白銀の髪を持つ長身の魔族が、黒い髪の少年、バンダナを巻いた少年、少女の三者に向かって高らかに笑った。
数千年をかけた大事業を潰された男――大魔王は諦めず、再度実行することを選んだ。
地上破滅計画を。
それに対し、小さな勇者は地上の平和を守るためにある決断を下した。
人と竜と魔を合わせた竜の騎士の血を引く彼は、生まれながらに持つ紋章と父から受け継いだ紋章がある。二つの紋章――双竜紋の力を完全に解き放てば、爆発的に強くなれる。
しかし、それは自分が自分でなくなってしまうかもしれないことを意味した。
最後まで勇者として戦いたかったため使わずにいた力を、彼は解放した。
仲間と地上の未来を守るために。
少年の髪が逆立ち、両手の紋章が額で合致し、輝き始める。
「ば……化物……め!」
竜の騎士の中で最強の、双竜紋を持つ少年さえも敵わなかった大魔王。
その彼をして化物と言わしめる存在へと変貌した少年は、荒れ狂う衝動のまま咆哮した。今まで父にあって少年になかったもの――底知れぬ殺気をその眼にみなぎらせて。
「“力が正義”……常にそう言っていたな」
地を蹴り、魔獣のように大魔王に殴りかかる。
魔界の頂点に立つ最強の男がなすすべもなく、一方的に攻撃を受けることしかできない。
「これがッ! これがッ! これが正義かッ!? より強い力でぶちのめされれば、おまえは満足なのかッ!?」
少年は凄まじい力で殴り続ける。
力こそ全てだと主張してきた男を遥かに上回る力で。
男の唱え、掲げてきたものと同じ力で。
「こんなものがっ……! こんなものが正義であってたまるかっ!」
少年は殴りながら涙を流していた。
強大な力をぶつけることでしか相容れぬ者を止められぬ現実に、胸を痛ませて。
魂から搾り出された叫びとともに渾身の力で殴り飛ばす。
踏みとどまった大魔王は、力の差を知りながらも退かなかった。
「負けぬッ! 負けるわけにはいかぬッ!」
拳を握り締め、敵の姿を睨み据える。
ここで逃げては彼を支えるものが砕け散ってしまう。今まで歩んできた道や大魔王の名までも汚し、否定することになってしまう。
彼が彼であるために、大魔王が大魔王であるために、立ち向かう。
「余は大魔王バーンなり!!」
勝利のために全てをかなぐり捨てて戦う二人の激突に、大魔宮は崩壊を始めた。
数千年をかけた大事業を潰された男――大魔王は諦めず、再度実行することを選んだ。
地上破滅計画を。
それに対し、小さな勇者は地上の平和を守るためにある決断を下した。
人と竜と魔を合わせた竜の騎士の血を引く彼は、生まれながらに持つ紋章と父から受け継いだ紋章がある。二つの紋章――双竜紋の力を完全に解き放てば、爆発的に強くなれる。
しかし、それは自分が自分でなくなってしまうかもしれないことを意味した。
最後まで勇者として戦いたかったため使わずにいた力を、彼は解放した。
仲間と地上の未来を守るために。
少年の髪が逆立ち、両手の紋章が額で合致し、輝き始める。
「ば……化物……め!」
竜の騎士の中で最強の、双竜紋を持つ少年さえも敵わなかった大魔王。
その彼をして化物と言わしめる存在へと変貌した少年は、荒れ狂う衝動のまま咆哮した。今まで父にあって少年になかったもの――底知れぬ殺気をその眼にみなぎらせて。
「“力が正義”……常にそう言っていたな」
地を蹴り、魔獣のように大魔王に殴りかかる。
魔界の頂点に立つ最強の男がなすすべもなく、一方的に攻撃を受けることしかできない。
「これがッ! これがッ! これが正義かッ!? より強い力でぶちのめされれば、おまえは満足なのかッ!?」
少年は凄まじい力で殴り続ける。
力こそ全てだと主張してきた男を遥かに上回る力で。
男の唱え、掲げてきたものと同じ力で。
「こんなものがっ……! こんなものが正義であってたまるかっ!」
少年は殴りながら涙を流していた。
強大な力をぶつけることでしか相容れぬ者を止められぬ現実に、胸を痛ませて。
魂から搾り出された叫びとともに渾身の力で殴り飛ばす。
踏みとどまった大魔王は、力の差を知りながらも退かなかった。
「負けぬッ! 負けるわけにはいかぬッ!」
拳を握り締め、敵の姿を睨み据える。
ここで逃げては彼を支えるものが砕け散ってしまう。今まで歩んできた道や大魔王の名までも汚し、否定することになってしまう。
彼が彼であるために、大魔王が大魔王であるために、立ち向かう。
「余は大魔王バーンなり!!」
勝利のために全てをかなぐり捨てて戦う二人の激突に、大魔宮は崩壊を始めた。
しばらくして大魔王は瓦礫にもたれかかるようにして身を横たえていた。衣はあちこち破れ、全身に傷を負い、呼吸も荒い。
このままでは敵わぬと悟った大魔王は、少年と同じように勝利のために全てを捨てることを決意した。
力こそ全てと主張してきた男は、圧倒的な力を叩きつけられても己の正義が間違っていたとは考えなかった。
大切なものを捨ててでも強くなり、跳ね返すことを選んだのだ。
頂点に立つ者――王としての誇りがあるのだから。
「余も……捨てねばならぬか」
彼は震える手を見、口元をかすかにゆがめ額の眼を抉り出した。
魔力の源である第三の眼――鬼眼を解放し肉体に上乗せした状態になれば、二度とは戻れない。
「だが! 敗北よりはよい、敗北よりは! 大魔王バーンの偉大なる名だけは守り通すことができるッ!」
自分と同じ決断を下した大魔王の猛攻に少年は力尽き、敗れそうになった。
竜の騎士最強の呪文も、父から受け継いだ剣も通じず、力尽きそうになった少年の脳裏に相棒の言葉がよみがえる。
諦めそうになった時、挫けそうになった時、立ち上がらせてくれた最高の友の言葉が。
『結果が見えたってもがきぬいてやる! 一生懸命生き抜いてやる! 一瞬……だけど……閃光のように!』
勇気を与えられた勇者の体に力が湧き上がる。
『閃光のように!』
己をつかむ右手を破壊した少年を追って大魔王も飛ぶ。
振り向いた少年は全身から光を放った。
太陽のような、全てを照らす閃光を。
光に眼を奪われた大魔王の顔から表情が抜け落ちた。
生じた一瞬の隙に勇者はまっすぐ飛び込み、己の剣の柄をつかみ一気に切り下ろした。
大魔王の身体が、夢を具現化した玩具と同様に真っ二つに切り裂かれていく。
音の無い空間で少年は瞼を閉ざし、別れを告げた。
勝利のために全てを捨てて戦った敵へ。
対極の立場でありながら最も心の近かった相手へ。
「さよなら……! 大魔王バーン!」
己の正義を最後まで貫き、全ての力を出し尽くして命を落とした大魔王。
太陽を渇望した彼の亡骸は、太陽へと消えた――。
このままでは敵わぬと悟った大魔王は、少年と同じように勝利のために全てを捨てることを決意した。
力こそ全てと主張してきた男は、圧倒的な力を叩きつけられても己の正義が間違っていたとは考えなかった。
大切なものを捨ててでも強くなり、跳ね返すことを選んだのだ。
頂点に立つ者――王としての誇りがあるのだから。
「余も……捨てねばならぬか」
彼は震える手を見、口元をかすかにゆがめ額の眼を抉り出した。
魔力の源である第三の眼――鬼眼を解放し肉体に上乗せした状態になれば、二度とは戻れない。
「だが! 敗北よりはよい、敗北よりは! 大魔王バーンの偉大なる名だけは守り通すことができるッ!」
自分と同じ決断を下した大魔王の猛攻に少年は力尽き、敗れそうになった。
竜の騎士最強の呪文も、父から受け継いだ剣も通じず、力尽きそうになった少年の脳裏に相棒の言葉がよみがえる。
諦めそうになった時、挫けそうになった時、立ち上がらせてくれた最高の友の言葉が。
『結果が見えたってもがきぬいてやる! 一生懸命生き抜いてやる! 一瞬……だけど……閃光のように!』
勇気を与えられた勇者の体に力が湧き上がる。
『閃光のように!』
己をつかむ右手を破壊した少年を追って大魔王も飛ぶ。
振り向いた少年は全身から光を放った。
太陽のような、全てを照らす閃光を。
光に眼を奪われた大魔王の顔から表情が抜け落ちた。
生じた一瞬の隙に勇者はまっすぐ飛び込み、己の剣の柄をつかみ一気に切り下ろした。
大魔王の身体が、夢を具現化した玩具と同様に真っ二つに切り裂かれていく。
音の無い空間で少年は瞼を閉ざし、別れを告げた。
勝利のために全てを捨てて戦った敵へ。
対極の立場でありながら最も心の近かった相手へ。
「さよなら……! 大魔王バーン!」
己の正義を最後まで貫き、全ての力を出し尽くして命を落とした大魔王。
太陽を渇望した彼の亡骸は、太陽へと消えた――。
機械仕掛けの人形を抱え、二人の少年が飛ぶ。
生まれ育った地を壊させないために。
大切なものを守るために。
もはや人形を手放す時間はない。
それでも勇者の相棒は不敵に笑った。
「おまえとなら……悪かねぇけどな! ダイ!」
二人は冒険の中で深い絆で結ばれていった。
互いに勇気を与えあった仲だからこそ、心からそう言える。
だが、予想に反して小さな謝罪の言葉が返された。
「ごめん、ポップ」
「えっ!?」
ポップの身体を鈍い衝撃が襲った。一緒だと誓ったはずの友人から蹴り落とされ、唖然としたのも一瞬のことだった。すぐさま相手の薄情な仕打ちをなじる。
「なぜなんだよォォッ! ダイッ!」
泣きながら叫ぶポップと同じくダイも涙を流していた。
(許してくれポップ。こうすることが……こうして自分の大好きなものをかばって生命をかける事が……! ずっと受け継がれてきたおれの使命なんだよ!)
願うのは、皆の幸せな未来。
大切な者達に平和を味わってほしい。
そのためならば危険に身を晒すことも厭わない。
ポップは親友の覚悟を――ただ一人で行こうとしている現実を受け入れられず、叫ぶしかなかった。
「バッカヤロオォォオォーッ!!」
悲痛な咆哮と同時に閃光が炸裂し、ダイの意識は衝撃に吹き飛ばされた。
生まれ育った地を壊させないために。
大切なものを守るために。
もはや人形を手放す時間はない。
それでも勇者の相棒は不敵に笑った。
「おまえとなら……悪かねぇけどな! ダイ!」
二人は冒険の中で深い絆で結ばれていった。
互いに勇気を与えあった仲だからこそ、心からそう言える。
だが、予想に反して小さな謝罪の言葉が返された。
「ごめん、ポップ」
「えっ!?」
ポップの身体を鈍い衝撃が襲った。一緒だと誓ったはずの友人から蹴り落とされ、唖然としたのも一瞬のことだった。すぐさま相手の薄情な仕打ちをなじる。
「なぜなんだよォォッ! ダイッ!」
泣きながら叫ぶポップと同じくダイも涙を流していた。
(許してくれポップ。こうすることが……こうして自分の大好きなものをかばって生命をかける事が……! ずっと受け継がれてきたおれの使命なんだよ!)
願うのは、皆の幸せな未来。
大切な者達に平和を味わってほしい。
そのためならば危険に身を晒すことも厭わない。
ポップは親友の覚悟を――ただ一人で行こうとしている現実を受け入れられず、叫ぶしかなかった。
「バッカヤロオォォオォーッ!!」
悲痛な咆哮と同時に閃光が炸裂し、ダイの意識は衝撃に吹き飛ばされた。
不可思議な色の地面にあおむけに倒れている少年へ、どこからともなく呼びかける声がした。
「目を、覚ましてください」
力無く横たわっていた小さな体がわずかに動いた。
黒い髪が揺れ、少年は瞼をゆっくりと開いた。自分の置かれている状況がわからずにパチパチと目を瞬かせる。
「……ここは?」
身を起こそうとすると、鉛を詰め込まれたかのような動きになってしまった。立ち上がって慎重に進んでいく。
雲のような白い靄が視界を遮り、冷たい空気が肌を包んでいる。思わず身ぶるいした彼は辺りを見回したが、生命の気配は感じられない。
黒の核晶の爆発に巻き込まれたはずだが、生き延びたのだろうか。それとも、生命を落としあの世に来てしまったのだろうか。
地面を踏む感触は頼りなく、まるで夢の世界を彷徨っているような心地だ。
あてもなく歩いていると再び小さな声が霧の彼方から響いた。
「竜の騎士、ダイよ」
声は今にも消えてしまいそうだ。ダイは耳を澄まして聞き取ろうとする。
「あなたは?」
「私は……天界の精霊の一人です」
ダイは目を丸くして唾を呑みこんだ。
ここは天界なのか。爆発の衝撃で吹き飛ばされたのか。
情報を求める眼差しに応えるように、か細い声は淡々と説明した。
爆発に巻き込まれたダイを保護し、かろうじて生命をつなぐことに成功したこと。
ダイにとっては数時間寝ていただけのような気分だが、実際は数週間が経過しており、その間に少しずつ傷が癒されたこと。
そして、天界が滅びかけていること。
完全な回復には間に合わず、滅亡する前に逃がすために目覚めさせたのだ。
話が進むにつれてダイの表情は険しくなっていった。
天界をも脅かす存在、大魔王バーンは倒れた。もう世界の危機は去ったはずだった。
「我々は邪悪な力に蝕まれています。魔界の――第三勢力と言うべき存在に」
つきつけられた無情な宣告にまだ幼さの残る少年の顔が陰る。
バーンの野望が潰えた今、第三勢力は動き出すに違いない。精霊に封じられていたヴェルザーの魂も解放されるはずだ。
生命をかけて守ったはずの地上の平和はすぐに破られてしまうだろう。
もっと地上の様子や魔界の情勢、第三勢力について知りたい。
そう思い手を伸ばしたダイの耳に、最期の力を振り絞ったであろうかすれた声が届いた。
「――に陽光の守りがあらんことを……」
言葉とともに、世界がさあっという音とともに色を失っていく。色が消え、透明になると、ダイの身体は虚空に放り出された。
彼の意識は落下する感覚に飲み込まれ、途切れた。
「目を、覚ましてください」
力無く横たわっていた小さな体がわずかに動いた。
黒い髪が揺れ、少年は瞼をゆっくりと開いた。自分の置かれている状況がわからずにパチパチと目を瞬かせる。
「……ここは?」
身を起こそうとすると、鉛を詰め込まれたかのような動きになってしまった。立ち上がって慎重に進んでいく。
雲のような白い靄が視界を遮り、冷たい空気が肌を包んでいる。思わず身ぶるいした彼は辺りを見回したが、生命の気配は感じられない。
黒の核晶の爆発に巻き込まれたはずだが、生き延びたのだろうか。それとも、生命を落としあの世に来てしまったのだろうか。
地面を踏む感触は頼りなく、まるで夢の世界を彷徨っているような心地だ。
あてもなく歩いていると再び小さな声が霧の彼方から響いた。
「竜の騎士、ダイよ」
声は今にも消えてしまいそうだ。ダイは耳を澄まして聞き取ろうとする。
「あなたは?」
「私は……天界の精霊の一人です」
ダイは目を丸くして唾を呑みこんだ。
ここは天界なのか。爆発の衝撃で吹き飛ばされたのか。
情報を求める眼差しに応えるように、か細い声は淡々と説明した。
爆発に巻き込まれたダイを保護し、かろうじて生命をつなぐことに成功したこと。
ダイにとっては数時間寝ていただけのような気分だが、実際は数週間が経過しており、その間に少しずつ傷が癒されたこと。
そして、天界が滅びかけていること。
完全な回復には間に合わず、滅亡する前に逃がすために目覚めさせたのだ。
話が進むにつれてダイの表情は険しくなっていった。
天界をも脅かす存在、大魔王バーンは倒れた。もう世界の危機は去ったはずだった。
「我々は邪悪な力に蝕まれています。魔界の――第三勢力と言うべき存在に」
つきつけられた無情な宣告にまだ幼さの残る少年の顔が陰る。
バーンの野望が潰えた今、第三勢力は動き出すに違いない。精霊に封じられていたヴェルザーの魂も解放されるはずだ。
生命をかけて守ったはずの地上の平和はすぐに破られてしまうだろう。
もっと地上の様子や魔界の情勢、第三勢力について知りたい。
そう思い手を伸ばしたダイの耳に、最期の力を振り絞ったであろうかすれた声が届いた。
「――に陽光の守りがあらんことを……」
言葉とともに、世界がさあっという音とともに色を失っていく。色が消え、透明になると、ダイの身体は虚空に放り出された。
彼の意識は落下する感覚に飲み込まれ、途切れた。
目を覚ましたダイは洞窟の中にいることに気づき、起き上がった。
身体が重い。
傷が癒えきっていないのか、体中が痛い。しばらく俊敏な動作はできないだろう。
外に出ても洞窟の中とさほど明るさは変わらなかった。暗い空にある光は弱々しい。
説明されずともわかる。
「ここが……魔界」
荒れ果てた大地とマグマが広がっている不毛の世界。
平穏など永遠に望めないような場所。
黒雲に閉ざされよどんだ空。
人工の太陽が光源となっているが、本物には遠く及ばない。生命を育む熱は感じられない。
『我が魔界にはすべての生物の源たる太陽がない』
『太陽……素晴らしい力だ。いかに我が魔力が強大でも、太陽だけは作り出すことができん』
宿敵の言葉がよみがえり、心に重くのしかかる。
魔物に襲われるかもしれず、ダイは竜の騎士の力を発現させようとした。
しかし、かろうじて生き延びたためか、竜魔人化の反動か、紋章は現れない。
「どうして……!」
このままでは第三勢力を止めるどころか自分の身を守ることすら難しいだろう。
懸念が的中し、魔物の群れが現れた。彼へと近寄るモンスターはみな強固な外皮や爪、牙を持ち、強そうである。逃げ道もふさがれている。
力が失われ、万全には程遠い今の状態では苦戦を強いられることになるだろう。
絶体絶命の獲物へと数匹が飛びかかった。
攻撃を食らうことも覚悟して身構える。
「え!?」
ダイが次の瞬間見たのは、轟音とともに立ち上った巨大な火柱だった。
盾のような外皮を持つ魔物があっという間に焼き払われる光景を全員が動きを止めて見つめたが、残った魔物は諦めず地を蹴った。
巨体からは想像もできないほどの素早さにダイが目を見開いたが、攻撃が少年に達するより先に飛び込んできた人物がいた。炎を放った相手だ。
拳を握りしめ、殴りつける。
どれほどの力がこめられていたのか、魔物はたった一撃で頭部を粉砕され、吹き飛び地に叩きつけられた。
ダイは己の眼を信じられなかった。
窮地を救った魔族の白銀の髪は長く、鍛え抜かれた身体を武闘家のような動きやすい装束に包んでいる。
長身から放たれる威圧感は彼の知る人物によく似ていた。
魔族の背へかすれた呟きが吐き出された。
「バーン……!?」
身体が重い。
傷が癒えきっていないのか、体中が痛い。しばらく俊敏な動作はできないだろう。
外に出ても洞窟の中とさほど明るさは変わらなかった。暗い空にある光は弱々しい。
説明されずともわかる。
「ここが……魔界」
荒れ果てた大地とマグマが広がっている不毛の世界。
平穏など永遠に望めないような場所。
黒雲に閉ざされよどんだ空。
人工の太陽が光源となっているが、本物には遠く及ばない。生命を育む熱は感じられない。
『我が魔界にはすべての生物の源たる太陽がない』
『太陽……素晴らしい力だ。いかに我が魔力が強大でも、太陽だけは作り出すことができん』
宿敵の言葉がよみがえり、心に重くのしかかる。
魔物に襲われるかもしれず、ダイは竜の騎士の力を発現させようとした。
しかし、かろうじて生き延びたためか、竜魔人化の反動か、紋章は現れない。
「どうして……!」
このままでは第三勢力を止めるどころか自分の身を守ることすら難しいだろう。
懸念が的中し、魔物の群れが現れた。彼へと近寄るモンスターはみな強固な外皮や爪、牙を持ち、強そうである。逃げ道もふさがれている。
力が失われ、万全には程遠い今の状態では苦戦を強いられることになるだろう。
絶体絶命の獲物へと数匹が飛びかかった。
攻撃を食らうことも覚悟して身構える。
「え!?」
ダイが次の瞬間見たのは、轟音とともに立ち上った巨大な火柱だった。
盾のような外皮を持つ魔物があっという間に焼き払われる光景を全員が動きを止めて見つめたが、残った魔物は諦めず地を蹴った。
巨体からは想像もできないほどの素早さにダイが目を見開いたが、攻撃が少年に達するより先に飛び込んできた人物がいた。炎を放った相手だ。
拳を握りしめ、殴りつける。
どれほどの力がこめられていたのか、魔物はたった一撃で頭部を粉砕され、吹き飛び地に叩きつけられた。
ダイは己の眼を信じられなかった。
窮地を救った魔族の白銀の髪は長く、鍛え抜かれた身体を武闘家のような動きやすい装束に包んでいる。
長身から放たれる威圧感は彼の知る人物によく似ていた。
魔族の背へかすれた呟きが吐き出された。
「バーン……!?」