「追い詰められた鼠ってよぉ……何処に追い詰められてんだろうなぁ………。
もしそれが『袋』のことを言ってるなら、この言葉はテメーのためにあるんだろうぜぇ~~ッ。吉良吉影ぇ!」
もしそれが『袋』のことを言ってるなら、この言葉はテメーのためにあるんだろうぜぇ~~ッ。吉良吉影ぇ!」
忙しく曲がりくねる臭い、駅周辺の商店街を走っている。
そろそろ会社帰りのサラリーマンで道が込む、急いでそこを出ようとする筈だ。
そろそろ会社帰りのサラリーマンで道が込む、急いでそこを出ようとする筈だ。
杜王町の交通量は都会に比べれば遥かに少ないとはいえ、影も形も見当たらないわけではない。
それなりに通るところでは通るものだ、しかし彼は躊躇せずスピードを上げた。
殺人鬼を追い詰める為に。
それなりに通るところでは通るものだ、しかし彼は躊躇せずスピードを上げた。
殺人鬼を追い詰める為に。
「入り組んだ場所なら撒けるってのは甘いぜ……。
病み上がりだが俺はテメーより長くこの街を走ってきたんだ。
このまま何処までも追い詰め………」
病み上がりだが俺はテメーより長くこの街を走ってきたんだ。
このまま何処までも追い詰め………」
そこまで考えて無意識のうちにブレーキを掛ける。
当然スピードへの恐怖心ではない、事故の直後だが彼は全く反省していなかった。
当然スピードへの恐怖心ではない、事故の直後だが彼は全く反省していなかった。
『ハイウェイ・スター』は臭いを元に追跡するスタンド、入り組んだ道に入れば60キロを維持し辛く危険しか伴わない。
社会の目を逃れ殺人を行える程の奴がそんなことも理解せず人通りの多い商店街に入るだろうか。
奴は自分が『追跡』していることを知っているのではないか?
社会の目を逃れ殺人を行える程の奴がそんなことも理解せず人通りの多い商店街に入るだろうか。
奴は自分が『追跡』していることを知っているのではないか?
特性上、逃げながら戦うのが効果的な『ハイウェイ・スター』だが『キラー・クイーン』を相手にするなら話は別となる。
仗助の『クレイジー・D』にスタンドがブン殴られたときはすかさず奴に取り付いて養分を吸収。
そしてダメージを上回る養分を吸収したことで部屋で直接ブン殴られるまでは奴の攻撃によるダメージは皆無だった。
だが『キラー・クイーン』は触れた瞬間、爆破することができる。
仗助の『クレイジー・D』にスタンドがブン殴られたときはすかさず奴に取り付いて養分を吸収。
そしてダメージを上回る養分を吸収したことで部屋で直接ブン殴られるまでは奴の攻撃によるダメージは皆無だった。
だが『キラー・クイーン』は触れた瞬間、爆破することができる。
『ハイウェイ・スター』は群体型のスタンド、50~100体はいるだろう。
養分の吸収無しで数体潰されれば体に擦り傷程度の傷が出来る。
仗助には取り付けたからよかったが、養分を吸えなかったら当然ダメージを受けていた。
養分の吸収無しで数体潰されれば体に擦り傷程度の傷が出来る。
仗助には取り付けたからよかったが、養分を吸えなかったら当然ダメージを受けていた。
同じ近距離パワータイプの『キラー・クイーン』なら一瞬で何体の『ハイウェイ・スター』を潰せるか。
これがわからない以上、迂闊に手は出せない。
これがわからない以上、迂闊に手は出せない。
相手もそれを理解したら60キロを少し下回りながらの攻撃を考えるだろう。
だが理解されなければ取り付かれるか、前方不注意で事故を起こすリスクの方が高い。
平穏に暮らしたいだの言ってる奴がこのスピードで道を走るのは高速道路以外にないのだから。
だが理解されなければ取り付かれるか、前方不注意で事故を起こすリスクの方が高い。
平穏に暮らしたいだの言ってる奴がこのスピードで道を走るのは高速道路以外にないのだから。
そして自動追跡で吉良吉影に攻撃することが出来ない以上、接近する必要がある。
肉眼で吉良吉影を視認すれば『ハイウェイ・スター』を360度全方位に配置して襲撃させる事が可能だ。
奴に勝つにはこれしかない、墳上裕也はそう考えていたが……。
肉眼で吉良吉影を視認すれば『ハイウェイ・スター』を360度全方位に配置して襲撃させる事が可能だ。
奴に勝つにはこれしかない、墳上裕也はそう考えていたが……。
「追い詰められてるのは俺なんじゃねぇのか?
どうする……奴をこのまま追いかけていいのか?
もしかしたら、俺を罠にかけようってんじゃ……写真の親父とグルになって……」
どうする……奴をこのまま追いかけていいのか?
もしかしたら、俺を罠にかけようってんじゃ……写真の親父とグルになって……」
60キロ以上で追跡しなければ追いつけないというのに、バイクの速度は目に見えて落ちていった。
焦げたチーズをぶちまけられた為、臭いを完全に覚えたとは言い難い。
時速60キロ以上で逃げるバイクの廃棄煙を追っているにすぎないのだ、今を逃せばチャンスがない事は分かっている。
焦げたチーズをぶちまけられた為、臭いを完全に覚えたとは言い難い。
時速60キロ以上で逃げるバイクの廃棄煙を追っているにすぎないのだ、今を逃せばチャンスがない事は分かっている。
冷や汗を流しながら、顎に手を伸ばしそうになった自分に気づく。
自分がビビった時のクセだった。
自分がビビった時のクセだった。
「ふざけやがって……吉良吉影、テメーから逃げるなんて選択は最初っからありえねーことだぜ!」
伸ばした手をハンドルに叩き付けるようにして戻すと再びスピードを上げる。
かつて東方仗助がエニグマとの戦いで恐怖を怒りで打ち消した様に、彼もそうした。
それがその場しのぎの方法でしかないことは、その戦いに居た彼にも判っていた。
かつて東方仗助がエニグマとの戦いで恐怖を怒りで打ち消した様に、彼もそうした。
それがその場しのぎの方法でしかないことは、その戦いに居た彼にも判っていた。
「仗助はクソ野郎だった……ケガ人を殴るのがダメだからって態々治してからこの俺を殴りやがった。
エニグマの時だって俺は追跡だけって約束だったぜ……自分からクビ突っ込んだんだけどよ……」
エニグマの時だって俺は追跡だけって約束だったぜ……自分からクビ突っ込んだんだけどよ……」
スピードが上がるにつれて、何故か仗助の顔が鮮明に浮かび上がる。
奴とはたった二度の付き合いで一度はボコボコにブン殴られている。
なのに仗助がこの世に居ないことを考えると無性に腹が立った。
奴とはたった二度の付き合いで一度はボコボコにブン殴られている。
なのに仗助がこの世に居ないことを考えると無性に腹が立った。
「クソ野郎だった……クソ野郎だったがよぉ――――ッ!
殺人が趣味のブタ野郎に殺されていいような奴じゃあなかっただろうがてめぇーっ!」
殺人が趣味のブタ野郎に殺されていいような奴じゃあなかっただろうがてめぇーっ!」
一時しのぎに過ぎない、実際に吉良吉影を見たら怒りなんか吹っ飛んでビビって逃げ出すかもしれない。
それでも、彼はどこから湧き上がっているのか判らない怒りに身を任せ走り続けた。
それでも、彼はどこから湧き上がっているのか判らない怒りに身を任せ走り続けた。
「自分でも判ってるぜ……俺のやってることは『賢い行い』じゃあないってのは。
だが吉良吉影が俺の女の周りに現れた以上は見過ごせねぇ。
『袋』に追い込まれてるのは俺かもしれねぇ………だがてめーも一緒に入ってもらうぜ、殺人鬼!」
だが吉良吉影が俺の女の周りに現れた以上は見過ごせねぇ。
『袋』に追い込まれてるのは俺かもしれねぇ………だがてめーも一緒に入ってもらうぜ、殺人鬼!」
揺るいだ決意に渇を入れ、再び殺人鬼を追い上げる。
奴のスピードは常に60キロ、追いつかれるギリギリだ。
余裕を持たせようとすれば事故に遭うと臆しているのか。
余裕を持たせようとすれば事故に遭うと臆しているのか。
違う、追いつくのを待っているのだ。
それを理解して尚、墳上裕也は追跡の手を緩めなかった。
それを理解して尚、墳上裕也は追跡の手を緩めなかった。
バイクで走る男の耳には、常にペタペタと地面に張りつく足の音が聞こえていた。
エンジンがうるさく鳴り響いているのにも関わらず。
エンジンがうるさく鳴り響いているのにも関わらず。
幻聴と思いたかったが、確かにそれは聞こえてくるのだ。
エンジン音に混じって裸足のまま物凄い勢いで走る音が聞こえるという、
幼稚な怪談のようなシチュエーションを彼は体験していた。
エンジン音に混じって裸足のまま物凄い勢いで走る音が聞こえるという、
幼稚な怪談のようなシチュエーションを彼は体験していた。
「しつこい奴だ……やはり私だと確信されてしまったか」
振り向かず、ひたすらに前を見て走る。
転倒、衝突すれば即敗北が決定する。
優先するのは時速60キロでの安全運転だ。
転倒、衝突すれば即敗北が決定する。
優先するのは時速60キロでの安全運転だ。
携帯電話を取り出すと、既に繋がっていたらしくボタンも押さずに耳に宛がう。
《吉影ぇっ! 奴は逃げちゃおらん……向かっとるぞ!?》
耳元で喚く父、死んでから私の幸福の手助けをするようになった。
だが正直、こいつが役に立ったことなどない。
いつだって私は自分の力でピンチを乗り越えてきたのだ。
私にとって父は利用するだけの道具にすぎない。
だが正直、こいつが役に立ったことなどない。
いつだって私は自分の力でピンチを乗り越えてきたのだ。
私にとって父は利用するだけの道具にすぎない。
「やはりか……いいか、そのまま監視を続けるんだ。
一度切るから私の視界に入る程に近づいたら呼び出してくれ」
一度切るから私の視界に入る程に近づいたら呼び出してくれ」
返事も待たずに通話を切る。
そして今まで通り、前を走り続ける。
そして今まで通り、前を走り続ける。
「今まで通りだ………今まで通り私は幸福だ!」