米国大統領ボッシュ来日を引き金とし、勃発した対テロリスト戦争。
戦場と化した徳川ホテル東西南北の門は、ついに突破されることはなかった。
まだ残党による抵抗はあるものの、しけい荘住民の活躍によって主要メンバーを欠いた
者たちでは大統領までたどり着くことはほとんど不可能に近い。事実上、ドイルが担当す
る北門の勝利によって戦争は決着した。
「よくやってくれた……。しけい荘の彼らがいなければ、今頃ボッシュの命はなかったか
もしれんな」
モニター室。全ての終わりをようやく実感した園田は、素直にオリバを始めとするしけ
い荘の面々に感謝の念を覚えた。
もちろん隣では、ある意味では黒幕といえる光成が満面の笑みを浮かべている。
「いやァ~どの戦いも楽しめたわい。これほど堪能したのは本当に久しぶりじゃ。どうせ
なら、ホテルを全壊させるくらい派手にやって欲しかったがのう」
「徳川さんッ!」
園田の一喝に、さすがの徳川も肩をすぼめた。
「じょ、冗談じゃよ、冗談……」
「いいですか……。あなただって、一歩まちがえればカマキリの餌になっていたんですよ。
少しは反省して下さい」
「ン、分かっちょるよ、園田君」
絶対分かってない、と園田は心の奥底で深くため息をついた。
戦場と化した徳川ホテル東西南北の門は、ついに突破されることはなかった。
まだ残党による抵抗はあるものの、しけい荘住民の活躍によって主要メンバーを欠いた
者たちでは大統領までたどり着くことはほとんど不可能に近い。事実上、ドイルが担当す
る北門の勝利によって戦争は決着した。
「よくやってくれた……。しけい荘の彼らがいなければ、今頃ボッシュの命はなかったか
もしれんな」
モニター室。全ての終わりをようやく実感した園田は、素直にオリバを始めとするしけ
い荘の面々に感謝の念を覚えた。
もちろん隣では、ある意味では黒幕といえる光成が満面の笑みを浮かべている。
「いやァ~どの戦いも楽しめたわい。これほど堪能したのは本当に久しぶりじゃ。どうせ
なら、ホテルを全壊させるくらい派手にやって欲しかったがのう」
「徳川さんッ!」
園田の一喝に、さすがの徳川も肩をすぼめた。
「じょ、冗談じゃよ、冗談……」
「いいですか……。あなただって、一歩まちがえればカマキリの餌になっていたんですよ。
少しは反省して下さい」
「ン、分かっちょるよ、園田君」
絶対分かってない、と園田は心の奥底で深くため息をついた。
ホテルの玄関ロビーで満足げに葉巻を吸うオリバ。己の信じた仲間たちが、各々期待以
上の戦果を挙げたのだから、これほど嬉しいことはない。
東門、柳によって北沢軍団が総崩れとなる。
西門、スペックが巨大カマキリ退治に成功する。
南門、ドリアンが郭春成相手に貫禄勝ち。
北門、ドイルの手で最高幹部ガーレンが焼却された。
「先ほどの不吉な予感は、杞憂に過ぎなかったようだ。彼らは私の直感を超えてくれた」
しみじみと独りごちると、オリバは太い首で天井を仰いだ。
「今頃、シコルスキーは喜んでいるだろうな。戦わずに済んだ、と」
ボッシュに対する脅威がほぼ無力化したならば、これ以上ホテルに滞在する意味はない。
唯一出番がなかったシコルスキーをどう料理するか考えながら、オリバはソファを立とう
とする。
すると──
上の戦果を挙げたのだから、これほど嬉しいことはない。
東門、柳によって北沢軍団が総崩れとなる。
西門、スペックが巨大カマキリ退治に成功する。
南門、ドリアンが郭春成相手に貫禄勝ち。
北門、ドイルの手で最高幹部ガーレンが焼却された。
「先ほどの不吉な予感は、杞憂に過ぎなかったようだ。彼らは私の直感を超えてくれた」
しみじみと独りごちると、オリバは太い首で天井を仰いだ。
「今頃、シコルスキーは喜んでいるだろうな。戦わずに済んだ、と」
ボッシュに対する脅威がほぼ無力化したならば、これ以上ホテルに滞在する意味はない。
唯一出番がなかったシコルスキーをどう料理するか考えながら、オリバはソファを立とう
とする。
すると──
ぼこっ。
──ホテルの受付付近の床がうっすら隆起した。
最初から気づいたのはオリバだけだったが、変化が大きくなるにつれ、ホテル従業員も
異変に気づき始める
何者かが床下に潜んでいるのは明らか。緊張の面持ちで変化を観察するオリバ。
まもなく予想通り床は砕け散り、地下から一人の人間が飛び出した。
「ふぅ……汚れちゃったよ」
泥まみれのTシャツ、泥まみれのジーンズ、泥まみれのスニーカー。下水道を通ってき
たのだろう。侵入者の正体は身長170センチにも満たない、まだほんのわずかに顔に幼
さを残す少年だった。
対するオリバも動じることなく、侵入者とのコンタクトを試みる。
「ウェルカム、といいたいところが……さっそくガードマンとして質問だ。君はテロリス
トかね?」
「俺は刃牙ってんだ。テロリストじゃないぜ」
「フム、けっこうだ。ならば、なぜこのホテルに……?」
「いやァ、わざわざ人に話すことでもないんだけど……」照れ臭そうに、オリバから視線
を外す刃牙。「ちょっと大統領を誘拐しようかな……って」
平然ととんでもないことを口走る刃牙に、さすがのオリバも目を丸くする。
「ほう、大統領を誘拐とは……よほどの理由(わけ)があるようだな」
「少なくとも、俺にとってはね」
「よければ話してくれんか。私でよければ力になれるかもしれん」
すっかり交渉人(ネゴシエーター)と化したオリバ。
「実は俺、明日彼女と初デートなんだよ。とりあえず喫茶店にでも寄ろうかとプランを練
ってたんだけど、さっき確認したら財布に全然金がなくてさ。仕方ないから、大統領でも
誘拐して身代金でコーヒー代を要求しようと思ってね。ざっと10ドルほど」
「………」
オリバはもう、どうしていいのか分からなくなった。「若気の至り」だとかそういうレ
ベルではない。デート資金欲しさに大統領誘拐を企て、しかも即実行に移すなど、はっき
りいってしまえば、バカだ。
「ン~……例えば、金を使わないデートプランに変更することはできんのかね?」
「無理だね。アンタも結構強そうだけど、強さってのはそういうもんだろう?」
刃牙がオリバに接近する。
「俺を止めたきゃ、腕っぷしで来るんだな。それともアンタのバカでかい筋肉は──」刃
牙のハイキックがオリバにめり込む。「飾りかい?」
一瞬、天地が揺れた。小柄な体格からは予測もつかない威力。天下無敵のアンチェイン
が、たったの一発で片膝をつけさせられた。
さらに、強烈無比なサッカーボールキックがオリバの顎を蹴り上げる。が、大ダメージ
にもかかわらず、オリバは笑っていた。
「ブラボー刃牙、ようやく追いついたよ」
刃牙の後頭部を無造作に掴むと、顔面を力ずくで床に押し込む。
「マイネェムイズ、ビスケット・オリバ。地上最凶のアパートの大家だ」
オリバと刃牙。始まってしまった。なぜだか分からないが、始まってしまった。
最初から気づいたのはオリバだけだったが、変化が大きくなるにつれ、ホテル従業員も
異変に気づき始める
何者かが床下に潜んでいるのは明らか。緊張の面持ちで変化を観察するオリバ。
まもなく予想通り床は砕け散り、地下から一人の人間が飛び出した。
「ふぅ……汚れちゃったよ」
泥まみれのTシャツ、泥まみれのジーンズ、泥まみれのスニーカー。下水道を通ってき
たのだろう。侵入者の正体は身長170センチにも満たない、まだほんのわずかに顔に幼
さを残す少年だった。
対するオリバも動じることなく、侵入者とのコンタクトを試みる。
「ウェルカム、といいたいところが……さっそくガードマンとして質問だ。君はテロリス
トかね?」
「俺は刃牙ってんだ。テロリストじゃないぜ」
「フム、けっこうだ。ならば、なぜこのホテルに……?」
「いやァ、わざわざ人に話すことでもないんだけど……」照れ臭そうに、オリバから視線
を外す刃牙。「ちょっと大統領を誘拐しようかな……って」
平然ととんでもないことを口走る刃牙に、さすがのオリバも目を丸くする。
「ほう、大統領を誘拐とは……よほどの理由(わけ)があるようだな」
「少なくとも、俺にとってはね」
「よければ話してくれんか。私でよければ力になれるかもしれん」
すっかり交渉人(ネゴシエーター)と化したオリバ。
「実は俺、明日彼女と初デートなんだよ。とりあえず喫茶店にでも寄ろうかとプランを練
ってたんだけど、さっき確認したら財布に全然金がなくてさ。仕方ないから、大統領でも
誘拐して身代金でコーヒー代を要求しようと思ってね。ざっと10ドルほど」
「………」
オリバはもう、どうしていいのか分からなくなった。「若気の至り」だとかそういうレ
ベルではない。デート資金欲しさに大統領誘拐を企て、しかも即実行に移すなど、はっき
りいってしまえば、バカだ。
「ン~……例えば、金を使わないデートプランに変更することはできんのかね?」
「無理だね。アンタも結構強そうだけど、強さってのはそういうもんだろう?」
刃牙がオリバに接近する。
「俺を止めたきゃ、腕っぷしで来るんだな。それともアンタのバカでかい筋肉は──」刃
牙のハイキックがオリバにめり込む。「飾りかい?」
一瞬、天地が揺れた。小柄な体格からは予測もつかない威力。天下無敵のアンチェイン
が、たったの一発で片膝をつけさせられた。
さらに、強烈無比なサッカーボールキックがオリバの顎を蹴り上げる。が、大ダメージ
にもかかわらず、オリバは笑っていた。
「ブラボー刃牙、ようやく追いついたよ」
刃牙の後頭部を無造作に掴むと、顔面を力ずくで床に押し込む。
「マイネェムイズ、ビスケット・オリバ。地上最凶のアパートの大家だ」
オリバと刃牙。始まってしまった。なぜだか分からないが、始まってしまった。