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呉文聡「八つ山羊」」(2016/10/18 (火) 21:09:18) の最新版変更点

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<p> むかしむかし八ッ子をもちし|牝山羊《めやぎ》ありけり、ある日|市街《まち》に行《ゆ》かんとして子どもらにむかひ、るすのうちはかたく戸をとぢて、たれがきたるともかならずあくることなかれ、皆々《みな〳〵》おとなしくるすせよ、みやげには、|旨《うま》き|物《もの》をたくさんかふてきて、あたへんとねんごろにいひおゐていでゆきぬ。<br /> ちかき山にすみける|狼獲《おおかみ》物《ゑもの》をあさるをりから、牝山羊のまちに行《ゆ》くを見《み》るより、とびかかりて|食《くら》はんとおもひしが、ここにてこの|母羊《おや》を食はんより、そのるすにゆきて、こどもらをくらふが、うまからんとおもひ、すぐそのいへにいたり戸をたたけば、うちより、どなたととふ、おほかみはぬからぬ顔《かほ》にてをばさんだよとこたふ、子山羊《こやぎ》どもはそんなポーッといふ声《こゑ》のをばさんは私《わたくし》どものうちにはないよととりあはねば、こはしそこなふたりと、狼は|薬種屋《くすりや》へゆき、声のよくなるくすりをのみ、また山羊の家《いへ》にいたり、おとなへば、うちより|誰《どなた》といふ、をばさんだよ、ここあけてといへば子山羊どもはこゑはよくにているがと、戸のすきより、のぞきて、そんなくろい足《あし》のをばさんはないよといはれて、狼はまたしまつたりと、こんどはペンキ屋へゆき足のさきを白くぬりきたり、はゝの|声色《こはいろ》をつかひ、|善物《よきもの》をたくさん|買《かふ》てきたから、はやく戸《と》をおあけと|云《い》ひければ、子山羊《こやぎ》どもはこゑといひ戸《と》のすきよりみゆるあしといひ、はゝによくにたればうれしくおもひ、はゝさまおかへりかと、戸《と》をあくるやいなや、狼はしすましたりととびかゝり、かたはしよりくらひころしける、そのうち一疋の子は|暖炉《ストーブ》の|蔭《かげ》にかくれゐたりしゆゑ、狼は七疋をくらひつくして、うらぐちよりいでゆきぬ。<br /> やがてはゝおやはかへりきたり、みれば子山羊は一疋もをらず、ざしきもサン〴〵にあらしてあれば、アゝあれほどいひつけおきしに母のいふことをきかぬゆゑ、大変《たいへん》なことがおこりしと、ひとりごちつゝ、火をたきつくれば、ストーブのうしろにて、おつかさんけむいよ〳〵、といふ声のしければ、母ははなはだよろこび、るすちうのことをたづぬるに、しか〴〵とこたふれば、さらばわがこの|敵《かたき》を討《う》ち果《はた》すべし、いまだとほくはゆくまじと、|針仕事《しごと》の|文庫《ぶんこ》を|抱《かゝ》へつゝ、親子《おやこ》もろとも狼の、あと追《お》ひかけてぞ、いそぎけり。<br /> 狼は山羊の子をたくさんくらひ、腹《はら》はりねむりを催《もよほ》しければ、うらての山にひるねして、ゐたるところへ山羊《やぎ》の母きたり目のさめぬよう、しづかに|鋏《はさみ》にて|其腹《そのはら》をきりひらけば、七疋の子山羊ヒョイ〳〵ととび出《だ》し、アゝなんだか真暗《まつくら》なところであつた、といひながら母の旁《そば》へよらん(と)するを、母はこどもらにいひつけて、丸石《まるいし》を多くあつめさせて、狼のはらにつめこみ、めのさめぬうちもとの通《》りぬひ合《あは》せ、こかげにかくれみてあれば、やがて狼は目をさまし、ハテ|吾《おれ》はたしかに山羊《やぎ》の子をくひたるになにやら石《いし》でもはいつているような、こゝろもちがすると、ひとりごとをいひながら、|喉《のど》がかはくとみえて池《いえ》にいたり、水をのまんとして、前《まへ》へかゞみしに、腹《はら》の中の丸石がごろ〳〵と、ころげて前へ傾《かたむ》く|其拍子《そのひようし》に、狼は池へのめりこみて、ブクブクと沈みければ、親子《いやこ》の山羊は走《はし》りいで、池のほとりにうち集《つど》ひ、|掌《て》をうち躍《をど》りて喜《よろ》びしとそ、めでたし〳〵〳〵</p> <p> </p> <p> </p>

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