<div class="main"> <div>昼休み急に歯が痛くなった俺は谷口と国木田に別れをつげ気分転換に校内をぶらつくことにした<br /> 屋上にあがると古泉が相変わらずのスマイルで俺を出迎えた<br /> 「こんにちは、浮かない顔ですがどうかされましたか」<br /> あぁ実は歯が痛くてな、この前の歯科検診では問題なかったのに急に痛み出したんだ<br /> 「それは災難ですね、よろしければ知り合いの歯科医を紹介しましょうか?」<br /> どうせ機関御用達なんだろ遠慮しておく、それに今日は保険証持ってきてないしな<br /> ところでそういうお前も心なしか疲れているように見えるぞ<br /> 古泉のいつものスマイルもいささか曇りがちにみえた<br /> 「ええまぁこのところ断続的に閉鎖空間が発生してまして」<br /> 確かにハルヒはこのところ時々黙り込んでいるときがあるが、で今度は何が原因なんだ?<br /></div> <br /> <div>「原因は虫歯です、この前の歯科検診で見つかったとか」<br /> あぁそういえばハルヒがそんな話をしていたな、虫歯が痛くて閉鎖空間とはね<br /> 俺もそうやって虫歯のストレスを発散したいね、お前にはわるいが。<br /> 「いえ実際に痛いわけではないんですよ、ごく初期の虫歯だそうですから」<br /> 痛くも無いのなぜ閉鎖空間なんだ?<br /> 「ようするに歯医者さんが怖いんです、我々の調査によると小学生の頃に一度治療を受けたそうですが<br /> 乱暴な治療だったようでいわゆるトラウマになったようです」<br /> 強気な団長様でも歯医者嫌いか<br /> 「あなただって歯医者さんは嫌いなのでは?」<br /> まぁそうだな歯医者が好きな人間なんかいる訳もない、俺も歯医者は嫌いだできれば行きたくない<br /></div> <br /> <div>歯医者が怖いなんてハルヒもやはり女の子なんだなと思いながら俺は古泉の滑らかなしゃべりに耳を傾けた<br /> 「虫歯は放置しても直らないで悪化するだけというのは涼宮さんも理解されています<br /> ですので歯科医の治療が必要だというのは自覚されていますが」<br /> でも怖くて行きたくない、でも行かなかければ虫歯が悪化するそれで閉鎖空間か、なるほど<br /> 古泉がもっともらしくうなずく、あまりに深刻な表情なので俺は軽い気持ちでいってみた<br /> それは災難だな、で俺はどうすればいい?ハルヒと一緒に歯医者に行って治療中に手でも握って励ますのか?<br /> 「本当にやっていただけるんですか?是非お願いします、機関を代表してお礼申し上げます」<br /> すまん古泉冗談だ、本気にするな、というかがっかりしすぎだぞ。<br /></div> <br /> <div>気を取り直して古泉は話をつづけた若干恨みがましい感じのスマイルなのは気のせいだろうか<br /> 「実はあなたの虫歯も彼女の願望と思われます、大体虫歯の進行が早すぎると思いませんか?」<br /> 確かにそうだな、こないだの検診では問題がなかった筈だしな<br /> するとアイツは自分だけが虫歯なのが気に入らなくて俺を無理やり虫歯仲間の道連れにってことか?<br /> 「いえそうではなくて道連れは道連れですが涼宮さんはお一人で歯医者にいくのが心細いんですよ<br /> だからあなたに一緒に行って欲しいということのようです」<br /> そんなもの自分の親や朝比奈さんや誰にでも頼めばいいだろがなんで俺なんだ?それに虫歯とどうつながるんだ。<br /> 「これはまた愚問ですね、あなたが道連れとなる理由はご自分でもわかってらっしゃいますよね?」<br /> 確かに団長様からすれば平団員の俺などパシリ同然だからな。<br /> なんだ古泉そのにやけ顔は話を続けろ、わかってる癖にってなんだ一体<br /></div> <br /> <div>「心細いから歯医者について来て欲しいと涼宮さんが自分から言い出せないのはわかりますよね」<br /> スマイルを三割増しにした古泉をみながら俺は考える<br /> まぁな確かにそうだ、そういう時はSOS団の仲間を頼ればいいんだが変に意地っ張りだからな<br /> 「それであなたが虫歯だったら一緒に歯医者にいけるかもしれないと考えたのではないかと推測しています」<br /> だから俺が虫歯にというわけか……<br /> 「まぁあくまでも推測の域をでませんがね」<br /></div> <br /> <div>古泉もし俺が歯医者に行かなかったらどうなると思う<br /> 「可能性でしかありませんが治療を受けざるを得ないまでに痛みが急激に悪化したりですとか……<br /> それと閉鎖空間の発生を防ぐために虫歯を強制的に治療しようという意見も機関の中では出始めています」<br /> 強制治療ってなんだ診療台に縛り付けて治療しようってのか?そんなことをしたら閉鎖空間どころじゃすまないだろが<br /> 「あぁ深夜に麻酔ガスを使用して就寝中の涼宮さんをこっそり治療しようという話のようです」<br /> おいっハルヒにそんな真似をしてみろ只じゃすまさんぞ<br /> 「もちろん僕も反対です、そもそも本人に治療したという自覚がないのでは無意味ですからね」<br /> 当たり前だ洒落にならん、というか古泉笑いながらそんな話をするな<br /> 「それだけ我々もプレッシャーを感じているんですよ、察してください、それで先ほどの歯医者の件ですが<br /> 冗談ではなく本気でおねがいできませんか、もちろん涼宮さんを歯医者にさそうだけで結構ですから」<br /> 確かに古泉の言うとおりにすれば八方丸くおさまる、が今ひとつ釈然としない<br /> とはいえ古泉のにやけ顔に隠された疲労の影も気になる<br /> ちょっと考えさせてくれといって俺は教室に戻った<br /></div> <br /> <div>教室でそれとなくハルヒの様子を窺がうとやはり不機嫌なオーラを発信している、<br /> 不機嫌な中にも不安や恐怖が見え隠れしているのは虫歯のせいだろう<br /> こいつには笑顔が似合うんだがと思いつつ適当な話題で話しかけるがハルヒは生返事を繰り返すばかりだった<br /> ときどき何かいいたそうな素振りをみせるが結局もとの不機嫌オーラにもどる、歯医者の話をしたいのだろうか?<br /> 俺は授業を聞き流しつつ歯医者と虫歯について考えたが結論が出ないうちに放課後となった<br /> その考察は掃除当番でトイレを掃除している間も続いたがやはり結論は出なかった<br /> 今日一日くらいはゆっくり考えさせてくださいと神に祈りつつ俺は部室へと向かった<br /></div> <br /> <div>ささやかな平和を祈願しつつ遅れて部室に入った俺だが満面に笑みを浮かべたハルヒによって儚い願いは破られた<br /> 「ちょっとキョン聞いたわよ、歯が痛いのに歯医者に行かないそうじゃない」<br /> おいハルヒどこから聞いたんだ、ひょとしてと俺は古泉をみたが奴はスマイルを崩さない<br /> 「教室を出るときに谷口達が話してるのを聞いたのよ、それでみんなに話したら古泉君があんたが歯医者を怖がってるって」<br /> いや保険証を持ってきてないから今日は行かないってだけだし古泉に怖いと話したのも一般論で、痛っ!<br /> 口を開こうとすると虫歯が痛む、どういうことだ?もしかして俺に反論させないためのハルヒの不思議パワーか?<br /> 仕方なく黙り込んでいる俺にハルヒは畳み掛ける<br /> 「嘘よあんたのことだから一日のばしにしてずるずる行かないに決まってるわ!」<br /> (ちょっとまてハルヒそれは自分のことだろが)<br /> 「どうせ歯医者が怖いんでしょ」<br /> (おいおいそれもお前だ)<br /> 「もうしょうが無いわね、あたしが一緒にいってあげるわよ。丁度今日歯医者さんに行こうと思っていたところなのよ<br /> 古泉君の知り合いの歯医者さんなんだけど今日はお休みなのに特別にみてくれるっていうのよ保険証やお金もあとでいいそうよ<br /> 休診日だからあたし達のほかに患者はいないからあんたも好きなだけ泣いていいわよ」<br /> (おいハルヒ嘘はやめろ全部お前のことじゃねーか)<br /> 「それに団員の健康管理も団長の役目だわ、今からすぐにでかけるわよ!」<br /></div> <br /> <div>救いを求めて部室を見回す<br /> マイスイートエンジェルの朝比奈さんは「歯医者さんはいかなきゃ駄目です」といわんばかりの表情で俺を見ている<br /> 古泉は「すいませんお願いします」と目が訴えている<br /> 次いで長門の判決が下される「……思い立ったが吉日」<br /></div> <br /> <div>「決まりねキョン、じゃぁみんな後はお願いね」<br /> 歯医者と決まった途端、歯の痛みは嘘のようにおさまった<br /> まぁ実際嘘なんだろうがハルヒめ現金な奴だ<br /> 上機嫌な様子をみせているハルヒに引っ張られながら俺は部室をあとにした<br /> 処刑場へ罪人を引き立てるような勢いのハルヒを見ながら<br /> やはりハルヒには笑顔が似合うと思ったのは内緒だ<br /></div> <br /> <div>お互い色々と素直になりたいもんだな<br /> やれやれ<br /></div> </div>