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「阪中さんは目でコロス」(2007/04/11 (水) 16:35:37) の最新版変更点
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<div class="main">
<div>共学校では、男女別の授業というのがたまにある。<br>
「生活」というのもそのひとつだ。中学の頃は男子が工作で<br>
女子は家庭科って呼称だったな。まあ、内容自体は<br>
高校になってもそんなに変わらない。<br>
基盤にいろいろ配線つないでハンダ付けしたりするのが<br>
本当に将来役に立つのかは多少なりとも疑問だが、<br>
普段の授業に比べれば成すべき事が直感的に分かるって点で<br>
マシではある、かもしれないな。<br>
まあ、そんなこんなで谷口や国木田らとダベりつつ<br>
教室に戻ってきた俺だった。のだが。<br></div>
<br>
<div>「あ、キョン!」<br></div>
<br>
<div>教室に入るなり、ハルヒのホッとしたような声に<br>
出迎えられるという、なんとも珍しい事態に巡り合わせた。<br>
なんだ? いったい何が起こったってんだ?<br>
その疑問はすぐに氷解した。なにしろ大元の張本人が<br>
俺に呼び掛けてきたからな。<br></div>
<br>
<div>「あっ、キョン君、聞いて聞いてなのね!<br>
今日の調理実習はマドレーヌを作ったんだけど、涼宮さんってば<br>
ものすごく手際が良いのね!<br>
わたしもう、本当に感激しちゃったのね!」<br></div>
<br>
<div>えらく嬉しそうだなあ、阪中。<br>
そう、ハルヒは二つ右隣の席の女子クラスメート、阪中に<br>
熱烈に話し掛けられていたらしい。どうやら今日は同じ班で<br>
作業をしてたようだな。<br>
何というか、阪中があまりに嬉しそうなので、ハルヒも<br>
むげに突き放せないみたいだ。4月辺りと比べると、こいつも<br>
だいぶ丸くなったもんだな。いい傾向だが。<br></div>
<br>
<div>
それは良いとして、しかし阪中のように他人の上手を<br>
我が事のように喜ぶという女子特有の感覚は、どうも理解しがたい。<br>
たとえば体育でサッカーをやって、同じチームの誰かが<br>
大活躍したとしてもそれを俺が喜び勇んでハルヒに報告したり<br>
するかといったら、そんな事は無い。男子は無意識に<br>
周りをライバル視しているという事なのか。まあ考えても<br>
詮のない事ではある。<br></div>
<br>
<div>というか、ここまで考えている間にも阪中は、<br>
器にバターを塗る手付きが鮮やかだっただの小麦粉を振るう動作も<br>
なめらかだっただの、ハルヒの出来っぷりを奇跡のごとく<br>
俺に語っており。<br>
当のハルヒは完全に困りきった様子で<br></div>
<br>
<div>
「ちょっとキョン! 早くなんとかしなさいよ!」<br></div>
<br>
<div>と俺に目で訴えていた。<br>
うむ、その気持ちは分からないでもない。妹にしつこく<br>
まとわり付かれて、弱った鳴き声をあげるシャミセンと同様だな。<br>
自信家のハルヒでも、こうして持ち上げられまくるのは<br>
面映ゆいんだろう。何というか、阪中の陶酔っぷりはいささか<br>
狂信者めいた物すら感じさせるしな。<br></div>
<br>
<div>
ハルヒのこんな表情はかなり貴重なものであり、俺としては<br>
もうしばらく眺めていたい気もしないではなかったが、<br>
そうすると後でキリキリと首を絞められるのは目に見えて<br>
明らかでもあったし。<br>
詰まる所、自分の席に着いた俺は二人の会話に――というか、<br>
阪中が一方的にハルヒを賞賛しているんだが――割り込むように<br>
ハルヒに話しかけたのだった。<br></div>
<br>
<div>
「ふうん。今日の菓子はそんなにうまく出来たのか」<br>
「別に大した事じゃないわ。レシピ通りに作っただけだし」<br>
「そりゃ、授業は共同作業だからな。一人で独走ってわけにも<br>
行かないだろ。アレンジしたけりゃ自宅でどうぞ、って所だな」<br>
「なあに? その言い草じゃ、まるであたしにお菓子を<br>
焼いてきて貰いたいみたいね?」<br>
「は? いや、別に俺は…」<br></div>
<br>
<div>
はにかんだような表情でそんな事を言い出すハルヒに、俺は<br>
訂正を入れようとした。だが、その時。<br>
自分の席に座って、後ろに振り向きながら話していた俺の<br>
視界の左端で、阪中が“にこっ”と笑ったのだ。<br>
なぜだかその笑顔に、俺は<br></div>
<br>
<div>『否定したらコロス。いやさオロス』<br></div>
<br>
<div>と書いてあるような気がした。オロス? 3枚に?<br>
俺の方を向いているハルヒは、そんな阪中には全く気付いていない<br>
様子で、机の中からハンカチに包まれたタッパーなんぞを<br>
いそいそと取り出している。<br></div>
<br>
<div>「今日焼いたのなら…少し残りがあるけど…<br>
あんたがどうしてもって言うなら、め、恵んでやらない事もないわよ?」<br>
</div>
<br>
<div>
窓の外へ視線を泳がせながら、俺にタッパーを突き出すハルヒ。<br>
その二つ左隣には、やはりにこやかな笑顔があった。彼女の両手には<br>
先の授業で使ったらしい道具袋がある。<br>
ええと、その袋の絞り口からはみ出してる木の先端はもしかして<br>
包丁の柄ですかそうですか。<br></div>
<br>
<div>「ハイ、ゼヒ食サセテ頂キタイデス」<br></div>
<br>
<div>
気が付くと俺の口は勝手にそう返事をしていた。さもなくば<br>
命の保障は無いと、体の方が判断したのかもしれない。<br>
こうして、俺はハルヒの照れくさそうな笑顔と、そんなハルヒを<br>
嬉しそうに眺めるもうひとつの笑顔に見守られながら、<br>
出来立てのマドレーヌをご馳走になったのだった。<br>
ああ、もちろんその味は絶品でございました。ホントダヨ?<br>
</div>
<br>
<br>
<br>
<div>阪中さんは目でコロス おわり<br></div>
</div>
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<div class="main">
<div>共学校では、男女別の授業というのがたまにある。<br />
「生活」というのもそのひとつだ。中学の頃は男子が工作で<br />
女子は家庭科って呼称だったな。まあ、内容自体は<br />
高校になってもそんなに変わらない。<br />
基盤にいろいろ配線つないでハンダ付けしたりするのが<br />
本当に将来役に立つのかは多少なりとも疑問だが、<br />
普段の授業に比べれば成すべき事が直感的に分かるって点で<br />
マシではある、かもしれないな。<br />
まあ、そんなこんなで谷口や国木田らとダベりつつ<br />
教室に戻ってきた俺だった。のだが。</div>
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<div>「あ、キョン!」</div>
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<div>教室に入るなり、ハルヒのホッとしたような声に<br />
出迎えられるという、なんとも珍しい事態に巡り合わせた。<br />
なんだ? いったい何が起こったってんだ?<br />
その疑問はすぐに氷解した。なにしろ大元の張本人が<br />
俺に呼び掛けてきたからな。</div>
<br />
<div>「あっ、キョン君、聞いて聞いてなのね!<br />
今日の調理実習はマドレーヌを作ったんだけど、涼宮さんってば<br />
ものすごく手際が良いのね!<br />
わたしもう、本当に感激しちゃったのね!」</div>
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<div>えらく嬉しそうだなあ、阪中。<br />
そう、ハルヒは二つ右隣の席の女子クラスメート、阪中に<br />
熱烈に話し掛けられていたらしい。どうやら今日は同じ班で<br />
作業をしてたようだな。<br />
何というか、阪中があまりに嬉しそうなので、ハルヒも<br />
むげに突き放せないみたいだ。4月辺りと比べると、こいつも<br />
だいぶ丸くなったもんだな。いい傾向だが。</div>
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<div>それは良いとして、しかし阪中のように他人の上手を<br />
我が事のように喜ぶという女子特有の感覚は、どうも理解しがたい。<br />
たとえば体育でサッカーをやって、同じチームの誰かが<br />
大活躍したとしてもそれを俺が喜び勇んでハルヒに報告したり<br />
するかといったら、そんな事は無い。男子は無意識に<br />
周りをライバル視しているという事なのか。まあ考えても<br />
詮のない事ではある。</div>
<br />
<div>というか、ここまで考えている間にも阪中は、<br />
器にバターを塗る手付きが鮮やかだっただの小麦粉を振るう動作も<br />
なめらかだっただの、ハルヒの出来っぷりを奇跡のごとく<br />
俺に語っており。<br />
当のハルヒは完全に困りきった様子で</div>
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<div>「ちょっとキョン! 早くなんとかしなさいよ!」</div>
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<div>と俺に目で訴えていた。<br />
うむ、その気持ちは分からないでもない。妹にしつこく<br />
まとわり付かれて、弱った鳴き声をあげるシャミセンと同様だな。<br />
自信家のハルヒでも、こうして持ち上げられまくるのは<br />
面映ゆいんだろう。何というか、阪中の陶酔っぷりはいささか<br />
狂信者めいた物すら感じさせるしな。</div>
<br />
<div>ハルヒのこんな表情はかなり貴重なものであり、俺としては<br />
もうしばらく眺めていたい気もしないではなかったが、<br />
そうすると後でキリキリと首を絞められるのは目に見えて<br />
明らかでもあったし。<br />
詰まる所、自分の席に着いた俺は二人の会話に――というか、<br />
阪中が一方的にハルヒを賞賛しているんだが――割り込むように<br />
ハルヒに話しかけたのだった。</div>
<br />
<div>「ふうん。今日の菓子はそんなにうまく出来たのか」<br />
「別に大した事じゃないわ。レシピ通りに作っただけだし」<br />
「そりゃ、授業は共同作業だからな。一人で独走ってわけにも<br />
行かないだろ。アレンジしたけりゃ自宅でどうぞ、って所だな」<br />
「なあに? その言い草じゃ、まるであたしにお菓子を<br />
焼いてきて貰いたいみたいね?」<br />
「は? いや、別に俺は…」</div>
<br />
<div>はにかんだような表情でそんな事を言い出すハルヒに、俺は<br />
訂正を入れようとした。だが、その時。<br />
自分の席に座って、後ろに振り向きながら話していた俺の<br />
視界の左端で、阪中が“にこっ”と笑ったのだ。<br />
なぜだかその笑顔に、俺は</div>
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<div>『否定したらコロス。いやオロス』</div>
<br />
<div>と書いてあるような気がした。オロス? 3枚に?<br />
俺の方を向いているハルヒは、そんな阪中には全く気付いていない<br />
様子で、机の中からハンカチに包まれたタッパーなんぞを<br />
いそいそと取り出している。</div>
<br />
<div>「今日焼いたのなら…少し残りがあるけど…<br />
あんたがどうしてもって言うなら、め、恵んでやらない事もないわよ?」</div>
<br />
<div>窓の外へ視線を泳がせながら、俺にタッパーを突き出すハルヒ。<br />
その二つ左隣には、やはりにこやかな笑顔があった。彼女の両手には<br />
先の授業で使ったらしい道具袋がある。<br />
ええと、その袋の絞り口からはみ出してる木の先端はもしかして<br />
包丁の柄ですかそうですか。</div>
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<div>「ハイ、ゼヒ食サセテ頂キタイデス」</div>
<br />
<div>気が付くと俺の口は勝手にそう返事をしていた。さもなくば<br />
命の保障は無いと、体の方が判断したのかもしれない。<br />
こうして、俺はハルヒの照れくさそうな笑顔と、そんなハルヒを<br />
嬉しそうに眺めるもうひとつの笑顔に見守られながら、<br />
出来立てのマドレーヌをご馳走になったのだった。<br />
ああ、もちろんその味は絶品でございました。ホントダヨ?</div>
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<div>阪中さんは目でコロス おわり</div>
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