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食糧増産風景 農村


ジェントルラット藩国は北国である。当然寒い。
寒いということはそれだけで生活を困難にする。
食料を育てるのも採取するのも、季節や方法が限定されるし、厳寒期に備えて燃料や保存食を蓄えなければならないからだ。
地域によって様々なそういった対策が生まれ、年月と共に進歩していった。
そしてジェントルラットも田舎ながら、いや田舎だからこそそれらに対しての技術は進化していた。

特に食料に関しては戦時にあってその保存性と味の良さが高く評価され、増産が急ピッチで進んでいた。

南西には大きく広がる小麦畑と農村があり、今ここで秋に収穫された小麦から様々な食品が作られている。小麦の量は前年と変わらず豊作。歴史とともに進化してきた農法は、すでにある程度までの天候や気温、光量の変化に左右されない成果を約束していた。
これが中世ヨーロッパの暗黒期であれば、年毎の天候次第で収穫量が少なくなり、餓死者が増え潰れる農村さえあるのだろうが、この収穫量の安定と国民全員が顔見知りと言っていいほどの田舎であることが相互扶助を支えているために餓死者など全くでていなかった。

この国の一番の強みはその田舎ゆえの連帯感であると言っても良い。
多少、藩王代理や吏族が変態であろうともそれを笑って受け入れる国民土壌があった。
当然この国民土壌は戦時のための食糧増産にも生かされている。

農村の生産工場では村人総出で生産が進んでいる。年のころが10歳くらいの子が重い小麦袋を運んでいるが、親の手伝いに来たようだった。
まず作られるのは小麦粉である。パンを作らねばならないからだ。
小麦の品種改良もさることながら、パンのための酵母菌の開発も進んでいる。
ふっくらと味わい深く仕上げるための酵母。日持ちさせることに特化した保存食用の酵母。菓子パンや惣菜パンという嗜好品のために開発された特殊な酵母。それらの特徴を併せ持つ酵母。
今、出来たばかりの小麦から作られているのは、戦場にもっていくためのパンである。当然日持ちし、携行に便利なものでなければならないが、それと同時に兵員の士気を高めるために味も確保せねばならない。

まず、加熱をすることによって味が増すタイプのパンが作られる。
これは短期間駐屯するなどの理由で、パンを一から作る余裕は無いが加熱する余裕はある場所で食べられる。この国で一般的に冬に食べられる保存食でもあった。日々食べられ続けているものだけに保存性と味に優れ、ご飯党の兵員からの支持も高い食品である。特に味はつけないが、加熱することによってふっくらとし甘み旨みが増すので問題は無い。

次に長期保存可能かつ、加熱の必要が無い軽量高カロリーな携行に特化したパンが作られる。
現代で言うところの乾パンであるが、よりカロリーと栄養を高め、戦場でのストレスを和らげる目的で様々な味をつけていた。伝統の金平糖もついている。さらに技術の進化で缶タイプのパンはふっくらと仕上げることによって昔からの問題点であるノドが乾くということを克服していた。別タイプとしてさらに携行しやすいよう、袋入りにして、硬く小さくした昔さながらのパンもある。中身は現代とは段違いであるが、こちらにも金平糖が付属している。

そして最後に、パン以外のもので作られるのは当然ながら蒸留酒であった。
度数を高くし、寒い冬を乗り切るための先人の知恵であったが、今や住民の生活に欠かすことの出来ない嗜好品の一つになっている。こちらの中身は昔からあまり変わらない。製法は進化し、大量生産が簡易に出来るようにはなっているが、何故か中身の進歩は望まれなかったのだ。
思うにこれもまた一つの郷土愛なのかも知れない。家族と、友人と、仲間と、歓談しながら飲み交わし、受け継いできたものは味とは別のところで愛すべきものだったのだろう。戦場に向かう兵員はこれを持参していく。彼らは体を温めるために、郷里を思い出すためにこれを飲むのだろう。

工場では村人総出で食料の生産を進めている。
楽しそうでもあり、必死そうでもある。
毎年行われてきた一種のお祭だから楽しそうで。
戦争のための準備と知っているから必死そうなのだろう。
ここで作られた食料を食べる兵員は、戦場で何を思うのだろうか。

(文章:たらら)