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http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/he13/he13_02817/index.html

http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/he13/he13_03633_0029/index.html

http://www.museum.osaka-u.ac.jp/db/ninjoji/A091/top1.html

 

これらに、名著全集の本文の句読点を参考にテキスト化しました。

http://www.let.osaka-u.ac.jp/~okajima/uwazura/meityosyare/syarebon16.pdf 

また、洒落本大成13巻の本文も見ました。

 

現状で、全体的にいい加減ですが、振り仮名は、かなりいい加減です。分けるべきを分けてなかったり逆だったり。

 

 

息子部屋

 

令子洞房叙
|京伝《きやうでん》に水破《すつは》の革《かは》の息子部屋《むすこびや》あり。是《これ》を胴乱《どうらん》にせんとすれば。|放蕩《どうらく》の|唱《となへ》にかよひ。これを|巾着《きんちやく》にせんとすれば。|彼欠債《かのきんしやく》に|音《こへ》あひ|近《ちか》し。|其《その》欠債に|労《らう》せんより。|寧《むしろ》放蕩に|遊《あそ》ばむにはと。すき〴〵しき|心《こゝろ》のすさびに。|古《ふり》し|雨夜《あまよ》の|品定《しなさだ》を|模《うつ》し。かみの品しものきざみ。|有趣人《わけしり》の|規矩《きく》につきて。とあれはかゝりあふさきるさに。あしといひよしとさだめ。よし|原女郎衆《はらぢよらうしゆ》のはりをゑらみ。|遊子《ゆうし》のあなを|穿《うがち》ぬれば。とみに一箇の|嚢入《ふくろいり》となれり。予|嚢中《のうちう》を|探《さぐつ》て|作者《さくしや》のもと|代《で》を|窺《うかゞふ》に。|意味《いみ》は|仙袂《せんべい》の|巾着《きんちやく》よりもかるく。|論《ろん》は|珊瑚樹《さんごじゆ》の巾着よりも|尊《たつと》し。|所謂《いわゆる》女郎|買《かひ》の|虎《とら》の|巻《まき》と。|傾城《けいせい》の|智恵嚢《ちゑふくろ》と也。|底《そこ》を|叩《たゝい》て|口訣《くけつ》を|説《とき》。|畳《たゝみ》を|扣《たゝい》て|口舌《くぜつ》を|弁《べん》ず。|通《つう》|計都《けいすべ》て十二|篇《へん》。|壱両二部《いちりやうにぶ》を一|巻《くはん》とし。|以《もつ》て|新吹《しんぶき》の|楠廷尉《なんていい》が|桜井《さくらゐ》の|巻《まき》に|比《ひ》して。海内《ゑどぢう》の令子《むすこ》に授《さづけ》。郭中《くはくちう》の花娘《じやうろ》に与《あたへ》よと進《すゝ》む。書肆《しよし》何《なに》がしそれを奪《うば》へるがごとく。遂《つい》にひつたくれんげの革細工《かわさいく》をなす。いんでんや此世《このよ》にうまれたる。士農工商《しのうこうしやう》。入込《いりごみ》の|遊冶郎《ゆうやらう》。|是《これ》を|佩《をび》て|廃《すて》ざる|事《こと》。|助六《すけろく》が|印籠《いんらう》のごとく|然《しか》らば。|期月《きげつ》にして|通《つう》と|成《なり》。女郎の|涙《なみだ》を|緒〆《をじめ》とし|四角《しかく》な|玉子《たまご》を|根《ね》つけとせん。|豈〓々洒落本《あにこう〳〵たるしやれぼん》の|胡麻胴乱《ごまどうらん》。|此息子部屋《このむすこべや》に|逮《をよば》んやと。|貴賤上下《きせんじやうげ》おしなめてみなかんせん|縫《ぬひ》のいとくちをしるす。
恋川すき町


自序
|革《かは》の|極品《ごくひん》なるを。ムスコビヤといひ。|女郎《ちよらう》の|革羽織《かわはをり》なるを。ミジマイベヤと云。|粧餝部屋《みじまいべや》の|仇口《あだくち》に|客《ぎやく》の|名《な》たてば。|息子隔室《むすこべや》の無多口に。女郎の|魂胆《こんたん》をはなす。|印伝《いんでん》ならぬ|京伝《きやうでん》が。|面《つら》の|皮《かは》を|製《せい》したる。|虚言《うそ》の皮を。|又名号《またなづけ》て。|無粋語歴夜《むすこべや》といへども。|素《もと》より|遣手《やりて》が|前巾着《まへきんちやく》の。|名代《みやうだい》をも|勤《つとめ》ず。むなしく箱《はこ》に久《ひさ》しきを。頻《しきり》にこふしよ堂《耕書どう》の主人《しゆじん》が。提物《さげもの》にあたふ

目録

なじみの|弁《べん》
|後朝《こうちやう》の|客《きやく》五ッの|見《み》やう
|女郎《ちよらう》五ッの見やう
|初会《しよくわい》もてたる|様子《やうす》
床《とこ》と|座敷《ざしき》との|事《こと》
わるあそびの事
|思《をも》ひ|切《きり》の事
女郎|虚実《きよじつ》を|知《しる》事
つとめの事
いろの事
|客《きやく》女郎|慎用心《つゝしみようじん》すべき事
女郎|身《み》のうへの事

作者京伝述

|馴染《なしみ》の弁
|或人問曰《あるひととふていわく》、女郎買《ちよらうかひ》は弐十|会位《くわいくらい》にすぐべからず。あまり|心《こゝろ》やすくなりては、|内證《ないせう》の|相談《さうだん》、何《なに》かのもめ|合《あい》、諸《しよ》わけ、|手《て》くだ、こんたん、りくつ、心をつかうばかりで、なぐさみはなし。しかればなじみふかゝらぬうちがあそびの|花《はな》ならんか。答曰、女郎買弐十会くらゐまではあそびのうわ水《みづ》也。そのうわ水をながし、すいひしあげたるこんたん、諸わけ、むつかしくからむか|遊《あそ》びなり。なんそうわ水をよしといふ事あらん。又問、女郎はぜんたいなぐさみにかふ|物《もの》なれば、おもしろく|興《きやう》になるこそあそびなれ。こんたん、諸わけ、心づかひがあそびとは。答曰、さればよ。|其《その》花をとるものあり。其|実《み》をとるもの|有《あり》。女郎の|虚実《きよじつ》にかまはず、|我《われ》ひとりのあそびに、|新造《しんぞう》をいくらもあげ、|芸者《げいしや》をよび、|牽頭持《たいこもち》をつれ、どつとさわひでずつとかへる。|是《これ》たのしみの花なり。かやうに花やかならずとも、|座《ざ》しきもしつかに遊び、たがひにかざる心なく、くめんごと、諸わけ、|万事《ばんじ》かたりあい、ともにたのしみ、ともにくろうする|実情《じつぜう》をたのしむ。是あそびの実なり。|此《この》ふたつは客の心にあるべき事なれども、其実をたのしむは客の心ばかりでゆかぬ事なればなりがたし。花をたのしむはどこでもなる事なれば|仕《し》やすし。|同事《をなじこと》ならは|初会《しよくはい》やうらよりなじみの|所《ところ》にてさわぐは、|家内《かない》も心やすく、ひとしほおもしろかるべし。なじみなきをあそびの花といふ事|非《ひ》ならずや。又問、|床《とこ》をこのむはやぼらしく、|座敷《ざしき》の|内《うち》があそびなりと云人有。いかゞ。答曰、是もおなじ|道理《とうり》也。座敷は遊ひの花、床はあそびの実なり。いづれあそびならさるはなし。又問、しからば其実をとらんか、其花をとらんか。答曰、花も実ともにとるにしかず。たとへば座敷のあそびは|風袋《ふうたい》也。床のあそびは|正味《しゃうみ》なり。床にて|我実情《わがじつぜう》を|見《み》せ、女郎の|誠《まこと》を|掌《たなごゝろ》に|握《にぎ》らば、座敷のあそびも|求《もとめ》ずして|面白《をもしろ》かるへし。是正味|多《おほ》ければ、風袋おのづから|重《をも》くなるがごとし。|問人《とふひと》|揖《いつし》て|去《さる》。


|後朝《こうてう》の|客《きやく》五ッの|見《み》やう
もてたる客と、ふられたる客と、|口舌《くぜつ》したる客と、あやなされたる客と、|一通《ひととほり》にあそんだる客とは、|帰《かへり》のやうすにてしるゝなり。其見やうはもてたる客は、おとろへてねむそうな|顔《かほ》にて、|物《もの》あんじ|姿《すかた》にて、|粋《すい》らし。ふられたる客は、|腹立《はらたち》そうな顔にてつかれもみへず。|茶屋《ちやや》、船宿《ふなやど》などのなんでもない事をしかりなどして、やぼらし。あやなされたる客は、何かうれしそうに、にこ〳〵して、つれか茶屋などにふつつかなはなしをしながら、やかためいて見ゆ。口舌したる客は腹は立ずして、|連《つれ》か茶や船宿などゝ、しづかに|理屈《りくつ》をいふ。|一通《ひととをり》にされたる客は、|顔色常《がんしよくつね》のごとくあまりねむそうもなく、いそひでかへる|躰《てい》也。見わくる|人《ひと》はゆびさして|評《ひやう》すべし。はづかしき事なり。もてゝも、ふられても、かけられても、口舌しても、|平気《へいき》にて有べし。平気にてゐれば、口舌しても、理屈|能《よく》わかり、もてゝもはまらず。ふられてても腹立ず、かけられてもあやなしにのらず、|四《よ》ッの|徳《とく》あり。|是身《これみ》をまつたふする|宝《たから》なり。

女郎五ッの見やう
|凡《をよそ》、女郎の|気質《きしつ》は|百人《ひやくにん》百|色《いろ》なれとも、其|大《たい》がいを|見様《みやう》あり。|見《み》世に居《いる》女郎を見るに。表《をもて》に人の名《な》をよべばきよろ〳〵し、立《たつ》てかうしより|覗《のぞ》く。|又《また》かうしへ|人来《ひときたり》、女郎の名をよべば、につこりとわらひうれしそうにうろたへて、立てひそかにはなしなどするは、ふかき|色客《いろきやく》有女郎としるべし。おもてにうた|上《じやう》るりのこゑ、あるいはこわいろ、|尺八《しやくはち》・ふへなどの|音《ね》をきひて、見世に居ながら、そとをさしのぞき〳〵見るは、地色《ぢいろ》のあるなり。又むだ口をきいて、|高《たか》わらひをし、だまつて居れば、口などをあき、|鼻《はな》をいぢつたり、そこらをかいたり、|身持《みもち》の|慎《つゝしみ》うすきやうに見へるは、とりしめて色をするにもあらず、色せぬがせぬにもたゝず、たいもなきむだ女郎なり。わらうにもすましたやうな|顔《かほ》をし、物を|言《いふ》にもつくり|声《こへ》をし、なんでもない事を|何《なに》からしくいひなし、|流《なが》し|目《め》をし、むしやうにつんとするは、見へをこのみ、しつたふりをし、其くせ|智恵《ちへ》のなひつくろいものゝうわき女郎なり。もとがこしらへもの|故《ゆへ》、きようこつに見へるものなり。あまり物もいわず、いふときは|小声《ここへ》にて、よそ見をすれば|横目《よこめ》で見、|笑《わら》うときもにつこりとした|斗《ばかり》で声をたてず、|眼《め》の|内《うち》に色をふくみ、物事たいそうになく、しつぽりとをちついて見へるは、たいていものにあらず。此女郎に実あらば、|誠《まこと》のいろにてすへをもとぐべし。かけられたらば、|身代分散《しんだいぶんさん》におよぶは|目《め》のまへなり。おそるべし〳〵

|初会《しよくわい》にもてたる|様子《やうす》
初会にて座しきへあがり、たばこぼん、|燭台《しよくだい》・盃《さかづき》・すゞりぶたなど|出《いで》て、茶や船宿などはなしして居るところへ女郎来り、客を見てすこしわらひの色をふくみ、座《ざ》になをりてかたちをとゝのへ、|酒《さけ》をもおほくのまず、客しいればこわそふにすこしわらひなから、|半《はん》ぶんものみ、たばこなどのむにも|麁相《そさう》なきやうに|諸事《しよじ》をつゝしみ、うれしさうなていあり、|笑《わら》う|時《とき》は|脇《わき》をむいてわらひ、口に|手《て》をあてなどする。客のいふ事・なす事、みなきにいりたるやうすにてわらひ、はつかしそふなていありて、くらき|方《ほう》へ顔をむけ、そばへよりたけれども何とかおもわれんと、しんしやくして見ゆるなり。是ほどなれば客の酒のむを、其やうにのみたまふななどゝとめる事あり。其時のあいさつ|先《さき》の|気《き》にあたらぬやうにすべし。|彼是《かれこれ》するうち、|床《とこ》おさまるなり。|扨《さて》床になりてもはやく来、かぶろに|行《いつ》てねよといひ、そつとはな|紙《かみ》を|出《た》させ、ちよつと座敷を|出《いで》、隣《となり》ざしきなどへ|行《ゆき》、鏡《かゞみ》にむかひ、をしろい・口べになど、心をつけて見てくる也。扨こわそうに床へ入、たばこをつけて出す。また|外《ほか》のきせるにて四五ふくものみ、客の|枕《まくら》をつけるを|待《まち》、客枕をとれば【枕へははながみあてる事なり】、女郎もはな紙《かみ》を取《とり》、まくらにあて、すこし客の|方《ほう》へよせうつむく。ねるにあらず、顔ばかりうつむひてはづかしそふなり。是は上〻の|出来《でき》なり。わが枕の|下《した》ゑりのあたりへ、ぐつと手をさしこむは、あやなすのかしらねども、こつちの物と思ふべし。

|床《とこ》と|座舗《さしき》の|事《こと》
座敷《ざしき》にてよくて、床にてあしき事あり。是は|外《ほか》になじみある事などか、またはあしき人なりなどゝつげる|者《もの》あれば、座敷にてはよくしたれども、|其訳《そのわけ》を|聞《きひ》て床にてふる事あり。ざしきにてはあしく見へても、床にてうつてかわりしやうに|能《よい》事もあり。是は|何《なん》ぞやすく見たかわるく|気《き》どつたか、きみがわるひかなれども、床になるまでに、あしからぬ|様子《やうす》のしれたるなり。|又《また》何ぞ気のもめる事があつて、座敷つきあしくとも、それがすみて、気がすみたるゆへ、床にては|能《よく》なる事もあり。又|一座《いちざ》あれば、座しきにてあしくとも、一座の女郎と|相談《さうだん》のうへ、床にてよくする事もあり。|生《うま》れついてあいそうわるき女郎にても、|至極我《しごくわが》気にいれば、|笑顔《ゑがほ》になるものなり。又女郎の気によりて、うちつけて物いふもあり。たとへば、|某《それがし》がごときものは、御気にいらぬはつなれども、せめて|今《いま》一|度《ど》御こし|下《くだ》されかしなどゝいふ事よろしきなり。しかれどもこふした女郎は、すへのほどたのみかたし。またあやなしかもしれず、|能《よく》〳〵|心《こゝろ》を|付《つけ》、あやなしならば、はやくきれて|仕廻《しま》ふべし。|先《さき》からつき出されたるは見ぐるし

|悪遊《わるあそひ》の事

|此《この》あそび、今は|世上《せしやう》にあまねし。其|行跡一様《かうせきいちやう》ならずといへども、まづは|日和下駄《ひよりげた》の|類《るい》なり。此|悪病《あくびやう》をうくる女郎は、なかく|丸裸《まるはだか》といふ|病《やまい》となる事、女郎の|難病《なんびやう》也。うらか、三度めくらいに、|夜見世《よみせ》へ|来《き》て其女郎を|呼出《よびだ》し、なれ〳〵しい|咄《はなし》などしかけ、とめられたそうなくちぶりをいふゆへ、ぎりにもあがれといわねばならず、其|所《ところ》へ|付込《つけこみ》、工面《くめん》がないの、ふところが|中《なか》の、|丁《てう》のそこは|御《ご》しんにある事などゝからんで見たり、どふぞするならあがらうなどゝ、あつかましく|仕《し》かけられ、ぜひにおよばず、そのばんは女郎の|損《そん》となり、|平《ひら》の|色《いろ》に|仕《し》かけて、|口先《くちさき》ではまらせ、のつ引ならぬ無心をいゝかけ、むりにこつちから|色《いろ》事にこぢ付て|引《ひき》たをすなど、|情《なさけ》の、|恋《こい》の、といふさたにあらず。又|茶《ちや》やの|男《をとこ》、船宿《ふなやど》、又は|友達《ともたち》なぞにたのみて、いひこんでもらい、むりに色客にこしらへてあがり、こすく|斗立《ばかりたち》まはり、物いらずにあそび、たま〳〵物まへなどに、わつかな事でもそうだんしかければ、さま〴〵にからんでにけたがり、ぜひやらねばならぬやうになると、色を物どりにするの、|慾心《よくしん》女郎のと、なんくせをつけて、それぎりでおさらば。其うへあの女郎をば、とんだやすくかつたなどゝ、|払物《はらいもの》でも|買《かつ》たやうに、|手柄《てがら》そうに、|我恥《わがはち》をふれあるく。|人情《にんじやう》をしらぬといへば人らしけれども、つらの|皮《かわ》あつき|獣《けだもの》なり。中にはどふもくめんも出来ず、友達|中《ぢう》をかりあつめて、|紋所《もんところ》の|黒《くろ》つむきの|小袖《こそで》、すりこ|木程《ぎほど》な|袖口、繩《そでくちなわ》のやうな|縞《しま》なゝこの|帯《をび》、すこしは|綿《わた》もちらつくを|内《うち》の|方《ほう》へ|廻《まは》し、|黄色《きいろ》でこそあれ、|緋縮緬《ひぢりめん》の|繻伴《じゆはん》、毛《け》はなしとも|黒天驚絨《くろひらうど》の|半《はん》ゑり、|赤《あか》くなつても其むかしは黒ちりめんの|頭巾《づきん》、あたらしい物にははゞの|広《ひろ》ひ日和下駄、やう〳〵|形《なり》は出来ても、|嚢中《のうちう》をのつから|銭《せに》なし。ぜひにをよはず繻伴と頭巾をぬぎ捨てもたらず、友達の母、近所の女房などをなげき、布子|帯《をび》などをかり|出《た》し、やう〳〵こしらへて|行《ゆく》など、はかなき|遊《あそ》ひと|言《いひ》ながら、女郎をはぎさへせねば、|哀《あはれ》なる|方《ほう》もあれども、かやうの|身《み》のうへの|者《もの》に、女郎をたをさぬはまれなり。にくむべし。くわしく|云《いひ》たけれども、|筆《ふで》とるもうるさければ、あらましにてやめぬ。

|思《をも》ひ|切《きり》の事
或人問曰、|四代《よだい》めの|高尾《たかを》が|詞《ことば》に、|此里《このさと》へきたらぬものこそ|粋《すい》なるべし、|来《きた》るはみなやぼなりといひたるよし、|当世《とうせい》の|通者《とほりもの》といわるゝ人《ひと》の、新造《しんぞう》かいてむだにしやれるは、よく此|詞《ことば》にかなへり。|奥州《をうしう》がてうちんに、てれんいつわりなしとひらがなにて|書《かゝ》せしも、客におもひつかせん|為《ため》なるべし。さすれば、けいせいにまことなきに|極《きわま》りたり。答曰、けいせいの一代にあふ客、|何千人《なんぜんにん》といふ数《かづ》の内《うち》、実《じつ》にほれるは十人か、弐十人なり。其内にもうわ気も|有《あり》、男《をとこ》の|方《はう》からだますもあり、|縁《ゑん》のないもあり、真実《しんじつ》に一生《いつしやう》の身《み》の上《うヘ》をまかす所は、壱人にとゞまる。その外の何千人に、ぬしの所へいきいすよは、みなうそなり。|爰《こゝ》にてけいせいにまことなしといふ事、|至極尤《しごくもつとも》なり。おゝくの|中《なか》にて、一人に|誠《まこと》あるを|以《もつ》て、けいせいに|誠《まこと》ありとはいひがたし。しかれ共、誠をつくす|時《とき》に|至《いた》つては、|娘子《むすめこ》とも、けいしやなどの色をするとちがひ、めつたに|脇《わき》へはふれず、其|代《かはり》に実とおもつてだまされる事、またげいしやや|地女《ちをんな》よりあやうし。是をいやがりて、女郎をこのまず、地女をうれしがる|色師《いろし》は、|町人《てうにん》の|商《あきない》をきらいて、|盗《ねすみ》するを|好《このむ》と|同《をな》じ事なり。もとでをそんをせんとあぶながり、|只取《たゞとり》の|算用《さんよう》なり。かく|云《い》へばとて、女郎に誠ある事をよく|知《し》りても、|安堵《あんど》するはゆだんなり。我に実有女郎と思はゞ、なを〳〵心を付て、色の出来ぬやうに|用心《ようじん》すべし。|右《みぎ》も、|左《ひだり》も、色の|中《なか》なれば、我に実あれば、外へ心はうつさぬものといふ、たしかな|證文《せうもん》もなし。年久しく|馴染《なしみ》たるうへは、かくべつ、さもなきうち、しばらくも|遠《とふ》さかれは、其内に|了簡《りやうけん》のかわる事有ものなり。又問、女郎のほれるは、いかやうなる所へほれる物にや。答曰、まつ|初会《しよくわい》にあがり、うらに|行《ゆき》、三|度《ど》めにも行、女郎もずいぶんよくつとめ、|段〻《だん〳〵》なじみがかさなるにしたがい、そばからきまつたの、ほれたのといわれ、もとがあまりいやでもない客ゆへ、つい本《ほん》にほれたやうな気に成《なり》、段〻《たん〳〵》と馴染はかさなる。わきからは何のかのといひ立られ、しばらくあわぬとよびたいやうな気に成もの也。そこを|久《ひさ》しくゆかねば、|真実《しんじつ》ほれぬいたといふではなし。いつか其やうにもおもわぬうち、又外にそんな物が|出来《でき》、もはや|初手《しよて》のはわすれてしまい、いやに成物ぞかし。いきな人じやの、男がよひの、すいたのとて、ほれるはうわ気にて、中〳〵すへはとげず、見へがよいの、|金《かね》があるのとて、ほれるは、|慾心《よくしん》なり。ほれたにはあらす。この女郎は、|年《とし》より、|出家《しゆつけ》、あさぎうらなどをすく物なり。名の高ひ|人《ひと》じやの、|通《とふ》り|者《もの》じやのとて、ほれるは、|名聞《みやうもん》なり。いづれもすへたのみがたきほれやうなり。すべて、はやくほれるははやくさめるはじめなり。|貨《たから》さかつて入るものは、またさかつて出《いづ》る道理《どうり》、しるべし。いつれ此方《このほう》に実なくては、女郎にも実はないと思ふべし。又問、しからば、此方よりほれた|躰《てい》にもてなし、実らしくするが|粋《すい》なるべしや。答曰、粋といふは、そふした物にあらず。女郎のかくす事を知《し》りても、しらぬていにてすまし、女郎に不実な事あれば、さつぱりときれ、わけの立た事は、何もいわずにをんくわにして、此方の実をもつて、女郎の実を|得《う》る。|天然自然《てんねんしぜん》の|徳《とく》あるを粋とはいふなり。女郎のあなをいひ、ほれもせぬにほれたふりをし、口さきおもしろく、女郎をはまらせるをすいとはいわず。女郎も|同《をな》じ事にて、だますばかりが女郎にもあらず。もとより|情《なさけ》を|売物《うりもの》にする身なれば、うそもいわねばならぬはしれた事ながら、うそもうそによるべきなり。すかぬと思ふ客にてもよくあいしらい。おもしろくあそばするか|商売《しやうにい》なれば、にくいとおもふてもかわいそふな身ぶりをし、そつちへのけといひたい|口《くち》から、こつちをむきなんしといひ、よこつらをくらわせたい手《て》でたき付は尤《もつとも》なうそなり。此|虚《うそ》はうそにてうそにあらず。勤《つとめ》の|道《みち》をまもるのなり。かくつとめるも何の|為《ため》ぞ。世渡りの為なれば、物日を|仕廻《しま》わせ、物まへのそうだん、ねだり|言《こと》、客の|身分《みぶん》により、|相応《そうをう》〳〵のことは有うちなれども、あいたる|時《とき》には|弁《べん》にまかせてかけのめし、|帰《かへ》つた|跡《あと》では、あいつが人の気もしらずに、こんな事をいふの、あんな事をきくとくやしいのと、わるくいひ、しかも|地色《ぢいろ》の|仕《し》きせをする|金迄《かねまで》をひつたくる。いかにつとめのならいなればとて、あんまりにくいしかた。|天道《てんとう》ゆるし給わんや。かやうなる不実の心なきものならば、たとへ|岡場所《をかばしよ》端《はし》〳〵の女郎なりとも、高尾薄雲《たかをうすくも》が下《した》に出べからず。いかなる|全盛《ぜんせい》の|太夫《たいふ》なりとも、どうよくな実なし女郎は、うその|皮《かは》はぐゑつたの女房となすべきなり。女郎をさへ其不実をにくむ、いわんや客の身として、ほれぬ女郎にほれたふりをして、つとめを出させ、むしんをいゝ、口さきで一ぱいくわせ、しまいはたゝきばなしにするなどゝは、あんまり|情《なさけ》ないやつなり。しかし客にどうぽうあれば、女郎に|追剥《をいはぎ》あり。|罪《つみ》は|五分《こぶ》〳〵と云べし。|凡《をよそ》客の|心得《こゝろへ》、女郎にほれたらば、実をつくし、ほれずははやくやめてほれた所へ行べし。いか|程《ほど》実らしくほれたふりをしたればとて、うそはすへにあらわれぬ事なし。ほれた|共《とも》ほれぬとも、我生の通りにして、それで気の|合《あふ》女郎にあふべし。我|持《もち》まへで、そりの合ぬ女郎ならば、やめにして|脇《わき》へ行に|手間《てま》もいらず。女郎も、我も、|互《たがい》に気が合実があらば、|勤《つとめ》の身なればとて、|恋《こい》も情も有べし。是|天《てん》の|道理《どうり》、荘子《そうじ》が|所謂《いわゆる》造物者《ぞうぶつしや》のあたふるなり。女郎いかほどよくするとも、|折《をり》〳〵心を付て見べし。実じや〳〵と思ふ内、いつかぽんとしためにあをふもしれず。何ぞ心にすまぬ事ありて、一通りりくつをいひ、女郎の方よりいゝわけなどして、|訳《わけ》とくしんしたらば、はやくきげんをなをすべし。|一旦腹立《いつたんはらたち》にてきれてしまふはそゝうなり。腹立たらば、まつ心をしづめ、とつくりと|考《かんがへ》て、いよ〳〵心すまずは、其時にきれべし。きれるからはいかやうな事ありとも、|立《たち》かへるべからず。いかほどほれたりとも。女郎に実がなくはむだなり。其女郎ばかり、女郎にもあらず、気のすむ所へなじむべし。しかし、きれ|文《ふみ》をおくるは|大事《だいじ》なり。よくかんがへ|了簡《りやうけん》きはめたうへにてやるべし。きれ文やるからは、いかやうな事にても、ふりむきもせぬが思ひ|切《きり》の|第《だい》一なり。きれ文やつたら、あやまるであらうと思ひの外、女郎はあやまりもせず行たくてもしほがなし。をしい事をした、とくやしがる|遊人《ゆうじん》の|鼻毛《はなげ》の|寸尺《すんしやく》、いまだしらず。

女郎の|虚実《きよじつ》を|知《し》る事
女郎の虚実をしらんとならば、まづ其|所帯《しよたい》をしるべし。座敷|不相応《ふさうわう》に|夜具《やぐ》あしきか、|禿《かふろ》見ぐるしきか、或は|年《とし》たけたるか、|衣裳《いしゃう》とゝのはざるか、又はうわ気に見ゆるか、|地色《ぢいろ》のあるやうすか、ふかひ客があるか、此るいはあやなす事|多《おほ》し。うそか誠かを|知《し》るは、まづ|床《とこ》にてあいたる|後《のち》、はやく|鼻紙《はながみ》を|取《とる》はうそなり。しかし、|若取《もしとり》はづしたる時は、客の心をかねて|手廻《てまは》しをする事も有。是は女郎の|気質《きしつ》による也。又あつて|仕廻《しま》うと、おふあついなどゝて、うしろをむき、あるいはぢきにたばこをのみ、又はさつそく|小用《しやうよう》などに行はうそなり。ぢき|立《たち》もせず、はつかしそふなるは実なり。小用に行ておそくくるはうそなり。|横《よこ》に行ておそき事も有。心付べし。口にまかせてほれたといふは|皆《みな》うそ也。実にあふ女郎は、ことばに|花《はな》はさかせねども、此方に思はぬ事にも心付。しぜんとふびんの|情《じやう》あらわれ、さま〳〵の心|遣《つか》ひして、かへしたる|跡《あと》にては物をおとしたやうに、うつかりとなり、|昼《ひる》見世をわすれて、にわかやまいなどをおこし、やりてにうたがはれん事をおそれて、いたくもないあたまに|鉢巻《はちまき》をし、|翌日《よくじつ》迄の気あつかいもぬしゆへなればと、|苦労《くらう》はかへつてたのしみとし、|傍輩《ほうばい》にもしのびて、|跡《あと》や|先《さき》に成たる文をかいて、|半切《はんきり》の|一巻《ひとまき》もつかひ、かへす〴〵とかいてもたらいで、おつて|書《かき》をかき、それでもたらぬゆへ、書|添《そへ》をする。あけて見れば、みなをなじ事なり。きのふのうれしさ、よいからのくたびれ、心はもだ〳〵、いひたい事はやま〳〵、人めはつゝむ、気はてん〳〵するゆへ、かんじんの事はおとして、やくにもたゝぬ|同《をな》じ事をいくらもかくものなり。是は実なり。又わが座敷へ女郎|多《をほ》くあつまり、てん〳〵の色客のはなしをするはよし。一|通《とをり》のはなし|斗《ばかり》して|居《い》るはよいにもあらず。これにはいかふわけあり。又|夜見世《よみせ》の|出《で》ばなに|格子《かうし》よりそつとのぞき、見世におらば、つれに我名をよばせて見べし。其時|急《きう》に立て、さはぎまはるは実なり。少しもいそぐけしきなく、ふせう〳〵に立て、あたりを見るは、いかほど座敷や床にてよきとても、にせものなり。つれもなくは、|自身格子《じしんかうし》より其女郎の名《な》をよびて見べし。実なれば、につこりとしうれしそふに、とる物も取《とり》あへず立《たつ》て内へ入り、ぞうりも片《かた》あわせにはいて、客そとにをれば早〻かけ出、|御無事《ごぶじ》かいかゞと|問《とい》、客をば|我座《わが》敷へいれ、其身は外の座敷へ行て、|鏡《かゞみ》を出し、|白粉《をしろい》をぬるやら、ふくやら、べにを付る、ゑもんをなをす、|気違《きちが》ひのやうになり、人のいふ事も|耳《みゝ》にいらず、とんだあいさつなどして、いそがしそふに座敷へ|来《きた》り、たばこ|入《いれ》も、|鼻紙《はながみ》もわすれ、今思ひ出したやうに、|禿《かふろ》をよび、見せより取よせ、すわりはすわつたが、なぜか人が居ては、はなしがないやうにして居る、|皆《みな》実なり。心をとめてあいとぐべし。さりながら、女郎の気により、是程にしても、又外へうつるやうなうわ気もあり。あてにならぬは|此里《このさと》ぞかし。心こゝにあらざれば、くらきにまよふ|恋《こい》の|闇《やみ》、これで闇ならしやうことがない。

つとめの事

ふかくなじみたる女郎に、ふぐ|汁《じる》、葱《ねぎ》、あさつきなどすゝむれば、女郎も心よくくふを、客うれしそふにうち|笑《わら》ひ、我にへだてる心なきゆへと、うちとけて、ふたりが|床《とこ》のかねごとを、友だちなどにはなしてよろこふなどこけらし。此女郎は何の気もなく、只はしたなくくいたるおかし。又かねごとなどさういして、さもなき方へ実をつくし、つい其方へ二世かけたるを、はらたちいかる時のありさま、ばからし、かんざしに客の紋《もん》を付たるを何本《なんぼん》もこしらへ置《をき》、客によりて紋所《もんどころ》ちがうも、是皆世渡りなれば、もつともな事なり。しかしすべて女郎のことばに、客のはなしを|聞《きい》て、そりやほんにかへといふ|程《ほど》つまらぬあいさつはなし。いつても客はうそをつく物と|心得《こゝろへ》たるもおかし。つまる所、|女房《にやうほう》にして見ぬうちは、たがいにいつ迄ろんじても、うたがいははれまじ。又女房にする気もなく、とうざのなぐさみにかふ客は、なをさら、いゝかげんにうたぐつておくべし。

|色《いろ》の事
あわでやみにしうさをおもひ、あだなるちぎりをかこち、|夜《よ》をひとりあかし、とをき|雲井《くもゐ》を思ひやり、あさぢが|宿《やど》にむかしをしのぶこそ、色このむとはいわめ、とあれど、あはでやみにし心ほどうき事はあらじ。|春《はる》の夜の|夢《ゆめ》ばかりなるもながくおぼへ、おなじ|里《さと》にちかくすまひても、しばしたよりきかざれば、とをきくもゐの|心地《こゝち》こそせめ。あいぢやくの|道《みち》、其|根《ね》ふかく、|源《みなもと》とをし、|六塵《ろくちん》の|楽欲多《ぎやうよくをゝ》しといへども、|皆厭離《みなゑんり》しつべし。その|中《なか》にたゞかのまよひのひとつこそ、座敷|持《もち》も、|部屋《へや》持も、|廻《まは》り女郎も、|新造《しんぞう》もかわる事なし。はじめはたがいにしのんでの事なれば、|内證《ないせう》のしゆび、|傍輩《ほうばい》の|手《て》まへ迄つくろいしが、色は|分別《ふんべつ》の外といふ事が、身にしみ〴〵と|聞《きエ》おぼへ、|孝行《かう〳〵》のために身をうりし|親《おや》の事も、|世話《せわ》にして|貰《もら》ふてかたじけないと思ふたなじみの客も、|恥《はち》も、人めも、きこへも、おもわれず、あんまりよい|男《をとこ》とも思はなんたが、なぜこんな心になつたやらとおもひながらも、思ひきられず。わすれんと思へばおもふほど、おもひ出し、どふも思ひなをされぬものなり。そこをおもひなをすは、もとがあんまりほれぬのなるべし。思ひ|切《きつ》たる|後《のち》は、ふたゝびいろをせぬこそ、誠に女郎一|疋《ひき》なり。はじめはふかくおもひても、ついとをざかれば、さるものは|日〻《ひ〴〵》にうとく、|昔《むかし》の|貞女《ていじよ》は今のたわけと思ふが|当世《とうせい》、女郎の十人並の心なり。心やすひからおこり、つい手がさわり、足が障り、はじめきたないやうに思ひし|顔《かほ》も、見れば見るほど、すいたやうで、其男のわるひくせ迄よく思はれ、|無心《むしん》いわるれば、けつくうれしいやうな気に成り、くめんして、はだかになるをしらぬは、|傾城《けいせい》の気しやう、それをそまつにする客は、ばちがあたるべし。又客をわるひと思ひて見れば、見るほどいやに|成物《なるもの》なれども、|色《いろ》といふ|名《な》がつけば、はじめいやと思ふても、色といふ名にひかされて、ついいやでもなくなるものなり。女郎の口さきでほれて、|心《こゝろ》で|舌《した》を|出《だ》して|居《い》るをばしらず、実になつてかよふ客を、すこしはむごいともおもひそうな物なり。それを思はぬ女郎は、とても|行末《ゆくすへ》よかるまじ。さりながら、|両親《りやうしん》は|下《した》に居る。二|階《かい》で|出合《であい》、屋根舟《やねふね》で色をし、|親《をや》をば|柄《とも》へ出して、|竈《かまど》の|番《ばん》をさせ、|飯焚同然《めしたきどうぜん》におもひ、しかり廻して、|不孝《ふかう》するとも思はぬ|床芸者《とこけいしや》、踊子《おどりこ》などからくらぶれば、|傾城《けいせい》ほど、まこと有ものはあらじ、とおもへとも、色をも、香をも、しる人ぞしるなるべし。


|慎《つゝしみ》の事
客の慎べき事、|名代《みやうたい》とりてはら立はむりなり。女郎の|仕方《しかた》によるべし。もらひかけたる女郎をやらぬはわるし。きれて又、つれか、|茶《ちや》や、|船宿《ふなやと》などをたのみ、手をいれて立かへるまじき事。|同《をな》じ|家《いヘ》の女郎と色ぐるいせまじきなり。我気にぬけめがなくとも、顔へいだすべからず。かほはやぼらしく見せておくべし。我あいかたの女郎とちわするはやぼらし。|新造《しんぞう》・やりて・|廻方《まはしかた》・禿《かふろ》などを、|詞《ことば》きたなくいふはやすし。ゑもんをつくろい、|帯《をび》をなをし、あせ|手拭《てぬぐい》などをゑりにまくはいやみなり。せいたいをぬり、をしろいをつけ、つくり|声《こへ》して物いふは、ばか〳〵し。|髪《かみ》・さかやきはせずとも、身にあかを|付《つけ》べからず。|髭爪《ひげつめ》のびたるはきたなし。身のうへ・|身代《しんだい》・諸芸《しよげい》・衣類《いるい》・男ぶり・|自慢顔《じまんかほ》なるはむねわるし。ぢんぢやうふるは|初心《しよしん》らし。心にもなきすへのやくそくすべからず。|外《ほか》の座敷のうた上るり、|三味線《さみせん》などそしるべからず。よくねたる女郎をおこすべからず。初会にふられてはら立べからず。女郎のたんすの中などあけて見まじきなり。名代の女郎に手を出す事なかれ。|横《よこ》に|来《き》たる女郎、|久《ひさ》しくとめておくは心なし。客をせくは心せまし。|金銀《きん〴〵》の|約束《やくそく》まちがはぬやうにすべし。はじめより我身のうへをあかす事、|当世《とうせい》の女郎|買多《かいをゝ》くする事なり。よろしからず。女郎のおさな名はやくとふべからず。|長居《ながい》つゝけすべからず。女郎の|慎《つゝしむ》べき事。|第《たい》一|地《ぢ》色すべからず。げいしや・たいこもち・茶屋の男などゝあまり心やすくすべからず。うたがいうけるたねなり。色になづみ、客をそまつにすべからず。色にかまけ気のもめるにまかせ、髪かたちとりみだす事たしなむべし。腹の立時、すかぬ客、|科《とが》もなひ|新造《しんぞう》、禿などにあたるべからず。はしたなし。禿の|行義詞《きやうぎことば》いやしからぬやうに|仕付《しつけ》べし。我新造の人がら、禿の行義にて、|姉《あね》女郎の身もちまでしるゝ物なり。髪を|切《きり》、起請《きしやう》をかき、|爪《つめ》ははなすとも、ゆびを切、ほり物はせまじき事、一|生《しやう》の|疵《きづ》なり。ほり物はたとへやきけしたりとも、あとはきへがたし。わかいものゑこひいきすべからず。むり|酒《さけ》・ひや酒・きまゝ酒、第一身の|毒《どく》なり。|茶碗《ちやわん》ざけのむ事、客の気によりてあいそうのつきる事もあるべし。はづかしからずとも、はづかしきていをするは、|女《をんな》の|情《しやう》なり。|大口《おおぐち》などきくはさがなし。すそ|高《たか》くまくりてあるくべからず。客のまへにて、|耳《みゝ》こすりすべからず。女郎の気によりて、なじみもなき客の見る所にて、外の客へやる文をかく事あり。よからぬ事なり。客の|紙入《かみいれ》、ことわりなしにあける事慎べし。
女郎の用心すべき事。|初会《しよくわい》よりふかくほれたやうな事をいふ客。はじめより我身の上あしきといふ客、初会にくらうそうな|顔色《がんしよく》、又は|至極《しごく》色あしき客、女郎をはやく|寐入《ねいら》らせたがる客、|口先《くちさき》の至極おもしろき客、女郎のお|所帯《しよたい》のあしきかよきかをしりたがる客。客の用心すべき事。口へ出してほれたような事をいふ女郎。|宵《よい》から女郎のぞわ〳〵する|夜《よ》。|度〻《たひ〳〵》座敷をあける女郎。|内《うち》のこしもと、あるひは茶やの女、|若《わか》ひものなどゝ耳こすりする女郎、|裏《うら》茶屋と心やすひ女郎、男げいしやをよばせたがる女郎、|小用《せうよう》に行ておそく|来《く》る女郎、はものを|手《て》ちかくへ置《をく》女郎。

女郎の身のうへ
花は|桜木《さくらぎ》、人は|武士《ぶし》、なぜけいせいにきらわるゝ。其行義たゞしきを、このまぬ情を|云《いひ》たる|付合《つけあい》の|句《く》なり。女郎の身うへほどあわれにおかしき物はあらじ。|朝《あさ》夕のめしに物のいらぬばかり、その外は|世帯《せたい》もちにかわらず、それさへ、あふらげ、なすびづけ、そば|切《きり》なんど、座敷持、|部屋《へや》持も、|襖障子《ふすませうじ》のはりかへ、|畳《たゝみ》がへ、部屋座敷の代の|算用《さんよう》迄、いつれか身のあぶらならざるはなし。もとより|手道具《てとうぐ》・調度《てうど》はいふに及ばす、あぶら・もとゆひ・べに・おしろい・くし・かうがいも、さすがまがいはにげなし・|折《をり》〳〵時〳〵の小袖も、同じものきては、中の|町《てう》いぶせく、夜見世もつらきものから、禿つかへば|子《こ》もちのごとく、はながみ・たばこは、いもと女郎のまで、|重荷《をもに》にこづけとやいわん。まわり女郎や、|新造《しんぞう》に、いかい事、部屋ばいりさるゝも、|来《く》るなとはいわれず、心よくよべば、りくつのきつうちがう事なり。帯や、|上着《うはぎ》をかりらるゝも、ならぬどさすがいひにくし。大事にでもきればよいに、と|小言《こごと》いふさへ|小声《ここへ》なり。ちやうちん・ながへのはりかへ・こま|下駄《げた》・上草履《うはぞうり》まで、よくはやくわるくなるもうるさし。茶すみ・らうそくのかんりやくのならぬもぜひなきならい、茶屋のつけ|金《かね》・船宿・わかい|者《もの》・やりて・お|針《はり》・かふろ・かみゆひまで、|折《をり》にふれての心づけ、|衣《ころも》の|奉加《ほうが》はまだしも、|上《じやう》るり|太夫《たいふ》の会のすり物も、つらやくにもらうはうし、とおもひきや、|親方《をやかた》の|祝《いわ》ひ事、あるひは|法事《ほうじ》のそなへ物も、まさかすてゝもおかれず。|女衒《ぜげん》がゆすりは、しめ木にかけらるゝおもひこそせめ、ことに|親里《をやざと》のかなしきたより、きけばひとしほつらさもまさり、むかふの人とよぶこどり、禿がつかひのやりくりも、あわたゞし。やう〳〵客がひとりついたと思へば、うろたへたら、はがれそうなと、ゆだんせぬもくるしきぞかし。わけて|紋日《もんひ》のうきかづ、ゆどふふの|胸《むね》にこたへる|晦日《みそか》〳〵のかつかさなりて、大つもごりのちやうちんは、むねをこがすほのほとや見ん。たのみし客のくめんさへ、まちがいの文見ては、|流《ながれ》に|楫《かち》をたへたるおもひなるべし。いかにそや、胸つぶるゝ身のうへかな、と|未練《みれん》がおこると、はまるが|一時《いちどき》、人間万事《にんげんばんじ》中用《ちうよう》にしかず。