは永久にあなたを忘れない。あなたが生きたということを、わたしが証明する。<br> これからもわたしは生きる。その間、あなただけを想い、あなたの思い出とともに、わたしは生きよう。たとえ1年でもあなたとともに生きられたこと、たとえ1ヶ月でもあなたを支えられたこと、たとえ3秒でもあなたと恋人になれたことを抱いて、わたしは、わたしの中のあなたと一緒に、永遠を生きたい。<br> そして、今わたしの目の前にいるあなた・・・あなたはこれから1ヶ月間、苦しく辛い時を過ごすことになる。でも大丈夫。あなたは逃げずに負けずに、しっかり1ヶ月生きる。その姿を、わたしは見てきた。<br> 1ヵ月後の未来から、わたしはあなたのことを祈っている。<br> そして、わたしは声を出さずにつぶやいた。もういなくなってしまったあなたと、すぐそこにいるあなた両方に向けて。<br> </div> <br> <div> こ・れ・だ・け・は・お・ぼ・え・て・い・て。<br></div> <br> <br> <br> <br> <br> <div>す・き。<br></div> <br> <div>Short Summer Vacation 完<br></div> </div> <!-- ad -->
<div class="main"> <div>――短い夏が終わり、そして――</div>   <div>Short Summer Vacation~涼宮ハルヒのエピローグ~</div>   <div>キョンへ</div>   <div>あたしの旦那であるあなたが死んでから、もう5年が過ぎたわ。どう?少しは退屈しているかしら?<br /> あたしは今22歳。あれからのことを、少しだけ報告しておきたいと思うの。この手紙を天国のあなたへどうやって届ければいいのか、それは分からないけれど、それは後で考えることにするわ。もうすぐお盆だし、最悪、そのときにでも帰ってきて勝手に読んでちょうだい。</div>   <div>まずあたしは今、一人ではないわ。でも、未婚よ。分かる?この意味。<br /> そう、キョンと過ごしたあの2週間のうちに、あたしはあなたとの子供を授かったの。実はね、キョンと初めてひとつになった日、あの日、本当は危険日だったのよ。まあそうでなくてもキョンと同棲中はほとんど避妊しないでいたから、たとえあの日が安全日だったとしてもたぶん妊娠していたんじゃないかしら。それにしてもあんた、もしあたしにその気がなかったらどうするつもりだったの!?まったく・・・。<br /> 自ら望んだ妊娠だもの、当然あたしは産む気だったわ。親は猛反対して、あの手この手であたしに中絶させようとしたけれど、あたしは絶対に産むって決めていたからそんな修羅場もまったく苦しくなかった。キョンのご両親にも迷惑かけちゃったのは辛かったけれど、耐えたわ。キョン、あなたがあたしを支えたのよ。<br /> 子供を産むっていうことにしぶしぶ親が同意したら、あたしはすぐに高校を中退したわ。出来るだけベストな状態で出産して、何よりキョンとの子供を自分の手で育てたかったからね。その間はさすがに親の世話になったわ。仕方ないとはいえ、心残りな点ね。その分の埋め合わせは、必ずするつもり。<br /> 今は古泉君の紹介してくれた会社で働いているわ。彼の紹介してくれた会社ってものすごく待遇がいいのよ、高校中退だっていうのに大卒並みの扱いだし、給料だってその辺のサラリーマンより稼いでるんじゃないかっていうくらい。シングルマザーで子供一人を養っていくには十分すぎるわね。ついでにあなたも養えるくらいだわ。<br /> そうそう、あたしはあれ以来ほかの男とは誰とも付き合ってないわ。そりゃあ言い寄ってくる男は星の数ほどいたわ、でもね、あなたとの約束もあったし(あ、これはあたしが無理やり言わせたんだっけ?)、そもそもキョン以上の男なんて見つかるわけないじゃない。たぶん、いえ絶対、これからもそんな男が出てくることは無いわね。あたしが生涯で体を許したのは後にも先にもキョン一人だけで、あたしはこのことを密かに誇りに思っている。自慢していいわよ、キョン!<br /> そういえば、あなたにどうしても聞いておきたいことがあったんだわ。その、七夕の・・・ううん、なんでもない、次に会えたとき、面と向かって聞くことにするわ。それまでに、せいぜい面白い回答を用意しておくことね!!</div>   <div> ここまで書いて、あたしは彼のくれた最期のプレゼントの指輪に微笑みかけた。あ、ごめんなさいキョン、この指輪、やっぱり大きかったからサイズ直しちゃったわ。勝手にごめんね、でも、なくしちゃうよりはいいわよね。大体、ろくにサイズも調べないで買っちゃうあんたが悪いのよ!文句なんていわせないわ!!よし、これも手紙に書いておこう。</div>   <div>あら、もうこんな時間ね、子供を保育園に送って行かなくちゃ。<br /> あたしは手紙を引き出しにしまうと、まだ着替えもままならない様子の子供の方へ向かっていった。</div>   <div>Short Summer Vacation~古泉一樹のエピローグ~</div>   <div> あなたは良くやりました。世界を守ったんですよ、僕が銅像でも作って差し上げたいくらいです。いずれ僕が機関のトップに立ったら、きっと実現させて見せますからね。そしてそのレプリカを僕の自宅に飾って・・・フフフ、夢が広がります。<br /> 機関はまだ続いています。あなたの死によって涼宮さんの能力は失われてしまうのではないか、もしくは暴発するのではないかという意見もありましたが、結果として彼女の能力は消えることも暴発することもありませんでした。それにしても、あなたの死と連動してかなりの閉鎖空間の発生が予想されていたんですが、ひとつも出現しなかったのには驚きました。どうやらあなたは、われわれが思っていた以上に上手くやってくれたようですね。いや失礼、これは、あなたが思うように幸せに過ごしてその結果生じた副次的な幸運だと解釈するべきでしょう。でないと、あなたはこういうでしょうからね。『お前たちのためにやったことじゃない』なんて。<br /> あれ以来涼宮さんはずっと大人になったようで、閉鎖空間の出現もほんの数回に収まっています。ちなみに、その発生時期は、すべてあなたと何かしらの思い出があった日ですよ、まったくうらやましいですね。僕は少し恨めしいですが。<br /> そうそう、涼宮さんのことは心配しないでください。いえ、決して変な意味ではありません。そもそも彼女はあなた以外の異性には興味が無いようですし、僕も異性には・・・おっと、口が滑るところでした。僕は彼女がつつがなく暮らせるよう陰ながらサポートさせてもらっています。それが、あなたとの約束でしたからね。<br /> あの日、あなたが提示した要求は二つ。</div>   <ul> <li>2週間二人で暮らせる部屋を用意して欲しい。</li> <li>俺が死んだ後、ハルヒを頼む。</li> </ul>   <div> 約束どおり、僕は今でも涼宮さんの手助けをさせてもらっています。金銭面は心配しないでください。彼女の監視を続ける機関からは、彼女が一生つつがなく暮らせるだけの予算が下りています。今はそれを毎月、給与という形で彼女に気づかれないよう渡しています。いささか多いんですがね、実際彼女はかなり有能なのでそれほど不自然には思わないでしょう。そして私生活ですが・・・これも心配ないと断言できます。家族2人で、楽しく暮らしていると聞いています。時々あなたの家にも遊びに行っているようですよ?戸籍上は他人でも、義父・義母・義妹ですからね。孫は目に入れても痛くないと言いますし。</div>   <div>おやめずらしい、閉鎖空間が発生したようです。<br /> 今日は・・・7月7日ですか。</div>   <div>Short Summer Vacation~朝比奈みくるのエピローグ~</div>   <div> あれから結構な時間がたちました。えーっと、わたし個人の感覚では数年なんだけれど、わたし、今は元の時間(キョン君たちから見ると未来ってことね)にいるので、キョン君がいなくなってからはかなり時間がたっていることになるわね。<br /> わたし、あれからいろいろ頑張ったのよ、って、知ってるわよね、もう何回か会ってるもんね。かなり出世して、禁則事項も減りました。どう?ふふふ、すごいでしょ。<br /> 今からあなたに会いに行きます。そう、あの時間のあなたにです。残酷だとは思うけれど、わたしはあなたに死を告げに行かなくてはなりません、それが必然で、規定事項。<br /> それにしても、キョン君の寿命を知らせたのがわたし自身だったなんて驚き。てっきり当時は長門さんがキョン君に教えたものだとばかり思っていたわ。本当のことを教えてくれても良かったのに。<br /> 未来のわたしがキョン君に知らせた寿命をキョン君の口から聞いて大泣きした過去のわたし、なんだか考えるとおかしいわね。<br /> ああ、またキョン君に会えるのね。楽しみだけれど、でも、次に会うのが最後なんて、やっぱり哀しい。どうやって説明しようかしら?わたし、泣き出しちゃったらどうしよう?第一、素直に信じてくれるかしら?一応キョン君の未来渡航の許可申請しておいたほうがいいわね。そういえば、あの時長門さんが知っていたってことは、きっとついてくるのよね、じゃあ長門さんの許可申請も、と・・・わたし、長門さん苦手なんだけどなぁ。</div>   <div> それじゃあ、キョン君、今から行きます。ごめんなさい。でも、あなたはちゃんとやってくれるから大丈夫。だって、今ここに世界、あるもん。ありがとう、キョン君。</div>   <div>あなたのおかげで、今日も世界は続いています。</div>   <div>Short Summer Vacation~長門有希のエピローグ~</div>   <div>あなたは死んだ。<br /> あなたは規定どおり、8月8日午後7時24分19秒に涼宮ハルヒの目の前で息を引き取った。<br /> わたしは泣いた。死というものがこれほどまでに苦痛なものだとは思わなかった。わたしは泣いた。自分のうちにこれほどの感情があったのかと驚くほどに、声を上げて泣いた。そのときのわたしは完全に動転していて、ある大切なことを失念していた。<br /> 次の日に、あなたの“お”通夜があった。そこでもわたしはまだ気づいていなかった。<br /> そして、もうすぐ式が始まろうかというころ、わたしはやっと思い出した。</div>   <div>もうすぐあなたが現れる。</div>   <div> なぜこんな大事なことを忘れていたのだろうか。もうすぐ、朝比奈みくるとわたしと一緒に、あなたが、1ヶ月前のあなたが自分の葬儀を確認しに現れる。過去のわたしが形成しているスクリーンを、わたしは透過して見ることが出来る。わたしはあなたにもう一度会える。この点だけは、涼宮ハルヒにはまねできない、わたしの勝ち。わたしにだけ見える、あなたの姿。ささやかな、独占。<br /> わたしはもう一度あなたに会えるのだと思うと、嬉しくて嬉しくて、でも、切なくて、そんなまやかしにすがる自分が情けなくて、涙が出た。<br /> あなたがわたしと手をつないで入ってきた。どうしようもなく鼓動が早まる。そして、あなたはこちらを見た。いけない、わたしはあなたに気づいていないということになっている。あなたと目をあわすわけにはいかない。<br /> わたしは視野にあなたの姿が入るぎりぎりまで視線をそむけた。そして、視野の端に移るあなたを、永久に記憶にとどめておこうと、必死でその姿をわたしの記憶媒体に刻み込んだ。この場にいる誰もがいずれ死に、あなたに関するものが風化し、この世界から消え去り、あなたという存在そのものがあったのかどうか、それすら危うくなってしまったとしても、わたしだけは永久にあなたを忘れない。あなたが生きたということを、わたしが証明する。<br /> これからもわたしは生きる。その間、あなただけを想い、あなたの思い出とともに、わたしは生きよう。たとえ1年でもあなたとともに生きられたこと、たとえ1ヶ月でもあなたを支えられたこと、たとえ3秒でもあなたと恋人になれたことを抱いて、わたしは、わたしの中のあなたと一緒に、永遠を生きたい。<br /> そして、今わたしの目の前にいるあなた・・・あなたはこれから1ヶ月間、苦しく辛い時を過ごすことになる。でも大丈夫。あなたは逃げずに負けずに、しっかり1ヶ月生きる。その姿を、わたしは見てきた。<br /> 1ヵ月後の未来から、わたしはあなたのことを祈っている。<br /> そして、わたしは声を出さずにつぶやいた。もういなくなってしまったあなたと、すぐそこにいるあなた両方に向けて。</div>   <div>こ・れ・だ・け・は・お・ぼ・え・て・い・て。</div> <br /> <br /> <br /> <br />   <div>す・き。</div>   <div>Short Summer Vacation 完</div> </div>

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