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ラブ・スクリプト」(2007/01/15 (月) 02:49:35) の最新版変更点

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「さあ、今日もジョンを探しに行くわよ!」<br>  涼宮さんは今日も元気にそう宣言したの。<br>  涼宮さんの思いつきで始まったSOS団なる団体の活動の、えっと、これで何回目だったかしら。<br>  そうそう、涼宮さん達の目の前で消えちゃった男の子を探すのが目的なのよね。<br>  SOS団は一応『世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒの団』を略したもののはずだけど、これだとまるで『スミスを探すために大いに奔走する涼宮ハルヒの団』って感じかも。<br>  まあ、そんなことはどうでもいいんだけど。<br> 「ほらほら、皆元気出してっ。特に有希ちゃん、あなた元気なさすぎよ!」<br> 「う……、うん。ごめん」<br>  涼宮さんに指摘された長門さんが頭を下げる。<br>  長門さんって涼宮さんの前だと何時も萎縮してばかりよね。涼宮さんが居なくてもあんまり変わらないといえば変わらないんだけど、涼宮さんが居るとまるで当社比3割増って感じね。<br> 「謝っても仕方ないでしょ。……もう、まあ良いわ、早く行きましょう」<br>  涼宮さんが元気に歩き出す。<br>  そう言えば今日は、皆で郊外まで行くんだっけ。<br>  どうしてそれが人を探すことと関係あるのかしら……。最近は何だか手段と目的が逆転している気がするわよね。あたしとしては、それはそれでかまわないような気もするんだけど。<br> 「大丈夫、長門さん?」<br> 「……うん」<br>  電車に乗り込んだあたしは、隣に座っている長門さんに声をかけた。<br>  長門さん、体調悪そう。……大丈夫かなあ、大丈夫だとは思うんだけど。<br> 「ごめんね、朝倉さん、つきあわせちゃって」<br> 「あら、そんなこと気にしなくて良いわよ」<br>  そう、そんなこと気にしなくて良いの。<br>  そんな細かいことは、ね?<br> <br> <br>  あたしはその男の子、えっと、ジョンって言わせて貰おうかしら。<br>  ジョンが消えた場所には居合わせてなかったんだけど、あたしは彼のことを覚えていたから……、SOS団って名の着く団体に居た四人以外で彼のことを覚えていた唯一の人物があたしだったのよね。<br>  だからあたしは今、この場所に居るの。<br>  報われない願いと叶わない目的を知りながら、一緒に居るの。<br> <br> <br>  電車を三回ほど乗り換えた田舎の駅から伸びるハイキングコース。<br>  この中腹辺りの場所が、宇宙と交信するのに良いスポットだって涼宮さんは言っていたけど、そんな理屈で行こうと思う涼宮さんも、納得して着いて来る長門さんや朝比奈さんや古泉くんもどうかと思うわ。<br>  元々何も知らない涼宮さんはともかくとして、この世界では、他の三人もただの人間なのにね。<br> 「大丈夫ですか?」<br>  古泉くんが、遅れがちな長門さんを気遣っている。<br>  この世界の長門さんはただの女の子。それも体力的には平均以下って感じだから、遅れちゃうのも仕方ないことなのよね。それに今日は、体調もあんまりよく無さそうだし。<br> 「う、うん……」<br> 「余り無理しないでくださいね」<br> 「……うん」<br>  でも、長門さんは自分からは弱音を言わないから。<br>  こうして他の人が気遣ってあげないといけないのよね。……それだけ庇護欲をそそる存在ってことなのかしら?<br>  まあ、古泉くんも朝比奈さんもそういう風に気を遣ってあげるのが全然気にならないタイプみたいだけど。女の子に優しい優等生と人当たりの良い上級生だもん、当然と言えば当然よね。<br>  あたしは……、あたしは、どうかしら?<br>  一応あたしも優等生タイプってことになっているけど、長門さんの前でのあたしがそうでないといけない理由なんて、どこにも無いのよね。<br> <br> 「古泉くん、こっち来て」<br> 「あ、はい」<br>  長門さんの方を、ううん、長門さんのことばかり気遣っている古泉くんの方を何度かちらちらと振り返るようにして見ていた涼宮さんが、ちょっと不機嫌そうな口調で古泉くんのことを呼びよせた。<br>  何だか、とっても分かりやすい反応よね。<br>  あたしは思わず朝比奈さんと顔を見合わせちゃう。どうやら彼女もあたしと同じことを思っているみたい。朝比奈さん、おっとりしているけどこういうことには結構鋭いから。<br> 「気をつけてね。足元がごつごつしているから」<br> 「……はい」<br>  朝比奈さんが長門さんの手を引いてあげている。朝比奈さん、良い人よね。<br>  でも、長門さんは何だか心ここに非ずって感じで、前を行く二人を気にしている感じなの。<br>  この二人、最近結構良い感じなのよね。<br>  元々古泉くんは涼宮さんが好きだったみたいなんだけど、最近は涼宮さんもまんざらじゃなさそうだし……、周りに女の子が増えて、危機感が出てきたせいかしら?<br>  二人とも具体的なことは何も言ってないみたいだけど、後は時間の問題とか、きっかけ次第ってところじゃないかしら。<br>  長門さんがそれを気にしているのは……、やっぱり、そういうことなのよね。<br>  まあ、古泉くんは優しい男の子だもんね。長門さんが古泉くんを好きになっても、そんなにおかしくは無いと思う。<br>  だってこの世界では、長門さんの初恋の人にはもう会えないんだし。<br> <br>  でも、変なの。<br>  この形を望んだのは、長門さん自身のはずなのにね。<br> <br> <br>  その日の活動は、勿論何の進展も無いまま終わっちゃったけど、涼宮さんはそういうことは全然気にしてないみたい。楽しかったから良かったってことなのかしら。<br>  大抵は集合場所の駅前で別れるんだけど、あたしと長門さんは同じマンションに住んでいるから、そこからも二人一緒なのよね。<br>  今日も、あたしは長門さんと一緒の帰宅。<br> 「ねえ、長門さん」<br> 「何?」<br> 「長門さん、もしかして古泉くんのことが好き?」<br> 「……」<br>  やっぱり、答えてはくれないみたい。<br>  でもね、そんな風に顔を赤くしていたら、答えているのと同じだと思うんだけど。<br> 「でも、古泉くんは涼宮さんが好きなのよね」<br>  古泉くんは誰にでも優しいし、あからさまにどうこうって言うのは無いんだけど、あたし達に出会うまでの経緯を考えれば、先ずそうとしか考えられないわ。<br>  注意深く見れば、それらしいところも無いわけじゃないしね。<br> 「……うん」<br> 「涼宮さんも、最近じゃ古泉くんのことを結構意識しているみたいだし」<br>  多分、涼宮さんも分かっているんじゃないかしら。<br>  この世界ではもうジョンに会えないことを。<br>  ジョンが居なくても、楽しい日々が過ごせるってことを。<br>  運命的な出会いをした異性が居たけれど、その人とは一緒に居ることが出来なくて、以前から傍に居た人の大切さに気付いて……、なんて、良くある話じゃない?<br> 「……」<br> 「ねえ、長門さん。……これで良いの?」<br> <br>  とられちゃって、いいの?<br>  一度ならず二度までも、なんて。<br> <br>  ……本当に、それでいいの?<br> <br> <br> 「……」<br> 「ねえ、長門さん。……本当に、良いの?」<br> 「……わたしじゃ、涼宮さんには勝てないから」<br>  長門さんは、静かに敗北宣言を口にした。<br>  向こうの世界ならともかく、こっちの世界なら、涼宮さんと対等になれるかも知れないのに……、どうして、自分からその権利を放棄しちゃうのかしら?<br> 「そんなこと無いと思うけど……」<br> 「……」<br>  あたしは否定してみるけれど、長門さんは何も答えてくれない。<br>  あんまり具体的なことは口にしたくないのかしら?<br>  それとも、あくまで漠然とそう思っているだけなのかしら?<br> 「ねえ。……今日の晩御飯、一緒に食べない?」<br> 「……うん」<br>  あたしの提案に、長門さんが頷く。<br>  それから、あたしだけが一方的に喋るようなお喋りをしてから、乗り込んだマンションのエレベーターであたしだけが少し先に降りる形であたし達は一旦別れた。<br> <br> <br>  あたしはエプロンを手にして、夕食の準備を始めた。<br>  長門さんは多分出来上がる頃にやって来るから、それまでは一人で居られる。<br> 「あーあ、この世界は……、そんなことのためにあるはずじゃないのになあ」<br>  楽しそうに話しながら帰っていった涼宮さんと古泉くんのことを思い出しながら、あたしは思わず呟いちゃった。<br> <br>  それは確かに、長門さんが望んだ形なんだけど。<br>  でも……、そのために、この世界があるわけじゃないのよね。<br> <br>  ねえ、そうでしょう?<br> <br> <br>  準備が終わった頃に長門さんがやって来て、それから、二人で一緒に晩御飯を食べた。<br> 「もっと食べなきゃ駄目だよ」<br>  ちっとも食が進んでない長門さんに向って一応そう言ってみるけれど、あんまり効果は無いみたい。長門さんって本当に小食なの。身体も小柄で細身な方とはいえ、よくこれだけで生きていけるなあ、と感じるくらいなのよね。<br> 「……」<br>  ちまちまと大根を箸で切りながら食べる長門さんを見ながら、あたしは去年の暮れの辺りに長門さんの部屋でおでんを食べた日のことを思い出す。<br>  ジョンと、長門さんと、あたしと。<br>  そのときの長門さんは、多分ジョンのことが好きだったんだと思う。<br>  でも、ジョンは長門さんを選ばなかった。<br>  ジョンは元の世界に帰っちゃって、長門さんはここに取り残された。<br> <br>  ……それで、何もかもが終われば、まだ、良かったのかもね。<br> <br>  そうしたら、長門さんがもう一度苦しむことも無かった。<br>  あたしが、こうしてここに居ることも無かった。<br>  あたしは……、あたしは、ただの付属物。<br>  恋も出来ない愛されることも無い、長門さんを守るためだけの存在。<br> <br>  本当、馬鹿馬鹿しい話。<br> <br>  でも、今のあたしは、この馬鹿馬鹿しい状況にただ従うだけの存在。<br> <br> <br> 「……ごめんね、朝倉さん」<br>  長門さんは何に謝っているのかしら。<br>  今日のこと? ご飯のこと?<br>  そんなこと、気にしなくて良いのに。<br>  そんな小さなこと……、謝るなら、もっと大事なことがあるんじゃないの?<br>  ……もっとも、ここに居る長門さんは、そんなことを知るわけも無いんだけど。<br> 「気にしないで、あたし達友達でしょうっ!」<br> 「朝倉さん……、ありがとう、朝倉さん」<br>  本当、こういうところは素直なのね。<br>  そういう笑い方は嫌いじゃないけど……、でも、本当に、これで良いのかしら。<br>  やらないで後悔するより、やって後悔する方が良いのにね。<br> <br> 「じゃあ、また明日ね」<br> 「……うん、また明日」<br>  明日からはまた学校。<br>  何の代わり映えもしない日常が、また始まるの。<br>  長門さんは、どう思っているのかしらね。<br>  大好きな人には会えないけど、その人が他の娘と仲良くしているのも見なくてすむわけだから、それはそれで良いって思っているのかしら。<br>  本当、後ろ向きな考えよね。<br> <br>  ねえ、長門さん。<br> <br>  本当に、それで良いの?<br> <br>  <br>

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