「なに…なにを言ってるの、エレフ…」
信じられないといった様子で、ミーシャは変貌したエレフに近寄る。
「アルテミシア」
エレフ―――否。<冥王>タナトスは、優しげな微笑を浮かべる。
「ァノ仔カラノ伝言ダヨ…スマナカッタ、モゥ傍ニィテヤレナィ。ト」
「エレフ…」
「違ゥ。サッキカラ言ッテルジャナィカ。我ハ冥王―――タナトス」
その姿が不意に消える。その次の瞬間には、彼は奴隷部隊の兵士達の眼前に立っていた。
「あ、あ、あ…」
死を告げる紫の瞳に魅入られ、奴隷達はガチガチと歯を鳴らす。
「畏レルナ。死ハ救ィ―――残酷ナ運命カラノ解放」
例ェバ、キミ。そう言ってタナトスは、一人の若い男を指し示す。
「キミハ戦火ノ中デ、家族ヲ失ッタ…父モ、母モ、マダ幼ィ妹モ」
「う…うう…!」
「奴隷部隊ニ参加シタノモ、自由ヲ勝チ取ルタメデハナィ―――死ニ場所ヲ探シテイタンダロゥ?」
「や、やめろ…やめてくれ!」
男は目を閉じ、両手で耳を塞ぐが、タナトスはゆっくりと彼に手を翳した。
「怖ガラナクティィンダヨ。我ハキミヲ愛シテルンダ。キミヲ救ィタィダケナンダヨ」
「救う…俺を…」
「ソゥ。救ォゥ」
サァ。我ガ手ニ抱カレルガィィ。男は言われるがままに、タナトスの腕に縋り付いた。
「冥府デ、家族ガ待ッテイルヨ」
「家族…ああ…みんな…」
タナトスの瞳が輝く。そっと腕を離した瞬間、男はぐらりとよろめき、倒れ伏した。周囲の者達が駆け寄るが、彼の
身体に触れた瞬間、慌てて手を引っ込めた。
「…死んでる…!」
「う…嘘だろ…」
狼狽する奴隷達。彼らに向けて、タナトスは語りかける。
「怯ェルナ、仔等ヨ―――彼ハ逝ッタ。只、逝ッタノダ」
そう―――男は逝った。まるで母の腕に抱かれる赤子のように、安らかな死に顔だった。
タナトスの姿がまたしても陽炎のように揺らぎ、消え失せる。
「次ハ…キミ達ダ」
「あ…」
そこにいたのは、幼い兄妹―――フラーテルと、ソロル。
「冥府トハ即チ楽園。サァ…楽園ヘ還ロゥ」
二人は恐怖すら感じることができず、ただ立ち尽くしたまま自らに向かって伸びてくる死神の手を見つめるだけだ。
その刹那、タナトスの背後で閃光が激しく迸る。思わず二人から手を引き、タナトスはそれを見た。
信じられないといった様子で、ミーシャは変貌したエレフに近寄る。
「アルテミシア」
エレフ―――否。<冥王>タナトスは、優しげな微笑を浮かべる。
「ァノ仔カラノ伝言ダヨ…スマナカッタ、モゥ傍ニィテヤレナィ。ト」
「エレフ…」
「違ゥ。サッキカラ言ッテルジャナィカ。我ハ冥王―――タナトス」
その姿が不意に消える。その次の瞬間には、彼は奴隷部隊の兵士達の眼前に立っていた。
「あ、あ、あ…」
死を告げる紫の瞳に魅入られ、奴隷達はガチガチと歯を鳴らす。
「畏レルナ。死ハ救ィ―――残酷ナ運命カラノ解放」
例ェバ、キミ。そう言ってタナトスは、一人の若い男を指し示す。
「キミハ戦火ノ中デ、家族ヲ失ッタ…父モ、母モ、マダ幼ィ妹モ」
「う…うう…!」
「奴隷部隊ニ参加シタノモ、自由ヲ勝チ取ルタメデハナィ―――死ニ場所ヲ探シテイタンダロゥ?」
「や、やめろ…やめてくれ!」
男は目を閉じ、両手で耳を塞ぐが、タナトスはゆっくりと彼に手を翳した。
「怖ガラナクティィンダヨ。我ハキミヲ愛シテルンダ。キミヲ救ィタィダケナンダヨ」
「救う…俺を…」
「ソゥ。救ォゥ」
サァ。我ガ手ニ抱カレルガィィ。男は言われるがままに、タナトスの腕に縋り付いた。
「冥府デ、家族ガ待ッテイルヨ」
「家族…ああ…みんな…」
タナトスの瞳が輝く。そっと腕を離した瞬間、男はぐらりとよろめき、倒れ伏した。周囲の者達が駆け寄るが、彼の
身体に触れた瞬間、慌てて手を引っ込めた。
「…死んでる…!」
「う…嘘だろ…」
狼狽する奴隷達。彼らに向けて、タナトスは語りかける。
「怯ェルナ、仔等ヨ―――彼ハ逝ッタ。只、逝ッタノダ」
そう―――男は逝った。まるで母の腕に抱かれる赤子のように、安らかな死に顔だった。
タナトスの姿がまたしても陽炎のように揺らぎ、消え失せる。
「次ハ…キミ達ダ」
「あ…」
そこにいたのは、幼い兄妹―――フラーテルと、ソロル。
「冥府トハ即チ楽園。サァ…楽園ヘ還ロゥ」
二人は恐怖すら感じることができず、ただ立ち尽くしたまま自らに向かって伸びてくる死神の手を見つめるだけだ。
その刹那、タナトスの背後で閃光が激しく迸る。思わず二人から手を引き、タナトスはそれを見た。
「<死者蘇生>―――<青眼究極竜>!」
三つ首の竜を背に、海馬はタナトスを睨み付けていた。そして、叫ぶ。
「オルフ、シリウス!部隊をまとめて逃げろ!」
「し、しかし!閣下は…アメジストス様は一体…」
「奴はもはやエレフではない―――この場の全員を殺しかねんぞ!」
「そんな…」
「逃げろと言っているんだ!」
「―――くっ…皆の者、退却だ!この場から離れろ!」
その声が契機となり、奴隷部隊の者達が我先にと駆け出していく。しかし、その中でたった二人。
フラーテルとソロルだけは、その場から動かなかった。
「…お前達も行け。ここにいても、危険なだけだ」
「皇帝様…だけど僕は…僕らは…あなたの御傍に…」
海馬はそっと首を振り、そして笑った。不敵でも皮肉でもなく、それはただの微笑だった。
「生きろ―――お前達は、どこまでも生きるんだ。生き延びるんだ」
「生きる…」
「そうだ、生きろ。そして、誰かに示された道でなく…自分自身の地平線を目指せ!」
「―――行こう、ソロル!」
フラーテルは妹の手を握りしめ、走る。その小さな姿はすぐに周囲の混乱に紛れて見えなくなった。
そしてもう一つの陣営である、アルカディア軍。
「…カストルさん、あんた達も兵を連れて逃げろ。大勢いても被害が大きくなるだけだ」
闇遊戯は険しく顔を引き締めて言った。
「ミーシャと…レオンティウスも頼む。彼はもう、闘える状態じゃない」
「うむ―――陛下、アルテミシア様。こちらへ!」
「…………」
「陛下!」
レオンティウスは死人のような顔で立ち上がり、馬に跨る。カストルは不安げにそれを見届けながらも、イサドラの
亡骸を抱え上げる。
「アルテミシア様、私がお守りいたします―――行きましょう」
「けど、エレフが…それに、皆は…」
「心配すんな。妙なモンが取り憑いた相手なら、オレや遊戯は専門家だからな!」
「おうよ。あのバカの頭でもぶん殴って、正気に戻させてやるさ」
城之内が威勢よく胸を張り、オリオンもそれに続く。闇遊戯も不敵に笑った。
「オレ達は、必ず生きて戻る―――だから、待っていてくれ」
「分かったわ…気をつけてね」
三人は力強く指を立てて歩いていく。それを見届けて、カストルは号令を放つ。
「全軍退却!アルカディアへ戻るぞ!」
それと同時に、アルカディア兵達も撤退を始める。その喧騒をよそに、闇遊戯達は海馬の元へと辿り着いた。
「何をしに来た、遊戯」
「海馬。ここはオレ達も共に闘おう。いくらお前でも、その身体で一人で闘うなど無茶だ」
「―――貴様らの助けなど、必要ない」
海馬は吐き捨て、大地を踏み付ける。
「奴とは、オレがケリを付ける」
その一部始終を静かに見守っていたタナトスは、悲しげに目を細める。
「退ィテクレナィカ、海馬。キミトハ闘ゥツモリハナィ―――キミハ我ノ救ィガナクトモ生キテユケル強キ人間ダ。
ナラバ、敢ェテ死ニ急グコトモナィダロ?キミノ後ロニィル者達モ同ジダ。死ヲ恐レズトモ、本意デハナカロゥ…
我ハァクマデモ、生ニ嘆キ死ヲ望ム者ダケデモ救ィタィト」
「黙れ。愚神が…!」
海馬はワナワナと拳を震わせ、眼前の死神をその眼光で射抜く。
「エレフ―――そのような下賤な死神に身も心も奪われるくらいならば、いっそ我が手で貴様を砕いてくれるわ!」
主の憤怒が伝わったかのように、究極竜が三つの口から激しい雄叫びを放つ。
「砕け散れ、死神!―――アルティメット・バースト!」
咆哮と共に撃ち出された、破壊の光。だが次の瞬間、信じられない光景を海馬は目の当たりにした。
「ハァッ!」
タナトスは右手を突き出し、その掌で究極竜の一撃を受け止めていた。そのままアッパーカットの要領で、破壊光線
を空へ向けて弾き飛ばす。
「なん…だと…」
「海馬…エレフニ対スル友情ヲ、キミカラ確カニ感ジタ…」
タナトスは語る。
「ダカラキミハ怒ッティルンダネ。友ヲ奪ッタ我ヲ―――本当ニ、スマナィ」
ケド。
「其レデモ、彼ハ待チ望ンディタ我ガ器。還スコトハ出来ナィ。ソシテ、斃サレル訳ニモィカナィ」
「くっ…」
タナトスの瞳が大きく見開かれ、妖しく輝く。漆黒の闘気が迸り、世界が震える。
「強キ者ニモ、弱キ者ニモ、賢キ者ニモ、愚カシキ者ニモ、死ハ万物ニ平等…」
黒き焔が究極竜に巻き付き、一瞬にして細胞の一つまで消し炭に変えた。
「ぐわああぁぁぁーーーーーーーっ!」
海馬は自らが焼かれたかのような苦痛に絶叫し、倒れ伏した。それを見つめ、タナトスは言い放つ。
「死(タナトス)ハ、誰モ逃ガサナィ」
「この野郎ォォーーーっ!」
オリオンが猛り、星屑の矢を構える。
「エレフの身体で…好き勝手なことやってんじゃねえ!」
放たれた星屑の矢。それは一筋の流星と化して、タナトスを確かに射抜いた。
「星女神(アストラ)ガ与ェシ星屑ノ矢カ…」
だが、タナトスは眉一つ動かすことなく矢を引き抜き、それをぽっきりとへし折った。
「残念ナガラ、今ノキミハ満身創痍ダ。其レデハ星屑ノ矢ノ力モ半減シテシマゥヨ」
蠅を払うような動作で腕を振る。ただそれだけで烈風が吹き荒び、オリオンは羽毛のように跳ね飛ばされた。
「くそっ…よくもオリオンを殺りやがったな!(※死んでません)次はオレが相手だ!」
城之内の闘志に呼応するかのように、雷を纏う騎士が顕現する。
「―――<ギルフォード・ザ・ライトニング>!オレのデッキ最強のモンスターだ!」
雷光の騎士は雄々しく剣を振り上げ、勢いよくタナトスに向けて振り下ろす―――だが。
タナトスはその剛剣を、人差し指と中指で挟み込む。たったそれだけで、もはや微動だにしない。
そして軽く指を捻ると、巨大な剣がまるでマッチ棒のように根元から折れる。そのまま貫手でギルフォードの心臓に
風穴を開け、彼を一瞬で消し飛ばす。愕然とする城之内に対し、額と額が触れ合うほどに顔を近づける。
「城之内。キミハ好マシィ男ダガ―――勇気ト無謀ノ違ィハ知ッテォィタ方ガィィ」
トン、と。何気なく城之内の胸板を指先で叩いた。それだけでその身体は、大砲で撃ち出されたような勢いで大地に
叩き付けられた。そしてタナトスは、闇遊戯へと視線を向ける。
いや―――正確には闇遊戯ではなく、その首にかけられた千年パズルへ。
「先程カラ気ニナッティタケレド、キミノ持ツ其ノペンダント―――其レハ、闇ノ力ニテ産マレ出シ物ダネ。人間界
ニ在ッテハナラナィ物ダヨ、其レハ」
「…………それが、どうした」
「我ニハ分カルンダ。ソシテキミモ、現世ニ存在シテハナラヌ古ノ亡霊…」
タナトスは、ゆっくりと手を差し伸べる。
「我ト還ロゥ。キミノ眠ルベキ地―――冥府ヘ」
「悪いな。そいつは遠慮させてもらうぜ!」
闇遊戯は一枚のカードを天に向けて翳す。それは三幻神最後の一柱にして、最強の神!
「光臨せよ!不滅にして無敵、あらゆる神の頂点たる太陽の翼!」
夜空を煌々と照らし、それは大きく翼を広げる。
「オルフ、シリウス!部隊をまとめて逃げろ!」
「し、しかし!閣下は…アメジストス様は一体…」
「奴はもはやエレフではない―――この場の全員を殺しかねんぞ!」
「そんな…」
「逃げろと言っているんだ!」
「―――くっ…皆の者、退却だ!この場から離れろ!」
その声が契機となり、奴隷部隊の者達が我先にと駆け出していく。しかし、その中でたった二人。
フラーテルとソロルだけは、その場から動かなかった。
「…お前達も行け。ここにいても、危険なだけだ」
「皇帝様…だけど僕は…僕らは…あなたの御傍に…」
海馬はそっと首を振り、そして笑った。不敵でも皮肉でもなく、それはただの微笑だった。
「生きろ―――お前達は、どこまでも生きるんだ。生き延びるんだ」
「生きる…」
「そうだ、生きろ。そして、誰かに示された道でなく…自分自身の地平線を目指せ!」
「―――行こう、ソロル!」
フラーテルは妹の手を握りしめ、走る。その小さな姿はすぐに周囲の混乱に紛れて見えなくなった。
そしてもう一つの陣営である、アルカディア軍。
「…カストルさん、あんた達も兵を連れて逃げろ。大勢いても被害が大きくなるだけだ」
闇遊戯は険しく顔を引き締めて言った。
「ミーシャと…レオンティウスも頼む。彼はもう、闘える状態じゃない」
「うむ―――陛下、アルテミシア様。こちらへ!」
「…………」
「陛下!」
レオンティウスは死人のような顔で立ち上がり、馬に跨る。カストルは不安げにそれを見届けながらも、イサドラの
亡骸を抱え上げる。
「アルテミシア様、私がお守りいたします―――行きましょう」
「けど、エレフが…それに、皆は…」
「心配すんな。妙なモンが取り憑いた相手なら、オレや遊戯は専門家だからな!」
「おうよ。あのバカの頭でもぶん殴って、正気に戻させてやるさ」
城之内が威勢よく胸を張り、オリオンもそれに続く。闇遊戯も不敵に笑った。
「オレ達は、必ず生きて戻る―――だから、待っていてくれ」
「分かったわ…気をつけてね」
三人は力強く指を立てて歩いていく。それを見届けて、カストルは号令を放つ。
「全軍退却!アルカディアへ戻るぞ!」
それと同時に、アルカディア兵達も撤退を始める。その喧騒をよそに、闇遊戯達は海馬の元へと辿り着いた。
「何をしに来た、遊戯」
「海馬。ここはオレ達も共に闘おう。いくらお前でも、その身体で一人で闘うなど無茶だ」
「―――貴様らの助けなど、必要ない」
海馬は吐き捨て、大地を踏み付ける。
「奴とは、オレがケリを付ける」
その一部始終を静かに見守っていたタナトスは、悲しげに目を細める。
「退ィテクレナィカ、海馬。キミトハ闘ゥツモリハナィ―――キミハ我ノ救ィガナクトモ生キテユケル強キ人間ダ。
ナラバ、敢ェテ死ニ急グコトモナィダロ?キミノ後ロニィル者達モ同ジダ。死ヲ恐レズトモ、本意デハナカロゥ…
我ハァクマデモ、生ニ嘆キ死ヲ望ム者ダケデモ救ィタィト」
「黙れ。愚神が…!」
海馬はワナワナと拳を震わせ、眼前の死神をその眼光で射抜く。
「エレフ―――そのような下賤な死神に身も心も奪われるくらいならば、いっそ我が手で貴様を砕いてくれるわ!」
主の憤怒が伝わったかのように、究極竜が三つの口から激しい雄叫びを放つ。
「砕け散れ、死神!―――アルティメット・バースト!」
咆哮と共に撃ち出された、破壊の光。だが次の瞬間、信じられない光景を海馬は目の当たりにした。
「ハァッ!」
タナトスは右手を突き出し、その掌で究極竜の一撃を受け止めていた。そのままアッパーカットの要領で、破壊光線
を空へ向けて弾き飛ばす。
「なん…だと…」
「海馬…エレフニ対スル友情ヲ、キミカラ確カニ感ジタ…」
タナトスは語る。
「ダカラキミハ怒ッティルンダネ。友ヲ奪ッタ我ヲ―――本当ニ、スマナィ」
ケド。
「其レデモ、彼ハ待チ望ンディタ我ガ器。還スコトハ出来ナィ。ソシテ、斃サレル訳ニモィカナィ」
「くっ…」
タナトスの瞳が大きく見開かれ、妖しく輝く。漆黒の闘気が迸り、世界が震える。
「強キ者ニモ、弱キ者ニモ、賢キ者ニモ、愚カシキ者ニモ、死ハ万物ニ平等…」
黒き焔が究極竜に巻き付き、一瞬にして細胞の一つまで消し炭に変えた。
「ぐわああぁぁぁーーーーーーーっ!」
海馬は自らが焼かれたかのような苦痛に絶叫し、倒れ伏した。それを見つめ、タナトスは言い放つ。
「死(タナトス)ハ、誰モ逃ガサナィ」
「この野郎ォォーーーっ!」
オリオンが猛り、星屑の矢を構える。
「エレフの身体で…好き勝手なことやってんじゃねえ!」
放たれた星屑の矢。それは一筋の流星と化して、タナトスを確かに射抜いた。
「星女神(アストラ)ガ与ェシ星屑ノ矢カ…」
だが、タナトスは眉一つ動かすことなく矢を引き抜き、それをぽっきりとへし折った。
「残念ナガラ、今ノキミハ満身創痍ダ。其レデハ星屑ノ矢ノ力モ半減シテシマゥヨ」
蠅を払うような動作で腕を振る。ただそれだけで烈風が吹き荒び、オリオンは羽毛のように跳ね飛ばされた。
「くそっ…よくもオリオンを殺りやがったな!(※死んでません)次はオレが相手だ!」
城之内の闘志に呼応するかのように、雷を纏う騎士が顕現する。
「―――<ギルフォード・ザ・ライトニング>!オレのデッキ最強のモンスターだ!」
雷光の騎士は雄々しく剣を振り上げ、勢いよくタナトスに向けて振り下ろす―――だが。
タナトスはその剛剣を、人差し指と中指で挟み込む。たったそれだけで、もはや微動だにしない。
そして軽く指を捻ると、巨大な剣がまるでマッチ棒のように根元から折れる。そのまま貫手でギルフォードの心臓に
風穴を開け、彼を一瞬で消し飛ばす。愕然とする城之内に対し、額と額が触れ合うほどに顔を近づける。
「城之内。キミハ好マシィ男ダガ―――勇気ト無謀ノ違ィハ知ッテォィタ方ガィィ」
トン、と。何気なく城之内の胸板を指先で叩いた。それだけでその身体は、大砲で撃ち出されたような勢いで大地に
叩き付けられた。そしてタナトスは、闇遊戯へと視線を向ける。
いや―――正確には闇遊戯ではなく、その首にかけられた千年パズルへ。
「先程カラ気ニナッティタケレド、キミノ持ツ其ノペンダント―――其レハ、闇ノ力ニテ産マレ出シ物ダネ。人間界
ニ在ッテハナラナィ物ダヨ、其レハ」
「…………それが、どうした」
「我ニハ分カルンダ。ソシテキミモ、現世ニ存在シテハナラヌ古ノ亡霊…」
タナトスは、ゆっくりと手を差し伸べる。
「我ト還ロゥ。キミノ眠ルベキ地―――冥府ヘ」
「悪いな。そいつは遠慮させてもらうぜ!」
闇遊戯は一枚のカードを天に向けて翳す。それは三幻神最後の一柱にして、最強の神!
「光臨せよ!不滅にして無敵、あらゆる神の頂点たる太陽の翼!」
夜空を煌々と照らし、それは大きく翼を広げる。
「この日輪の輝きを恐れぬのなら、かかってこい!太陽神―――<ラーの翼神竜>!」
生命の象徴たる日輪。その金色の輝きと大いなる焔を宿す巨大な鷹。圧倒的な神気が世界を満たし、灼熱の風が
大地を駆け抜ける。灰燼と化すまで闘い、灰燼と化してなおその裡より蘇る伝説の不死鳥。
頂点の中の頂点―――太陽神ラー!
「太陽の前に消え去れ、冥王よ―――ゴッド・フェニックス!」
ラーは咆哮し、その全身が獄炎と化す。遍く全てを焼き尽くす焔はタナトスへと襲い掛かり、その身を呑み込んだ。
火柱は天高く燃え上がり、熱風が闇遊戯の肌をも焼いていく。
「やったか…」
だが。
「コノ力…マサニ太陽カ。フフ…ケレド、太陽ノ光モマタ、闇ノ前デハ無力。水辺ノ儚キ水泡ニ過ギヌ」
焔の中で、タナトスは笑っていた。
「吹キ荒レロ。永遠ナル理力ノ吹雪ヨ―――」
その全身から迸る魔力が、絶対零度の冷気と化す。
「―――エターナル・フォース・ブリザード!」
一瞬だった。天を焦がす焔は刹那で凍り付き、砕け散る。無数の氷の破片と化したラーは月と星の灯りに照らされ、
美しく煌きながら散っていった。
「バカな…ラーが、こうも簡単に破れるだと…!」
「ココマデダヨ、古ノ王(ファラオ)…フンッ!」
「アッー!」
タナトスから放たれた衝撃波が、闇遊戯を吹き飛ばす。息が止まるほどに地に叩き伏せられ、呻きながら転がる。
「…ゴメンヨ。痛ィ思ィナドサセタクナカッタノニ」
「う…うう…」
苦鳴を漏らす闇遊戯―――否。その姿からは彼特有の険しさが消え、年相応の少年の顔となっていた。
「フム。ドゥヤラ、今ノ衝撃デ人格ガ入レ替ワッタカ…ソレナラ好都合ダ」
タナトスはそっと千年パズルに手をかける。その腕を、遊戯は渾身の力で掴んだ。
「ダメだ…パズル…は…もう一人のボクは…渡さ…ない…」
「何度モ言ワセナィデクレ」
タナトスはあっさりと遊戯の腕を振り解き、千年パズルを奪い取った。
「死者ハ冥府デ眠ルベキ―――現世ニ留マッテハナラヌ」
「…そんなことは…分かってる…けれど、今はまだ…」
「キミモ、疲レタロゥ…少シ眠リナサィ」
掌を遊戯の眼前に翳し、タナトスは微笑む。どこまでも優しく―――残酷に。
「ォ休ミ。ソシテ、ォ別レダ。二度ト会ゥコトモナカロゥ…キミガ天命ヲ全ゥスル、ソノ時マデ」
急激な睡魔が遊戯を襲う。意識を失う寸前に目に焼きついたのは、タナトスの微笑。
そして彼の手に握られた、自らの半身―――
大地を駆け抜ける。灰燼と化すまで闘い、灰燼と化してなおその裡より蘇る伝説の不死鳥。
頂点の中の頂点―――太陽神ラー!
「太陽の前に消え去れ、冥王よ―――ゴッド・フェニックス!」
ラーは咆哮し、その全身が獄炎と化す。遍く全てを焼き尽くす焔はタナトスへと襲い掛かり、その身を呑み込んだ。
火柱は天高く燃え上がり、熱風が闇遊戯の肌をも焼いていく。
「やったか…」
だが。
「コノ力…マサニ太陽カ。フフ…ケレド、太陽ノ光モマタ、闇ノ前デハ無力。水辺ノ儚キ水泡ニ過ギヌ」
焔の中で、タナトスは笑っていた。
「吹キ荒レロ。永遠ナル理力ノ吹雪ヨ―――」
その全身から迸る魔力が、絶対零度の冷気と化す。
「―――エターナル・フォース・ブリザード!」
一瞬だった。天を焦がす焔は刹那で凍り付き、砕け散る。無数の氷の破片と化したラーは月と星の灯りに照らされ、
美しく煌きながら散っていった。
「バカな…ラーが、こうも簡単に破れるだと…!」
「ココマデダヨ、古ノ王(ファラオ)…フンッ!」
「アッー!」
タナトスから放たれた衝撃波が、闇遊戯を吹き飛ばす。息が止まるほどに地に叩き伏せられ、呻きながら転がる。
「…ゴメンヨ。痛ィ思ィナドサセタクナカッタノニ」
「う…うう…」
苦鳴を漏らす闇遊戯―――否。その姿からは彼特有の険しさが消え、年相応の少年の顔となっていた。
「フム。ドゥヤラ、今ノ衝撃デ人格ガ入レ替ワッタカ…ソレナラ好都合ダ」
タナトスはそっと千年パズルに手をかける。その腕を、遊戯は渾身の力で掴んだ。
「ダメだ…パズル…は…もう一人のボクは…渡さ…ない…」
「何度モ言ワセナィデクレ」
タナトスはあっさりと遊戯の腕を振り解き、千年パズルを奪い取った。
「死者ハ冥府デ眠ルベキ―――現世ニ留マッテハナラヌ」
「…そんなことは…分かってる…けれど、今はまだ…」
「キミモ、疲レタロゥ…少シ眠リナサィ」
掌を遊戯の眼前に翳し、タナトスは微笑む。どこまでも優しく―――残酷に。
「ォ休ミ。ソシテ、ォ別レダ。二度ト会ゥコトモナカロゥ…キミガ天命ヲ全ゥスル、ソノ時マデ」
急激な睡魔が遊戯を襲う。意識を失う寸前に目に焼きついたのは、タナトスの微笑。
そして彼の手に握られた、自らの半身―――
死の神にして冥府の王タナトス―――
そして彼に挑む、死すべき者達―――
人の世の戦乱は終わりを告げて、神と人の闘い―――<死人戦争>が始まる―――
限りなき命を持つ神と、限りある命を燃やす人間―――
神が人を殺すのか、人が神を殺すのか―――
運命の女神は今なお、黙したまま、何も語らず―――
そして彼に挑む、死すべき者達―――
人の世の戦乱は終わりを告げて、神と人の闘い―――<死人戦争>が始まる―――
限りなき命を持つ神と、限りある命を燃やす人間―――
神が人を殺すのか、人が神を殺すのか―――
運命の女神は今なお、黙したまま、何も語らず―――