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長門有希の感情」(2020/03/15 (日) 18:19:42) の最新版変更点

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<div class="main"> <div> 長門の姿を見る度に思う事なのだが、こいつは今読んでいるページ数が四桁に届きそうな分厚いSF物を読んでいるのが一番だ<br> もしこいつがタコをモチーフとした火星人が襲来するどたばたギャグコメディ漫画かなんかを読んでいたら俺はいつかの無口で控えめな文芸部員の居た世界を思い出し、<br> 変わった理由を探し出してまた何か奇天烈な行動を起こす羽目になるかもしれない<br> しかし前は世界が改変していたから無かった事にはなったがもしそうでなければその奇天烈な行動は後々まで語り継がれ涼宮ハルヒなる団長様に毒されたと同情の目線を送られるだろう<br> </div> <br> <div> 「世界を大いに盛り上げる為の涼宮ハルヒ」の団略してSOS団が占領する事現在進行形の文芸部室では長門が読むのはいつもの如く俺が三ページと持たない分厚い書籍を読むのが一番似合っている<br> 別にこれは俺だけの意見ではなく、SOS団に属する全員が思っている事だろう<br> </div> <br> <br> <div>「……………」<br> 「……………」<br></div> <br> <div> 本に集中できるのは良い事だが、集中しすぎるというのも頂けない<br> 今SOS団が占領する文芸部室では俺と長門が互いに沈黙の権化と化している<br> 別に喧嘩したという訳でもなく、こー言う奴なのである。長門という情報統合思念体のなんたらかんたらとという無口な宇宙人少女は<br> 初めの頃こそ無表情ではあったが、最近は少し感情を表に出すようになった<br> 長門の表す微妙な感情は俺が一番読み取れると自負している。これは自慢しても良い事だ<br> </div> <br> <div> だからこそ、その必要な事意外は口にしない対有機生命体コンタクト用なんたらかんたらが雑談を持ち掛けてきた時は心臓が止まる思いだった訳だ<br> </div> <br> <div>「…………本」<br> 「本?」<br></div> <br> <div> 長門が唐突に発した言葉はそれだけだった。つい鸚鵡返しに聞いたのがまずかったのか、長門は少々思案する顔を見せた<br> コイツがここまで露骨に感情を表情に出す機会は滅多に無いので、俺はついついその顔を眺めていた<br> </div> <br> <div>「………貸す」<br></div> <br> <div> 長門が指した先には分厚い書籍がずらりと並ぶ本棚があった。しかし、俺はまだ動けないで居る<br> 普段のコイツを知っている俺としては自主的な発言は何かしらの事情に絡んでの事で、それは大抵が涼宮ハルヒという御仁に関係する事柄でもある<br> それを考えると嫌な予感しかしなかったが、別に断る理由もないので本棚の前に立つ<br> 目の前の本棚には俺には理解する事の出来ない英語がずらりと並んでいる<br> </div> <br> <div>うん、困った<br></div> <br> <div> 自慢じゃないが俺は活字という物に遺伝子レベルで拒絶反応が刷り込まれている自信がある<br> 恐らく一ページを読み終わる前に夢の世界へ旅立ってしまうだろう<br> そんな感じで目線を泳がせて見ると一つの小冊子が目に付いた。ノート大の紙を幾つかまとめた物で、何かしらの文字が書いてある<br> 長門しか使わないであろうこの本棚にこんな物があると言うのが激しく違和感ありまくりなんだが<br> </div> <br> <div>「オイ、長門。これ」<br></div> <br> <div> は、とは言わせて貰えなかった。その小冊子を手に振り向くと眼前まで間合いを詰めていた長門に一瞬で掠め取られた。速い、速いよスレッガーさん<br> そして長門は何事も無かったかのように一つの本を取る<br></div> <br> <div>「お勧め」<br> 「……………面白いのか?」<br> 「ユニーク」<br></div> <br> <div>……ああ そう<br> それだけ言うと役目を終えたかのようにパイプ椅子へと戻り、読書を開始する。その手には小冊子を持って<br> しばしその場に立ったままの俺であったが、扉を蹴り飛ばす轟音によってその状況は打破される事となった<br> </div> <br> <div> 扉を蹴り飛ばした女・・・まぁ、言うまでもないよな、涼宮ハルヒだ<br> バニーガールに扮したその団長様は不機嫌な様子を隠しもせず解散を告げた<br> 大方あの姿でビラでも配っていたのを止められたんだろうな。想像が容易だ<br> そうして怒号を吐きながらいち早く返っていったハルヒを追う様に帰り支度をする<br> 因みに古泉と朝比奈さんはクラスメイトとの用事があるらしいので休みだ<br> 古泉は兎も角朝比奈さんだけは一日一度は目に入れておきたいのにな。朝比奈さんの居ないSOS団などルーを入れ忘れたカレーより無意味な物だ<br> さて帰ろうか<br></div> <br> <div>「…………」<br></div> <br> <div> と思って歩き出せば後ろに引っ張られる感覚が襲う。この部屋が呪われている話など聞いた事がないが<br> …………なんてな。まぁ、今俺のベルトを掴んでいるのが誰かなんてわかる。俺のほかにコイツしか居ないしな<br> </div> <br> <div>「なんだ?長門」<br></div> <br> <div> 長門は少々困った顔をする。こういう表情も珍しいよな<br></div> <br> <div>「………私の家に来て欲しい」<br></div> <br> <div> 年頃の男子としては女子から家に誘われると言うのは色々と魅力的な想像を働かせてしまう物だが、それは時と場合と相手にもよる物だと俺は思う<br> 健全な男子としてはストロベリィな展開を期待しないでもないんだが、長門の家には行くたびに涼宮ハルヒに関する面倒事を抱えることになる気がしてしまう<br> 果たして今度は一体何があるのかという思案に頭を悩ませつつ、俺は長門の隣を歩いていた<br> 目的地としては何か有ったときの救世主に助けを呼ぶために過去何度か赴き今では目を瞑ってでも辿り着ける自信がある長門有希の住まうマンションだ<br> さて、今度は何だろうね。ハルヒが何かしらの問題を起こした様には見えないんだが………イヤ、ハルヒの力は無意識に炸裂するんだっけか<br> </div> <br> <div>「………大丈夫」<br></div> <br> <div>唐突に長門が口を開いた<br></div> <br> <div>「今回は、涼宮ハルヒに関係無い」<br></div> <br> <div> 知らない内に心中を声にでも出していたのだろうか。俺の不安にピンポイントで答えを返してくれた<br> もしかしたら長門なら心の中を読む事も出来るかもしれないが、出来たとしてもこいつがそんな事をする訳が無いと自信を持って言える<br> </div> <br> <div> 兎に角不安要素が取り除かれた中で、長門の住むマンションを視界に捉えた<br> </div> <br> <div> 今この状況を説明しろと言われても俺自身理解が追いつかず、解答権は放棄させて貰う事になるな<br> 長門は台所に立って何やら料理をしているようだがその中身がレトルトカレーなのは想像に難くなく、俺は何故か夕食に御呼ばれしている訳である。説明できたな<br> </div> <br> <div>「食べて」<br></div> <br> <div> そういってカレーの盛られた皿が二つ、運ばれてくる<br> 業務用の圧力鍋の中にはカレーがたっぷりと入っており、一体何箱のレトルトカレーを使ったかなど逆算するのも面倒臭い<br> </div> <br> <div>「…………情報統合思念体から補正を受けた」<br></div> <br> <div> 唐突に………これで三回目だな、唐突って言葉を使うのは。まぁそれはどうでもいい<br> </div> <br> <div> 「私の中に再びバグが蓄積しつつあった。このままでは何時かの様に私は世界を改変する可能性が出てきた」<br> </div> <br> <div> 何時か………俺の脳裏には大人しい文芸部員が白紙の入部届けを俺に渡す姿が蘇った。<br> まぁ、何となく理解は出来るがな。大まかな所は。で、その補正とやらを受けたのはなんなんだ?<br> </div> <br> <div> 「言語通達で理解してもらう事は非常に困難。また、無理に表そうとしても必ず齟齬が生じる」<br> </div> <br> <div> 過去に何度か聞いた言葉だな。これで何度目だったか。俺が過去を振り返るために記憶を遡っていると、再び長門は口を開いた<br> </div> <br> <div>「でも、近い概念を上げる事は可能」<br></div> <br> <div>少し間を置いて、<br></div> <br> <div>「私が受けた補正は、感情」<br></div> <br> <div>………感情、ね。確かに言語化するのは困難だな<br> 俺だって「楽しいとはどういうことか?」なんて聞かれたって答えられる訳がない。そんなもんは哲学者にでもやらせて、勉学に励んだ方が非常に有意義な脳の使い方だ<br> いつの間にか三杯目のカレーを食べている長門へ目を向ける<br> なるほど、今日感じていた違和感の正体が解ったな<br></div> <br> <div>「…………何?」<br></div> <br> <div>いやなに、お前に見とれていただけさ<br> ……………何て言う訳無いけどな。<br> でも言ってみて恥ずかしがったりする長門を期待している俺が居る事は認めなければなるまい。まぁ、そんな事はありえないと解っているがな<br> </div> <br> <div>「時間」<br></div> <br> <div> 長門の無機質な声が告げる。いや、何処か感情が含まれている気がするな。<br> それは兎も角として時計に目をやった。もう八時を過ぎてるな。帰るか<br> </div> <br> <div>「それじゃな、長門。カレー、美味かったよ」<br> 「待って」<br></div> <br> <div> 立ち上がろうとした俺の袖を長門が掴んだ。うーん、庇護欲をくすぐられるというか………萌え?<br> そうか、俺は宇宙人萌えだったのか……………何て言ってる場合じゃないな<br> </div> <br> <div>「また明日も………良い?」<br></div> <br> <div> 不安げに尋ねる様は、そりゃもう反則的に可愛かったよ<br></div> <br> <div> 翌日………ハルヒは懲りもせずビラ配りに出かけ、朝比奈さんはそれに巻き込まれ、古泉は俺とオセロをし、長門はいつもの如く分厚い本を読んでいた<br> ある意味これがこの場所の正しい在り方かもな………って、俺も随分とハルヒに毒された様だ<br> 先程から長門が本のページとページの合間にこちらを見ているが、まぁ気にしないでおこう<br> とりあえず、俺は古泉の黒を一気に白へと変えた。これで………何勝だろうな。40回までは数えたがな<br> </div> <br> <div>「78勝0敗0分」<br></div> <br> <div>長門が告げた。数えてたのか。凄いな<br></div> <br> <div> 「もう78敗もしていましたか………どうです?このまま100勝を目指してみては」<br> </div> <br> <div> やなこった。もうそろそろ飽きたしな。………と言うかお前が負ける事前提か<br> </div> <br> <div> 古泉がオセロを片付け、将棋盤を出そうとすると長門が本を閉じた<br> </div> <br> <div>「おや、もう終わりの様ですね」<br></div> <br> <div> 何時から長門は時報代わりになったんだっけな………って早<br> 俺がそう思ったときには既に古泉は部屋を出ていた<br></div> <br> <div>「行きたい所が有る………良い?」<br></div> <br> <br> <div> ああ、勿論良いとも。でも背後に立つのはも、う、や、め、に、し、て、く・れ・ない、か~♪<br> …………ああ、微妙に動揺してるのかな俺は<br> で、行きたい所ってのはどこだ?<br></div> <br> <div>「………図書館」<br></div> <br> <div>図書館、ね。普段の俺なら絶対行かない所だな<br> しかし長門の願いを無碍に断る訳にも行くまいて?<br></div> <br> <div> まぁ、そんなこんなで図書館に来たわけなんだが、長門は矢張り俺が一生縁が無いであろう本を選んでいるので、俺は適当に選んだライトノベルを読んでいる<br> </div> <br> <div>「……………」<br></div> <br> <div> 長門が俺の向かいの席に座る。また難しそうな本を2~3冊携えて………見てるだけで頭痛がするな<br> 流石にこれを全て読むとしたらかなりの時間が掛かるだろうな。キリの良い所で切り上げるとするか<br> </div> <br> <div>「話がある」<br></div> <br> <div> ページに目を戻した途端に長門が言った。何処か真剣さが宿る声には真面目に聞かなければいけない気になるな<br> 顔を上げれば何時にも増して真剣な顔があった。うん、可愛い………って真剣に聞くんじゃないのか<br> </div> <br> <div>「私は」<br></div> <br> <div> 其処で言葉を切る。自分の言いたい事を整理しているというか、言葉を選んでいるというか……まぁそんな感じだ<br> </div> <br> <br> <div> 「私は貴方に対して興味を持っている。これは情報統合思念体も涼宮ハルヒも間に挟まない、私個人の純粋な好意」<br> </div> <br> <div> これは告白………なのか?いや、好意といっても色々とあるよな。<br> 友達として好きとか、うん、そういうことなんだ、きっと<br> </div> <br> <div>「………長」<br> 「私が貴方に抱いているのは、恋愛感情」<br></div> <br> <div> 追い討ちとでも言うべき言葉。さすがは長門、いつも俺に現実を突きつけてくれる。妄想に逃避する暇が無い<br> </div> <br> <div>暫くの間沈黙が流れる<br> 答えを待ってるんだろうな…………多分<br> その中で先に口を開いたのは長門だった<br></div> <br> <div>「…………忘れて」<br></div> <br> <div> そう言って立ち上がる。本を忘れているぞ………ってそうじゃなくて<br> 顔が少し下を向いている。一応照れたりもするんだな……でもなくて<br> 気付けば俺は長門の腕を掴んでいた<br></div> <br> <div>「…………何?」<br></div> <br> <div> その表情と声に憂いが含まれていたのは気のせいではないだろう。それだけでも美の女神が嫉妬しそうな美しさを感じる<br> </div> <br> <div> 「えっと………、何ていえば良いのかは解らんが…………」<br> </div> <br> <div> 俺は脳内の貧困な語呂を総動員させる。ちっ、こんな所で本を読まないのが仇になるとはな<br> </div> <br> <div> 「まぁ、俺もお前の事が好きだ。お前も俺が好きで居てくれるなら嬉しいし…………真面目に言ってるぞ?」<br> </div> <br> <div> どうしても真面目に聴こえないな、自分が恨めしい。願わくば長門に気持ちが届いてくれる事を祈る<br> </div> <br> <div>「………フフッ」<br></div> <br> <div> 聞き慣れない声だ。だからこそそれが笑い声と理解するのに時間が掛かったな<br> 顔を上げたとき、ハートを射抜かれる思いがした。……………其処、表現が古いとか言うな<br> </div> <br> <div> 兎にも角にも、長門の微笑みに俺は完全に惚れてしまった訳だ<br> </div> <br> <div>やはり翌日、SOS団の部室には全員が揃っていた<br> しかし我等が団長涼宮ハルヒは何処か不機嫌で、それがバニー&メイド服という格好でビラ配りをしていた所為での反省文を書かされたことが原因なのは言うまでもない<br> お前はいいが巻き込まれた朝比奈さんが可哀想だな<br> 机を人差し指でトントンと叩き、殺意をパソコンに向けるが如くネットサーフィンに勤しんでいる<br> 因みに俺はというと、珍しくやる事が無い<br> 朝比奈さん印のお茶を啜りつつ目の前で繰り広げられる対局を見ている訳である。<br> 俺の隣でメイド服に身を包んだ朝比奈さんが真剣な面持ちで盤面を見ていることから、誰と誰の対局かは言うまでもあるまい<br> 古泉VS長門<br> 珍しい事に興味を示した長門に駒の動かし方と最低限のルールだけを教えたら<br> 「理解した」<br> の一言を返され、今に至る訳である<br> 結果は…………言うまでもないか<br> 28勝0敗0分、長門の圧勝だ。あ、またもや<br></div> <br> <div>「王手………」<br> 「ふう、流石は長門さんですね。全然勝てません」<br></div> <br> <div>お前は俺相手でも勝った例が無いだろ<br></div> <br> <div>「それではもう一局しませんか?」<br></div> <br> <div>無視か?無視なのか?<br> とまぁ、三十敗を喫した所でハルヒの「今日はこれで解散!」の一言で活動が終わりを告げた<br> 古泉と朝比奈さんが帰ったところで、俺と長門は二人っきりになった訳だ<br> </div> <br> <div>「……………」<br></div> <br> <div> まずい、何か思いっきり緊張している。昨日の出来事が出来事だけに余計にな<br> 長門の方も本に目を落としているが、先程からページが進んでいない様に見える<br> </div> <br> <div>「………帰るか」<br> 「………ん」<br></div> <br> <div> 長門は殆ど読んでいなかっただろう本を閉じ、鞄を持った<br> </div> <br> <div> 放課後の校舎に人影は無く、部活動中であろう者達は校庭若しくは部屋に閉じこもっている為に特に誰にも会うことは無かった<br> そういや何でこんなにこそこそとしてるんだろうな<br></div> <br> <div> 校門を出た辺りからは何を話したかの記憶は曖昧で、もしかしたら何も話してなかったのかもな<br> とりあえず俺達は黙々と歩き続け、長門のマンションへとやって来た訳だ<br> </div> <br> <div>「また明日な、長門」<br></div> <br> <div> 上がりこむ訳にも行かんし、俺は自宅への帰路に着こうとした<br> </div> <br> <div>「待って」<br></div> <br> <div> 後方から長門が呼びかける。俺が振り向いた時、長門は目の前に居て――――――<br> </div> <br> <div>俺の唇に、長門の唇が重なった<br></div> <br> <div> 茫然自失、と言うのはこういうことを言うんだろうな。数分ほどその場に立ち尽くしていたよ<br> あまりにも長門らしからぬ行動……まぁ、実際に長門がやったんだから仕方ないよな。うん。<br> どうやら自然に笑みが零れていた様で、<br></div> <br> <div>「キョン君?どうしたの?気色悪いよ?」<br></div> <br> <div> と妹に言われた次第だ。と言うか実の妹に気色悪いと言われるのは案外こたえるな<br> </div> <br> <div> 風呂に入って肉体の疲れを解し束の間の急速を取る俺。そう、束の間。鳴り響いた携帯電話。やな予感が胸をよぎる。冷静になれよ俺<br> 液晶画面に表示されるのは矢張り涼宮ハルヒの文字。あぁ、やっぱりな。<br> </div> <br> <div>『…………大した用じゃないんだけどさ』<br></div> <br> <div> 珍しいな、自分が一番正しいと思っている様な団長様の不安な声というのは<br> </div> <br> <div>『……有希ってさ、可愛くなったわよね?』<br> 「は?」<br></div> <br> <div> 何を言い出すんだ、コイツは。確かに情報統合思念体とやらに感情を少し表に出せるようにして貰ったとか言ってたが………其処まで言う事か?<br> </div> <br> <div>『何ていうか……無邪気になった、みたいな』<br></div> <br> <div> そんな曖昧に言われてもな。大体そんなこと本人に言ってやれば良いじゃないか。用件はそれだけなのか<br> 返事もせず通話が切れた。何処までも勝手だな、おい<br> 頭を働かす事も億劫になった俺は電話を放り出し、ベットに体を預けた<br> </div> <br> <div> 子守唄よりも破壊力に優れる授業を聞き流し、放課後になって向かう場所はSOSが占領する事現在進行形の文芸部室である<br> 文芸部室の扉を軽くノックする。別にそんな決まりがあるわけではないが、迂闊に入ってしまうと年下のような上級生の麗しき裸体を目にしてしまう可能性がある<br> 煩悩に従ってみたい気がするが、その場合後が怖い<br></div> <br> <div>「…………?」<br></div> <br> <div> 扉の向こうからは何も音がしない。愛くるしい上級生の天使の様な甘い声もニヤケハンサム面のムカつくような声も無い。珍しいな<br> ガチャリ、と音を立てて開けた扉の向こうには、無口な宇宙人以外は居なかった<br> </div> <br> <div>「長門だけか………」<br> 「今日の活動は無しとの言伝を受けている」<br></div> <br> <div>長門は本から顔を上げて言った<br> そうか、今日は休みか。珍しい事もあったもんだな。じゃあとっとと帰る………<br> そう思っていた俺の目は本棚を視界に捉えた。そしてある疑問が蘇ってくる<br> </div> <br> <div>『果たしてあの小冊子はなんなのか?』<br></div> <br> <div> こうして、長門の目を盗んで目的を達成させるミッションはスタートした!!<br> </div> <br> <div>……………なんてな<br></div> <br> <div> 大層な事を言って見たものの、別に世界最高のスパイ並みに隠密行動が上手い訳でも大泥棒の孫って訳でもない俺は普通に本棚の前に立つ<br> さて、目標は…………あった<br> 拍子抜けするほど簡単に目標物を見つけ、手に取る。体で長門の方からは見えないが、一応カモフラージュとしてもう一つ分厚い本を取った<br> まず本を開き小冊子を挟む。よし、これで本を読んでいるようにしか見えないはずだ。この手口には夜神月も真っ青だ<br> 表紙らしき紙を捲るとまず登場人物紹介らしい。どうでも良いけど題名とかは無いのかね…………ん?<br> 俺の眼に狂いが無ければ、主人公の名前は『キョン』と明記されている。そしてヒロインの部分には『長門』と<br> </div> <br> <div>「…………」<br></div> <br> <div> 後方から長門の目線を感じるが、適当に流し読みを始めた<br> どうやら内容としては『キョン』を主人公とした学園物らしい。これで恋愛物だったりしたら世界が改変したんじゃないかと疑う事に……<br> </div> <br> <div>「あ」<br> 「駄目」<br></div> <br> <div> いつの間にか背後に居た長門に小冊子を取り上げられてしまった。迂闊な。<br> いいじゃないか、見せてくれても<br></div> <br> <div>「駄目」<br></div> <br> <div> 長門の手から取り返そうと出した手は見事に交わされ、長門は小冊子を自分の後ろへ下げる<br> 俺はそれを追おうとしたんだが、後になって思えばこれが間違いだった訳だ<br> 体を前に倒そうとした俺は長門の脚に躓き、長門に覆いかぶさる様にして倒れた<br> </div> <br> <div>そして、部室の扉は勢いよく開かれた<br></div> <br> <div> 扉が開いた先に居るのは………何時だったかな。俺が友人に長門への恋文を代弁して書かされた事がある。<br> それを見つけた時と同じ様な表情を浮かべる涼宮ハルヒの姿だ<br> その後ろにはやれやれといった感じに溜息をついているニヤケハンサムやら愛くるしい上級生が居る<br> </div> <br> <div>さて、ここで考えて欲しい事がある<br> 今俺は不可抗力とはいえ長門の上に覆い被さっている訳だ<br> しかも長門の服は衝撃で多少乱れている<br></div> <br> <div> まぁ、此処まで状況証拠が揃ったんだ。弁解は難しいだr<br> </div> <br> <div>「~!!!!」<br></div> <br> <div> ああ、団長殿の顔が見る見るうちに紅潮していく。多分今頃俺に課する罰ゲームでも考えているんだろうな<br> </div> <br> <div>「あー、ハルヒ、落ちt」<br> 「言い訳無用!!」<br></div> <br> <div> 俺の言葉を遮るようにハルヒは叫んだ。それと同時に俺の胸ぐらを掴みながら<br> </div> <br> <div>「今日と言う今日は許さないわ!<br> いくら有希が大人しい子って言ってもね、やって良い事と悪い事があるのよ!<br> アンタには上半身裸で校庭十周でもさせてあげようか!?『私は強姦魔です』って叫びながらね!言っとくけど犯罪者に人権は無いわよ!!」<br> </div> <br> <div> 良くそんな長文を息継ぎ無しで言えるもんだ。じゃ無くて落ち着け<br> </div> <br> <div> 「落ち着け!?よくもそんな事が言えたもんだわね!」<br></div> <br> <div> 色々な感情が混ざりすぎてどの感情が表に出ているか解らない様な表情で更なる罵倒を紡ごうとしていると、長門が肩を叩いた。おお、弁解してくれるか<br> </div> <br> <div> 「何!?言っとくけどこんな奴に同情する必要は無いわよ!!」<br> </div> <br> <div>長門は小さく顔を横に振った<br></div> <br> <div>「合意の上」<br></div> <br> <div>空気が固まった。様な気がする<br></div> <br> <div> ハルヒを始め、俺や古泉までもが唖然とした表情だ。ってか長門、その言い方じゃ本当に何かやろうとしてたみたいじゃないか<br> </div> <br> <div>「本当、なの?」<br></div> <br> <div> 長門は小さく頷く。ハルヒは何かを考えていたようだが、やがて馬乗りの状態から俺を解放した<br> </div> <br> <div>「まぁ、有希がそれで良いならいいわ」<br></div> <br> <div>何を納得してるんだか。<br></div> <br> <div>「でもね!」<br></div> <br> <div> ビシィ、といった効果音が聞こえそうなほどに勢いよく俺を指差す。失礼だぞお前<br> </div> <br> <div>「有希を悲しませたら許さないわよ!」<br></div> <br> <div> ああ、その点は心配無く。そんな事をするつもりは無いし極力気をつけさせてもらいますよ<br> </div> <br> <div> 「フン………!なら良いのよ。行きましょ、みくるちゃん」<br> </div> <br> <div> ハルヒはいつもの如く踏ん反り返って部屋を出て行った。朝比奈さんも「ふぇ?え?え?」などと可愛い声を発した後、小さくハルヒの後を追った<br> 古泉はと言うと、コイツはやっぱり見てるだけでムカついてくるニヤケ面を浮かべ戸口に立っている<br> </div> <br> <div> 「いやいや、涼宮さんに交際を認めさせるためとは言え、うまくやりましたねぇ」<br> </div> <br> <div>違うっつーの。あれは事故だ、事故<br></div> <br> <div>「まぁ、そういう事にしておきましょう」<br></div> <br> <div> 解ってますよ、とでも言いたげな声色を残し、古泉は去っていった。後には、俺と長門だけが残された<br> </div> <br> <div>「…………助かったよ、長門」<br> 「………良い」<br></div> <br> <div> 欲を言えばもうちょっと穏便に済ませたかったんだがな…………他に良いようは無かったものかね?<br> </div> <br> <div> 「涼宮ハルヒに交際を認めてもらうにはあのタイミングが的確だと判断した」<br> </div> <br> <div> ……イカン、やめた。よく考えたら俺が長門に言い勝てる訳が無かったな<br> </div> <br> <div> 「………まぁ良いや。そろそろ帰るか、長……?」<br></div> <br> <div>長門が俺の袖を掴んでいる。くぅ、可愛いなぁ<br></div> <br> <div>「出来れば…………」<br></div> <br> <div> 軽く俯いて一瞬の躊躇。全ての仕草が愛しく見えるな<br></div> <br> <div>「名前で、呼んで欲しい」<br></div> <br> <div> ああ、呼んでやるともさ。今の俺にお前の願いを聞き入れない程、心の余裕は無いさ。日本語がおかしいが気にするな<br> </div> <br> <div>「それじゃあ、帰るか、有希」<br> 「………ん」<br></div> <br> <div>可愛く微笑んだ天使が、そこに居た<br></div> <br> <div>「・・・チェックメイト」<br></div> <br> <div> 翌日、部室では昨日に引き続き古泉vs有希のチェス対決が繰り広げられていた。因みにこれで有希の52勝目だ<br> 一見代わり映えの無い風景だが、俺が有希の事を「有希」と呼んでも他の団員は反応しないし、古泉のニヤケ面が120%にパワーアップしていると感じる<br> </div> <br> <div> 「あんたと有希の交際は認めてあげるけどね、部室で淫猥な行為をしたら即警察に叩き出すわよ」<br> </div> <br> <div> 部室に入って早々こんな事を言われたがな。見事に好感度が死滅していらっしゃる<br> まあ、「有希」と呼ぶたびに小さく嬉しそうな顔をする有希を見ているとこっちまで嬉しくなるな。………其処、バカップルとか言うな<br> </div> <br> <div> それはそうとその日の放課後、俺は疑問に思ったことを聴いてみた<br> </div> <br> <div>「有希、一体あの本は何だったんだ?」<br></div> <br> <div>有希は少し考えるふうな仕草をして、俺に向き直る<br> そして人差し指を口に当て、微笑みながら一言<br></div> <br> <div>「それは、禁則事項」<br></div> <br> <br> <br> <div>end<br></div> </div> <!-- ad -->
<div class="main"> <div>長門の姿を見る度に思う事なのだが、こいつは今読んでいるページ数が四桁に届きそうな分厚いSF物を読んでいるのが一番だ<br /> もしこいつがタコをモチーフとした火星人が襲来するどたばたギャグコメディ漫画かなんかを読んでいたら俺はいつかの無口で控えめな文芸部員の居た世界を思い出し、<br /> 変わった理由を探し出してまた何か奇天烈な行動を起こす羽目になるかもしれない<br /> しかし前は世界が改変していたから無かった事にはなったがもしそうでなければその奇天烈な行動は後々まで語り継がれ涼宮ハルヒなる団長様に毒されたと同情の目線を送られるだろう</div>   <div> 「世界を大いに盛り上げる為の涼宮ハルヒ」の団略してSOS団が占領する事現在進行形の文芸部室では長門が読むのはいつもの如く俺が三ページと持たない分厚い書籍を読むのが一番似合っている<br /> 別にこれは俺だけの意見ではなく、SOS団に属する全員が思っている事だろう</div>   <div>「……………」<br /> 「……………」</div>   <div>本に集中できるのは良い事だが、集中しすぎるというのも頂けない<br /> 今SOS団が占領する文芸部室では俺と長門が互いに沈黙の権化と化している<br /> 別に喧嘩したという訳でもなく、こー言う奴なのである。長門という情報統合思念体のなんたらかんたらとという無口な宇宙人少女は<br /> 初めの頃こそ無表情ではあったが、最近は少し感情を表に出すようになった<br /> 長門の表す微妙な感情は俺が一番読み取れると自負している。これは自慢しても良い事だ</div>   <div>だからこそ、その必要な事意外は口にしない対有機生命体コンタクト用なんたらかんたらが雑談を持ち掛けてきた時は心臓が止まる思いだった訳だ</div>   <div>「…………本」<br /> 「本?」</div>   <div>長門が唐突に発した言葉はそれだけだった。つい鸚鵡返しに聞いたのがまずかったのか、長門は少々思案する顔を見せた<br /> コイツがここまで露骨に感情を表情に出す機会は滅多に無いので、俺はついついその顔を眺めていた</div>   <div>「………貸す」</div>   <div>長門が指した先には分厚い書籍がずらりと並ぶ本棚があった。しかし、俺はまだ動けないで居る<br /> 普段のコイツを知っている俺としては自主的な発言は何かしらの事情に絡んでの事で、それは大抵が涼宮ハルヒという御仁に関係する事柄でもある<br /> それを考えると嫌な予感しかしなかったが、別に断る理由もないので本棚の前に立つ<br /> 目の前の本棚には俺には理解する事の出来ない英語がずらりと並んでいる</div>   <div>うん、困った</div>   <div>自慢じゃないが俺は活字という物に遺伝子レベルで拒絶反応が刷り込まれている自信がある<br /> 恐らく一ページを読み終わる前に夢の世界へ旅立ってしまうだろう<br /> そんな感じで目線を泳がせて見ると一つの小冊子が目に付いた。ノート大の紙を幾つかまとめた物で、何かしらの文字が書いてある<br /> 長門しか使わないであろうこの本棚にこんな物があると言うのが激しく違和感ありまくりなんだが</div>   <div>「オイ、長門。これ」</div>   <div>は、とは言わせて貰えなかった。その小冊子を手に振り向くと眼前まで間合いを詰めていた長門に一瞬で掠め取られた。速い、速いよスレッガーさん<br /> そして長門は何事も無かったかのように一つの本を取る</div>   <div>「お勧め」<br /> 「……………面白いのか?」<br /> 「ユニーク」</div>   <div>……ああ そう<br /> それだけ言うと役目を終えたかのようにパイプ椅子へと戻り、読書を開始する。その手には小冊子を持って<br /> しばしその場に立ったままの俺であったが、扉を蹴り飛ばす轟音によってその状況は打破される事となった</div>   <div>扉を蹴り飛ばした女・・・まぁ、言うまでもないよな、涼宮ハルヒだ<br /> バニーガールに扮したその団長様は不機嫌な様子を隠しもせず解散を告げた<br /> 大方あの姿でビラでも配っていたのを止められたんだろうな。想像が容易だ<br /> そうして怒号を吐きながらいち早く返っていったハルヒを追う様に帰り支度をする<br /> 因みに古泉と朝比奈さんはクラスメイトとの用事があるらしいので休みだ<br /> 古泉は兎も角朝比奈さんだけは一日一度は目に入れておきたいのにな。朝比奈さんの居ないSOS団などルーを入れ忘れたカレーより無意味な物だ<br /> さて帰ろうか</div>   <div>「…………」</div>   <div>と思って歩き出せば後ろに引っ張られる感覚が襲う。この部屋が呪われている話など聞いた事がないが<br /> …………なんてな。まぁ、今俺のベルトを掴んでいるのが誰かなんてわかる。俺のほかにコイツしか居ないしな</div>   <div>「なんだ?長門」</div>   <div>長門は少々困った顔をする。こういう表情も珍しいよな</div>   <div>「………私の家に来て欲しい」</div>   <div>年頃の男子としては女子から家に誘われると言うのは色々と魅力的な想像を働かせてしまう物だが、それは時と場合と相手にもよる物だと俺は思う<br /> 健全な男子としてはストロベリィな展開を期待しないでもないんだが、長門の家には行くたびに涼宮ハルヒに関する面倒事を抱えることになる気がしてしまう<br /> 果たして今度は一体何があるのかという思案に頭を悩ませつつ、俺は長門の隣を歩いていた<br /> 目的地としては何か有ったときの救世主に助けを呼ぶために過去何度か赴き今では目を瞑ってでも辿り着ける自信がある長門有希の住まうマンションだ<br /> さて、今度は何だろうね。ハルヒが何かしらの問題を起こした様には見えないんだが………イヤ、ハルヒの力は無意識に炸裂するんだっけか</div>   <div>「………大丈夫」</div>   <div>唐突に長門が口を開いた</div>   <div>「今回は、涼宮ハルヒに関係無い」</div>   <div>知らない内に心中を声にでも出していたのだろうか。俺の不安にピンポイントで答えを返してくれた<br /> もしかしたら長門なら心の中を読む事も出来るかもしれないが、出来たとしてもこいつがそんな事をする訳が無いと自信を持って言える</div>   <div>兎に角不安要素が取り除かれた中で、長門の住むマンションを視界に捉えた</div>   <div>今この状況を説明しろと言われても俺自身理解が追いつかず、解答権は放棄させて貰う事になるな<br /> 長門は台所に立って何やら料理をしているようだがその中身がレトルトカレーなのは想像に難くなく、俺は何故か夕食に御呼ばれしている訳である。説明できたな</div>   <div>「食べて」</div>   <div>そういってカレーの盛られた皿が二つ、運ばれてくる<br /> 業務用の圧力鍋の中にはカレーがたっぷりと入っており、一体何箱のレトルトカレーを使ったかなど逆算するのも面倒臭い</div>   <div>「…………情報統合思念体から補正を受けた」</div>   <div>唐突に………これで三回目だな、唐突って言葉を使うのは。まぁそれはどうでもいい</div>   <div>「私の中に再びバグが蓄積しつつあった。このままでは何時かの様に私は世界を改変する可能性が出てきた」</div>   <div>何時か………俺の脳裏には大人しい文芸部員が白紙の入部届けを俺に渡す姿が蘇った。<br /> まぁ、何となく理解は出来るがな。大まかな所は。で、その補正とやらを受けたのはなんなんだ?</div>   <div>「言語通達で理解してもらう事は非常に困難。また、無理に表そうとしても必ず齟齬が生じる」</div>   <div>過去に何度か聞いた言葉だな。これで何度目だったか。俺が過去を振り返るために記憶を遡っていると、再び長門は口を開いた</div>   <div>「でも、近い概念を上げる事は可能」</div>   <div>少し間を置いて、</div>   <div>「私が受けた補正は、感情」</div>   <div>………感情、ね。確かに言語化するのは困難だな<br /> 俺だって「楽しいとはどういうことか?」なんて聞かれたって答えられる訳がない。そんなもんは哲学者にでもやらせて、勉学に励んだ方が非常に有意義な脳の使い方だ<br /> いつの間にか三杯目のカレーを食べている長門へ目を向ける<br /> なるほど、今日感じていた違和感の正体が解ったな</div>   <div>「…………何?」</div>   <div>いやなに、お前に見とれていただけさ<br /> ……………何て言う訳無いけどな。<br /> でも言ってみて恥ずかしがったりする長門を期待している俺が居る事は認めなければなるまい。まぁ、そんな事はありえないと解っているがな</div>   <div>「時間」</div>   <div>長門の無機質な声が告げる。いや、何処か感情が含まれている気がするな。<br /> それは兎も角として時計に目をやった。もう八時を過ぎてるな。帰るか</div>   <div>「それじゃな、長門。カレー、美味かったよ」<br /> 「待って」</div>   <div>立ち上がろうとした俺の袖を長門が掴んだ。うーん、庇護欲をくすぐられるというか………萌え?<br /> そうか、俺は宇宙人萌えだったのか……………何て言ってる場合じゃないな</div>   <div>「また明日も………良い?」</div>   <div>不安げに尋ねる様は、そりゃもう反則的に可愛かったよ</div>   <div>翌日………ハルヒは懲りもせずビラ配りに出かけ、朝比奈さんはそれに巻き込まれ、古泉は俺とオセロをし、長門はいつもの如く分厚い本を読んでいた<br /> ある意味これがこの場所の正しい在り方かもな………って、俺も随分とハルヒに毒された様だ<br /> 先程から長門が本のページとページの合間にこちらを見ているが、まぁ気にしないでおこう<br /> とりあえず、俺は古泉の黒を一気に白へと変えた。これで………何勝だろうな。40回までは数えたがな</div>   <div>「78勝0敗0分」</div>   <div>長門が告げた。数えてたのか。凄いな</div>   <div>「もう78敗もしていましたか………どうです?このまま100勝を目指してみては」</div>   <div>やなこった。もうそろそろ飽きたしな。………と言うかお前が負ける事前提か</div>   <div>古泉がオセロを片付け、将棋盤を出そうとすると長門が本を閉じた</div>   <div>「おや、もう終わりの様ですね」</div>   <div>何時から長門は時報代わりになったんだっけな………って早<br /> 俺がそう思ったときには既に古泉は部屋を出ていた</div>   <div>「行きたい所が有る………良い?」</div>   <div>ああ、勿論良いとも。でも背後に立つのはも、う、や、め、に、し、て、く・れ・ない、か~♪<br /> …………ああ、微妙に動揺してるのかな俺は<br /> で、行きたい所ってのはどこだ?</div>   <div>「………図書館」</div>   <div>図書館、ね。普段の俺なら絶対行かない所だな<br /> しかし長門の願いを無碍に断る訳にも行くまいて?</div>   <div> まぁ、そんなこんなで図書館に来たわけなんだが、長門は矢張り俺が一生縁が無いであろう本を選んでいるので、俺は適当に選んだライトノベルを読んでいる</div>   <div>「……………」</div>   <div>長門が俺の向かいの席に座る。また難しそうな本を2~3冊携えて………見てるだけで頭痛がするな<br /> 流石にこれを全て読むとしたらかなりの時間が掛かるだろうな。キリの良い所で切り上げるとするか</div>   <div>「話がある」</div>   <div>ページに目を戻した途端に長門が言った。何処か真剣さが宿る声には真面目に聞かなければいけない気になるな<br /> 顔を上げれば何時にも増して真剣な顔があった。うん、可愛い………って真剣に聞くんじゃないのか</div>   <div>「私は」</div>   <div>其処で言葉を切る。自分の言いたい事を整理しているというか、言葉を選んでいるというか……まぁそんな感じだ</div>   <div>「私は貴方に対して興味を持っている。これは情報統合思念体も涼宮ハルヒも間に挟まない、私個人の純粋な好意」</div>   <div>これは告白………なのか?いや、好意といっても色々とあるよな。<br /> 友達として好きとか、うん、そういうことなんだ、きっと</div>   <div>「………長」<br /> 「私が貴方に抱いているのは、恋愛感情」</div>   <div>追い討ちとでも言うべき言葉。さすがは長門、いつも俺に現実を突きつけてくれる。妄想に逃避する暇が無い</div>   <div>暫くの間沈黙が流れる<br /> 答えを待ってるんだろうな…………多分<br /> その中で先に口を開いたのは長門だった</div>   <div>「…………忘れて」</div>   <div>そう言って立ち上がる。本を忘れているぞ………ってそうじゃなくて<br /> 顔が少し下を向いている。一応照れたりもするんだな……でもなくて<br /> 気付けば俺は長門の腕を掴んでいた</div>   <div>「…………何?」</div>   <div>その表情と声に憂いが含まれていたのは気のせいではないだろう。それだけでも美の女神が嫉妬しそうな美しさを感じる</div>   <div>「えっと………、何ていえば良いのかは解らんが…………」</div>   <div>俺は脳内の貧困な語呂を総動員させる。ちっ、こんな所で本を読まないのが仇になるとはな</div>   <div>「まぁ、俺もお前の事が好きだ。お前も俺が好きで居てくれるなら嬉しいし…………真面目に言ってるぞ?」</div>   <div>どうしても真面目に聴こえないな、自分が恨めしい。願わくば長門に気持ちが届いてくれる事を祈る</div>   <div>「………フフッ」</div>   <div>聞き慣れない声だ。だからこそそれが笑い声と理解するのに時間が掛かったな<br /> 顔を上げたとき、ハートを射抜かれる思いがした。……………其処、表現が古いとか言うな</div>   <div>兎にも角にも、長門の微笑みに俺は完全に惚れてしまった訳だ</div>   <div>やはり翌日、SOS団の部室には全員が揃っていた<br /> しかし我等が団長涼宮ハルヒは何処か不機嫌で、それがバニー&メイド服という格好でビラ配りをしていた所為での反省文を書かされたことが原因なのは言うまでもない<br /> お前はいいが巻き込まれた朝比奈さんが可哀想だな<br /> 机を人差し指でトントンと叩き、殺意をパソコンに向けるが如くネットサーフィンに勤しんでいる<br /> 因みに俺はというと、珍しくやる事が無い<br /> 朝比奈さん印のお茶を啜りつつ目の前で繰り広げられる対局を見ている訳である。<br /> 俺の隣でメイド服に身を包んだ朝比奈さんが真剣な面持ちで盤面を見ていることから、誰と誰の対局かは言うまでもあるまい<br /> 古泉VS長門<br /> 珍しい事に興味を示した長門に駒の動かし方と最低限のルールだけを教えたら<br /> 「理解した」<br /> の一言を返され、今に至る訳である<br /> 結果は…………言うまでもないか<br /> 28勝0敗0分、長門の圧勝だ。あ、またもや</div>   <div>「王手………」<br /> 「ふう、流石は長門さんですね。全然勝てません」</div>   <div>お前は俺相手でも勝った例が無いだろ</div>   <div>「それではもう一局しませんか?」</div>   <div>無視か?無視なのか?<br /> とまぁ、三十敗を喫した所でハルヒの「今日はこれで解散!」の一言で活動が終わりを告げた<br /> 古泉と朝比奈さんが帰ったところで、俺と長門は二人っきりになった訳だ</div>   <div>「……………」</div>   <div>まずい、何か思いっきり緊張している。昨日の出来事が出来事だけに余計にな<br /> 長門の方も本に目を落としているが、先程からページが進んでいない様に見える</div>   <div>「………帰るか」<br /> 「………ん」</div>   <div>長門は殆ど読んでいなかっただろう本を閉じ、鞄を持った</div>   <div>放課後の校舎に人影は無く、部活動中であろう者達は校庭若しくは部屋に閉じこもっている為に特に誰にも会うことは無かった<br /> そういや何でこんなにこそこそとしてるんだろうな</div>   <div>校門を出た辺りからは何を話したかの記憶は曖昧で、もしかしたら何も話してなかったのかもな<br /> とりあえず俺達は黙々と歩き続け、長門のマンションへとやって来た訳だ</div>   <div>「また明日な、長門」</div>   <div>上がりこむ訳にも行かんし、俺は自宅への帰路に着こうとした</div>   <div>「待って」</div>   <div>後方から長門が呼びかける。俺が振り向いた時、長門は目の前に居て――――――</div>   <div>俺の唇に、長門の唇が重なった</div>   <div>茫然自失、と言うのはこういうことを言うんだろうな。数分ほどその場に立ち尽くしていたよ<br /> あまりにも長門らしからぬ行動……まぁ、実際に長門がやったんだから仕方ないよな。うん。<br /> どうやら自然に笑みが零れていた様で、</div>   <div>「キョン君?どうしたの?気色悪いよ?」</div>   <div>と妹に言われた次第だ。と言うか実の妹に気色悪いと言われるのは案外こたえるな</div>   <div>風呂に入って肉体の疲れを解し束の間の急速を取る俺。そう、束の間。鳴り響いた携帯電話。やな予感が胸をよぎる。冷静になれよ俺<br /> 液晶画面に表示されるのは矢張り涼宮ハルヒの文字。あぁ、やっぱりな。</div>   <div>『…………大した用じゃないんだけどさ』</div>   <div>珍しいな、自分が一番正しいと思っている様な団長様の不安な声というのは</div>   <div>『……有希ってさ、可愛くなったわよね?』<br /> 「は?」</div>   <div>何を言い出すんだ、コイツは。確かに情報統合思念体とやらに感情を少し表に出せるようにして貰ったとか言ってたが………其処まで言う事か?</div>   <div>『何ていうか……無邪気になった、みたいな』</div>   <div>そんな曖昧に言われてもな。大体そんなこと本人に言ってやれば良いじゃないか。用件はそれだけなのか<br /> 返事もせず通話が切れた。何処までも勝手だな、おい<br /> 頭を働かす事も億劫になった俺は電話を放り出し、ベットに体を預けた</div>   <div>子守唄よりも破壊力に優れる授業を聞き流し、放課後になって向かう場所はSOSが占領する事現在進行形の文芸部室である<br /> 文芸部室の扉を軽くノックする。別にそんな決まりがあるわけではないが、迂闊に入ってしまうと年下のような上級生の麗しき裸体を目にしてしまう可能性がある<br /> 煩悩に従ってみたい気がするが、その場合後が怖い</div>   <div>「…………?」</div>   <div>扉の向こうからは何も音がしない。愛くるしい上級生の天使の様な甘い声もニヤケハンサム面のムカつくような声も無い。珍しいな<br /> ガチャリ、と音を立てて開けた扉の向こうには、無口な宇宙人以外は居なかった</div>   <div>「長門だけか………」<br /> 「今日の活動は無しとの言伝を受けている」</div>   <div>長門は本から顔を上げて言った<br /> そうか、今日は休みか。珍しい事もあったもんだな。じゃあとっとと帰る………<br /> そう思っていた俺の目は本棚を視界に捉えた。そしてある疑問が蘇ってくる</div>   <div>『果たしてあの小冊子はなんなのか?』</div>   <div>こうして、長門の目を盗んで目的を達成させるミッションはスタートした!!</div>   <div>……………なんてな</div>   <div>大層な事を言って見たものの、別に世界最高のスパイ並みに隠密行動が上手い訳でも大泥棒の孫って訳でもない俺は普通に本棚の前に立つ<br /> さて、目標は…………あった<br /> 拍子抜けするほど簡単に目標物を見つけ、手に取る。体で長門の方からは見えないが、一応カモフラージュとしてもう一つ分厚い本を取った<br /> まず本を開き小冊子を挟む。よし、これで本を読んでいるようにしか見えないはずだ。この手口には夜神月も真っ青だ<br /> 表紙らしき紙を捲るとまず登場人物紹介らしい。どうでも良いけど題名とかは無いのかね…………ん?<br /> 俺の眼に狂いが無ければ、主人公の名前は『キョン』と明記されている。そしてヒロインの部分には『長門』と</div>   <div>「…………」</div>   <div>後方から長門の目線を感じるが、適当に流し読みを始めた<br /> どうやら内容としては『キョン』を主人公とした学園物らしい。これで恋愛物だったりしたら世界が改変したんじゃないかと疑う事に……</div>   <div>「あ」<br /> 「駄目」</div>   <div>いつの間にか背後に居た長門に小冊子を取り上げられてしまった。迂闊な。<br /> いいじゃないか、見せてくれても</div>   <div>「駄目」</div>   <div>長門の手から取り返そうと出した手は見事に交わされ、長門は小冊子を自分の後ろへ下げる<br /> 俺はそれを追おうとしたんだが、後になって思えばこれが間違いだった訳だ<br /> 体を前に倒そうとした俺は長門の脚に躓き、長門に覆いかぶさる様にして倒れた</div>   <div>そして、部室の扉は勢いよく開かれた</div>   <div>扉が開いた先に居るのは………何時だったかな。俺が友人に長門への恋文を代弁して書かされた事がある。<br /> それを見つけた時と同じ様な表情を浮かべる涼宮ハルヒの姿だ<br /> その後ろにはやれやれといった感じに溜息をついているニヤケハンサムやら愛くるしい上級生が居る</div>   <div>さて、ここで考えて欲しい事がある<br /> 今俺は不可抗力とはいえ長門の上に覆い被さっている訳だ<br /> しかも長門の服は衝撃で多少乱れている</div>   <div>まぁ、此処まで状況証拠が揃ったんだ。弁解は難しいだr</div>   <div>「~!!!!」</div>   <div>ああ、団長殿の顔が見る見るうちに紅潮していく。多分今頃俺に課する罰ゲームでも考えているんだろうな</div>   <div>「あー、ハルヒ、落ちt」<br /> 「言い訳無用!!」</div>   <div>俺の言葉を遮るようにハルヒは叫んだ。それと同時に俺の胸ぐらを掴みながら</div>   <div>「今日と言う今日は許さないわ!<br /> いくら有希が大人しい子って言ってもね、やって良い事と悪い事があるのよ!<br /> アンタには上半身裸で校庭十周でもさせてあげようか!?『私は強姦魔です』って叫びながらね!言っとくけど犯罪者に人権は無いわよ!!」</div>   <div>良くそんな長文を息継ぎ無しで言えるもんだ。じゃ無くて落ち着け</div>   <div>「落ち着け!?よくもそんな事が言えたもんだわね!」</div>   <div> 色々な感情が混ざりすぎてどの感情が表に出ているか解らない様な表情で更なる罵倒を紡ごうとしていると、長門が肩を叩いた。おお、弁解してくれるか</div>   <div>「何!?言っとくけどこんな奴に同情する必要は無いわよ!!」</div>   <div>長門は小さく顔を横に振った</div>   <div>「合意の上」</div>   <div>空気が固まった。様な気がする</div>   <div>ハルヒを始め、俺や古泉までもが唖然とした表情だ。ってか長門、その言い方じゃ本当に何かやろうとしてたみたいじゃないか</div>   <div>「本当、なの?」</div>   <div>長門は小さく頷く。ハルヒは何かを考えていたようだが、やがて馬乗りの状態から俺を解放した</div>   <div>「まぁ、有希がそれで良いならいいわ」</div>   <div>何を納得してるんだか。</div>   <div>「でもね!」</div>   <div>ビシィ、といった効果音が聞こえそうなほどに勢いよく俺を指差す。失礼だぞお前</div>   <div>「有希を悲しませたら許さないわよ!」</div>   <div>ああ、その点は心配無く。そんな事をするつもりは無いし極力気をつけさせてもらいますよ</div>   <div>「フン………!なら良いのよ。行きましょ、みくるちゃん」</div>   <div>ハルヒはいつもの如く踏ん反り返って部屋を出て行った。朝比奈さんも「ふぇ?え?え?」などと可愛い声を発した後、小さくハルヒの後を追った<br /> 古泉はと言うと、コイツはやっぱり見てるだけでムカついてくるニヤケ面を浮かべ戸口に立っている</div>   <div>「いやいや、涼宮さんに交際を認めさせるためとは言え、うまくやりましたねぇ」</div>   <div>違うっつーの。あれは事故だ、事故</div>   <div>「まぁ、そういう事にしておきましょう」</div>   <div>解ってますよ、とでも言いたげな声色を残し、古泉は去っていった。後には、俺と長門だけが残された</div>   <div>「…………助かったよ、長門」<br /> 「………良い」</div>   <div>欲を言えばもうちょっと穏便に済ませたかったんだがな…………他に良いようは無かったものかね?</div>   <div>「涼宮ハルヒに交際を認めてもらうにはあのタイミングが的確だと判断した」</div>   <div>……イカン、やめた。よく考えたら俺が長門に言い勝てる訳が無かったな</div>   <div>「………まぁ良いや。そろそろ帰るか、長……?」</div>   <div>長門が俺の袖を掴んでいる。くぅ、可愛いなぁ</div>   <div>「出来れば…………」</div>   <div>軽く俯いて一瞬の躊躇。全ての仕草が愛しく見えるな</div>   <div>「名前で、呼んで欲しい」</div>   <div>ああ、呼んでやるともさ。今の俺にお前の願いを聞き入れない程、心の余裕は無いさ。日本語がおかしいが気にするな</div>   <div>「それじゃあ、帰るか、有希」<br /> 「………ん」</div>   <div>可愛く微笑んだ天使が、そこに居た</div>   <div>「・・・チェックメイト」</div>   <div>翌日、部室では昨日に引き続き古泉vs有希のチェス対決が繰り広げられていた。因みにこれで有希の52勝目だ<br /> 一見代わり映えの無い風景だが、俺が有希の事を「有希」と呼んでも他の団員は反応しないし、古泉のニヤケ面が120%にパワーアップしていると感じる</div>   <div>「あんたと有希の交際は認めてあげるけどね、部室で淫猥な行為をしたら即警察に叩き出すわよ」</div>   <div>部室に入って早々こんな事を言われたがな。見事に好感度が死滅していらっしゃる<br /> まあ、「有希」と呼ぶたびに小さく嬉しそうな顔をする有希を見ているとこっちまで嬉しくなるな。………其処、バカップルとか言うな</div>   <div>それはそうとその日の放課後、俺は疑問に思ったことを聴いてみた</div>   <div>「有希、一体あの本は何だったんだ?」</div>   <div>有希は少し考えるふうな仕草をして、俺に向き直る<br /> そして人差し指を口に当て、微笑みながら一言</div>   <div>「それは、禁則事項」</div> <br /> <br />   <div>end</div> </div>

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