東門に設置された監視カメラが、モニター室に陣取る徳川光成と園田盛男に柳の勝利を
報告する。
「ほっほっほ、さすがじゃのう。あの暗器メーカー“クードー”で史上ナンバーワンとい
われるだけのことはあるわい」
「人間じゃない……。北沢軍団をたった一人で退けてしまうとは……」
喜びも束の間、すぐさま部下の手によって新手の情報が舞い込む。
「園田警視正ッ!」
「どうした」
「機動隊が突破され、南門にテロリストが迫っているとの情報がッ!」
「南門か……。たしか、しけい荘ではドリアン海王が担当していたな」
園田も柔道家のはしくれとして、海王の名については多少の知識を持つ。このため、東
西南北を守護するしけい荘メンバー四名の中で彼がもっとも信頼を置いていたのは、ドリ
アンだった。
「ミスタードリアンは中国拳法の達人だ。さほど問題はあるまい」
「それが、その……」
「どうした?」
「実はテロリストも中国拳法の使い手なのです」
「──なんだとッ?!」
予想すらしなかった中国拳法同士という組み合わせに、身を乗り出す光成。
「こりゃまた面白そうな対戦カードじゃのう! いったい、敵はなんという名じゃ?」
園田の部下は息を飲み込んでから、ゆっくりと告げた。
「殺し屋……郭春成」
報告する。
「ほっほっほ、さすがじゃのう。あの暗器メーカー“クードー”で史上ナンバーワンとい
われるだけのことはあるわい」
「人間じゃない……。北沢軍団をたった一人で退けてしまうとは……」
喜びも束の間、すぐさま部下の手によって新手の情報が舞い込む。
「園田警視正ッ!」
「どうした」
「機動隊が突破され、南門にテロリストが迫っているとの情報がッ!」
「南門か……。たしか、しけい荘ではドリアン海王が担当していたな」
園田も柔道家のはしくれとして、海王の名については多少の知識を持つ。このため、東
西南北を守護するしけい荘メンバー四名の中で彼がもっとも信頼を置いていたのは、ドリ
アンだった。
「ミスタードリアンは中国拳法の達人だ。さほど問題はあるまい」
「それが、その……」
「どうした?」
「実はテロリストも中国拳法の使い手なのです」
「──なんだとッ?!」
予想すらしなかった中国拳法同士という組み合わせに、身を乗り出す光成。
「こりゃまた面白そうな対戦カードじゃのう! いったい、敵はなんという名じゃ?」
園田の部下は息を飲み込んでから、ゆっくりと告げた。
「殺し屋……郭春成」
機動隊の血で染め上げた己が拳を、美味でも堪能するように舌で舐める拳法家。彼を雇
ったテロリストたちですら、その姿に戦慄を覚えた。
「つまらねェ仕事だぜ。で、あとはホテルに乗り込んで大統領を殺ればいいんだろ?」
「あぁ、アンタの拳をボッシュのクソヤロウに叩き込んでくれ。警備は厳しいだろうがア
ンタなら問題ないはずだ」
「了解。ま、邪魔する奴らは全員ブッ殺しちまえば、問題ねぇでしょ。当然、殺した分だ
け報酬は頂くがな」
殺し屋、郭春成。身につけた中国拳法を駆使し、仕事の一切を素手で行う。
武術家としての才能はもちろん、生まれついて殺しを全くためらわない精神性を持ち合
わせる彼にとって、殺し屋はまさしく天職だといえる。彼の手にかかった犠牲者は数え切
れない。
さわやかな風貌とは裏腹に、貪欲に血と金を求める春成を、人々はいつしか「狂獣」と
呼んだ。
ったテロリストたちですら、その姿に戦慄を覚えた。
「つまらねェ仕事だぜ。で、あとはホテルに乗り込んで大統領を殺ればいいんだろ?」
「あぁ、アンタの拳をボッシュのクソヤロウに叩き込んでくれ。警備は厳しいだろうがア
ンタなら問題ないはずだ」
「了解。ま、邪魔する奴らは全員ブッ殺しちまえば、問題ねぇでしょ。当然、殺した分だ
け報酬は頂くがな」
殺し屋、郭春成。身につけた中国拳法を駆使し、仕事の一切を素手で行う。
武術家としての才能はもちろん、生まれついて殺しを全くためらわない精神性を持ち合
わせる彼にとって、殺し屋はまさしく天職だといえる。彼の手にかかった犠牲者は数え切
れない。
さわやかな風貌とは裏腹に、貪欲に血と金を求める春成を、人々はいつしか「狂獣」と
呼んだ。
徳川ホテル南門──。
ドリアンは視認せぬうちから、警戒に値する殺気を感知していた。足手まといにしかな
らない警官を退避させ、単独で敵を待ち受ける。
冷たい夜風が強く吹きつけると同時に、二人の戦士が互いの存在を肉眼に認めた。
一歩ずつ、ゆったりと間合いが縮まってゆく。
距離五メートルというところで、両者は足を止めた。
「門番はジジィ一人かよ。老い先短ぇのに、わざわざブッ殺されるためにつっ立ってると
はご苦労なこった」
春成の過激な挑発に、ドリアンは寂しげにため息をついた。
「もし私が家庭を持っていたならば、ちょうど君ぐらいの年齢の孫がいたことだろう。ほ
ら、キャンディをあげよう」
「……あァ?」
無邪気な笑顔で話しかけ、丸いキャンディを差し出すドリアン。
呆気に取られ、呆然とする春成。
ドリアンは視認せぬうちから、警戒に値する殺気を感知していた。足手まといにしかな
らない警官を退避させ、単独で敵を待ち受ける。
冷たい夜風が強く吹きつけると同時に、二人の戦士が互いの存在を肉眼に認めた。
一歩ずつ、ゆったりと間合いが縮まってゆく。
距離五メートルというところで、両者は足を止めた。
「門番はジジィ一人かよ。老い先短ぇのに、わざわざブッ殺されるためにつっ立ってると
はご苦労なこった」
春成の過激な挑発に、ドリアンは寂しげにため息をついた。
「もし私が家庭を持っていたならば、ちょうど君ぐらいの年齢の孫がいたことだろう。ほ
ら、キャンディをあげよう」
「……あァ?」
無邪気な笑顔で話しかけ、丸いキャンディを差し出すドリアン。
呆気に取られ、呆然とする春成。
──若い。
ドリアンの握力で一瞬にして粉末と化すキャンディ。それを春成めがけて強烈に吹きつ
ける。
「ぐわァッ!」
とっさに目をカバーした春成だが、すでにドリアンはエリアに侵入していた。
「て、てめぇ──」
「君はクレバーではない」
上段蹴りが春成の顎を射抜いた。さらに全力の左拳が、春成を体丸ごと吹き飛ばす。春
成は受け身を取れず、地面に叩きつけられる。
「君程度では私に絶命をプレゼントするなど、とてもとても……」
あざけりながら、トドメに向けて歩き出すドリアン。
しかし、春成は立ち上がった。両の眼(まなこ)に己の持ちうる全殺気を集中させ、ド
リアンを睨みつける。
「てめぇ……中国拳法だな。どこの流派だ」
「白林寺」
「耳にしたことがある。かつて、あの名門白林寺で西洋人出身の海王が出た、と」
「ならば理解できただろう。海王である私が、君にとって絶望的な戦力を持つことが」
これを聞いた途端、春成は笑い出した。
「はァ~? 笑わせてくれるぜ。海王なんつぅカビが生えた肩書きなんざ、強さの証明な
んかにゃなりゃしねェよ」
「ほう……」
「教えてやるよ。俺が人間を殺すためだけに磨き上げた、最新鋭の中国拳法ってやつを」
徳川ホテルを舞台とした、中国拳法家同士の果し合い。最後に立っていられるのは、ペ
テン師か、はたまた殺し屋か。
ける。
「ぐわァッ!」
とっさに目をカバーした春成だが、すでにドリアンはエリアに侵入していた。
「て、てめぇ──」
「君はクレバーではない」
上段蹴りが春成の顎を射抜いた。さらに全力の左拳が、春成を体丸ごと吹き飛ばす。春
成は受け身を取れず、地面に叩きつけられる。
「君程度では私に絶命をプレゼントするなど、とてもとても……」
あざけりながら、トドメに向けて歩き出すドリアン。
しかし、春成は立ち上がった。両の眼(まなこ)に己の持ちうる全殺気を集中させ、ド
リアンを睨みつける。
「てめぇ……中国拳法だな。どこの流派だ」
「白林寺」
「耳にしたことがある。かつて、あの名門白林寺で西洋人出身の海王が出た、と」
「ならば理解できただろう。海王である私が、君にとって絶望的な戦力を持つことが」
これを聞いた途端、春成は笑い出した。
「はァ~? 笑わせてくれるぜ。海王なんつぅカビが生えた肩書きなんざ、強さの証明な
んかにゃなりゃしねェよ」
「ほう……」
「教えてやるよ。俺が人間を殺すためだけに磨き上げた、最新鋭の中国拳法ってやつを」
徳川ホテルを舞台とした、中国拳法家同士の果し合い。最後に立っていられるのは、ペ
テン師か、はたまた殺し屋か。