貴札恭拜見仕申候 殊に煎海老一籠濱燒二枚御意に掛られ毎度御心入之段淺からず奉存候 内々は祇園かけて涼みに御上りなさるべく由相待申候處に おはつ縁付相極まり目出度存候 殊に先様手前者珍重に候 さりながら問屋は大かた身體おちつかぬものに候 此上ながらよく〳〵御聞あはせなされつかはさるべく候

家藏の壁けんぷの不斷着世間をもつばらにして振舞好つくり庭鞠楊弓連俳藝のふに名をとる人世の聞はよくて内證あしき物に候 左樣の人京にもあまた御座候 兔角聟はふそくにおもふ程成が勝手によく候 其子細は年中つけとゞけ先樣よりりつはを好み鏡の餅に平樽鰤一本祝儀を取集めてつゐ小男に一荷にしておくりければ半紙一折錢三十包みてとらせ遠い所を太義茶呑でいねといふて濟事に御座候を 一番男の六尺揃て絹物きせたる腰元に祝義の目録高蒔繪の長文箱に入唐房の色をかざりて持せ是につけて置綿きたる中居女にロ上いはせしき〳〵に仕掛ぬればつまみ錢にてはやられず腰元に銀子一兩小杉一束女に銀三匁うねたび一足男どもに銀二匁づつ出して取つくつろふて吸物よ酒よ肴よと書出し時分いそがしき中に商賣のじやまといひ外聞ばかりに物入此ごとくの取やりは千貫目より上越慥成身體の人のする事を一拍子違へば手扣いて仕舞わづか五十貫目七拾目の小商人の我をしらぬ奢とぞんじ候かならす母親あとさきなしに人目ばかりおもぴて手前のしつつゐをかまはす棟の高き家の聟自慢して買調へて年中の遣ひ物目に見ずして大き成費に罷成候


他人のロからは申されぬ事只今迄のおはつそたてやう我等ひとつも氣に入不申何の町人の入らざる琴小舞踊までをならはせかぶき者のやうに御仕立わけもなき事に存候 我〳〵づれが娘はさながら下子はたら書そさせまじ似合たる手業眞綿つませ糸屑成ともひねらせ置けば見分はよくて世帯のために成申候 今程は爰元の新在家衆さへ庭の片隅に下機を立られ両替町に諸職人に借家出來申事むかしはない事なれども算用づくにて皆〳〵住ひを替られ内義の花見月見にも大乘物をやめて共用の時ばがり辻駕籠をかりてこどりまはしにして出られしも時代にて見よく候 承り申候へばおはつ事四人揃へ紋付ひとへ物きせて外はつねにて内を金砂子に草花書し駕籠に時〳〵の仕出し衣裳ひけらかし天王寺の櫻住吉の汐干高津の涼み舍利寺參り毎日の芝居見さりとは無用に存候 爰元に鷲衣の棚にひとり娘を自慢して人の見歸るをよろこび歴〳〵の身體をつぶし申候 是母親心からに候

此たび買物の注文見あはせ我等同心に存ぜす候 先もつてけつかう過候 貝桶にわたりの純子蓋無用に候 奉公雛も御望みの通りには二百七十目に出來申候 其外手道具時代物いらぬ事に候 娌入は新しき紋付よく候 扠また鹿子の色〳〵十二までは無用に存候 迚も着申物にはあらず數を揃へて持たといふ分に候 是も本國寺手木の下のつや鹿子は十二の内にて六百四五十目の違ひ有是によつて私才覺いたしさる御かたの御息女御死去なされ共あがり物を調へ遣はし申候 結句かみのかたひ物に候 人はしらぬ事お寺は此方次第にて心やすく求め申候 此外は其元お内儀よこれぬ上着ども黒紅に御所車の縫箔の小袖所わきのさいわひ菱の袷地なしの綸子小袖これらを皆〳〵脇明て物數にいたさるべし袖下のみじかきを誰吟味するものなく候 我等かやうに始末心を申事定めてお内儀御ふそくにおぼしめし候はんづれども我等も姪が事なればあしかれと存ずる事にあらす候 今度買物の銀子取替申すに付迷惑さに申には神ぞ〳〵御座なく候 小よる小ぶとんふた通りは此方より仕立とらせ申候

私の思案に落付申さす候は先樣より敷銀かつて望みなく萬事拵へきれいと申候を合點まゐらず候 尤銀をこのみ申候はよろしからぬ事ながら今の世の風義に御座候 それも又女は形に寄て物好に男のかたよりこしらへしてよぶも御座候へど是は各別に候 わたくし姪ながらさのみ生れ付よいともいはれず然も片足ふそくあつてよほど目に立申候を敷銀なしに親仁の心入たのもしきを親類に成を滿足と申はいよ〳〵同心に存ぜす候 貴樣に金銀こそなけれ三ヶ所の家屋數只今では七拾貫目餘が物なれば何ぞ請取事して其請人に立申心ざし見るやうに候 つね〴〵其心得なされべく候 もはや頼みを御取なされ候上はいやがならす候 隨分仕立おくり申されべく候 私は左樣のよい衆づきあひ嫌ひに御座候 はじめからさし出申まじく候 いづれとも近日罷くだり可申上候 以上 六月廿一日 兵庫屋平九郎 兵庫屋平右衞門様 尊報

此文の子細を砦見るに京へ縁組の買物を申遣はしける此娘がためには伯父かたへと見えたわり此者の申ごとく一代に一度の大事念を入れて後約束申べき事ぞかし今程世間に見せかけのはやる事はなし面むき内證の十露盤入れてからは大かた三五の十八