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「ある夏の水色」(2020/08/12 (水) 13:54:36) の最新版変更点
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<div class="main">
<div>試行八千七百六十九回目―。</div>
<br /><div>エラーデータの蓄積。解放までの試行残り三百回。<br />
…。</div>
<br /><div>八千七百六十九回目途中経過報告。<br />
訪問先。<br />
市民プール。昆虫採集。アルバイト-風船配り、ビラ配り。<br />
―。<br />
…。</div>
<br /><div>未来に帰れない…。お家に帰った私はしゃがみこんでしまう。<br />
もう一度通信をしてみる。…だめ、反応なし。</div>
<br /><div>長門さんの話ではこれで8769回目…。<br />
それまでの私も同じようだったの?</div>
<br /><div>帰れない…。ずっとここに閉じこめられるの?<br />
もう泣き疲れたのにまだ涙が出てくるよう…。<br />
うっ。うぇっ。うえぇぇぇぇん。うぅぅぅぅぅ~。</div>
<br /><div>涼宮さんのやり残したこと…<br />
私にはわからない。キョンくん…。</div>
<br /><div>ひっく。</div>
<br /><div>頭がぐちゃぐちゃで眠れない…。<br />
がんばらなきゃいけないのに。<br />
でも誰も指示をくれる人はいない。<br />
私ひとり…。</div>
<br /><div>うぇっ、あっ、うわぁぁぁん、うぅぅぅぅ。</div>
<br /><div>泣いてばっかり…。</div>
<br /><div>うぅぅ。</div>
<br /><div>…。</div>
<br /><br /><div>お空が明るい。<br />
時間は…?お昼過ぎ。<br />
何だか頭が痛いなぁ…。どうしてだっけ。<br />
すぐに思い出す。もう泣きたくないのに…うぅ。</div>
<br /><div>鏡を見る…ひどい顔。<br />
今日は天体観測だったっけ…。<br />
今日はお休みしたいな…。<br />
だめ、だよね。涼宮さんが機嫌悪くしちゃう。<br />
眠いなぁ。夢ばっかり見ていた気がする。どんな夢だったっけ?</div>
<br /><div>洋服を選ぶのもなんだかおっくう。<br />
でも行かなくちゃ…。</div>
<br /><div>かたわらに『浴衣』が置いてある…。<br />
この時代の伝統的な衣装…。かわいくて好き。<br />
着せてくれてありがとう。涼宮さん。</div>
<br /><br /><div>「朝比奈さん?大丈夫ですか?」<br />
キョンくんが訊いてくる。私なら大丈夫…。<br />
こんなうそはたぶんキョンくんにはばればれだけど…。<br />
私はひとりで頑張るしかないんだから。<br />
長門さんのマンションの屋上。いい景色。<br />
眠いなぁ…。古泉くんが望遠鏡を準備してる。<br />
お星様かぁ。きれいだろうなぁ。<br />
願い事…。</div>
<br /><div>未来にちゃんと帰れますように…。<br />
すう。</div>
<br /><br /><div>―天体観測。<br />
八千七百十一回目。<br />
観測星系に変化なし。</div>
<br /><div>涼宮さんがボールを次々に打ち返してる。すごい。<br />
私はもっともっとゆっくりなボールを打つことすらできないし、取ることもできないのに。<br />
涼宮さんには怖いものとかないのかなぁ?<br />
私も涼宮さんみたいに強くなりたいなぁ…。<br />
まずはこの夏休みが終わらないと。<br />
未来。<br />
はぁ…。<br />
「朝比奈さん…元気出してくださいね」<br />
キョンくんだった。ありがとう。<br />
元気になるまではもう少しかかりそうだけど…。<br />
「俺が必ずなんとかします。ハルヒの望みくらい見抜けなくてSOS団の普通人は務まりませんからね」<br />
「うふふ」<br />
ひさしぶりに笑えた気がする。少し元気が出た。<br />
落ち込んでてもしょうがないもんね。</div>
<br /><br /><div>―バッティングセンター。<br />
八千七百六十二回目。</div>
<br /><br /><div>きれい。わぁーっ。すごい。<br />
はなび。花火。花火。<br />
浴衣をまた着て、私たちは花火大会に来ています。<br />
少なくともこの時だけ、未来に帰れないことを忘れていられました。<br />
「…」<br />
視線…長門さんがこっちを見てる。</div>
<br /><div>「長門さん。ど、どうかしましたかぁ?」<br />
「へいき?」<br />
私が大丈夫か気づかってくれてるのかなぁ…。<br />
「大丈夫です。ありがとう…。<br />
あのっ、長門さんは大丈夫?」<br />
「わたしはこれが役目。問題はない」<br />
「そ、そうですかぁ」<br />
ほんとに大丈夫なのかな…。長門さんが私たちと違うなんてことあるのかな。<br />
上の人たちはああ言うけれど、こうしていると普通の女の子…。<br />
「なに」<br />
「い、いいえっ。なんでもないですっ!ごめんなさい」<br />
お辞儀。ごめんなさいっ。<br />
「みくるちゃんちょっと見て!早く早く!すごいわあの花火、たーまやー!!」<br />
「は、はいはい!?」<br />
涼宮さんに呼ばれて、今思ったことはそれきりになっちゃった。<br />
変わったかたちの花火がキラキラ光ってる。</div>
<br /><br /><div>―花火大会。<br />
八千七百五回目。<br />
内容に変化なし。<br />
朝比奈みくるが疲れている。休息すべき。</div>
<br /><div>「はぜ、ですかぁ?」<br />
「ハゼだそうです。まったくどこでそんな告知を見つけてくるんでしょうねあいつは…」<br />
キョンくんとお話している間に川に来ていました。<br />
はぜ。涼宮さんが思い切り釣りざおを振ってる―きゃっ!<br />
「あーみくるちゃんごめーん!!!」<br />
「ふえぇ、と、取ってくださいよ~ぅ」<br />
「こらハルヒ!地球ならまだしも朝比奈さんを釣るなんて何事だ!」<br />
「だからごめんって言ってるじゃない。ごねんねーみくるちゃん!」</div>
<br /><div>夏休みはあと3日しかない…。<br />
私には涼宮さんのやり残したことなんて全然わからない。<br />
あんなに楽しそうなのになぁ。</div>
<br /><div>…すごくいいお天気でした。<br />
お昼過ぎ。<br />
「彼がいい案を考えてくれればいいんですがね」<br />
古泉くんがつぶやいた。<br />
「そ、そうですね…。涼宮さんがまだやってないこと…」<br />
古泉くんはいつものように笑って、<br />
「きっと大丈夫ですよ。何となくですがね。彼を信じたい気持ちです」<br />
それは私も一緒。キョンくんなら私たちに分からないことも分かるかもしれない。<br />
「明日は肝試し…でしたっけ?」<br />
「ひえっ!」<br />
「ははは。大丈夫です、何も出ませんよ」<br />
だといいんですけど…。お墓…。</div>
<br /><div>「こらキョン!あんた何度あたしを釣り上げれば気が済むのよ!」<br />
「すまん!何だか知らんが投げるたんび風が吹いてだな」<br />
「言い訳する気!?罰ゲームにするわよ!」</div>
<br /><div>二人とも楽しそう。<br />
ちょっとだけうらやましかった。<br />
ちょっとだけね。うん。</div>
<br /><br /><div>―ハゼ釣り大会。<br />
八千七百五十四回目。</div>
<br /><br /><div>「ひえぇぇぇぇぇえ!!!」<br />
「朝比奈さん、ただの柳ですよ…」<br />
「へ?え…。あ。ふぅぅ~」<br />
「困ったらいつでも俺の腕にすがってくれていいですよ」<br />
「そ、それは…その」<br />
「恨めしやぁ~!」<br />
「きゃ、きゃあああああああああああああああああああああああああああ!」<br />
「こらハルヒ、何度やりゃ気が済むんだよ!朝比奈さんの寿命を縮める気か!」</div>
<br /><div>今日は怖かったぁ。もういやですあんなの…。</div>
<br /><div>つい時計を見ちゃう。<br />
あと2日しかない…。<br />
また元通りになっちゃう。<br />
つい未来と交信しようとしちゃう。誰も応えてくれないのに。<br />
ふぇっ、うぅぅぅぅ。<br />
泣いたってどうにもならないのに…うぅぅぅぅ。<br />
うぇっ、うっ、ふぅぅ。</div>
<br /><br /><div>―肝試し。<br />
八千七百六十三回目。</div>
<br /><br /><div>「これで課題は一通り終わったわね」<br />
涼宮さんが課題表を見てる。本当は終わってないんですよね?<br />
キョンくん…。困ってる。<br />
気のせいかな…長門さんもちょっと困った顔に見える。<br />
「―また明後日、部室で会いましょう」<br />
涼宮さんが出て行っちゃった。前にも見たような気がする。<br />
「さて、これでまた我々は元に戻ってしまうわけですね」<br />
古泉くんが涼宮さんの残していった課題表を見てる。</div>
<br /><div>「何か思いつかないんですか?」<br />
「俺頼りかよ。残念だが何も思い浮かばん。<br />
あいつの考える事がそんな簡単に分かっちまったら、それはそれで問題だな」<br />
キョンくんはまだ困ってる…。口ではこう言ってるけれど。<br />
私は帰れないんだ…。ずっと同じことを、繰り返して。<br />
急に悲しくなってくる。うぅぅ。うっ。<br />
「朝比奈さん…」<br />
キョンくん。ごめんね。うぅぅ。<br />
泣くつもりなんて…ないのに。うぅっ。<br />
「ごめんなさい。何とかするって言ったのに…何も思い浮かばなくて」<br />
「キョンくんの…せいじゃうっ、ふぇっ、ありませっ、んからっ」<br />
そこから涙が止まらなかった。だめな子…。<br />
足を引っ張ってばっかり…。<br />
私が泣き止むまで、他のみんなは黙ってついていてくれた。<br />
家に帰っても涙がまた出てきた。<br />
からっぽな気持ち。<br />
本当の家。<br />
…。<br />
未来。<br />
…。<br />
帰れないなんてやだよう。</div>
<br /><br /><div>―喫茶店。団ミーティング。<br />
八千七百六十九回目。<br />
朝比奈みくるの心労が大きくなりすぎた。<br />
無意識下の蓄積が引き金になった可能性がある。<br />
彼女が泣き止むまでにここまで時間がかかったのは初めて。<br />
あと一日。<br />
99、9999332パーセントの確率で明日の二十四時に試行八千七百七十回目に突入</div>
<br /><div>朝。今日はなにもないみたい。<br />
ぽっかり一日が空いちゃった…どうしよう。<br />
学校の宿題がまだ全部は終わってない、けど…。<br />
私は受話器を取って電話をかける。<br />
プルルルル、プルルル ガチャ<br />
「やっほー!みくるかい!?どうしたの?」<br />
「鶴屋さん、あの…えっと。うーん」<br />
「何か落ち込んじゃうようなことでもあったかなー。んー?」<br />
「えっ。あぁ、その…そうなの」<br />
「そっかそっかー。みくるはいい子だからねー。<br />
人よりちょろっと傷つきやすいのさっ。<br />
でも大丈夫っさ!すぐに元気になれるのもみくるのいいとこだーっ!」<br />
「…」<br />
「んー?どうしたー、みっくるー?」<br />
「うっ、ふえぇぇぇ」<br />
「また泣いちゃったかぁ。んもうみくるは泣き虫さんだなぁ!」</div>
<br /><div>鶴屋さんは一時間近く私をなぐさめてくれた。<br />
ありがとう。ごめんね。変な電話しちゃって…。<br />
「そんなの気にしない!あたしたちは友達なんだからっ。<br />
おっと、もう泣かない!みくるは本当は強いんだからなー!」<br />
ありがとう。</div>
<br /><div>受話器を置いて、私は顔を洗った。<br />
うん、大丈夫。<br />
また繰り返しちゃっても、おんなじように何度も泣いちゃっても。<br />
私は負けない。がんばる。</div>
</div>
<div class="main">
<div>試行八千七百六十九回目―。</div>
<div>エラーデータの蓄積。解放までの試行残り三百回。<br />
…。</div>
<div>八千七百六十九回目途中経過報告。<br />
訪問先。<br />
市民プール。昆虫採集。アルバイト-風船配り、ビラ配り。<br />
―。<br />
…。</div>
<div>未来に帰れない…。お家に帰った私はしゃがみこんでしまう。<br />
もう一度通信をしてみる。…だめ、反応なし。</div>
<div>長門さんの話ではこれで8769回目…。<br />
それまでの私も同じようだったの?</div>
<div>帰れない…。ずっとここに閉じこめられるの?<br />
もう泣き疲れたのにまだ涙が出てくるよう…。<br />
うっ。うぇっ。うえぇぇぇぇん。うぅぅぅぅぅ~。</div>
<div>涼宮さんのやり残したこと…<br />
私にはわからない。キョンくん…。</div>
<div>ひっく。</div>
<div>頭がぐちゃぐちゃで眠れない…。<br />
がんばらなきゃいけないのに。<br />
でも誰も指示をくれる人はいない。<br />
私ひとり…。</div>
<div>うぇっ、あっ、うわぁぁぁん、うぅぅぅぅ。</div>
<div>泣いてばっかり…。</div>
<div>うぅぅ。</div>
<div>…。</div>
<div>お空が明るい。<br />
時間は…?お昼過ぎ。<br />
何だか頭が痛いなぁ…。どうしてだっけ。<br />
すぐに思い出す。もう泣きたくないのに…うぅ。</div>
<div>鏡を見る…ひどい顔。<br />
今日は天体観測だったっけ…。<br />
今日はお休みしたいな…。<br />
だめ、だよね。涼宮さんが機嫌悪くしちゃう。<br />
眠いなぁ。夢ばっかり見ていた気がする。どんな夢だったっけ?</div>
<div>洋服を選ぶのもなんだかおっくう。<br />
でも行かなくちゃ…。</div>
<div>かたわらに『浴衣』が置いてある…。<br />
この時代の伝統的な衣装…。かわいくて好き。<br />
着せてくれてありがとう。涼宮さん。</div>
<div>「朝比奈さん?大丈夫ですか?」<br />
キョンくんが訊いてくる。私なら大丈夫…。<br />
こんなうそはたぶんキョンくんにはばればれだけど…。<br />
私はひとりで頑張るしかないんだから。<br />
長門さんのマンションの屋上。いい景色。<br />
眠いなぁ…。古泉くんが望遠鏡を準備してる。<br />
お星様かぁ。きれいだろうなぁ。<br />
願い事…。</div>
<div>未来にちゃんと帰れますように…。<br />
すう。</div>
<div>―天体観測。<br />
八千七百十一回目。<br />
観測星系に変化なし。</div>
<div>涼宮さんがボールを次々に打ち返してる。すごい。<br />
私はもっともっとゆっくりなボールを打つことすらできないし、取ることもできないのに。<br />
涼宮さんには怖いものとかないのかなぁ?<br />
私も涼宮さんみたいに強くなりたいなぁ…。<br />
まずはこの夏休みが終わらないと。<br />
未来。<br />
はぁ…。<br />
「朝比奈さん…元気出してくださいね」<br />
キョンくんだった。ありがとう。<br />
元気になるまではもう少しかかりそうだけど…。<br />
「俺が必ずなんとかします。ハルヒの望みくらい見抜けなくてSOS団の普通人は務まりませんからね」<br />
「うふふ」<br />
ひさしぶりに笑えた気がする。少し元気が出た。<br />
落ち込んでてもしょうがないもんね。</div>
<div>―バッティングセンター。<br />
八千七百六十二回目。</div>
<div>きれい。わぁーっ。すごい。<br />
はなび。花火。花火。<br />
浴衣をまた着て、私たちは花火大会に来ています。<br />
少なくともこの時だけ、未来に帰れないことを忘れていられました。<br />
「…」<br />
視線…長門さんがこっちを見てる。</div>
<div>「長門さん。ど、どうかしましたかぁ?」<br />
「へいき?」<br />
私が大丈夫か気づかってくれてるのかなぁ…。<br />
「大丈夫です。ありがとう…。<br />
あのっ、長門さんは大丈夫?」<br />
「わたしはこれが役目。問題はない」<br />
「そ、そうですかぁ」<br />
ほんとに大丈夫なのかな…。長門さんが私たちと違うなんてことあるのかな。<br />
上の人たちはああ言うけれど、こうしていると普通の女の子…。<br />
「なに」<br />
「い、いいえっ。なんでもないですっ!ごめんなさい」<br />
お辞儀。ごめんなさいっ。<br />
「みくるちゃんちょっと見て!早く早く!すごいわあの花火、たーまやー!!」<br />
「は、はいはい!?」<br />
涼宮さんに呼ばれて、今思ったことはそれきりになっちゃった。<br />
変わったかたちの花火がキラキラ光ってる。</div>
<div>―花火大会。<br />
八千七百五回目。<br />
内容に変化なし。<br />
朝比奈みくるが疲れている。休息すべき。</div>
<div>「はぜ、ですかぁ?」<br />
「ハゼだそうです。まったくどこでそんな告知を見つけてくるんでしょうねあいつは…」<br />
キョンくんとお話している間に川に来ていました。<br />
はぜ。涼宮さんが思い切り釣りざおを振ってる―きゃっ!<br />
「あーみくるちゃんごめーん!!!」<br />
「ふえぇ、と、取ってくださいよ~ぅ」<br />
「こらハルヒ!地球ならまだしも朝比奈さんを釣るなんて何事だ!」<br />
「だからごめんって言ってるじゃない。ごねんねーみくるちゃん!」</div>
<div>夏休みはあと3日しかない…。<br />
私には涼宮さんのやり残したことなんて全然わからない。<br />
あんなに楽しそうなのになぁ。</div>
<div>…すごくいいお天気でした。<br />
お昼過ぎ。<br />
「彼がいい案を考えてくれればいいんですがね」<br />
古泉くんがつぶやいた。<br />
「そ、そうですね…。涼宮さんがまだやってないこと…」<br />
古泉くんはいつものように笑って、<br />
「きっと大丈夫ですよ。何となくですがね。彼を信じたい気持ちです」<br />
それは私も一緒。キョンくんなら私たちに分からないことも分かるかもしれない。<br />
「明日は肝試し…でしたっけ?」<br />
「ひえっ!」<br />
「ははは。大丈夫です、何も出ませんよ」<br />
だといいんですけど…。お墓…。</div>
<div>「こらキョン!あんた何度あたしを釣り上げれば気が済むのよ!」<br />
「すまん!何だか知らんが投げるたんび風が吹いてだな」<br />
「言い訳する気!?罰ゲームにするわよ!」</div>
<div>二人とも楽しそう。<br />
ちょっとだけうらやましかった。<br />
ちょっとだけね。うん。</div>
<div>―ハゼ釣り大会。<br />
八千七百五十四回目。</div>
<div>「ひえぇぇぇぇぇえ!!!」<br />
「朝比奈さん、ただの柳ですよ…」<br />
「へ?え…。あ。ふぅぅ~」<br />
「困ったらいつでも俺の腕にすがってくれていいですよ」<br />
「そ、それは…その」<br />
「恨めしやぁ~!」<br />
「きゃ、きゃあああああああああああああああああああああああああああ!」<br />
「こらハルヒ、何度やりゃ気が済むんだよ!朝比奈さんの寿命を縮める気か!」</div>
<div>今日は怖かったぁ。もういやですあんなの…。</div>
<div>つい時計を見ちゃう。<br />
あと2日しかない…。<br />
また元通りになっちゃう。<br />
つい未来と交信しようとしちゃう。誰も応えてくれないのに。<br />
ふぇっ、うぅぅぅぅ。<br />
泣いたってどうにもならないのに…うぅぅぅぅ。<br />
うぇっ、うっ、ふぅぅ。</div>
<div>―肝試し。<br />
八千七百六十三回目。</div>
<div>「これで課題は一通り終わったわね」<br />
涼宮さんが課題表を見てる。本当は終わってないんですよね?<br />
キョンくん…。困ってる。<br />
気のせいかな…長門さんもちょっと困った顔に見える。<br />
「―また明後日、部室で会いましょう」<br />
涼宮さんが出て行っちゃった。前にも見たような気がする。<br />
「さて、これでまた我々は元に戻ってしまうわけですね」<br />
古泉くんが涼宮さんの残していった課題表を見てる。</div>
<div>「何か思いつかないんですか?」<br />
「俺頼りかよ。残念だが何も思い浮かばん。<br />
あいつの考える事がそんな簡単に分かっちまったら、それはそれで問題だな」<br />
キョンくんはまだ困ってる…。口ではこう言ってるけれど。<br />
私は帰れないんだ…。ずっと同じことを、繰り返して。<br />
急に悲しくなってくる。うぅぅ。うっ。<br />
「朝比奈さん…」<br />
キョンくん。ごめんね。うぅぅ。<br />
泣くつもりなんて…ないのに。うぅっ。<br />
「ごめんなさい。何とかするって言ったのに…何も思い浮かばなくて」<br />
「キョンくんの…せいじゃうっ、ふぇっ、ありませっ、んからっ」<br />
そこから涙が止まらなかった。だめな子…。<br />
足を引っ張ってばっかり…。<br />
私が泣き止むまで、他のみんなは黙ってついていてくれた。<br />
家に帰っても涙がまた出てきた。<br />
からっぽな気持ち。<br />
本当の家。<br />
…。<br />
未来。<br />
…。<br />
帰れないなんてやだよう。</div>
<div>―喫茶店。団ミーティング。<br />
八千七百六十九回目。<br />
朝比奈みくるの心労が大きくなりすぎた。<br />
無意識下の蓄積が引き金になった可能性がある。<br />
彼女が泣き止むまでにここまで時間がかかったのは初めて。<br />
あと一日。<br />
99、9999332パーセントの確率で明日の二十四時に試行八千七百七十回目に突入</div>
<div>朝。今日はなにもないみたい。<br />
ぽっかり一日が空いちゃった…どうしよう。<br />
学校の宿題がまだ全部は終わってない、けど…。<br />
私は受話器を取って電話をかける。<br />
プルルルル、プルルル ガチャ<br />
「やっほー!みくるかい!?どうしたの?」<br />
「鶴屋さん、あの…えっと。うーん」<br />
「何か落ち込んじゃうようなことでもあったかなー。んー?」<br />
「えっ。あぁ、その…そうなの」<br />
「そっかそっかー。みくるはいい子だからねー。<br />
人よりちょろっと傷つきやすいのさっ。<br />
でも大丈夫っさ!すぐに元気になれるのもみくるのいいとこだーっ!」<br />
「…」<br />
「んー?どうしたー、みっくるー?」<br />
「うっ、ふえぇぇぇ」<br />
「また泣いちゃったかぁ。んもうみくるは泣き虫さんだなぁ!」</div>
<div>鶴屋さんは一時間近く私をなぐさめてくれた。<br />
ありがとう。ごめんね。変な電話しちゃって…。<br />
「そんなの気にしない!あたしたちは友達なんだからっ。<br />
おっと、もう泣かない!みくるは本当は強いんだからなー!」<br />
ありがとう。</div>
<div>受話器を置いて、私は顔を洗った。<br />
うん、大丈夫。<br />
また繰り返しちゃっても、おんなじように何度も泣いちゃっても。<br />
私は負けない。がんばる。</div>
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