「Break the World 第四話」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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<div class="main">第四話 ― 笑顔 ―<br>
<br>
沈黙が3人の間を支配する。それがどれだけなのか、わからない。<br>
一秒とも一分とも感じられる重い空気を破る一言が、飛び出した。<br>
「あたしが選ぶのは…………」<br>
「こっちの世界の存続よ」<br>
<br>
…………<br>
……<br>
…<br>
こっちの世界?ハルヒがさっき言ってた事と違わないか?<br>
「……本当に良いのだね?」<br>
"代弁者"が改めて確認するように訊いてくる。<br>
「二度も言わせないで。あたしはこの世界を残したいの」<br>
「……わかった。繋がっている最後の力はこの世界の保全に回そう」<br>
ふう。と"代弁者"が息を漏らす。<br>
「力と君達が途切れた時点で君達は消える事になる。時間はあと僅かだ」<br>
俺は呆然としてハルヒの横顔を見ていた。しばらくして俺の視線に気付いたのか、<br>
ハルヒも俺の顔を見る。<br>
「これでいいのよ」<br>
宣言するかのようだった。何を思ってそう言ったのか確かめる術はないが。<br>
「でも、本当に大丈夫なのか確かめられそうに無いのは心残りね」<br>
「ああ、そうだな」<br>
もっと言う事あるだろ、俺。ハルヒは自分の意見を曲げてまで俺の言葉を受け入れた。<br>
いつもだったら俺の意見なんてはねつけるハズなのに。<br>
「なあ、ハルヒ」<br>
「何?」<br>
<br>
「どうしてさっきまで言ったことを急に変えたんだ?」<br>
「なんでかしら……直感だったのよ。気が付いたら喋ってた」<br>
妙に勘が鋭いハルヒの事だからなあ。何か電波でも受信したのだろか。<br>
「選択に正解など無い、だが、今まで世界を保全した私にしてみれば、少しだけありがたいよ」<br>
"代弁者"が話に割り込んでくる。力に意志なんてあったのかよ。<br>
「私の役目もこれで終わりだ、君達は僅かな時間を二人で過ごしてくれ」<br>
そう言うとまた薄れていくように"代弁者"が消えていく。<br>
その姿が煙のように完全に消えた後で、俺たちは向き合った。<br>
「あたし達、どうなるんだろうね……」<br>
「あの爺さんは消えるって言ったからな、たぶんそうなんだろう」<br>
「うん……。でも何所へ言ってもあたし達は一緒よね」<br>
「ああ、そうだな」<br>
どちらからと言う事無く、俺達はお互いを抱きしめた。<br>
自分でも不思議なくらい消えることを割り切れている。<br>
何か役目を終えた達成感だけが心に残っていた。<br>
これで世界が守れたんなら、案外安い代償なのかもしれないな。<br>
「有希やみくるちゃんや古泉君は、あたし達のおかげって気付くかな」<br>
「さあな、長門なら分かるかもしれないな」<br>
「有希って本当に万能なのね」<br>
ふふっとハルヒが笑う。今まで長門の万能さの原因が宇宙的パワーなんて知らなかったんだもんな。<br>
「皆がいるなら、きっとこの先も大丈夫よね」<br>
<br>
ハルヒは、不思議なくらい満足そうな顔をしている。<br>
俺と同じように達成感があるのかもしれない。<br>
これまでに見たことの無いハルヒの笑顔だった。<br>
その笑顔は誰の為にあるんだ?ハルヒ……。<br>
「ねえ、残った時間は少しかも知れないけど、学校見て回りましょう」<br>
突如の提案だったが、俺は快諾した。<br>
そうだな、消えちまう前に思い出めぐりってのもいいかもな。<br>
まず教室に行く。まだこの組に生徒は来ていないらしい。<br>
「何よ、皆怠け者ね」<br>
「俺も普段なら寝ているだろうしな」<br>
「……あたし達、ここで最初に出会ったのよね」<br>
「あの時は驚いたもんだ。それがこんな事になるとは」<br>
「結構色々やったわよね……」<br>
感慨深いのはお互いだったようだが、意を決して教室を後にした。<br>
他に見ておきたい場所もあるしな。<br>
次に行ったのは中庭だった。ハルヒが学園祭で演奏した後に過ごした場所。<br>
「あの時は本当に何かが吹き抜ける感じだったわ。丁度今みたい」<br>
「人の為に何かをするって事の良さが分かったんじゃないか?」<br>
「そうね……そうかも」<br>
そう言うハルヒの横顔は憂いを込んだ笑みだった。<br>
随分複雑な笑い方だ。でも、満足なんだろ?<br>
<br>
最後に向かったのは校庭だ。俺とハルヒにとって違った意味で始まりの場所。<br>
「あの時のキスが本当だったなんて、どうして黙ってたのよ」<br>
「言うわけにはいかなかったさ。お前の力をお前に知らしたらまずいだろ」<br>
「あたしが悪の独裁者みたいな事するとでも思ってたの?」<br>
「いいや。だが、そうでなくたって有り余る力を知るのは危険さ」<br>
「それは……そうかもね」<br>
「でも……知ってたらあたし達もう少し生きられたかもしれないじゃない」<br>
「そうだな……。でも、仕方ないさ。後悔しちゃいないだろ?」<br>
「……うん」<br>
ハルヒが手を差し出してくる。俺はその手をゆっくりと握ってやる。<br>
「やっぱり、最後には……」<br>
「ああ……。何所へ行っても帰るのはあそこみたいだな」<br>
そうして部室に戻ってきた。<br>
俺達が出ている間にも誰も来なかったらしい。<br>
長門くらいは来てるかもと思ったが。<br>
「ここで死ぬなら、あたしは本望よ」<br>
安らかな顔をしていた。そうだな。俺も疲れた。<br>
そろそろ神様も俺達を休ませてくれるだろ。<br>
若くしてこの世を去るのは不本意だが、どっかで生まれ変わると信じるさ。<br>
<br>
ふと、体の中を風が吹き抜けたような感覚が訪れた。<br>
とっさに自分の体を見回す。体から光の粒が出始めていた。<br>
「キョン……」ハルヒも同じように全身から少しずつ光の粒が出ている。<br>
「……どうやら時間が来ちまったらしいな」<br>
「うん……」複雑な表情をハルヒが浮かべる。<br>
だが、これでこの世界は大丈夫って事だろう。<br>
SOS団の残りのメンバーならきっとこの先も問題と立ち向かえるだろうしな。<br>
「長門、朝比奈さん、古泉……後は頼むぞ……」<br>
「しっかりあたしの後を継ぎなさいよ……」<br>
二人でそこにもうすぐ来るであろう団員の名を口にする。<br>
「あたし……最期にキョンと居られて良かった……」<br>
「ああ、俺もだ……」<br>
どんどん俺達の一部が粒となって舞い上がっていく。<br>
心なしか、腕が透けて床が見えるようになってきた。<br>
「キョン……」ハルヒが俺をみつめている。<br>
「ハルヒ……」俺もハルヒをみつめている。<br>
俺達は最後になるであろうキスをした。<br>
最期にこんな思い出を作れたんなら……まんざらでもないな。<br>
「これが恋人として最初のキスなんて……皮肉よね」<br>
「でも……大好き」<br>
それが最後に聞いた言葉だった。俺達は粒になって散り、<br>
誰もそれを見ることは無かった。後は、頼むぞ……<br>
<br>
ある部屋に三人の人間が集まっている。<br>
「これまで観測されていた情報爆発の収束を確認した」<br>
「それでは、世界の異常観測は無くなったと言う事ですか?」<br>
「そう」<br>
「きっと……涼宮さん達が……」<br>
「それを確認する手段は存在しない」<br>
「それでも、僕達は信じましょう。彼女達が守ってくれた……と」<br>
「そうですね」<br>
「……そう」<br>
二人は微かに涙を流していた。<br>
短い会話の後で、二人は部屋から去る。<br>
一人残った少女が部屋の隅に座って、本を開く。<br>
しばらくの間静かに時間が流れる。<br>
やがて、少女は宙を見つめ、一人喋りだした。<br>
まるで、誰かに語りかけるように。<br>
「世界の情報改変の力の消失を確認。今後改変が起きる事はないと推定できる」<br>
「……彼と涼宮ハルヒは物理的にも完全に消失。復元は不可能」<br>
「だが、力が消失しても世界が崩壊しなかったのは、彼らのおかげかもしれない」<br>
「……以上、報告終了」<br>
そう言うと彼女は本を閉じた。<br>
帰り支度をして、部屋を去る。<br>
部屋には再び静寂が戻ってきた。物音一つしない、静かな空間に。<br>
<br>
外には雨が降っている。空は雲が覆い、粒が降り注ぐ。<br>
彼女はその中で小さな傘をさし、無言で歩いていた。<br>
その内で何を考えているのかは誰にもわからない。<br>
辺りに下校する生徒はほとんど居なかった。一人で歩く道。<br>
ふと、後ろから声がする。<br>
「なあ、いくら傘が無いからって職員用を盗むことはないだろ」<br>
「いいのよ、学校の備品でしょ?生徒が使って悪いことはないわ」<br>
「そういうもんか?違うと思うが」<br>
「何? 濡れて帰りたいの? それじゃあ入れてあげないわよっ!」<br>
後ろにいた少女は笑って走り出し、彼女の横を通り過ぎる。<br>
しばしの間を置いて、後ろにいた少年の声がする。<br>
「待てよ」どこか楽しそうな声だった。<br>
その声に、前を走っていた少女が笑いながら振り向く。<br>
そこには、幸福で満たされた表情が、満面に浮かんでいた――<br>
<br>
<br>
FIN...</div>
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<div class="main">第四話 ― 笑顔 ―<br />
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沈黙が3人の間を支配する。それがどれだけなのか、わからない。<br />
一秒とも一分とも感じられる重い空気を破る一言が、飛び出した。<br />
「あたしが選ぶのは…………」<br />
「こっちの世界の存続よ」<br />
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…………<br />
……<br />
…<br />
こっちの世界?ハルヒがさっき言ってた事と違わないか?<br />
「……本当に良いのだね?」<br />
"代弁者"が改めて確認するように訊いてくる。<br />
「二度も言わせないで。あたしはこの世界を残したいの」<br />
「……わかった。繋がっている最後の力はこの世界の保全に回そう」<br />
ふう。と"代弁者"が息を漏らす。<br />
「力と君達が途切れた時点で君達は消える事になる。時間はあと僅かだ」<br />
俺は呆然としてハルヒの横顔を見ていた。しばらくして俺の視線に気付いたのか、<br />
ハルヒも俺の顔を見る。<br />
「これでいいのよ」<br />
宣言するかのようだった。何を思ってそう言ったのか確かめる術はないが。<br />
「でも、本当に大丈夫なのか確かめられそうに無いのは心残りね」<br />
「ああ、そうだな」<br />
もっと言う事あるだろ、俺。ハルヒは自分の意見を曲げてまで俺の言葉を受け入れた。<br />
いつもだったら俺の意見なんてはねつけるハズなのに。<br />
「なあ、ハルヒ」<br />
「何?」<br />
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「どうしてさっきまで言ったことを急に変えたんだ?」<br />
「なんでかしら……直感だったのよ。気が付いたら喋ってた」<br />
妙に勘が鋭いハルヒの事だからなあ。何か電波でも受信したのだろか。<br />
「選択に正解など無い、だが、今まで世界を保全した私にしてみれば、少しだけありがたいよ」<br />
"代弁者"が話に割り込んでくる。力に意志なんてあったのかよ。<br />
「私の役目もこれで終わりだ、君達は僅かな時間を二人で過ごしてくれ」<br />
そう言うとまた薄れていくように"代弁者"が消えていく。<br />
その姿が煙のように完全に消えた後で、俺たちは向き合った。<br />
「あたし達、どうなるんだろうね……」<br />
「あの爺さんは消えるって言ったからな、たぶんそうなんだろう」<br />
「うん……。でも何所へ言ってもあたし達は一緒よね」<br />
「ああ、そうだな」<br />
どちらからと言う事無く、俺達はお互いを抱きしめた。<br />
自分でも不思議なくらい消えることを割り切れている。<br />
何か役目を終えた達成感だけが心に残っていた。<br />
これで世界が守れたんなら、案外安い代償なのかもしれないな。<br />
「有希やみくるちゃんや古泉君は、あたし達のおかげって気付くかな」<br />
「さあな、長門なら分かるかもしれないな」<br />
「有希って本当に万能なのね」<br />
ふふっとハルヒが笑う。今まで長門の万能さの原因が宇宙的パワーなんて知らなかったんだもんな。<br />
「皆がいるなら、きっとこの先も大丈夫よね」<br />
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ハルヒは、不思議なくらい満足そうな顔をしている。<br />
俺と同じように達成感があるのかもしれない。<br />
これまでに見たことの無いハルヒの笑顔だった。<br />
その笑顔は誰の為にあるんだ?ハルヒ……。<br />
「ねえ、残った時間は少しかも知れないけど、学校見て回りましょう」<br />
突如の提案だったが、俺は快諾した。<br />
そうだな、消えちまう前に思い出めぐりってのもいいかもな。<br />
まず教室に行く。まだこの組に生徒は来ていないらしい。<br />
「何よ、皆怠け者ね」<br />
「俺も普段なら寝ているだろうしな」<br />
「……あたし達、ここで最初に出会ったのよね」<br />
「あの時は驚いたもんだ。それがこんな事になるとは」<br />
「結構色々やったわよね……」<br />
感慨深いのはお互いだったようだが、意を決して教室を後にした。<br />
他に見ておきたい場所もあるしな。<br />
次に行ったのは中庭だった。ハルヒが学園祭で演奏した後に過ごした場所。<br />
「あの時は本当に何かが吹き抜ける感じだったわ。丁度今みたい」<br />
「人の為に何かをするって事の良さが分かったんじゃないか?」<br />
「そうね……そうかも」<br />
そう言うハルヒの横顔は憂いを込んだ笑みだった。<br />
随分複雑な笑い方だ。でも、満足なんだろ?<br />
<br />
最後に向かったのは校庭だ。俺とハルヒにとって違った意味で始まりの場所。<br />
「あの時のキスが本当だったなんて、どうして黙ってたのよ」<br />
「言うわけにはいかなかったさ。お前の力をお前に知らしたらまずいだろ」<br />
「あたしが悪の独裁者みたいな事するとでも思ってたの?」<br />
「いいや。だが、そうでなくたって有り余る力を知るのは危険さ」<br />
「それは……そうかもね」<br />
「でも……知ってたらあたし達もう少し生きられたかもしれないじゃない」<br />
「そうだな……。でも、仕方ないさ。後悔しちゃいないだろ?」<br />
「……うん」<br />
ハルヒが手を差し出してくる。俺はその手をゆっくりと握ってやる。<br />
「やっぱり、最後には……」<br />
「ああ……。何所へ行っても帰るのはあそこみたいだな」<br />
そうして部室に戻ってきた。<br />
俺達が出ている間にも誰も来なかったらしい。<br />
長門くらいは来てるかもと思ったが。<br />
「ここで死ぬなら、あたしは本望よ」<br />
安らかな顔をしていた。そうだな。俺も疲れた。<br />
そろそろ神様も俺達を休ませてくれるだろ。<br />
若くしてこの世を去るのは不本意だが、どっかで生まれ変わると信じるさ。<br />
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ふと、体の中を風が吹き抜けたような感覚が訪れた。<br />
とっさに自分の体を見回す。体から光の粒が出始めていた。<br />
「キョン……」ハルヒも同じように全身から少しずつ光の粒が出ている。<br />
「……どうやら時間が来ちまったらしいな」<br />
「うん……」複雑な表情をハルヒが浮かべる。<br />
だが、これでこの世界は大丈夫って事だろう。<br />
SOS団の残りのメンバーならきっとこの先も問題と立ち向かえるだろうしな。<br />
「長門、朝比奈さん、古泉……後は頼むぞ……」<br />
「しっかりあたしの後を継ぎなさいよ……」<br />
二人でそこにもうすぐ来るであろう団員の名を口にする。<br />
「あたし……最期にキョンと居られて良かった……」<br />
「ああ、俺もだ……」<br />
どんどん俺達の一部が粒となって舞い上がっていく。<br />
心なしか、腕が透けて床が見えるようになってきた。<br />
「キョン……」ハルヒが俺をみつめている。<br />
「ハルヒ……」俺もハルヒをみつめている。<br />
俺達は最後になるであろうキスをした。<br />
最期にこんな思い出を作れたんなら……まんざらでもないな。<br />
「これが恋人として最初のキスなんて……皮肉よね」<br />
「でも……大好き」<br />
それが最後に聞いた言葉だった。俺達は粒になって散り、<br />
誰もそれを見ることは無かった。後は、頼むぞ……<br />
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ある部屋に三人の人間が集まっている。<br />
「これまで観測されていた情報爆発の収束を確認した」<br />
「それでは、世界の異常観測は無くなったと言う事ですか?」<br />
「そう」<br />
「きっと……涼宮さん達が……」<br />
「それを確認する手段は存在しない」<br />
「それでも、僕達は信じましょう。彼女達が守ってくれた……と」<br />
「そうですね」<br />
「……そう」<br />
二人は微かに涙を流していた。<br />
短い会話の後で、二人は部屋から去る。<br />
一人残った少女が部屋の隅に座って、本を開く。<br />
しばらくの間静かに時間が流れる。<br />
やがて、少女は宙を見つめ、一人喋りだした。<br />
まるで、誰かに語りかけるように。<br />
「世界の情報改変の力の消失を確認。今後改変が起きる事はないと推定できる」<br />
「……彼と涼宮ハルヒは物理的にも完全に消失。復元は不可能」<br />
「だが、力が消失しても世界が崩壊しなかったのは、彼らのおかげかもしれない」<br />
「……以上、報告終了」<br />
そう言うと彼女は本を閉じた。<br />
帰り支度をして、部屋を去る。<br />
部屋には再び静寂が戻ってきた。物音一つしない、静かな空間に。<br />
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外には雨が降っている。空は雲が覆い、粒が降り注ぐ。<br />
彼女はその中で小さな傘をさし、無言で歩いていた。<br />
その内で何を考えているのかは誰にもわからない。<br />
辺りに下校する生徒はほとんど居なかった。一人で歩く道。<br />
ふと、後ろから声がする。<br />
「なあ、いくら傘が無いからって職員用を盗むことはないだろ」<br />
「いいのよ、学校の備品でしょ?生徒が使って悪いことはないわ」<br />
「そういうもんか?違うと思うが」<br />
「何? 濡れて帰りたいの? それじゃあ入れてあげないわよっ!」<br />
後ろにいた少女は笑って走り出し、彼女の横を通り過ぎる。<br />
しばしの間を置いて、後ろにいた少年の声がする。<br />
「待てよ」どこか楽しそうな声だった。<br />
その声に、前を走っていた少女が笑いながら振り向く。<br />
そこには、幸福で満たされた表情が、満面に浮かんでいた――<br />
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