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尾崎行雄「政府委員の責任」」(2015/10/01 (木) 10:58:45) の最新版変更点

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<p>是れ帝國議會の議場に於ける尾崎氏第一囘の演説なり。<br /> 明治二十三年十二月九日、氏の提出したる『政府委員は共發言に對して責任を負ひ内閣若くは所驕國務大臣の意見を代表する所の杢權委員たるべし。但し參考者として常任及特別委員會に出席するものは此限にあらす』との動議は、議事n程の第一に上り、氏は登壇して之が説明を試みたるが、探決の結果、本案に就て決議を採るを要せずと決せり。</p> <p> </p> <p>議長(中島信行君)是より尾崎行雄君の提出されたる動議の會議を開きます。右に就きまして發言の申込がありますから、其順序に依つて姓名を言ひます。<br /> そちらへ出ずして宜しう御坐りますか。<br /> 議長 宜しい。</p> <p> </p> <p>〔尾崎行雄君演壇に登る〕</p> <p>本員の動議は豫て議事日程に掲げてあります通りの趣意で御坐りまして、それを一言に約めて言へば、政府委員に關する件といふことであります。<br /> 元來始めの考へでは、政府委員といふものは、國務大臣及政府委員と憲法にも竝べて記してある言葉で御坐りますからして、勿論政府全體の政略に對して責任を負ふものでなければ、委員として此處に出しては來ないと本員は信じて居りました。それ故に始めは斯る考へで提出する積りは無かつた。偖て事の實際を見れば政府全體の政略に關して責任も無き者を政府の委員として出して來るのが今日の事實である。例へば會計局である。會計局の中には局長があつて其の下には隨分卑い奏任三等位の者もあらう……愈々内閣が進退を決するに當つては、其政府委員として出た者が共に進退をすると云ふものであるならば問題に見ても宜しいけれども、さはなくて唯だ一局部を代表する委員が三百の議員其の人は全國四千萬の代表者となつて居る議員に對して、……辨明をしては甚だ困る。……一體政府委員と云ふものは、如何なる權限を持ち如何なる權力を委ね如何なる責任を持つて此會に臨むかと云ふことを、今日豫め定めて置きましたならば、他日是が爲に紛議を起して、二日若くは三日といふやうに、貴重な時日を徒に紛議の爲に費すと云ふのを豫防をすることが出來る。其杞憂に依て、豫め此紛議の起らぬ今日に當つて本員が此動議を提出したのである。簡明に其意味を言へば、政府委員は通常の場合にあつては、詰り内閣全體の責任を負ふ、即ち内閣諸大臣が連帶責任である其全體を代表する所の人でなければ政府委員としては困ると云ふ意味である。もう一つ言葉を換へて言へば、我國に政務官事務官と云ふ區別があらば、政務官でなければ、事務官では委員となつては困る。<br /> 少し例には取り悪いが、府縣會の例に依つて見ても、府縣會規則に番外席に着く者は府縣知事若しくは代理人であると云ふことが書いてある。……其人が番外席に着いて府縣知事を代表して説明するときに當つて、府知事若くば縣知事に過があれば、其番外を譴責する、甚しきは辭職せしむると云ふ位もので、自分の責任を解除したる場合が屡々あると思ひます。若し斯る場合には、自分の身に其罪を引いて我身の罪にするのが至當であるが、其代理人を譴貢して知らない顏をして居ると云ふ事實が府縣會に於て既に有つた。有つた以上は或は國會に於て其の例が他日出來ぬとも斷言することは出來ぬ。若し奏任位の人が色々の問題を此處に出て説明して、萬一聞違つて、此三百議員に飛んだ説明を與へて誤らせたといふことがある以上は、其人が罪を一身に引いて辭職するか何かして退いて了つたならば、如何に後を處理して宜しいか、既に當局の人間は辭して了ふ、併し今日の儘で置いては其責を直ぐに大臣に持つて行くことは出來ぬと思ふ。既に四千萬人の代表者たる三百の議員諸君が、斯る説明の爲に誤られることがあらば、奏任官百人位の人を譴貢しても全體の選擧人に我々が顏を合せることが出來ぬのである。故に願はくは諸君の御熟慮を仰ぎ、今口此處で此間題を決したい。然るに世間で評する所、及我山縣總理大臣の機關などの評する、新聞紙の掲ぐる所を見ても、之に反對して、此事は無用である、言はなくつても分つて居ると云ふ。甚しきに至つては本員を罵るのみならす、今日の議員は針を用ひることを知らんで、斧を用ひると云ふことを書いて居る。……此問題は或は針であらう、決して斧と稱すべきものでないと思ふが、併しながら此針たるや破れ絹を裨補するに非ず、國務大臣及び政府姿員の頭の上に突き刺して置いて、他日の憂を逃れると云ふことで、若し此針を充分に立て玉、ちやんと區域を定めて置かなければ、必すそれが爲に一大紛議を釀すであらうと思ひます。……政府委員は内閣で進退を共にし、政府全體の責任を一身に負ふて出席する所の説明者たる所のものにしたいといふのが本員の旨意である。……即ち部理代人では、例へば國務大臣が十の職權を持つて居る、其一の部分を代表する部理代人では困る。少くも國務大臣の總理代人と爲るべき人でなければならぬ。<br /> 然らば但書は如何なる理由に依つて附けたかと云ふと、但書は各省にあつては大臣と次官のみでは、今日の場合で、我々が此處で政府をいじめると云ふ爲には大變利益か知らぬが、説明を求むるに方つて、彼の一小局部に至つては知らないことが澤山あるであらうと思ふ。さう云ふ場合に、それより以下の者は此處で撥ね付けると云ふことにすれば、大變困ることがあるから、一の責任者として聽かないけれども、他の參考として出席を許す。唯だ我々が商賣人に向つて商賣の事を聽き、又畑の事は一個の老農に聽くと云ふ、一の參考として聽いたら、大變便利があらうと思ひますから、之に但書を附けた。併しながら若し諸君が但書は無くして今の大臣次官で此役目が勤まると云ふことであれば、削除しても、益々本員の意思に近くは爲れ、決して遠ざかりは致しませぬから、反對はしない。……<br /> 之を否決したときは、政府が責任の少い一局部の人を出しても決して議院はそれに反對することは出來ないことに爲る。全權委員で無くとも、どんな者でも議會は受けると云ふことに爲るから、若し勿論である分切つて居ると云ふことであるならば、直ちに討論を用ひす、御賛成あらむことを希望致します。考はそれだけでありますが、尚ほ御質問でもありますれば、何なりとも御答へ致します。(明治二十三年十二月)</p> <p> </p> <p>底本は尾崎全集</p> <p>参考</p> <p> http://teikokugikai-i.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/001/0060/0011006000611209.html</p>
<p>是れ帝國議會の議場に於ける尾崎氏第一囘の演説なり。<br /> 明治二十三年十二月九日、氏の提出したる『政府委員は共發言に對して責任を負ひ内閣若くは所驕國務大臣の意見を代表する所の杢權委員たるべし。但し參考者として常任及特別委員會に出席するものは此限にあらす』との動議は、議事日程の第一に上り、氏は登壇して之が説明を試みたるが、探決の結果、本案に就て決議を採るを要せずと決せり。</p> <p> </p> <p>議長(中島信行君)是より尾崎行雄君の提出されたる動議の會議を開きます。右に就きまして發言の申込がありますから、其順序に依つて姓名を言ひます。<br /> そちらへ出ずして宜しう御坐りますか。<br /> 議長 宜しい。</p> <p> </p> <p>〔尾崎行雄君演壇に登る〕</p> <p>本員の動議は豫て議事日程に掲げてあります通りの趣意で御坐りまして、それを一言に約めて言へば、政府委員に關する件といふことであります。<br /> 元來始めの考へでは、政府委員といふものは、國務大臣及政府委員と憲法にも竝べて記してある言葉で御坐りますからして、勿論政府全體の政略に對して責任を負ふものでなければ、委員として此處に出しては來ないと本員は信じて居りました。それ故に始めは斯る考へで提出する積りは無かつた。偖て事の實際を見れば政府全體の政略に關して責任も無き者を政府の委員として出して來るのが今日の事實である。例へば會計局である。會計局の中には局長があつて其の下には隨分卑い奏任三等位の者もあらう……愈々内閣が進退を決するに當つては、其政府委員として出た者が共に進退をすると云ふものであるならば問題に見ても宜しいけれども、さはなくて唯だ一局部を代表する委員が三百の議員其の人は全國四千萬の代表者となつて居る議員に對して、……辨明をしては甚だ困る。……一體政府委員と云ふものは、如何なる權限を持ち如何なる權力を委ね如何なる責任を持つて此會に臨むかと云ふことを、今日豫め定めて置きましたならば、他日是が爲に紛議を起して、二日若くは三日といふやうに、貴重な時日を徒に紛議の爲に費すと云ふのを豫防をすることが出來る。其杞憂に依て、豫め此紛議の起らぬ今日に當つて本員が此動議を提出したのである。簡明に其意味を言へば、政府委員は通常の場合にあつては、詰り内閣全體の責任を負ふ、即ち内閣諸大臣が連帶責任である其全體を代表する所の人でなければ政府委員としては困ると云ふ意味である。もう一つ言葉を換へて言へば、我國に政務官事務官と云ふ區別があらば、政務官でなければ、事務官では委員となつては困る。<br /> 少し例には取り悪いが、府縣會の例に依つて見ても、府縣會規則に番外席に着く者は府縣知事若しくは代理人であると云ふことが書いてある。……其人が番外席に着いて府縣知事を代表して説明するときに當つて、府知事若くば縣知事に過があれば、其番外を譴責する、甚しきは辭職せしむると云ふ位もので、自分の責任を解除したる場合が屡々あると思ひます。若し斯る場合には、自分の身に其罪を引いて我身の罪にするのが至當であるが、其代理人を譴貢して知らない顏をして居ると云ふ事實が府縣會に於て既に有つた。有つた以上は或は國會に於て其の例が他日出來ぬとも斷言することは出來ぬ。若し奏任位の人が色々の問題を此處に出て説明して、萬一聞違つて、此三百議員に飛んだ説明を與へて誤らせたといふことがある以上は、其人が罪を一身に引いて辭職するか何かして退いて了つたならば、如何に後を處理して宜しいか、既に當局の人間は辭して了ふ、併し今日の儘で置いては其責を直ぐに大臣に持つて行くことは出來ぬと思ふ。既に四千萬人の代表者たる三百の議員諸君が、斯る説明の爲に誤られることがあらば、奏任官百人位の人を譴貢しても全體の選擧人に我々が顏を合せることが出來ぬのである。故に願はくは諸君の御熟慮を仰ぎ、今口此處で此間題を決したい。然るに世間で評する所、及我山縣總理大臣の機關などの評する、新聞紙の掲ぐる所を見ても、之に反對して、此事は無用である、言はなくつても分つて居ると云ふ。甚しきに至つては本員を罵るのみならす、今日の議員は針を用ひることを知らんで、斧を用ひると云ふことを書いて居る。……此問題は或は針であらう、決して斧と稱すべきものでないと思ふが、併しながら此針たるや破れ絹を裨補するに非ず、國務大臣及び政府姿員の頭の上に突き刺して置いて、他日の憂を逃れると云ふことで、若し此針を充分に立て玉、ちやんと區域を定めて置かなければ、必すそれが爲に一大紛議を釀すであらうと思ひます。……政府委員は内閣で進退を共にし、政府全體の責任を一身に負ふて出席する所の説明者たる所のものにしたいといふのが本員の旨意である。……即ち部理代人では、例へば國務大臣が十の職權を持つて居る、其一の部分を代表する部理代人では困る。少くも國務大臣の總理代人と爲るべき人でなければならぬ。<br /> 然らば但書は如何なる理由に依つて附けたかと云ふと、但書は各省にあつては大臣と次官のみでは、今日の場合で、我々が此處で政府をいじめると云ふ爲には大變利益か知らぬが、説明を求むるに方つて、彼の一小局部に至つては知らないことが澤山あるであらうと思ふ。さう云ふ場合に、それより以下の者は此處で撥ね付けると云ふことにすれば、大變困ることがあるから、一の責任者として聽かないけれども、他の參考として出席を許す。唯だ我々が商賣人に向つて商賣の事を聽き、又畑の事は一個の老農に聽くと云ふ、一の參考として聽いたら、大變便利があらうと思ひますから、之に但書を附けた。併しながら若し諸君が但書は無くして今の大臣次官で此役目が勤まると云ふことであれば、削除しても、益々本員の意思に近くは爲れ、決して遠ざかりは致しませぬから、反對はしない。……<br /> 之を否決したときは、政府が責任の少い一局部の人を出しても決して議院はそれに反對することは出來ないことに爲る。全權委員で無くとも、どんな者でも議會は受けると云ふことに爲るから、若し勿論である分切つて居ると云ふことであるならば、直ちに討論を用ひす、御賛成あらむことを希望致します。考はそれだけでありますが、尚ほ御質問でもありますれば、何なりとも御答へ致します。(明治二十三年十二月)</p> <p> </p> <p>底本は尾崎全集</p> <p>参考</p> <p> http://teikokugikai-i.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/001/0060/0011006000611209.html</p>

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