※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

農村でも食糧増産


「食料ならたくさんあるよ」
今のいままで藩国の危機と食料増産について分かりやすく説明したつもりだった国の使いの前で、南西地方一面に広がる小麦畑を持つ農村の代表たちは口々にそう言って、お互いに顔を見合わせた。

「いえ、ですから食料の増産を……」
「増やさなくたっていっぱいあるって」
明らかに焦って狼狽している使いとは違い、代表たちはこの危機的状況に対して焦りの色は無い。村に戻れば今年も豊作の小麦畑がどこまでも広がっている。これだけ豊かに実っているのに、どうして更に食糧を増産しなくてはならないのか。そう言わんばかりに胸を張った。
「ちゃんといつもの時期に納めるから心配するな、なぁ」
代表の一人が同意を求めると、周りもそれに賛同する。
「(あれだけ説明してちっとも理解されていないのか)」
使いは自分の説明不足をうつむいてちょっと嘆いた後に、痛む頭を押さえながら顔を上げた。
「今年はもうちょっと早めてもらいたいと思いまして…」
「ん、どのくらい?」
「え、と……できれば今日中に。加工も含めて……」
「………」
口ごもる使い。それを聞いて表情を凍らす代表たち。
「食料危機なので」
「…ば、馬鹿言うな!そんなもんできるか!」
それはそうだろう。食糧増産命令が届いた藩国も慌てて準備しだしている。この農村に来た使いも、極度の人手不足で緊急召集をかけられているパイロットの一人だ。
「してください、お願いします」
「時間も無いし、人も足りない。できるわけないだろ」
集まった男たちの中でも一番荒々しそうな男が、使いの胸倉を掴んでにらみをきかせる。
「でも、早く食料を増産させないと藩国が取り潰されてしまうんです」
自分の命の危機も感じていた使いだが、藩国の危機と自分の危機は天秤にはかけられない。少しでも国の危機を伝えるよう、はっきりとした口調でストレートに話した。その真剣さに胸倉を掴んでいた男は手を離し、ずいっと顔を近づけてきた。
「本当か?」
「本当です。こんな命がけの嘘はつきません」
「……そうだな」
集まった代表のなかで、いかにも中心人物であろう風格が漂ってる一人が腕を組みながら大きく頷いた。 
「この国を潰すわけにはいかない。こいつだって命がけでここにきたんだろう」
「それはそうです」
「なら、国が潰れないようにこっちだって命がけで増産して見せるさ」
「ありがとうございます。では、城に伝えてきます」
「ちょっと待った」
「…は?」
これで自分の仕事は終わった。後は報告に戻るだけ、と思っていた使いは嫌な汗を垂らしつつ振り向いた。
「国が人手不足なのは分かっている。でもな、こっちも人手が足りない」
「は、はぁ」
「増援をつれてきてくれないかな」
「無理ですよ。他のパイロットや整備士も駆り出されて北の漁村に向かってるんですから。余裕なんてとてもないですよ」
「そうは言っても、収穫と加工には時間がかかる……間に合わないぞ」
「…分かりました。話は付けてきます」
「おう」
今度から人手不足のときはこの手を使ってやろうかと算段し、城へ向かって頼りなく歩いていく使いを見送った。

(文章:吉沢葉月)