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「長門有希に花束を」(2020/03/15 (日) 18:24:39) の最新版変更点
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<div class="main">
<div>4月第1週<br>
今日から高校生。<br>
本が好きだから文芸部に入る。<br>
でも部員はわたし一人。<br>
暇だから部室にあったパソコンで小説でも書く。<br>
恋愛小説。登場人物はわたしと一目ぼれした5組の男子。<br>
</div>
<br>
<div>「長門好きだ。」<br>
「私も好き。」<br></div>
<br>
<div>あとが続かない。才能のなさに絶望する。<br></div>
<br>
<div>4月第3週<br>
わたしの好きな人のあだ名はキョンというらしい。<br>
本名はわからないけど、それでいいかなと思う。<br>
小説もわかりやすく名前を入れてみる。<br></div>
<br>
<div>キョン「長門、好きだ。」<br>
わたし「わたしも好き。」<br></div>
<br>
<div>ちょっと心が温かくなった気がする。<br></div>
<br>
<div>5月第2週<br>
恋愛小説なのに感情が無い。<br>
ためしに顔文字を入れてみる。<br></div>
<br>
<div>キョン「長門、好きだ!( ゜д ゜)<br>
わたし「私も好き(///)」<br></div>
<br>
<div>ちょっとは感情が入ったかな?<br></div>
<br>
<div>6月第2週<br>
いろんな本を読んで私なりに小説の勉強をしてみた。<br>
その場の説明や雰囲気なんかをセリフの合間に入れる、<br>
「地の文」というのが足りなかったみたい。<br>
ちなみに本を図書館で借りてくる時、キョンに偶然助けてもらった。<br>
やっぱり私はキョンのことが・・・・・・<br></div>
<br>
<br>
<div>
ある日の放課後、わたしが物質で本を読んでいた。、<br>
5組のキョンが訪ねてきた。<br>
いきなり多くな声で言った。<br>
キョン「長門、好きだ!」<br>
わたしは嬉しかた。わたしは言った。<br>
わたし「私も好き。」<br></div>
<br>
<div>
いつも読んでいる本たちにちょっと近づけた気がして嬉しい。<br>
</div>
<br>
<div>7月第1週<br>
今更タイトルが無いのに気付いた。<br>
でもいいタイトルが思いつかない。<br>
しょうがないから「無題」としておく。<br>
あと、見直してみたら誤字があった。<br>
直さなきゃ。<br></div>
<br>
<div>「無題」<br>
ある日の放課後、わたしは部室で本を読んでいた。<br>
5組のキョンが訪ねてきた。<br>
いきなり大きな声で言った。<br>
キョン「長門、好きだ!」<br>
わたしは嬉しかった。わたしは言った。<br>
わたし「私も好き」<br></div>
<br>
<div>9月第1週<br>
夏休みが終わった、久々の部室。<br>
夏休みの間にいっぱい本を読んだ、<br>
いろんな本を読んでみて気付くことが山ほどある。<br>
今までわたしは読んでいなかったみたい。<br>
あんなに多くの本を読んだというのに。<br></div>
<br>
<div>「無題」<br>
ある日の放課後、日は大分傾きかけ、部室の中を赤く染める。<br>
その中で一人私は本を読む。<br>
それが私の部活動。<br>
いつもと変わらぬ一人での部活。<br>
でも今日は少し違った。<br>
突然部室の扉が開き、一人の男子が顔をのぞかせる。<br>
「長門、今時間いいか?」<br>
その男子の名はキョン。私の好きな人。<br>
キョンは周りに誰もいないことを確認して、<br>
私を見つめ、そして決心したように大きな声で私に言う。<br>
「長門、俺はお前のことを好きになってしまった」<br>
嬉しい、夢のような言葉。上手く返事が言葉に出来ない。<br>
やっとのことで返事を口から取り出す。<br>
「私も好き・・・」<br>
そして二人の影は一つになる・・・・・・<br></div>
<br>
<div>10月第4週<br></div>
<br>
<div>さぁ、この小説を完成させよう。<br>
タイトルはいろいろ迷ったけれど、<br>
「無題」のままに決めた。<br></div>
<br>
<div>「無題」<br>
私には好きな人がいる。<br>
高校生になったばかりの私が、入学式の時に見かけた一人の男子。<br>
――ひとめぼれ<br>
これが「ひとめぼれ」であることに気付いたのは入学式が終わり、HRが終わり、家に帰り、布団に入った頃。<br>
その人の名はキョン。本名は知らない。でも本名以上に知られた名前。<br>
わたしは彼のことをいつも思っていた。<br>
でも彼はわたしのことをどう思っているのだろう?<br>
一度図書館であった時も優しくしてくれた。<br>
でもそれは誰にでも見せる優しさ?<br>
不安――<br>
わたしはその不安を消すために、本の世界へと没頭する。<br>
本の世界なら誰もがヒロインになれる。<br>
でも内心は……このままじゃいけないと思っていた。<br>
誰かにわたしの固く閉まった扉を開けてもらい、<br>
広い世界へと飛び出したいと思っていた。<br>
でもわたしにはその勇気がなかった。<br>
今日も一人私は本を読む。<br>
それが私の部活動。<br>
いつもと変わらぬ一人での部活。<br></div>
<br>
<div>
突然部室の扉が開いた一人の男子が顔をのぞかせる。<br></div>
<br>
<div>キョン――?<br></div>
<br>
<div>「長門、今……時間いいか?」<br>
私の好きな人がぐるりとあたりを見渡したかと思うと<br>
私を見つめ、そして決心したように大きな声で私に言った。<br>
一生記憶に残るほどの大切な言葉を。<br>
「長門、俺はお前のことを好きになったみたいだ」<br>
今まで固く閉ざされていた心の扉は開かれた。<br>
その鍵となる夢のような言葉。<br>
上手く言語化できなかったけれど、やっとのことで返事を口からつむぐ。<br>
「私も好き……」<br>
あとはまるで自動的に決められていたかのように、<br>
自然に二人は引き寄せられる。<br>
赤く染まった部室の中で二人の影は一つになった……<br>
「キス……」<br>
「いきなりだったか?」<br>
「ううん」<br>
本当は遅すぎたくらいだ。<br>
「もう一度」<br>
キスをする。二人の気持ちを形に変える。<br>
「長門、これからはずっと一緒だ。いろんなことをしよう。いろんな所に行こうな」<br>
</div>
<br>
<div>今度はわたしが主人公。<br></div>
<br>
<div>Fin<br></div>
<br>
<div>
書き終わって満足感とひとかけらのむなしさが横切る。<br>
これが現実になったら……<br></div>
<br>
<div>12月18日<br>
キョンが部室にやってきた。<br>
小説が現実化したかとびっくりしたが、キョンの様子がおかしい。<br>
わたしが宇宙人?世界が変わってしまった?<br>
理解できない。でも何か頭の片隅でチカチカと引っかかるものがある。<br>
わたしは何かを知っている?でも今は何もわからない。<br>
でもキョンの力になりたい。協力したい。<br>
キョンはパソコンを見せて欲しいといった。<br>
わたしの恥ずかしい小説がいっぱい入ったパソコン。<br>
なんとか待ってもらって、古いものは消したけど、<br>
見られやしないかと気が気でない。<br>
結局私の小説は見られなかったけど、キョンも収穫がなかったみたい。<br>
肩を落として帰ろうとするキョンをとっさに呼び止めた。<br>
ここで何も言わずに別れたら一生会えなくなると思ったから。<br>
私はキョンに渡した。白紙の入部届。<br>
少しでも近くにいられるように、少しでも力になれるように。<br>
わずかな期待を込めて。<br></div>
<br>
<div>12月19日<br>
今日もキョンが部室にやってきた。純粋に嬉しい。<br>
しばらく部室を眺めていたけど、キョンが部室にある本に興味を持ってくれた。<br>
本を見ながら私に「小説は書くのか?」と聞いてきた。<br>
心臓が止まるかと思ったけど、つとめて冷静に「読むだけ」とだけ答えた。<br>
でも動揺が隠せられたかは知らない。<br>
その後は微妙な沈黙が部室を覆う、いつもの一人だけの沈黙とは違う、張りつめた沈黙。<br>
でもちょっとだけあたたかな気がする沈黙。<br>
その沈黙を破ったのはキョン。「これ書いたのはお前か?」<br>
『プログラム起動条件・鍵をそろえよ。最終期限・二日後』<br>
確かに私の字に見える。でも何か違う。まるで違う世界のわたしみたい。<br>
キョン君は必死に何かを考えているみたいだった。<br>
わたしは読書に戻ろうとしたができない。<br>
昨日と一緒。このまま放置したらキョンは違う世界に行ってしまう。<br>
帰宅のとき、わたしは最大の勇気を振り絞る。<br>
「来る?」「わたしの家」<br>
その晩は途中邪魔さえ入らなければ最高の夜。<br>
少しだけ距離が近づいた気がした。<br>
少しだけ、少しだけ――<br>
その思いを小説に込めよう。この消えない不安を吐き出すためにも。<br>
</div>
<br>
<div>「無題」<br>
ある日突然世界が変わる。<br>
そんなこと現実には起こるはずがないと思っていた。<br>
わたしがいつも読んでいる本の中だけの出来事。<br>
そんなことが起こるわけないと思っていた……<br></div>
<br>
<div>
わたしが高校生になった時、微かに変わる予感がした。<br>
それはあまりに突然で、でもとてもゆっくりで。<br>
それはとても新鮮で、でもなぜか懐かしい。<br>
不思議な気分で一日が過ぎて、夢の世界へ旅たつ直前。<br>
わたしはわたし自身が何を感じとったのかを理解した。<br>
ひとめぼれ――<br>
そうだわたしは恋をしたんだ。<br></div>
<br>
<div>でもわたしは恋をしたとわかっていても、<br>
それを打ち明けることなど出来なかった。<br>
世界はやはり変わらない……<br>
例えそれが苦しくても、悲しくても、辛くても。<br>
わたしは世界を変えることが出来なかった。<br></div>
<br>
<div>キョン――<br>
わたしの好きな人の名前。みんなが彼を呼ぶ名前。<br>
それが本名なのか、あだ名なのか。<br>
そんな事はどうでもよくて。<br>
ただ彼のことがわかることが、嬉しかった。<br>
世界が少し変わる気がして。<br></div>
<br>
<div>彼とわたしはたびたび出会う。<br>
通学路で、学校で、グランドで。<br>
でもわたしは遠くから見ているだけだった。<br>
ある日、図書館で出会ったときも、<br>
わたしは何も出来なかった。<br>
でも彼はわたしに優しくしてくれた。<br>
そう優しくしてくれた。<br>
でも。<br>
彼は誰にでも優しい。<br>
その優しさはみんなと同じ。<br>
不安、不安、不安。<br>
わたしの心はかき乱される。<br></div>
<br>
<div>結局私は何も出来ない。<br>
本の中のヒロインにはなれない。<br>
今日もわたしは本を読む。<br>
それがわたしの部活動。<br>
一人で寂しく本を読む。<br>
いつもと変わらぬ部活動。<br>
ヒロイン達にあこがれながら。<br>
決して変わらぬこの世界を生きる。<br></div>
<br>
<div>ある日突然世界が変わる。<br>
そんなこと現実には起こるはずがないと思っていた。<br>
わたしがいつも読んでいる本の中だけの出来事。<br>
そんなことが起こるわけないと思っていた……<br></div>
<br>
<div>
真っ赤になった部室の扉が開く。今まで勝手には開くことのなかった扉。<br>
それは夕日に照らされながら、そこにいる人を包み隠す。<br>
そこにいた人の顔はなかなか見えなくて。<br>
誰かわかったあともなかなか信じられなかった。<br>
キョン――?<br>
そこにいる彼はとても不安そうで。迷っているようで。でも力強くて。<br>
ふと、わたしは彼がわたしが欲しかった物を持っている気がした。<br>
「長門」<br>
彼はわたしをまっすぐに見つめる。<br>
「今、時間いいか?」<br>
それはとても力強い声。世界を変える力を持つ声。<br>
「長門、俺は長門のことが好きだ」<br></div>
<br>
<div>ある日突然世界が変わる。<br>
そんなことが現実に起こる。今現実に起こっている。<br>
わたしがいつも読んでいる本の中のようなことが。<br>
そんなことが起こるわけ無いと思っていたのに……<br></div>
<br>
<div>沈黙が世界を包み込む。<br>
キョンは不安そうにわたしを見つめる。<br>
このままだと――世界は再び元通り。<br>
返事を――言わなきゃ――何を――言うのか――?<br>
「わたしも好き」<br>
やっとの事でそれだけが口からこぼれ落ちる。<br></div>
<br>
<div>キョンはわたしの返事で180度表情が変わった。<br>
心の底から光る笑顔。<br>
そのままキョンはわたしに近づいて……<br>
わたしもキョンに近づいた。<br>
それはまるで磁石のように。<br>
まるで決まった運命のように。<br>
二人は互いに引き寄せられる。<br>
「キスしてもいいか?」<br>
「うん……」<br>
二人の愛が形に変わる。<br>
一生変わらぬその愛を。<br></div>
<br>
<div>世界を変えてよかった。<br>
わたしはこんなにも幸せだ。<br>
キョンとわたしだけが<br>
――キョンとわたしだけが<br>
この世界にいる。<br>
キョンはわたしを選んでくれた。<br>
――キョンはわたしを選んでくれる。<br>
世界を変えて、キョンを手に入れる。<br>
――世界を変えて――キョンを<br>
――わたしと一緒に<br>
――永遠に<br>
キョン――大好き――<br></div>
<br>
<div>――2月下旬<br>
生徒会の圧力により文芸部の機関誌を作ることになった。<br>
わたしの担当は「幻想ホラー」小説など初めて書く。<br>
でも――<br>
パソコンを開いたら、何かとても懐かしい気がした。<br>
ずっと昔、必死に小説を書くために頭を悩ませた記憶。<br>
存在しないはずの記憶。<br>
わたしは書き始める。<br>
――わたしは書き始める。<br>
タイトル「無題」……<br></div>
<br>
<br>
<div>END<br></div>
</div>
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<div class="main">
<div>4月第1週<br />
今日から高校生。<br />
本が好きだから文芸部に入る。<br />
でも部員はわたし一人。<br />
暇だから部室にあったパソコンで小説でも書く。<br />
恋愛小説。登場人物はわたしと一目ぼれした5組の男子。</div>
<div>「長門好きだ。」<br />
「私も好き。」</div>
<div>あとが続かない。才能のなさに絶望する。</div>
<div>4月第3週<br />
わたしの好きな人のあだ名はキョンというらしい。<br />
本名はわからないけど、それでいいかなと思う。<br />
小説もわかりやすく名前を入れてみる。</div>
<div>キョン「長門、好きだ。」<br />
わたし「わたしも好き。」</div>
<div>ちょっと心が温かくなった気がする。</div>
<div>5月第2週<br />
恋愛小説なのに感情が無い。<br />
ためしに顔文字を入れてみる。</div>
<div>キョン「長門、好きだ!( ゜д ゜)<br />
わたし「私も好き(///)」</div>
<div>ちょっとは感情が入ったかな?</div>
<div>6月第2週<br />
いろんな本を読んで私なりに小説の勉強をしてみた。<br />
その場の説明や雰囲気なんかをセリフの合間に入れる、<br />
「地の文」というのが足りなかったみたい。<br />
ちなみに本を図書館で借りてくる時、キョンに偶然助けてもらった。<br />
やっぱり私はキョンのことが・・・・・・</div>
<div>ある日の放課後、わたしが物質で本を読んでいた。、<br />
5組のキョンが訪ねてきた。<br />
いきなり多くな声で言った。<br />
キョン「長門、好きだ!」<br />
わたしは嬉しかた。わたしは言った。<br />
わたし「私も好き。」</div>
<div>いつも読んでいる本たちにちょっと近づけた気がして嬉しい。</div>
<div>7月第1週<br />
今更タイトルが無いのに気付いた。<br />
でもいいタイトルが思いつかない。<br />
しょうがないから「無題」としておく。<br />
あと、見直してみたら誤字があった。<br />
直さなきゃ。</div>
<div>「無題」<br />
ある日の放課後、わたしは部室で本を読んでいた。<br />
5組のキョンが訪ねてきた。<br />
いきなり大きな声で言った。<br />
キョン「長門、好きだ!」<br />
わたしは嬉しかった。わたしは言った。<br />
わたし「私も好き」</div>
<div>9月第1週<br />
夏休みが終わった、久々の部室。<br />
夏休みの間にいっぱい本を読んだ、<br />
いろんな本を読んでみて気付くことが山ほどある。<br />
今までわたしは読んでいなかったみたい。<br />
あんなに多くの本を読んだというのに。</div>
<div>「無題」<br />
ある日の放課後、日は大分傾きかけ、部室の中を赤く染める。<br />
その中で一人私は本を読む。<br />
それが私の部活動。<br />
いつもと変わらぬ一人での部活。<br />
でも今日は少し違った。<br />
突然部室の扉が開き、一人の男子が顔をのぞかせる。<br />
「長門、今時間いいか?」<br />
その男子の名はキョン。私の好きな人。<br />
キョンは周りに誰もいないことを確認して、<br />
私を見つめ、そして決心したように大きな声で私に言う。<br />
「長門、俺はお前のことを好きになってしまった」<br />
嬉しい、夢のような言葉。上手く返事が言葉に出来ない。<br />
やっとのことで返事を口から取り出す。<br />
「私も好き・・・」<br />
そして二人の影は一つになる・・・・・・</div>
<div>10月第4週</div>
<div>さぁ、この小説を完成させよう。<br />
タイトルはいろいろ迷ったけれど、<br />
「無題」のままに決めた。</div>
<div>「無題」<br />
私には好きな人がいる。<br />
高校生になったばかりの私が、入学式の時に見かけた一人の男子。<br />
――ひとめぼれ<br />
これが「ひとめぼれ」であることに気付いたのは入学式が終わり、HRが終わり、家に帰り、布団に入った頃。<br />
その人の名はキョン。本名は知らない。でも本名以上に知られた名前。<br />
わたしは彼のことをいつも思っていた。<br />
でも彼はわたしのことをどう思っているのだろう?<br />
一度図書館であった時も優しくしてくれた。<br />
でもそれは誰にでも見せる優しさ?<br />
不安――<br />
わたしはその不安を消すために、本の世界へと没頭する。<br />
本の世界なら誰もがヒロインになれる。<br />
でも内心は……このままじゃいけないと思っていた。<br />
誰かにわたしの固く閉まった扉を開けてもらい、<br />
広い世界へと飛び出したいと思っていた。<br />
でもわたしにはその勇気がなかった。<br />
今日も一人私は本を読む。<br />
それが私の部活動。<br />
いつもと変わらぬ一人での部活。</div>
<div>突然部室の扉が開いた一人の男子が顔をのぞかせる。</div>
<div>キョン――?</div>
<div>「長門、今……時間いいか?」<br />
私の好きな人がぐるりとあたりを見渡したかと思うと<br />
私を見つめ、そして決心したように大きな声で私に言った。<br />
一生記憶に残るほどの大切な言葉を。<br />
「長門、俺はお前のことを好きになったみたいだ」<br />
今まで固く閉ざされていた心の扉は開かれた。<br />
その鍵となる夢のような言葉。<br />
上手く言語化できなかったけれど、やっとのことで返事を口からつむぐ。<br />
「私も好き……」<br />
あとはまるで自動的に決められていたかのように、<br />
自然に二人は引き寄せられる。<br />
赤く染まった部室の中で二人の影は一つになった……<br />
「キス……」<br />
「いきなりだったか?」<br />
「ううん」<br />
本当は遅すぎたくらいだ。<br />
「もう一度」<br />
キスをする。二人の気持ちを形に変える。<br />
「長門、これからはずっと一緒だ。いろんなことをしよう。いろんな所に行こうな」</div>
<div>今度はわたしが主人公。</div>
<div>Fin</div>
<div>書き終わって満足感とひとかけらのむなしさが横切る。<br />
これが現実になったら……</div>
<div>12月18日<br />
キョンが部室にやってきた。<br />
小説が現実化したかとびっくりしたが、キョンの様子がおかしい。<br />
わたしが宇宙人?世界が変わってしまった?<br />
理解できない。でも何か頭の片隅でチカチカと引っかかるものがある。<br />
わたしは何かを知っている?でも今は何もわからない。<br />
でもキョンの力になりたい。協力したい。<br />
キョンはパソコンを見せて欲しいといった。<br />
わたしの恥ずかしい小説がいっぱい入ったパソコン。<br />
なんとか待ってもらって、古いものは消したけど、<br />
見られやしないかと気が気でない。<br />
結局私の小説は見られなかったけど、キョンも収穫がなかったみたい。<br />
肩を落として帰ろうとするキョンをとっさに呼び止めた。<br />
ここで何も言わずに別れたら一生会えなくなると思ったから。<br />
私はキョンに渡した。白紙の入部届。<br />
少しでも近くにいられるように、少しでも力になれるように。<br />
わずかな期待を込めて。</div>
<div>12月19日<br />
今日もキョンが部室にやってきた。純粋に嬉しい。<br />
しばらく部室を眺めていたけど、キョンが部室にある本に興味を持ってくれた。<br />
本を見ながら私に「小説は書くのか?」と聞いてきた。<br />
心臓が止まるかと思ったけど、つとめて冷静に「読むだけ」とだけ答えた。<br />
でも動揺が隠せられたかは知らない。<br />
その後は微妙な沈黙が部室を覆う、いつもの一人だけの沈黙とは違う、張りつめた沈黙。<br />
でもちょっとだけあたたかな気がする沈黙。<br />
その沈黙を破ったのはキョン。「これ書いたのはお前か?」<br />
『プログラム起動条件・鍵をそろえよ。最終期限・二日後』<br />
確かに私の字に見える。でも何か違う。まるで違う世界のわたしみたい。<br />
キョン君は必死に何かを考えているみたいだった。<br />
わたしは読書に戻ろうとしたができない。<br />
昨日と一緒。このまま放置したらキョンは違う世界に行ってしまう。<br />
帰宅のとき、わたしは最大の勇気を振り絞る。<br />
「来る?」「わたしの家」<br />
その晩は途中邪魔さえ入らなければ最高の夜。<br />
少しだけ距離が近づいた気がした。<br />
少しだけ、少しだけ――<br />
その思いを小説に込めよう。この消えない不安を吐き出すためにも。</div>
<div>「無題」<br />
ある日突然世界が変わる。<br />
そんなこと現実には起こるはずがないと思っていた。<br />
わたしがいつも読んでいる本の中だけの出来事。<br />
そんなことが起こるわけないと思っていた……</div>
<div>わたしが高校生になった時、微かに変わる予感がした。<br />
それはあまりに突然で、でもとてもゆっくりで。<br />
それはとても新鮮で、でもなぜか懐かしい。<br />
不思議な気分で一日が過ぎて、夢の世界へ旅たつ直前。<br />
わたしはわたし自身が何を感じとったのかを理解した。<br />
ひとめぼれ――<br />
そうだわたしは恋をしたんだ。</div>
<div>でもわたしは恋をしたとわかっていても、<br />
それを打ち明けることなど出来なかった。<br />
世界はやはり変わらない……<br />
例えそれが苦しくても、悲しくても、辛くても。<br />
わたしは世界を変えることが出来なかった。</div>
<div>キョン――<br />
わたしの好きな人の名前。みんなが彼を呼ぶ名前。<br />
それが本名なのか、あだ名なのか。<br />
そんな事はどうでもよくて。<br />
ただ彼のことがわかることが、嬉しかった。<br />
世界が少し変わる気がして。</div>
<div>彼とわたしはたびたび出会う。<br />
通学路で、学校で、グランドで。<br />
でもわたしは遠くから見ているだけだった。<br />
ある日、図書館で出会ったときも、<br />
わたしは何も出来なかった。<br />
でも彼はわたしに優しくしてくれた。<br />
そう優しくしてくれた。<br />
でも。<br />
彼は誰にでも優しい。<br />
その優しさはみんなと同じ。<br />
不安、不安、不安。<br />
わたしの心はかき乱される。</div>
<div>結局私は何も出来ない。<br />
本の中のヒロインにはなれない。<br />
今日もわたしは本を読む。<br />
それがわたしの部活動。<br />
一人で寂しく本を読む。<br />
いつもと変わらぬ部活動。<br />
ヒロイン達にあこがれながら。<br />
決して変わらぬこの世界を生きる。</div>
<div>ある日突然世界が変わる。<br />
そんなこと現実には起こるはずがないと思っていた。<br />
わたしがいつも読んでいる本の中だけの出来事。<br />
そんなことが起こるわけないと思っていた……</div>
<div>真っ赤になった部室の扉が開く。今まで勝手には開くことのなかった扉。<br />
それは夕日に照らされながら、そこにいる人を包み隠す。<br />
そこにいた人の顔はなかなか見えなくて。<br />
誰かわかったあともなかなか信じられなかった。<br />
キョン――?<br />
そこにいる彼はとても不安そうで。迷っているようで。でも力強くて。<br />
ふと、わたしは彼がわたしが欲しかった物を持っている気がした。<br />
「長門」<br />
彼はわたしをまっすぐに見つめる。<br />
「今、時間いいか?」<br />
それはとても力強い声。世界を変える力を持つ声。<br />
「長門、俺は長門のことが好きだ」</div>
<div>ある日突然世界が変わる。<br />
そんなことが現実に起こる。今現実に起こっている。<br />
わたしがいつも読んでいる本の中のようなことが。<br />
そんなことが起こるわけ無いと思っていたのに……</div>
<div>沈黙が世界を包み込む。<br />
キョンは不安そうにわたしを見つめる。<br />
このままだと――世界は再び元通り。<br />
返事を――言わなきゃ――何を――言うのか――?<br />
「わたしも好き」<br />
やっとの事でそれだけが口からこぼれ落ちる。</div>
<div>キョンはわたしの返事で180度表情が変わった。<br />
心の底から光る笑顔。<br />
そのままキョンはわたしに近づいて……<br />
わたしもキョンに近づいた。<br />
それはまるで磁石のように。<br />
まるで決まった運命のように。<br />
二人は互いに引き寄せられる。<br />
「キスしてもいいか?」<br />
「うん……」<br />
二人の愛が形に変わる。<br />
一生変わらぬその愛を。</div>
<div>世界を変えてよかった。<br />
わたしはこんなにも幸せだ。<br />
キョンとわたしだけが<br />
――キョンとわたしだけが<br />
この世界にいる。<br />
キョンはわたしを選んでくれた。<br />
――キョンはわたしを選んでくれる。<br />
世界を変えて、キョンを手に入れる。<br />
――世界を変えて――キョンを<br />
――わたしと一緒に<br />
――永遠に<br />
キョン――大好き――</div>
<div>――2月下旬<br />
生徒会の圧力により文芸部の機関誌を作ることになった。<br />
わたしの担当は「幻想ホラー」小説など初めて書く。<br />
でも――<br />
パソコンを開いたら、何かとても懐かしい気がした。<br />
ずっと昔、必死に小説を書くために頭を悩ませた記憶。<br />
存在しないはずの記憶。<br />
わたしは書き始める。<br />
――わたしは書き始める。<br />
タイトル「無題」……</div>
<div>END</div>
</div>