光成と園田が、死闘を制したスペックのもとに駆け寄る。
「い、生きとるかっ?!」
「もうすぐパトカーが来る! しっかりしろッ!」
救急車はすでに警官やテロリストの搬送で手一杯のため、園田は機転を利かせ前もって
パトカーを呼んでいた。
「ハハ……元気、イッパイ……ダゼ……」
精一杯の虚勢を張るスペック。唇を動かすたびに口の中から血が滴り落ちる。
まもなく到着したパトカーにスペックと加納を乗せると、園田は改めて現況の整理に取
りかかる。
「アンチェイン……いや、しけい荘には本当に感謝せねばならんな。これで東西南北のう
ち、東、西、南からの攻撃は防げた……。あとは残る北門を守りきれば、我々の完全勝利
だッ!」
すると、光成の甲高い声が園田を呼ぶ。
「おォ~い、園田君。なにをやっておるんじゃ」
「はい?」
「モニター室で観戦の続きじゃ、続き。カマキリ以上の化け物が出ないとも限らんしのう。
ホッホッホ、こりゃあ血がたぎるわい」
もう少しで死ぬところだったのに、光成の観戦欲は一ミリも萎えてはいなかった。
「ほ、本当にこの人は……」
苦笑いを浮かべるしかない園田であった。
「い、生きとるかっ?!」
「もうすぐパトカーが来る! しっかりしろッ!」
救急車はすでに警官やテロリストの搬送で手一杯のため、園田は機転を利かせ前もって
パトカーを呼んでいた。
「ハハ……元気、イッパイ……ダゼ……」
精一杯の虚勢を張るスペック。唇を動かすたびに口の中から血が滴り落ちる。
まもなく到着したパトカーにスペックと加納を乗せると、園田は改めて現況の整理に取
りかかる。
「アンチェイン……いや、しけい荘には本当に感謝せねばならんな。これで東西南北のう
ち、東、西、南からの攻撃は防げた……。あとは残る北門を守りきれば、我々の完全勝利
だッ!」
すると、光成の甲高い声が園田を呼ぶ。
「おォ~い、園田君。なにをやっておるんじゃ」
「はい?」
「モニター室で観戦の続きじゃ、続き。カマキリ以上の化け物が出ないとも限らんしのう。
ホッホッホ、こりゃあ血がたぎるわい」
もう少しで死ぬところだったのに、光成の観戦欲は一ミリも萎えてはいなかった。
「ほ、本当にこの人は……」
苦笑いを浮かべるしかない園田であった。
西門攻略に失敗したケントたちテログループは、切り札のカマキリに味方の大部分をや
られたこともあり、その後あっけなく制圧された。
機動隊数人に取り押さえられ、もがくケント。
「さァ来るんだ、色々しゃべってもらわなきゃならんからな」
「ガッデムッ! アレンめ、アレンの奴はどこに行きやがった! あいつもタイホされた
のかッ?!」
「アレン……? この辺りのテロリストは全員逮捕したが、アレンなんてのはいなかった
ぞ。ウソばかり吐きやがって、いい加減観念しろ!」
「くっ……くそォッ! あいつさえ、あいつさえいなければァッ!」
逆上する大巨人と警察が格闘している頃、肝心のカマキリの生みの親はというと──
「いやはや、まさか敗けてしまうとはね。でかくしたみたところで、ムシは所詮ムシって
ことか」
──あらかじめ用意していたママチャリで逃走していた。
「しっかし、これからどうすっかねェ。……ペイン博士の研究チームに、また戻ってみる
かな」
られたこともあり、その後あっけなく制圧された。
機動隊数人に取り押さえられ、もがくケント。
「さァ来るんだ、色々しゃべってもらわなきゃならんからな」
「ガッデムッ! アレンめ、アレンの奴はどこに行きやがった! あいつもタイホされた
のかッ?!」
「アレン……? この辺りのテロリストは全員逮捕したが、アレンなんてのはいなかった
ぞ。ウソばかり吐きやがって、いい加減観念しろ!」
「くっ……くそォッ! あいつさえ、あいつさえいなければァッ!」
逆上する大巨人と警察が格闘している頃、肝心のカマキリの生みの親はというと──
「いやはや、まさか敗けてしまうとはね。でかくしたみたところで、ムシは所詮ムシって
ことか」
──あらかじめ用意していたママチャリで逃走していた。
「しっかし、これからどうすっかねェ。……ペイン博士の研究チームに、また戻ってみる
かな」
吉報は摩天楼を駆け上がり、ホテル最上階の大統領本陣にも伝えられる。ワインを嗜ん
だ赤ら顔で、上機嫌に笑うボッシュ。
「優秀なるボディガード諸君、どうやら憎きテロリズムの敗北はほぼ決定的のようだ。こ
れだよ、これこそが開拓精神だよ。君らの手腕を発揮する機会を与えられなかったのは残
念だがね」
天内がボッシュに微笑みかける。
「なにをおっしゃいます、大統領(プレジデント)。あなたは今こうして怪我一つするこ
となく、リラックスしてワインを楽しんでおられる。この事実こそ、我々がなにより職務
を全うしていると感じられる瞬間なのです。
そして、我々が戦闘をせずに済んでいるのはあなたのために集まった大勢の人間による
もの──すなわち大統領のご人徳の賜物に他なりません」
歯が浮くような台詞に、ボッシュはさらに気を良くする。やはり天内は人を喜ばせるツ
ボを心得ている。
二人のやり取りに、半ば呆れた目を向けるゲバル。
「……やれやれ、すっかり祝勝会ムードだな。しかし、どうやら俺たちにアクションスタ
ーの役は回ってきそうにないな、シコルスキー」
「まったくだ。テロリストをこの手でハントしてやりたかったがな」
口ではこういっているが、シコルスキーは「助かった」と心の中で何度も呟いていた。
だ赤ら顔で、上機嫌に笑うボッシュ。
「優秀なるボディガード諸君、どうやら憎きテロリズムの敗北はほぼ決定的のようだ。こ
れだよ、これこそが開拓精神だよ。君らの手腕を発揮する機会を与えられなかったのは残
念だがね」
天内がボッシュに微笑みかける。
「なにをおっしゃいます、大統領(プレジデント)。あなたは今こうして怪我一つするこ
となく、リラックスしてワインを楽しんでおられる。この事実こそ、我々がなにより職務
を全うしていると感じられる瞬間なのです。
そして、我々が戦闘をせずに済んでいるのはあなたのために集まった大勢の人間による
もの──すなわち大統領のご人徳の賜物に他なりません」
歯が浮くような台詞に、ボッシュはさらに気を良くする。やはり天内は人を喜ばせるツ
ボを心得ている。
二人のやり取りに、半ば呆れた目を向けるゲバル。
「……やれやれ、すっかり祝勝会ムードだな。しかし、どうやら俺たちにアクションスタ
ーの役は回ってきそうにないな、シコルスキー」
「まったくだ。テロリストをこの手でハントしてやりたかったがな」
口ではこういっているが、シコルスキーは「助かった」と心の中で何度も呟いていた。
──テロリストの『ボス』が濁り淀んだ心の声でささやく。
不甲斐ない奴らめ。
しかし、私の腹心の部下は全て北門に集結させている。
北沢軍団は最初から場を乱す程度にしか役立たないと分かっていた。腕が立つという殺
し屋郭春成も、結局は金銭でしか闘争理由(モチベーション)を見出せない薄汚いハイエ
ナに過ぎない。ケントの補佐をさせたアレンは「私がいれば大統領の殺害など朝飯前です」
などとうそぶいていたが、ろくな兵器を造れなかったにちがいない。
全ては前座。
全ては捨て駒。
全てはここから始まる。
そしてホテルになだれ込めさえすれば──私の勝利だ。
不甲斐ない奴らめ。
しかし、私の腹心の部下は全て北門に集結させている。
北沢軍団は最初から場を乱す程度にしか役立たないと分かっていた。腕が立つという殺
し屋郭春成も、結局は金銭でしか闘争理由(モチベーション)を見出せない薄汚いハイエ
ナに過ぎない。ケントの補佐をさせたアレンは「私がいれば大統領の殺害など朝飯前です」
などとうそぶいていたが、ろくな兵器を造れなかったにちがいない。
全ては前座。
全ては捨て駒。
全てはここから始まる。
そしてホテルになだれ込めさえすれば──私の勝利だ。
ホテル北門に立つ凶器人間、ヘクター・ドイル。彼はこれから最後の防衛戦に挑む。