唐詩選解
[野望]野外へ出てそこらを望み見て作る。王績は隋の末の者で、乱世のことゆへ、より処もないやうすを云ふ。[王績]
[東皐薄暮望 徙倚欲何依]東皐は王績がことを東皐子と云たことがあれども、ここでは、は東方のをか山と云になる。
暮方只ひとり東方のをか山へきて人家もない野外をのぞみより処もなく徙倚は、徘徊の貌で、ぶらりとしていること。上の句をうけて欲何依の三字字眼目なり。
[樹樹皆秋色 山山惟落暉]常さへものさびしい野原なるに、山々は秋の気色を催し夕ふ日かげの体もあわれに思はるる遠を望むを云
[牧人駆犢返 猟馬帯禽帰]近を見れば、くれ合になるゆに、こかいの牛を先立てて返もあり。猟人は、馬のくらにけだものをくくり付て帰る。近付てもなければ頼みにもならぬ。
[相顧無相識 長歌懐采薇]どこを見ても相識《ちかづき》もなければ、誰をあいてに語るものもない。このやうに便りなくなるものがなと此の詩を作り長歌するについて、古へ伯夷が無道を悲んで采薇の詩を歌ふたと同じことぢゃと云うて言外に乱世をかなしむことが知れる。。
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